資料60 米国・英国・仏国軍人の退職後の処遇及び再就職管理に関する調査報告(11.2.25)


 米国の軍人の退職後の処遇及び再就職管理について(骨子)

 米国軍人の退役後の処遇の中心は、20年以上勤務の退役直後から支給される一般公務員とは別の軍人年金である。また、退役軍人独自の種々の特典が設けられている。
 好景気に支えられた再就職環境にある米国おいても、退役軍人個人の行う再就職活動を支援する努力が国防省により払われており、また、再就職活動を支援するための民間団体も存在している。退職前の職務と再就職先との関係については、基本的には退役軍人が元の職務に関して企業のために活動することを禁止することに主眼が置かれている。また、一定金額以上の契約関係などに従事した場合には、その企業から1年間報酬を受けることが禁止されているが、再就職のための一般的な手続きは定められていない。

1 軍人年金等
(1) 軍人年金
 米国においては、軍人の年金制度が一般公務員とは別に設けられている。軍人年金は全額国庫負担であり、現在国防省の人件費の約20%、約290億ドル(約3兆3千億円、1ドル=113円で算出。)が支出されている。年金の受給資格は、原則20年の勤務により発生し、退役直後から支給される。
 退職年金の支給額の計算については、1986年8月1日以降の入隊者については、
 退職前36ヶ月の基本給の平均月額×{2.5%×勤務年数−(30年−勤務年数)×1%(最高75%)}
 である。

(2) 退役軍人に対する恩典
 退役軍人には、軍病院の利用、基地内免税食料品店の利用、健康保険等の恩典がある。

2 軍人の再就職
(1) 基本的考え方
 米国軍人は、大半の軍人が退役後再就職しているが、国防省は軍人の再就職問題は軍の人事管理上の重要な問題の一つであるとして軍人の再就職活動を支援している。
(2) 退役軍人の公務員への任用
 再就職支援プログラムの1つとして、退役軍人を公務員に任用する計画が存在しており、国防省を含む連邦政府、地方自治体において多くの退役軍人が雇用されている。中でも教師及び警官への再就職については、国が雇用主に助成金を給付する等の施策を行っている。

3 退役軍人会
 米国には、退役軍人に対する福祉や再就職支援を実施するための任意団体がいくつか存在し、再就職活動に関する講習会、職業紹介、履歴書の作成指導を行っている。

4 再就職規則
 米国においては、民間への再就職に関して特段の手続きは存在しない。ただし、民間企業に再就職した退役軍人(一般公務員も同様)について、以下のような制約が課されている。なお、軍人が外国政府に雇用される場合には、文官にはない規制が設けられている。
(1) 全員に適用
  恒久的禁止
 元将校及び元職員は、在職中に関与していた特定の事項に関し、終生、他の者を代表してはならない。
  2年間禁止
 元将校及び元職員は、国防省退職後2年間、退職前1年以内に監督下にあった特定の事項に関し、他の者を代表してはならない。
  1年間禁止
 元将校及び元職員は、国防省退職後1年間、退職前1年以内に関与していた国際協定等に関し、他の者を代表し、援助し、又は助言してはならない。
(2) 将官は、退職後1年間、在職していた機関に対し、他の者を代表してはならない。
(3) 年間1,000万ドル以上の契約に従事した者は、その企業より、その職務を離れた後1年間報酬を受け取ってはならない。

 英国の軍人の退職後の処遇及び再就職管理について(骨子)

 英国の軍人には、文官とは別の軍人年金制度が設けられている。早期退職軍人の再就職支援に対しては、民間会社が活用されているほか、伝統的な慈善団体も退役軍人の再就職を支援している。再就職にあたっては承認制度が設けられており、高級幹部については総理大臣が判断を行っている。

1 軍人年金
 軍人年金の受給資格は、将校は16年、下士官は22年の勤務により発生し、支給額の最高は、退職時の基本給の48.5%である。職務や勤務地の特殊性に係わらず、一律基本給と勤務年数に基づき年金額が算定される。
 軍人年金を維持する経費は年間約20億ポンド(約3800億円。1ポンド=190円として算出。)である。

2 再就職支援策
(1) 施策の内容
 昨年より、より質の高い支援の実施のため、国防省とクーツ社(民間企業)との共同により再就職支援策『キャリア移行パートナーシップ』(CTP)を開始した。これにより、再就職に関する教育訓練や再就職先の斡旋等の業務の大部分はクーツ社が実施することとなっている。再就職支援施策としては、部隊単位で実施する支援や、退役軍人会等の慈善団体による支援があるが、中心となるのは国防省及びクーツ社の実施する支援であり、5年以上の勤務者には、カウンセラーにより再就職指導や職業訓練などを受ける資格が発生する。

(2) 退役軍人の公務員への任用
 退役軍人の知識・技能を活かして国防省の文官に任用する制度があり、現在約2200人が任用されている。

3 退役軍人会(ロイヤル・ブリティッシュ・リージョン)
 英国には、軍を支援する様々な慈善団体が存在するが、退役軍人会は最も大きな団体であり、退役軍人に対する医療、福祉等の他に、国防省やクーツ社との協力による退役軍人に対する再就職支援を実施している。

4 再就職手続
 再就職手続きは、軍人・文官を問わず全公務員に同じ内容が適用される。その目的は、公務に対する社会の信頼を維持するとともに、公務員や将校を社会の批判から保護することにあるとされており、特に 在職中の企業への関与に係る国民の疑惑の解消、 各企業の秘密の保護に配慮が払われている。

(1) 適用対象者
  准将以下の軍人又はそれに相当するランクの文官は、次の場合に承認が必要である。
・過去2年間、再就職先と取引があった場合
・その職務上、商業的に重要な情報を知り得た場合
・過去2年間の職務中の助言又は決定が再就職先に関連する事項に関与していた場合
  少将以上の軍人及びそれに相当するランクの文官は、全て承認が必要。

(2) 承認決定権者及び手続き
  准将以下の者については承認権限を与えられた2階級以上上位の者が行うが、ほとんどは国防省産業関係調整業務部の部長または次長が決定する。少将以上及びそれに相当するランクの文官については、国防省の再就職諮問委員会で審査される。その一部はさらに、総理大臣に報告され判断されるが、そのうち最高位のクラスの者は、総理大臣の諮問委員会に諮られる。
  承認は、在職中の行為に対する企業との関与度と企業秘密の保護という二つの観点から判断されている。承認に際しては、最大2年の申請のあった企業に再就職してはならないという待機期間がつけられたり、一定期間国防省関係の業務を禁止するという制限が行われたりすることがある。
  総理大臣の諮問委員会に諮られた者以外の決定については、公表されていない。

 仏国の軍人の退職後の処遇及び再就職管理について(骨子)

 仏国における軍人の退職後の処遇の中心は、文官と同様の年金制度である。
 さらに、他の公務員と比べて若年で退職する軍人に対しては、積極的な再就職支援のための措置が行なわれている。ただし、在職中の職務と一定の関係があった企業に就職する場合には、法に反するようなものにならないよう予防的な措置として一定の審査手続きがとられている。

1 軍人の年金
 仏国の公務員(軍人を含む)に対する年金の考え方は、公務従事者の地位の尊厳に対応した退職後の生活を営むことを目的としており、国が毎年必要な費用の85%を負担(本人負担分あり)し、国庫から支出するという賦課方式が採られている。
 1997年の軍人及び文官に係る予算は、総額約1640億フラン(注:約3.2兆円、1フラン=20円として算出。以下同じ)であり、このうち軍人分は、約445億フラン(約8900億円)であった。
 軍人はその職務の特殊性から、年金支給額算定に有利な、種々の特例が設けられているため、自分の将来の昇進の可能性などを考慮し、定年前に退職する者が多い。

2 軍人の再就職
 仏軍は2002年からの完全志願制の導入により、職業軍人化が進み、2002年以降職業軍人及び任期制軍人の退職者数が大幅に増加する。そのため良い再就職ができることが優秀な軍人を確保することになるとの基本的考えから、再就職準備のための6ヵ月から1年の有給休暇制度が設けられているほか、軍再就職支援センター、外郭団体、各基地における職業訓練、職業紹介等の施策を推進している。これらの措置によって、退職者の80%が6ヵ月以内に再就職している。
 また、再就職支援とは別に、退役軍人を公務員に採用する制度が設けられており、多数の退役軍人が文官に任用されている。

3 再就職手続
 仏国刑法は、国の名で調達契約を結んだ者、企業秘密を知っている軍人及び文官について、その職務を離れてから5年間は、これらの企業に対する、あらゆる就職、助言、資本参加を禁止している。
 軍人が民間企業へ再就職するに際し、この規定に該当するか否か分からない場合があるため、1996年1月に政令により、大臣に事前に助言するための委員会が設けられた。この委員会の目的は、予想される再就職について審査し、軍人が刑法に反するような再就職をしないよう予防することを目的としている。なお、文官にも同様の委員会が別に設けられている。

(1) 審査対象者
・将官
・退役前の5年間において、契約の責任者として指名された者、企業との契約交渉に従事し又は意見を表明した者で契約のための委員会に属した者等

(2) 委員会の審議状況
 毎年約200人が審査を受けている。対象者の半数が将官であり、残りは装備関係者となっている。同委員会の決定及び国防大臣の決定は、公表されていない。