刊行によせて

 


 防衛庁は、わが国の防衛政策や1年間の防衛庁・自衛隊にかかわる主要な事象について、より多くの国民の皆様にご理解をいただくため、毎年防衛白書を刊行しています。このことは、わが国の防衛政策の透明性の証でもあり、わが国に対する諸外国の理解と信頼を高める上でも大きな意義があります。

 冷戦の終結により、世界的な規模の武力紛争が生起する可能性は遠のきましたが、宗教上、民族上の問題などに起因する様々な対立がかえって表面化、先鋭化するといった問題が生じており、また、主要国首脳会議(G8サミット)開催中の英国の首都ロンドンにおいて発生した連続爆発事件にみられるように、テロ組織などの非国家主体が脅威の対象として大きく注目されるようになっています。アジア太平洋地域では領土問題など従来からの問題も残されていますが、わが国を取り巻く安全保障環境が変化する中で、わが国の安全保障政策も変革が求められています。

 昨年12月に策定された新防衛大綱は、こうした変革の道筋を示したものであり、「多機能で弾力的な実効性のある防衛力」を保有するという考え方が示されています。防衛庁は、この構想の下、本格的な侵略事態に備えつつ、弾道ミサイル攻撃、ゲリラや特殊部隊による攻撃、大規模・特殊災害などの新たな脅威や多様な事態に実効的に対応するとともに、平和支援国家として国際社会との協力を重視し、安全保障環境の改善を図るとの観点から、国際平和協力活動に主体的・積極的に取り組んでまいります。

 過去1年間、防衛庁・自衛隊は様々な活動を行ってきました。昨年11月、中国の原子力潜水艦がわが国の領海内を潜没航行した事案が発生し、海上警備行動を発令して海上自衛隊に対処させました。また、昨年は観測史上最多となった10個の台風の上陸や新潟県中越地震などによる大規模な自然災害に対して自衛隊は災害派遣を行いました。
また、国外においても、イラク、インド洋、ゴラン高原などにおいて国際平和協力活動を行っています。記憶に新しいところでは、昨年12月に発生したインドネシア・スマトラ島沖大規模地震及びインド洋津波被害に対し、陸・海・空各自衛隊を派遣して国際緊急援助活動を行いました。
我々は、これらの活動の成果なども踏まえ、より危機に強い自衛隊を目指して、一丸となって努力していくことが必要であると考えています。

 本年の白書は、新防衛大綱が策定されて初めての白書であることから、新防衛大綱が策定された背景などを述べた上で、これまでの防衛構想との違い、変遷をたどりながら、その内容について、詳しく紹介しています。また、新防衛大綱を計画的に実現するための中期防衛力整備計画の内容や来年3月に発足する新たな統合運用体制について解説しています。

 また、日米安全保障関係については、本年2月の「2プラス2」会合において、自衛隊と米軍の役割・任務・能力に係る検討を進めるとともに、日米間の協議を強化していくことを確認しました。このような状況の中で、わが国としての考え方も踏まえた日米間の戦略対話も進められています。この内容についても、日米間の防衛協力の枠組みと併せて白書において整理しています。

 さらに本年の白書においては、幅広く行われるようになった自衛隊の内外の活動について詳しく記述するとともに、実際に活動に参加した隊員の声や現地の方々の受け止め方などを積極的に掲載しました。個々の隊員がどのようなことを思い、考えて活動しているのか、読者の皆様に少しでもお伝えできれば幸いです。

 こうした本年の白書に、より多くの皆様が親しんでいただき、防衛庁・自衛隊に対する理解を深めて頂く一助になることを切に希望します。
なお、本冊に併せて、ポイントをわかりやすく解説した教科書サイズのハンディなものや漫画版も発行される予定ですので、それらもご覧いただければ幸いです。

 

    次の項目に進む