危機により強く、世界の平和により役立つために
第I部 わが国を取り巻く安全保障環境
概 観
今日の国際社会は、伝統的な国家間の関係(中・印の台頭等)から大量破壊兵器の拡散(北朝鮮の核・ミサイル問題等)、テロなどの新たな脅威(イラク、アフガン情勢等)に至るまでさまざまな課題に直面している。
第1章
国際社会の課題
>各国はアフガニスタンでの闘いなど、テロへの取組を継続しているが、依然としてテロは世界各地で発生している。大量破壊兵器などの移転・拡散の懸念が増大し、イランの核問題などへの取組が続いている。
>イラクの治安情勢は依然として厳しい。イラクでは米国の新政策を受け、新たな治安対策が開始された。
第2章
諸外国の国防政策など
>米国は、軍事態勢見直しを引き続き推進している。また、軍の能力拡大と部隊の負担軽減のための陸軍・海兵隊の増員を目指している。
>昨年7月の弾道ミサイルの発射や、10月の核実験実施の発表など、北朝鮮による一連の行動は、東アジアおよび国際社会の平和と安定に対する重大な脅威となっている。
>中国は、軍事力の近代化を継続しており、その影響について慎重に分析していく必要がある。また、国防費の内訳の詳細について明らかにしておらず、本年1月の対衛星兵器の実験に関する説明が十分されていないなど、軍事力の透明性の向上が望まれる。海洋における活動の動向に注目していく必要がある。
第II部 わが国の防衛政策の基本
第1章
わが国の防衛政策の基本
平和と安全、独立は、願望するだけでは確保できない。自らの防衛力とともに、外交努力、同盟国との協力などさまざまな施策を総合的に講じることで初めて確保できるものである。
わが国は、憲法の下、専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国にならないとの基本理念に従い、日米安保体制を堅持するとともに、文民統制を確保し、非核三原則を守りつつ、節度ある防衛力を自主的に整備している。
第2章
防衛大綱と防衛力整備
わが国は、04年12月に、安全保障の基本方針、防衛力の意義や役割、今後の防衛力整備の基本指針などを示すべく「平成17年度以降に係る防衛計画の大綱」(以下「防衛大綱」という。)を策定した。
>この防衛大綱では、わが国に直接脅威が及ぶことを防止し、国際的な安全保障環境を改善するというわが国の安全保障の2つの目標が示されるとともに、わが国自身の努力、同盟国との協力および国際社会との協力の3つを統合的に組み合わせることで、これらの目標を達成することとしている。
>加えて、防衛大綱に定める新たな防衛力を実現するため「中期防衛力整備計画(平成17年度>平成21年度)」(以下「中期防」という。)を策定し、これに従い防衛力整備を進めている。
>平成19年度においては、政策立案機能を強化し、新たな時代に対応する防衛組織を構築するとともに、ミサイル迎撃能力や情報収集・警戒監視能力の向上、テロ・ゲリラ・特殊部隊による攻撃への対応など、新たな脅威や多様な事態への対応を重視しつつ、より一層効率的な防衛力整備を推進する。
第3章
防衛省への移行と国際平和協力活動等の本来任務化
防衛省は、防衛政策の基本などを守り続ける一方、安全保障環境の変化に対応して、自らそのあり方や役割を常に適切なものとしていく努力が必要とされている。
防衛省への移行、国際平和協力活動等の本来任務化および防衛省の組織改編は、こうした取組の一環と位置付けられるものである。これらを通じて、防衛省は、より危機に強く、世界の平和に貢献できる組織になることを目指している。
>安全保障環境が冷戦終結を一つの転機として大きく変化する中で、防衛省・自衛隊の任務は、わが国の防衛のみならず、国内外での災害対応や国際平和協力活動などに拡大している。防衛省・自衛隊の役割は、国政の中で重要性を増し、国民の期待も高まっている。
>政府は、防衛政策に関する企画立案機能を強化し、緊急事態対処の体制を充実・強化するとともに、国際社会の平和と安定に積極的・主体的に取り組むための体制を整備するため、防衛省への移行や国際平和協力活動等の本来任務化などを内容とする法案を、昨年6月、国会に提出した。同法案は、昨年12月に成立した。
>防衛省・自衛隊が、新たな時代の政策課題に的確に対応するためには、組織も時代にあったものとなるよう常に見直しを行っていくことが必要とされている。このため、防衛省では、昨年度に組織改編を行ったところであり、今年度も組織改編を行うこととしている。
第III部 わが国の防衛のための諸施策
第1章
わが国の防衛のための自衛隊の運用と災害派遣や国民保護
防衛大綱において明示されたように、わが国の防衛のための自衛隊の対応について、新たな脅威や多様な事態、本格的な侵略事態への対応などに取り組んでおり、また、そのための枠組みも整備してきている。
>武力攻撃事態等において、国および国民の平和と安全を確保するため、自衛隊や米軍の行動を円滑にする有事法制等が整備された。また、自衛隊の運用について、統合運用体制が整備される等、各種事態に際して自衛隊が任務を迅速かつ効果的に行うための各種努力を継続している。
>防衛大綱に例示された1)弾道ミサイル攻撃への対応2)ゲリラや特殊部隊による攻撃等への対応3)島嶼部に対する侵略への対応4)周辺海空域の警戒監視及び領空侵犯対処や武装工作船等への対応5)大規模・特殊災害等への対応などの、新たな脅威や多様な事態への対処を、迅速かつ適切に行い得るよう取り組んでいる。
昨年7月の北朝鮮の弾道ミサイル発射に際しては、国内関係機関や米国などの関係国との連携を密にしつつ、適切な情報収集や対処態勢の強化などを行った。本年3月には、ペトリオット・システムPAC-3を配備したほか、運用面においても緊急対処要領を決定するなど、弾道ミサイル攻撃に実効的に対応するため、各種努力を行っている。
>本格的な侵略事態に際しては、自衛隊は陸・海・空自衛隊が有機的かつ一体的に行動し、迅速かつ効果的に対応する。この際、米軍は、自衛隊が行う作戦を支援するとともに、打撃力の使用を伴うような作戦を含め、自衛隊の能力を補完するための作戦を行う。
第2章
日米安保体制の強化
>日米安全保障体制およびそれを基盤とする日米同盟は、わが国防衛や地域の平和と安定、さらには国際的な安全保障環境の改善において、重要な意義を有している。
また、在日米軍の駐留は、わが国に対する武力攻撃を未然に防ぐ抑止力としての機能や攻撃があった場合の迅速な共同対処、ならびに米軍の来援の基盤としての機能を有しており、わが国の安全の確保に極めて重要な役割を果たしている。
>日米両国は、近年、同盟関係を安全保障環境の変化に応じて発展させていくため、兵力態勢の再編を含む日米同盟の将来に関する日米協議に取り組んできた。
この協議は、抑止力の維持と地元負担の軽減を基本的な考え方とし、1)共通戦略目標(第1段階)、2)日米の役割・任務・能力(第2段階)、3)兵力態勢の再編(第3段階)の3段階に分けて行われた。その結果、昨年5月の「2+2」会合において、「再編実施のための日米のロードマップ」という形で兵力態勢の再編の最終的な取りまとめがなされ、具体的施策を実現するための計画が示された。
この計画を速やかに、かつ、徹底して実施していくため政府は本年5月、「駐留軍等の再編の円滑な実施に関する特別措置法」を成立させ、新たな交付金の制度化や国際協力銀行の業務に関する特例措置を設けるなどの法整備を行った。
>このほかにも、わが国は、従来から在日米軍施設・区域に関する諸施策や各種の日米安保体制の信頼性向上のための法整備、日米共同訓練、装備・技術面での交流などの諸施策を講じている。
第3章
国際的な安全保障環境の改善
防衛大綱においては、国際的な安全保障環境を改善し、わが国に脅威が及ばないようにすることをわが国の防衛とともに、安全保障の目標としている。
>国際平和協力活動に対しては、主体的・積極的に取り組むこととしており、今般、本来任務として位置付けられることになった。
イラクにおいては、イラク人道復興支援特措法に基づき、政府開発援助による支援と連携しつつ人道復興支援活動を行ってきた。昨年、ムサンナー県では、復興、治安の両面において、応急的な復旧支援が必要とされる段階は終了したとの判断から、陸自部隊を撤収した。一方で、空自部隊は現在も、国連および多国籍軍への支援を行い、イラクの復興および安定に協力している。
国際的なテロリズムとの戦いにおいては、テロ対策特措法に基づき、インド洋上において海自部隊が米艦艇などへの給油などを、また、空自が米軍の物資などの輸送を行っている。
この他、国際平和協力業務として、国連兵力引き離し監視隊(UNDOF)や、国連ネパール政治ミッション(UNMIN)における平和維持活動を行っており、いずれも各国から高い評価を得ている。
>わが国は、平素より二国間・多国間訓練を含む安全保障対話・防衛交流を積極的に推進しており、本年3月には、日豪共同宣言を発表した。また、同年4月には、初めてとなる日印防衛政策対話を行った。
>拡散に対する安全保障構想(PSI)への取組を含め、軍備管理・軍縮不拡散に対する各種活動に対しても積極的に取り組んでいる。
第4章
国民と防衛省・自衛隊
自衛隊の装備やシステムがいかに進歩・近代化しても、隊員一人ひとりの力量が伴わなければ、装備などの能力を最大限に引き出すことはできない。また、個々の隊員の充実や日米安保体制の強化がいかに図られようと、何よりもまず、国民の理解と協力を得なくては、防衛省・自衛隊は、その任務を全うすることはできない。
>人的基盤の確立のため、地方公共団体、関係機関などの協力を得つつ、隊員の募集・採用、教育訓練から退職・再就職に至るまで、必要な諸施策を実施している。特に、新たな人事施策については、「防衛力の人的側面についての抜本的改革に関する検討会」を設け、各種検討を行っている。
また、より効率的に装備品を取得するため、総合取得改革の推進、技術研究開発における民生分野との関係強化などの取組を行っている。
さらに、秘密を保全することは、国の防衛を全うし、安全を保持する上で不可欠な基盤であることから、省を挙げて情報流出の再発防止に取り組んでいく。
>地域社会・国民との間では、民生支援として行うさまざまな活動を通じて、相互の信頼をより一層深めることに努めている。また、防衛施設と周辺地域との調和を図るため、生活環境の整備などを適切に見直し、新たな施策の充実を図っている。
>防衛省・自衛隊は、何よりも国民の強い信頼によって支えられていなければ、その機能を十分発揮することができない。国民の信頼を損なうような事案が発生したことを深く反省するとともに、同種事案を再び生じさせないよう、再発防止へ断固たる決意を持って臨む。