90年代の中国人民解放軍の軍事戦略(ハイテク条件下の局地戦)

 本文でも述べたように、人民解放軍は、1980年代に「大規模全面戦争」への対処を重視する戦略から、「局地戦」への対処を重視する戦略へ転換し、人員削減や組織の簡素化、装備の近代化に努めてきました。ところが、1991(平成3)年の湾岸戦争において、ハイテク装備を駆使する米軍を中心とする多国籍軍が一方的に勝利を収めたことから、人民解放軍は、将来中国にとって最も脅威となり、しかも最も対処に苦戦するのがハイテク局地戦であるとの認識を有するようになりました。
 こうした情勢認識に基づいて、90年代前半に、新時期の軍事戦略をそれまでの「一般的な条件下の局地戦」から「ハイテク条件下の局地戦」の勝利へと転換しました。
 このハイテク局地戦の主要な特色として、次のような議論が中国内で行われています。

・ 今後、中国が直面するハイテク局地戦は、主に陸上の国境地帯や近海域とそれらに関連する空域といった局部地域で展開されるだろう。
・ 全面戦争の場合は、全面的に人民を動員し、挙国一致して敵を迎え撃つ必要があるが、局地戦の場合は可能な限り戦火の広がりと戦争のエスカレーションを避け、国家の大勢への影響を少なくする必要がある。
・ 単に人数の多さに依存する戦法は転換が迫られ、戦闘能力の面からは技術集約型の精鋭部隊で対抗することが重要である。

 さらに、上記の戦略方針に基づいて軍事力整備の方針を「量的規模型から質的機能型へ、人的集約型から科学技術集約型へ」転換しました。これらの方針に基づいて、中国は、機動力や精密度の高いハイテク装備の開発や生産を進めるとともに、現代戦を遂行できる人材育成を進め、部隊編成の改革の推進を図っています。
 また、戦術・訓練面においてもハイテク条件下における局地戦対処に重点が置かれています。70年代には、「三打三防」すなわち戦車、飛行機、空挺部隊に対する攻撃(三打)、核、化学、生物の各兵器からの防御(三防)という作戦方針が確立され、訓練が行われてきました。99(同11)年には、これに対して新「三打三防」すなわちステルス機、巡航ミサイル、武装ヘリに対する攻撃(三打)、電子妨害、精密誘導攻撃、偵察監視活動からの防御(三防)が示され、科学技術をとり入れた訓練すなわち「科技練兵」が重視されています
 昨年10月には、各軍が参加した大規模な「軍事科技練兵成果報告演習訓練」が行われました。この演習においては、巡航ミサイルに対する攻撃訓練、通信ネットワークを利用した訓練、地対地ミサイルの発射などが行われました。観閲した江沢民国家主席は、「科技練兵は、中国がハイテク戦争で勝利する能力を向上させる根本的なプロセスであり、軍隊近代化建設の全局面において重要な地位を有する」との講話をしています。この演習は、従来から軍が重視してきたハイテク戦に対応するための訓練の現段階における総括的な成果を国の内外に示すものであったと考えられます。
 また、中国の情報戦能力については、昨年の米議会調査局「サイバー戦争」報告書は、中国は積極的にサイバー戦争を軍事用語、組織、訓練及びドクトリンに導入しようとしており、産業社会における機械化された戦争に代わる意思決定や統制の戦争、知能の戦争、知性の戦争に移行しつつあるとしています。また、中国は大学や研究機関、訓練施設などで訓練を受けた予備役のコンピュータ専門家から構成されるネットフォース概念を追求しており、97(同9)年以降、大規模な訓練を数回行っていると指摘しています。
 ただし、中国においても、情報戦の役割は重要になっているが、今後比較的長期にわたって、情報戦は他の部隊の作戦行動に代わる役割を果たせるほどにはなれず、他の作戦と結合してこそ、ハイテク局地戦に勝利できると考えられています。