武器使用規定

 防衛出動を命ぜられた自衛隊の部隊などが、わが国を防衛するために自衛隊法第88条に基づき行う「武力の行使」を別にすれば、自衛官が公共の秩序の維持や人命、財産の保護などに際し、法律で武器を使用できることが認められている場合があります。このコラムでは、このような武器使用について説明します(資料16参照)

1 治安出動、警護出動、海上における警備行動などの際における武器の使用

 治安出動(コラム注3)、警護出動、海上における警備行動を命ぜられた部隊などの自衛官には、公共の秩序の維持や人命・財産の保護などの職務を遂行(すいこう)する場合に、これらの出動や行動時の権限を定めた規定において武器の使用が認められています。これらの武器の使用については、警察官職務執行法第7条が準用され、自己や他人に対する防護又は公務執行に対する抵抗の抑止のため必要な場合に、事態に応じ合理的に必要と判断される限度(いわゆる警察比例の原則)において、武器を使用することが認められています。この警察官職務執行法第7条では、相手に危害を与えるような武器の使用は、正当防衛又は緊急避難の要件に該当する場合、凶悪犯罪の犯人が職務執行に抵抗するときなどの場合を除き認められていません。

 また、これらの職務の遂行(すいこう)に当たって、警察官職務執行法第7条の準用のほか、それぞれの職務の的確な遂行(すいこう)のための武器使用の規定が設けられています。例えば、治安出動を命ぜられた自衛官については、職務上警護する人などが暴行を受け又は受けようとする明白な危険があり、武器を使用するほか、他にこれを排除する適当な手段がない場合に武器を使用できる旨規定されており(自衛隊法第90条)、また、海上における警備行動などでは、一定の要件を満たした場合に船舶を停船させるための船体に向けた射撃について規定した海上保安庁法第20条第2項が準用されています(自衛隊法第93条第3項など)。これらの武器使用規定においては、「事態に応じ合理的に必要と判断される限度」において武器を使用することが認められています。

 なお、領空侵犯に対する措置の際の武器使用は、自衛隊法第84条に規定する「必要な措置」として、正当防衛又は緊急避難の要件に該当する場合にのみ許されると解されています。

2 武器などの防護のための武器の使用

 武器などの警護を命ぜられた自衛官は、武器などやこれらを操作している人などを防護するため必要な場合に、通常時から武器を使用することが認められています(自衛隊法第95条)。この武器使用は、次のような性格を持っています。

(1) 武器を使用できるのは、職務上武器などの警護に当たる自衛官に限られること。

(2) 武器などの退避によってもその防護が不可能である場合など、他に手段のないやむを得ない場合でなければ武器を使用できないこと。

(3) 武器の使用は、事態に応じ合理的に必要と判断される限度に限られていること。

(4) 防護対象の武器などが破壊された場合や、相手方が襲撃を中止し、又は逃走した場合には、武器の使用ができなくなること。

(5) 正当防衛又は緊急避難の要件を満たす場合でなければ人に危害を与えてはならないこと。

3 自衛隊の施設の警護のための武器の使用

 自衛隊の施設の警護を命ぜられた自衛官は、この職務を遂行(すいこう)するため、通常時から武器を使用することが認められています(自衛隊法第95条の2)。自衛隊の施設については、武器などと異なり、奪取は不可能であり、また、通常その破壊が容易でなく長時間を要することから、一般警察力による防護が可能と考えられていたため、自衛隊は、武器の使用を伴わない形態による警護のみを行ってきました。しかし、昨年9月の米国における同時多発テロの教訓は、従来は破壊が容易でないと考えられていた施設に対する大規模な破壊行為が、平時においても可能であることを示すものであったため、通常時から武器の使用を伴った形態による施設の警護が必要ではないかと考えられました。そして、昨年第153回臨時国会において自衛隊法が改正され、自衛隊の施設の警護のための武器の使用が可能となりました(本章1節3参照)。この武器使用は、次のような性格を持っています。

(1) わが国の防衛力を構成する重要な基盤である「施設設備」が所在する「自衛隊の施設」が警護対象となり、また武器を使用できるのは、職務上施設の警護に当たる自衛官に限られること。

(2) 職務遂行(すいこう)の場所については、「自衛隊の施設」の内部全体に及ぶものであるが、施設の外では武器を使用できないこと。

(3) 武器の使用は、上記2(3)と同様に、事態に応じ合理的に必要と判断される限度に限られること。

(4) 武器の使用の目的は、 1職務遂行(すいこう)のため、 2自己の防護及び 3他人の防護とされていること。

(5) 正当防衛又は緊急避難の要件を満たす場合でなければ人に危害を与えてはならないこと。

4 いわば自己保存のための自然権的権利というべきものとされる武器の使用

 上記のほか、一定の職務に従事する自衛官が、自分自身と一定の要件を満たす自分以外の者の生命・身体を防護するため認められる武器使用があります。この武器使用は、「いわば自己保存のための自然権的権利というべきもの」とされ、国際平和協力法の制定に当たり、国際平和協力隊員の生命、身体を防護するための武器の使用として、憲法との関係を検討した結果、この目的で行う必要最小限の武器使用が憲法の禁ずる武力の行使に当たることはないものとして規定されたものです。

 この武器の使用は、国際平和協力法のほか、周辺事態安全確保法、自衛隊法などに規定があります。いずれも、攻撃を受けることは通常想定されない状況下において職務に従事する自衛官に認められるものであり、また、職務を遂行(すいこう)するための手段という性格はありません。このほか、共通していることとして、万一不測の攻撃を受けた場合の武器の使用による防護の対象を自己(武器を使用する自衛官自身)に限定していません。これは、自衛官の職務に関連して自衛官と行動をともにし、不測の攻撃を受けた場合にも、その自衛官とともに行動してこれに対処せざるを得ない立場にある者の生命・身体についても保護しようとするものです。このような防護の対象とする者の範囲については、それぞれの法律において、自衛官が行う活動の態様や場所、どのような者がその職務に関連して自衛官と行動をともにすることが考えられるかなどを考慮して規定されています。

 例えば、国際平和協力法第24条は「自己と共に現場に所在する・・・その職務を行うに伴い自己の管理の下に入った者」を防護対象とし(4章2節1参照)、自衛隊法第100条の8は「自己と共に当該輸送の職務に従事する隊員」及び「その保護の下に入った当該輸送の対象である邦人若しくは外国人」を防護対象としています。

 また、このいわば自己保存のための自然権的権利というべきものとして認められる武器の使用にかかわる規定においては、例外なく、正当防衛又は緊急避難の要件に該当する場合のほか人に危害を与えてはならないと規定されています。

 これらの武器の使用は、人の生命・身体に直接危険をもたらす行為であり、法令、規則に従って適正に行われなければならないことは言うまでもありません。