2 複雑で多様な地域紛争

 地域紛争の性格は必ずしも一様ではない。それぞれが民族、宗教、領土などの様々な固有の問題に起因し、その態様も武力紛争のみならず軍事的な対峙が継続する場合もある。さらに、対立のレベルも国家間対立、民族間対立、人権や難民などの問題が国境を越えた広がりをみせ国際問題化する場合など、多岐にわたっている。
武力紛争など

(1) 国家間対立

 冷戦終結後も、イラクのクウェイト侵攻や、最近ではエチオピア・エリトリア間の国境紛争など、国家間の武力紛争が依然として発生している。

(2) 民族間対立

 民族の対立などに起因する内戦なども引き続き生起している。
 アフガニスタンでは、1992(平成4)年のナジブラ政権崩壊以降、ムジャヒディーン各派が主導権をめぐって争ってきた。イスラムへの回帰を主張するタリバーンが、96(同8)年、首都カブールを占領するなど国土の大半を制圧し勢力を拡張してきており、北部地域などにおいてタリバーンとその他の勢力との間で紛争が続いている。
 アフリカでは、アンゴラやソマリアなどにおいて依然として紛争が続き、また、和平合意が得られた紛争(注1−5)についても、その原因が部族対立などであることや周辺諸国の紛争当事者への支援、戦闘継続の資金源となる地下資源の存在などがあいまって、依然として武力対立が続いており、その本質的な解決が困難となっている。
 ロシアでは、99(同11)年、チェチェン武装勢力のダゲスタン共和国への侵入などを契機とし、ロシア軍がこの武装勢力に対して武力行使を行い、昨年3月には、チェチェン共和国の大半を制圧したものの、依然として一部地域で武力衝突が続いている。なお、本年1月、チェチェン共和国に展開している兵力の一部撤退が決定された(注1−6)

(3) 国境を越えた諸問題

 また、地域紛争や民族紛争に伴い発生した大規模な人権侵害や大量の難民発生あるいはテロなどの多様な事態に対して軍事力が使用される事例が見られる。
 96(同8)年には、イラク北部のクルド人勢力の対立に介入したイラクに対し、少数民族に対する暴虐(ぼうぎゃく)の代償を示し、隣国を脅かす能力を低下させるなどとして米軍が攻撃を行った。
 ユーゴ連邦共和国のコソヴォでは、ユーゴ連邦政府などとアルバニア系住民独立勢力との武力衝突に端を発した非人道的な事態の停止を目的として、99(同11)年以降、NATOによるユーゴ空爆が行われる一方、ユーゴ連邦軍やセルビア治安部隊などがコソヴォにおけるアルバニア系住民の弾圧をさらに強化したことから、大量の難民が発生した。ユーゴ連邦政府は、G8が合意したコソヴォ紛争の政治解決のための原則を基に米国、ロシアと欧州連合(EU:European Union)が提示した和平案を同年に受諾し、コソヴォには国連安保理決議の承認を受けてNATOを主体とする国際安全保障部隊(KFOR:Kosovo Force)が展開された。さらに、98(同10)年に、ケニアとタンザニアに所在する米国大使館の爆破テロに起因して、米軍がスーダンとアフガニスタンの施設をテロ関連施設として攻撃した。