防衛庁・自衛隊(特殊文字使用)

第5章 国民と防衛

第4節 地域社会と防衛施設
 
 防衛施設は、自衛隊及び在日米軍の各種活動の拠点であり、自衛隊と日米安保体制を支える基盤として必要不可欠なものである。それらの機能を十分に発揮させるためには、防衛施設とその周辺地域との調和を図り、周辺住民の理解と協力を得て、常に安定して使用できる状態に維持することが必要である。
 
1 防衛施設の現状

 防衛施設は、自衛隊施設と在日米軍施設・区域に区分され、その用途は、演習場、飛行場、港湾、営舎など多岐にわたっている。防衛施設の土地面積は、本年1月1日現在、約1,396平方キロメートルであり、これは国土面積の約0.37%を占める。このうち、自衛隊施設の土地面積は約1,074平方キロメートルであり、その約42%が北海道に所在する。また、用途別に見ると、演習場が全体の約75%を占めている。一方、在日米軍専用の施設・区域の土地面積は、約314平方キロメートルであり、このうち、約35平方キロメートルについては、地位協定により自衛隊が共同使用している。
 防衛施設には、飛行場や演習場のように、広大な土地を必要とするものが多く、また、我が国の地理的特性から、狭い平野部に都市や諸産業と防衛施設が競合して存在している場合もある。
 特に、経済発展の過程において多くの防衛施設の周辺地域で都市化が進んだ結果、防衛施設の設置や運用が制約されるという問題が大きくなっている。また、航空機の頻繁な離発着や射撃・爆撃、火砲による射撃、戦車の走行など、その運用によって周辺地域の生活環境に騒音などの影響を及ぼすという問題もある。
 
2 防衛施設と周辺地域との調和を図るための施策
 
 防衛施設の周辺地域で生じるこれらの諸問題を解決するため、政府は、従来から、防衛施設の設置や運用に当たって、国の防衛の重要性や防衛施設の必要性について国民の理解を求めている。また、以下の施策を行い、防衛施設と周辺地域との調和を図るよう、努めている。
 
@ 射撃訓練などによる演習場内の荒廃に伴い泥水が流出したり、水不足が生じるなどの場合の対策としての、河川の改修、ダムの建設などの助成
 
A 航空機の騒音対策としての、夜間の離着陸の制限などと並行した学校、病院、住宅などの防音工事の助成、移転者に対する補償、緑地帯などの緩衝地帯の整備など
 
B 防衛施設の設置や運用により周辺地域住民の生活や事業活動が阻害される場合に、その緩和のための道路、公園、農林漁業用施設などの整備
 
C ジェット機が離着陸する飛行場や砲撃が実施される演習場などの存在により、周辺地域の生活環境や開発に著しく影響を受けている市町村に対する各種公共施設の整備のための交付金の交付
 
D 航空機の頻繁な離発着などにより、農林漁業などの事業経営に損失が生じた場合の補償
 
 なお、航空機騒音問題については、これまでに小松、横田、厚木及び嘉手納飛行場の周辺住民から、夜間の離着陸の差止請求、騒音被害に対する損害賠償請求などを内容とする訴訟が提起されてきている。このうち、横田(1〜3次)、小松(1・2次)及び厚木(1次)の各基地騒音訴訟については、過去の騒音被害に対する損害賠償請求を認めた判決が確定している。
 政府としては、従来から、住宅防音工事の助成を始めとする生活環境の整備などの施策について重点的に努力してきたところであり、今後とも、飛行場周辺住民の理解を得られるよう引き続き努力していくこととしている。
 
3 在日米軍施設・区域に係る施策

 在日米軍施設・区域の安定的な使用を確保することは、日米安保条約の目的達成のため必要である。政府としては、これまでもこの観点から、岩国飛行場滑走路沖合移設事業及び空母艦載機着陸訓練場の確保に係る施策などについて、日米安保条約の目的達成と周辺地域社会の要望との調和を図りながら、問題の解決のため鋭意努力してきているところであるが、さらに在日米軍施設・区域が沖縄県民に多大な負担を強いている状況にかんがみ、沖縄の負担軽減を図るべく、沖縄に所在する在日米軍施設・区域に係る施策を実施しているところである。
 
(1)岩国飛行場滑走路移設事業
 
 山口県に所在する岩国飛行場は、米海兵隊及び海上自衛隊が使用している。政府としては、地元岩国市などの要望を受け、同飛行場の運用上、安全上及び騒音上の問題を解決し、在日米軍の駐留を円滑にするとともに、同飛行場の安定的使用を図るため、滑走路を東側(沖合)へ1,000m程度移設する事業を推進することとした。1993年度(平成5年度)以降、政府は移設事業の実施に必要な地元関係漁協の同意を得るとともに、環境アセスメントに係る事務や埋立承認手続きなどを行い、昨年度(同8年度)から着工している。
 
(2)空母艦載機の着陸訓練場の確保
 
 空母艦載機のパイロットは、広い洋上では点のような空母の狭い甲板に着艦しなければならないことから、非常に高度な技術が要求される。このため、空母が、補給、整備などのために入港している間も、パイロットはその技量を維持するため、陸上の飛行場で着陸訓練を十分に行う必要がある。
 この訓練は、これまで主として厚木飛行場で行われてきているが、同飛行場周辺は市街化していることから、在日米軍にとっては訓練の制限などの問題が、周辺住民にとっては深刻な騒音問題がそれぞれ生じている。これらの問題を解決するため、政府は三宅島に飛行場を設置することが適当と考え、そのための努力を続けている。しかし、三宅村当局を始め地元住民の間に、なお反対の意向が強く、実現までには相当の期間を要すると見込まれる。
 一方、厚木飛行場周辺の騒音問題をこのまま放置できないため、三宅島に訓練場を設置するまでの暫定措置として、硫黄島を利用することとした。政府は、89年(同元年)から硫黄島における艦載機着陸訓練に必要な施設の整備を進め、91年(同3年)8月から米軍による訓練が開始された。本年5月末までに、延べ18回の訓練が実施されている。
 政府としては、今後とも暫定措置として、硫黄島での艦載機着陸訓練の実施に努めるとともに、三宅島当局及び地元住民の理解と協力を得られるよう努力しているところである。
 
(3)県道104号線越え実弾射撃訓練の分散・実施及び普天間飛行場のKC−130航空機の岩国飛行場への移駐
 
 昨年12月2日、日米安全保障協議委員会に報告され、了承された「沖縄に関する特別行動委員会」(SACO)の最終報告に基づき、政府は、具体的な実施に取り組んでいるところである。その一つとして、キャンプ・ハンセンでの県道104号線越え実弾射撃については、本年度から本土5か所の演習場(矢日別、王城寺原、東富士、北富士及び日出生台)への分散・実施が実現するよう、久間防衛庁長官が現地を訪問し協力を要請するなど、移転先の地元関係者と折衝を続けた結果、5か所すべての演習場それぞれの地元から、分散・実施についての理解が得られたところである。
 また、同報告は、普天間飛行場の返還に伴う措置及び騒音軽減イニシアティブの実施として、現在普天間飛行場に配備されている12機のKC−130航空機を、適切な施設が提供された後、岩国飛行場に移駐することとし、また、岩国飛行場に配属されている14機のAV−8ハリアー航空機の米国の移駐が完了したことを確認した。KC−130航空機の岩国移駐については、地元自治体から理解が得られたところであり、政府は、引き続き細部について、調整を行っているところである。
 政府としては、このような国民全体の日米安保への取組が前進することを期待するところである。
防衛白書1997