防衛庁・自衛隊(特殊文字使用)

第1章 国際軍事情勢

第1節 国際軍事情勢概観
 
1 国際軍事情勢全般

@ 冷戦終結に伴い、世界的な規模の武力紛争が生起する可能性は遠のいた。しかしながら、東西冷戦の下で抑え込まれてきた、宗教上や民族上の問題などに起因する種々の対立が表面化あるいは尖鋭化し、複雑で多様な地域紛争が発生している。さらに、大量破壊兵器などの兵器の移転・拡散の増大が、国際的に強く懸念されている。このように、国際情勢は、依然として不透明・不確実な要素をはらんでいる。
 
A これに対し、国際関係の一層の安定化を図るためのさまざまな取組が進展している。国連は、国際の平和と安全を維持する役割を発揮することを期待されている。また、米国、旧ソ連や欧州においては、戦力の再編・合理化が行われるとともに、関係各国の合意に基づく軍備管理・軍縮の動きが進展している。
 さらに、地域的な平和と安全の確保のため、欧州などにおいて、地域的な安全保障の枠組みの活用や、多国間あるいは二国間の対話の拡大の動きが活発化している。
 
B アジア太平洋地域においては、極東ロシア軍の量的削減などの変化が見られるものの、依然として核戦力を含む大規模な軍事力が存在している中で、多くの国々が経済力の拡大などに伴い軍事上の拡充・近代化に努めており、また、我が国の北方領土や竹島、朝鮮半島、南沙群島などの諸問題が未解決のまま存在するなど、依然として不透明・不確実な要素が残されている。さらに、欧州におけるような多国間の安全保障の枠組みが構築されるような状況にはなく、米国を中心とする二国間の同盟・友好関係とこれに基づく米軍の存在が、この地域の平和と安定に重要な役割を果している。また、近年、二国間の軍事交流の機会の増加が見られるほか、ARFのような地域的な安全保障に関する多国間の対話の努力も定着しつつあるところである。
 
2 複雑で多様な地域紛争
 
 地域紛争の性格は必ずしも一様ではない。それぞれが民族上・宗教上・領土上の固有の問題を背景として有するとともに、当事国・地域が置かれた安全保障環境も紛争の背景として存在するため、単純に国内問題あるいは二国間問題としてとらえることはできない。また、一国内の紛争であっても、人権問題や難民問題として、国際問題化する場合もある。
 また、地域紛争の態様についても、多岐にわたっている。
 
3 兵器の移転・拡散
 
 近年、一部の途上国においては、大量破壊兵器(核・生物・化学兵器)や弾道ミサイルなどの運搬手段を含む兵器の取得や開発が進められており、このような兵器の移転・拡散問題への対応は、国際社会の抱える緊急の課題となっている。
 
4 軍事科学技術のすう勢
 
 近年の通信・電子技術や素材技術を中心とした軍事科学技術の大幅な進歩に伴い、戦闘状況の変化はより迅速となり、戦域は広域化した。加えて、より大きな火力が極めて短時間に陸上・海上・海中・空中のさまざまな装備から戦場に複合的かつ正確に投入されるようになった。
 米国においては、21世紀の米軍の在り方として、情報の優越の下、所望の時期と場所に必要な戦闘力を集中させることが重視され、あらゆる軍事的側面で米軍が優位を保つことを目指している。これは、兵器単体の性能向上に加えて、必要であれば、それらがこれまでの軍種の枠組みを越えて、有機的に結合してシステムとして機能すべきことを示唆している。
 また、兵器に適用される技術の差は兵器の性能の差となって現れ、しばしば戦闘の帰すうを左右するため、これまでも技術的優位の確保は重要であった。現在、コンピューター技術に見られるように、民生技術は著しく発展している。それらの技術を軍事分野へ応用することによって、かつて航空機や核兵器が出現した際、戦略・戦術に大きな影響を与えたと同様に、「革命」とも形容されるような著しい変革がもたらされつつあるとも言われている。
防衛白書1997