原子力事故対処

(1) 事故の概要

 昨年9月30日午前10時半ごろ、茨城県東海村のウラン加工工場(株)ジェー・シー・オーで臨界事故が発生し、同社員3人が大量に被ばくしたほか、付近の住民150人以上が公民館などに避難した。
 防衛庁では、同日の政府対策本部会議における内閣総理大臣の指示を受け、現地対策本部に連絡要員を派遣するとともに、陸上自衛隊第101化学防護隊(埼玉県大宮市)の化学防護車、除染車などを事故現場に近い勝田(かつた)駐屯地(茨城県ひたちなか市)に前進させるなど、直ちに必要な対応を行った。さらに、翌10月1日、陸上自衛隊施設学校(注4-8)長、海上自衛隊横須賀地方総監、航空自衛隊第7航空団(注4-9)司令は、それぞれ茨城県知事から災害派遣の要請を受けた。各自衛隊は、関東周辺の救急車などを勝田駐屯地などに進出させ、住民の避難に備えるとともに、除染車を病院などに派遣・待機させた。

(写真)東海村原子力事故で出動する除染車

東海村原子力事故で出動する除染車


(2) 今後の対応

 科学技術庁は、この事故の教訓を踏まえ、原子力防災対策の抜本的な強化を図るという観点から、
  迅速な初期動作と国、都道府県、市町村の有機的連携の確保
  原子力災害の特殊性に応じた国の緊急時対応体制の強化
  原子力防災における事業者の役割の明確化
を行うため、新たな法案を作成し、同年12月、「原子力災害対策特別措置法」が成立し、本年6月、施行された。
 同法では、原子力災害対策本部長(内閣総理大臣)が緊急事態応急対策の的確かつ迅速な実施のため、防衛庁長官に対し自衛隊の支援を要請することができると規定され、これに伴って自衛隊法が一部改正された。
 自衛隊法の一部改正の骨子は、次のとおりである。
  原子力災害対策本部長の要請により、部隊などを支援のために派遣することができる旨の規定の新設
  原子力災害派遣を命ぜられた自衛官が必要な権限を行使できる旨の改正
  原子力災害派遣についても、必要に応じ特別の部隊を臨時に編成などできる旨の改正
  原子力災害派遣を行う場合についても、即応予備自衛官に招集命令を発することができる旨の改正

(第4-5図)原子力事故発生から自衛隊派遣までの仕組み

原子力事故発生から自衛隊派遣までの仕組み


 また、前述のとおり先の臨界事故においては、陸上自衛隊の第101化学防護隊などが出動した。自衛隊は、限定的ではあるが、放射線の検知及び汚染地域の偵察などを行うことができる。しかしながら、放射線のうち、中性子線(注4-10)については、鉛板でも簡単に透過してしまうほど透過性が高く、米軍などでも中性子線防護能力を有する車両などは保有していない。自衛隊においても中性子線に対する防護能力はなく、結果的にその活動は、病院での住民などに対するシャワー除染などにとどまった。このため防衛庁では、放射線災害の対処能力の向上が喫緊(きっきん)の課題であるとして、平成11年度第2次補正予算で、化学防護車への中性子線遮へい板の装備化など装備面での充実を図るとともに、現在対応マニュアルの作成などに関する検討を行っている。