第II部 わが国の防衛政策の基本 

資料25 防衛省移行記念式典来賓祝辞

(瓦元防衛庁長官)

 防衛省への移行、誠におめでとうございます。
 防衛庁発足以来半世紀にわたる課題であり、悲願となっていた省移行が実現し、ここにおられる方のみならず、全国の職員、自衛隊員諸君、そして省移行を応援してこられた方々の喜びの大きさは如何ばかりかと思います。また、省移行は憲法改正とともに我が自民党の政権公約であり、久間大臣はもとより、ここに御臨席いただいている与野党の諸先生にとりましても、省移行が国会議員の9割以上の賛成を得て、このように多くの方々に祝福される形で実現したことは、感慨もひとしおかと思います。
 歴史を振り返れば、昭和39年に省移行法案が閣議決定されたものの、国会提出には至りませんでした。その後も、防衛庁の省移行は安全保障政策上の、政治上の大きな課題であり続けました。私も国の防衛という国家の基本的な任務を担う役所は、絶対に「省」であるべきだという考え方でございました。私が防衛庁長官を務めていた平成11年から12年当時は、まだ省昇格に対する機が熟していなかったように思われます。
 平成13年6月には、私自身も提案者の一人となり、議員立法として防衛省設置法案を国会提出しました。また、平成14年からは我が党の国防議員連盟の会長となり、平成16年には「防衛庁を『省』にする国会議員の会」代表となって、省移行の機運を盛り上げつつ、チャンスをうかがってきました。
 それが昨年の通常国会でチャンスの兆しが見え、秋の臨時国会で是非成立させようと皆も燃え上がりました。長官経験者が結束して法案が国会提出できるよう、国会提出後は絶対に成立させるよう努力いたしました。私自身、「防衛庁を『省』にする国会議員の会」代表として、また、隊友会会長として、中央から、地方から可能な限り努力いたしました。
 そして、臨時国会会期末となりましたが、期待どおり成立したことは、私にとって大きな喜びであるとともに、ひときわ感慨深いものを感じております。
 防衛庁設置以来50数年の間に、自衛隊の任務、活動、国民の受け止め方など、防衛庁を巡る課題は大きく変化し続けましたが、この数年の動きは、誠に目まぐるしいものがあります。
 特に、平成13年9月11日に発生しました米国同時多発テロは、衝撃的かつ大きな出来事であり、我が国の安全保障にも大きな変化をもたらしました。国対国による紛争を想定した従来の安全保障政策から、国際テロ組織などの非国家主体による脅威に対応する必要が生じました。
 この年の12月に開始されたテロ対策特措法に基づくインド洋上の海上自衛隊による給油活動は、現在まで延べ50隻以上の艦艇が派遣され、総計約700回を超える給油を行ったと聞いております。この活動は、各国の艦船が洋上で行う麻薬、武器等の押収や、テロリストの疑いのある人物の拘束などの活動に対する貴重な貢献となっており、米国、英国、パキスタン、アフガニスタンを始め数多くの国々から高く評価されております。
 また、平成15年7月にはイラク人道復興支援特措法が成立し、12月に航空自衛隊が、翌16年1月には陸上自衛隊がイラクの地に向けて出発いたしました。
 イラク国内の情勢は厳しく、決して安全とは言えない状況において、イラクの復興支援のためとは言え、自衛隊を派遣することは、極めて難しい課題でした。しかし、日本の平和と安全を確保するためには、日米同盟を強化しつつ国際社会と協調していく必要があります。すなわち、日本も国際社会の責任ある一員として、イラクの国民が希望を持って自国の再建に努力することができるよう相応の責任を果たしていくことが必要なのであります。陸上自衛隊は、昨年6月に無事に任務を終え、帰国したわけですが、その成果は、見事の一語に尽きるものでございました。
 陸上自衛隊は、2年半に及ぶ活動期間中一発の弾も撃つことなく、一人の犠牲者を出すこともなく整斉と人道復興支援を実施し、イラク政府並びにイラク国民から非常に高く評価されました。
 直後に米国で行われた日米首脳会談においてブッシュ大統領は「日本国民は自衛隊のテロとの闘いに対する貢献を誇りに思うだろうし、アメリカ国民もこのような勇敢な同盟国と協力することを誇りに思う。」と一言申されたわけであります。今や、自衛隊の活動には、世界が注目しているのであります。自衛隊の諸君は、国民の代表として活躍しているのであり、自衛隊に対する高い評価は、とりもなおさず、我が国の世界平和への貢献が高く評価されているということであります。現在も、イラクの地で、航空自衛隊が、黙々と航空活動を続けていますが、彼らは私の、そして国民の誇りとするところであります。
 こうした海外での活動のみならず、阪神・淡路大震災以降、最近の新潟・中越地震や福岡県西方沖地震など国内での震災においても自衛隊が活動いたしました。様々な災害や事故の現場で国民を力強く支えてきた隊員諸君に、ここで改めて敬意を表したいと思う次第であります。
 このような自衛隊の活躍と、これに対する内外の評価の高まりを背景として、平成14年の通常国会には、有事関連法案が提出され、私自身も衆議院の「武力攻撃事態への対処に関する特別委員会」の委員長として精力的に法案の審議に当たりました。
 その結果、翌平成15年に武力攻撃事態対処法が、更に平成16年には国民保護法などが、それぞれ与野党含め圧倒的多数の賛成を得て成立し、戦後50年以上を経て、ようやく有事法制が整備されたわけであります。これは、我が国の国家としての基盤がきちんと整備されたことを内外に示した画期的な出来事でありました。
 そして、有事法制の整備の後、我が国の安全保障政策上残された大きな課題であった防衛庁の省昇格が、この度、遂に果たされた訳であります。
 もちろん、安全保障に関する政策課題は、これだけにとどまりません。米国軍隊再編に関する日米の合意の実施、弾道ミサイル防衛システムの整備、国際平和協力のためのいわゆる一般法の整備など、解決を待つ課題は山積しております。防衛省となったからには、このような課題にしっかりと対応して、着実に日本の安全保障政策を前進していただかなければなりません。
 最後に、防衛省職員・自衛隊員の方々に望みたいことがあります。それは、省移行を機に、新たな感覚で防衛という任務を担って欲しいということであります。政策官庁としての防衛省に相応しく、主体を持って安全保障政策に取り組み、これまで以上に積極的に機能を発揮していただきたい、成功していただきたいと思います。加えて、国民の声をよく聞いていただき、かつ、自衛隊のよき伝統は引き継いで貰いたいと思います。国民の未来は、皆さんの双肩にかかっていることをよく自覚され、国民の期待をしっかりと受けとめた上で、職務に精励していただきたいと思います。
 これをもって、私の祝辞といたします。

 

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