第4章

社会の中の自衛隊

 自衛隊は、創隊以来、わが国の平和と安全を確保するという防衛任務達成のため、日夜努力を重ねてきた。最近では、雲仙普賢岳の噴火に伴う大規模火砕流発生や北海道南西沖地震発生に対する災害派遣、カンボディア、モザンビークにおける国際平和協力業務の実施など国民の目に見える形での活動により、自衛隊の活動が国民に広く理解されつつある。

 このような活動は、日々の教育訓練に裏打ちされた組織力、能力などがあって初めて行い得るものである。

 本章においては、自衛隊の組織とこの組織を構成する隊員の姿を紹介するとともに、自衛隊が、わが国の防衛分野で中核として活動をしつつ、防衛分野以外でも、その組織力、能力などをいかして社会活動を支援している姿を紹介する。さらに、自衛隊の活動の拠点としての防衛施設と地域社会とのかかわりについて説明する。

第1節 自衛隊の組織と人

 自衛隊は、わが国の防衛という国家としての基本的な役割を担う専門組織である。国の防衛は、さまざまな機能の集約によって成し遂げられる。このため、自衛隊は、陸・海・空各自衛隊を中核として、各種の機関及び防衛施設庁で構成されている。

 また、組織の基盤は「人」である。装備がいかに進歩・近代化してもこれらを使用するのは隊員であり、組織の運営なども、結局は隊員各々の力量にかかっている。自衛隊の機能発揮の要である隊員は、自衛官、予備自衛官と制服や階級を持たない事務官、技官、教官等で構成されている(資料46、資料47参照)。

1 自衛隊の組織

 自衛隊は、実力組織である陸・海・空各自衛隊を中心に、将来幹部自衛官となる学生を教育する防衛大学校、将来医師である幹部自衛官となる学生を教育する防衛医科大学校、わが国の防衛施策に必要な調査研究や上級隊員の教育を行う防衛研究所、新しい装備の研究開発に当たる技術研究本部、主要装備の調達を行う調達実施本部のほか、防衛施設の取得、建設、管理等を行う防衛施設庁など、さまざまな組織で構成されている。

 さらに、これら陸・海・空各自衛隊を中心とする自衛隊の隊務を防衛庁長官が統括するための補佐機関として、内部部局、陸・海・空各幕僚監部、統合幕僚会議が置かれている。内部部局は、自衛隊の業務の基本的事項を担当する。陸・海・空各幕僚監部は、各自衛隊の隊務に関するスタッフ機関であり、各幕僚監部の長である陸・海・空各幕僚長は、各自衛隊の隊務に関する最高の専門的助言者として長官を補佐する。また、統合幕僚会議は、統合防衛計画の作成など統合事項について長官を補佐する(資料48、資料49参照)。

 ここでは、陸・海・空自衛隊、各種の機関及び防衛施設庁の組織編成の仕組みについて説明する。

 陸・海・空自衛隊

ア 戦闘部隊と後方支援部門

 わが国防衛の中核的役割を担う陸・海・空各自衛隊は、各種の機能を備え、侵略者に対して総合的な防衛力を発揮し得るように、戦闘部隊と後方支援部門が均衡ある形で有機的に組み合わされている。

 各自衛隊の編成は、それぞれの自衛隊の任務の特性などから、異なる仕組みとなっているが、基本的な編成は、直接戦闘を行う戦闘部隊と、この部隊の装備や隊員の能力を継続して発揮できるように支援する補給、整備、輸送、衛生等の後方支援部門などから構成されている。

 例えば、陸上自衛隊では、師団及び混成団は、普通科(歩兵)部隊や特科(砲兵)部隊などの戦闘部隊及びこれらに対する後方支援を行う後方支援部隊などから編成されている。また、主として担当する方面の防衛に当たる方面隊は、複数の師団等のほか、地区補給処等の後方支援部門から編成されている。

 海上自衛隊では、護衛艦等から成る護衛艦隊、対潜哨戒機等から成る航空集団などを基幹として自衛艦隊が編成されている。自衛艦隊は、主として機動的運用によってわが国周辺海域の防衛に当たる部隊であり、みずから燃料、弾薬などの洋上補給をし得る補給艦を有するとともに、地方隊の補給所や造修所、長官直轄の需給統制隊などから後方支援を受けている。

 航空自衛隊では、主として全般的な防空任務に当たる部隊として、航空方面隊などを基幹とする航空総隊が編成されている。また、航空方面隊は、戦闘機を有する航空団、地対空誘導弾を有する高射群などを基幹として編成されている。航空団などは、みずから後方支援部隊である整備補給部隊を有するとともに、長官直轄の補給本部から後方支援を受けている。(航空団における航空機の整備

イ 多機能組織を支える幕僚

 部隊を一元的に指揮するのは指揮官であるが、さまざまな機能を有する部隊を適時適切に指揮するためには、これを補佐する隊員が必要である。

 部隊の指揮官は、その部隊に与えられた任務を積極的かつ効果的に遂行するため、隊員や部隊を訓練し、装備や施設を管理し、また、隊員の安全と福祉を図る必要がある。このような指揮官の仕事については、上位の部隊ほど担当する機能が多種多様になり、指揮の実行に必要な情報収集、計画作成、監督指導が広範なものになる。これをひとり指揮官に委ねていたのでは負担が大きくなり、任務を的確に遂行できなくなるおそれもある。

 このため、司令部などには各専門分野を担当する幕僚が配置され指揮官を補佐している。幕僚は、それぞれの専門分野において業務を処理し相互の調整を図りつつ計画などを作成して指揮官に提示し、指揮官が大局的な立場から判断・命令を下し任務を的確に遂行できるようにする役割を担っている。

 防衛大学校

 約1,800名の学生の教育訓練を行っている防衛大学校には、学校長、副校長、幹事のほか、総務部、教務部、訓練部、図書館並びに人文社会科学、理工学、防衛学の16教室が置かれている。同校は、一般の大学と同様に大学設置基準に準拠した教育を行うほか、将来の幹部自衛官として必要な資質・識能を養成するために必要な教育訓練を行っている。また、一般大学の修士課程に相当する理工学研究科が置かれている。

 防衛医科大学校

 約400名の学生の教育訓練を行っている防衛医科大学校には、学校長、「管理」、「教育」、「診療」部門を担当する3名の副校長のほか、事務局、教務部、医学教育部、学生部、病院、図書館、高等看護学院が置かれている。同校は、一般の医科大学と同様に大学設置基準に準拠した教育を行うほか、将来の医師たる幹部自衛官として必要な人格・識見を育成するために必要な教育訓練を行っている。また、一般大学の博士課程に相当する医学研究科が置かれている。

 防衛研究所

 防衛庁のシンクタンクである防衛研究所には、自衛隊の管理及び運営に関する基本的な調査研究を行う第1研究部及び第2研究部、戦史に関する調査研究及び戦史の編(さん)を行う戦史部、歴史的価値のある書籍・資料などを管理する図書館のほか、企画室、総務課、教育部が置かれている。

 技術研究本部

 陸・海・空各自衛隊の運用上の要求などに応じて、装備に関する研究開発を一元的に行う技術研究本部は、各自衛隊が使用する車両、船舶、航空機を始めとして、被服や食料に至るまで、幅広い分野にわたって研究開発を行っている。これらの業務を効率的に行うため、開発部門には装備体系別に陸上、船舶、航空機及び誘導武器担当の各技術開発官が、また、その基礎となる試験研究部門には、技術分野別の5つの研究所と5つの試験場が置かれている。

 調達実施本部

 自衛隊の任務遂行に必要な装備品等(火器、誘導武器、船舶、航空機、車両等)の調達を一元的に行う調達実施本部は、防衛費全体の約3分の1に相当する予算額を執行する会計機関であり、本部長の下に、6名の副本部長、1室、20課及び地方機関として5つの支部が置かれている。その特色は、業務の公正な運営を図るため、職務上の権能を分散させ、各部門を相互にけん制させた横割組織としていることである。

 防衛施設庁

 防衛施設庁は、自衛隊施設や在日米軍施設・区域の取得、財産管理、建設工事及び周辺対策、在日米軍に勤務する日本人従業員の労務管理、在日米軍の違法な行為等により生ずる損害の賠償等の事務を行う国の行政機関であって、本庁と地方支分部局である防衛施設局で構成されている。本庁には、総務、施設、建設、労務の4部が置かれている。また、全国各地に所在する自衛隊施設などに関する業務を行うため、全国を8つの地域に分け、札幌、仙台、東京、横浜、大阪、広島、福岡、那覇の防衛施設局がそれぞれ置かれている。

2 自衛官

(1) 募集・採用等

 自衛官は、個人の自由意思に基づいて入隊するという志願制度の下で、幹部候補生、曹候補者、又は2等陸・海・空士などとして採用される。採用後は、後に紹介する教育訓練などを通じて個人の知識・技能を向上させており、本人の努力により、上位の階級に昇任する道が開かれている(資料50、資料51参照)。

 隊員募集は、全国50か所の自衛隊地方連絡部が、都道府県、市町村、教育委員会、学校、隊友会、父兄会、民間の募集相談員などの協力を得ながら行っている(資料52参照)。(幹部候補生の入校式

(2) 給与と生活環境

 自衛官の勤務には、その任務の性格から、常時勤務態勢の維持に加え、航空機搭乗、艦艇乗組、落下傘降下など厳しい側面がある。

 このため、防衛庁では、隊員がその任務に誇りを持ち、安心して勤務に精励できるよう適切な処遇の確保に努めている。

ア 給与

 一般職の国家公務員と均衡がとれ、かつ、自衛官の勤務の特殊性を考慮した給与を支給している。具体的には、勤務の特殊性を考慮して定めた自衛官俸給表による俸給及び勤務の特殊性に応じた航空手当・乗組手当・落下傘隊員手当などの諸手当を支給している。また、現物給与として、営舎内居住の曹士自衛官などに対する食事の支給、自衛官の職務遂行上必要な被服の支給又は貸与及び私傷病に係る療養の給付を行っている。

 これらの給与については、給与法定主義の下、国会の審議を経て「防衛庁の職員の給与等に関する法律」に基づいて定められている。

 また、こうして定められる給与の内容、水準などは、公正妥当なものでなければならず、社会一般の情勢の変化に適切に対応すること(適応性)、他の公務員の給与等との均衡を保つこと(均衡性)などを基本的な考え方として、その確保に努めている。

 具体的には、部外の学識経験者からなる「防衛庁職員給与制度等研究会」を設け、重要な事項について広く専門的な意見を聴取し、併せて部隊や隊員の勤務の実態・意見等を把握することなどを基本的な手法とし、人事院勧告に基づく一般職国家公務員の給与改定に準じた給与改定を行うとともに、毎年度の予算を通じて所要の措置を講じている。

イ 生活環境

 曹士の自衛官や艦艇乗組員にとって、隊舎や艦艇は日常生活の場でもあり、その生活環境の整備・充実に努めることが重要である。

 独身の曹士の大部分は、原則として駐屯地又は基地内の隊舎で生活しているが、自由時間には、外出の許可を得て友人と自由な時間を過ごしたりしている。艦艇乗組員も、母港などに停泊中は勤務時間終了後、当直員を除き上陸が許可され、自由な時間を過ごしている。さらに、最近では、航海中であっても、一部の艦艇で艦内に整備されたスポーツ用品や衛星放送テレビ受信装置などにより、勤務時間の合間に心身をリフレッシュさせることができるようになっている。

 また、隊舎についてはもとより、隊員が家族とともに生活する宿舎についても、新設や老朽宿舎の建て替えを図りつつ設置戸数を増やすとともに、既設宿舎の補修を進めるなど、よりよい生活環境を提供すべく改善努力を行っている。さらに、隊員の福利厚生の充実を図るために、厚生センターなど厚生施設の整備にもカを入れている。駐屯地などでは、体育館、プール等の施設を利用したスポーツ活動なども活発に行われている。

(3) 就職援護

 自衛隊では、任期制及び若年定年制をとっていることから、自衛官の多くは任期満了退職又は定年退職後の生活基盤の確保などのために再就職が必要である。

 国防を志している若者がいても、退職後の生活基盤が不安定であれば、自衛隊に入り国防の任に従事することを躊躇(ちゅうちょ)するものである。また、人生80年といわれる昨今において、若年で定年を迎えるという不安を抱くことなく任務に精励でき、退職後の生活の安定と生きがいっある第二の人生に向けた一歩を後顧の憂いなく踏み出していくためには、国としてできる限りの配慮を行うことが是非とも必要である。

 このため、防衛庁では、退職する自衛官の希望・経験をいかすことのできる企業などの開拓に努めるなど、満足のいく再就職ができることを人事施策上の最重要事項の一つとして、従来から各種の就職援護施策を行っている。

 特に、最近の厳しい雇用情勢を反映して、退職する自衛官に対する就職援護は従来になく厳しい環境となっていることから、再就職に有利となる技能・資格を取得するための職業訓練を拡充するとともに、自衛隊援護協会に設置している無料職業紹介所等の自衛隊援護機関による援護活動をより強化するなどの施策を講じている(資料53参照)。

 これにより、民間企業などの理解と協力を得て、任期制自衛官はもとより、定年退職する自衛官についても、希望者のほぼ全員が再就職をしている。これはまた、募集へも好影響を与えている。

 これら民間企業などに再就職した退職自衛官は、製造業やサービス業を始めとする広範多岐にわたる分野において活躍している。そして、全般的に責任感、勤勉性、気力、体力、規律などの面で優れていること、特に、定年退職者については、高い指導力を有していることなどから、総じて企業などの側から高く評価されている。こうした退職自衛官の活躍は、自衛隊への国民の理解を深めることにもなっていると考えられる(資料54参照)。

3 予備自衛官

 わが国は防衛出動時、自衛隊の実力を急速かつ計画的に確保することを目的として、予備自衛官制度を有しており、退職した自衛官のうち志願する者を予備自衛官として採用している。

 予備自衛官は、現在、陸、海、空合わせて約4万8千名がこれに採用されており、平素は一国民として各々の職業に従事しているが、有事の際には、招集されて自衛官として勤務するとともに、平時においても、定期的に毎年、短期間の訓練招集に応じている。こうした訓練には、予備自衛官はそれぞれの仕事をやりくりし、休暇をとって参加している。このような予備自衛官制度を円滑に運営していくためには、再就職先の企業などの理解と協力が不可欠である(資料55参照)。

4 事務官、技官、教官等

 事務官、技官、教官等は、防衛庁全体で約2万5千名おり自衛官の約10分の1ではあるが、さまざまな分野で活躍している。

 これらの事務官等は、男女を問わず、主として国家公務員採用種、防衛庁職員採用種、種、種試験により採用される。

 事務官等は、内部部局で防衛政策の立案に従事するほか、全国各地における総務、厚生、会計、調達、基地対策など自衛隊の運営に必要な行政事務、艦船・航空機等の装備の整備・補修や駐屯地・基地の維持・管理などの後方支援業務を行っている。

 また、科学技術の進歩が著しい現代において防衛力の質的水準の維持向上を図るため、技術研究本部の技官等がその英知を結集して研究開発に取り組んでいる。彼らは、防衛大学校や防衛医科大学校の教官、防衛研究所の所員などとともに、頭脳集団を構成しており、防衛庁の事務官等で博士の学位を有する者は400名を超えている。さらに、建築、土木、医療などで活躍する事務官等もおり、防衛庁にとってなくてはならない存在となっている。

 このように、防衛庁・自衛隊では、事務官等と自衛官とが深い信頼の下、一体となって業務を遂行し、行政組織と実力組織の両面の能力発揮を実現している。(研究に打ち込む技官

 

(注) 防衛庁と自衛隊は、共に同一の防衛行政組織であるが、防衛庁というときは行政組織の面を静的にとらえているのに対し、自衛隊というときは部隊行動を行う実力組織の面を動的にとらえているものである。

第2節 日々の自衛隊

 自衛隊がわが国防衛の任務を有効に遂行するためには、装備品等の整備充実を図るだけでなく、平素から、指揮官を始めとする隊員が高い資質と能力を持つとともに、部隊としても高い練度を有することなどにより、堅固な防衛態勢をとることが必要である。堅固な防衛態勢をとることは、わが国に侵略を意図する国に対して、その侵略を思いとどまらせる抑止力としての役割をも果たすものである。

 自衛隊は、隊員及び部隊の練度を維持向上させるため、日夜教育訓練に励むとともに、周辺の軍事情勢の変化に迅速・的確に対応するため、警戒監視等の任務を遂行している。

1 教育訓練

 自衛隊は、平素から教育訓練を活動の中心として、種々の制約の中で日夜厳しい教育訓練を実施し、心身ともに健全で、練度の高い隊員の育成と精強な部隊の練成に努めている。

(1) 隊員の教育

ア 全般

 自衛隊における教育の目的は、隊員としての資質を養い、職務を遂行する上で必要な知識及び技能を修得させるとともに、練度の向上を図り、もって精強な部隊の練成に資することにある。この目的を達成するため、

 使命感の育成と徳操のかん養

 装備の近代化に対応する知識と技能の修得

 基礎体力の練成

 統率力ある幹部の養成

を重視して教育を実施している。

 自衛隊においては、隊員の教育の中心的なよりどころとされているものに、昭和36年に制定された「自衛官の心がまえ」がある。自衛隊では、この「自衛官の心がまえ」に基づき、強い使命感と円満な良識と豊かな人間性を持ち、かつ優れた技術を有する隊員の育成に努めている(資料56、資料57参照)。

イ 国際化への対応

 近年、わが国の国際活動の揚における自衛隊の重要性が増大しつつある状況の中で、国際化に対応し得る隊員の育成が迫られている。このため、自衛隊では外国語教育等に力を入れている。

 とりわけ、英語教育については、防衛大学校や幹部候補生学校において、特にカを入れ実施するとともに、職務上英語を必要とする航空学生や航空管制官などについてもその教育課程の内容に加えられている。留学予定者、情報・渉外関係要員などに対しては、陸上自衛隊調査学校のほか海・空自衛隊の学校に必要な課程を設け教育を実施している。さらに、日米共同訓練の実施前には、必要に応じ英会話の訓練を行うなど、継続的な教育により英語能力の維持向上を図っている。

 また、英語以外の語学能力が職務上必要な隊員に対しては、自衛隊内の学校若しくは部外の大学、専門学校などにおいて、ロシア語、中国語、朝鮮語、ドイツ語、フランス語などについての教育を行い、能力の向上を図っている。

(2) 部隊の錬成

 陸・海・空各自衛隊の部隊における訓練は、個々の隊員に対する訓練と部隊としての訓練に大別される。個々の隊員に対する訓練は、職種・職域ごとに練度に応じて段階的に行われる。部隊としての訓練は、小さな単位の部隊から、大きな部隊へと徐々に訓練を積み重ね、一つの組織として能力を発揮できることを目標として行われている。各自衛隊は、その任務に応じて特徴のある訓練を次のとおり実施している。

 陸上自衛隊では、普通科(歩兵)、機甲科(戦車)、持科(砲兵)などの各職種ごとに部隊の行動を訓練するとともに、他の職種部隊との協同による訓練を実施している。特に、普通科部隊などを基幹とし、それに他の職種などを配属して総合戦力を発揮できるように編成した部隊の訓練を充実し、一層の練度向上を図っている。これらの訓練の実施に当たっては、可能な限り実戦に近い環境下で行うとともに、レーザーを使用した交戦訓練装置などの活用により、訓練成果を客観的に評価しつつ、反復して実施することに留意している。

 海上自衛隊では、要員の交代や艦艇の検査、修理の時期を見込んた一定期間を周期とし、これを数期に分け、段階的に練度を向上させる周期訓練方式をとっている。この方式での訓練の初期段階では、戦闘力の基本単位である艦艇や航空機ごとのチームワーク作りを主眼として、訓練を実施する。その後、艦艇や航空機ごとの練度の向上に伴って、応用的な部隊訓練へと移行し、参加部隊の規模を拡大しながら、艦艇相互の連携や、艦艇と航空機の間の協同要領などの訓練を実施している。

 航空自衛隊は、戦闘機、地対空誘導弾、レーダーなどの先端技術の装備を駆使する集団である。このため、訓練の初期段階では個人の専門的な知識技能を段階的に引き上げることを重視しつつ、戦闘機部隊、航空警戒管制部隊、地対空誘導弾部隊などの部隊ごとに訓練を実施している。この際、隊員と航空機などの装備を総合的に機能発揮させることを目指している。練度が向上するに従ってこれら部隊間の連携要領の訓練を行い、さらに、これに航空輸送部隊や航空救難部隊などを加えた総合的な訓練を実施している(資料58参照)。(ヘリボン訓練)(ミサイル発射訓練

(3) 統合訓練

 わが国有事の際に防衛力を最も効果的に発揮するためには、平素から、陸・海・空自衛隊の統合運用について訓練を積み重ねておく必要がある。

 このため、自衛隊は従来から二つ以上の自衛隊が協同して行う統合訓練を実施してきており、逐次その内容の充実を図っている。

 統合訓練は、機能別訓練、作戦別訓練、統合演習に区分される。

 このうち、統合演習は、統合幕僚会議が計画と実施を担当するものであり、昭和36年度からこれまで26回行っている(米軍との共同統合演習を含む。)。

 昨年は、わが国及びわが国周辺海・空域において、9月から10月にかけて2週間にわたり自衛隊統合演習を実施した。

 同演習は、従来、各自衛隊が個別に実施してきた「陸上自衛隊演習(実動訓練)」、「北方機動特別演習」の一部、「海上自衛隊演習」及び「航空自衛隊総合演習」を統合して実施したものであり、陸・海・空自衛隊員約9万2千人、艦艇約120隻、航空機約760機が参加した。

 演習では、防空、周辺海域の防衛と海上交通の安全確保、陸上戦闘及び所要の輸送などについて訓練するとともに、これらの作戦を行うために必要な統合幕僚会議及び陸・海・空各幕僚監部における幕僚活動並びに陸・海・空自衛隊間の連携要領について演練し、多くの成果を得ることができた。

 その他、陸・海・空自衛隊は、適宜協同して空地作戦、海空作戦などの作戦別訓練や、通信機能などの統合運用について訓練する機能別訓練も行っている。(編隊飛行中のF−15戦闘機

(4) 教育訓練の制約と対応

 自衛隊が教育訓練を行うに当たっては、さまざまな制約がある。演習場や射場は、数が少なく地域的にも偏在している上、広さも十分でない。このため、大部隊の演習、長射程の火砲やミサイルの射撃訓練などを十分には行えない状況にある。

 訓練海域は、漁業などの関連から、使用時期や場所などに制約を受けている。特に、掃海訓練や潜水艦救難訓練などに必要な比較的水深の浅い海域は、一般船舶の航行、漁船の操業などと競合するため、訓練は一部の場所に限られ、使用期間も制限されている。

 訓練空域は、広さが十分でないため、一部の訓練では、航空機の性能や特性を十分に発揮できないこともあり、また、基地によっては訓練空域との往復に長時間を要している。さらに、飛行場の運用に当たっては、航空機騒音に関連して早朝や夜間の飛行訓練の制限などを行わざるを得ず、必ずしも十分な訓練ができない状況にある。

 このため、艦艇、航空機、地対空誘導弾部隊、対戦車ミサイル部隊の米国への派遣訓練や、硫黄島での飛行訓練、別の方面隊の演習場に移動しての訓練などを行って、練度の維持向上に努めている。(米国における対戦車ミサイル実射訓練

(5) 安全管理

 自衛隊の任務が、有事に実力をもってわが国を防衛することにある以上、訓練や行動に危険と困難を伴うことは避けられないものである。それでも、国民に被害を与えたり、隊員の生命や国有財産を失うことにつながる各種の事故は、絶対に避けなければならない。

 このような観点に立って、自衛隊では、平素から安全管理に常に細心の注意を払っており、射撃訓練などの教育訓練時の安全の確保に努めるとともに、海難防止や救難のための装備及び航空保安無線施設等の整備等の施策の推進など、安全を確保することに努めている。

2 警戒監視活動等

 専守防衛を旨とするわが国にとって、領海とその周辺の海空域の警戒監視や、防衛に必要な情報収集処理を平時から常に実施することは、極めで重要である。このため、自衛隊は、平時からわが国の安全確保に直結する以下のような諸活動を実施している。

 その第一は、主要海峡などにおける警戒監視である。主要海峡では、陸上にある沿岸監視隊や警備所において、24時間体制で監視活動を行っている。さらに、対馬・津軽・宗谷の三海峡には、艦艇を配備している。また、わが国の周辺海域を行動する艦船については、対潜哨戒機により、北海道周辺の海域、日本海及び東シナ海を1日1回の割合で警戒監視しているほか、必要に応じて艦艇、航空機による警戒監視を行っている。

 その第二は、領空侵犯に備えた警戒と緊急発進(スクランブル)である。航空自衛隊は、全国28か所のレーダーサイトと早期警戒機によって、わが国及びその周辺上空を24時間体制で監視しており、全国7か所の航空基地では、要撃機とパイロットを直ちに飛び立てる態勢で待機させている。わが国周辺では、航空機の往来がおびただしく、この中から領空侵犯のおそれのある航空機を識別するのは大変根気のいる作業であるが、これを発見した場合には、地上に待機中の要撃機をスクランブルさせている。要撃機は、対象機に接近し、その状況を把握しながら、必要に応じて退去の警告などを発する。

 その第三は、国外からわが国に飛来する軍事通信電波、電子兵器の発する電波などの収集である。これらの電波を整理・分析して、わが国の防衛に必要な情報資料の作成に努めている。

 さらに、現在、防衛庁から外務省に出向した自衛官である防衛駐在官40名が、32の在外公館で軍事情報の収集などを行っている。

 このように、自衛隊はいついかなる状況にも対処できるように、日夜黙々と活動している。

第3節 国民生活とのかかわり

 自衛隊は国を守るための組織であり、そのために必要な隊員及び装備を有し、平素から教育訓練を積み重ねていることは、既に述べたとおりであるが、その組織、装備、能力をいかして、災害派遣や各種の民生協力、自然環境に関する調査、研究への協力活動などを行っている。また、国の防衛は、国民の防衛に対する理解と協力があって初めて全うされるものであるとの観点から、さまざまな広報活動や部隊と地域住民との交流を行っている。

 これらの活動は、民生の安定及び文化・学術の発展に寄与するとともに、隊員に平素から直接国民生活に貢献しているという誇りと生きがいを与え、さらには、国民と自衛隊との触れ合いを深めることに役立っている。

1 社会への貢献

(1) 災害派遣等

ア 災害派遣の実施状況

 自衛隊は、天災地変その他の災害に際して、都道府県知事、海上保安庁長官、管区海上保安本部長及び空港事務所長からの要請に基づき、人命又は財産の保護のため災害派遣を行っている。派遣された自衛隊の具体的な活動は、遭難者や遭難した船舶、飛行機の捜索救助、水防、防疫、給水、人員や物資の緊急輸送などの広範多岐にわたっている。

 最近の主な災害派遣としては、平成5年7月の北海道南西沖地震に係る災害派遣、平成5年8月の豪雨に係る災害派遣及び本年4月の名古屋空港における中華航空機の墜落事故に係る災害派遣などがある。

 北海道南西沖地震に係る災害派遣については、7月12日、北海道南西沖を震源とする大規模な地震及びこれによる津波が発生し、特に、奥尻島を中心として大災害が起こり住民に多数の死者及び行方不明者が生じたため、自衛隊は、北海道知事から災害派遣の要請があったことを受けて、第11師団、大湊地方隊、北部航空方面隊などの各部隊を現地に派遣した。派遣部隊は、余震、悪天候が続く厳しい環境の中で、航空偵察、行方不明者の捜索・救助、遺体の収容、患者空輸、緊急物資の輸送、医療支援、給水支援、防疫支援などの活動を実施した。約1か月続いたこの災害派遣において自衛隊が派遣した陸、海、空自衛隊の派遣規模は延べにして、人員約3万8千人、車両約1,600両、航空機約760機、艦艇約200隻であった。

 8月の豪雨に係る災害派遣については、九州南部及び山口県を襲った集中豪雨並びに台風7号により大規模な被害が生じたため、自衛隊は、鹿児島県知事等からの災害派遣の要請があったことを受けて、第12普通科連隊、佐世保地方隊、第1航空群などの各部隊を現地に派遣した。この災害派遣は約2週間にわたり行われ、行方不明者の捜索・救助、遺体の収容、給水支援、防疫支援などの活動を実施した。この災害において自衛隊が派遣した規模は延べにして人員約1万3千人、車両約2,500両、航空機約70機、艦艇約20隻であった。

 本年4月の名古屋空港における中華航空機の墜落事故に係る災害派遣については、自衛隊は、名古屋空港事務所長から災害派遣の要請があったことを受けて、小牧基地に所在する各部隊、第10師団などの部隊を派遣し、消火、行方不明者の捜索・救助、遺体の収容などの活動を実施した。この災害派遣において自衛隊が派遣した規模は延べにして人員約5,100人、車両約100両であった。

 また、派遣開始から現在に至るまで、既に3年余りに及ぶ長期間の派遣となっている雲仙普賢岳噴火に伴う大規模火砕流発生に対する派遣は、現在も警戒・監視などの活動を継続して実施しており、現地における自衛隊の存在は、不安な気持ちで生活を続ける住民にとって、精神的にも大きな支えとなっている。(中華航空機墜落事故に伴う災害派遣

イ 地震防災派遣等

 また、地震に関しては、実際に発生すれば災害派遣が行われることになるが、発生前でて、地震による災害の発生の防止又は軽減を図るため、地震防災派遣が行われることがある。地震防災派遣は、「大規模地震対策特別措置法」に基づく警戒宣言が発せられたとき、地震災害警戒本部長(内閣総理大臣)の要請に基づき行うことになっている。

 自衛隊では、地震防災対策強化地域に指定されている東海地域での大規模地震に備え、「東海地震対処計画」を準備している。この計画では、地震発生前に措置される地震防災応急対策の一環としての自衛隊活動と、地震発生後の災害派遣実施体制、活動内容、派遣規模などについて定めている。地震発生前に行われる地震防災派遣においては、関係省庁、強化地域指定県と調整の上、へリコプタ−による交通状況、避難状況などの把握、艦艇、航空機などを使用しての人員、物資の輸送のほか、偵察機も用いて都市部の撮影、解析を行うことにしている。

 また、自衛隊では、南関東地域(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県)に大規模な震災が発生した場合に備え、「南関東地域震災災害派遣計画」を準備している。この計画は、地震発生後の災害派遣実施体制、活動内容、派遣規模などについて定めている。

 自衛隊は、万一これらの事態が起きた場合に備えて、毎年「防災週間」に行われる総合防災訓練や水防等の訓練に参加するなど、災害派遣や地震防災派遣の能力の向上を図っている。

(2) 輸送活動

 自衛隊は、災害派遣として、医療施設に恵まれない離島やへき地における救急患者を緊急輸送しており、民生の安定に大きく貢献している。平成元年度から平成5年度までの5年間に実施した急患輸送は約2,800件にのぼり、これに従事した隊員は延べ約1万5千人、航空機は延べ約3,000機に及んでいる。

 また、自衛隊は国の機関からの依頼に基づき、陸・海・空各自衛隊のヘリコプタ−や輸送機により、内閣総理大臣等の輸送を行っている。自衛隊は、これらの輸送に主として用いるへリコプター(AS−332L)を3機保有しているほか、平成4年4月に総理府から所属替えを受けた2機の政府専用機(B−747)を保有している。

 なお、海外において緊急事態が発生した際に、生命等の保護を要する在外邦人等の輸送について外務大臣から依頼があった場合に、防衛庁長官が原則として政府専用機により輸送することができることとする自衛隊法の改正案を国会に提出している。

(3) 危険物の処理

 陸上自衛隊は、不発弾などが発見された場合、地方公共団体などの要請を受けてその処分に当たっている。不発弾は、今日なお全国各地で土地開発や建設工事の際などに発見されている。その処理実績は、平成5年度において件数2,298件、量にして約93トンにのぼっている。特に、沖縄県での処理量は、平成5年度において約49トンと全国の不発弾処理量の約53%を占めている。

 また、海上自衛隊は、昭和29年の創隊時に保安庁から航路啓開業務を引き継ぎ、わが国周辺の危険海域の掃海を行ってきた。この結果、第2次世界大戦中、わが国近海に敷設された膨大な数の機雷のうち、危険海域にある機雷の掃海はおおむね終了した。現在では、地方公共団体などからの要請を受けて、その都度、海上における機雷その他の爆発性の危険物の処理や除去を行っている。平成5年度においては約43トンの危険物の処理などを行った。(不発弾の処理を行う隊員

(4) 教育訓練の受託等

 自衛隊は、部外からの委託を受け、相当と認められる場合、任務遂行に支障のない範囲で、隊員以外の者に対して教育訓練等を行っている。

 自衛隊では、警察庁の委託を受け、ロープを使用したヘリコプターからの降下訓練や患者を背負っての岩場の移動など、救急活動に必要な能力を身につけるためのレンジャー訓練を行っている。

 また、警察庁、海上保安庁及び東京消防庁からの委託を受け、水中における捜索及び救助法の教育など、水難救助等に関する教育を支援している。

 その他、警察庁及び海上保安庁からの委託により、航空機の操縦訓練も行っている。

 このように、自衛隊は、自衛隊が持っているノウハウや訓練施設を有効にいかせる分野の教育を受託している。(受託教育(操縦訓練)風景

(5) 医療面での貢献

 防衛医科大学校には医学の教育及び研究に資するため病院が設置されており、隊員及びその家族のみならず、広く一般市民の診療も行っている。また、同病院は平成4年9月には、心筋梗塞、脳卒中、頭部損傷等の重篤救急患者の救命医療を行い得る第3次救急医療施設である救命救急センターの運営を開始し、地域医療に一層貢献することになった。

 調査研究の分野では、陸上自衛隊衛生学校、海上自衛隊潜水医学実験隊及び航空自衛隊航空医学実験隊において、それぞれ熱傷治療、飽和潜水、航空医学などの研究を行っている。これらは、研究成果などの蓄積に努めているほか、大学や民間研究機関などの要請に応じ、講師を派遣するなど、長年培った知識・技術を国民に還元している。

 そのほか自衛隊は、有事に備えて医療体制を整備する必要があり、また、自衛隊の精強性を維持するため平素から隊員の健康管理を適切に行う必要から、全国16か所に自衛隊病院を設置している。また、師団などの主要部隊には衛生部隊を設置するなど、医療を含む各種衛生機能を有している。

 地方自治体などからの要請があった場合は、これらの機能を活用し、災害発生時の救急医療、防疫などの民生協力にも努めることとしており、北海道南西沖地震への災害派遣の際には、自衛隊札幌病院、三沢病院などの医官その他の衛生要員からなる医療チーム(総勢50名うち医官11名)が発災後早期に現地に赴き、診療、患者の後送、防疫などの医療活動を行った。

(6) 運動競技会に対する協力

 自衛隊は、関係機関から依頼を受けて、オリンピック競技大会やアジア競技大会、国民体育大会の運営について、式典、通信、輸送、音楽演奏、医療・救急などの面で積極的に協力している。

 また、このほかにも自衛隊は、ユニバーシアード大会、マラソン大会、駅伝大会などにも輸送支援、通信支援などを行っている。

 平成5年度でみると、この種の支援は、運動競技会だけでも約700件、延べ人員約5万4千人、車両延べ約8,300両の多数にのぼっている。(駅伝大会支援

(7) その他の活動

 その他、自衛隊は、国家的行事における天皇・皇族・国賓等に対する儀じよう等、建設省国土地理院の要請による地図作成のための航空測量業務、放射能対策本部の要請による集(じん)飛行、厚生省の行う硫黄島戦没者の遺骨収集に対する輸送等の支援などを実施している。また、自衛隊は訓練の目的に適合する場合には、国、地方公共団体などの委託を受け土木工事などを実施している。

2 自熱環境とのかかわり

 わが国は、戦後の高度経済成長の過程で環境汚染が進行したことから、昭和40年代に公害対策基本法などが整備された結果、環境の状況は全般的には改善されてきた。しかし、今日においても窒素酸化物による大気汚染など、特に大都市圏を中心に改善の遅れている分野が残されているほか、国際的な課題として注目されるようになってきたフロンガスなどによるオゾン層の破壊、二酸化炭素による地球の温暖化などが危倶されるようになってきており、これら環境問題の解決に向けて一層の努力を要する状況となっている。

 他方で、自然環境はときとして国民生活に多大な影響や災疫をもたらすことがある。海氷や火山活動の観測を行うことは、自然環境の変化の国民生活への影響を最小限にくいとめる上で重要である。

 防衛庁・自衛隊においては、国が実施する自然環境に関する調査や研究に対して協力活動を行う一方、保有する多くの施設、装備から排出される汚水や廃油などにより環境を汚染しないよう意を注いでいる。

(1) 南極地域観測に対する協力

 わが国は、昭和32年の昭和基地開設に始まり、南極地域におけるオーロラ光や地磁気の観測などの科学的調査を実施してきた。

 近年、大気中の二酸化炭素などの増加による地球温暖化やフロンガスによるオゾンホールの出現、大気・降水の酸性化など地球規模の環境変化が大きな課題となってきたのに伴い、これらの現象を観測するのに適した地域である南極での研究やモニタリングの重要性が増してきた。

 自衛隊は、これら国が行う南極地域における科学的調査に対し、わが国と1万4千kmも離れた昭和基地との間において、観測隊員、観測器材、基地資材、食料などの輸送その他の協力を行っている。

 昭和基地のあるリュツォ・ホルム湾は、氷山が流れ着きやすく南極でも砕氷航行の特に困難なところである。自衛隊の初代砕氷艦「ふじ」は、南極地域観測が再開された昭和40年度から57年度までの18年間にわたり、このような南極地域の厳しい自然と戦いながら延べ約36万8千海里(地球約17周分)の大航海を行い、累計約8,800トンの物資と約800名の人員の輸送を行った。昭和58年度以降は、砕氷艦「しらせ」が、平成5年度までで、延べ約24万1千海里(地球約11周分)の航海を行い、累計約9,800トンの物資と約640名の人員の輸送を行っている。

 平成5年度の第35次観測支援については、「しらせ」は、平成5年11月14日に日本を出港、南極地域まで物資約930トン及び観測隊員など59名の輸送を行い、同地域において99日間行動し、約5か月間の長期にわたる航海を経て平成6年4月13日に帰国した。(砕氷艦「しらせ」と観測用小型ヘリコプター

(2) 絶滅のおそれのある野鳥の生息調査に対する協力

 わが国の野生生物には、同緯度の他の地域と比較して多くの固有種がある。野生生物の(しゅ)は、その遺伝子に長い進化の歴史を内蔵する貴重な情報源であり、また、生態系の構成要素として、物質循環のバランスの維持などに不可欠な役割を果たしている。

 しかし、最近では、開発や産業活動などに伴い、かつては身近に見られた野生生物の多くが姿を消しつつあり、国は、絶滅の危機に瀕している野生生物の保護のため各種の施策を行っている。その一環として、釧路、根室など北海道東部の湿原に分布しているタンチョウの数、巣や卵の有無、営巣地周辺の環境などについて環境庁が行っている調査に対し、自衛隊は同庁の要請によりヘリコプターを飛行させて協力している。

 広大な湿原地域を綿密に調査するためには、空中からの調査が最適であるが、その際、ヘリコプターは、低高度を低速度でかつ所定の飛行コースから外れないように飛行しなければ調査の実が上がらない。自衛隊は、平素から有する飛行技術を利用して、これに当たっている。(釧路湿原のタンチョウ

(3) 海氷観測に対する協力

 海氷は、冬季の北海道周辺に見られる現象であり、付近の海上交通や漁業、関連産業及び民生に与える影響は極めて大きい。昭和9年の大冷害を契機として、オホーツク海の海氷とわが国の夏の天候との関連が注目され、航空機による海氷観測が実施されることとなった。

 戦後、流氷地域の産業経済振興に関連し、海氷観測や予報への要望がますます高まった。このため、昭和32年、気象庁から防衛庁に対し、航空機による海氷観測支援の依頼があり、今日まで自衛隊機による観測を続けている。昭和45年には、把捉島単冠(ひとかつぷ)湾において、流氷による漁船の集団海難事故があり、これを契機として航空機による海氷観測を更に充実させて、現在に至っている。(海氷観測中の対潜哨戒機P−3C

(4) 火山活動観測に対する協力

 わが国のような火山国では、火山活動観測は、緊急時における住民避難などの初期の対策を的確に実施する上でて、極めて重要である。

 わが国には、噴火のおそれのある火山が約70あるが、これらの火山に異常が発生した場合又は異常の発生のおそれがある場合、自衛隊は、気象庁からの要請を受けて、航空機を活用して目視及び写真撮影の観測支援を実施している。特に注意を要する火山については、定期的に航空機による写真撮影を実施し、そのような火山の活動に対する継続的監視を支援している。

 このほか、科学技術庁防災科学技術研究所による硫黄島での火山活動の観測及び調査研究に対しても、支援を行っている。

(5) 防衛庁・自衛隊の自然環境への配慮

 防衛庁・自衛隊は、全国に約2,900か所の施設を有し、また、航空機、艦船、車両など多数の装備を保有していることから、これらの施設や装備を発生源とする大気汚染、水質汚濁、海洋汚染などを防止、軽減し、国民の生活環境の保全に積極的に努めていく必要があり、現在、次のような対策を行っている。

 ばい煙排出軽減対策

 ボイラー、廃棄物焼却炉などに使用する燃料の選定や燃焼を管理することにより、硫黄酸化物、窒素酸化物、ばい(じん)の排出を適正に行う。

 水質汚濁防止対策

 車両の洗浄などに使用した排水を油水分離装置により浄化したり、実験などで使用した有害な廃薬品を廃液処理装置で処理する。

 海洋汚染防止対策

 自衛隊の艦船から生ずる廃油(ビルジ)、残飯、ふん尿などを処理するために、油水分離装置、ディスポーザー、汚物処理装置を設置している。

 

 その他、一定規模以上の飛行場の新設、増設や埋め立てなどを実施する場合には、それが周辺の環境にどのように影響を及ぼすかを事前に調査し、その結果を関係都道府県知事及び市町村長に送付するとともに、住民からの意見を聴くこととしている。

3 地域社会との交流

 防衛庁・自衛隊は、防衛問題や自衛隊に対する国民の理解と関心を深めるために、防衛政策や自衛隊の現況を広く紹介するなど、さまざまな広報活動を行っている。また、地方公共団体などが行う公共性のあるいろいろな行事に、任務に支障のない範囲で積極的に参加している。自衛隊は、このようなさまざまな地域社会との触れ合いの場を通じて、国民と自衛隊とのより一層の親近感と連帯感の醸成に努めている。

(1) 自衛隊への理解を深めるための活動

 自衛隊の現状を広く国民に紹介する代表的な活動として、陸上自衛隊は毎年富士山麓で実施する総合火力演習、海上自衛隊は各地での体験航海、航空自衛隊は基地航空祭等でのブルーインパルスの展示飛行など、さまざまな活動を行っている。

 また、自衛隊記念日の行事の一環として行われる観閲式及び観艦式は、自衛隊の最高指揮官である内閣総理大臣が部隊を観閲し、自衛隊の装備や訓練の成果を広く国民に紹介するためのものであり、観閲式は毎年、観艦式は2〜3年ごとに行っている。なお、平成5年度の観閲式では、予行を含め約5万8千人が見学した。

 このほか、陸・海・空各自衛隊の音楽隊、儀じよう隊、防衛大学校の学生、ゲスト歌手などが出演する「自衛隊音楽まつり」も行っており、平成5年度には予行を含め約3万7千人の観客を魅了した。

 自衛隊では、国民に自衛隊を理解してもらうための一助として、民間企業や各種団体などからの依頼を受けて、新入社員などの隊内生活体験(体験入隊)を実施している。これは、自衛隊の駐屯地や基地に2〜3日間宿泊し、隊員と同じような日課で自衛隊における隊内生活を体験するものであり、平成5年度には、約9万8千人の体験入隊を実施した。(自衛隊音楽まつり

(2) 地域社会に密着した活動

 自衛隊の部隊・機関は、所在の自治体との協調、協力に努めているのみならず、地域の人々と一体となって、地域社会に溶け込んだ活動をしている。

 これらの活動の具体的な例としては、地元の小中学生や各種団体の会員などによる部隊見学、創立記念日のような機会をとらえての部隊の一般公開、体験航海、体験搭乗、音楽隊による演奏会の開催などがある。また、地元からの要請により、グランド、体育館、プールなどの施設を開放したり、これらの施設を使って少年サッカーや小中学生の水泳大会などを行ったりしている。隊員は、一緒にスポーツを楽しんだり、サッカー、バレーボール、各種武道、スキーなどの審判や指導員を引き受けるなど、地元の人たちと密接に交流している。

 このほか、駐屯地や基地などの主要幹部は、地元の人たちの自衛隊に対する理解を得るために、地元の各種団体から要請を受け、国際軍事情勢、安全保障、防衛問題などに関する講演を行うことも多い。(子供たちのキャンプに対する支援

4 国民から見た自衛隊

 わが国の平和と安全を保つためには、精強な自衛隊を育成するとともに、日米安全保障体制を堅持しその信頼性を高めていくことがもとより重要である。しかし、これを支えるのは国民である。すなわち、国の防衛は、国民の防衛に対する理解と協力があって初めて全うされるものである。

 防衛庁は、このような認識に基づき、国民の防衛意識の動向に注、目しつつ、わが国の防衛をより広範で、より確固とした国民的基盤に立脚したものとするための努力を行っている。

 総理府が昭和47年度から3年ごとに実施してきている「自衛隊・防衛問題に関する世論調査」が平成5年度においても実施された。この世論調査の結果により、最近の国民の防衛意識の推移を概観すると、次のとおりである。

(1) 自衛隊・防衛問題に関する関心

 国民の一部には、防衛問題に対第して「あまり関心がない」か「全く関心がない」といういわゆる無関心層が存在しているが、これは地続きの国境がないというわが国の地理的特性や戦後今日まで安定した平和と繁栄を享受していることなどによるものと考えられる。しかし、ここ10年程をみると、半数を超える人が「関心がある」と答えている。(第4−1図 自衛隊・防衛問題への関心

(2) 自衛隊に対する印象

 自衛隊に対する全般的な印象は、「良い印象を持っている」と答えた人が26%、「悪い印象は持っていない」と答えた人が50%、合わせて77%であり、前回(平成2年度)の調査に比べ9%増加している。

 個別の印象については、前回の調査でトップであった「実態がよくわからない」が今回大幅に減少した。また、「きつい仕事や危険な仕事が多い」という印象や今回新たに選択肢に加わった「社会的、国際的に重要な仕事をしている」という印象を持つ人がそれぞれ全体の約3分の1あり、これらのことは、雲仙普賢岳噴火や北海道南西沖地震などに伴う災害救援活動及びペルシャ湾での掃海業務やカンボディア、モザンビークでの国際平和協力業務の内容が広く国民に認識、評価された結果と考えられる。(第4−2図 自衛隊に対しての印象

(3) 自衛隊の役割

 今回の世論調査では選択肢に「国際貢献」を新たに加えて調査を行っているが、自衛隊が存在する一番の目的については、約半数の人が「国の安全の確保」と答えている。

 その反面、自衛隊が一番役に立ってきたことについては、「災害派遣」とする意見が従来から大きな割合を占め、「国の安全の確保」とする意見は、1割弱となっている。これは、災害救援活動が最も国民の目に触れやすいのに対し、自衛隊の存在が日米安全保障体制とあいまって侵略を未然に防止し、平素からわが国の安全の確保に役立っているという目に見えない意義・役割がなかなか理解されにくいことによるものと考えられる。

 また、「国際貢献」については、自衛隊が存在する目的や自衛隊が役に立ってきたことについての質問ではこれを挙げた人は少数であるが、自衛隊が今後どのような面に力を入れていったらよいかという質問に対しては22%の人が「国際貢献」を挙げており、「災害派遣」、「国の安全の確保」に次いで高い値となっている。(第4−3図 自衛隊の役割

(4) 防衛体制

 わが国の防衛の在り方については、「現状どおり日米の安全保障体制と自衛隊で日本の安全を守る」と現在の在り方を肯定する人が、約7割である。また、「防衛力の規模」や「防衛予算の規模」については、「今の程度でよい」とする現状肯定の意見が約6割となっている。この結果から、自衛隊と日米安全保障体制からなる現在の体制、防衛努力の現状といったわが国防衛の基本的在り方は、おおむね国民に理解され、支持されているものと考えられる。(第4−4図 防衛体制

(5) 国際貢献

 前回の調査から設問に加えられた国際貢献についての質問に対しては、外国での災害救援活動への自衛隊派遣及び国連平和維持活動への自衛隊参加については、前回の調査に比べ「賛成」とする人が増加し、「反対」とする人を上回っている。これは、わが国が実施してきた国際平和協力業務への自衛隊参加について、国民におおむね理解されてきたものと考えている。(第4−5図 国際貢献

(6) 防衛意識

 国を守る気持ちが他の人と比べて強い方か弱い方かとの問いに対しては、「強い」と答えた人が50%、「弱い」と答えた人が8%であり、この傾向はここ15年間あまり変化していない。また、侵略されたときの態度については、「何らかの方法で自衛隊を支援する」と答えた人が39%と最も高い。

 防衛庁としては、このような国民の防衛意識の現状を踏まえ、今後とも自衛隊や防衛問題に対する関心を高め、理解を深めるための着実な努力が必要であると考えている。(第4−6図 防衛意識

(注) 今回の調査の概要

   調査時期:平成6年1月13日〜1月23日

   調査対象:全国20歳以上の男女3,000人

   有効回収数(率):2,082人(69.4%)

   調査方法:調査員による面接聴取

   (注) 数値は、小数点以下を四捨五入しており合計と合わない場合がある。

第4節 地域社会と防衛施設

 防衛施設は、自衛隊及び在日米軍の各種活動の拠点であり、自衛隊と日米安全保障体制を支える基盤として必要不可欠なものである。それらの機能を十分に発揮させるためには、防衛施設とその周辺地域との調和を図り、周辺住民の理解と協力を得て、常に安定して使用できる状態に維持することが必要である。

1 防衛施設の現状

 防衛施設は、自衛隊施設と在日米軍施設・区域に分けられ、その用途は、演習場、飛行場、港湾、営舎など多岐にわたっている。

 防衛施設の土地面積は、平成6年1月1日現在約1,397km2であり、これは国土面積の約0.37%である。

 このうち、自衛隊施設の土地面積は約1,071km2であり、その約42%が北海道に所在する。また、用途別にみると、演習場と飛行場が全体の約82%を占めている。在日米軍専用の施設・区域の土地面積は約318km2であり、その約75%が沖縄県に所在する。

 なお、自衛隊は、日米安全保障条約に基づく地位協定により、在日米軍の施設・区域のうち約35km2を共同使用している。

 防衛施設には、飛行場や演習場のように、もともと広大な面積の土地を必要とする性格のものが多い。また、わが国の地理的特性から、狭い平野部に都市や諸産業と防衛施設が競合して存在しており、特に、経済発展の過程において多くの防衛施設の周辺地域の都市化が進んた結果、防衛施設の設置や運用が制約されるという問題が大きくなっている。さらに、航空機の頻繁な離発着や射爆撃、火砲による射撃、戦車の走行など、その運用によって周辺地域の生活環境に影響を及ぼすという問題もある。(第4−7図 自衛隊施設(土地)の地域的分布状況)(第4−8図 自衛隊施設(土地)の用途別使用状況)(第4−9図 在日米軍施設・区域(土地)の地域的分布状況)(第4−10図 在日米軍施設・区域(土地)の用途別使用状況

2 防衛施設と周辺地域との調和を図るための施策

 これらの諸問題の解決を図るため、政府は、従来から、防衛施設の設置や運用に当たっては、国の防衛の重要性や防衛施設の必要性について国民の理解を求めるとともに、以下の施策を行い、防衛施設と周辺地域との調和を図るよう努めている。

 射撃訓練等による演習場内の荒廃に伴う泥水の流出や水不足などの対策として、河川の改修、ダムの建設などの助成

 航空機の騒音対策として、音源対策、運航対策と並行して、学校、病院、住宅等の防音工事の助成、並びに移転補償、緑地帯等の緩衝地帯の整備など

 防衛施設の設置や運用による周辺地域住民の生活上又は事業活動上の障害の緩和のため、ごみ処理施設、公園、農業用施設などの整備についての助成

 ジェット機が離着陸する飛行場や砲撃が実施される演習場などその設置や運用が生活環境や開発に著しい影響を及ぼしている市町村に対する各種公共用施設の整備のための交付金の交付

 航空機の頻繁な離着陸等による農林漁業などの事業経営上の損失に対する補償(資料61参照)

 これらの施策は、防衛施設に対する周辺地域住民の理解と協力を得る上で不可欠なものである。

 なお、航空機騒音問題については、小松基地、横田飛行場、厚木飛行場及び嘉手納飛行場の周辺住民から、夜間の航空機の離発着の差止請求及び損害賠償請求を内容とする訴訟が提起されている。このうち、横田基地関係についていえば、第1・2次横田基地騒音訴訟につき、最高裁判所において、過去分の損害賠償請求を認めた東京高裁判決が支持され、同判決が確定した。また、第3次横田基地騒音訴訟についても、同趣旨の判決が東京高等裁判所で出され確定している。

 政府としても、従来から、住宅防音工事の助成などの施策について重点的に努力してきたところであり、今後とも、飛行場周辺住民の理解を得られるよう引き続き努力していくこととしている。

3 在日米軍施設・区域に係る諸施策

(1) 空母艦載機の着陸訓練場の確保

 空母艦載機のパイロットは、広い洋上では点のような空母の狭い甲板に着艦するため、非常に高度な技術を必要とする。空母は、補給、整備、休養などのために入港するが、入港中もパイロットはその技量を維持するため、陸上の飛行場で着陸訓練を十分に行う必要がある。

 この訓練は、これまで主として厚木飛行場で行われてきているが、同飛行場周辺は市街化しており、米軍にとっては訓練の制約の問題が、周辺住民にとっては深刻な騒音問題がそれぞれある。これらの問題を解決するため、政府は、三宅島に飛行場を設置することが適当と考え、そのための努力を続けているが、村当局をはじめ地元住民の間に、なお反対の意向が強く、実現までには相当の期間を要すると見込まれる。

 この間、厚木飛行場周辺の騒音問題をこのまま放置できないため、三宅島に訓練場を設置するまでの暫定措置として、硫黄島を利用することとし、平成元年度から同島における艦載機着陸訓練に必要な施設の整備を進め、一部完成した施設から米側へ提供し、平成3年8月から使用を開始した。平成5年3月、計画された施設の整備が完了し、同年9月から硫黄島において最大規模での訓練が開始された。

 政府としては、今後においても引き続き同島でできるだけ多くの艦載機着陸訓練が実施されるよう努めているところである。

(2) 岩国飛行場滑走路移設事業

 山口県に所在する岩国飛行場は、米海兵隊及び海上自衛隊が使用しているが、同飛行場の北側には石油コンビナート等の工場群があることなどから、地元岩国市などは、昭和46年以降、同飛行場周辺における安全の確保及び航空機騒音の緩和を図るため、同飛行場の沖合への移設を国に対して強く要望してきた。

 これらの要望を受けて、政府としては、昭和48年度以降、種々の調査を行ってきたところであるが、平成4年8月、これらの調査の結果を踏まえ、同飛行場の運用上、安全上及び騒音上の問題を解決し、米軍の駐留を円滑にするとともに、同飛行場の安定的使用を図るため、滑走路を東側(沖合)へ1,000m程度移設する事業を推進することとした。

 本事業は、平成5年度から3年間の予定で、実施設計・埋立承認手続などを実施し、工事については、埋立承認手続の進捗状況などを踏まえ対応することとしており、平成5年度には、環境影響評価準備書の作成並びに実施設計のためのボーリング及び測量を実施した。平成6年度は、環境影響評価書の作成、実施設計及び埋立に係る漁業補償を計画している。

(3) 沖縄に所在する在日米軍施設・区域の整理統合

 在日米軍施設・区域の安定的使用を確保することは、日米安保条約の目的達成のため必要であるが、沖縄県には施設・区域が集中しているため、地元からその整理統合について強い要望がある。これを踏まえ、平成2年6月に23件、約1,000ha(約10km2)の施設・区域について、返還に向けて作業を進めることが日米間で合意され、これを中心に現在逐次返還手続きを進めている。

 現在までに、23件のうち12件、約571ha(約5.71km2)について返還済み又は返還について合意済みであり、残されたものについてもできるだけ早く返還できるように作業を進めている。

 また、これら以外の地元から返還要望のあるものについて、地元の実情などを踏まえ、積極的に整理統合や返還に向けて米側との調整に努めている。

むすび

 冷戦が終結し、安全保障をめぐる環境は大きく変化したが、残念ながら平和で安定的な世界はいまだ訪れてはいない。

 国際社会においては、国連の活動を始めとして、地域レベルの安全保障の枠組みが模索されるなど、より安定した国際秩序の確立を目指してさまざまな努力が続けられている。

 しかし、新たな秩序づくりの方向性が明確になったとはいえず、世界の情勢はいまだ先行きに対する不透明感が続く中、流動的な要素を抱えたまま推移している。

 このような中で、世界の各国は、それぞれの置かれた安全保障環境の下で自国の安全をより確かなものとする努力を行っている。

 わが国としても、引き続き、自らの防衛努力を行うとともに、日米安全保障体制を堅持し、その信頼性を高めていくことが重要である。

 また、わが国は、冷戦終結に伴う環境変化を受けて、これまでに国連の平和維持活動への協力、中期防の修正、ロシアを始めとする周辺諸国との安全保障対話の充実といった施策に取り組んできた。

 さらに、今後の防衛力の在り方については、国際情勢の変化、将来における人的資源の制約の増大等に的確に対応するため、現在、精力的に検討を行っている。

 変化の時代にあって、防衛庁・自衛隊として、「変化」の実態を解明し、幅広い観点から議論を深め、「変化」に適確に対応していくことが、我々に課せられた国民の負託に応える道であると信じている。