第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

1 英国

 英国は、現在、98(平成10)年の「戦略防衛見直し」(SDR:Strategic Defense Review)を防衛政策の基礎としている。
 この中で、軍の任務を、平時の治安維持(テロ対処支援)や海外領土の保全、NATO域内外の危機対処などと定義し、具体的には、核戦力の削減、統合戦闘能力の強化、NBC防護の改善、機動力・攻撃力の向上、軍人の処遇改善、装備品調達の効率化などを図ってきた。02(同14)年7月には、9.11テロを踏まえ、SDRに「新たな1章」を追加し、国際テロへの対処方針を策定した。
 03(同15)年12月には、「変動する世界における安全保障」と題する白書を刊行した。国際テロ、大量破壊兵器の拡散および破綻国家を大きな脅威として位置づけるとともに、イラクに対する軍事作戦の教訓を踏まえ、海外展開能力の強化や即応性の向上など軍のさらなる変革の必要性を強調している点が注目される1。04(同16)年7月に発表された将来の具体的軍事力を示す報告書では、兵力削減や陸海軍の主要施設の統合を進める一方で、目標捕捉から攻撃までを迅速かつ正確に行う能力、中小規模作戦を効果的に遂行できる地上戦力、空母や揚陸艦の整備による対地攻撃能力の向上などを図るとしている。また、05(同17)年7月のロンドンにおけるテロを受け、テロ対策強化のため特殊部隊支援部隊(SFSG:Special Forces Support Group)を新編した。
 昨年12月、英国政府は、「英国の核抑止に関する将来」と題する白書を発表し、2020年代以降も潜水艦発射弾道ミサイルに基づく核抑止力を維持する方針を示した2。同白書では、運用可能な核弾頭数の200発以下から160発以下への削減を決定するなど、核軍縮に取り組む姿勢も示している。


 
1)湾岸戦争のような米国主導の大規模作戦に参加しつつ、ボスニアやコソボにおける紛争のようなNATOまたはEU主導の中小規模作戦も最大2つ遂行できる能力を戦力整備目標としている。
 
2)現在運用中のヴァンガード級原子力潜水艦の退役が2020年代初期に始まると見込まれることから、英政府は核抑止力を維持し続けるかについての検討を行い、その結果として本白書を発表。本年3月、下院において本白書の方針を支持する政府提出動議が可決された。

 

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