防衛庁・自衛隊

第4章 我が国防衛の現状と課題

第6節 緊急事態への対応など
 
 自由と民主主義を基調とする我が国の平和と独立を守り、安全を確保していくためには、これらを脅かす侵略事態や重大緊急事態などに迅速、適切に対処し、事態の拡大発展を防止するため、万全の体制をとっておく必要がある。
 しかしながら、有事における法令も、今後、起こり得る事態に対し万全に準備されているとは言えず、我が国対する緊急事態が生起した場合に採られるべき措置、法令について、現在、幾つかの研究が行われている。防衛庁としては、これらを含め、一般的に有事などを想定した研究により成果が得られた場合には、必要に応じ、それを踏まえた計画や各種制度の整備とともに、これらを効果的に機能させるための訓練の実施などの措置を採ることが重要な課題であると考えている。
 
1 緊急事態対応
 
(1)我が国の平和と安全に重要な影響を与える事態
 
 我が国周辺地域において発生し得る我が国の平和と安全に重要な影響を与えるような事態については、特定の事態を念頭においているわけではないが、あえて言えば、我が国の周辺地域において武力紛争が生起するような事態などが考えられる。
 このような事態においては、例えば、紛争などの発生により、大量の避難民が我が国に到来したり、在外邦人などの緊急退避のための輸送が必要になったり、機雷が浮遊して公海や我が国領海における海上交通を阻害することなどが考えられる。
 我が国として、このように直接影響を受ける各種事態に自ら適切に対応することはもちろん、我が国周辺地域における紛争などの事態に際し、地域の平和と安定を確保するために国連や米国などが活動する場合に、我が国として憲法及び関係法令に従い、どのように協力するかも重要な課題である。
 
(2)緊急事態対応策の検討
 
 昨年5月、橋本総理から、我が国周辺地域における我が国の平和と安全に重要な影響を与えるような事態を中心として、我が国に対する危機が発生した場合やそのおそれがある場合において、我が国として採るべき種々の対応について、起こり得る諸々のケースを想定し、必要な対応策をあらかじめ具体的に十分検討、研究するように指示があり、政府としての作業を開始した。
 本検討は、内閣安全保障室が事務局となり、@在外邦人などの保護、A大量避難民対策、B沿岸・重要施設の警備など、C対米協力措置(施設・区域面での協力や米軍に対する後方支援)などの検討項目について、関係省庁が連携をとって検討、研究を進めている。
 本検討は、あくまで憲法や集団的自衛権に関する政府のこれまでの解釈を前提として行うものである。
 
2 有事のための体制
 
(1)有事法制
 
 一般論として、我が国有事に際して必要な法制としては、自衛隊の行動にかかわる法制、米軍の行動にかかわる法制、自衛隊及び米軍の行動にはかかわらないが国民の生命、財産の保護などのための法制の三つが考えられる。
 1977年(昭和52年)に開始された有事法制の研究は、自衛隊法の規定により防衛出動を命ぜられるという事態における自衛隊の行動にかかわる法制の研究である。この研究において、防衛庁所管の法令及び他省庁所管の法令についての問題点の整理は、これまでにおおむね終了したと考えているが、所管省庁が明確でない事項に関する法令については、政府全体で取り組むべき性格のものであり、個々の具体的検討事項の担当省庁をどこにするかなど今後の取扱いについて、内閣安全保障室が種々の調整を行っている。
 防衛庁としては、有事法制については、研究にとどまらず法制が整備されることが望ましいと考えているが、法制化するか否かという問題は高度の政治判断に係るものであり、国会における議論や世論の動向などを踏まえて対応すべきものであると考えている。
 
(2)民間防衛
 
 我が国に対して万一侵略などがあった場合、国民の生命、財産を保護し、被害を最小限にとどめる上で、国民の防災や救護、避難のため、政府、地方公共団体と国民が一体となって、民間防衛体制を確立することが必要である。このような民間防衛の努力は、国民の強い防衛意思の表明でもあり、侵略の抑止につながり、国の安全を確保するため重要な意義を有するものである。
 欧州諸国などは、第2次世界大戦などの経験に基づいて、民間防衛を担当する政府機関の設置、関連する法律の制定、組織の確立、退避所の建設などの民間防衛体制の整備に努めている。また、いざという場合に備え、平素からの救護、退避訓練などの民間防衛に関する諸活動を行っている。これらの国においては、こうした体制を大規模災害などへの対処に際しても活用している。
 我が国においては、民間防衛に関してみるべきものがないが、今後、国民のコンセンサスを得ながら、政府全体で広い観点から慎重に検討していくべきである。
 
3 国民生活を維持するための施策
 
 我が国にとって国民生活を維持するためには、資源、エネルギー、食糧などの確保が不可欠である。これらの生産地や輸送経路で、武力紛争や大規模な天災地変などが発生した場合、あるいは我が国有事の際に、海上交通が妨害される場合などに備え、これらを備蓄しておくことが有効である。また、有事における我が国の国民生活、経済活動などを維持するために必要な物資の海上輸送の実施体制のあり方についても、政府全体として総合的な観点から研究する必要がある。
防衛白書1997