第II部 わが国の防衛政策の基本と防衛力整備 

2 新たな防衛力の考え方(「抑止効果」重視から「対処能力」を重視した防衛力への転換)


(1)基盤的防衛力構想の見直し
 わが国の防衛力については、51大綱において、基盤的防衛力構想という考え方が示された。これは、わが国に対する軍事的脅威に直接対抗するよりも、自らが力の空白となってわが国周辺地域の不安定要因とならないよう、独立国としての必要最小限の基盤的な防衛力を保有するという考え方である。この基盤的防衛力構想は、07大綱においても、基本的に踏襲された。
 この基盤的防衛力構想については、わが国の安全保障環境を取り巻く変化を踏まえ、以下の2つの理由により、見直しを行った。
 なお、この基盤的防衛力をめぐる考え方の変遷については、図表II-2-1-3のとおりである。
 
図表II-2-1-3 基盤的防衛力をめぐる考え方の変遷

ア 事態への実効的な対応
 基盤的防衛力構想においては、適切な規模の防衛力により、日米安保体制とあいまって、侵略を未然に防止するという考え方、すなわち防衛力が存在することによる抑止効果を重視していた。しかし、新たな脅威や多様な事態は、予測困難で突発的に発生する可能性があるため、従来のように防衛力が存在することによる抑止効果が必ずしも有効に機能しない。そのため、今後の防衛力には、脅威の顕在化を未然に防止するとともに、各種事態が発生した場合に有効に対処し、被害を極小化することが強く求められる。

イ 国際平和協力活動への主体的・積極的な取組
 基盤的防衛力構想は、不透明・不確実な要素をはらみながらも国際関係の安定化を図るための努力が継続されていくという国際情勢認識を前提としている一方、現在の国際社会においては、国家間の相互協力・相互依存関係が進展し、また、新たな脅威や多様な事態といった問題は、一国のみでの解決がますます困難になっている。
 このような状況の下で、わが国の安全保障を確固たるものとするため、国際安全保障環境の改善のために国際社会が協力して行う活動(国際平和協力活動)について、防衛力をもって主体的・積極的に取り組む必要があり、わが国の防衛を中心とした基盤的防衛力構想の考え方のみに基づいた防衛力を構築することは困難となっている。

(2)多機能で弾力的な実効性のある防衛力
 今後の防衛力については、新たな安全保障環境の下、「基盤的防衛力構想」の有効な部分は継承しつつ1、新たな脅威や多様な事態に実効的に対応し得るものとするとともに、国際平和協力活動に主体的・積極的に取り組み得るものとする必要があるとしている。
 また、こうした防衛力の果たすべき役割が多様化する一方、今後の防衛力を考える場合には、少子化による若年人口の減少、格段に厳しさを増す財政事情などに配意する必要がある。
 このような観点から、今後の防衛力については、即応性、機動性、柔軟性および多目的性を備え、軍事技術水準の動向を踏まえた高度の技術力と情報能力に支えられたものとし、部隊や装備などに多様な機能を持たせて、弾力的な運用を行い、これによって、さまざまな事態に実効的に対応する「多機能で弾力的な実効性のある防衛力」とすることが必要である。
 このように、防衛力について、従来の「抑止効果」重視から、国内外のさまざまな事態への「対処能力」重視へと転換することが求められている。


 
1)1)軍事的脅威に直接対抗するものではないこと、2)侵略を未然に防止するため、戦略環境や地理的特性などを踏まえた防衛力を保持するという点は、引き続き有効であり継承するということ。


 

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