第3章 新たな脅威や多様な事態への実効的な対応と本格的な侵略事態への備え 

領水内潜没潜水艦への対処

(1)基本的な考え方
 わが国の領海及び内水で潜没航行する外国潜水艦に対しては、96(平成08)年の閣議決定2などに基づき海上警備行動3を発令し、自衛隊が当該潜水艦に対して、海面上を航行し、かつその旗を揚げる旨要求すること及び当該潜水艦がこれに応じない場合にはわが国の領海外への退去要求を行う。

(2)中国原子力潜水艦による領海内潜没航行事案とその経緯
 昨年11月10日早朝、国籍不明の潜水艦が先島群島周辺海域のわが国の領海内を南から北方向へ向け潜没航行しているのを海自哨戒機(P-3C)が確認したことから、所要の措置を講ずるために、同日午前8時45分、小泉総理の承認を得て、大野防衛庁長官が自衛艦隊司令官に対し、99(同11)年の能登半島沖不審船事案以来2度目となる海上警備行動を発令した。
 発令後、哨戒機(P-3C)に加え、哨戒ヘリコプター(SH-60J)及び護衛艦により、当該潜水艦が12日午後1時ごろまでに防空識別圏を超え、沖縄本島の北西約500kmの東シナ海の公海上に至るまで見失うことなく継続して追尾を行った。その結果、当該潜水艦がわが国周辺海域から離れて航行していった方向を把握できたこと、及び当該潜水艦が当面再度わが国領海に戻ってくるおそれはないと判断したことから、同日午後3時50分に、防衛庁長官が海上警備行動の終結命令を発した。
 政府としては、当該潜水艦がわが国周辺海域から離れて航行していった方向や、当該潜水艦は原子力潜水艦であると考えられることをはじめとする諸情報を総合的に勘案した結果、当該潜水艦は中国海軍に属するものであると判断した。この判断に基づき、同日夕方、町村外務大臣より程永華在京中国大使館公使に抗議を行った。これに対し中国側は16日、中国の原子力潜水艦であることを認めた上で、本事案については通常の訓練の過程で、技術的原因から日本の石垣水道4に誤って入ったものであり、この事件の発生を遺憾に思うとの説明があった。

 
ソーナー捜索を実施する哨戒ヘリコプター(SH-60J)

(3)中国原子力潜水艦による領海内潜没航行事案を踏まえての措置など
 この事案に対しては、96(同08)年の閣議決定に基づき、海上警備行動を発令して対処した。しかし、結果として、当該潜水艦の入域情報に接してから海上警備行動の発令までに相当の時間を要することとなったことから、これらを始めとする教訓を踏まえ、政府としては新たに次の対処方針などを定めた。

 
中国原子力潜水艦によるわが国領海内潜没航行事案が生起した海域

ア 対処方針
1) 領水内潜没潜水艦に対しては、原則として海上警備行動により、浮上要求、退去要求などの措置を実施

2) 防衛庁長官は、事案発生に際し、所要の手続きを経て、海上警備行動を速やかに発令
 ・このため、わが国領海に接近する潜水艦の情報が得られた場合には、これを早期に政府部内で共有
 ・当該潜水艦がわが国領海内に侵入した場合には、特段の事情がない限り、直ちに海上警備行動を発令

3) 当該潜水艦がわが国領海を出域した後も、再侵入の可能性の見極め、国籍の特定などのため、原則として海上警備行動を継続

4) 関係国と連絡をとり必要な措置を講じつつ対処

5) 領水内潜没潜水艦の状況、政府の対処などについては、安全保障上の観点などに留意しつつ、海上警備行動の発令の公表は速やかに行うなど、国民に対し適切かつ時宜を得た説明を実施

6) 以上の方針を確実に実施するため、必要なマニュアル(対処要領)を関係省庁間で共有

イ 今後の課題
 政府は、今後の課題として領水内潜没潜水艦への対処をさらに改善し得る余地があるか、検討している。


 
2)96(平成8)年12月安全保障会議及び閣議で決定された「我が国の領海及び内水で潜没航行する外国潜水艦への対処について」
この閣議決定は、自衛隊の部隊がわが国の領海及び内水で潜没航行する潜水艦に対して浮上・掲旗要求、退去要求を行うにあたり、あらかじめ閣議においてその基本方針と手順を決定しておき、個々の事案発生時に、改めて個別の閣議決定を経ることなく、内閣総理大臣の判断により、自衛隊の部隊が迅速に対処し得る途を開いたもの


 
3)正式には「海上における警備行動」という。
海上における人命若しくは財産の保護又は治安の維持のため特別の必要がある場合に自衛隊がとる行動で内閣総理大臣の承認が必要

 
4)「石垣水道」は中国側の説明をそのまま引用したものであり、わが国には正式にそのように呼称する水道はない。
当該事案が生起した海域については本節4の概略図を参照



 

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