欧州諸国
欧州諸国は、冷戦終結後の戦略環境に適合するように冷戦期に蓄積された戦力の再編・合理化を進めており、近年、国防費は抑制されている。また、国連平和維持活動への参加や和平履行部隊(
IFOR
:Implemention Force)、安定化部隊(
SFOR
:Stabilization Force)と国際安全保障部隊(
KFOR
:Kosovo Force)といった多国籍軍に部隊の派遣を行っている。さらに、欧州諸国は、欧州独自の安全保障体制を確立するため、
NATO
(North Atlantic Treaty Organization)において「欧州安全保障・防衛アイデンティティ」
(注1-13)
(
ESDI
:European Security Defense Identity)を強化・発展させてきた。他方、昨年のNATOによるユーゴ連邦共和国への空爆が米国主導で実施され、欧州諸国の軍事力が不足しているとの認識が深まった。そのため、
EU
(European Union)においては、2003(同15)年までにEUの緊急展開戦力を保有することが決定され、その準備が進められている。
(1) 英国
冷戦終結後の英国軍の役割としては、当初三つの役割(
域外からの重大な脅威がない時においても、英国本土と属領を保護し、安全を確保する。
英国と同盟国への域外からの重大脅威に対して防衛の備えをしておく。
国際平和の安定の維持により、英国の広範な安全保障上の利益を増進する。)が示されていたが、その後、「平時における英国と国民の安全保障」、「NATO域内の危機」、「NATO域外の地域紛争」、「国際秩序と人道的原則への支援」などの七つの任務の類型に整理されていた。
ブレア政権は、1998(同10)年7月、「戦略防衛見直し」において、新たに、「予防外交」(軍備管理や教育・訓練イニシアチブなどの紛争予防のための取組)を防衛任務に追加し、大幅な核弾頭削減の実施(核弾頭を300〜200発以下へ)、緊急対応部隊の創設、軍の近代化、統合戦闘能力の強化(海・空軍固定翼部隊「統合軍2000」、統合ヘリコプターコマンド、統合陸・空軍防空組織の編成)、2002(同14)年までの国防予算の削減(昨年から2002(同14)年の総額で681億ポンドから672億ポンドへ)などを実施していくこととなった。
(2) ドイツ
ドイツでは、国連の平和維持活動(武力行使を伴う活動も含まれる。)へのドイツ連邦軍の参加については、1994(同6)年7月に、連邦憲法裁判所が、連邦議会の過半数による承認と国連の枠内での活動を条件にNATO域外への派遣を合憲と判断した。さらに、国連の平和維持活動(武力行使を伴う活動も含まれる。)のみならず、シュレーダー政権は、国際法と基本法に基づく委任があることを前提に、国際平和創出のための連邦軍の戦闘活動への参加を認めるとしており、昨年3月に発生したユーゴ連邦共和国コソヴォをめぐる軍事行動において、ドイツは、NATO軍の一部として連邦軍を派遣し、戦後初めて武力行使、しかも、NATO域外での武力行使に踏み切った。
(写真)コソヴォでの軍事行動に参加したドイツ連邦軍トーネード戦闘機[U.S. Air Force]
ドイツ連邦軍は、本年までに実施予定であった34万人体制への移行を既に完了し、更なる削減を進めている。これに伴い、96(同8)年1月から兵役義務を12か月から10か月へ短縮している。
ドイツ連邦軍は、危機対応作戦のために、偵察・通信・長距離機動力の向上などを必要と認識しているが、ドイツ統一などに起因する財政難から、緊縮財政の一環として、本年以降の国防予算の削減が予定されている。また、シュレーダー政権は、昨年5月、ヴァイツゼッカー元大統領を議長とする「共通安全保障と連邦軍の将来委員会」を設置した。同委員会は、本年5月、中間報告
(注1-14)
を実施した。その後、同年6月、政府は、兵力の27万7,600人への削減、現行10か月の徴兵期間の9か月への短縮、海外へ派遣できる15万人の兵力を保持するなどの改革案を閣議決定した。
(3) フランス
フランスは、冷戦終結などの戦略環境の変化を踏まえ、迅速な展開能力を有し、かつ、ハイテク兵器を駆使し多様な任務を遂行し得る軍隊への移行を目指している。このため、フランス革命以来の伝統であった徴兵制から志願制へ移行することとし、95(同7)年に約50万人であった総兵力を将来的に35万人に削減するとともに、装備の近代化などを推進することとしている。現在、97(同9)年から2002(同14)年を対象として1996(同8)年に制定・公布された「新防衛力整備計画法」に基づく改革が進められているが、それによると、94(同6)年に策定された以前の計画(95(同7)年から本年を対象)に比べ、計画期間内の国防支出の総額は、約18%の縮小が予定されている。
また、NATO拡大を契機にフランスの同軍事機構への復帰の動きがみられたが、フランスが望むような同機構の体制変革にならなかったため、97(同9)年12月には、復帰が見送られた。しかし、昨年実施されたNATOのユーゴ連邦共和国への空爆においては、空母を含む戦力を展開し、空爆に参加した。