第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

4 対外関係

 北朝鮮は、西欧諸国などとの対外関係を増大させてきたが、核問題やミサイル問題をめぐる一連の行動は、各国の懸念を高めている。
 米国は、他国と緊密に協力しつつ北朝鮮の核計画廃棄に取り組む姿勢を明らかにし、六者会合を通じた問題の解決を図ろうとしており、北朝鮮も、朝鮮半島の非核化は「金日成主席の遺訓」であるとして、「すべての核兵器および既存の核計画」の放棄を約束している。しかしながら、北朝鮮は、米国が北朝鮮に対する「敵視政策」を放棄していないなどとして米国のさまざまな政策を非難し続けており、米朝の立場には依然隔たりが見られる。また、米国は、北朝鮮による核兵器・核関連物質の拡散の可能性や弾道ミサイルの開発・配備・拡散に関する懸念を繰り返し表明している。
 さらに、米国は、日本人拉致問題が未解決であること、北朝鮮が依然として「よど号」グループのハイジャック犯を匿(かくま)い続けていることを指摘し、北朝鮮を「テロ支援国家」に指定している25
 南北関係においては、核問題などにより国際社会の北朝鮮に対する懸念が高まっている中においても、一貫して対話や経済面・人道面の交流が行われてきている。北朝鮮は、南北の協調を主張し、韓国も南北間の対話や交流を進めようとしている。このうち軍事的な分野では、00(平成12)年の国防相会談以降、具体的な進展はみられてこなかったが、04(同16)年には将官級の軍事当局者会談が2回にわたり開催され、黄海上での偶発的衝突防止のための手段やDMZ付近での宣伝活動・宣伝手段の中止・撤去などが合意された。さらに、05(同17)年夏までに、黄海側の南北艦隊司令部間のホットラインの開設や宣伝手段の撤去完了など一定の進展が見られたが、その後は停滞している。
 中国との関係では、61(昭和36)年に締結された「中朝友好協力および相互援助条約」が現在も継続している。92(平成4)年に中韓の国交が樹立されてから、冷戦期の緊密さとは異なる事象も見られたが、その後、中朝首脳が相互訪問するなど、関係の進展が見られた。中国は、北朝鮮の核問題に対しては、朝鮮半島の非核化を支持する旨繰り返し表明しつつ、六者会合では議長役を務め、第4回および第5回六者会合での合意の達成に貢献するなど、この問題の解決に向けて積極的な役割を果たしている。他方で、中国と北朝鮮との関係に一定の距離がみられつつあるという指摘もある。
 ロシアとの関係は、冷戦の終結に伴い疎遠になっていたが、関係改善の動きとして、00(同12)年2月、従前の条約と違い軍事同盟的な条項が欠落した26「露朝友好善隣協力条約」が露朝によって署名されるとともに、同年7月にはプーチン露大統領が訪朝した。さらに、金正日国防委員会委員長が01(同13)年と02(同14)年に連続して訪露するなど、北朝鮮とロシアとの関係は緊密化してきた。
 また、北朝鮮は、99(同11)年来、相次いで西欧諸国などとの関係構築を試みており、欧州諸国などとの国交の樹立やARF閣僚会合への参加などを行ってきた。他方、EUやASEANなどは、従来から北朝鮮の核問題などに懸念を表明している。
 北朝鮮の核問題の解決に当たっては、日米韓が緊密な連携を図ることが重要であることは言うまでもないが、六者会合の他の参加国である中国およびロシアなどの諸国や国連、IAEAといった国際機関の果たす役割も重要である。
 北朝鮮の核兵器保有が認められないことは当然であるが、同時に、核問題以外の安全保障上の懸念も忘れてはならず、朝鮮半島における軍事的対峙や北朝鮮の弾道ミサイル開発・配備・拡散などの動きにも、引き続き注目する必要がある。
 また、北朝鮮の政策や行動については、北朝鮮が、依然として閉鎖的な体制をとっているため、その動向を明確に把握することは困難であるが、その真の意図が何であるか見極めることが重要であり、引き続き細心の注意を払っていく必要がある。


 
25)本年4月に発表された「2006年版テロリズムに関する国別報告」による。なお、本報告では、北朝鮮のテロ支援国家指定を解除する作業の開始に米朝が合意したことについて触れられている。
 
26)締約国(ロシア、北朝鮮)の一方に対する軍事攻撃の際には、他方の締約国は、直ちにその保有するすべての手段をもって軍事的またはその他の援助を与える旨の従前の条約に存在した規定がなくなった。

 

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