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わが国は、今日まで、みずから適切な規模の防衛力を保持するとともに、日米安全保障体制を堅持し、いかなる態様の侵略にも対応し得る防衛体制を構築し、これによって侵略を未然に防止することを防衛政策の基本としてきた。紛争の絶えない国際社会の中にあって、このような防衛政策の着実な推進により、わが国は半世紀近くにわたり国の安全を保ってくることができた。
冷戦の終結後、国際社会においては、大規模な武力紛争の可能性は遠のいたものの、依然として多くの不安定要因が存在しており、新たな安全保障の枠組みも確立されていないのが現状である。各国は、国際情勢の変化を念頭において、それぞれの安全保障環境に即した適切な対応を模索している。
現在、わが国は、基盤的防衛力構想に基づくわが国自身の防衛力と日米安全保障体制により、国の安全を確保することとしている。
この章では、こうしたわが国の防衛政策の考え方を説明することとする。
なお、わが国においても、国際情勢の変化に対応した安全保障の在り方についてさまざまな議論が生じてきているが、冷戦終結後の国際情勢の変化を受けての防衛庁・自衛隊の対応については、「第3章自衛隊−変化への対応」で説明する。
わが国は、第2次世界大戦後の廃墟から立ち上がり、今日では経済大国と呼ばれるまでになり、国民はその繁栄を享受している。この背景には、国民一人ひとりの英知と努力とともに、自由主義国家の一員として、戦後半世紀近くにわたり、外国からの侵略を受けることもなく、国の安全が保たれてきたことがある。
今日の国際社会においては、国際連合(国連)の活動を始めとして、欧州の新たな安全保障の枠組みの模索など、より安定した国際秩序の確立を目指してさまざまな努力が続けられている。しかしながら、こうした動きは始まったばかりであり、国際社会は、侵略のおそれの全くない真に平和な安全保障環境の確立には至っていないのが現実である。こうしたことから、各国はそれぞれの環境に即し、自国の安全確保に努めている。
平和は、たたこれを願い求めるだけでは得られない。わが国としても国際社会の現状に照らし、国の安全を確保するため、わが国の環境に即した適切な努力を怠ってはならない。わが国の安全を確保するための手段としては、国際政治の安定を確保するための外交努力、内政の安定による安全保障基盤の確立、みずからの防衛努力及び日米安全保障体制の堅持がある。
このような国の安全を確保するための手段のうち、外交などの分野での努力は極めて重要である。わが国は、外交努力により世界の平和の確立と安全保障を高めるため、国連の活動などに協力するとともに、みずからさまざまな努力を行っている。
また、内政の安定により安全保障の基盤を確立することも極めて重要である。わが国としては、適切な内政諸施策を講じることにより、国民生活を安定させ、国民の国を守る気概の充実を図り、国内的にも侵略を招くような間隙が生じることがないよう努力している。
しかし、外交などの分野での努力のみでは、外国からの実力をもってする侵略を必ずしも未然に防止することはできない。また、万一侵略を受けた場合は、これを排除することもできない。軍事力は、侵略を排除する意思と能力を表するものとして侵略を未然に防止し、万一侵略を受けた場合これを排除するという機能を有する。その意味で、軍事力の機能は、他のいかなる手段や力によっても代替し得ないものであり、軍事力は、国の安全保障を最終的に担保するものである。
このような軍事力は、その時々の情勢の変化に応じ一朝一夕に整備できるものではなく、国際情勢の変化を慎重に見極めつつ、長期的視点に立って、計画的かつ継続的に整備する必要がある。
わが国としては、みずから適切な規模の防衛力の整備を進めるとともに、米国との安全保障体制を堅持し、その信頼性を高めていくことで、わが国の安全を確保していくとの方針に基づき、継続的な努力を行ってきている。このような努力は、わが国の安全を確保するのみならず、アジアひいては世界の平和と安全に貢献することとなる。
わが国は、第2次世界大戦後、再び戦争の惨禍を繰り返すことのないよう決意し、ひたすら平和国家の建設を目指して努力を重ねてきた。恒久の平和は、日本国民の念願であり、この平和主義の理想を掲げる日本国憲法は、第9条に戦争放棄、戦力不保持及び交戦権の否認に関する規定を置いている。わが国が独立国である以上、この規定が主権国家としてのわが国固有の自衛権を否定するものではないことは、異論なく認められている。
政府は、このようにわが国の自衛権が否定されない以上、その行使を裏付ける自衛のための必要最小限度の実力を保持することは、憲法上禁止されているものではないと解している。このような考えの下に、政府は、専守防衛をわが国防衛の基本的な方針として、実力組織としての自衛隊を保持し、その整備を推進し、運用を図っており、これらは憲法上何ら問題がない。
ア 保持し得る自衛力
わが国が憲法上保持し得る自衛力は、自衛のための必要最小限度のものでなければならない。
自衛のための必要最小限度の実力の具体的な限度は、その時々の国際情勢、軍事技術の水準その他の諸条件により変わり得る相対的な面を有するが、憲法第9条第2項で保持が禁止されている「戦力」に当たるか否かは、わが国が保持する全体の実力についての問題である。自衛隊の保有する個々の兵器については、これを保有することにより、わが国の保持する実力の全体がこの限度を超えることとなるか否かによって、その保有の可否が決せられる。
しかしながら、個々の兵器のうちでも、性能上専ら相手国の国土の壊滅的破壊のためにのみ用いられる、いわゆる攻撃的兵器を保有することは、これにより直ちに自衛のための必要最小限度の範囲を超えることとなるから、いかなる場合にも許されない。したがって、例えば、ICBM、長距離戦略爆撃機、あるいは攻撃型空母を自衛隊が保有することは許されない。
イ 自衛権発動の要件
自衛権の発動は、いわゆる自衛権発動の三要件、すなわち、
わが国に対する急迫不正の侵害があること
この場合にこれを排除するために他に適当な手段がないこと
必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと
の三要件に該当する場合に限られる。
ウ 自衛権を行使できる地理的範囲
わが国が自衛権の行使としてわが国を防衛するため必要最小限度の実力を行使できる地理的範囲は、必ずしもわが国の領土、領海、領空に限られないが、それが具体的にどこまで及ぶかは個々の状況に応じて異なるので、一概にはいえない。しかしながら、武力行使の目的をもって武装した部隊を他国の領土、領海、領空に派遣するいわゆる海外派兵は、一般に自衛のための必要最小限度を超えるものであって、憲法上許されないと考えている。
エ 集団的自衛権
国際法上、国家は、集団的自衛権、すなわち、自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止する権利を有しているものとされている。わが国が、国際法上、このような集団的自衛権を有していることは、主権国家である以上当然である。しかし、憲法第9条の下において許容されている自衛権の行使は、わが国を防衛するため必要最小限度の範囲にとどまるべきものであると解しており、集団的自衛権を行使することは、その範囲を超えるものであって、憲法上許されないと考えている。
オ 交戦権
憲法第9条第2項は、「国の交戦権は、これを認めない」と規定しているが、わが国は、自衛権の行使にあたっては、すでに述べたように、わが国を防衛するため必要最小限度の実力を行使することが当然に認められており、その行使は、交戦権の行使とは別のものである。
わが国が憲法の下で進めている防衛政策は、昭和32年5月に国防会議及び閣議で決定された「国防の基本方針」にその基礎を置いている。
この「国防の基本方針」は、まず、国際協調など平和への努力の推進と民生安定などによる安全保障基盤の確立を、次いで効率的な防衛力の整備と日米安全保障体制を基調とすることを基本方針として掲げている。
国防の基本方針 国防の目的は、直接及び間接の侵略を未然に防止し、万一侵略が行われるときはこれを排除し、もって民主主義を基調とするわが国の独立と平和を守ることにある。 この目的を達成ずるための基本方針を次のとおり定める。
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この「国防の基本方針」を受けて、これまで、わが国は、平和憲法の下、専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国にならないとの基本理念に従い、日米安全保障体制を堅持するとともに、文民統制を確保し、非核三原則を守りつつ、節度ある防衛力を自主的に整備してきている。このことは、累次の機会に内外に明らかにしており、わが国周辺諸国に対しても、さまざまな機会をとらえて説明し、わが国の防衛政策についての理解を求めているところである。
ア 専守防衛
専守防衛とは、相手から武力攻撃を受けたとき初めて防衛力を行使し、その防衛力行使の態様も自衛のための必要最小限にとどめ、また、保持する防衛力も自衛のための必要最小限のものに限られるなど、憲法の精神にのっとった受動的な防衛戦略の姿勢をいうものである。
イ 軍事大国にならないこと
軍事大国という概念については、明確に定義されたものはないが、わが国として他国に脅威を与えるような軍事大国とならないということは、自衛のための必要最小限度を超えて、他国に脅威を与えるような強大な軍事力をわが国が保持することはないとの意味である。
ウ 非核三原則の堅持
非核三原則とは、核兵器を持たず、作らず、持ち込ませずという原則を指すものであり、わが国はこれを国是として堅持している。
なお、核兵器の製造・保有は、原子力基本法の規定のうえからも禁止されているが、さらに、わが国は、昭和51年6月、核兵器の不拡散に関する条約を批准し、非核兵器国として、核兵器を製造しない、取得しないなどの義務を負っている。
エ 文民統制の確保
文民統制は、シビリアン・コントロールともいい、民主主義国における軍事に対する政治優先または軍事力に対する民主主義的な政治統制を指す。
わが国の場合、終戦までの経緯に対する反省もあり、自衛隊があくまで国民の意思によって整備・運用されることを確保するため、旧憲法下の体制とは全く異なり、厳格なシビリアン・コントロールの諸制度を採用している。
具体的には、まず、国民を代表する国会が、自衛官の定数、主要組織などを法律・予算の形で議決し、また、防衛出動などの承認を行う。次に、国の防衛に関する事務は、一般行政事務として、内閣の行政権に完全に属している。また、この内閣を構成する内閣総理大臣その他の国務大臣は、憲法上文民でなければならないことになっている。内閣総理大臣は、内閣を代表して自衛隊に対する最高の指揮監督権を有しており、自衛隊の隊務を統括する防衛庁長官も、文民である国務大臣をもって充てられる。内閣には、国防に関する重要事項等を審議する機関として安全保障会議が置かれている。さらに、防衛庁では、防衛庁長官が自衛隊を管理し、運営するにあたり、政務次官及び事務次官が長官を助けるのはもとより、基本的方針の策定について長官を補佐するいわゆる文官の参事官が置かれている。
なお、シビリアン・コントロールの制度が実をあげるためには、運営上の努力が今後とも必要であることはいうまでもない。(神田防衛庁長官の着任式)
日米安全保障体制は、わが国の存立と繁栄にとって不可欠なものである。
わが国は、激動する国際社会の中にあって戦後半世紀近くにわたり平和と繁栄を享受してきたが、これは、わが国自身の防衛努力とあいまって、日米安全保障体制が抑止の体制として一貫して有効に機能してきたことが大きな要素であることは否定できない。振り返れば、わが国が、先の大戦後再び独立を回復するに当たって、米国との同盟関係を選択したことは、わが国が自由主義陣営の一員としての道を歩むことの宣明であった。この選択が極めて適切なものであったことは、何よりその後の実績が示している。日米安全保障体制は、今や広範な国民的支持を得て、国民の間に深く定着している。
今日、新たな国際秩序の形成に向けて、いろいろな議論があるが、今後とも、わが国はこの日米安全保障体制の維持を国政の基本としていくべきである。また、この日米安保体制を基盤とする日米のパートナーシップの永続のためには、両国政府の努力のみならず、両国民が互いの意思疎通及び相互理解を図っていくことも重要である。
本節では、このような日米安全保障体制のもつ意義を説明し、その信頼性の向上を図っていくために行っているさまざまな努力の現状について述べることとする。
まず第一に、日米安全保障体制は、わが国の安全の確保にとって重要な役割を果たしている。
今日の国際社会において、自国の意思とカだけで国の平和と独立を確保しようとすれば、核兵器の使用を含む全面戦争から通常兵器によるさまざまな態様の侵略事態、さらには軍事力による示威、恫喝といったようなものまで、あらゆる事態に対応できる隙
わが国が独力でこのような態勢を保持するとなれば、経済的に容易ではなく、何よりもわが国の政治姿勢として適切なものとはいいがたい。
このため、わが国としては、自由と民主主義という基本的な価値、理念を共有し、強大な軍事力を有する米国と同盟を結び、その抑止力をわが国の安全保障のために有効に機能させていくことで、わが国みずからの適切な防衛力の保持と合わせ、隙
日米安全保障条約(資料9参照)は、第5条において、わが国への武力攻撃があった場合、日米両国が共同対処を行うことを定めている。この米国の日本防衛義務により、わが国への武力攻撃は、自衛隊のみならず米国の有する強大な軍事力とも直接対決することとなり、侵略には相当の犠牲を覚悟しなければならなくなる。このため、相手国は侵略を躊躇
このように、いかなる事態にも対応できる隙
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第二に、日米安全保障体制は、わが国の安全のみならず、極東の平和と安全の維持にも寄与している。
日米安全保障条約は、第6条において、わが国の安全及び極東における国際の平和と安全のため、米軍のわが国における施設・区域の使用を認めており、同条に基づき、米国はその軍隊をわが国に駐留させている(資料10、資料11参照)。この米軍のプレゼンスは、米国のこの地域への深い関心の表れであり、わが国の安全のみならず、極東における国際の平和と安全の維持にも貢献している。
また、極東地域の平和と安全を抜きにした世界の平和と安全は考えられないという意味で、日米安全保障体制は、世界の平和と安全を確保する意味でも重要な意義を有しているといえる。
第三に、日米安全保障体制は、わが国にとって一番重要な二国間関係である日米関係の中核を成している。
日米安全保障条約は、安全保障面をその中核とするものであるが、同時に、政治的、経済的協力関係の促進についても重要な規定を置いている。この条約により、日米安全保障体制は、日米間において、単に防衛面のみならず、政治、経済、社会などの両国の幅広い分野における友好協力関係の基礎となっている。
米国との緊密な友好関係の保持は、わが国の発展と繁栄のために欠かせないものである。そればかりか、日米両国の国際社会に占める地位を考えると、両国の協力と協調は国際社会の平和と安定にとって極めて重要なものとなっている。
第四に、日米安全保障体制を基軸とする日米同盟関係は、日本の外交の基盤となっている。
今日の国際情勢は、冷戦が終結する一方で、世界各地に地域紛争に発展し得る多くの不安定要因が存在している。アジア・太平洋地域においても、緊張緩和に向けた動きもあるが、この地域の情勢は複雑であり、種々の未解決の問題が残されている。このような中で、わが国として近隣諸国との対話を促進し、この地域の安定を図っていくためには、日米安全保障体制に裏付けられた強固な日米の同盟関係は重要な役割を果たしていくものと考えている。
日米安全保障体制を有効に機能させるためには、両国が常日頃から、その信頼性を維持、向上させる努力を払わなければならない。
このため、わが国は、米国の関係者とさまざまな機会に協議を行い意思疎通を図るとともに、在日米軍の駐留の一層の円滑化を進め、また、共同研究開発、共同訓練、「日米防衛協力のための指針」に基づく研究など各種の日米防衛協力を行ってきている。
特に最近のように、国際情勢の変化が著しいときには、日米両国は、あらゆる機会をとらえてこれまで以上に緊密な対話を行い、相互信頼と協調関係の確立を図る必要がある。
米国は、そのグローバルな役割と同盟国に対するコミットメントを今後とも果たしていくであろう。しかし、その一方で、米国には経済的地位の相対的低下や財政的な制約などの状況が生じてきている。したがって、米国は、同盟国に対するコミットメントを維持するに当たり、同盟国側からの協力も強く求めている。米国は、わが国に対しても責任分担の面での努力を引き続き行うことを期待している。わが国は、今日の国際社会の中にあって、国力国情に応じた役割をみずから積極的に果たしていこうとしているが、わが国として自主的に施策を講じていくことは、日米安全保障体制の信頼性の維持、向上を図っていく上でも、極めて重要なものとなっている。
日米両国間の安全保障上の意見の交換は、通常の外交ルートによるもののほか、内閣総理大臣と米国大統領との間の日米首脳会談や防衛庁長官と米国国防長官との間の日米防衛首脳会談を始め、防衛実務担当者の交流に至るまで、各レベルにおいて緊密に行われている(資料12参照)。
あらゆる機会とレベルで意思の疎通を図っていくことは、日米安全保障体制を有効に機能させる上で肝要である。
日米首脳会談
平成6年2月に行われた日米首脳会談では、今日の日米関係ほど重要な二国間関係はないとの認識の下、安全保障の面での日米協力が拡大し深まっていることを確認するとともに、北朝鮮、ロシアなどの動きを含むアジア・太平洋地域に対する共通の関心事項について話し合いが行われた。
特に、両国は、北朝鮮の核兵器開発問題に関して、北東アジアの安全保障と国際的な不拡散体制にとって重大な挑戦であり、朝鮮半島において核が作られないよう緊密に協力していくことで合意した。
日米安全保障協議委員会(いわゆる「2+2」)
米側の構成メンバーが国務長官と国防長官に変更されて初めての日米安全保障協議委員会が、平成6年3月、東京で開催された(日本側:外務大臣、防衛庁長官、米側:国務長官、国防次官)。
今回の会合では、冷戦後においても、日米安全保障体制がアジア・太平洋地域の平和と安定にとって極めて重要である旨確認された。その上で、その円滑かつ効果的運用を確保するとの観点から在日米軍駐留支援、米軍施設・区域をめぐる問題などについて話し合われたほか、アジア・太平洋地域の国際情勢、特に北朝鮮の情勢について意見交換が行われた。(日米安全保障協議委員会)
日米防衛首脳会談
平成5年9月には防衛庁長官が訪米、同年11月には米国防長官が訪日するなど、首脳レベルでも頻繁な意見交換が行われ、日米安保体制の重要性、アジア・太平洋地域の国際情勢、戦域ミサイル防衛に係る日米協力などについて話し合われた。
さらに、平成6年4月にも米国防長官が訪日し、日米防衛首脳会談が行われた。この会談では、まず、米国から安全保障面でのわが国との協力が一層重要なものとなってきているとの認識が示され、日米安全保障関係の重要性について双方で再確認した。
また、アジアをめぐる国際情勢について意見交換が行われ、北朝鮮の核兵器開発問題については、国際社会の確固だる姿勢を示しつつ、外交的解決を求めて対話の窓口を開けておくことが重要であることで意見が一致した。このほか、ロシア、中国情勢についても意見交換が行われた。
さらに、沖縄の米軍施設・区域をめぐる問題についても話し合いが行われた。
在日米軍の駐留は、日米安全保障体制の核心であり、同体制の有する機能を真に有効に発揮させるためには、わが国としても、在日米軍の駐留を円滑にするための諸施策をできる限り積極的に実施していく必要がある。こうした諸施策のうち、在日米軍の駐留経費の負担については、提供施設の整備及び在日米軍従業員の労務費の一部負担に加え、平成3年度から在日米軍従業員の基本給等及び光熱水科等を負担している。
また、施設・区域の提供に関しては、池子米軍家族住宅の建設の問題があり、引き続きその解決のための努力を行っている。
このほか、空母艦載機の着陸訓練場の確保、岩国飛行場滑走路移設事業や沖縄に所在する在日米軍施設・区域の整理・統合といった施策を行っている(第4章第4節 地域社会と防衛施設参照)。
在日米軍駐留経費の負担
わが国は、地位協定(資料13参照)に基づき、日米両国で合意するところに従い、施設・区域を、米国に負担をかけないで在日米軍に提供する義務を負っている。また、在日米軍は、在日米軍従業員の労働力を必要としており、この労働力は、地位協定によりわが国の援助を得て充足されることになっている。
昭和40年代後半から、わが国の物価と賃金の高騰や、国際経済情勢の変動により、在日米軍の駐留に関して米国が負担する経費は相当圧迫を受けてきている。わが国は、これらの事情を勘案し、在日米軍の駐留を円滑かつ安定的にするための施策を可能な限り推し進めており、その概略は次のとおりである。
ア わが国は、米軍が使用する施設について、昭和54年度から、隊舎、家族住宅、管理棟、汚水処理施設、消音装置などの整備を行い、これらを米軍に提供している。
イ 在日米軍が必要とする在日米軍従業員の労務費については、従来、米側が負担していたが、米側負担の軽減を図り、かつ、従業員の雇用の安定を図るため、昭和53年度から福利費などを、また、昭和54年度からはわが国の国家公務員の給与条件にない部分の語学手当などをわが国は負担してきた。
その後、日米両国を取り巻く経済情勢の大きな変化に伴い、在日米軍従業員の雇用の安定が損なわれる状況もでてきたため、退職手当など8手当についても日本側が負担することとし、昭和62年、このような地位協定の特例措置を講じるため、日米間で特別協定を締結した。
ウ さらに、わが国は、日米両国を取り巻く諸情勢の変化に留意し、日米安全保障体制の効果的な運用を確保するための努力の一環として、経費負担につき新たな措置を講じることとした。
具体的には、従来米側が負担してきた経費のうち、在日米軍従業員の基本給及び諸手当全項目と在日米軍が公用のため調達する電気、ガス、水道、下水道及び暖房用などの燃料の料金・代金の、全部又は一部を5年間にわたって新たに負担することとし、平成7年度にその全額を負担することとした。このような地位協定の特例措置を講ずることを可能にするため、新たな特別協定が日米間で締結され、平成3年4月、国会で承認され発効した(資料14参照)。この経費について、平成6年度は、その75%を負担することとしている。
なお、平成6年3月に実施された日米安全保障協議委員会において、現行特別協定が平成7年度末に効力を失うことを考慮して、今後、協議を開始することで意見の一致をみたところである。
エ このほか、わが国は、従来から施設・区域の提供に必要な経費(施設の借料など)の負担、施設・区域の周辺地域の生活環境などの整備のための措置、在日米軍従業員の離職対策などの施策を行うほか、自治省が市町村に対して基地交付金などを交付している。
池子米軍家族住宅の建設
わが国には、多くの米軍人が本国を離れて駐留している。しかし、このために必要な米軍家族住宅は、特に横須賀地区で著しく不足している。
政府は、在日米軍の駐留を効果的なものとするため、その対策を緊急の課題と考え、神奈川県逗子市池子に所在する米軍施設・区域内に米軍家族住宅を建設することとした。
この建設に当たっては、地元との長期にわたる話し合いを踏まえ、政府は、環境影響評価手続きを進め、かつ、地元の意向にも配慮した神奈川県知事の調停を尊重し、当初の計画を大幅に修正し、自然環境を最大限に保全することとしている。
政府としては、このように地元の意向を十分に尊重した上で、昭和62年9月から、既設建物の撤去等の工事に着手し、埋蔵文化財の発掘調査を終了した場所から、敷地造成工事を進めており、平成4年度末から家族住宅の建設工事を順次行っているところである。
日米両国は、日米安全保障条約において、それぞれの防衛能力の維持、発展のために相互協力するとしている。また、「日本国とアメリカ合衆国との間の相互防衛援助協定」(資料15参照)は、両国間の防衛分野における相互協力のための枠組みを定めている。これら条約の相互協力の原則を踏まえ、わが国としても、装備・技術面において、米国との協力を積極的に推進する必要があることはいうまでもない。
わが国の技術水準の向上などの状況を踏まえ、昭和58年、わが国は、米国に対して武器技術を供与する途
現在、日米共同で開発が進められている次期支援戦闘機(FS−X)は、日米間の装備品の共同研究開発の初めてのケースであり、このような日米間の共同研究開発は、両国の優れた技術を結集して効果的に装備品を開発するだけでなく、日米間の防衛協力を進展させることができるという観点からも重要なものである(資料18、資料19参照)。
また、平成4年1月の日米首脳会談では、その東京宣言に付属する「グローバル・パートナーシップ行動計画」において、ダクテッドロケット・エンジンの共同研究に関する取極を締結することとするほか、防衛技術分野における共同研究についての検討を継続するなど、防衛協力の推進に努めることがうたわれている(資料20参照)。
これを受けて、ダクテッドロケット・エンジンについては、平成4年9月に共同研究に関する政府間取極を締結し、共同研究第1号として正式に開始された。
また、両国間では、従来から日米装備・技術定期協議を開催し、防衛関連技術に係る日米協力の充実に努めており、これを通じて、共同研究プロジェクト6項目について、積極的に推進しているところである(資料21参照)。
自衛隊が米軍と共同訓練を行うことは、それぞれの戦術技量の向上を図る上で有益である。さらに、日米共同訓練を通じて、平素から自衛隊と米軍の戦術面などにおける相互理解と意思疎通を促進し、インターオペラビリティ(相互運用性)を向上させておくことは、わが国有事における日米共同対処行動を円滑に行うために不可欠である。加えて、このような努力は、日米安全保障体制の信頼性と抑止効果の維持・向上に役立つものである。
このため、自衛隊は米軍との間で従来から各種の共同訓練を実施しており、今後とも積極的に行っていく方針である。なお、自衛隊の統合運用態勢の充実のため、日米共同訓練を実施するに当たっては、その統合化を重視しており、昭和61年、平成4年に日米共同統合実動演習を実施した(資料22参照)。(艦艇の日米共同訓練)
米国の対日コミットメントを確保し、日米安全保障条約が有効に機能するには、この条約に基づき、平時から緊密な協力関係が確保されていなければならない。特に軍事面での協力態勢に関しては、平時から、研究・協議を行っておかなければ、万一わが国に対して武力攻撃が発生した際に有効に対処し得ない。
このため、万一の場合に両国が協力してとるべき措置について協議することが、昭和50年、日米の首脳や防衛首脳の間の会談で合意され、これを受け、日米安全保障協議委員会の下部機構として防衛協力小委員会が設置された。そして、緊急時における自衛隊と米軍との間の、整合のとれた共同対処行動を確保するためにとるべき措置に関する指針を含め、日米間の協力のあり方に関し研究・協議を行った。その結果、昭和53年11月「日米防衛協力のための指針」(資料23参照)が作成された。
この「指針」は、じ後行われるべき研究作業のガイドラインとしての性格を有するものとして、侵略を未然に防止するための態勢、日本に対する武力攻撃に際しての作戦構想や指揮・調整、情報、後方支援活動などの対処行動等についての基本的な事項のあり方を示すべく作成されたものである。これに基づき、共同作戦計画についての研究を始めとした各種の研究を行っている。なお、「指針」を含め、こうした細部の研究作業は、政府間の協定といったものではなく、両国政府の立法、予算ないし行政上の措置を義務付けるものではない。
わが国の防衛力整備は、昭和51年10月に国防会議及び閣議で決定された「防衛計画の大綱」(資料24参照)の下で行われている。
「大綱」は、わが国が平時から保有すべき防衛力の水準を明らかにし、わが国の防衛力整備のあり方などについての指針を示したものである。昭和52年度以降の防衛力整備は、この「大綱」に沿って進められている。
「大綱」は、わが国の防衛力整備について、「基盤的防衛力構想」という考え方に立っている。この考え方は、国際社会において、相互関係改善を図るための対話が継続し、また紛争の未然防止や国際関係安定化のための努力が続いているという国際情勢を前提とし、わが国が「大綱」に定めるような防衛力を保有していることが、わが国周辺の国際政治の安定化に貢献することとなるという判断の上に立っている。
この基盤的防衛力構想は、わが国に対する軍事的脅威に直接対抗するよりも、みずからが力の空白となってこの地域における不安定要因とならないよう、独立国としての必要最小限の基盤的な防衛力を保持するという考え方である。
「大綱」の策定にあたって考慮した国際情勢のすう勢について、「大綱」は次のように述べている。
核相互抑止を含む軍事均衡や各般の国際関係安定化の努力により、東西間の全面的軍事衝突又はこれを引き起こすおそれのある大規模な武力紛争が生起する可能性は少ない。
わが国周辺においては、限定的な武力紛争が生起する可能性を否定することはできないが、大国間の均衡的関係及び日米安全保障体制の存在が国際関係の安定維持及びわが国に対する本格的侵攻の防止に大きな役割を果たし続けるものと考えられる。
「大綱」は、2で述べた国際情勢の認識の下に、次のような「防衛の構想」を示している。
わが国の防衛は、まず、わが国みずから適切な規模の防衛力を保有し、日米安全保障体制とあいまって、いかなる態様の侵略にも対応し得る防衛体制を構成することにより、侵略を未然に防止することを基本とする。また、核の脅威に対しては、米国の核抑止力に依存する。さらに、万一侵略事態が発生した場合には、米国の協力とあいまって、極力早期にこれを排除するとしている。
なお、「大綱」には、「限定的かつ小規模な侵略については、原則として独力でこれを排除する」旨の記述があるが、「限定的かつ小規模な侵略」とは、全面戦争や大規模な武力紛争に至らない規模の侵略のうち、小規模なものをいう。その規模、態様等を具体的に示すことは困難であるが、一般的には、事前に侵略の意図が察知されないよう、侵略のための大掛かりな準備を行うことなしに行われ、かつ、短期間のうちに既成事実を作ってしまうことなどをねらいとしたものである。わが国の防衛力整備は、「大綱」のこのような考え方に基づいて行われてきた。
ただし、実際にわが国に対して具体的にどのような規模、態様の侵略が起こり得るかについては、武力紛争の原因やその時々の国際環境等により千差万別であり、一概にはいえない。
「大綱」は、以上の「防衛の構想」の下にわが国が平時から保有すべき防衛力の水準などの枠組みについて、次のように定めている。
防衛上必要な各種の機能を備え、後方支援体制を含めてその組織及び配備において均衡のとれた態勢を保有するものであること。
平時において十分な警戒態勢をとり得るものであること。
限定的かつ小規模な侵略までの事態に有効に対処し得るものであること。
情勢に重要な変化が生じ、新たな防衛力の態勢が必要とされるに至ったときには、円滑にこれに移行し得るよう配意された基盤的なものであること。
また、「大綱」は、このような枠組みの下、警戒のための態勢など、保有すべき防衛力が備えるべき「防衛の態勢」を明らかにしている。
「大綱」は、以上のような考え方に基づいて、各自衛隊が維持すべき体制を「陸上、海上及び航空自衛隊の体制」として明示し、「大綱」別表に示す各自衛隊の基幹部隊や主要装備などの具体的規模を導き出す考え方を明らかにしている。
この別表に示された各自衛隊の基幹部隊のうちの代表的なものの規模について、「大綱」策定時からの考え方を説明すれば次のとおりである。これらは、既に述べたとおり、平時における均衡ある組織・配備の態勢や十分な警戒態勢の維持などの観点から導き出されるものであり、特定の軍事的脅威に対抗するとの観点から導き出されるものではないことに留意すべきである。
陸上自衛隊は、平時地域配備する部隊として、「わが国の領域のどの方面においても、侵略の当初から組織的な防衛行動を迅速かつ効果的に実施し得るよう、わが国の地理的特性等に従って均衡をとって配置された師団等を有していること」とされている。
わが国の地形は、主として山脈、河川、海峡によって分けられている。さらに、平時における行政事務の便から都道府県などの境界線をも考慮すると、わが国の全土は、北海道が道北・道東・道央の3区画、東北が北部・南部の2区画、関東、甲信越、東海北陸、近畿、中国、四国がそれぞれ1区画、九州が北部・南部の2区画、それに沖縄が1区画と、合計14区画に分けられる。このため、平時に地域に配備する部隊としては14個の単位が必要となる。地域の特性から四国と沖縄を除く12区画には師団各1個を配置し、四国と沖縄には混成団を配置すれば、12個の師団と2個の混成団とが必要となる。
海上部隊で最も重要な部隊の単位は、護衛隊群である。これに関しては、「海上における侵略等の事態に対応し得るよう機動的に運用する艦艇部隊として、常時少なくとも1個護衛隊群を即応の態勢で維持し得る1個護衛艦隊を有していること」とされている。
わが国の周辺海域で侵略などの事態が生じた場合、直ちに現場に進出して対応措置をとり得るためには、常時少なくとも1個護衛隊群は即応の態勢で維持しなければならない。ところが、艦艇部隊の場合、艦艇の修理期間として長い期間を割くことが必要であることに加え、乗員が新隊員と交替することなどから基礎的訓練のためにもかなりの期間を割く必要がある。さらに、基礎的訓練の期間を終えても、困難な状況の下で護衛隊群としての任務を果たし得るような即応の態勢にある期間は限定される。したがって、常時少なくとも1個護衛隊群を即応の態勢で維持するためには、4個の護衛隊群を必要とする。
航空自衛隊は、「領空侵犯及び航空侵攻に対して、即時適切な措置を講じ得る態勢を常続的に維持し得るよう、戦闘機部隊を有していること」とされている。
この態勢を維持するためには、わが国の地形と戦闘機の行動半径などとの関係から、即応の待機態勢を全国の要域でとる必要がある。
この待機を常時継続して実施するためには、戦闘機の稼動時間、パイロットの技能保持のための訓練などを考慮し、各区域に原則として2個飛行隊が必要であり、わが国全体では、合計13個飛行隊が必要となる。なお、この13個飛行隊は、要撃戦闘機部隊10個と支援戦闘機部隊3個に分けて保有することとされている。
わが国は、侵略の未然防止を図るとともに、万一、わが国に対する侵略事態が発生した場合に備えて、各種の装備及び態勢・機能を平素から整備している。
本節では、侵略事態が発生した場合に自衛隊が実施する主要作戦である防空、周辺海域の防衛と海上交通の安全確保、着上陸侵攻対処の各作戦の概要を紹介することにより、防衛力の具体的な機能について説明する。
なお、実際の運用に当たっては、陸・海・空各自衛隊が互いに緊密に連携し、それぞれが持つ特性・機能を十分に発揮するとともに、米軍とも共同してわが国の防衛に当たることはいうまでもない。
わが国に対する侵略が行われる場合、四面を海で囲まれたわが国の地理的特性や近代戦の様相から、まず航空機やミサイルによる急襲的な攻撃で開始され、この航空攻撃は侵略が続いている間反復して行われる可能性が高い。そこで、自衛隊としては、こうした事態に備えることが必要である。
わが国の防空は、航空自衛隊が主体となって行う全般的な防空と陸・海・空各自衛隊がそれぞれの基地や部隊などを守る個別的な防空に区分できる。
全般的な防空においては、航空侵攻に即応し、ででる限り国土から遠くの空域で要撃し、敵に航空優勢を獲得させず、国民と国土の被害を防ぎ、防衛作戦の遂行能力を確保するとともに、敵に大きな損害を与え、航空攻撃の継続を困難にするよう努める。
また、個別的な防空は、基地や部隊をみずから防護し、その作戦遂行能力を維持することにより、全般的な防空とあいまって防空作戦全体の効果を増大させる。
全般的な防空作戦を時系列的に例示すれば次のとおりである。
航空警戒管制部隊のレーダーサイト、レーダーを搭載し空中から侵攻機を探知することができる早期警戒機等により、わが国周辺のほほ全空域を常時監視し、侵攻してくる航空機などをできるだけ早く発見する。
次に、指揮命令、航跡情報などを伝達・処理する全国規模の指揮通信システムである航空警戒管制部隊のバッジシステムなどにより、目標が敵か味方かを識別し、要撃戦闘機又は地対空誘導弾部隊へ目標を割り当てる。
航空警戒管制部隊などによる目標への誘導を受けた要撃戦闘機又は地対空誘導弾部隊が目標を迎え撃つ。(第2−1図 防空作戦の例)(早期警戒機E−2C)
わが国は、資源、エネルギー、食糧など生存に必要な多くの重要物資を海外に大きく依存している。このため、周辺海域の防衛や海上交通の安全確保は、生存基盤の確保に不可欠であるほか、継戦能力、米軍の来援基盤の確保のためにも必要である。
わが国に対する海上交通の妨害としては、潜水艦、航空機、水上艦艇などを使用して、わが国周辺を航行する船舶を攻撃したり、わが国の港湾などに機雷を敷設することが考えられる。
自衛隊は、次に示すような洋上における哨戒、護衛、港湾・海峡の防備などのための作戦を行うことにより、敵の進出を阻止し、その兵力を漸減させ、敵の有効な作戦を阻むことなどの累積効果によって、わが国の海上交通の安全確保にあたる。
周辺海域においては、対潜機部隊(固定翼対潜哨戒機)による広域哨戒や護衛艦部隊などによる船舶航行の要域の哨戒を行い、外洋に展開してわが船舶を攻撃しようとする敵艦艇を制圧する。また、必要に応じ、護衛艦部隊や対潜機部隊により船舶を護衛する。哨戒や護衛においては、海上自衛隊は対潜戦、対水上戦、防空戦を行う。
沿岸海域においては、特に船舶の出入りの多い重要港湾付近で、掃海部隊、対潜機部隊(主として対潜ヘリコプター)、護衛艦部隊などにより港湾を防備し、船舶の安全の確保を図る。この場合、脅威の態様に応じ対潜戦、対機雷戦などを行う。
また、主要な海峡においては、これを通過しようとする敵艦艇に対し、護衛艦部隊、潜水艦部隊、対潜機部隊などにより対潜戦、対水上戦、機雷敷設戦などを行い、場合によっては陸上、航空自衛隊と協同して通峡阻止に努める。
なお、洋上における防空については、護衛艦部隊が防空戦を行い、航行する船舶などを防護するほか、航空自衛隊がその能力の及ぶ範囲で防空作戦を行う。(第2−2図 海上作戦の例)(イージスシステム搭載護衛艦「こんごう」)
着上陸侵攻は、侵略国が領土の占領などを目的として、通常、侵攻正面における航空・海上優勢を獲得した後、艦船や航空機により地上部隊を輸送し、これらの部隊を相手国の国土に上陸又は着陸させて侵略する侵攻形態である。
侵攻する地上部隊は、艦船や航空機による移動の間、その戦力発揮ができず、また、上陸や着陸の直後は組織的な戦力発揮が困難であるという弱点を有する。このため、着上陸侵攻対処のための作戦では、敵の侵攻に対し、このような弱点をとらえ、努めて前方で対処し、これを早期に撃破することが必要である。
着上陸侵攻対処のための作戦は、洋上、海岸地域及び内陸におけるそれぞれの対処に区分される。
洋上における対処としては、自衛隊は、海上からの侵攻部隊に対し、艦艇、支援戦闘機、地対艦誘導弾により攻撃し、できる限り洋上で撃破し、その侵攻企図を断念させ、又は侵攻兵力を減殺することに努める。
また、航空機を利用した侵攻部隊に対しては、努めてこれを空中で撃破する。
海岸地域においては、上陸する敵に対し、海上自衛隊は機雷敷設戦でその行動を妨害・阻止する。また、陸上自衛隊は海岸付近に配置した部隊の火力で敵を水際で阻止する。敵が上陸した時点で、師団を基幹とする主要部隊の戦闘力を集中して敵を撃破し、わが国土から排除する。また、空挺攻撃やへリボン攻撃により着陸した敵に対しては、主として陸上自衛隊の火力と機動打撃力によりこれを撃破する。
万一敵を早期に撃破できなかったときは、内陸部で主として陸上自衛隊が持久作戦を行い、この間に、他の地域から部隊を結集して反撃し、侵略を排除する。
これらの各段階を通じ、海上自衛隊は水上艦艇や潜水艦などにより敵の増援や後方補給路の遮断に努め、航空自衛隊は支援戦闘機部隊などにより航空阻止や陸上・海上自衛隊の支援を行う。また、陸・海・空各自衛隊は作戦に必要な防空、情報活動、補給品の輸送などを行う。(陸上自衛隊が導入する新多連装ロケットシステム)(第2−3図 着上陸侵攻対処作戦の例)
政府は、平成2年12月19日に、安全保障会議及び閣議において「平成3年度以降の防衛計画の基本的考え方について」を決定し(資料25参照)、これに基づき同月20日、安全保障会議及び閣議において、「中期防衛力整備計画(平成3年度〜平成7年度)」(中期防)を決定した(資料26参照)。中期防には、諸情勢の変化に対応できるような弾力性を確保するため、3年後には、内外の諸情勢を勘案して、必要に応じ計画の修正を行う仕組みが組み込まれていた。
政府は、計画策定後の内外諸情勢の変化を可能な限り早期に防衛力整備に反映させるため、当初の修正時期より1年前倒しして、平成4年12月18日に、安全保障会議及び閣議において「中期防衛力整備計画(平成3年度〜平成7年度)の修正について」を決定した(資料28参照)。
平成6年度の防衛関係費については、修正された中期防の下、極めて深刻な財政事情などを踏まえ、抑制されたものとなっている。
平成2年12月に策定された中期防は、冷戦の終結とそれに伴う国際情勢の変化を相当程度織り込んた抑制的なものであった。具体的には、この計画の実施に必要な防衛関係費の総額の限度を抑制し、防衛力全体として均衡のとれた態勢の維持・整備を図るため、主要装備について更新・近代化を基本とする一方、後方分野の一層の充実に努めるとともに、防衛力の整備・運用面での一層の効率化、合理化の徹底を図ることにより、極力期間中の自衛官の定数増を行わない方向で対応することとし、陸上自衛官の充足については、その現状を踏まえ、15万3千人という上限を設定している。
中期防策定後においても、国際情勢の一層の変化、一段と厳しさを増す財政事情といった内外諸情勢の変化があった。このような変化については可能な限り早期に防衛力整備に反映させる必要があることから、以下のように中期防を修正した。
すなわち、「大綱」の基本的考え方の下、これに定める防衛力の水準を全体として適切に維持することに重点を置きつつ、次章に述べる防衛力の在り方の検討を行っていることも念頭に置いて、より緩やかな形で整備を進めるとの観点から、
一部任務の遂行態勢の緩和などに留意し、計画に定める事業の実施を一部見送る
諸外国の技術的水準への対応に配意し、老朽装備の更新・近代化及び欠落機能の是正に努める
平成6年度の防衛関係費は、修正された中期防の下、極めて深刻な財政事情などを踏まえ、総額4兆6,835億円、対前年度伸率が0.9%と昭和35年以来34年振りに1%を割るなど、抑制されたものとなっている。
この厳しい経費枠の中で、防衛庁としては、修正された中期防の下、防衛力全体として均衡がとれた態勢の維持、整備を図るための必要最小限の業務が推進できるよう努力を重ねているところである。
平成6年度予算における正面装備については、老朽装備の更新・近代化及び欠落機能の是正に努めることを基本とし、後方分野については、隊舎・宿舎など生活関連施設の充実、基地対策の推進などの諸施策を重点的に実施し得るよう配意している。(第2−1表 防衛関係費の概要)(第2−4図 一般会計歳出予算中の割合)(第2−5図 一般会計歳出主要経費の推移)
装備の更新・近代化、欠落機能の是正
陸上防衛力については、88式地対艦誘導弾の整備による対海上火力の充実、155mmりゅう弾砲FH70や新多連装ロケットシステムなどの整備による対地火力の充実、90式戦車などの整備による装甲機動打撃力の充実、改良ホークの改善などによる対空火力の充実、対戦車ヘリコプター(AH−1S)や対戦車誘導弾発射装置の整備による対戦車火力の充実などを図る。
海上防衛力については、省人化・居住性等に優れた護衛艦の整備による護衛隊群の近代化、固定翼対潜哨戒機(P−3C)や対潜ヘリコプター(SH−60J)の整備による対潜能力の充実、掃海艇や掃海母艦の整備による対機雷戦能力の充実などを図る。
航空防衛力については、要撃戦闘機(F−15)や早期警戒管制機(E−767)の整備、地対空誘導弾ペトリオットの能力向上などによる防空能力の充実、救難捜索機(U−125A)や救難ヘリコプター(UH−60J)の整備、中等練習機(T−4)の整備、輸送機・救難機等基本操縦練習機(T−400)の整備による救難能力などの充実を図る(資料31、資料32参照)。(対戦車ヘリコプター AH−1S)(掃海艇 「いえしま」)(中等練習機 T−4)
情報機能・指揮通信の充実
情報については、海上自衛隊の作戦情報処理システムや航空自衛隊の作戦情報支援システムの整備など各種情報機能の充実を図る。
指揮通信能力の向上に関しては、防衛通信の脆弱性の計画的解消と機能的な欠落分野の早期解消を図ることとしている。このため、航空自衛隊の固定式3次元レーダー装置や移動式警戒監視システム、総隊指揮システムの整備による航空警戒監視能力などの向上、防衛統合ディジタル通信網(IDDN)の整備による通信網の抗たん性などの向上、陸上自衛隊方面総監部の指揮所の近代化による指揮機能の充実、衛星通信機能の整備による洋上通信の信頼性の向上などを図る。
教育訓練体制の充実
陸上自衛隊ではレーザー利用の交戦訓練用装置など、海上自衛隊ではT−5操縦訓練装置やSH−60J機上対潜員訓練装置など、航空自衛隊ではペトリオット戦術訓練シミュレータやE−767ミッション・シミュレータなどの教育訓練用器材の充実を図る。
また、陸上自衛隊の北方機動特別演習、海上自衛隊演習、航空自衛隊の航空総隊総合演習など各種の訓練・演習を実施する。
隊員のための施策の推進
まず、生活関連施設の充実を図ることとし、隊舎については、個人のプライバシーを重視し、既設隊舎の改修や隊舎の新設を行うとともに、冷房化などを進める。宿舎については、設置戸数を増やすとともに、老朽宿舎の建て替えや既設宿舎の補修などを行う。
このほか、予備自衛官の訓練招集手当の支給額の改善を行う。また、幹部自衛官にも被服の貸与を進める。さらに、停泊中の艦艇の当直員のための艦艇乗員待機所の整備や船舶用衛星放送テレビ受信装置等の整備などを進め、艦艇乗組員の勤務及び生活環境の改善を図る。
要員の確保
新たに必要となる人員については、業務の省力化・合理化などにより対応することとし、新たな自衛官の定数増は行わないこととした。また、良質隊員を確保するため、募集広報態勢及び募集基盤の整備などにより、募集業務の充実を図る。
技術研究開発の充実
次期支援戦闘機(FS−X)の共同開発、新小型観測ヘリコプターの開発など、既に行われている研究開発を継続する。また、新たに、現有の自走155mmりゅう弾砲の後継として、縦深にわたる火力戦闘を行うとともに近接戦闘部隊に密接に協力するために使用する新自走155mmりゅう弾砲、撃ち放し性及び同時多目標対処能力を有し、2000年代初頭以降の空対空戦闘に有効に対処し得る新中距離空対空誘導弾などの研究開発に着手する。
組織の改編
師団の効率化・近代化を図るための1個普通科連隊の削減、戦車大隊の連隊化などを内容とする第2師団の改編、航空警戒管制多重通信網の中継所の開設に伴う土佐清水通信隊(仮称)の新設などを行う。
国際緊急援助活動及び国際平和協力業務に係る事業の推進
モザンビークへの輸送調整中隊の派遣により国際平和協力業務を実施する。さらに、国際緊急援助活動及び国際平和協力業務を円滑に実施し得るように、国際緊急援助隊用地図・地誌などの整備や医官の熱帯医学研修などを実施する。
基地周辺対策の推進
防衛施設の安定的使用に資するため、住宅防音工事の助成を始め、周辺整備調整交付金の交付等によって、防衛施設周辺地域の生活環境の整備などの推進を図る。
在日米軍駐留支援の推進
提供施設の整備、労務費及び光熱水料などの負担を引き続き実施し、日米安全保障体制の円滑かつ効果的な運用を図る。
防衛関係費は、自衛隊の維持運営に必要な経費のほか、防衛施設周辺の生活環境の整備などや在日米軍駐留支援のための経費、安全保障会議の運営などに必要な経費を含んでいる。これを機関別、使途別、経費別に示すと、それぞれ次のようになっている。
ア 機関別内訳
平成6年度の防衛関係費を陸・海・空各自衛隊、防衛施設庁などの機関別に分類すると、第2−6図のとおりである。
イ 使途別内訳
平成6年度の防衛関係費を人件・糧食費、装備品等購入費などの使途別に分類すると、第2−7図のとおりである。
ウ 経費別内訳
防衛関係費は、経費別には、隊員の給与や食事となる「人件・糧食費」と、それ以外の経費である物件費とに大きく分類される。
物件費はさらに、前年度までに国会の議決を経ている国庫債務負担行為及び継続費の支払い分にかかる「歳出化経費」と、装備品の修理・整備、油の購入、隊員の教育訓練、新規装備品の調達などのためにその年度に支払われる経費である「一般物件費」とに分類される。
平成6年度の防衛関係費を経費別に分類すると、第2−8図のとおりである。
この図からも分かるように、防衛関係費は、その年度の歳出予算で見ると、人件・糧食費及び歳出化経費という義務的な経費が非常に大きな部分を占めている(平成5年度は79.5%、平成6年度は79.6%)。
また、一般物件費についても、装備品の修理・整備や隊員の教育訓練に対する経費、在日米軍駐留経費、住宅防音事業などの基地対策経費のような、維持的又は義務的な経費がかなりの部分を占めている。
各国の防衛費については、各国の歴史や制度などの諸事情によりその範囲は異なり、また、その内訳も明らかでない場合が多く、国際的に統一された定義はない。
さらに、各国の置かれた政治的、経済的諸条件、社会的背景なども異なるので、単に各国が自国の防衛費として公表している計数のみをもって防衛費の国際比較を行うことは必ずしも適切でない。
しかし、防衛費などの国際比較によく用いられる英国の国際戦略問題研究所の「ミリタリー・バランス」の最新版によれば、1992年度時点のわが国の防衛費は、米国、ロシア、中国、フランス、英国、ドイツに次いで世界第7位となっているが、国民一人当たりの防衛費及び防衛費の対GDP・GNP比のいずれにおいても、欧米諸国に比べかなり低くなっている。
なお、各国の防衛費を比較する場合、各国の通貨で表示された防衛費をドル表示に換算することが一般的であるが、単純なドル換算の金額比較は、為替レートの変動の影響を受けることなどのため、必ずしも実態を正確に反映するものではない。したがって、各国の防衛費を比較する場合には、この点にも十分注意する必要がある。
いずれにしても、各国における諸事情が異なるため、防衛費の規模がそのまま、それにより整備、保有している防衛力(兵力)の規模に直接結び付くものではない。
ちなみに、防衛力の量的な規模の面から見ても、わが国の防衛力は、全体として見れば、英国、フランス、ドイツといった西欧主要国に匹敵するような水準とはなっていない。(第2−9図 正面経費(契約額)の推移)(第2−10図 主要国の兵力比較)(第2−2表 上位20か国・地域の国防費)
このため、最長5年間にわたる製造などの契約をするための予算措置が行われ、当年度予算で支払われる少額の前金以外は、後年度負担となる。これは、将来の一定の時期に支払うことを契約時に予め約束したものであり、歳出化経費は、このような契約に基づく支払時期に応じて予算計上される義務的なものである。
一般論として、わが国有事に際して必要な法制としては、自衛隊の行動にかかわる法制、米軍の行動にかかわる法制、自衛隊及び米軍の行動に直接にはかかわらないが国民の生命、財産等の保護などのための法制の三つが考えられるが、昭和52年に開始された有事法制の研究は、自衛隊の行動にかかわる法制の研究である。これまでに、防衛庁所管の法令及び他省庁所管の法令についての問題点の整理は、おおむね終了したと考えている(資料37、資料38、資料39参照)。
なお、所管省庁が明確でない事項に関する法令については、政府全体として取り組むべき性格のものであり、個々の具体的検討事項の担当省庁をどこにするかなど今後の取り扱いについて、内閣安全保障室が種々の調整を行っている。
わが国に対して万一侵略があった場合、国民の生命、財産を保護し、被害を最小限にとどめる上で、国民の防災や救護、避難のため、政府、地方公共団体と国民が一体となって民間防衛体制を確立することが必要である。このような民間防衛の努力は、国民の強い防衛意思の表明でもあり、侵略の抑止につながり、国の安全を確保するため重要な意義を有するものである。
欧州諸国などは、第2次世界大戦などの経験に基づいて、民間防衛を担当する政府機関の設置、関連する法律の制定、組織の確立、退避所の建設などの民間防衛体制の整備に努めている。また、いざという場合に備え、平素から救護、退避訓練などの民間防衛に関する諸活動を行っている。
わが国においては、民間防衛に関してみるべきものがない。今後、国民のコンセンサスを得つつ、政府全体で広い観点から慎重に検討していくべきである。
わが国にとって国民生活を維持するためには、資源、エネルギー、食糧などの確保が不可欠である。これらの生産地や輸送経路で、武力紛争や大規模な天災地変などが発生した場合、あるいはわが国有事の際に、海上交通が妨害される場合などに予想されるこれらの供給の停止などに備え、これらを備蓄しておくことが有効である。また、有事におけるわが国の国民生活、経済活動などを維持するために必要な物資の海上輸送の実施体制の在り方についても、政府全体として総合的な観点から研究する必要がある。
防衛力を支え、これを有効に発揮させるためには、平時から防衛産業を育成し、建設、運輸、通信、科学技術などの分野において国防上の配慮を加えておく必要がある。