第4章 国際社会の平和と安全を確保するための取組 

4 大量破壊兵器の拡散阻止のための国際的な新たな取組

〜拡散に対する安全保障構想(PSI):Proliferation Security Initiative〜 

(1)PSI成立の背景と概要
 ブッシュ政権は、北朝鮮、イランをはじめとする拡散懸念国などが大量破壊兵器・ミサイル開発を行っているとして強く懸念し、02(平成14)年12月に「大量破壊兵器と闘う国家戦略」を発表し、拡散対抗、不拡散、大量破壊兵器使用の結果への対処からなる包括的なアプローチを提唱した。
 昨年5月、ブッシュ米大統領は訪問先のポーランドで、拡散に対する安全保障構想(PSI)を発表し、わが国を含む10か国(日、英、イタリア、フランス、オランダ、ドイツ、スペイン、ポーランド、ポルトガル、オーストラリア)に参加を呼びかけた。本年6月現在、米国を含むこれら11か国にシンガポール、ノルウェー、カナダ、ロシアが加わり、参加国が15か国になった。
 PSIは、国際社会の平和と安定に対する脅威である大量破壊兵器などの関連物資の拡散を阻止するために、参加国が共同してとりうる措置を検討すべきとの提案である。

(2)これまでにPSI参加国が合意した主要な事項
 参加国は、本年6月までに総会などを9回行い、概ね以下の事項について合意している。
○ 積極的に本構想を推進していく。
○ 国際法及び各国国内法の範囲内で拡散阻止のための措置を実施する。必要に応じて国内法の見直しとその強化のために努力するとともに、必要な場合には国際法及び国際的枠組みを強化するために努力する。
○ 阻止訓練の概念について一致し、訓練をできる限り早期に行う。
○ PSIの目的や阻止のための原則を述べた「阻止原則宣言(Statement of Interdiction Principles)」1に基づき、大量破壊兵器などの拡散を阻止するための努力を個別又は共同で行う。
○ PSI活動の実施のための能力向上を目的とした陸・海・空における阻止訓練を実施する。
○ 拡散の懸念を共有する全ての国家がPSIを支持することを期待し、非参加国への働きかけ(アウトリーチ活動)を行う。
○ ブッシュ米大統領によるPSI強化の提案(本年2月11日、米国防大学における演説)を支持する。法執行を含む活動の強化により、拡散阻止のための協力を強化する。
 
模擬容疑船(米軍艦艇)に乗船するスペイン海軍部隊(米国主催海上阻止訓練「SEA SABER」)

(3)合同阻止訓練の実績
 本年6月までに、下表のとおり、計10回の合同阻止訓練が実施された。
 
合同阻止訓練の実績

(4)わが国の取組
 わが国は、これまでわが国が行ってきた大量破壊兵器・ミサイル不拡散体制強化の取り組みに沿ったものとしてPSIに積極的に関与している。また、この問題への対応として、国内における関係諸機関や関係諸国との連携強化を図り、訓練への参加やアジア諸国に対するPSIを含む包括的な不拡散体制の強化に関し積極的に働きかけを行い、実効性を高めるなど総合的に取り組んでいる。

(5)防衛庁・自衛隊としての取組と今後の対応
 昨年12月の閣議決定「弾道ミサイル防衛システムの整備等について」の中の「我が国の防衛力の見直し」という項目において、大量破壊兵器などの拡散といった新たな脅威などに実効的に対応すること、わが国を含む国際社会の平和と安定のための活動に主体的・積極的に取り組み得るよう、防衛力の見直しを行うとされていることも踏まえ、自衛隊が有する能力を最大限に活用しつつ、関係機関・関係国と連携し、積極的にPSIに関与していくことが必要と考えている。
 現在までの具体的な対応としては、第3回パリ総会より各種会合に海上・航空自衛官を含む防衛庁職員を派遣するとともに、合同阻止訓練にもオブザーバーを派遣し、関連する情報の収集を行っている。これらを通じて、たとえば、艦艇や航空機による警戒監視活動などの情報収集活動に際して得た関連情報を関係機関・関係国へ提供することなどにより、防衛庁・自衛隊がPSIにおいて、平素から重要な役割を果たし得る可能性を認識したところである。
 また、PSIへの支持を呼びかけるため、アジア諸国の国防当局に対し、これまでの訓練へのオブザーバー派遣などによって得た情報や知見の提供を積極的に行うなど、今後も防衛交流の機会などを利用し、PSIに対する理解を継続的に求めていくこととしている。
 引き続き情報収集を続けてPSIに防衛庁・自衛隊としてどのように参画していくべきか様々な検討を行っていく方針であり、このうち、阻止訓練に対しては、関係省庁間で連携を図り、政府として、わが国による主催も含めてその対応を検討していく考えである。



 
1)「阻止原則宣言」は、PSI参加国が、大量破壊兵器などの拡散懸念国家又は非国家主体への、及び拡散懸念国家又は非国家主体からの流れを断ち切るための努力を共同で行うとともに、拡散を懸念する全ての関心国がPSIを支持し、可能かつ実施する意思のある措置を取るべく、現在のPSI参加国とともに取り組んでいくことに言及している。
 また、同宣言は、各国が国際法及び国内法の許容範囲内において、大量破壊兵器などの貨物を拡散阻止するための具体的な行動として、たとえば、参加国が以下のような行動をとることとしている。
(海上阻止)
 自国籍船舶が大量破壊兵器などを運搬していると疑うに足る合理的な理由がある場合には、内水、領海、公海において、乗船し立入検査するための措置をとり、確認された場合には関連貨物を押収する。
(航空阻止)
 大量破壊兵器などを運搬していると疑うに足る合理的な理由がある航空機が、自国領空を通航している際に、検査のための着陸を求め、確認された場合には関連貨物を押収する。また、このような航空機に対して自国領空の通航権を事前に拒否する。


 

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