第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

2 軍事態勢

 北朝鮮は、全軍の幹部化、全軍の近代化、全人民の武装化、全土の要塞化という四大軍事路線17に基づいて軍事力を増強してきた。
 北朝鮮の軍事力18は、陸軍中心の構成となっており、総兵力は約110万人である。また、継続的に戦力や即応態勢の維持・強化に努めているものの、その装備の多くは旧式である。
 他方、情報収集や破壊工作からゲリラ戦まで各種の活動に従事する大規模な特殊部隊を保有し、その勢力は約10万人に達すると考えられる19。また、北朝鮮の全土にわたって多くの軍事関連の地下施設が存在するとみられていることも、特徴の一つである。

(1)近年の動き
 北朝鮮軍は、現在も、依然として戦力や即応態勢を維持・強化していると考えられ、浸透20訓練も継続しているとみられている。
 02(平成14)年6月には、黄海で北朝鮮と韓国の艦艇の間で銃砲撃戦が行われ、また、03(同15)年2月には北朝鮮のMiG-19が黄海側の北方限界線(NLL:Northern Limit Line)を越境、同年3月には日本海上空を飛行中の米軍機に対してMiG-29などが接近、追跡した。
 これらの軍事的な動きは、単なる偶発事案である可能性もあれば、意図的に緊張を高めるいわゆる瀬戸際政策である可能性や、「先軍政治」(本節参照)の下で、軍の士気を維持し体制を引き締めるための方策である可能性もある。
 なお、01(同13)年12月に九州南西海域において発見され沈没した不審船は、日本政府による引揚げと調査を経て、北朝鮮の工作船であったと特定された。また、99(同11)年には、北朝鮮の工作船と判断される船がわが国の領海内に侵入し、北朝鮮北部の港湾に到達したと判断された事案も発生している。
(図表I-2-2-3参照)
 
図表I-2-2-3 北朝鮮軍などの近年の動向

(2)軍事力
 陸上戦力は、約100万人を擁し、兵力の約3分の2をDMZ付近に展開していると考えられる。その戦力は、歩兵が中心であるが、戦車3,500両以上を含む機甲戦力と火砲を有し、また、240mm多連装ロケットや170mm自走砲といった長射程火砲をDMZ沿いに常時配備していると考えられ、首都であるソウルを含む韓国北部の都市・拠点などがその射程に入っている。
 海上戦力は、約640隻約10.9万トンの艦艇を有するが、ミサイル高速艇などの小型艦艇が主体である。また、ロメオ級潜水艦約20隻のほか、特殊部隊の潜入・搬入などに使用されると考えられる小型潜水艦約60隻とエアクッション揚陸艇約140隻を有している。
 航空戦力は、約590機の作戦機を有しており、その大部分は、中国や旧ソ連製の旧式機であるが、MiG-29や
Su-25といった、いわゆる第4世代機も少数保有している。また、旧式ではあるが、特殊部隊の輸送に使用されるとみられているAn-2を多数保有している。
 北朝鮮軍は、即応態勢の維持・強化などの観点から、現在も各種の訓練を活発に行っている。他方、深刻な食糧事情などを背景に、軍によるいわゆる援農活動なども行われているとみられている。


 
17)62(昭和37)年に朝鮮労働党中央委員会第4期第5回全員会議で採択された。
 
18)北朝鮮の軍事上の諸決定は、国家の最高軍事指導機関である国防委員会(金正日委員長)により行われ、各国の国防省に相当する人民武力部は、内閣の下ではなく、この国防委員会の下に置かれていると考えられる。
 
19)北朝鮮の特殊部隊には、軍関係のものと朝鮮労働党関係のものがあると言われている。たとえば、朝鮮労働党作戦部が工作員の輸送を行っていると言われている。
 
20)小部隊ごとに分散して隠密裏に敵地に潜入すること

 

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