2 朝鮮半島
朝鮮半島は、地理的、歴史的に日本と密接な関係にある。また、朝鮮半島の平和と安定は、日本を含む東アジア全域の平和と安定にとって重要である。
朝鮮半島においては、現在、韓国と北朝鮮を合わせて150万人程度の地上軍が非武装地帯(DMZ)を挟んで対峙している。このような軍事的対峙の状況は、朝鮮戦争終了以降続いており、冷戦終結後も基本的に変化していない。
(第1-5図参照)
(1) 北朝鮮
ア 全般
北朝鮮では、昨年9月に、約4年半ぶりに最高人民会議が開催され、金正日・労働党総書記が、新しく「国家の最高職責」と位置付けられた国防委員会委員長に再任された。同時に、国家組織の改編や国家幹部の人事なども行われ、また、本年4月には、最高人民会議で約5年ぶりに国家予算が採択されるなど、金正日・国防委員会委員長を中心とする国家統治体制が名実ともに整備されてきている。また、金正日・国防委員会委員長が軍を完全に掌握する立場にあることに加え、軍部隊を頻繁に視察していることなどを考え合わせれば、国家の運営において軍事を重視しかつ軍事に依存する傾向が今後とも継続するものと考えられる。
経済面では、北朝鮮は、1993年12月、87年〜93年を対象とした「第3次経済発展7ヵ年計画」が一部未達成であったことを自ら認めるなど、長期にわたる経済不振が続いているところであり、現在も、食糧、エネルギーの不足などが伝えられている。特に、食糧事情については、近年恒常的な食糧不足に陥っていると見られ、昨年の穀物生産は前年の水準を上回った模様であるものの、十分な供給量にはほど遠く、依然として国際機関などによる人道的見地からの食糧援助に依存せざるを得ない深刻な状況にあるものと見られる。一方、こうした状況を打開するべく、限定的ながら一部の経済管理システムの変更も試みられていると伝えられている。
外交面では、かつて中国と並んで北朝鮮の支えとなっていたロシアとの関係は、本年3月には、冷戦時代の「ソ朝友好協力及び相互援助条約」に代わる、より軍事協力色の薄い新基本条約に両国が仮署名するなど、近年変化してきている。また、中国との関係については、両国間の貿易が減少傾向にあると見られるなど、冷戦期と比べ両国関係の疎遠化を示す事象が見られる一方で、軍事代表団などの相互訪問や、さらには、中国からの一定の食糧やエネルギーの援助などは継続して行われている。本年6月には、金永南・最高人民会議常任委員会委員長が、首脳級としては約8年ぶりに訪中した。
なお、本年3月には、北朝鮮の工作船と判断される船が日本の領海内に侵入するといった事案も発生している(第6章第3節参照)。
いずれにせよ、北朝鮮は極めて閉鎖的な体制をとっているため、その動向については、必ずしも明確ではなく、引き続き細心の注意を払っていく必要がある。
イ 軍事態勢
北朝鮮は、62年以来、全軍の幹部化、全軍の近代化、全人民の武装化、全国土の要塞化、という4大軍事路線に基づいて軍事力を増強してきた。
現在も、深刻な経済困難に直面しているにもかかわらず、依然として、軍事面に資源を重点的に配分し、軍事力の近代化を図り、即応態勢の維持・強化に力を注いでいると見られる。例えば、国防費のGNPに対する割合は、実質的には25%程度に達すると見られ、また、人口に占める軍人の割合も非常に高く、総人口の約5%が現役の軍人と見られている。
さらに、北朝鮮は核兵器開発疑惑を持たれているほか、昨年8月のミサイル発射に象徴されるような弾道ミサイルの長射程化のための研究開発を行っていると見られ、北朝鮮のこのような動きは朝鮮半島の軍事的緊張を高めており、日本を含む東アジア全域の安全保障にとって一層重大な不安定要因となっている。
北朝鮮の軍事力は、陸軍中心の構成となっており、総兵力は約110万人である。装備の多くは旧式であるが、近代化に努めている。また、既にスカッドBやCなどの弾道ミサイルを生産・配備しているほか、化学兵器については、化学剤を生産し得る複数の施設を保有しており、既に相当量の化学剤などを保有していると見られ、生物兵器についても、一定の生産基盤を保有していると見られるところである。さらに、情報収集や破壊工作からゲリラ戦まで各種の活動に従事する特殊部隊を有しており、その勢力は約10万人に達し世界有数の規模と見られることなどの特色を有している。
陸軍は、26個師団約100万人から成り、兵力の約3分の2をDMZ付近に前方展開していると見られる。その戦力は歩兵が中心であるが、戦車約3,000両を含む機甲戦力及び砲火力を有し、また240mm多連装ロケットや170mm砲といった長射程火砲をDMZ沿いに配備していると見られる。
海軍は、約730隻約11万トンの艦艇を有するが、ミサイル高速艇などの小型艦艇が主体である。また、ロメオ級潜水艦22隻のほか、特殊部隊の潜入・搬入用と見られる小型潜水艦約60隻及びエアクッション揚陸艇約130隻を有している。
空軍は、約610機の作戦機を有しており、その大部分は中国や旧ソ連製の旧式機であるが、MiG−29やSu−25といった、いわゆる第4世代機も保有している。また、旧式ではあるが、特殊部隊の輸送に使用されると見られるAn−2を多数保有している。
北朝鮮軍は、即応態勢の維持・強化などの観点から、冬季の大規模な演習を始めとして各種の訓練その他の所要の活動を行ってきている。一方、深刻な食糧事情などを背景に、軍によるいわゆる援農活動なども行われていると見られている。
近年の動向としては、韓国側に対する侵入事案などが多く発生しており、96年9月には、北朝鮮のサンオ級小型潜水艦が韓国領海内で座礁して、乗艦していた武装工作員及び乗組員が韓国領土内に侵入するといった事件が起きており、97年7月にも、北朝鮮兵士の軍事境界線越境を機に韓国軍と銃砲撃を交わすという事件が発生、さらに昨年6月には、北朝鮮のユーゴ級小型潜水艦が韓国領海内で魚網にかかり拿捕されるという事件が発生した。また、昨年12月には、韓国領海内に侵入した北朝鮮の半潜水艇を、韓国軍が公海上で撃沈するという事件も発生した。さらに本年6月には、9日間にわたって北朝鮮警備艇などが北方限界線を繰り返し越境した後、韓国警備艇などとの間で相互に銃撃などを行い、北朝鮮側数隻が沈没ないし損害を受け、韓国側数隻も損害を受けるという事件も発生した。
ウ 核兵器開発疑惑・弾道ミサイル開発
(ア) 核兵器開発疑惑
北朝鮮は、従来から核兵器開発の疑惑が持たれていたが、93年2月、国際原子力機関(IAEA)の特別査察要求を拒否し、3月に核不拡散条約(NPT)からの脱退を宣言したことにより、この疑惑が更に深まった。本問題については、94年10月に署名された米朝間の「枠組み合意」により、話合いによる問題解決の道筋が示された。「枠組み合意」によれば、米国は、北朝鮮への軽水炉及び代替エネルギー供与などのための諸措置を講じ、これに対し、北朝鮮は、黒鉛減速炉及び関連施設を凍結し、最終的には解体するとともに、NPT当事者にとどまり、最終的にはIAEAとの保障措置協定を完全に履行することなどとなっている。
「枠組み合意」に基づき、95年1月、米国が貿易・投資に係る障壁の削減措置を執り、第1回目の北朝鮮に対する代替エネルギーとしての重油の供給を実施したほか、同年3月には、軽水炉と代替エネルギーの供与を実施する機関として朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)が設立され、同年12月には、KEDOと北朝鮮間で軽水炉プロジェクトに関する「供給取極」が締結された。この取極に基づき軽水炉建設の着工までに必要とされる議定書などの締結が行われた後、一昨年8月には軽水炉着工式が行われるなど、軽水炉供与事業は、逐次進捗してきた。
しかしながら、昨年8月以降、北朝鮮が、同国北西部のクムチャンニにおいて、核関連の地下施設を秘密裏に建設中であるとの疑惑が浮上し、国際社会に深刻な懸念をもたらした。
こうしたことから、米国は、北朝鮮との間で当該施設の疑惑を解明するための協議を開始し、累次の協議の結果、本年3月に、米朝間で合意が成立した。合意によれば、北朝鮮は本件施設の疑惑を解明するために、米国側に当該施設への満足のいく立入りを認めること、また、将来の施設使用に関する懸念を解消するため追加的な訪問も認めることなどとされており、これに基づく米国側の第1回目の当該施設への立入りが、本年5月に実施された。米当局は、この立入りにより、当該施設は建設が未完成であり、その地下部分は大規模な空(から)のトンネル施設であることが判明したとしているところである。
北朝鮮の核兵器開発疑惑は、日本の安全に影響を及ぼす問題であるのみならず、大量破壊兵器の不拡散の観点から国際社会全体にとっても重要な問題である。本問題の解決には、北朝鮮が「枠組み合意」などの合意内容を誠実に履行することが重要であり、今後とも、その対応を注意深く見守っていくことが必要である。
(イ) 弾道ミサイル開発
北朝鮮は、80年代半ば以降、スカッドBやその射程を延長したスカッドCを生産・配備するとともに、これらのミサイルを中東諸国などへ輸出してきたと見られている。また、引き続き、90年代までに、ノドンなどより長射程のミサイル開発に着手したと見られ、93年5月には、日本海に向けて弾道ミサイルの発射実験が行われたが、このミサイルはノドンであった可能性が高い。さらに、昨年8月には、日本の上空を飛び越える形で、テポドン1号を基礎とした弾道ミサイルの発射が行われたところである(第6章第2節参照)。北朝鮮の弾道ミサイル開発については、同国が極めて閉鎖的な体制を採っていることもあり、その詳細についてはなお不明な点が多いところであるが、以上のように、同国はミサイルの長射程化を着実に進めてきているところと考えられる。
ノドンは、単段式であり、液体燃料推進方式の弾道ミサイルであると考えられる。このノドンについては、上述の昨年8月に発射された多段式ミサイルの第1段目として利用されていたと見られることや、発射台付き車両などノドン本体に付随して使用されると考えられる車両が既に多数調達されているとの情報など、種々の情報を総合すれば、北朝鮮がその開発を既に完了しており、その配備を行っている可能性が高いものと判断される。ノドンの射程は約1,300kmに達すると見られ、日本のほぼ全域がその射程内に入る可能性がある。また、その性能については確認されていないが、命中精度については、このミサイルがスカッドの技術を基にしていると見られることから、例えば、特定の施設をピンポイント攻撃できるような精度の高いものではないと考えられる。
また、北朝鮮は、より長射程のテポドン1号の開発も進めてきていると見られる。テポドン1号は、ノドンを第1段目、スカッドを第2段目に利用した2段式の液体燃料推進方式の弾道ミサイルとされ、その射程は約1,500km以上と推定される。テポドン1号は、昨年8月に発射されたミサイルの基礎となったものと見られるが、この発射により、北朝鮮は、多段階推進装置の分離、姿勢制御及び推力制御などに関する技術などを検証し得たと推定されることから、テポドン1号の開発は急速に進展しているものと判断される。
さらに、北朝鮮は、新型ブースターを第1段目、ノドンを第2段目に利用した2段式ミサイルで、射程約3,500〜6,000kmとされるテポドン2号についても、開発中であるとされており、北朝鮮の弾道ミサイルの長射程化が一層進展することが予想される。
なお、北朝鮮のミサイル開発に関連して、その急速な進展の背景として、各種の外部からの資材・技術の北朝鮮への流入が推測されている。また、本体ないし関連技術の北朝鮮からの移転・拡散の恐れも指摘されている。
このような北朝鮮のミサイル開発は、核兵器開発疑惑とあいまって、アジア太平洋地域だけではなく、国際社会全体に不安定をもたらす要因となっており、その開発動向が強く懸念される。