第4章

社会の中の自衛隊

 自衛隊は、創隊以来、わが国の平和と安全を確保するという防衛任務達成のため、日夜努力を重ねてきた。ペルシャ湾への掃海部隊の派遣、雲仙普賢岳の噴火に伴う大規模火砕流発生に対する災害派遣、カンボディアにおける国際平和協力業務の実施等、最近は自衛隊の活動が国民に広く理解されつつあるものの、必ずしも自衛隊全体の活動内容が十分に理解されているとはいえない面も見られる。

 したがって、本章においては、陸・海・空各自衛隊が国民の財産として、わが国の防衛分野で中核として活動をしつつ、さらに防衛分野以外でも、その組織力、能力等を活かして社会活動を支援している姿を紹介する。また、わが国の防衛は、自衛隊だけで到底達成できるものではなく、国民全体で成し遂げられるものであり、自衛隊に対する多くの支援と協力が必要不可欠であることを説明する。

第1節 活動する自衛隊

 自衛隊は、わが国の防衛という国家としての基本的な役割を担う専門集団であり、陸・海・空各自衛隊を中核として、各種の機関及び防衛施設庁で構成されている。

 それぞれの組織は、全国各地に位置し多種多様な活動を行っているが、全てがわが国の防衛という一つの目標に向かっている。

 ここでは、防衛任務を全うするため、日夜教育訓練や警戒監視活動等に励む陸・海・空各自衛隊等の姿を紹介する。

1 多機能集団である自衛隊

 国の防衛は、さまざまな機能の集約によって成し遂げられる。したがって、自衛隊は、実力組織である陸・海・空各自衛隊を中心に、将来幹部自衛官となる学生を教育する防衛大学校、将来医師である幹部自衛官となる学生を教育する防衛医科大学校、わが国の防衛施策に必要な調査研究や上級隊員の教育を行う防衛研究所、新しい装備の研究開発にあたる技術研究本部、主要装備の調達を行う調達実施本部及び防衛施設の取得、建設、管理等を行う防衛施設庁など、さまざまな組織で構成されている。

 さらに、これら陸・海・空各自衛隊を中心とする自衛隊の隊務を防衛庁長官が統括するための補佐機関として、内部部局、陸・海・空各幕僚監部、統合幕僚会議が置かれている。内部部局は、自衛隊の業務の基本的事項を担当する。陸・海・空各幕僚監部は、各自衛隊の隊務に関するスタッフ機関であり、各幕僚監部の長である陸・海・空各幕僚長は、各自衛隊の隊務に関する最高の専門的助言者として長官を補佐する。また、統合幕僚会議は、統合防衛計画の作成など統合事項について長官を補佐する(資料40、資料41参照)。

2 教育訓練

 自衛隊が、わが国防衛の任務を有効に遂行するためには、装備品等の整備充実を図るだけでなく、指揮官を始めとする隊員が高い資質と能力を持つとともに、部隊としても高い練度を有することが必要である。

 また、部隊としての練度を維持・向上させ、堅固な防衛態勢をとることは、わが国に侵略を意図する国に対しては、その侵略を思い止どまらせる抑止力としての役割をも果たすものである。

 このような重要性にかんがみ、自衛隊は、平素から教育訓練を活動の中心として、種々の制約の中で日夜厳しい教育訓練を実施し、心身ともに健全で、練度の高い隊員の育成と精強な部隊の練成に努めている。

(1) 隊員の教育

自衛隊における教育の目的は、隊員としての資質を養い、職務を遂行する上に必要な知識及び技能を修得させるとともに、練度の向上を図り、もって精強な部隊の練成に資することにある。この目的を達成するため、

 使命感の育成と徳操のかん養

 装備の近代化に対応する知識と技能の修得

 基礎体力の錬成

 統率力ある幹部の養成

を重視して教育を実施している。

自衛隊においては、隊員の教育の中心的なよりどころとされているものに、昭和36年に制定された「自衛官の心がまえ」がある。自衛隊では、この「自衛官の心がまえ」に基づき、強い使命感と円満な良識と豊かな人間性を持ち、かつ優れた技術を有する隊員の育成に努めている(資料42、資料43参照)。

(2) 部隊の練成

陸・海・空各自衛隊の部隊における訓練は、個々の隊員に対する訓練と部隊としての訓練に大別される。個々の隊員に対する訓練は、職種・職域ごとに練度に応じて段階的に行われる。部隊としての訓練は、小さな単位の部隊から、大きな部隊へと徐々に訓練を積み重ね、一つの組織として能力を発揮できることを目標として行われている。各自衛隊は、その任務に応じて特徴のある訓練を次のとおり実施している。

陸上自衛隊では、普通科(歩兵)、機甲科(戦車)、特科(砲兵)などの各職種ごとに部隊の行動を訓練するとともに、他の職種部隊との協同による訓練を実施している。特に、普通科連隊等を基幹とし、それに他の職種等を配属して総合戦力を発揮できるように編成した戦闘団の訓練を充実し、一層の練度向上を図っている。これらの訓練の実施にあたっては、可能な限り実戦に近い環境下で行うとともに、レーザーを使用した交戦訓練装置等の活用により、訓練成果を客観的に評価しつつ、反復して実施することに留意している。

海上自衛隊では、要員の交代や艦艇の検査、修理の時期を見込んた一定期間を周期とし、これを数期に分け、段階的に練度を向上させる周期訓練方式をとっている。この方式での訓練の初期段階では、戦闘力の基本単位である艦艇や航空機ごとのチームワーク作りを主眼として、訓練を実施する。その後、艦艇や航空機ごとの練度の向上に伴って、応用的な部隊訓練へと移行し、参加部隊の規模を拡大しながら、艦艇相互の連携や、艦艇と航空機の間の協同要領などの訓練を実施している。

航空自衛隊は、戦闘機、地対空誘導弾、レーダー等の先端技術の装備を駆使する集団である。このため、訓練の初期段階では個人の優れた専門的な知識技能を段階的に引き上げることを重視しつつ、戦闘機部隊、航空警戒管制部隊、地対空誘導弾部隊等の部隊ごとに訓練を実施している。この際、隊員と航空機等の装備を総合的に機能発揮させることを目指している。練度が向上するに従ってこれら部隊間の連携要領の訓練を行い、さらに、これに航空輸送部隊や航空救難部隊などを加えた総合的な訓練を実施している(資料44参照)。

また、自衛隊は、陸・海・空各自衛隊の諸機能を総合的に発揮するための統合訓練の実施にも努めている。平成5年度には、統合幕僚会議が計画と実施を担.当する総合的な実動演習が計画されている。(交戦訓練装置を使用した戦闘訓練)(航海中の護衛艦上でのヘリコプター整備)(夜間飛行訓練に出発するF−15戦闘機

(3) 教育訓練の制約と対応

自衛隊が教育訓練を行うにあたっては、さまざまな制約がある。演習場や射場は、数が少なく地域的にも偏在しているうえ、広さも十分でない。このため、大部隊の演習、長射程の火砲やミサイルの射撃訓練などを十分には行えない状況にある。

訓練海域は、漁業などの関連から、使用時期や場所などに制約を受けている。特に、掃海訓練や潜水艦救難訓練などに必要な比較的水深の浅い海域は、一般船舶の航行、漁船の操業などと競合するため、訓練は一部の場所に限られ、使用期間も制限されている。

訓練空域は、広さが十分でないため、一部の訓練では、航空機の性能や特性を十分に発揮できないこともある上、基地によっては訓練空域との往復に長時間を要している。さらに飛行場の運用にあたっては、航空機騒音に関連して早朝や夜間の飛行訓練の制限などを行わざるを得ず、必ずしも十分な訓練ができない状況にある。

このため、昨年度初めて実施した陸上自衛隊の対戦車ヘリコプター部隊の実射訓練などを含み、艦艇、航空機、地対空誘導弾部隊の米国への派遣訓練や、硫黄島での飛行訓練、別の方面隊の演習場に移動しての訓練等を行って、練度の維持向上に努めている。

(4) 安全管理

自衛隊の任務が、有事に実力をもってわが国を防衛することにある以上、訓練や行動に危険と困難を伴うことは避けられないものである。それでも、国民に被害を与えたり、隊員の生命や国有財産を失うことにつながる各種の事故は、絶対に避けなければならない。

このような観点に立って、自衛隊では、平素から安全管理に常に細心の注意を払っており、射撃訓練などの教育訓練時の安全の確保に努めるとともに、海難防止や救難のための装備及び航空保安無線施設等の整備等の施策の推進など、安全を確保することに努めている。

3 警戒監視活動等

 専守防衛を旨とするわが国にとって、領海とその周辺の海空域の警戒監視や、防衛に必要な情報収集処理を平時から常に実施することは、極めて重要である。このため、自衛隊は、平時からわが国の安全確保に直結する以下のような諸活動を実施している。

 その第一は、主要海峡等における警戒監視である。主要海峡では、陸上にある沿岸監視隊や警備所において、継続して必要な監視活動を行っている。さらに、対馬、津軽、宗谷の三海峡には、艦艇を配備している。また、わが国の周辺海域を行動する艦船については、対潜哨戒機により、北海道周辺の海域、日本海及び東シナ海を1日1回の割合で警戒監視しているほか、必要に応じて艦艇、航空機による警戒監視を行っている。

 その第二は、領空侵犯に備えた警戒と緊急発進(スクランブル)である。航空自衛隊は、全国28か所のレーダーサイトと早期警戒機によって、わが国及びその周辺上空を24時間体制で監視しており、全国7か所の航空基地では、要撃機とパイロットを直ちに飛び立てる態勢で待機させている。わが国周辺では、航空機の往来がおびただしく、この中から領空侵犯のおそれのある航空機を識別するのは大変根気のいる作業であるが、これを発見した場合には、地上に待機中の要撃機を緊急発進(スクランブル)させている。要撃機は、対象機に接近し、その状況を把握しながら、必要に応じて退去の警告などを発する。

 その第三は、国外からわが国に飛来する軍事通信電波、電子兵器の発する電波等の収集である。これらの電波を整理・分析して、わが国の防衛に必要な情報資料の作成に努めている。ソ連軍用機による大韓航空機の撃墜事件(昭和58年)の際、これらの活動が真相の究明に大いに役立ったのは、多くの人の記憶しているところである。

 さらに、防衛庁から外務省に出向した自衛官である防衛駐在官が、在外公館で軍事情報の収集などを行っている。

 このように、自衛隊はいついかなる状況にも対処できるように、日夜黙々と活動している。

4 技術研究開発

 先の湾岸危機においても明らかなように、最近の科学技術の進歩に伴う装備の高度化、高性能化には著しいものがあり、今や最先端技術を有していることが潜在的な抑止力の向上につながると言っても過言ではない。わが国としても、このような観点から、最先端技術を応用して装備の研究開発に努めている。

 装備の整備にあたっては、費用対効果などの総合的検討が必要なことは言うまでもないが、装備をみずから研究開発し、生産することは、

 わが国の国土や国情に適した装備を持つことができる

 装備の導入後も技術の進歩に即した所要の改善ができる

 長期にわたる装備の維持、補給が容易である

 防衛生産基盤や技術力の維持、育成を図ることができるといった利点がある。

 防衛庁には、陸・海・空各自衛隊の運用上の要求等に応じて、装備に関する研究開発を一元的に行う機関として技術研究本部が置かれており、各自衛隊が使用する車両、船舶、航空機を始めとして、被服や食料に至るまで、幅広い分野にわたって研究開発を行っている(資料45、資料46、資料47参照)。

 これらの研究開発に関する業務のうち、開発業務は装備体系別に陸上、船舶、航空機及び誘導武器担当の各技術開発官が行い、その基礎となる試験研究業務は、技術分野別の5つの研究所と5つの試験場が行っている。

 技術研究本部で研究開発業務に従事している職員は、技官及び自衛官であり、国内又は海外の大学で修士課程又は博士課程を修了した者も多く、最先端防衛技術に関する研究開発業務を行っている。

5 隊員

 自衛隊の組織の基盤は「人」である。装備がいかに進歩し、近代化しても、これらを使用するのは隊員であり、組織の運営なども、結局は隊員各々の力量にかかっている。

(1) 人事制度等

自衛隊は、一般社会のさまざまな職場と同様に、個人の自由意思に基づいて入隊する隊員によって構成され、自衛隊員として活躍するとともに、一社会人としても活動している。自衛隊員は、自衛官及び事務官等で構成されている(資料48、資料49参照)。

自衛官の人事制度は、精強性を維持するため、一般の公務員より若い年齢で退職する若年定年制と2年又は3年を勤務年限として採用する任期制を併用していることを特徴とする。これらの自衛官は、幹部候補生、曹候補者、又は2等陸・海・空士等として採用される。なお、採用後、先に紹介した教育訓練等を通じて個人の技能を向上させており、本人の努力により、上位の階級に昇任する道が開かれている(資料50、資料51参照)。

(2) 自衛官の勤務環境等

自衛官の勤務には、それぞれの職務に応じて、艦艇乗組、航空機搭乗、落下傘降下、不発弾処理等があり、その勤務環境や態様は平時においても一般の職場に比べて特殊な面もある。

独身の曹士の大部分は、原則として駐屯地又は基地内の隊舎で生活し、幹部と既婚の曹士は、駐屯地や基地の外で家族とともに生活している。

これらの自衛官の勤務は、交替制勤務の者や洋上訓練中の艦船乗組員などを除き、通常は朝8時から夕方5時までであり、その他の時間は、当直の隊員を除いて自由な時間となっている。営内居住の自衛官は、自由時間には次の勤務時間までの間、外出の許可を得て、友人と自由な時間を過ごしたりしている。

近年、自衛隊は、厚生施設等の充実に力を入れ、自衛隊施設内に厚生センターを整備しており、体育館、プール等の施設を利用したスポーツ活動なども活発に行われている。艦船乗組員も、母港等に停泊中は勤務時間終了後、当直の隊員を除き上陸が許可され、自由な時間を過ごすことができる。さらに、最近では、航海中であっても、一部の艦艇で艦内に整備されたスポーツ用品や衛星放送テレビ受信装置などにより、勤務時間の合間に心身をリフレッシュさせることができるようになっている。これらの勤務環境は、隊員が勤務に邁進できる基盤となっている。

また、こうした勤務につく自衛官が適正な処遇を受けることは、自衛官一人ひとりがその任務に誇りを持ち、安心して勤務に精励できる士気の高い自衛隊を維持する上で必要なだけでなく、将来とも有能な人材を確保する上で不可欠な要素である。(余暇を楽しむ隊員)(談笑する婦人自衛官

第2節 社会に貢献する自衛隊

 自衛隊は、国を守るための組織であり、そのため必要な隊員及び装備を有し、平素から教育訓練を積み重ねていることはすでに述べたとおりである。

 自衛隊は、防衛任務のほか、その組織、装備、能力を活かして、災害派遣や各種の民生協力活動などを行っている。これらの活動は、民生の安定及び地域の文化・学術の発展に寄与するとともに、隊員に平素から直接国民生活に貢献しているという誇りと生きがいを与え、さらには、国民と自衛隊との触れ合いを深めている。

1 社会への貢献

(1) 災害救助活動

自衛隊は、天災地変その他の災害に際して、都道府県知事、海上保安庁長官、管区海上保安本部長及び空港事務所長からの要請に基づき、人命又は財産の保護のため災害派遣を行っている。派遣された自衛隊の具体的な活動は、遭難者や遭難した船舶、飛行機の捜索救助、水防、防疫、給水、人員や物資の緊急輸送などの広範多岐にわたっている(資料52参照)。

最近の特色ある災害派遣の例としては、平成3年6月からの雲仙普賢岳噴火に伴う大規模火砕流発生に対する派遣及び平成5年7月の北海道南西沖地震被害に伴う災害派遣などがある。中でも、雲仙普賢岳噴火に伴う大規模火砕流発生に対する派遣については、派遣開始から現在に至るまで、既に2年余りに及ぶ長期間の派遣となっており、現在も警戒・監視等の活動を継続して実施している。現地における自衛隊の存在は、不安な気持ちで生活を続ける住民にとって、精神的にも大きな支えとなっている。

また、地震に関しては、実際に発生すれば災害派遣が行われることになるが、発生前でも、地震による災害の発生の防止又は軽減を図るため、地震防災派遣が行われることがある。地震防災派遣は、「大規模地震対策特別措置法」に基づく警戒宣言が発せられたとき、地震災害警戒本部長(内閣総理大臣)の要請に基づき行うことになっている。

自衛隊では、地震防災対策強化地域に指定されている東海地域での大規模地震に備え、「東海地震対処計画」を準備している。この計画では、地震発生前に措置される地震防災応急対策の一環としての自衛隊活動と、地震発生後の災害派遣実施体制、活動内容、派遣の規模等について定めている。地震発生前に行われる地震防災派遣においては、関係省庁、強化地域指定県と調整の上、ヘリコプターによる交通状況、避難状況等の把握、艦艇、航空機等を使用しての人員、物資の輸送のほか、偵察機も用いて都市部の撮影、解析を行うことにしている。

また、自衛隊では、南関東地域(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県)に大規模な震災が発生した場合に備え、「南関東地域震災災害派遣計画」を準備している。この計画は、地震発生後の災害派遣実施体制、活動内容、派遣規模等について定めている。

自衛隊は、万一これらの事態が起きた場合に備えて、毎年「防災週間」に行われる総合防災訓練や水防等の訓練に参加するなど、災害派遣や地震防災派遣の能力の向上を図っている。(北海道南西沖地震被害に伴う災害派遣の様子

(2) 輸送活動

自衛隊は、災害派遣として、医療施設に恵まれない離島やへき地における救急患者を緊急輸送しており、民生の安定にも大きく貢献している。昭和63年度から平成4年度までの5年間に実施した急患輸送は約1,100件にのぼり、これに従事した隊員は延べ約4,600名、航空機は延べ約1,190機に及んでいる。

また、自衛隊は国の機関からの依頼に基づき、陸・海・空各自衛隊のヘリコプターや輸送機により、内閣総理大臣等の輸送を行っている。自衛隊は、これらの輸送に主として用いるヘリコプター(AS−332L)を3機保有しているほか、昨年4月に総理府から所属替えを受けた2機の政府専用機(B−747)を保有している。

政府専用機は、内閣総理大臣等の輸送に使用するほか、必要に応じ国際緊急援助活動実施のための輸送及び国際平和協力業務実施のための輸送にも使用することとされている。なお、生命等の保護を要する在外邦人の輸送について外務大臣から依頼があった場合に、防衛庁長官が政府専用機を含め自衛隊が保有する航空機により輸送することができることとすることを内容とする自衛隊法の改正案を国会に提出した。(離陸する政府専用機

(3) 危険物の処理

陸上自衛隊は、不発弾などが発見された場合、地方公共団体などの要請を受けてその処分にあたっている。不発弾は、今日なお全国各地で土地開発や建設工事の際などに発見されている。その処理実績は、平成4年度において件数1,782件、量にして約71トンにのほっている。特に、沖縄県での処理量は、平成4年度において約36トンと全国の不発弾処理量の約50%を占めている。

また、海上自衛隊は、昭和29年の創隊時に保安庁から航路啓開業務を引き継ぎ、わが国周辺の危険海域の掃海を行ってきた。この結果、第2次世界大戦中、わが国近海に敷設されたぼう大な数の機雷のうち、危険海域にある機雷の掃海はおおむね終了した。現在では、地方公共団体などからの要請を受けて、その都度、海上における機雷その他の爆発性の危険物の処理や除去を行っている(資料53参照)。(不発弾の処理を行う隊員

(4) 国家的行事に関する支援

自衛隊は、国家的行事において、天皇、皇族、国賓などに対し、儀じょう、と列、礼砲などの礼式を行っている。(結婚の儀祝賀パレードでの音楽隊の演奏

(5) 文化・学術活動等に対する支援

自衛隊は、関係機関からの要請を受けて、任務遂行に支障の生じない範囲で、オリンピックやアジア競技大会及び国民体育大会のような国際的、全国規模又はこれらに準ずる運動競技会の運営について、式典、通信、輸送、音楽演奏、医療・救急などの面で協力している。また、国が行う南極地域における科学的調査に対し、輸送その他の協力を行っている。平成4年11月から平成5年4月までの第34次観測支援で、自衛隊が保有する砕氷艦「しらせ」は、南極地域において99日間行動し、物資約950トン、観測隊員などの輸送を行った。今回の支援においても、南極大陸周辺海域における海洋観測の支援を実施し、その支援行動は約7,000kmに及ぶ長大なものであり、わが国の南極地域観測事業の推進に大きく貢献している。

以上のほか、自衛隊は、気象庁の要請により航空機を使って行う北海道沿岸海域の海氷観測業務及び火山活動の観測、建設省国土地理院の要請による地図作成のための航空測量業務、放射能対策本部の要請による集(じん)飛行、厚生省の行う硫黄島戦没者の遺骨収集に対する輸送等の支援、環境庁の行う野鳥生息地調査に対する航空機の支援などを実施している。(氷海航行中の砕氷艦しらせ

(6) 教育訓練の受託等

自衛隊は、部外からの委託を受け、相当と認められる場合、任務遂行に支障のない範囲で、隊員以外の者に対して教育訓練等を行っている。

ア 公務員に対する受託教育

自衛隊では、警察庁の委託を受け、ロープを使用したヘリコプターからの降下訓練や患者を背負っての岩場の移動など、救急活動に必要な能力を身につけるためのレンジャー訓練を行っている。

また、警察庁、海上保安庁及び東京消防庁からの委託を受け、水中における捜索及び救助法の教育など、水難救助等に関する教育を支援している。

このように、自衛隊は、自衛隊の持っているノウハウや訓練施設を有効に活かせる分野の教育を受託している。

イ 体験入隊

自衛隊では、一般国民に自衛隊を理解してもらうため、広報活動の一環として、民間企業や各種団体などからの依頼を受けて、新入社員などの体験入隊を実施している。これは、自衛隊の駐屯地や基地に2〜3日間宿泊し、隊員と同じような日課で自衛隊における隊内生活を体験するものである。その内容は、防衛問題や自衛隊の現状に関する説明、敬礼や行進などの基本動作、体育、隊内見学等である。これを通じ、体験入隊に参加した人々は、「団体生活や規則正しい生活、時間の厳守などの大切さを感じとった。」といった感想をよせている。なお、平成4年度には、約6万名の体験入隊を実施した。(民間会社社員の体験入隊風景

(7) 医療面での貢献

防衛医科大学校は、平成5年に創立20周年を迎えるが、同校には医学の教育及び研究に資するため病院が設置されており、隊員及びその家族のみならず、広く一般市民の診療も行っている。また、同病院は平成4年9月には、心筋梗塞、脳卒中、頭部損傷等の重篤救急患者の救命医療を行い得る第3次救急医療施設である救命救急センターの運営を開始し、地域医療に一層貢献することになった。

調査研究の分野では、陸上自衛隊衛生学校、海上自衛隊潜水医学実験隊及び航空自衛隊航空医学実験隊において、それぞれ熱傷治療、飽和潜水、航空医学等の研究を行っている。これらは、研究成果などの蓄積に努めているほか、関係諸機関などの要請に応じ、各種の協力活動を行い、長年培った知識や技術を国民に還元している。

そのほか自衛隊は、有事に備えて医療体制を整備する必要があり、また自衛隊の精強性を維持するため平素から隊員の健康管理を適切に行う必要から、全国に16か所の自衛隊病院を置くとともに、師団などの主要部隊には衛生部隊を設置するなど、医療を含む各種衛生機能を有している。地方自治体等の要請があった場合は、これらの機能を活用し、災害発生時の救急医療、防疫等の民生協力にも努めることとしている。

2 地域社会との交流

 自衛隊の部隊や機関が所在する駐屯地、基地等は、北は北海道の礼文島から南は沖縄県の宮古島まで、全国すべての都道府県に及んでいる。これらは、地域の行事等を通じて地域社会と密接に関連し、地域社会の発展、民生の安定等に努めている。

(1) 自衛隊への理解を深めるための努力

自衛隊は、わが国の防衛に対する国民の理解を深めるため、さまざまな活動を行っている。その例としては、部隊の見学、記念日などに部隊の公開、車両や航空機への体験搭乗、音楽隊による演奏会の開催などがある。

自衛隊の現状を広く国民に紹介する代表的な活動として、陸上自衛隊は毎年富士山麓で実施する総合火力演習、海上自衛隊は各地での体験航海、航空自衛隊は基地航空祭等でブルーインパルスの展示飛行を行うなど、さまざまな活動を行っている。さらに、全国各地の駐屯地、基地などを地域の人々にスポーツやレクリエーションの場として、開放するように努めている。

また、自衛隊記念日の行事の一環として行われる観閲式及び観艦式は、自衛隊の最高指揮官である内閣総理大臣が部隊を観閲し、自衛隊の装備や訓練の成果を広く国民に紹介するためのものであり、観閲式は毎年、観艦式は2〜3年ごとに行っている。なお、平成4年度はいずれも実施され、観閲式については予行を含め約5万6千人、観艦式については予行を含め約4万1千人の国民が見学した。

このほか、陸・海・空各自衛隊の音楽隊、儀じょう隊、防衛大学校の学生、ゲスト歌手などが出演する「自衛隊音楽まつり」を行っており、平成4年度には予行を含め約3万5千人の観客を魅了した。また、航空自衛隊による体験搭乗も実施している。

さらに、自衛隊及び防衛に関する正確な知識を広く国民に普及するために、全国各地の駐屯地、基地等の主要幹部は、地元の協力団体などからの要請を受け、安全保障、国際軍事情勢、防衛問題等に関する講演を行っている。(平成4年度観艦式

(2) 地域社会を支える自衛隊

自衛隊の部隊・機関は、所在の自治体との協調、協力に努めているのみならず、地域の人々と一体となって、地域で行われる競技会、郷土の祭典などの市民行事に参加するとともに、これらに協力するなど、地域社会に溶け込んた活動をしている。

さらに、自衛隊の所在する自治体の中には、その地域の人口が減少しているところも少なくない。そのような地域においては若者の流出が多く、隊員及びその家族は、地域を動かす若い力として、また、地域の文化や伝統の継承者として活躍している。

また、経済面においても自衛隊が地域経済の大きな柱となっているところもあるなど、自衛隊の存在そのものが地域の存立に寄与しているところも少なくない。(地方の祭りで活躍する隊員

第3節 自衛隊を支える力

 自衛隊がその任務を果たすためには、自衛隊が持つ人的、物的な要素、つまり、その組織、装備、能力を十分に発揮することが必要であるが、自衛隊のさまざまな活動は、自衛隊だけですべて行えるものではなく、関係省庁、地方自治体や各種民間団体、企業あるいは個人との密接な協力があって、はじめて可能となるものである。国の防衛は、国家の基本的な施策であるとともに、まさに、国民一人ひとりによって支えられているのであり、自衛隊の平素の活動も国民や社会の支援なくしては成り立たないのである。

 ここでは、平時の自衛隊の活動を支える社会的基盤、隊員の募集、援護協力、自衛官の部外教育への協力及び防衛産業などについて記述する。

1 自衛隊の活動に対する支援、協力

 現在、陸・海・空各自衛隊は、全国の駐屯地、基地などに所在し、それぞれ、日本国内及びその周辺、さらに一部は南極やカンボディア、モザンビークなど遠く海外で活動している。自衛隊の活動は、日常の国民の生活にも深いかかわりを持つとともに、国際貢献など外国での活動も増えている。このように、その行動範囲は広大な地域、海域、空域に広がり、かつ内容も複雑多岐に及んでおり、関係機関との密接な協力のもとに活動している。

 地域における駐屯地や基地機能の維持や教育訓練を円滑に行っていくためには、地方自治体を始めとする地元からの各種協力、隊員に対する支援などが不可欠である。自衛隊の活動が円滑に行われている背景には、これら地元住民有志や自衛隊関係者などによって作られた各種の協力団体、つまり、隊友会、父兄会、防衛協会、自衛隊協力会などが自衛隊の活動を支えている。

 自衛隊としては、今後とも各方面での交流などを通じて自衛隊に対する支援、協力を得る努力を行わなければならないと考えている。自衛隊がその任務を果たすためには、わが国の安全保障・防衛問題に対する国民の一層の理解と自衛隊への支持が必要不可欠なのである。

2 募集、就職援護に対する協力

 前節でも述べたように、組織の基盤は「人」である。装備がいかに進歩し、近代化しても、これらを運用するのは自衛官であり、組織の運営なども結局は自衛官一人ひとりの力量にかかっている。

 こうした質の高い自衛官を確保するためには、防衛庁としても募集業務に一層の努力を払うとともに、自衛官の処遇改善及び退職自衛官の就職援護の充実に努めていかなければならない。これらの活動は防衛庁だけで実施できるものではなく、地方自治体のほか、各種の協力団体等の協力を得て行われている。

(1) 自衛官の募集活動

最近の募集状況は、隊員の処遇改善施策の効果や景気低迷に伴う雇用情勢の悪化の影響などにより、一時的には好転傾向にある。しかし、長期的には、2士男子の応募適齢人口(18歳以上27歳末満)は、平成6年の約900万人をピークに減少していく見込みであり、さらに、地元就職志向が強まっていることなどから、2士男子自衛官の募集環境は今後一段と厳しさを増すことが予想されている。

このような状況の中で、全国50か所の自衛隊地方連結部は、都道府県、市町村、教育委員会、学校、隊友会、父兄会、民間の募集相談員などの協力を得ながら募集業務を行っている。今後も、優れた資質を備えた自衛官の確保を行い、自衛隊の精強性を維持するためには、自衛隊側の努力だけでなく、これら関係機関などの協力が不可欠である(資料54参照)。(2士隊員の入隊式

(2) 就職援護に対する協力

自衛隊では、任期制及び若年定年制をとっていることから、自衛官の多くは任期満了又は定年退職後の生活基盤の確保などのために再就職が必要である。国防を志している若者がいても、任期満了後又は退職後の生活基盤が不安定であれば、自衛隊に入り国防の任に従事することを躊躇(ちゆうちよ)するものである。

このため、防衛庁では、任期満了や定年で退職する自衛官の再就職を円滑・有利に実施することを人事施策上の最重要事項の一つとして、従来から各種の就職援護施策を行っている。この結果、退職する自衛官の再就職のため、自衛隊援護協会が各地に支部を展開し、職業安定法に基づく労働大臣の許可を得て、退職する自衛官に対して無料職業紹介事業を行っている。

これにより、任期制自衛官はもとより、定年退職する自衛官についても、その就職が必ずしも容易でない状況下にあっても、こうした団体や民間企業の協力を得て、希望者のほぼ全員が再就職をしている。これはまた、募集へも好影響を与えている。

防衛庁としては、引き続き援護教育の充実、再就職先の拡大などを図り、就職援護基盤の強化に努めていくが、今後なお、自衛官特有の任期制、若年定年制に対する幅広い国民の理解を得ながら引き続き、企業の積極的な協力が望まれる。

3 退職自衛官の活躍

 自衛隊を退職し、現在民間企業等で働いている者は多数に及んでおり、製造業やサービス業を始めとする広範多岐にわたる分野において活躍している。これら民間企業等に再就職した退職自衛官は、全般的に責任感、勤勉性、気力、体力、規律などの面で優れていること、特に、定年退職者については、高い指導力を有していることなどから、総じて企業等の側から高く評価されている。こうした退職自衛官の活躍は、自衛隊への国民の理解を深め、ひいては、国民の自衛隊に対する支持と協力に繋がっているものと考えられる。

 任期満了退職者の活躍している例として、機械部品メーカーでジェットエンジン整備の技術を活かすとともに、団体生活で培った規律や経験から、責任ある部署を任された者、自動車販売店に再就職し、自衛隊在職中に得た知識、経験を生かし優秀な販売成績をあげた者などがいる。定年退職者が活躍している例としては、自衛官として培われた資質を生かし、その能力を評価されて民間会社や大学等において、責任ある地位で活躍している者などがいる。

 こうした例は枚挙にいとまがないが、自衛隊退職者が社会から高く評価されていることを示すものである(資料55、資料56参照)。

4 予備自衛官の訓練招集への協力

 退職した自衛官には、志願することによって予備自衛官になる道があり、現在、陸、海、空あわせて約4万8千名がこれに採用されている。予備自衛官は、平素は一国民として各々の職業に従事しているが、有事の際には、招集されて自衛官として勤務するとともに、平時においても定期的に毎年、短期間の訓練招集に応じる必要がある。こうした訓練には、予備自衛官はそれぞれの仕事をやりくりし、休暇をとって参加している。このような予備自衛官制度を円滑に運営していくためには、再就職先の企業等の理解と協力が不可欠である(資料57参照)。(射撃訓練中の予備自衛官

5 部外における自衛官教育に対する協力

 自衛隊が、任務を有効に遂行し、国民の負託に応え得るためには、指揮官を始めとする一人ひとりの隊員が高い資質と能力を持つことが求められている。

 装備品の近代化などに伴い、自衛官は広範な分野で高度な知識や技能を要求されるようになっている。このため、自衛隊では、その知識や技能を自衛隊で教育することが困難な場合や自衛隊で教育することが可能であっても、経費などの面から必ずしも効率的でない場合などに自衛隊以外(部外)の国内の教育機関の協力を得て自衛官の教育を行っている。また、単に知識や技能の習得にとどまらず、部外の人との接触を通して幅広い視野や多様な考え方などを吸収させることを目的とする場合には、国内の企業等の協力を得て中堅幹部を1年程度、これら企業で研修を行っている。こうした教育や研修は、自衛官を受け入れている学校や企業等の自衛隊に対する理解や協力があって行われているものである。

6 防衛生産

 国を守る要素として「人」が大切であることはすでに述べたが、それと同時に「物」の要素も忘れてはならない。近年の科学技術の進歩による装備の高性能化、並びに装備体系の複雑化には著しいものがある。このようなすう勢に対応しつつ防衛力の質的水準の維持向上を図り、適切な装備を自ら整えるためには、第1節で述べたように、たゆみない技術研究開発とその成果を装備品等に応用し得る基盤が必要である。

 防衛装備品の生産には、機械、電子、電気、素材など多種多様な分野の最先端技術を結集していくことが要求されている。このため、一般的に、装備の面から見た防衛力は、工業力を中心としたその国の産業力を基盤としているといえよう。

 わが国の場合、装備の取得にあたっては、わが国の防衛構想に適合することを前提に、その適切な国産化に配意しつつ、緊急時の急速取得、教育訓練の容易性、費用対効果などについての総合的な判断の下、国産、ライセンス生産又は輸入のそれぞれの長所、短所を十分に勘案し、最も効率的な取得に努めている。国産及びライセンス生産については、自衛隊がみずからその装備を製造する設備能力を保有していないことから、主として民間の工業力を活用してきている。高度な技術力を有する国内の民間企業、いわゆる防衛産業の存在は、わが国の地勢、国情に最適な装備の取得を図り、さらに装備後の技術進歩に対応した改良、改善、及び使用中に発生するさまざまな不具合是正など、装備の適切な維持を図る必要性から、防衛力の整備を図る上で重要であると考えている(資料58参照)。(自衛隊の航空機を製造しているラインの風景

 防衛産業については、その生産総額が国内の工業生産に占める割合が、おおむね0.6%程度で決して大きいものではないが、その特色としては、航空機や艦艇のような重工業から、レーダーのような電気機械工業、被服や食品のような軽工業までも含む、幅の広い各種産業分野から構成されていること、また、戦闘機や戦車の部品の製造を行っている多数の下請け企業や弾薬を製造する専門性の高い企業までも含む極めて裾野の広いことがあげられる(資料59参照)。(弾薬を製造している企業の風景

 防衛庁は、防衛産業が長年にわたり技術を培い、また、多額の設備投資を維持してきたこともあり、これまで防衛上の要求を満たす 高性能な装備品を装備することができたとも言える。今後も、防衛産業には将来にわたり最新の装備が開発できるようその高い技術力を確保し続けること、他方、緊急時に装備を急速に取得する必要がある際には速やかに増産できる能力を保有していくことが期待されている。

 一方、わが国の防衛産業の大きな特色としては、武器輸出三原則等の政策により、その需要は国内に限定され、しかも納入先はほぼ防衛庁に限られており、防衛庁の装備調達の動向により大きく影響を受けることがあげられる。

 このようなことからも国際情勢の変化や現下の厳しい財政事情等を踏まえつつ、防衛庁としては、健全な防衛産業の存在がわが国の安全保障にとって重要であるとの観点から、平素より技術・生産体制の継続的な維持、育成についても十分に配意していくことは重要であると考えている。

 なお、防衛庁においては、近年の防衛産業をめぐる上記の環境変化等に対処して、幅広い観点から施策の推進を図るため、装備局長の下のいわば私的懇談会として、本年3月、民間有識者から構成される「防衛装備品調達懇談会」及び「防衛産業技術懇談会」を発足させた。

第4節 自衛隊の国際交流

 前節までに、自衛隊の活動及び国内の社会とのかかわりについて触れてきた。自衛隊は、従来から諸外国の軍関係者との意見交換及び留学生の相互派遣など、諸外国との交流の機会を持っているが、最近は、さらにこの種の活動が増加している。このことは、自衛隊が社会の一員としてのみならず、国際社会の一員としての側面を有することを意味するものである。

 本節では、自衛隊と諸外国との交流及びその深まりについて紹介する。

1 諸外国との交流の増大

 国際社会におけるわが国の地位は、経済的な発展に伴い一段と高くなり、国際社会の一員として、世界の平和と安定のため、積極的に努力することが望まれるようになった。わが国が、新たな安全保障環境構築のため、近隣諸国と防衛分野における対話の拡充を図っていることは第2章で述べたが、これ以外でも近年は自衛隊と諸外国との交流も多くなっている。

 このように、諸外国の国防関係者との相互の交流が多くなってきていることは、諸外国が、自衛隊と交流することに対し、従来以上に重要と認識していることの表れである。わが国にとっても、このような相互の交流は、わが国と諸外国との防衛分野の相互理解において重要な意味を持つものである。

 したがって、自衛隊としても、これらの交流が、諸外国にわが国の防衛政策についての理解を促す好機となると考え、積極的に対応し交流を深めているところである。(栄誉礼を受ける米太平洋軍司令官)(外国武官と懇談する防衛駐在官)(第4−1表 主要諸国との要人交流状況

2 留学生の交流等

 防衛庁では、以前から外国留学生を受入れるとともに、最新の軍事技術の習得等のため諸外国に隊員を留学させている。このような活動によって、能力や技量の向上が図られることはもちろん、修学、研修期間を通じた人間関係のつながりは、相互の国を理解することにも役立っている。

(1) 留学生の受入れ

防衛大学校では、昭和33年以来外国から留学生を受入れ、日本人学生と一緒に全く同一の教育を実施するとともに、事前の日本語教育も行っている。卒業した留学生に対しては、防衛大学校卒業生に学士の学位等を授与する学位授与機構の制度に基づき、日本人学生と同様に学士の学位等を授与することが可能となった。平成4年度からは、従来からのタイ及びシンガポールに加えて、インドネシア、マレーシア及びフィリピンからの留学生を受け入れている。外国人の留学生は、帰国後それぞれの国の軍隊で活躍しているが、防衛庁では、これらの卒業生の一部を再度日本へ招(へい)し、その後の自衛隊の施設や活動を視察する機会を作るなど、交流を継続することにも努めている。

また、防衛研究所、各自衛隊の幹部学校、幹部候補生学校等でも,留学生を受入れ、わが国の学生と同様の教育を行っている。平成4年度は、米国、タイ、韓国及びパキスタンからの留学生を受け入れている。

これらの留学生は、留学後「日本及び自衛隊を理解する上で有効であった。」、「多くの友人を持つことができた。」などの感想を持つ者が多い。このように、留学生の受入れは、人的交流を通じて日本人学生の国際的視野を広め、相互啓発を促すという教育効果が期待できるだけでなく、留学生派遣国との相互理解や友好親善を増進し、わが国の防衛政策及び自衛隊の実態などに対する諸外国の理解を深める上で大きな意義を持つものである。(防大留学生の授業風景)(第4−2表 防衛庁職員及び自衛官の外国留学実績

(2) 留学生の派遣

防衛庁は、海外の軍関係機関や一般大学に留学生を派遣している。その留学生の態様は、

 各種装備の操作、維持管理についての最新の知識を導入するための留学

 最新の指揮運用思想を導入するための留学

 国内で実施困難な又は経済的に引き合わない要員養成のための留学などである。

このような留学生の派遣により、自衛隊の近代化、精強化等に寄与させるとともに、実際に外国で生活し外国人と交流することにより、国際的感覚と広い視野を備えた隊員を育成することができる。また、留学生の派遣は、受入れ国の自衛隊に対する理解の促進及び相互の密接な人間関係の育成という観点からも、極めて有意義であると考えている。

(3) 訓練を通じた交流

自衛隊が日米共同訓練を行っていることは第2章で述べたが、このほか、初任幹部の教育訓練や国際親善を目的とした遠洋練習航海及び国内において訓練施設の制約のため行うことができない教育訓練を米国の訓練施設を使用して行うなど、教育訓練においても諸外国との交流の場がある。さらに、諸外国の艦艇が遠洋航海等で来日した時には、親善訓練などの場を通して交流に努めている。また、外国から新装備を導入した際には、導入に伴う教育などをその国に委託している。

このような教育訓練の場は、部隊及び隊員の能力の向上を図るのみならず、訓練等に参加した軍関係者及び現地の人々との交流を深め、友情と信頼感の醸成にも役立っている。(日米共同訓練で飛行後のミーティングをするパイロット

3 防衛駐在官等による交流

 防衛駐在官は、防衛庁から外務省に出向した自衛官で、外務事務官として大使館などの在外公館に勤務し、主として軍事情報の収集などの任務につくものである。(防衛駐在官の交歓風景

 これらの防衛駐在官は、階級を呼称するとともに制服を着用し、主に赴任国の国防関係者や各国から派遣された駐在武官と交流し、情報収集などを行うほか、自衛隊に対する国際的理解を深めさせるとともに、家族とともに国際親善にも貢献している。さらに、このような海外勤務において身につけた国際感覚や幅広い見識は、帰国後も上級幹部としての職務遂行にあたり、さまざまな形で活かされている。

 また、在外公館には、在外公館の警備体制等の企画立案や赴任国の治安関係行政機関との連絡調整等に従事する警備官が26名出向している。これらの警備官は、外務事務官として勤務しており、その勤務ぶりは高く評価されるとともに、帰国後も語学教育などの自衛隊の国際化への対応に広く貢献している。

 以上のような自衛官のほか、事務官等についても防衛庁から外務省に出向して、アメリカやカナダなどの在外公館に勤務しており、行政経験を活かしてさまざまな業務の処理にあたっている。このような経験が、防衛駐在官と同様に、帰国後の業務遂行に役立っていることは言うまでもない。

4 国際化への対応

 前項までに述べたように、自衛隊の国際交流はますます増加しているが、それのみならず、国際平和協力業務などわが国の国際活動の場における自衛隊の重要性が増大しつつある状況の中で、国際化ヘ対応し得る隊員の育成が迫られている。自衛隊では、従来から語学など職務上必要な教育を実施してきたが、これらが国際化への対応にも役立っており、さらに教育等を充実させているところである。

(1) 語学教育の充実

職務上英語を必要とするパイロットや航空管制官等はもとより、それ以外の隊員についても、国際貢献活動、日米共同訓練、遠洋練習航海等において英語を使用する機会が多く、自衛隊における外国語教育の重要性は一段と高まっている。

とりわけ、英語教育については、防衛大学校や幹部候補生学校において、特に力を入れ実施するとともに、職務上英語を必要とする者については航空学生及び航空管制官の課程などのカリキュラムに加えられている。留学予定者、情報・渉外関係要員等に対しては、さらにレベルアップした内容で、陸上自衛隊調査学校のほか海・空自衛隊の学校に課程を設け教育を実施している。また、日米共同訓練が行われる前には、必要に応じ英会話の集合訓練を行うなど、継続的な教育により語学力の維持向上を図っている。

また、英語以外の語学能力が職務上必要な隊員に対しては、自衛隊内の学校もしくは部外の大学、専門学校等において、ロシア語、中国語、朝鮮語、ドイツ語、フランス語等についての教育を行い、能力の向上及び履修を図っている。(語学教育風景

(2) 国際化に対応し得る人材の確保

国際化に対応し得る人材の確保のため、防衛庁職員採用種試験のうち語学(英語)区分の合格者から、毎年主として大学卒業者を20名程度採用するとともに平成5年度から必要に応じ、一般幹部候補生試験(第1次試験)を米国において実施する。

また、自衛隊では、部外の人との交流を通して幅広い視野や多様な考え方を吸収させるため、中堅幹部等を国際的な業務を取り扱う企業等において1年程度研修させ、国際化に対応し得る人材の育成にも努めているところである。

このほか、防衛駐在官等としての海外勤務、諸外国との防衛交流への参加などの機会を通じて、国際感覚を身につけた人材の活用に努めている。

第5節 地域社会と防衛施設

 自衛隊や在日米軍が使用する飛行場、港湾、演習場、通信所、営舎等の防衛施設は、訓練、警戒監視、情報収集等の活動の拠点であり、自衛隊と日米安全保障体制を支える基盤ともいうべきものである。それらの機能を十分発揮させるためには、防衛施設とその周辺地域との調和を図り、周辺住民の理解と協力を得て、常に安定して使用できることが必要である。

1 防衛施設の使用状況

 防衛施設全体の土地面積は、平成5年1月1日現在約1,402km2であり、国土面積に占める割合は約0.37%である。

 このうち、自衛隊施設の土地面積は約1,069km2であり、その4割以上が北海道に所在する。また、自衛隊施設を用途別にみると、演習場と飛行場が全体の約82%を占めている。在日米軍専用の施設・区域の土地面積は約325km2であり、その7割以上が沖縄県に所在する。

 なお、自衛隊は、日米安全保障条約に基づく地位協定により、在日米軍の施設・区域のうち約35km2を協同使用している。

2 防衛施設と周辺地域との調和を図るための施策

 防衛施設には、飛行場や演習場のように、そもそも広大な面積の土地を必要とする性格のものが多い。また、わが国の地理的特性から、狭い平野部に都市や諸産業と防衛施設が競合しており、特に、経済発展の過程において多くの防衛施設の周辺地域の都市化が進んだ結果、防衛施設の設置や運用が制約されるという問題が大きくなっている。さらに、航空機の頻繁な離発着や射爆撃、火砲による射撃、戦車の走行など、その運用によって周辺地域の生活環境に影響を及ぼすという問題もある。

 これらの諸問題の解決を図るため、政府は、従来から、防衛施設の設置や運用にあたっては、国の防衛の重要性や防衛施設の必要性について国民の理解を求めるとともに、

 射撃訓練等による演習場内の荒廃に伴う泥水の流出や水不足などの対策として、河川の改修、ダムの建設などの助成

 航空機の騒音対策として、音源対策、運航対策と並行して、学校、病院、住宅等の防音工事の助成、並びに移転補償、緑地帯等の緩衝地帯の整備など

 防衛施設の設置や運用による周辺地域住民の生活上又は事業活動上の障害の緩和のため、ごみ処理施設、公園、農業用施設等の整備についての助成

 ジェット機が離着陸する飛行場や砲撃が実施される演習場など、その設置や運用が生活環境や開発に著しい影響を及ぼしている市町村に対する各種公共用施設の整備のための交付金の交付

 航空機の頻繁な離着陸等による農林漁業等の事業経営上の損失に対する補償

などの施策を行い、防衛施設と周辺地域との調和を図るよう努めている(資料60参照)。

 また、沖縄県においては、多くの在日米軍の施設・区域が集中しており、地元からその整理統合について強い要望がある。

 これを踏まえ、平成2年6月に23件、約1,000ha(約10km2)の施設・区域について、返還に向けて作業を進めることが日米間で合意され、これを中心に現在逐次返還手続きを進めているところである。

 現在までに、23件のうち10件、約508ha(約5.08km2)について、返還済み又は返還について合意済みであり、残されたものについてもできるだけ早く返還できるように作業を進めている。(第4−1図 自衛隊施設(土地)の地域的分布状況)(第4−2図 自衛隊施設(土地)の用途別使用状況)(第4−3図 在日米軍施設・区域(土地)の地域的分布状況)(第4−4図 在日米軍施設・区域(土地)の用途別使用状況

むすび

 今日、東西冷戦は終結し大規模な戦争の可能性は遠のいたが、地域紛争が頻発するなど、世界には多くの不安定要因が存在しており、防衛努力が必要であることに変わりはない。こうした中で、わが国としては、引き続き、みずからの防衛努力を行うとともに、日米安全保障体制を維持・強化していく必要がある。

 自衛隊は、わが国に対する侵略を未然に防止し、万一わが国が侵略を受けた場合に、わが国の平和と独立を守るため、実力をもって排除するために存立している。このため、さまざまな機能を有する自衛隊は、防衛任務を全うするため、近代的装備を駆使しつつ、厳正な規律の下、日夜教育訓練や警戒監視活動などに励んでいる。

 さらに、新しい時代を迎え、わが国の国際活動における自衛隊の重要性は増大している。自衛隊をカンボディアやモザンビークに派遣し、長年にわたって培ってきた経験と技能を活かして、国際平和協力業務に従事させて高い評価を得ている。また、諸外国との相互理解を促進するため、交流を深め、対話の拡充を図っている。

 自衛隊に課せられた任務は、自衛隊だけで行えるわけではなく、国民一人ひとりによって支えられてはじめて成し遂げられるものである。このため、今後とも国民の自衛隊に対する理解と支援が重要である。

 転換期の時代にあって、自衛隊は、国民の負託に応え得るよう、さらなる努力と研鑽を重ねていきたい。