第3章 新たな脅威や多様な事態への実効的な対応と本格的な侵略事態への備え 

法制・運用面の整備

(1)弾道ミサイル対処に関する法的措置

ア 基本的な考え方
 わが国に弾道ミサイルなどが飛来する場合の対処において、それが武力攻撃としての弾道ミサイル攻撃に対する迎撃である場合は武力攻撃事態における防衛出動により対処することとなる。
 他方、武力攻撃事態の認定は、国際情勢、相手国の意図、軍事的行動などを総合的に勘案して判断されるものであり、弾道ミサイルが飛来するおそれがある場合又は現に飛来した場合であっても、その意図や目的が特定できない場合など、武力攻撃事態であると判断できない場合はあり得る。

 
イージス艦から発射されるSM−2ミサイル

 このように武力攻撃事態が認定されていない場合においても、弾道ミサイルが飛来し、わが国に着弾すれば国民の生命と財産に大きな被害が生じる可能性があるため、BMDシステムを活用することが必要となる。従前の自衛隊法においては、このための自衛隊の行動の法的根拠が無かったことから、本年の通常国会において、所要の法改正を行った。

イ 弾道ミサイル等に対する破壊措置のための自衛隊法の改正15
 今回の自衛隊法の改正は、防衛出動が下令されていない場合において、わが国に弾道ミサイル等が飛来する場合に、1)迅速かつ適切な対処を行うこと、2)シビリアンコントロールを確保することを十分考慮し、弾道ミサイル等への対処に関し必要な根拠を整えるべく措置したものである。
 わが国に弾道ミサイル等が飛来する場合、国民の生命・財産に対する被害を防止するためには、破壊する以外に方法はなく、今回の自衛隊法改正は、わが国として必要かつ当然の措置と考えられるものである。

(ア)弾道ミサイル等に対する措置規定の概要
 今回の自衛隊法の改正における弾道ミサイル等に対する措置の主要な規定の概要は、次のとおりであり、これにより、弾道ミサイル等がわが国に飛来する場合の法制度として万全を期すべく措置している。

1) 防衛庁長官は、弾道ミサイル等がわが国に飛来するおそれがあると判断する場合には、内閣総理大臣の承認を得て、自衛隊の部隊に弾道ミサイル等の破壊措置をとるべき旨を命ずることができる。
2) また、長官は、1)の場合のほか、事態が急変し内閣総理大臣の承認を得るいとまがなくわが国に向けて弾道ミサイル等が飛来する緊急の場合におけるわが国領域における人命又は財産に対する被害を防止するため、長官が作成し、内閣総理大臣の承認を受けた緊急対処要領に従い、あらかじめ、自衛隊の部隊に一定の期間を定めて弾道ミサイル等の破壊措置をとるべき旨を命令することができる。

(イ)シビリアン・コントロールの確保の考え方
 弾道ミサイル等の対応については、自衛隊の対応だけではなく、国民への警報や避難といった国民の保護のための措置、外交面での活動、関係部局の情報収集や緊急時に備えた態勢強化など、政府全体として対応することが必要である。また、わが国に弾道ミサイル等が現に飛来する場合には、必ず迎撃ミサイルという武器を用いて破壊することが必要となる。さらに、飛来のおそれの有無についても具体的な状況や国際情勢などを総合的に分析・評価し、政府として判断する必要がある。
 このような事柄の重要性及び政府全体としての対応の必要性にかんがみ、内閣総理大臣の承認(閣議決定)と防衛庁長官の個別の命令を要件とし、内閣及び防衛庁長官がその責任を十分果たし得るようにしている。さらに、事後の国会報告についても法律に明記し、国会の関与についても明確にしている。

 
発射されるペトリオットミサイル

(2)運用面の取組
 自衛隊は平成17年度末より統合運用体制に移行することとなるが、飛来する弾道ミサイルの破壊は、海上自衛隊(海自)のイージス艦、航空自衛隊(空自)のレーダー、ペトリオット、指揮・通信システムが一体となって行われるべきものであり、また、着弾した弾道ミサイルへの対処については陸上自衛隊(陸自)が中心となって対処するものであることから、弾道ミサイル防衛の運用は陸・海・空にわたる統合運用が不可欠となる。今後、弾道ミサイルへの実効的な対応の観点からも、効率的・効果的な統合運用体制を確立していくことが求められる。
 さらに、BMDシステムの効率的・効果的な運用のためには、在日米軍をはじめとする米国との密接な調整が必要であり、今後、具体的な検討を行っていくことが課題である。


 
15)資料71参照


 

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