5 軍事態勢見直し
米国は、現在、世界的に展開する米軍の態勢の見直しを進めている
6。04(平成16)年8月には、今後10年間にわたり、約6〜7万人の軍人が帰国し、それに伴って約10万人の軍人家族や文官職員が帰国するというこの見直し計画の一端が明らかにされている。今回の米軍の態勢の見直しによって、冷戦期の脅威に対処するために前方展開してきた大規模な戦力の多くを本土に再配置する一方、同盟国などとの協力関係を強化するとともに、今まで予測し得なかった場所で発生した事態に迅速かつ機動的に対処できる部隊を前方展開させることによって、初動対処能力の一層の向上に努めるとしている。また、軍の変革の成果を活かしつつ、前方展開部隊の能力向上をはかる一方、海外に駐留する軍人の多くを本土に帰還させることによって、軍の士気や即応性の回復に努めるとしている。
(図表I-2-1-3参照)
米国がこのような見直しを進めている背景の一つは、安全保障環境の変化である。冷戦期には、米国に対する脅威が明確であったため、紛争が生起する可能性が高い場所に大規模な部隊をあらかじめ前方展開させることが可能であった。しかし、冷戦終結後の安全保障環境においては、敵が誰であるか、どこで戦闘が生起するかを予測することが困難になっている。加えて、近年の軍事技術の革新を踏まえた軍の変革(トランスフォーメーション)により、米軍の戦闘能力や機動展開能力などが向上した結果、前方展開する米軍の能力を軍人の数により評価することは今や適切ではなくなった。また、冷戦終結後、海外における作戦頻度の増大に伴って、軍人およびその家族に対する負担が増加した結果、軍の士気や即応性に対する懸念が高まっていたことも、今回の米軍の態勢見直しの背景として指摘されている。
米国は、このような米軍の態勢見直しとして、欧州において、陸軍の2個師団の本土帰還などを行う一方、ストライカー旅団戦闘チーム
7の配備や空挺旅団の増強、統合任務部隊の創設などにより機動展開能力に優れた部隊の整備を行うとともに、東欧諸国における新たな拠点や訓練施設の整備を進めることとしている。また、米国は、11(同23)年、12(同24)年頃までに欧州へのミサイル防衛(MD:Missile Defense)システムの導入を目指すとしているが、本年、チェコおよびポーランドとそのシステムの一部をこれらの国に配備するための本格的な交渉の開始が合意された
8。
アジアにおいては、強化された長距離打撃力、合理化・強化された司令部およびアクセス協定によって地域の課題を抑止・打破する能力を向上させるとしている。具体的には、1)太平洋への追加的な機動展開海上能力の前方配置
9、2)高度な打撃力の西太平洋への配置
10、3)北東アジアにおける米軍のプレゼンスおよび指揮機構の再編(
2節3および
III部2章参照)、4)中央アジアおよび東南アジアにおける訓練施設や緊急アクセス拠点の確保、などに取り組んでいる
11。
またアフリカについては、本年2月、米国は従来三つの統合軍が分担していたアフリカ地域を管轄する新たな統合軍「アフリカ軍」を、2008年9月末までに創設することを明らかにした
12。これにより、米国はアフリカに平和と安定をもたらすための努力を強化し、アフリカにおける開発、健康、教育、民主主義および経済成長を促すとしている。
6)ゲーツ国防長官は、議会の承認に際し、米軍の態勢見直しについて、変更の必要性の有無につき、国防長官就任後調査すると書面で述べた。
7)ストライカー旅団戦闘チームは、C-130輸送機などによって全世界のあらゆる地域へ迅速に展開できるように軽量化された部隊で、M-1戦車などの重装備を備えた従来の機械化部隊と異なり、8輪駆動の装甲車両に105mm砲などを搭載した「ストライカー」を主力とすることで攻撃力と機動力を兼ね備えていることが特徴である。
8)ロシアは、自国の核抑止能力に否定的影響を与え得るとしてこれらのMDシステムの配備に反対しているが、米国は、MDシステムはロシアに向けられたものではなく、イランによるミサイルの脅威から欧州と他の同盟国を守るためであると説明している。
9)04年9月、ファーゴ太平洋軍司令官(当時)は、米軍は、太平洋地域を母港とする空母打撃群を追加的に配置することを検討している旨を発言している。
10)04年9月のファーゴ太平洋軍司令官(当時)の議会証言によれば、米軍は、グアムに爆撃機をローテーション制で配備している。
11)ホワイトハウス・ファクトシート(04年8月16日)
12)エジプトは引き続き中央軍の管轄