防衛庁・自衛隊(特殊文字使用)

第1章 国際軍事情勢

第4節 アジア太平洋地域の軍事情勢
 
1 全般情勢

 冷戦終結後、アジア太平洋地域においては、軍事情勢に変化が見られる。極東ロシア軍は、90年以降、量的に縮小傾向にあるとともに、即応態勢も低下していると見られる。また、韓国とソ連、韓国と中国との間の国交樹立、米国とヴィエトナムの関係正常化、さらには、長年対立関係にあった中露間の大幅な関係改善など、外交関係にも変化が見られる。
 しかし、この地域には、依然として核戦力を含む大規模な軍事力が存在し、世界で最も著しい経済成長を背景に、多くの国々が国防費の増額や新装備の導入など軍事力の拡充・近代化を図っている。また、この地域には、我が国の北方領土や竹島、朝鮮半島、南沙群島などの諸問題が依然として未解決のまま存在している。
 このような状況の下、米国を中心とする二国間の同盟・友好関係とこれに基づく米軍の存在が、この地域の平和と安定に引き続き重要な役割を果しているが、近年、この地域においても、域内の政治・安全保障に対する関心が高まっており、二国間の軍事交流の機会の増加が見られるほか、ARFのような地域的な安全保障に関する多国間の対話の努力も定着しつつあるところである。
 
2 朝鮮半島
 
(1)全般状況

 朝鮮半島は、地理的、歴史的に我が国と密接な関係にある。また、朝鮮半島の平和と安定は、我が国を含む東アジア全域の平和と安定にとって重要である。
 朝鮮半島においては、現在、韓国と北朝鮮を合わせて150万人程度の地上軍がDMZを挟んで対峙している。このような軍事的対峙の状況は、朝鮮戦争終了以降続いており、冷戦終結後も基本的に変化していない。
 
(2)北朝鮮の状況
 
@ 北朝鮮は、長期にわたる経済不振が続いており、特に食糧事情についてはかなり深刻な状況にあるものと見られる。また、金正日書記は、制度上は軍を完全に掌握する立場にあるものの、国家主席、党総書記という国家・党の最高ポストは空席のままである。外交面では、かつて北朝鮮を支えてきたロシアなどとの関係に変化が見られる。
 
A 北朝鮮は、4大軍事路線に基づいて軍事力を強化してきた。
 北朝鮮は、経済不振が深刻であるにもかかわらず、現在も依然として軍事面に資源を重点的に配分し、軍事力の近代化を図り、即応態勢の維持強化に力を注いでいると見られる。
 さらに、北朝鮮は、核兵器開発疑惑を持たれているほか、弾道ミサイルの長射程化のための開発研究を行っていると見られ、北朝鮮のこのような動きは朝鮮半島の軍事的緊張を高めており、我が国を含む東アジア全域の安全保障にとって重大な不安定要因となっている。
 
3 極東ロシア軍


 現在、極東地域には、依然として核戦力を含む大規模かつ近代化された戦力が蓄積された状態にあり、その一部につき更新・近代化が続けられている。
 しかしながら、量的には90年以降縮小傾向にあり、また、即応態勢を維持しているのは戦略核部隊などに限られ、一般の部隊については低下しているものと見られている。
 ロシア軍の今後の動向は、ロシア国内の不安定かつ流動的な政治・経済情勢とあいまって不透明であるため、極東ロシア軍の今後の動向も不確実なものとなっており、注目していく必要がある。
 
4 中国


 中国は、「富強」、「民主的」、「文明的」な社会主義国を建設することを目標に、経済建設を最重要課題として改革開放路線を推進してきており、その前提となる安定的な環境を維持するため、外交面において、周辺諸国との関係改善と交流拡大を進めることを基本としつつ、国防力の近代化・強化に努めている。
 台湾との関係は、近年、経済関係及び人的交流が深まっているものの、最近、台湾が国際社会において地位向上を目指す動きを示していることに対し、極めて警戒的である。
 中国は現在、軍事力について「量」から「質」への転換を図り、近代戦に対応できる正規戦主体の態勢へ移行しつつある。装備の近代化に当たっては、核戦力及び海・空軍を中心としており、自国による研究開発や生産を基本としつつ、ロシアなどから技術や装備の導入を行っている。また、運用面での近代化を図ることなどを目的として、近年、大規模な演習を頻繁に実施しているほか、海・空軍力の近代化と合わせて、近年、海洋における活動範囲を拡大する動きをみせている。
 中国の軍事力近代化は、同国が経済建設を当面の最重要課題としていることなどから、今後も漸進的進むものと見られるが、核戦力や海・空軍力の近代化の推進、海洋における活動範囲の拡大、昨年一時緊張の高まりが見られた台湾海峡の状況などについて、今後とも注目していく必要がある。
 
5 東南アジア

 ASEAN諸国においては、経済力の拡大に加え、インフレなどの影響もあって、国防費は高い伸び率を示しており、新型の戦闘機や艦艇の導入など、装備の近代化を進めている。同時に、この地域では、近年、ASEANを中心として、地域の安定・発展を目指した積極的な動きが見られる。
 
6 アジア太平洋地域の米軍
 
 ここでは、アジア太平洋地域における米軍について、次のように記述した後、その軍事態勢について説明している。
@ 太平洋国家の側面を有する米国は、アジア太平洋地域の平和と安定のために、引き続き重要な役割を果たしており、軍事的には、この地域に陸・海・空軍及び海兵隊の統合軍である太平洋軍を配置している。
A 93年9月の「ボトムアップ・レビュー」、一昨年2月のEASR及び昨年4月の「日米安全保障共同宣言」において確認されていた、アジア太平洋地域における米軍の前方展開の維持に関して、本年5月に米国防省が議会に報告したQDRにおいても、約10万人の兵力の維持が明記された。
 
7 各国の安定化努力
 
 アジア太平洋においては、欧州における軍備管理・軍縮などのような地域の安定化に向けた動きこそ見られないものの、近年、域内の政治・安全保障に対する関心が高まっており、二国間の軍事交流などの機会の増加や地域的な安全保障に関する多国間の対話の努力が行われているところである。
防衛白書1997