防衛庁・自衛隊(特殊文字使用)

第3章 我が国の防衛政策

第4節 防衛計画の大綱
 
1 大綱が前提としている国際情勢
 
 防衛大綱は、その策定に当たって考慮した国際情勢について次のように述べている。
@ 最近の国際社会においては、東西間の軍事的対峙の構造は消滅し、世界的な規模での武力紛争が生起する可能性は遠のいている。他方、各種の領土問題は依然存続し、宗教上の対立や民族問題などに根差す対立は、むしろ顕在化し、複雑で多様な地域紛争が発生している。また、核を始めとする大量破壊兵器やミサイルなどの拡散といった新たな危険が増大するなど、国際情勢は不透明・不確実な要素をはらんでいる。
 
A これに対し、国際的な協力を推進し、国際関係の一層の安定化を図るための各般の努力が継続されており、各種の不安定要因が深刻な国際問題に発展することを未然に防止することが重視されている。米露間及び欧州においては関係諸国間の合意に基づく軍備管理・軍縮が引き続き進展しているほか、地域的な安全保障の枠組みの活用、他国間及び二国間対話の拡大や国連の役割の充実へ向けた努力が進められている。
 
B 我が国周辺地域においては、極東ロシア軍の量的な削減や軍事態勢の変化は見られるものの、依然として核戦力を含む大規模な軍事力が存在し、多くの国が軍事力の拡充・近代化を行っており、また、朝鮮半島における緊張が継続するなど、不透明・不確実な要素が残されている。しかしながら、同時に、二国間対話の拡大、地域的な安全保障の取り組みなど、国家間の協調関係を深め、地域の安定を図ろうとする様々な動きが見られる。また、日米安保体制を基調とする日米間の緊密な協力関係は、我が国の安全及び国際社会の安定を図る上で引き続き重要な役割を果たしていくものと考えられる。
 
2 我が国の安全保障と防衛力の役割
 
(1)  我が国は、日本国憲法の下、外交努力の推進及び内政の安定による安全保障基盤の確立を図りつつ、専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国にならないとの基本理念に従い、日米安保体制を堅持し、文民統制を確保し、非核3原則を守りつつ、節度ある防衛力整備を自主的に整備してきたところであるが、かかる我が国のの基本方針は引き続き堅持していく。
 
(2)  我が国の防衛力の在り方として、我が国に対する軍事的脅威に直接対抗するよりも、自らが力の空白となって我が国周辺地域における不安定要因とならないよう、独立国としての必要最小限の基盤的な防衛力を保有するという「基盤的防衛力構想」を基本的に踏襲する。また、合理化・効率化・コンパクト化を一層進めるとともに、必要な機能の充実、防衛力の質的な向上を図り、多様な事態に対応できるよう防衛力を整備するとともに、適切な弾力性を確保することが適当である。
 
(3)  日米安保体制は、我が国の安全の確保にとって不可欠で、我が国周辺地域の平和と安定、より安定した安全保障環境の構築に対して引き続き重要な役割を有しており、その信頼性の向上を図るために各種施策の実施に努める必要がある。
 
(4)  防衛力の中心的な役割としては、「我が国の防衛」であることはいうまでもないが、近年における内外の諸情勢の変化などを踏まえ、防衛大綱では、「大規模災害など各種の事態への対応」、「より安定した安全保障環境の構築への貢献」といった役割も掲げられている。
 
3 我が国が保有すべき防衛力の内容
 
(1)各自衛隊の体制(第4章第1節 参照)
 
(2)各種の態勢
 
 我が国の防衛を中心とした多様な役割を果たすため、各自衛隊はこれまで述べた基幹となる態勢を保持しなければならない。そのような観点から、防衛大綱では、以下のような各自衛隊が保持すべき態勢を明示している。
 
@ 侵略事態などに対応するための態勢
 
A 災害救援などの態勢
 
B 国際平和協力業務などの実施の態勢
 
C 警戒、情報及び指揮通信の態勢
 
D 後方支援の態勢
 
E 人事・教育訓練の態勢
 
(3)防衛力の適切な弾力性の確保
 
 防衛大綱では、たとえば航空機のように取得に相当の期間を必要とする装備やその操縦士のように養成に長期間を要する要員を教育訓練部門などに保持することや、即応予備自衛官を確保することにより、事態の推移に円滑に対応できるよう、防衛力の適切な弾力性を確保することとしている。
 
(4)防衛力の整備、維持及び運用における留意事項
 
 防衛大綱では、格段に厳しさを増している財政事情を踏まえ、中長期的な見通しの下に経費配分を適切に行うこと、防衛施設の効率的な維持、整備と円滑な統廃合のための所要の態勢の整備に配意すること、調達価格などの抑制を図るための効率的な調達補給態勢の整備に配意すること、技術研究開発のための態勢の充実に努めることなどが留意事項として述べられている。
 また、将来情勢に重要な変化が生じ、防衛力のあり方の見直しが必要になると予想される場合には、その時の情勢に照らして、新たに検討することとしている。
防衛白書1997