第2節 主要国の国防政策と国際社会の安定化への対応

 欧米主要国及びロシアは、冷戦期にNATOWPOの厳しい軍事的対峙を前提として構築してきた軍事力の再編・合理化を進めるとともに、それぞれを取り巻く戦略環境などを考慮しつつ、地域紛争など多様な事態への対応能力を確保するための努力を行っている。この努力は、国際連合などを通じた取組とともに、より安定した安全保障環境を構築する上でも重要である。

1 主要国の国防政策

(1) 米国

ア 安全保障政策及び国防政策

 クリントン大統領は、1993年1月に第42代米国大統領に就任した後、冷戦終結後の不確実な情勢を反映して新たな安全保障環境の構築に向けての努力を行ってきた。クリントン政権は、昨年10月の「国家安全保障戦略」において、これまでと同様に、米国の安全保障の強化、米国の経済的繁栄の促進、海外における民主主義の推進を主要な目標として、グローバルにリーダーシップを行使する関与戦略をとることを表明している。このグローバルなリーダーシップを発揮するためには、民主主義諸国家主導による地域的な努力の促進、新たな脅威に対処する上での協力強化、必要な軍事的、外交的及び司法的手段の強化、米国民のための雇用と機会の創出といった戦略的優先事項を勘案することとしている。そして、米国は、必要なときには単独で行動できるように常に準備しなければならないが、主要な戦略は、世界の重要な国家との間に有する安全保障関係を強化し、必要な場合には新たな関係や枠組みを構築することであるとしている。なお、米軍の投入に関しては、戦力は限られているので、死活的であるか、重要か、あるいは人道上のものであるかといった点で、米国の国益に対する評価を行い、軍事介入のリスクとコストがそれらの国益に見合うかを判断することとしている。
 米国は、安全保障に対する脅威として、大規模な地域的侵攻、大量破壊兵器などの潜在的に危険な科学技術の流出、テロや国際犯罪組織、破綻国家による紛争など多岐にわたるものがあるとしている。そして、これらの脅威に対する戦略として、好ましい国際環境の構築、あらゆる脅威に対応する能力の維持、不確実な将来に対する準備を挙げている。
 米国は、93年に冷戦後における戦力を包括的に見直す「ボトムアップ・レビュー」を実施したが、一昨年5月、国防省は、4年ごとの国防計画の見直し(QDR)を議会に報告した。それによれば、米軍は、引き続き、ほぼ同時に発生する二つの大規模な戦域戦争に対処し得る必要があるなどとして、2003年における戦力構造を、陸軍現役師団10個、空母11隻(+予備役1隻)、空軍戦闘航空団13個(+予備役7個)(最終的には、空軍戦闘航空団12個(+予備役8個))など主要な戦力を維持しつつ、将来の戦力近代化に資するため、これまでの兵力の削減計画に加え、現役兵力約6万人、予備役約5万5,000人、文官約8万人を削減することとしている。この戦力の再編により、現役兵力は、最終的に136万人になる予定である。なお、不確実な将来においても軍事的優位性を確保するため、技術革新がもたらす軍事革命(RMA)を活用し、1996年7月に統合参謀本部が発表した「統合構想2010」に示された将来の統合作戦能力の実現を図ることとしている。
 また、前方展開戦力については、欧州及びアジア太平洋地域において、それぞれ約10万人の水準を維持することとし、北東アジアにおいては、引き続き、韓国に対するコミットメント、日本における海兵隊や空軍戦力及び西太平洋地域における第7艦隊の展開を維持することとしている。
 冷戦後、国防費は大きく減少してきたが、人材の募集や維持、即応態勢の維持、兵器の近代化に関して潜在的問題の兆候があるとして、2000年度国防予算案においては、国防省分の狭義の国防費の権限額を当初の計画より126億ドル増加させ2,672億ドル(対前年度比約1.8%増加)とし、同時に2000年度から2005年度の6年間の国防計画予算を約1,100億ドル増加、これにより冷戦後初めて、国防予算額が増加傾向に転ずるとしている。この2000年度予算案の特徴は、米軍の即応性の確保及び米軍人とその家族の生活水準の向上を引き続き優先するとともに、近代的兵器の調達にも重点を置いており、具体的には、ボスニア関連作戦予算として18億ドル、湾岸地域における作戦予算として11億ドルを計上するとともに、軍人の給与をこの10年間で最大幅で引き上げ、冷戦終結後減少を続けてきた調達費を昨年度以来引き続き増加させている。この調達費については、今後の国防計画において、2001年度には、QDRが目標としてきた600億ドルを超え、約620億ドル近くを確保するとの見通しを示している。ただし、予算額増額案は、国防予算に占めるインフラ整備費を削減するというこれまでの努力を無駄にするものではなく、基地の閉鎖・再編の承認を国防省は議会に求めていくとしている。なお、本年5月、NATOのユーゴースラヴィアに対する空爆費用120億ドルを含む150億ドルの1999年度補正予算が成立している。

イ 軍事態勢

(ア) 戦略核戦力など
 米国は、ロシアとの間で核戦力の削減に向けて努力をしており、93年1月に締結された第2次戦略兵器削減条約(STARTII)においては、2007年末の削減期限における米国の戦略核戦力は以下のようになる。すなわち、単弾頭化したミニットマンIII大陸間弾道ミサイル(ICBM)を500基、トライデントD−5を搭載した弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(SSBN)を14隻、戦略爆撃機B−52及びB−2を合計97機保有することとしている。
 STARTIIは96年1月に米国によって批准されたが、ロシアによる批准がなされていないため発効に至っていない。米国はSTARTIIが発効するまで実質的にSTARTIの水準で核戦力を維持する選択権を有しており、現在の米国の戦略核戦力は以下のとおりである。ICBM戦力は、50基のピース・キーパーと500基のミニットマンIIIの550基である。潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)戦力については、SSBN18隻にトライデントD−5など432基が搭載されている。戦略爆撃機は、B−52H及びB−2合計115機を保有している。なお、STARTIIの発効後速やかに2007年末を目標とした第3次戦略兵器削減条約(STARTIII)の交渉を開始することが米露間で正式に合意されている。
 弾道ミサイル防衛(BMD)については、北朝鮮のミサイル開発において、昨年8月に発射されたミサイルがかなり技術的に進歩しており、米国本土までを射程に入れたICBMが予想よりも早く開発される可能性があることなどから、米国本土を長射程の弾道ミサイルから防衛する国家ミサイル防衛(NMD)の開発を、海外駐留米軍や友好・同盟国を戦術・戦域弾道ミサイルから防衛する戦域ミサイル防衛(TMD)の開発とともに緊急課題としている。NMDについては、今後66億ドルの予算を増額し、99年度から2005年度の予算総額を105億ドルとし、配備は来年6月に技術開発の進展を踏まえて決定するが、現時点での配備目標を2005年度としている(TMDについては、第3章第1節の囲み記事参照)
(イ) 通常戦力
 地上戦力については、陸軍10個師団約48万人、海兵隊3個師団約17万人を有しており、米国本土のほかドイツ(陸軍2個師団)、韓国(陸軍1個師団)、日本(海兵隊1個師団)などに戦力を前方展開している。また、M1エイブラムス戦車、ブラッドレー装甲歩兵戦闘車及びアパッチ・ロングボー攻撃ヘリコプターの改良を進めるとともに、コマンチ・ヘリコプターなどの開発を行っている。
 海上戦力については、艦艇約950隻(うち潜水艦約80隻)、約502万トンの勢力を擁し、大西洋に第2艦隊、地中海に第6艦隊、ペルシャ湾に第5艦隊、東太平洋に第3艦隊、西太平洋及びインド洋に第7艦隊を展開させている。艦艇については、アーレイ・バーク級駆逐艦、サン・アントニオ級ドッグ型上陸作戦用輸送艦、後方支援艦(T−ADC(X))及び新型攻撃型潜水艦(NSSN)の調達が2000年度予算において認められ、ニミッツ級の空母は2001年度で全額予算計上されるとしている。
 航空戦力については、空軍、海軍及び海兵隊を合わせて作戦機約3,780機を保有し、海軍の艦載機を洋上に展開しているほか、ドイツ、英国、日本、韓国などに戦力を前方展開している。航空機については、F−16、F/A−18戦闘機などの調達・配備を継続しているほか、F−22新型戦闘機や統合攻撃戦闘機(JSF)などの開発を進めている。
 また、遠隔地に軍を投入する能力を増進するため、C−17輸送機の調達や、C−5輸送機及びKC−135空中給油機の改良を進め、輸送能力の向上に努めている。