3 大量破壊兵器の不拡散のための国際的な新たな取組
1 拡散に対する安全保障構想(PSI)
(1)成立の背景
ブッシュ政権は、北朝鮮、イランをはじめとする拡散懸念国などが大量破壊兵器・ミサイル開発を行っているとして強く懸念し、02(平成14)年12月に「大量破壊兵器と闘う国家戦略」を発表し、拡散対抗、不拡散、大量破壊兵器使用の結果への対処からなる包括的なアプローチを提唱した。
この一環として、03(同15)年5月、ブッシュ米大統領は訪問先のポーランドで、拡散に対する安全保障構想(PSI:Proliferation Security Initiative)
1を発表し、これらの取り組みは、本年5月現在70か国にも及ぶ国際的な支持を受けるに至った。
(2)これまでのPSIの実績とわが国の取組
参加国は、これまでにPSIの目的や阻止のための原則を述べた「阻止原則宣言」
2に同意し、PSI活動の能力向上を目的とした陸・海・空における阻止訓練を行っており、本年5月までに、図表5-3-2のとおり、計22回の合同阻止訓練が行われた。
このような合同阻止訓練の実施に加え、参加国による総会やオペレーション専門家会合が開催され、各種検討が進められている。この結果、例えば、BBCチャイナ号事件
3など、実際のオペレーション面での成功例も出てきている。
PSIの目的が、わが国の安全保障政策に沿ったものとして、わが国は、03(同15)年5月のPSI発足当初から一定の期間、コアメンバーの一員として重要な役割を果たしてきた。
また、現在20か国
4で構成されているオペレーション専門家会合メンバーの一員として、積極的にこのPSIの取り組みに参加しているところである。
(3)これまでの防衛庁・自衛隊としての取組
防衛庁・自衛隊としては、こうしたわが国の取り組みの中で、自衛隊が有する能力を最大限に活用しつつ、関係機関・関係国と連携し、積極的にPSIに関与していくことが必要であると考えている。
現在までの具体的な対応としては、第3回のパリ総会から各種会合に海上・航空自衛官を含む防衛庁職員を派遣するとともに、オブザーバーを派遣し、関連する情報の収集を行ってきた。
これらを通じて、例えば、PSI阻止活動の際に、艦艇や航空機による警戒監視活動などの情報収集活動によって得た関連情報を関係機関や関係国へ提供し、さらに、海上阻止活動では、海上警備行動が発令された場合には、海上保安庁と連携の上、海自が容疑船に対して乗船・立入検査を行うといった役割を担いうると考えている。
この点を踏まえて、04(同16)年10月には、外務省および海上保安庁とともに、わが国主催の海上阻止訓練
5を行い、その一環として、乗船・立入検査に関する展示訓練を行った。また、昨年8月、ASEANでは初めてとなるシンガポール主催のPSI海上阻止訓練に、海自護衛艦1隻、哨戒機2機を派遣するなど、積極的にPSI訓練に参加している。
また、本年4月には、豪州主催のPSI航空阻止訓練がオーストラリアのダーウインで行われ、外務省、警察庁、警視庁、財務省とともに、防衛庁から8名の要員が参加した。
さらには、PSIを含む包括的な不拡散体制の強化のための積極的な働きかけ(アウトリーチ活動)の一環として、アジア諸国の国防当局に対し、これまでの訓練によって得た情報や知見の提供を積極的に行うなど、防衛交流の機会などを利用し、PSIに対する理解を求めてきた。
(4)今後の取組
防衛大綱では、わが国の平和と安全をより確固たるものとするため、国際平和協力活動に主体的・積極的に取り組むこととされている。
PSIは、まさに、こうした国際平和協力活動にあたるものである。PSIを、広く防衛、外交、法執行、輸出管理などを包含した安全保障の問題として捉えて、わが国の総力を結集し、平素から主体的・積極的に取り組むことにより、大量破壊兵器の拡散防止に万全を期す必要がある。
このため、今後も自衛隊の能力を最大限に活用し、積極的にPSIに関与していくこととし、これに伴う政府内の体制などについても、関係機関などと密接に連携を図りつつ検討を行う。
また、中期防において、PSIを含む国際平和協力活動に関する共同訓練に取り組むとされていることも踏まえ、自衛隊の対処能力の向上などの観点から、今後も、各種阻止訓練への参加やその主催について検討を行うこととしている。
1)PSIは、大量破壊兵器などの関連物資の拡散を防止するため、既存の国際法、国内法に従いつつ、参加国が共同してとりうる措置を検討し、また、同時に各国が可能な範囲で関連する国内法の強化にも努めようとする構想
2)「阻止原則宣言」は、PSI参加国が、大量破壊兵器などの拡散懸念国家又は非国家主体への、及び拡散懸念国家又は非国家主体からの流れを断ち切るための努力を共同で行うとともに、拡散を懸念する全ての関心国がPSIを支持し、可能かつ実施する意思のある措置を取るべく、現在のPSI参加国とともに取り組んでいくことに言及している。また、同宣言は、各国が国際法及び国内法の許容範囲内において、大量破壊兵器などの貨物を拡散阻止するための具体的な行動をとることとしている。
3)03(平成15)年9月、アンティグア・バーブーダ(カリブ海の島国)船籍のBBCチャイナ号が、原子力関係品目物資をリビアに向けて輸送しているとの情報をドイツ外務省が入手、ドイツ政府は、情報専門家をイタリアに派遣、イタリア及び米海軍の協力により臨検を行い、コンテナ番号の偽造を発見、同船をイタリア・タラントへ回航して原子力関連物資(遠心分離器使用可能アルミチューブ)を押収した。この事件によって、リビアの核開発、カーン・ネットワークの露見に結びつき、PSIの有効性を示した。
4)米国、日本、英国、イタリア、フランス、オランダ、ドイツ、スペイン、ポルトガル、オーストラリア、ポーランド、シンガポール、ノルウェー、カナダ、ロシア、トルコ、ギリシャ、デンマーク、ニュージーランド、アルゼンチン
5)わが国主催で、参加国関係機関の練度向上や相互の連携強化、およびPSI非参加国のPSIに対する理解の促進を主目的として、相模湾沖および横須賀港内で行われたPSI海上阻止訓練である。本訓練には、オーストラリア、フランス、米国の艦艇などが参加、自衛隊から艦艇、航空機などが参加し、海上保安庁から巡視船、航空機が参加した。また、18か国がオブザーバーを派遣した。