防衛庁・自衛隊

第4章 我が国防衛の現状と課題

第5節 防衛力を支える基盤
 
1 防衛生産・技術基盤の維持
 
(1)防衛生産・技術基盤の意義
 
 一般的に装備の面から見た防衛力は、工業力を中心としたその国の産業力を背景としていることができ、国内の健全な防衛産業の存在は、装備のハイテク化・近代化への対応、我が国の国土・国情に合った適切な装備の取得、装備の維持補給あるいは緊急時の急速取得など、防衛力の整備を図る上で重要である。又、こうした基盤を持つこと自体が、装備のハイテク化・近代化を可能にするとともに、継戦能力を確保することにつながるために、抑止力をなすことと考えられる。さらに、国内で高い生産能力・技術力を維持することは、外国の装備を導入する際に、相手国に対する交渉力の保持といった観点からも重要である。こうしたことから、各国においても、国内の防衛産業の効率化などを進めつつ、防衛生産・技術基盤の維持を図っている。
 
(2)防衛生産
 
 我が国の防衛生産の特色としては、航空機や艦艇から被服、食品までを含む非常に幅の広い各種の産業分野から構成されていること、主たる契約の企業だけでなく、各種の部品の製造を行う下請けなどの関連企業が多数存在しており、極めて裾野の広いことが挙げられる。また、武器輸出三原則などの政策により、その需要が国内に限定されているという特色もある。
 防衛生産の総額が国内の工業生産に占める割合は、おおむね0.6%程度であり、防衛産業各社の売上高に占める防衛生産の割合も、平均数パーセント程度にとどまっている。しかしながら、航空機や武器弾薬の産業分野では、防衛庁の装備調達に需要の大半を依存している。
 防衛産業をめぐる環境は、調達数量が減少する傾向にあり、今後ともこうした状況の継続するものと考えられる。このような中にあって、防衛産業においては、人員の再配置、設備投資の抑制などの合理化・効率化が推進されているが、特殊な技術と設備を必要とする防衛の分野では、いったんその基盤を失うと、回復には長い年月と多くの費用を要することに留意する必要がある。このため、健全かつ効率的な防衛生産・技術基盤の維持・確保がこれまで以上に重要な課題となっている。
 防衛庁としては、装備品などの整備に当たっては適切な国産化などを通じた防衛生産・技術基盤の維持・確保に配意しつつ、緊急時の急速取得、教育訓練の容易性、装備の導入に伴う後年度の諸経費を含む費用対効果などについての総合的な判断の下に、調達価格などの抑制を図るための効率的な調達補給態勢の整備に努め、その効果的な実施を図ることとしている。
 
(3)技術研究開発
 
 東西間の軍事的対峙の構造の消滅後、専心甲を中心に軍事費は削減傾向にあり、平気の近代化に当たっては、新兵器の開発目標などの精選や現有兵器の改善での対応などによる開発コストの低減、技術実証型研究の実施などによる開発期間の短縮や開発リスクの低減などが図られている。
 一方、科学技術の進展に伴う兵器とそのシステムの高性能化が、戦術・戦法から戦略にまで大きな影響を与えうることに変わりなく、冷戦終結後においても、各国は、将来的に活用可能な技術の調査・研究努力を怠ってはいない。このような背景から、我が国においても、装備品などの技術的水準を将来にわたって維持向上させることは、特に重要なものと認識している。
 また、装備品などを自らの手で研究開発することは、優れた技術力を有すること自体が抑止力となること、自己技術力による国産装備品などは国土・国情に適し、改良・改善、維持、補給が容易であること、技術基盤の維持・育成が可能であること、外国から装備品を導入する際に交渉力が増すことが可能であることなどの点において重要である。また、防衛技術として開発された技術が、民間技術へ応用され、我が国全体の技術水準の向上に波及している例もある。
 防衛庁は従来から、優れた民間技術力を積極的に活用して技術研究開発を行っており、こうした民間技術は、装備の技術研究開発を進める上で力強い基盤となっている。しかしながら、企業内の技術者の配置転換などの人員整理、研究開発投資の低迷など研究開発をめぐる環境が変化しており、従来より民間技術を活用してきた防衛庁における研究開発も困難な状況が続いている。
 防衛庁としては、このような状況においても質の高い防衛技術水準を維持する必要があることから、厳しい経済財政事情に鑑み、ライフサイクルコストの抑制に十分配意した装備品などの研究開発を推進することとし、また、技術進歩の趨勢などに対応し、装備品などに有効で先端的な技術の確立に資するため、技術実証型研究を含む各種研究を行うこととしている。
 
2 人材の確保・育成

 組織の基盤は「人」である。自衛隊としても、その任務を確実に遂行するためには、質の高い人材を確保するとともに、隊員の高い士気を維持することが必要である。
 最近の自衛官などの募集状況は、災害派遣や国際平和協力業務の実施などを通じて自衛隊に対する国民の理解と認識が深まったこと、隊員に対する処遇の改善策が効果を表しつつあること、さらにここ数年の厳しい雇用情勢の影響等などにより、応募者数は全般的に増加傾向にあることから、好調に推移している。しかしながら、18歳以上27歳未満の人口は、1994年をピークに2013年ごろには減少することが見込まれており、また、高校卒業者の進学率の向上が見られる。これらのことから、一般的には、今後、中長期的な募集環境は厳しいものになることが予想される。
 防衛庁では、「人材確保対策会議」において、募集のための施策のみならず、任用制度の改善や隊員の処遇改善などの人材の確保に有効な施策について幅広く検討を行ってきたところである。その結果、これまでに、自衛官の定年延長、婦人自衛官の活躍する分野の拡大、自衛官採用試験の受験資格の緩和などを実施に移している。
 人材の育成についても、自衛隊の任務の国際化と多様化に対応して、特に、外国語や国際関係などについての知識・感覚を持った人材の育成が重要となっている。また、軍事技術の高度化などに伴い、技術の修得などに長期間が必要になってきており、この点も考慮しなければならない。
防衛白書1997