第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

6 その他の諸国との関係

(1)東南アジア諸国との関係
 東南アジア諸国との関係では、引き続き首脳クラスなどの往来が活発であり、中国は、この地域のすべての国との二国間関係の発展を図ってきている7。また、ASEAN+3やARF(:ASEAN Regional Forum)といった多国間の枠組みにおいても中国は積極的な関与を行っている。中国は、こうした外交の場を利用して、ASEAN諸国との間の経済的、文化的協力関係の深化を進めるとともに、最近では安全保障分野における協力関係を進展させることに積極的である。

(2)中央アジア諸国との関係
 中国西部の新疆(しんきょう)・ウイグル地区は、中央アジア地域と隣接している。カザフスタン、キルギス、タジキスタンの3か国とは直接国境を接しており、それぞれの国境地帯をまたがって居住する少数民族があり、人的交流も活発である。そのため、中国にとって中央アジア諸国の政治的安定やイスラム過激派によるテロなど治安情勢は大きな関心事項であり、01(平成13)年6月に設立されたSCOへの関与は、中国のこのような関心のあらわれと見られる。
(図表I-2-3-1参照)
 
図表I-2-3-1 SCO加盟国及びオブザーバー国

 特に、近年は、同機構の中心的国家であるロシアや中国が、中央アジア地域からの米軍の撤退を事実上促すSCO首脳会議声明の発表8やインド、パキスタン、イランといった地域の大国へのオブザーバー資格の付与などを通じて、大陸中央部における米国の影響力の抑止と同機構の影響力の拡大を目指していると考えられる。

(3)南アジア諸国との関係
 南アジア諸国との関係では、国境紛争などからインドとは対立関係が続いてきたが、インドと対立関係にあるパキスタンとは良好な関係を有し、武器輸出や武器技術移転など軍事分野での協力関係も伝えられる。他方で、近年、中国は、インドとの間の関係改善にも努めており、積極的な首脳往来を実施する中で、インドとの関係を戦略的パートナーシップの関係にあるとし、過去、軍事衝突に至った中印国境画定問題も進展していると表明している。軍事交流では、中国海軍にとって初の外国海軍との訓練として、パキスタンと03(平成15)年10月に上海沖で海軍合同捜索・救難訓練、同年11月に同じく上海沖でインドと海軍合同捜索・救難訓練を実施した。また、中国海軍にとって外国における初の共同訓練として、パキスタンと05(同17)年11月に海軍合同捜索・救難訓練を実施した。また、インドとも05(同17)年11月にインド洋において2回目となる海軍合同捜索・救難訓練を実施し、本年4月にも青島近海でインド海軍の艦艇と通信訓練などを実施している。中国としては、伝統的な友好国であるパキスタンとのバランスにも配慮しつつ、インドとの軍事交流も重視するようになっていると考えられる。

(4)EU諸国との関係
 近年、中国とEU諸国との間の貿易の伸びは著しく、中国にとってEUは、特に経済面において、日本、米国と並ぶパートナーとなってきている。中国は、こうした外交の場を利用して、EU諸国に対し、89(平成元)年の天安門事件以来の対中武器禁輸措置の解除を強く求めてきている。EU内でも同措置の解除に前向きな発言も見られる中、わが国からEUに対しては、同措置の解除に反対の意を表明してきている。本年1月には、安倍総理からバローゾ欧州委員長に対してEUの対中武器禁輸措置解除は東アジアの安全保障環境に大きな影響を与えることを懸念しており反対である旨を述べた。これに対し、バローゾ欧州委員長は、欧州理事会の決定に基づき対中武器禁輸措置の解除に向けた作業を継続することにしているが、解除がすぐに行なわれることはない、仮に解除されることとなっても、如何なる意味でも武器輸出の質的量的増加にはつながらない旨応答した。EUの対中武器禁輸措置については、引き続き今後のEU内の議論に注目していく必要がある。


 
7)最近の中国と東南アジア諸国との間の主な軍事交流としては、中国とタイの両海軍が05(平成17)年12月に初めて実施した共同捜索救難訓練、06(同18)年4月に、トンキン湾で中越両海軍艦艇が共同で初めて実施した共同パトロール、昨年4月の曹剛川国防部長によるベトナム、マレーシアおよびシンガポール訪問などがある。
 
8)05(平成17)年7月の第5回SCO首脳会議は、ウズベキスタンとキルギスなどに駐留する外国軍の撤退期限の明確化を促す声明を発表した。

 

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