中東においては、48(昭和23)年のイスラエル建国以降、イスラエルとアラブ諸国との間で4次にわたる中東戦争などが行われた。93(平成5)年のオスロ合意を通じて、本格的な交渉による和平プロセスが開始されたが、イスラエルとパレスチナの間では、00(同12)年以降に始まったインティファーダ(民衆蜂起)が双方の暴力の応酬に発展し、交渉が中断した。03(同15)年に、イスラエル・パレスチナ双方が、二国家の平和共存を柱とする和平構想実現までの道筋を示す「ロードマップ」を受け入れたが、その履行は進んでいない。イスラエル側は、あくまでも自らの安全保障を確保する点では譲らず、パレスチナ側にテロ組織の解体などを求めるとともに、パレスチナ側が十分な対応をしない場合、もはや対話のパートナーがいないものとみなし、一方的措置による分離壁の建設や境界確定も辞さないとの強硬な立場を維持している。一方、パレスチナ側においては、昨年1月の立法評議会選挙で、イスラエルを承認せず、対イスラエル武装闘争継続を標榜するイスラム原理主義組織ハマスが勝利し、昨年3月にハマス主導の自治政府内閣が成立した。
昨年6月には、ガザ地区で発生したパレスチナ武装勢力によるイスラエル兵士の拉致事件を契機に、イスラエル軍が、05(同17)年に撤退したばかりのガザ地区に侵攻した。パレスチナ武装勢力によるロケット攻撃やイスラエル軍による空爆など、約5か月間にわたる戦闘の後、昨年11月にイスラエル・パレスチナ間でガザ地区における停戦が発効した。一方、パレスチナ側内部においても、パレスチナ解放機構(PLO:Palestine Liberation Organization)主流派のファタハとハマスの間での抗争が激化し、パレスチナ人同士の衝突で死者が発生するなど、政治的混乱が続いた。このような事態を打開するため、本年2月のメッカ合意を受け、同年3月、ハマスとファタハによるパレスチナ挙国一致内閣が発足した。しかし、本年5月にファタハとハマスの衝突やハマスによるイスラエル攻撃、イスラエル軍による軍事行動が再開されるなど、依然予断を許さない状況である。
イスラエルとシリア、レバノンとの間では、いまだに平和条約が締結されていない。イスラエルとシリアの間には、第3次中東戦争でイスラエルが占領したゴラン高原の返還などをめぐる立場の相違があり、ゴラン高原には、イスラエル・シリア間の停戦および両軍の兵力引き離しに関する履行状況を監視する国連兵力引き離し監視隊(UNDOF:United Nations Disengagement Observer Force)が展開している。
イスラエルとレバノンの間では、昨年7月、両国国境付近で発生したイスラム教シーア派組織ヒズボラによるイスラエル兵士の拉致事件を契機に、イスラエルがレバノンに対する空爆や地上部隊の投入などを行った。これに対し、ヒズボラ側も徹底抗戦を表明し、イスラエル領内にロケット攻撃を行うなど、イスラエル軍とヒズボラとの間で約1か月にわたる激しい戦闘が続き、イスラエル・レバノンの双方で大きな被害が出た。しかし、イスラエル軍がレバノン南部のカナを空爆し、子供を含む多数の民間人が死亡した事案を受け、国際社会の停戦に向けた動きも活発化し、敵対行為の停止に関する国連安保理決議第1701号が採択され、同年8月14日に停戦が発効した。同決議を受けて、現在、レバノン南部にはレバノン国軍のほか、規模を拡大した国連レバノン暫定隊(UNIFIL:United Nations Interim Force in Lebanon)が展開し、敵対行為の停止を監視するなどしている。
インドとパキスタンについては、第二次世界大戦後、旧英領インドから分離・独立したが、両国の間では、カシミールの帰属問題などを背景として、これまでに3次にわたる大規模な武力紛争が発生した。
参照>2章6節
朝鮮半島においては、現在、韓国と北朝鮮を合わせて150万人程度の地上軍が非武装地帯(DMZ:Demilitarized Zone)を挟んで厳しく対峙している。このような軍事的対峙の状況は、朝鮮戦争(50(昭和25)年〜53(同28)年)停戦以降、現在においても続いている。
参照>2章2節
ネパールでは、96(平成8)年以来、ネパール共産党毛沢東主義派(マオイスト)による武装闘争により多数の死傷者が発生していた。昨年4月、民主化運動により新政府が誕生し、同年11月には、同政府とマオイストとの間で包括和平合意が署名された。同協定を受けて、現在、国連安保理決議第1740号に基づき、国連ネパール政治ミッション(UNMIN:United Nations Political Mission in Nepal)が展開し、武器および兵士の管理状況を監視するなどしている。
スーダンでは、03(同15)年より、同国西部のダルフール地方において、自治権や開発格差をめぐる対立から、アラブ系の政府とアフリカ系反政府勢力(ともにイスラム教徒)の間で紛争が激化した。ジャンジャウィードと呼ばれるアラブ系民兵によるアフリカ系地域住民の攻撃などを起因とした大量の国内避難民の発生や隣国チャドへの難民の流入もあり、国連をはじめとする国際社会はダルフール問題を深刻な人道危機として扱っている。さらに最近では隣国チャドおよび中央アフリカへ紛争が波及しているとみられており、国際紛争の様相も呈しているとみられている。同問題に関しては、アフリカ連合(AU:African Union)が、政府と反政府勢力の間の和平交渉の仲介を行うとともに、停戦監視団(AMIS:African Union Mission in Sudan)を派遣してきた。昨年5月には、政府と主要な反政府勢力であるスーダン解放運動/軍(SLM/A:The Sudan Liberation Movement/Army)主流派の間で和平合意が調印され、引き続き、和平合意を未だ受け入れていない勢力に対する働きかけが行われている。一方、昨年11月にアナン国連事務総長(当時)が提案した、国連によるAMISへの支援計画のうち、最終段階である、国連平和維持活動(PKO:Peacekeeping Operations)部隊とAMISとの2万人規模の共同展開について、スーダン政府は一貫して態度を保留している。
ソマリアでは、91(同3)年以降、無政府状態が継続しているが、02(同14)年から政府間開発機構(IGAD:Intergovernmental Authority on Development)主導による和平プロセスが進展し、05(同17)年1月には「暫定連邦政府」(TFG:Transitional Federal Government)がナイロビで樹立、同年6月にソマリア入りした。昨年より、TFGとイスラム原理主義組織「イスラム法廷連合」の間で戦闘が激化したが、本年1月、TFGの支援要請を受け、ソマリアに展開していたエチオピア軍とTFG軍が首都モガディシュを含む中南部地域を制圧した。また、本年2月に採択された国連安保理決議第1744号に基づき、AUソマリア平和維持部隊(AMISOM:African Union Mission in Somalia)が展開しているが、TFGやエチオピア軍、AMISOMに対する武装勢力による攻撃が発生するなど、依然として情勢は不透明である。