第II部 わが国の防衛政策の基本 

資料24 防衛省移行記念式典来賓祝辞

(中曽根元内閣総理大臣)

 防衛省の御誕生、誠におめでとうございます。
 昨日は成人式でしたが、今日は防衛庁自衛隊の成年式にあたるおめでたい日で、喜んで参上いたしました。
 私は、防衛庁長官を務めた者として、辞めた後も防衛庁や皆さんのことが非常に気がかりでありましたが、ともかく、幹部及び皆さんは、よく我慢をされ、隠忍自重されて、本当に御苦労様であったと申し上げたい。と同時に、今日を期して精進なさったその成果が、本日ここに訪れたことを心からお祝い申し上げる次第であります。
 次は、いよいよ憲法上にこの防衛関係の名称並びに役目を明記するという仕事があり、それは、そう長い年月を要することではないと思っています。安倍総理もそれを心がけておられますし、我々一同もそのつもりでありまして、次の任務に向かって、より一層志を固めて前進し、皆さんの御精進を更にお願いを申し上げる次第であります。
 そこで、この機会に、自衛隊、防衛庁発足時の一つの問題点を申し上げて、将来の参考に供してみたいと思うのであります。実は、昭和28年に吉田茂首相が、いわゆる「バカヤロー解散」をやりまして、吉田自由党は少数内閣に転落しました。そこで、重光改進党、鳩山自由党、吉田自由党、3党連立内閣が誕生したわけです。その時、我々重光改進党は、日本の防衛体系の転換を以前から強く要求しておりました。吉田単独内閣では国会を乗り切れない状況で、結局3党協定をやろうということになり、その中の一つの大きな問題が防衛問題をどうするかという事でありました。当時、既に警察予備隊は保安隊になっておりましたが、保安隊というような中間的なものでいつまで日本が保つはずがない。もっと正規な防衛力を中心にした考え方にして国の歩みを整えなければならない、というのが我々の考えでもあったわけであります。結局、各党から代表が出て、新しい法律を作ろうと言うことになりまして、自由党からは西村直己さん、鳩山自由党からは中村梅吉さん、改進党からは私が出まして、3党協定を作ったものです。
 その際に問題になったのは、憲法上、必要最小限の防衛力とは如何なるものかということでありました。結局は、必要最小限の防衛力とは、国際情勢、あるいは科学技術の変化によって当然変化していくべきものであり、固定されるべきものではないとそういう定義で、我々は一致したわけであります。
 次の問題は、最も重大ないわゆるシビリアン・シュープレマシーをどのように考えるかということでありました。いわゆる文民統制という問題であります。日本が大東亜戦争に負けた原因の一つは、統帥権独立の問題があった。我々が新しい自衛隊あるいは防衛庁を創るに際しては、この問題を解決しなければいけないと、非常に強い意識を持って統帥権独立を否定する体系にしようとしたわけであります。ですから軍政あるいは軍務、両方とも一体的なものをどのようにして創るかということが中心で、日夜苦心をしておったのであります。実は、その会議の最中に、辻政信代議士が、「お前たちが作ろうとしているものは何の役にも立たん。統帥権の独立を認めずしてどうして戦いが出来るか」と、大声で怒鳴り込んできたものであります。我々はそれに対して、「戦争に負けた原因は統帥権独立の問題がある。この問題を解決せずして新しい体系が出来るはずがない。今までのような旧慣例に基づいて新しい防衛体系が世界的に出来るかどうか、これは検討を要する問題だ」と、辻さんに反論をして、今のような体系にしたのであります。
 しかし、このシビリアン・シュープレマシーという概念はなかなか難しい概念であり、我々が体系を創った時には、内局を作り参事官制度というものにして、大臣や政務次官の意向がそこへ直流して動く、大臣や政務次官は国会の意向を受け継いでそれを実行する。そういう体系にしたものであります。それについては、様々な議論や、旧軍人の反論等がありました。がしかし、我々はこの体系で新しい体系を作っていくのだという確信をもって今の体系にしたものであります。シビリアン・シュープレマシーの意味は、文民優位でありますが、これは防衛庁の内局の優勢を示すという意味ではない。国会や政治家の統制の優位を示すものである。それを受けて大臣や政務次官が実行するものである。そのような明確な観念を持って行っているものであり、この防衛庁の内部における内局と、あるいは第一線の部隊、統制関係などの皆さんとの融合調和を前提にして、先の大戦に鑑み、我々は、そういう体系で新しい力を作っていこうということであった。
 シビリアン・シュープレマシーというのは内局の文官の優勢を示すものではない。これは、我々も明確に考えていたことであり、大臣や政務次官、国会、政治の優位というものを示すものである、ということを確認したものであります。
 いよいよ防衛省が前進いたしますが、この問題は古くしてまた新しい問題であり、省となれば、自主性、独立性が更に強まってきますが、それだけにこのシビリアン・シュープレマシーを、今後も堅持していくということが一番大事なことではないかと、この法案を作った一人として申し上げておきたいと思うのであります。
 いよいよ本日以降、皆さんは今まで以上に胸を張って、世界に日本に逞しく御奉公出来る状況になりました。どうぞ皆様方、健康に留意されまして、国家国民のために、また、世界の平和のために更に御努力なさることを心から祈念申し上げまして、御挨拶といたします。どうも有り難うございました。

 

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