防衛庁・自衛隊

第4章 我が国防衛の現状と課題

第4節 日米安全保障体制の信頼性向上のための施策
 
1 政策協議・情報交換など
 
 日米両国間の安全保障上の政策協議は、通常の外交ルートによるもののほか、内閣総理大臣と米国大統領との間の日米首脳会談や、防衛庁長官及び外務大臣並びに米国防長官及び国務長官との日米安全保障協議委員会(SCC、いわゆる2プラス2)、防衛庁長官と米国防長官との日米防衛首脳会談、日米両政府の事務レベルによる日米安全保障事務レベル協議(SCC)など各種のレベルで緊密に行われている。
 
2 日米防衛協力のための指針(「指針」)の見直し
 
(1)「指針」見直しの背景
 
 冷戦の終結にもかかわらず、この地域には不安定性と不確実性が依然として存在しており、日本周辺地域における平和と安定の維持は、日本の安全のために一層重要になっている。日米両国政府は、冷戦後の情勢の変化にかんがみ、「指針」の下での成果を基礎として、日米防衛協力を強化するための方途を検討することを決定し、検討を行っている。
 
(2)新たな指針の目的
 
 新たな指針の最も重要な目的の一つは、日本に対する武力攻撃又は周辺事態に際して、日米が協力して効果的にこれに対応しうる態勢を構築することである。新たな指針は、平素からの及び緊急事態における日米それぞれの役割並びに相互間の協力及び調整のあり方について、一般的な大枠及び方向性を示すものであり、本年秋の策定後に日米両国が行うこととなる共同の取り組みに対するガイダンスを与えるものである。
 
(3)「指針」見直しの経緯と現況/基本的な前提及び考え方
 
 昨年6月の日米次官級協議において、「指針」見直しのための作業は、防衛協力小委員会(SDC)を改組した上で行うこととされた。その後、同年9月にその作業の進捗状況についてとりまとめが行われ、本年秋に見直しを終了し、新たな指針を策定することを目途に作業を継続することとした。
 
 「指針」見直し及び新たな指針の下での取組は、以下の基本的な前提及び考え方に従って行われる。
 
 日米安保条約及びその関連取極に基づく権利及び義務並びに日米安同盟関係の基本的な枠組みは、変更されない。
 日本のすべての行為は、日本の憲法上の制約の範囲内において、専守防衛などの日本の基本的な方針に従って行われる。
 日米両国のすべての行為は、国際法の基本原則及び国際連合憲章をはじめとする関連する国際約束に合致するものである。
 「指針」見直し及び新たな指針の下での作業は、いずれの政府にも、立法上、予算上又は行政上の措置をとることを義務付けるものではない。しかしながら、日米両国政府が、具体的政策や措置に適切な形で反映することが期待される。
 
(4)これまでのSDCの協議の概要
 
 SDCは、より効果的な日米協力に資する考え方及び具体的な項目を洗い出すことを目標に検討を行い、本年6月にその作業の概要を公に明らかにするものとして、中間とりまとめを発表した。
 これまでにSDCにおいて協議した項目は以下のとおりである。
 
ア 平素からの協力
 
イ 日本に対する武力攻撃に際しての対処行動など
 
ウ 日本周辺地域における事態で日本の平和と安全に重要な影響を与える場合(「周辺事態」)の協力
 
(5)新たな指針策定後の取組
 
 新たな指針が策定された後、共同作戦計画についての検討及び相互協力計画についての検討、準備のための共通の基準の確立、共通の実施要領などの確立といった共同作業を行う。また、適切な日米協力を確保するため、両国間の調整メカニズムを平素から構築しておく。
 
(6)新たな指針の適時かつ適切な見直し
 
 新たな指針は、諸情勢の変化に適切に対応し得るよう、必要に応じて見直され得るものとする。
 
3 日米共同訓練
 
 自衛隊が米軍と共同訓練を行うことは、それぞれの戦術技量の向上を図る上で有益である。さらに、日米共同訓練を通じて、平素から自衛隊と米軍の戦術面などにおける相互理解と意思疎通を促進し、インターオペラビリティ(相互運用性)を向上させておくことは、我が国有事における日米共同対処行動を円滑に行うために不可欠である。また、このような努力は、日米安保体制の信頼性と抑止効果の維持向上に役立つものである。
このため、自衛隊は米軍との間で従来から各種の共同訓練を実施しており、今後とも積極的に行っていく方針である。
 
4 日米物品役務相互提供協定
 
 日米安保条約の円滑かつ効果的な運用と国連を中心とした国際平和のための努力に対して積極的に寄与することを目的として、自衛隊と米軍との間で、いずれか一方が物品又は役務の提供を要請した場合には、他方はその物品又は役務を提供できることを基本原則としており、共同訓練、国連平和維持活動及び人道的な国際救援活動において適用される。 提供の対象となる物品又は役務は、食料、水、宿泊、輸送(空輸を含む。)、燃料・油脂・潤滑油、被服、通信、衛生業務、基地支援、保管、施設の利用、訓練業務、部品・構成品、修理・整備及び空港・港湾業務の各区分に係るものである。
 
5 装備・技術面での相互交流
 
 日米両国は、日米安保条約において、それぞれの防衛能力の維持、発展のために相互協 力することとしている。また、「日本国とアメリカ合衆国との間の相互防衛援助協定」は、両国間の防衛分野における相互協力のための枠組みを定めている。我が国としても、こうした相互協力の原則を踏まえ、我が国の技術基盤・生産基盤の維持に留意しつつ、米国との装備・技術面に係る協力を積極的に推進する必要がある。
我が国は、日米技術協力体制の進展及び技術水準の向上などの状況を踏まえ、1983年、武器輸出3原則などによらず、米国に対して武器技術を供与することとした。これを受けて、これまで、携行SAM関連技術、米海軍の艦船の建造のための技術、米海軍の艦船の改良のための技術、支援戦闘機(F−2)関連武器技術、P−3C搭載用「デジタル・フライト・コントロール・システム」(DFCS)に係る技術、「ダクティッド・ロケット・エンジン」及び「先進鋼技術」共同研究関連武器技術、並びに支援戦闘機(F−2)システムの生産に係る技術の8件について、対米供与を決定している。
 
6 在日米軍の駐留を円滑にするための施策
 
 在日米軍の駐留は、日米安保の核心であり、我が国及びこの地域に対する米国の関与についての意思表示でもある。我が国としても、在日米軍の駐留を円滑にするための諸施策をできる限り積極的に実施していく必要がある。
 我が国は地位協定に基づき、在日米軍が使用する施設・区域を米国に負担をかけないで提供する義務を負っている。また、在日米軍従業員の労働力は、地位協定により我が国の援助を得て充足されることとなっている。
 我が国は、1970年(昭和45年)代から、在日米軍の駐留に関して米国が負担する経費が圧迫を受けていることを勘案し、在日米軍の駐留を円滑かつ安定的にするための施策を可能な限り推し進めてきた。一昨年9月、96年度(平成8年度)から5年間を対象期間とする新特別協定が署名され、11月に国会で承認された。本協定においては、在日米軍従業員の基本給などや、光熱水料などについて既存の仕組みを維持しつつ、運用の柔軟性を図ったことに加え、新たに日本側の要請による米軍の訓練の移転に伴う追加的経費(訓練移転費)を負担することとした。
 なお、本協定に伴う負担増は、我が国の格段に厳しさを増している財政事情にもかんがみて、我が国の負担の段階的増大が図られてきた前協定とは違い、穏やかなものになると見込まれる。
 
 このほか、我が国は、従来から在日米軍施設・区域の提供に必要な経費(施設の借料など)の負担、同施設・区域の周辺地域の生活環境の整備などの措置、在日米軍従業員の離職対策などの施策を行っているほか、市町村に対し、固定資産税の代替である基地交付金などを交付(自治省)している。
防衛白書1997