技術研究本部の先端技術

 巨大なものから微小なもの、新しいものから伝統あるもの、特殊なものから身近なもの…。色々なモノづくりの技術を結集して、装備品は造られています。陸・海・空各自衛隊などで使われる航空機、ミサイル、火砲、戦車、艦艇、魚雷、レーダー、無線機、防護服など…。これらの研究開発をまとめて行っているのが、技術研究本部です。技術研究本部が現在手がけている研究開発はたくさんありますが、その中には世界でも最先端の技術レベルに達するものや、新しい技術の世界を開拓する可能性を持ったものも多くあります。その一端をここで紹介します。

☆ ソフトウェア無線機の研究

 トランシーバや携帯電話を含めたこれまでの無線機は、音声やデータと電波との変換処理を固定的なハードウェアで行っていましたが、ソフトウェア無線機では高速信号処理技術を活用し、ソフトウェアでこれを行うことが可能となります。そのため、ソフトウェアを入れ替えることにより、周波数帯、各種通信データごとに異なっていた無線機を、1台のソフトウェア無線機で置き換えることが可能となります。現在、日米欧ではそれぞれ異なる方式の携帯電話が用いられていますが、この技術を応用した携帯電話を持っていれば、それぞれの地域で使用することができます。

 わが国では独自にソフトウェア無線機の研究を行ってきましたが、さらなる相互運用性の向上を目指し、米国国防省が開発中の統合戦術無線システム(JTRS:Joint Tactical Radio System)で検討されているソフトウェア無線機のソフトウェア・ハードウェアの構成に準拠したソフトウェア無線機の研究を、米国と共同で進めていきます。

(コラム図表参照)


(技術研究本部の先端技術)

☆ 先進複合材(3次元複合材)を適用した航空機構造の研究

 炭素繊維などによって強化された複合材は、強度が高く軽いことから、航空機の材料としての活用が図られ、最新の戦闘機(例えばF−2支援戦闘機)では主翼まで複合材で作られています。

 これら複合材の作り方は、従来、繊維をシート状や布状にしたものを積み重ね、樹脂材で固めて一体にする積層(せきそう)型であり、繊維が2次元平面内にしか通っていないため、層がはがれたりするという問題点がありました。

 技術研究本部では、積み重ねた繊維層平面に直交する方向にも繊維が通っている3次元複合材の研究開発を行い、これまで複合材を適用することが困難であった複雑で大きな力が作用する主翼の取付部材などを3次元複合材で試作し、航空機のさらなる軽量化を図っています。

 これは、将来、ほとんど複合材でできた軽い航空機を作ることを可能とする先進の技術です。

3次元複合材の繊維形態模型(繊維が平面内(赤・黄)だけでなく、それらに直交する方向(緑)にも通っている。)


3次元複合材の繊維形態模型(繊維が平面内(赤・黄)だけでなく、それらに直交する方向(緑)にも通っている。)

☆ 実証エンジンの研究

 技術研究本部では、「実証エンジン(XF5)」という、わが国初の本格的な純国産アフターバーナ(戦闘機などが用いるエンジン推力増加装置)付きエンジンの研究を行っています。このエンジンは、世界一流レベルの戦闘機用エンジン技術の獲得を目指して、従来の国産エンジン、例えば航空自衛隊のT−4練習機に搭載されているF3エンジン(アフターバーナはなく、推力約16kN(約1.6トン))より一段と進んだ空力、燃焼、材料、制御、システム技術などを用いて造られました。

 試験の結果、アフターバーナ使用時の推力約49kN(約5トン)で、推力重量比(推力をエンジン重量で割った値)約8を達成しました。例えば、航空自衛隊のF−15要撃戦闘機に搭載されているF100−PW−220Eエンジンは、推力は約104kN(約10.6トン)で、推力重量比は約7.3です。実際の戦闘機に使えるようにするには、サイズ拡大などでさらに推力を増やす必要がありますが、技術レベルの指標である推力重量比は世界一流レベルに達しました。

実証エンジン


実証エンジン

☆ 先進鋼技術の研究

 技術研究本部では、潜水艦建造用の鋼材として一般用の数倍の強度を持つ「NS110」を実用化するための研究を行っています。仮にNS110を用いて通常の鉄と同じ強さのものを作ったとすると、重さは約1/4に軽くなります。NS110の前身にあたるNS90鋼材は、民間の2,000m級深海探査艇にも適用されています。この研究の一環として、本鋼材の溶接工作性と、構造物としたときの強度に関する研究を1990(平成2)年から開始しました。特に95(同7)年からは米海軍と共同で研究し、大がかりな耐水中爆発特性試験を米国の試験場で行いました。

 試験の結果、潜水艦建造において広く用いられる溶接技術によって製作した構造物の強度について有益な成果が得られました。本研究がさらに進展してNS110鋼材の実用化が進めば、潜航深度の増大を図ることが可能となるなど、潜水艦の隠密性を一層向上させ得る技術として期待されています。