第4章 国際社会の平和と安全を確保するための取組 

進展する二国間の防衛交流

(1)二国間防衛交流の意義
 二国間の防衛交流は、相互理解や友好親善、信頼関係の増進などを目的として、各国の防衛担当者が行う交流である。その特徴は、相手国との関係に応じてきめ細かな対応ができることや、これにより構築される二国間の信頼関係が多国間の安全保障対話を効果的に進める際の基礎にもなり得ることである。

(2)日韓防衛交流
 韓国は、わが国の最も近くに位置する友好国であるとともに、わが国の安全保障にとり重要な国である。北朝鮮問題をはじめとする、わが国の平和と安全や朝鮮半島を含む東アジア全体の平和と安定に重大な影響をもたらし得る問題に有効に対応するため、韓国との協力体制は不可欠である。そのため、韓国との防衛交流を積極的に進めることにより、相互理解を深め、信頼関係を増進し、両国が地域の平和と安定に向けて、政策面において協調、協力する基盤を構築していくことが極めて重要である。
 98(平成10)年の小渕総理(当時)と金大中大統領(当時)との日韓首脳会談において、新たなパートナーシップを構築するとの共通の決意を「日韓共同宣言−21世紀に向けた新たな日韓パートナーシップ」として発表し、両首脳は、両国間の安全保障対話・防衛交流を歓迎し、一層強化することとした。
ア 防衛首脳クラスなどのハイレベルの交流
 94(同6)年以降、両国防衛首脳が、毎年(01(同13)年を除く。)交互に訪問し、会談が開かれている。
 昨年11月、チョ永吉(チョ・ヨンギル)国防部長官が訪日し、石破防衛庁長官と会談を行い、地域情勢、防衛政策、防衛交流などについて意見交換を行った。特に、朝鮮半島情勢について、北朝鮮の核問題の平和的、外交的解決には、米朝二国間のみではなく、国際社会が北朝鮮に対し一致して働きかけていくことが必要であり、引き続き6者会合のプロセスを進展させるとともに、日米韓が緊密に連携していくことが重要であるということで意見が一致した。この認識の下、今後とも日韓の防衛当局間の緊密な協議を行っていく必要性について認識の一致を見た。また、両長官は今後も日韓関係の将来の方向性につき、両国防衛当局者間で意見交換を行っていくとともに、ハイレベル交流、教育交流などについて今後も継続することで一致した。
 さらに、本年2月に古庄海上幕僚長(海幕長)、同年5月に石川統合幕僚会議議長(統幕議長)、同年6月に津曲航空幕僚長(空幕長)が訪韓し、地域情勢、防衛交流、両国の関心事項などについて、それぞれ率直な意見交換を行った。
 
金鍾煥(キム・ジョンファン)韓国合同参謀議長(右から2人目)と握手を交わす石川統幕議長(左から2人目)

イ 防衛当局者間の定期協議など
 94(同6)年以降、毎年、審議官級の防衛実務者対話を行っているほか、98(同10)年以降は、外交当局を含めた安全保障対話を行っている。また、統合幕僚会議事務局と韓国合同参謀本部、陸・海・空自衛隊と韓国陸・海・空軍間でも活発な対話などを行うとともに、留学生の交換や研究交流も盛んに行っている。
ウ 部隊間の交流など
 陸自と韓国陸軍は、01(同13)年以来、西部方面隊と韓国陸軍第2軍との間で部隊指揮官が相互に訪問するなどの交流を行っている。本年2月にも、西部方面総監が訪韓し、韓国陸軍第2軍司令官と意見交換を行った。
 また、海自と韓国海軍は、94(同6)年以来、艦艇が相互に訪問するなどの交流を行っている。99(同11)年には、初の捜索・救難共同訓練を行い、昨年8月には、対馬西方海域において韓国海軍主催による第3回日韓捜索・救難共同訓練が行われた。
 さらに、空自と韓国空軍は、00(同12)年以来、航空機の相互訪問による交流を行っている。同年11月、韓国空軍輸送機が初めて訪日、02(同14)年10月には空自輸送機が初めて訪韓した。その後、同年11月と昨年11月にも韓国空軍輸送機が訪日している。
 防衛庁は、このような交流を積み重ね、今後とも緊密な日韓防衛関係の構築に努力することとしている。
 
第3回日韓捜索・救難共同訓練で遭難船に対する消火活動を行う海自隊員(中央)と警戒する韓国艦艇(右)

(3)日露防衛交流
 ロシアは、欧州のみならず、アジア太平洋地域の安全保障に大きな影響力を持ち、かつ日本の隣接国であるため、日露の防衛交流を深め信頼関係の増進を図ることは極めて重要である。
 防衛庁は、97(同9)年のクラスノヤルスクでの首脳会談以降、様々な分野で日露関係が進展する中、着実にロシアとの防衛交流を進めている。
 99(同11)年には、野呂田防衛庁長官(当時)が訪露し、セルゲーエフ国防大臣(代行)(当時)との間で対話と交流の発展のための基盤構築に関する「覚書」1に署名し、日露防衛当局間の信頼関係の増進と相互理解の向上を図るとの決意を表明した。
 昨年1月、小泉総理公式訪露の際に署名された「日露行動計画」の中で、両国首脳は、ハイレベル交流、防衛当局間協議、共同訓練、親善訓練などを引き続き実施することで両国の防衛交流を着実に進めるとの意思を相互に確認した。
ア 防衛首脳クラスなどのハイレベルの交流
 96(同8)年に、旧ソ連時代を含めて初めて臼井防衛庁長官(当時)が訪露して以来、ハイレベルの交流が進展している。昨年1月の石破防衛庁長官の訪露に続き、同年4月にはイワノフ国防大臣が訪日し、地域情勢、今後の防衛交流などについて意見交換を行った。
イ 防衛当局者間の定期協議など
 防衛庁は、審議官級の防衛当局間協議を定期的に行っているほか、両国間の防衛交流の進め方全般について協議する日露共同作業グループ会合、日露海上事故防止協定締結に基づく年次会合などを継続的に行っている。また、統合幕僚会議事務局とロシア連邦軍参謀本部とのスタッフトークスをはじめ、陸・空自衛隊とロシア地上軍・空軍との間でも活発な対話などが行われている。さらに、防衛研究所は、ロシア連邦軍参謀本部軍事戦略研究センターなどのロシア国防省関係研究機関との間で、日露防衛研究交流を継続的に行っている。
ウ 部隊間の交流など
 昨年7月、ロシア極東軍管区司令官が初めて公式に訪日し、陸自の北部方面総監と地域情勢、防衛交流、両国の関心事項などについて意見交換を行った。
 海自では、96(同8)年の海自艦艇のウラジオストク訪問以来、毎年艦艇の相互訪問を行っている。また、98(同10)年から日露捜索・救難共同訓練を行っており、昨年9月には、第5回日露捜索・救難共同訓練に海自から護衛艦2隻と艦載ヘリコプター4機が参加した。この訓練に際して、ウラジオストクで開催されていた「ロシアにおける日本文化フェスティバル2003」行事に海自東京音楽隊が参加した。さらに、同年8月には、ロシア極東演習の一環として行われた捜索・救難訓練に、護衛艦1隻と艦載ヘリコプター1機が参加した。
 
「ロシアにおける日本文化フェスティバル 2003」行事において演奏する海自東京音楽隊の隊員 ロシア極東演習の一環として行われた捜索・救難訓練に参加している護衛艦「いかづち」(左手前)

(4)日中防衛交流
 中国は、アジア太平洋地域で大きな影響力を持っており、防衛分野での相互理解を深め信頼関係を増進することは、両国間の安全保障のみならず、この地域の平和と安定にも有益である。
 98(同10)年、久間防衛庁長官(当時)が訪中した際の防衛首脳会談において、防衛首脳レベルでの対話の継続実施など、今後の防衛交流の進め方について合意した。また、同年、小渕総理(当時)と江沢民国家主席(当時)との日中首脳会談では、「平和と発展のための友好協力パートナーシップの構築に関する日中共同宣言」を発表し、両首脳は、両国の防衛交流が相互理解の増進に有益な役割を果たしていることを積極的に評価したほか、安全保障・防衛分野での交流を徐々に深めることで意見が一致した。
 防衛庁は、中国防衛当局者との交流の中で、特に、日本の防衛政策に対する中国側の理解の促進に努めるとともに、中国の軍事力や国防政策の透明性が向上するよう働きかけている。
ア 防衛首脳クラスなどのハイレベルの交流
 昨年9月、石破防衛庁長官が訪中し、曹剛川国防部長と会談を行った。これは、98(同10)年5月の久間防衛庁長官(当時)の訪中以来、約5年半ぶりに行われたものであり、北朝鮮の核問題について、核保有を認めず、平和的解決に向けた外交努力を継続する考えで一致した。また、これを契機に実務レベルを含む防衛交流を積極的に推進することで認識が一致した。
 本年1月、守屋事務次官が訪中し、熊光楷副総参謀長と日中次官級協議を行った。朝鮮半島情勢をはじめとする地域情勢、日中両国の防衛政策などについて意見交換を行い、防衛交流をさらに推進することが重要であるとの認識で一致した。
 また、本年4月に津曲空幕長が訪中し、地域情勢、防衛交流、両国の関心事項などについて、率直な意見交換を行った。
 
温家宝首相(右)と会談する石破長官(左)

イ 防衛当局者間の定期協議など
 両国の外交・防衛当局間による安全保障対話が、現在まで9回継続的に行われている。また、新たに防衛研究所一般課程への留学生受け入れや、防衛医科大学校の講師が昨年12月から解放軍第2軍医大学で3か月研修を行うなど、防衛研究所を中心とした研究交流や教育分野の交流、友好親善のための相互訪問などが行われている。
ウ 部隊間の交流など
 00(同12)年10月、森総理(当時)と訪日した朱鎔基首相(当時)との会談において艦艇の相互訪問を早期に実現することで意見が一致し、02(同14)年5月に中国海軍艦艇が訪日する予定であったが、中国の申し出により延期されている。

(5)オーストラリアとの防衛交流
 オーストラリアは、自由と人権の尊重、民主主義といった基本的価値観を共有する重要なアジア太平洋地域のパートナーであり、安全保障面でもオーストラリアとわが国はともに米国の同盟国として戦略的利害が一致しており、防衛分野において多くの関心を共有している。このような観点から、オーストラリアとの間で防衛交流を進め、相互理解と信頼関係を増進させ、政策面における協調、協力を図ることは、アジア太平洋地域における平和と安定にとって重要である。
 02(同14)年5月、小泉総理がオーストラリアを訪問し、ハワード首相と創造的パートナーシップを構築することで合意し、安全保障を含む幅広い分野にわたって具体的な協力を促進していくとの認識で一致した。
 
ヒューストン・オーストラリア空軍本部長(左)と記念品の交換を行う津曲空幕長(右)

ア 防衛首脳クラスなどのハイレベルの交流
 両国の防衛首脳をはじめとするハイレベルの交流が継続的に行われている。最近では、昨年9月、ヒル国防大臣が訪日し、石破防衛庁長官と会談し、地域情勢、防衛政策、防衛交流などについて意見交換を行うとともに、両国の防衛交流の発展に関する覚書に署名した。ヒル大臣の訪日にはスミス国防事務次官とリッチー海軍本部長が同行し、守屋事務次官や石川統幕議長などとの間で会談を行った。
 また、昨年11月に津曲空幕長がオーストラリアを訪問し、地域情勢、防衛交流、両国の関心事項などについて、それぞれ率直な意見交換を行った。
イ 防衛当局者間の定期協議など
 96(同8)年以降、毎年、局長・審議官級の防衛当局間協議と外交当局を含めた安全保障対話を行っている。また、統合幕僚会議事務局、陸・海・空自衛隊とオーストラリア軍との間においても継続的な協議をするとともに、留学生の派遣や研究交流を行っている。
ウ 部隊間の交流など
 海自とオーストラリア海軍との間での艦艇の相互訪問、オーストラリア軍機のわが国への親善訪問など部隊間での交流を進めるとともに、PKOなどの分野での交流も行われている。

(6)東南アジア諸国との防衛交流
 東南アジア諸国は、海上交通の要衝(ようしょう)を占める地域に位置するとともに、わが国と密接な経済関係を有しており、これらの国々と安全保障上の諸問題について対話を促進し、相互理解と信頼関係の増進を図ることは、双方にとって有意義である。
 最近の主なハイレベルの交流は、下表のとおり行われており、東南アジアとの交流は着実に進展している。昨年は外交関係樹立30周年を迎えたベトナムとの間で、石川統幕議長とフン・クアン・タイン人民軍総参謀長が初めて両国を相互訪問した。
 実務者レベルの防衛当局者間の定期協議も順調に行われており、安全保障・防衛分野での意見交換を通じて相互理解と信頼関係の増進に努めている。また、各種幕僚協議、研究交流、留学生の受け入れと派遣、艦艇の訪問を中心とした部隊間の交流なども着実に行われている。これらの交流は、地域の平和と安定に重要な役割を果たしうる多国間のネットワークを構築する基礎となっている。
 
東南アジア諸国との交流(03年6月以降)

(7)その他の諸国との防衛交流
 防衛庁・自衛隊は、前述の近隣諸国のほかにもアジア太平洋諸国の一員であるカナダ、さらには、欧州諸国をはじめ、多くの国々とハイレベルの交流、実務者レベルの定期協議、留学生の交換などを行っている。また、部隊間の交流では、艦艇の訪問を活発に行っている。
 
ムカジー・インド国防大臣(右)と会談する守屋事務次官(左) オルネッキ・トルコ海軍司令官(右)と会談する古庄海幕長(左)

 最近の主なハイレベル交流は、下表のとおり行われており、多数の国々との緊密な協調関係の構築を図っている。
 
その他の諸国との交流(03年6月以降)

 また、昨年、海自の練習艦隊が、遠洋練習航海で環太平洋諸国を訪問した。
 このようにわが国は、自由と民主主義といった国の基本となる価値観を共有する国々と交流することにより、世界レベルでの平和と安定に重要な役割を果たしている。
 
西太平洋海軍シンポジウム(WPNS)における「次世代のための交流イニシアチブ」の一環として、海自練習艦に乗艦し、研修を行うオーストラリア海軍の女性士官



 
1)1)防衛庁長官及び国防大臣の相互訪問の継続的実施、2)防衛当局間のハイレベル対話の継続的実施、3)防衛当局者の定期協議の開催、4)防衛交流の進め方を協議する共同作業グループの開催、5)安全保障問題関連の会議、シンポジウム、セミナーへの参加、6)統合幕僚会議事務局と参謀本部のスタッフトークスの実施、7)陸自と地上軍の代表団の相互訪問、8)艦艇の相互訪問、共同訓練、親善訓練の実施、9)教育機関の代表団による交流、10)日露海上事故防止協定締結に伴う年次会合の開催、などについて表明したもの。


 

前の項目に戻る     次の項目に進む