第1章 国際軍事情勢 

6 その他の地域

オーストラリア

 オーストラリアは、日本、韓国とともに米国にとってこの地域における重要なパートナーと位置付けられている。また、例えば東ティモール問題への対応にみられるように、この地域の安全保障問題の解決に積極的に参画しようとしている。
 オーストラリアは2000(平成12)年12月、今後10年の国防方針を提示した「国防2000−将来の国防力」を発表し、軍の任務として、第一に自国を防衛すること、第二に隣国の安全保障へ貢献すること、第三に隣国を越えた領域で危機に対処するための国際的な合同軍へ効果的に貢献し、これによりオーストラリアの広範な利益を守り、目的を達成することを挙げている。このほか、これらの中核任務を損なわない範囲でサイバー攻撃や組織犯罪などの平時における様々な任務を遂行するとしている。その後、オーストラリアは01(同13年)9月11日の米国での同時多発テロや昨年10月のインドネシア・バリ島での爆弾テロ事件の影響を踏まえ国防戦略を見直し、本年2月、「オーストラリアの国家安全保障:国防最新報告2003」を発表した。同報告は、テロ及び大量破壊兵器の拡散という「双子の脅威」は過去2年間の世界の戦略環境における大きな変化であり、これらは、オーストラリアにとっても現実的で緊急を要する課題であることを強調している。また、近隣諸国において、政治・経済・社会的に不安定な状態が継続していることへの懸念も示している。同報告では、オーストラリアへの直接武力攻撃の脅威は減じているとし、本土防衛のための国防軍の活動の必要性は将来的には低下し、むしろ、近隣地域の安定確保のための軍事活動や、テロや大量破壊兵器に対処するために国防軍が遠隔地において合同軍作戦に参加する機会が増えるだろうとの見通しを提示している。さらに、00(同12)年の国防白書で示された国防軍の役割の優先順位は変わらないとしつつも、新たな戦略環境に対応するために、今後、オーストラリアは、即応性、機動性、インターオペラビリティ、新たな能力の開発強化に重点を置いた国防力を整備していく必要があること、また、「装備調達計画」の優先順位を変更する可能性があることを明言している1
 オーストラリアは、米国との同盟関係を重視し、ANZUS条約:Australia, New Zealand, United States of America Treaty2を締結しており、「タンデム・スラスト」演習などの共同訓練を行っている。また両国は毎年、外相・国防相による閣僚協議(AUSMIN:Australia-United States Ministerial Consultations)を行っている3。01(同13)年9月には、米国での同時多発テロが、「ANZUS条約で定めた集団的自衛権を行使する条件を満たすという合意に達した。」との声明が両国により発表され、同年10月以来、米軍への支援のため、艦艇、航空機及び特殊部隊などの派遣を行っている。さらに、本年3月の米国主導のイラク攻撃に際しても、「イラクに対する武装解除もテロに対する戦いの一部」との認識に立ち、艦艇、航空機及び特殊部隊を含む2000人規模の部隊派遣を行っている。
 そのほか、マレーシア、シンガポール、英国、ニュージーランドとの間の「5か国防衛取極(とりきめ)」(71(昭和46)年発効)に基づき、共同訓練などを行っている。また、国連東ティモール支援団(UNMISET:United Nations Mission of Support in East Timor)などの国連平和維持活動に参加している。



 
1)オーストラリアは、こうした新たな戦略環境に対応するため、特殊部隊の規模の拡大、特殊作戦コマンドの設置(本年5月に正式発足)、対テロ能力の向上(新たに戦術強襲グループを設置、情報に関するプロジェクトの実施、及び部隊運搬用ヘリコプターの追加購入など)などの対策を決めた。また、大量破壊兵器の脅威に対しては、緊急対応部隊を設置して、化学、生物、核、放射能及び爆発物に対する防護能力を拡大するとしている。

 
2)1952(昭和27)年に発効したオーストラリア・ニュージーランド・米国間3国安全保障条約。ただし、ニュージーランドが非核政策をとっていることから、86(同61)年以来、米国は対ニュージーランド防衛義務を停止している。

 
3)1986(昭和61年)年に米国がニュージーランド防衛義務を停止して以降、毎年開催。昨年10月に開かれた協議では、テロ、大量破壊兵器・弾道ミサイルの拡散防止及びイラク問題に対する支援協力、並びに相互運用性の促進を確認する共同声明が出された。


 

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