第4章

国民の自衛隊

 自衛隊は、創設以来、わが国の平和と安全を確保するという任務達成のため、日夜努力を重ねてきた。また、国の防衛以外の分野でも、他の行政機関や地方自治体等からの要請を受けて、さまざまな分野で社会に貢献してきた。

 それらの中には、災害派遣、南極地域観測に対する協力、音楽隊の演奏などのように、国民によく知られているものもあるが、訓練をはじめとする自衛隊の日常の活動の大部分は、一般の国民の目に触れる機会も限られており、必ずしも国民に十分理解された存在とはなっていない。

 また、自衛隊員は普通の社会人であるにもかかわらず、その任務の特殊性ばかりが注目を集め、現実の姿が十分に理解されていない面がある。

 本章では、国民にとって身近な存在であり、幅広く社会に役立ち得る組織である自衛隊を多くの国民に理解してもらうため、自衛官の素顔と自衛隊のさまざまな活動について触れてみたい。

第1節 自衛官の素顔

 自衛隊の組織は、実力組織である陸・海・空各自衛隊を中心に、将来幹部自衛官となるものを教育する防衛大学校、将来医師である幹部自衛官となるものを教育する防衛医科大学校、わが国の防衛施策に必要な調査研究や上級隊員の教育を行う防衛研究所、新しい装備の研究開発にあたる技術研究本部、主要装備の調達を行う調達実施本部及び自衛隊施設の取得、建設、管理等の業務を所掌する防衛施設庁などで構成される。

 さらに、これら陸・海・空三自衛隊を中心とする自衛隊の隊務を防衛庁長官が統括するための補佐機関として内部部局、陸・海・空各幕僚監部、統合幕僚会議が置かれている。内部部局は、自衛隊の業務の基本的事項を担当する。陸・海・空各幕僚監部は、各自衛隊の隊務に関するスタッフ機関であり、陸・海・空各幕僚長は、各自衛隊の隊務に関する最高の専門的助言者として長官を補佐する。また、統合幕僚会議は、統合防衛計画の作成など統合事項について長官を補佐する(資料39、資料40参照)。

 これらの組織は、全国各地にある自衛隊の駐屯地や基地などに配置された、約26万名の隊員によって支えられている。自衛隊員は、制服を着用する自衛官のほか、事務官、技官、教官等で構成される(資料41、資料42参照)。

 自衛隊は、これを全体としてみれば、多くの分野をこなす技能集団であるが、一人ひとりの隊員は、それぞれ細分化された専門分野のエキスパートであり、その高い専門能力によって科学技術の粋であるさまざまな装備を駆使し、その任務を遂行している。また、最近では、かなりの分野に女性が進出し、男性と対等の資格で活躍している。

 この節では、隊員のうち大多数を占める自衛官の姿を、さまざまな専門分野で活躍する隊員や女性の活躍を中心に、その仕事や生活ぶりを紹介する。

1 専門分野で活躍する隊員

 自衛隊の活動は、広範多岐にわたっており、これを支える隊員には、ハイテク技術をはじめとするさまざまな分野での高い専門能力が要求される。

 ここでは、数多くある自衛隊の専門分野の中から、一般社会の中にも存在し、国民にとっても身近な職業である分野をいくつか取り上げ、同じような職業分野でも、その任務からくる自衛隊業務の特殊性を説明することにより、自衛隊の活動の一端を紹介する。

(1) パイロットと整備員

 自衛隊が使用している航空機には、戦闘機、対潜哨戒機、対戦車へリコプター等のように直接戦闘に使用するものから、輸送機、救難機等のように戦闘の支援に使用するもの、偵察機、掃海へリコプター等のような特殊な用途の航空機、さらには、パイロットを養成するための練習機まで、いろいろな種類のものがある。自衛隊のパイロットにとって、これらの航空機は与えられた任務を遂行するための手段であり、任務の態様によって使用する航空機の種類も、それを操縦するパイロットに要求される技術、能力もさまざまである。

 戦闘機のパイロットには、侵入してくる航空機を要撃したり、陸上や海上の目標を撃破するという任務が与えられている。彼らは音速を超えるスピードと体重の7〜8倍の重力がかかるような中で状況を正しく判断し、科学技術の粋である戦闘機を正確に操って、この任務を達成しなくてはならない。

 対潜哨戒機のパイロットは、戦術航空士をはじめとする他の搭乗員と協力して、広い海に潜む潜水艦を見つけ出し、これを撃破する。このためには、長時間、注意深く観察を続けなければならず、大変な根気と潜水艦や海域の特性を熟知していることが必要である。

 対戦車へリコプターのパイロットには、敵に発見されないように目標に接近し、これを撃破するため、ぎりぎりの低高度で地表すれすれを這うように飛行することが要求されている。

 これらのパイロットは、地上教育を終り、最初の練習機に乗り始めてから飛行部隊に配属されるまでにおおむね3年、部隊では難易度の低いものから高いものへ順次計画的、段階的な訓練を行って、一応任務につけるまでには、さらに2年程度の期間が必要である。

 自衛隊のパイロットは、音速を超えるスピード、体重の何倍もの重力、長時間の緊張、あるいは悪天候など過酷な状況の中で、機体の性能を限界まで引き出し、任務を達成しなけれぼならない。このため、パイロットには強靱な気力、体力と、最先端の科学技術を身につけ、どのような状況下でも瞬時に正確な判断ができるよう能力を磨き、機体が自分の体の一部であるかのように使いこなせるまでに熟練することが要求されている。

 科学技術の進歩に伴う航空機とその装備品の進歩はめざましい。パイロットは、科学技術の進歩に遅れないように、日々訓練を重ねつつ、領空侵犯や航空救難等に備えて、24時間体制で待機し、その職務に励んでいる。

 自衛隊の航空機では、機体の操縦と同時に、各種の搭載機器や武器を駆使することが要求される。それでいて飛行安全の確保は絶対の要請である。このためには、機体、エンジン、搭載機器、武器弾薬等の専門家が、それぞれの専門知識、技術を生かし、一つひとつ確実に点検整備を行い、機体を常に最高の状態に保つことが必要である。航空機は最先端の科学技術の結晶ともいうべきものであり、その整備にはエレクトロニクスやコンピュータの知識技能からX線や超音波の技術まで、広範な分野にわたる専門能力が必要である。

 整備員は、教育部隊での自衛官としての基礎的な教育を終わった後、職種・職域ごとの学校で3か月程度の整備に関する基礎的な教育を受ける。その後部隊に配属され、そこで業務を実施しながら、OJT(on the job training)と呼ばれる訓練によって専門能力を身につける。この訓練は、知識と実際の技能が一定の段階に達するごとに試験を実施し、能力の伸展を確認しながらより高度なものへと段階的に実施される。こうして整備員としてひととおりの知識、技能を身につけるには、おおむね7〜8年の期間を必要とする。修得した能力を活用し、どのような整備業務にも対処することができるようになるまでには、さらに相当長期にわたる努力が必要である。

 経験を積んだ整備員は機体の動きの微妙な変化や、エンジン音のわずかな違いなど故障の徴候を見逃さずに発見し、的確に処置することができる。また、航空機の故障の中には、高空の特殊な環境下でしか事象が現れず、地上では再現し得ないものもあるが、ベテラン整備員になると、パイロットから聴取した故障状況などから、その原因を究明し、必要な処置を行うことができる。

 パイロットが航空機に搭乗し、安全に任務を遂行するためには、これら整備の専門家の、地道にしてひとつのミスも許されない確実な努力が必要である。(発進準備中のパイロットと整備員

(2) コンピュータシステムの専門家

 軍事科学技術の急速な進歩にともない、現代の戦闘は一層複雑になり、そのスピードも速くなってきた。さらに、自衛隊の任務を遂行していくために必要なデータ、物品、資料等は膨大な量にのばる。一方、コンピュータ技術の発達にともない、大量の情報の、より正確かつ迅速な処理が可能となった。こうしたことから、自衛隊では、戦闘能力の最大限かつ最も効率的な発揮や、業務のより一層の効率化といった観点から、さまざまな分野でコンピュータシステムが活用されている。

 戦車、護衛艦、戦闘機等は、多数の搭載装備品がコンピュータを駆使して有機的に連接され、一つのシステムとして体系化されている。また、これらは指揮所などのコンピュータシステムを介して、一つの部隊として組織化されている。また、戦術の開発や改善にあたっては、コンピュータを利用した戦闘シミュレーションが大きな役割を果たしている。さらに、警戒監視や情報収集活動等から得られる各種データの分析や整理、自衛隊の活動に必要な物品の在庫管理、隊員の人事資料の整理、装備の故障データの分析や整理、英文の翻訳などにもコンピュータシステムが活用されている。

 1960年代のベトナム戦争はコンピュータ戦争といわれた。昨年の湾岸危機におけるさまざまな戦闘場面でコンピュータが大活躍したことは、自宅の居間でテレビを見ていた全世界の人々の目にも明らかであった。このように、これからの戦闘はコンピュータ抜きでは考えられない。

 このようにして、およそ自衛隊の活動の中でコンピュータシステムが活用されていない分野は少なく、多くの隊員が、それらのシステムの運用、整備、改善等さまざまな業務において、それぞれの専門家として日々努力を重ねている。ここでは、その中でも、システムづくりに関係する部隊で、コンピュータシステムの専門家として働く自衛官に焦点をあて、彼らの活動の一端に触れることにする。

 これらの部隊に着任する前に、彼らは部隊等で実際に艦艇、航空機、戦車等の運用や整備に携わっているものの、それだけでは進歩のめざましいコンピュータシステムに十分習熟しているとはいえない。このため、彼らはコンピュータシステムの専門家としての研修を受けた後、業務に携わることになる。研修期間中、彼らは、コンピュータの作動原理から始まって、プログラム言語や実際に使用されているソフトウェアの構成などについて、講義や実習を通じて学ぶ。こうした研修に半年から1年が必要であり、その後の業務や研修などを通じて、実力はさらにレベルアップされていく。彼らにとっては、コンピュータの知識のみを高めれば良いわけではない。日進月歩といわれる高度情報化時代にあって、作戦や装備の性能に関する知識、部隊等における経験と、コンピュータに関する知識や経験がミックスされて初めて、彼らは自衛隊における一人前のコンピュータシステムの専門家として育っていくのである。どの知識、経験が欠けても一人前とは言えない。

 例えば、護衛艦は水中、水上、空中の目標からの多種多様な攻撃に対処する能力が必要とされる。護衛艦の戦闘能力を最大限かつ最も効率的に発揮させるためには、レーダーやソーナー等のセンサー類、ミサイルや魚雷等の武器、衛星通信機やデータリンク等の情報通信装置、各種の航法装置といった多数の搭載装備品をどのように組み合わせるか、あるいは、どのようなデータを、どの時期に表示すれば、艦長はスムーズに意思決定を行えるかといった諸々の事項を検討し、護衛艦全体を人体のごとく有機的に体系化することが重要である。戦闘機、早期警戒機、バッジシステム等についても、システムの大きさや要求される機能などには違いはあるものの、高度に体系化されていることには変わりがない。また、物品の在庫管理についても、部隊の戦闘能力を継続的に発揮させるためには、どの物品が、どの時期に、どの場所で必要とされるかといった検討が重要になる。

 このような諸々の事項を検討し、システムを体系的に作り上げていく際、さまざまな知識や経験を総合的に持った彼らが、コンピュータシステムの専門家として大きな役割を果たすのである。(護衛艦の戦闘指揮所

(3) 医療の専門家

 自衛隊は任務の性格上、常に有事に備えて医療体制を整備しておくことが必要である。また、いかなる困難な状況下においても常に任務を確実に達成できるよう、個々の隊員に対しても高い精強性が要求されている。精強とは、単に若くて頑強であれば良いわけではない。有事において、長期にわたる困難な状況の中にあっても、組織としてはもちろん、個々の隊員がその持てる力を完全に発揮できるだけの体力及び気力を備えていることが必要である。このため、自衛隊は、隊員の健康維持から疾病の予防、機能回復までの総合的な健康管理体制をとり、衛生に関する諸対策の充実を図っている。このような任務を達成するため、自衛隊の医療機関として、全国に16か所の自衛隊病院が置かれているほか、各駐屯地等に医務室が設置されている。また、師団などの主要部隊には、部隊の行動に即応して治療、後送、防疫支援等を遂行する衛生部隊が設置されている。

 自衛隊において衛生業務に従事する隊員は、医官、歯科医官を始め、薬剤官、看護官等で構成されており、医療関係の資格を有する隊員の現在員(平成4年3月末)は約4,800名である。そのうち、医官の現在員は、約720名である。医官については従来公募によって充足してきたが、昭和49年、防衛庁の附属機関として防衛医科大学校を設置し、医官の養成にあたっている。また、できる限り有資格の医療従事者をみずから養成するため、陸上自衛隊衛生学校には臨床検査技師課程を、自衛隊中央病院には高等看護学院及び診療放射線技師養成所を併設している。また、札幌、横須賀、岐阜等の自衛隊病院には准看護士養成所も併設されている。このほか、防衛医科大学校病院で勤務する看護婦をみずから養成するため、高等看護学院が設置されている。

 一方、自衛隊の任務の性格から、医官も医師としてだけではなく、自衛官として職務遂行に必要な防衛に関する知識、体力及び気力が要求されている。このため、医官は、防衛医科大学校等で行われる研修を通じて医師としての臨床医学上の専門的な知識、技能の向上を図るとともに、衛生科幹部として部隊の運用や戦術等に関する知識を修得する。

 調査研究の分野では、陸上自衛隊衛生学校、海上自衛隊潜水医学実験隊、航空自衛隊航空医学実験隊で勤務する医官等は、熱傷治療、飽和潜水、航空医学等の研究を行うとともに、部隊運用において問題となる医学的事項及び戦傷の研究など、有事に実際に役立てるための研究を平素から行っている。このほか、多数の隊員を有し、全国各地に所在する自衛隊の特性上、伝染病、風土病について防疫業務等を行っている。

 また、自衛隊は要請に応じて、へき地への巡回診療を行ったり、災害発生時の救急、防疫等を行うなど民生協力に努めることとしている。自衛隊にとって、災害発生時に出動して救援や復旧作業を行う災害派遣も重要な任務の一つである。例えば、群馬県に所在する陸上自衛隊第12師団の衛生隊は、昭和60年8月の日航機墜落事故時における災害派遣を教訓として、「いつ、いかなる場所においても救護活動ができる医療チーム」を目標として、医官、准看護士等の資格を有する衛生隊員によって編成された空中機動医療チームの隊員にへリコプターからロープで降下するリぺリンダ訓練を昭和63年から続けている。この訓練は、車両の通行が不可能な地域や峻険な山岳地帯における患者発生現場において、医官による早期治療を開始するとともに、より迅速、安全に患者を後送して救命率の向上を図ることを目的としている。このように、災害派遣における救急医療についても、医官をはじめとして衛生部門の隊員が有効に任務を達成できるよう日々訓練に励んでいる。

 以上みてきたように、医官は自衛隊衛生部門の中核として広範な分野で責務を的確に果たすよう努めている。また、防衛庁・自衛隊としても医官の確保や医官の医療技術の向上に努めている。(防衛医科大学校)(リペリング訓練中の衛生隊員

2 進出する婦人自衛官

 自衛隊においては、その発足当初から看識職域に婦人自衛官を配置していたが、昭和42年度に陸上自衛隊が通信などの一般職域にも初めて婦人自衛官を配置した。その7年後の昭和49年度から、海上・航空自衛隊にも婦人自衛官制度が導入された。以後、婦人自衛官の数は着実に増加し、平成4年3月末現在、約8,000名の婦人自衛官が在職しており、これは自衛官全体の約3.3%に相当する。うち、陸上自衛隊の婦人自衛官は約5,200名、海上自衛隊の婦人自衛官は約1,500名、航空自衛隊の婦人自衛官は約1,300名となっている。これを階級別に見ると、幹部自衛官が約760名、准曹が約1,200名、士が約6,100名である。このうち、陸上自衛隊には、自衛隊の病院等で看護婦として勤務している婦人自衛官が約700名存在する。

 婦人自衛官は、給与、昇任等が男子自衛官と全く同一であり、共通の試験によって採用され、昇任する。

 自衛隊は前述したように、その発足当初から看護職域に婦人自衛官を配置するなど積極的に婦人自衛官の登用を行っていたところであるが、近年のわが国一般社会における女性のあらゆる分野への参加の促進等の状況を踏まえ、防衛庁では自衛隊の精強性に配慮しつつ、より一層、婦人自衛官の積極的登用に努めている。

 婦人自衛官の職域については、戦闘に直接携わる職域や大きな肉体的負荷を伴う職域などを除き、全体の約8割の職域を婦人自衛官に開放し、逐次その配置を進めている。例えば、海上自衛隊においては、昭和60年度より、港内での曳船や、艦艇乗組員の輸送にあたる交通船などの支援船勤務に婦人自衛官を配置した。航空管制業務については、陸上自衛隊では昭和63年度、海上自衛隊では平成元年度、航空自衛隊では平成2年度からそれぞれ女性が活躍を始めている。さらに平成2年9月から、婦人自衛官が訓練支援艦「くろべ」での勤務を開始した。また、平成3年度より、海上自衛隊においてパイロット養成のための教育も始められている。

 平成4年3月現在、自衛隊病院の看護部長(一佐)や医官(同)、歯科医官(二佐)、学校の事務部門の課長(同)などが、婦人自衛官では上位の階級にあたるが、昭和61年度に航空自衛隊の幹部学校指揮幕僚課程に初めて婦人自衛官が合格して以来、陸上・海上自衛隊においても指揮幕僚課程など上級の指揮官・幕僚として必要な技能を修得するための教育を受ける婦人自衛官が生まれている。

 なお、防衛医科大学校においては、昭和60年度より女子学生を受け入れており、現在42名の女子学生が在籍している。既に14名が卒業し、自衛隊中央病院等に勤務している。また平成4年度から、防衛大学校も女子の受け入れを開始している。

 因みに、外国の軍隊における女性の登用についてみると、米国では、現在約22万2千名の女性が陸・海・空軍及び海兵隊に勤務しており、総兵力の約11%を占めている。1948年より正式に女性軍人の採用を始め、士官学校(わが国の防衛大学校にあたる)に初めて女性が入学したのが1976年であるから、その歴史はわが国の婦人自衛官制度に比し長い。その他の国の例を挙げると、カナダでは約9,400名(総兵力に占める割合は約11%)、英国では約1万8千名(同6%)、フランスでは1万3千名(同3%)、オーストラリアでは8,500名(同12%)の女性兵士がそれぞれの軍隊に勤務している。

 現在、米軍においては戦闘職種への女性の配置の是非をめぐって、さまざまな議論が行われており、わが国の今後の婦人自衛官制度のあり方についても、大いに参考になり注目しているところである(資料は、「ミリタリー・バランス(1991〜1992)」による)。(自衛隊初の女性パイロット学生)(米軍の女性兵士たち

3 日常生活

 部隊で勤務する隊員は、通常、後に述べる教育訓練による練度の向上に努めたり、警戒活動などの任務に従事している。これらの業務は交替制勤務の者を除き、普通は朝8時から夕方5時の間の勤務時間に実施し、その他の時間は当直などの場合を除いて自由な時間になっている。もちろん警戒活動や訓練、演習などで一定の期間拘束されることがあるのは、自衛隊の任務上、当然のことである。

 独身の曹士の大部分は、原則として、駐屯地または基地内の隊舎で生活しているが、勤務終了から次の勤務までの間、外出を許可され、自由な時間をエンジョイする者も多く、同世代の一般社会の若者のライフスタイルと大きな差はない。

 既婚の曹士と幹部は、駐屯地や基地の外で生活している。これらの隊員は、通常、朝8時に仕事を始め、夕方5時に仕事を終えて帰宅するという、一般の社会人と同じ勤務体制になっている。

 また、駐屯地や基地では、各種の厚生施設や体育館、プールなどが整備されつつあり、これらを活用して余暇を楽しんだり、クラブ活動を行うなど個人の生活を楽しめるようになっている。

 防衛庁では、隊員の勤務条件の改善に努力しており、本年4月には育児休業制度を、5月には完全週休2日制を一般職の国家公務員と同様に導入したところである。

 隊員が家族とともに生活する宿舎については、まだ十分とはいえない面もあるので、新設や建て替えを図り、補修を進めるなど、よりよい生活環境を提供すべく改善努力を行っている。近年、国民の居住環境の改善が著しいなかで、自衛隊が将来にわたって優秀な人材を集め、高い士気を維持していくためにも、防衛庁としては、これら自衛官の居住環境の改善努力を続けることが必要であると考えている。(日常生活

4 募集・就職援護

 以上述べてきたような人材集団である自衛隊は、一般社会のさまざまな職場と同様、個人の自由意思に基づいて入隊する人々によって構成されている。自衛隊では精強性を維持するため一般公務員より早い年齢で退職する若年定年制と2年または3年を勤務年限として採用する任期制という人事制度をとっているため、年間約2万3千名を自衛官等として採用している(資料43参照)。これらの自衛官等は、幹部候補者、曹候補者あるいは任期制自衛官である2等陸・海・空士等として採用されるが、いずれの場合でも、本人の努力次第で上位の階級に昇任する道が開かれている(資料44参照)。

 隊員募集は、人手不足が進む昨今の厳しい募集環境の中で、各都道府県に置かれた自衛隊地方連絡部が地方自治体、教育委員会、学校、隊友会、父兄会、民間の募集相談員などの協力を得ながら行っている(資料45参照)。

 また、任期満了や定年で退職した自衛官は、わが国の雇用慣行等から、再就職が必ずしも容易ではない状況下にあって、各種の就職援護施策や民間の任意団体である退職者雇用協議会などの協力によって、ほぼ全員が再就職している(資料46、資料47参照)。これら民間企業に再就職した退職自衛官は、全般的に責任感、勤勉性、気力、体力、規律等の面で優れていることなどから、総じて企業側から高く評価されている。これは、自衛隊における日頃の教育訓練や実際の任務遂行で培われた能力が社会生活に役立つことを示している。また、このような人材を社会に送り出すことは、自衛隊のよって立つ国民的すそ野を広げることにもなっている。

 なお、退職した自衛官には、志願することによって予備自衛官になる道があり、現在、約4万8千名がこれに採用されている。予備自衛官とは、普段は一市民として各々の職業に従事しているが、有事の際には、招集されて自衛官として勤務する非常勤の隊員である(資料48参照)。(平成3年度防衛庁広報キャラクター)(自衛官の採用

第2節 平時における自衛隊の活動

 防衛庁・自衛隊に課せられた究極の任務は、他国にわが国を侵略させないこと、侵略の意図を抱かせないことである。戦後半世紀近くにわたり、わが国が平和であったということは、自衛隊が平素から国を守るための各種の活動を怠りなく実施することにより、この任務を成功裏に達成してきたからであろう。

 ここでは、平時の自衛隊のさまざまな活動の中から、教育訓練、警戒活動等及び技術研究開発について記述する。

1 教育訓練

 自衛隊が任務を有効に遂行し、国民の負託にこたえ得るためには、指揮官をはじめとする隊員の能力と士気が高く、かつ、部隊として高い練度を有することが必要である。このため、平時における自衛隊は、教育訓練が活動の中心となっている。

(1) 隊員の教育

 自衛隊における教育の目的は、隊員としての資質を養い、職務を遂行する上に必要な知識及び技能を修得させるとともに、練度の向上を図り、もって精強な部隊の練成に資することにある。

 この目的を達成するため、使命感の育成と徳操のかん養、近代的な装備に対応する知識と技能の修得、基礎的体力の練成、統率力ある幹部の養成を重視して教育を実施している。

 自衛隊において、隊員の教育の中心的なよりどころとされているものに、昭和36年に制定された「自衛官の心がまえ」がある。

 自衛官の心がまえは、「使命の自覚」、「個人の充実」、「責任の遂行」、「規律の厳守」、「団結の強化」の5項目から成り立っている。また、その前文において、国の理想、世界の現実、国の防衛の必要性、自衛隊の使命と任務、自衛隊に対する民主的統制、自衛官の精神の基盤、自衛官と政治的活動等について述べており、自衛官の心がまえに関する大切な事項を網羅している(資料49参照)。

 自衛隊では、これに基づいて、強い使命感と円満な良識と豊かな人間性をもち、かつ、優れた技能を有する隊員の育成に努めている。

 自衛隊には、教育機関として幹部候補生学校、幹部学校、職種・職域ごとの学校等と、新入隊員などの教育を主任務とする多くの教育部隊がある。

 士は、年齢も若く自衛隊の活力の源泉である。彼らの多くは、まず2士として採用され、各自衛隊の教育部隊で3ないし4か月間基礎的な教育を受ける。ここでは、新隊員にまず団体生活に慣れさせ、体力の練成を図りながら、隊務遂行に必要な基本事項の修得、敬礼や行進等の基本教練、小銃射撃訓練などを実施し、次第に自衛隊の使命を自覚させ、自衛官として必要な基本的資質を養成していく。この間に、適性検査や面接などを行い、各人に適した職種・職域を決定する。その後、職種・職域別の学校や教育部隊において、ある程度専門的な知識技能の教育を行う。隊員は、この教育によって必要な専門能力の基礎を身につけ、一線部隊に配置される。

 曹は、部隊の中核的存在であり、小部隊の指揮官や専門的な技術者としての能力を発揮して部隊の任務を遂行する立場にある。このため、初級から上級への各段階において、曹として必要な資質を養い、知識技能を修得するため、一定の期間部隊を離れて各種学校や教育部隊に入校し、必要な教育を受けている。

 幹部自衛官は、指揮官・幕僚として部隊等の指揮、運用に責任を負う者と位置づけられている。したがって、部隊が精強であるか否かは、幹部自衛官の能力によるといっても過言ではない。その教育は階級に応じて段階的かつ体系的に行っている。特に、上級幹部は各自衛隊の幹部学校や統合幕僚学校、防衛研究所において教育を受けるとともに、米国の軍学校等に留学して、高度の専門知識と広い視野を身につけることとなる(資料50参照)。

 将来幹部自衛官となる者の教育機関として、防衛大学校が置かれている。そこでは、高等学校の卒業生等を対象として、古い歴史と優れた文化、伝統をもつ民主主義国家日本の将来の防衛を担う幹部自衛官として必要な識見及び能力を付与し、かつ、伸展性のある資質を育成するための教育を行っている。同校の教育は、大学設置基準に準拠したアカデミックな教育を主体に、あわせて防衛学の教育や訓練を行うことによって、広い視野を開き、科学的な思考力を養い、豊かな人間性を培うことに留意しているのが大きな特色である。なお、学生の採用は、従来学科試験等の実施により行ってきたが、これに加えて平成3年度の採用試験から優秀な人材の確保等のため、推薦採用制度を導入した。

 また、医師である幹部自衛官となる者の教育機関として防衛医科大学校が置かれている。同校では、一般の大学の医学部と同様の教育に加え、自衛官として必要な教育訓練を行い、卒業生には医師国家試験の受験資格が与えられる。

 なお、防衛大学校及び防衛医科大学校の学生は、卒業後一般大学出身者とともに幹部候補生学校に入校し、6か月ないし1年の間、幹部としての資質を養うとともに、初級幹部として必要な基礎的知識と技能を修得するための教育を受けることになる。

 防衛大学校及び防衛医科大学校の卒業生に対する学位の授与は、両校の教育内容が一般大学と同等であるにもかかわらず、今まで認められていなかった。しかしながら、平成3年度から、文部省の学位授与機構により、所定の審査を経た上で、大学に相当する防衛大学校本科及び防衛医科大学校医学科の卒業生に対しても学士の学位が授与されることとなった。また、大学院に相当する防衛大学校理工学研究科の卒業生に対しては修士の学位が、同じく防衛医科大学校研究科の卒業生に対しては博士の学位が、論文審査等を経た上で、それぞれ授与されることとなった。(新隊員教育期間中の婦人自衛官)(幹部候補生学校修業式

(2) 部隊の練成

 陸・海・空各自衛隊の部隊における訓練は、個々の隊員に対する訓練と部隊としての訓練に大別される。個々の隊員に対する訓練は、職種・職域ごとに練度に応じて段階的に行われる。部隊としての訓練は小さな単位の部隊から大きな部隊へと徐々に訓練を積み重ね、組織として能力を発揮できることを目標に行われている。各自衛隊は、その任務に応じて特徴のある訓練を次のとおり実施している。

 陸上自衛隊では、小銃、迫撃砲、対戦車火器等を主要装備とする普通科、戦車の機甲科、野戦砲や対空ミサイルの特科など各職種ごとに部隊の行動を訓練するとともに、他の職種部隊との協同による組織的な戦闘力の発揮にも留意している。特に、普通科連隊等を基幹とし、それに他の職種部隊を配属して総合戦力を発揮できるように編成した戦闘団の訓練を充実し、一層の練度の向上を図っている。これらの訓練においては、レーザー利用の交戦訓練装置等を利用して、できる限り実戦に近い環境下で実施し、客観的評価を行うことに努めている。

 海上自衛隊では、要員の交代や艦艇の検査、修理の時期を見込んだ一定期間を周期とし、これを数期に分け、段階的に練度を向上させる周期訓練方式をとっている。訓練の初期段階では、戦闘力の基本単位である艦艇や航空機ごとのチームワーク作りを主眼に訓練する。練度の向上に伴って、応用的な部隊訓練へと移行し、参加部隊の規模を拡大しながら、艦艇相互の連携や艦艇と航空機の間の協同要領などの訓練を実施している。なお、幹部候補生学枚の卒業者を対象に海上実習の一環として遠洋練習航海を行っており、これは参加者の国際的視野の養成や国際親善にも役立っている。

 航空自衛隊は、戦闘機、地対空誘導弾、レーダー等の先端技術の装備を駆使する集団である。このため訓練の初期段階では、個人の優れた専門的な知識技能を段階的に引き上げることを重視しつつ、戦闘機部隊、航空警戒管制部隊、地対空誘導弾部隊等の部隊ごとに訓練を実施している。この際、隊員と航空機やレーダー等の装備を総合的に機能発揮させることを目指している。練度が向上するに従って、これらの部隊間の連携要領の訓練を実施し、さらに、これらの部隊に航空輸送部隊や航空救難部隊などを加えた総合的な訓練を実施している。

 また、自衛隊は、陸・海・空各自衛隊の諸機能を総合的に発揮するための統合訓練の充実にも努めている(資料51参照)。(訓練中の偵察隊員

(3) 教育訓練の制約

 自衛隊が教育訓練を行うにあたっては、種々の制約がある。演習場や射場は数が少なく、地域的にも偏在しているうえ、広さも十分でないため、大部隊の演習、長射程の火砲やミサイルの射撃訓練などを十分には行えない状況にある。訓練海域は漁業などの関連から、使用時期や場所などに制約を受けている。特に、掃海訓練や潜水艦救難訓練などに必要な比較的水深の浅い海域は、一般船舶の航行、漁船の操業などと競合するため、訓練は一部の場所に限られ、使用期間も制限されている。訓練空域は、広さが十分でないため、一部の訓練では航空機の性能や特性を十分に発揮できないこともあるうえ、基地によっては訓練空域との往復に長時間を要し、さらに飛行場の運用にあたっては、航空機騒音に関連して早朝や夜間の飛行訓練の制限などを行わざるを得ず、必ずしも十分な訓練ができない状況にある。

 このため、米国への派遣訓練や硫黄島での飛行訓練、別の方面隊の演習場に移動しての訓練などを行って、練度の維持向上に努めている。

(4) 安全の確保

 自衛隊の訓練や行動は、その特性上危険と困難を伴うことは避けられないが、それでも国民に被害を与えたり、隊員の生命や国有財産を失うことにつながる各種の事故は、絶対に避けなければならない。

 このような観点に立って、自衛隊では、安全管理に常に細心の注意を払っており、海難防止や救難のための装備や航空保安無線施設を整備するなど、海上安全や航空安全を確保するための施策の推進に努めている。

 また、平成4年度から、年2回、自衛隊航空安全週間と自衛隊航海安全週間」を設けて、関係する各部隊及び各隊員の認識を新たにするとともに、事故防止と航空・航行安全の徹底を図ることとした。

2 警戒監視活動等

 わが国に対する不法行為の徴候を早期に感知し、機敏に対応することは、他国による侵略を防止するのに不可欠である。このため自衛隊は、平時から警戒活動をはじめとする諸活動を行うことにより、わが国の安全確保に努めている。

 これらの活動の第一は、主要海峡等における警戒監視である。主要海峡では、陸上にある沿岸監視隊や警備所において、継続して必要な監視活動を行っている。さらに、対馬、津軽、宗谷の三海峡では、艦艇を配備している。わが国の周辺海域を行動する艦船については、対潜哨戒機により、北海道周辺の海域、日本海及び東シナ海を1日1回の割合で警戒監視しているほか、必要に応じ、艦艇や航空機による警戒監視を行っている。

 第二は、許可なくわが国の領空に侵入する航空機に備えた警戒監視と緊急発進(スクランブル)である。自衛隊は、全国28か所のレーダーサイトと早期警戒機によって、わが国及びその周辺上空を24時間体制で監視している。わが国周辺では航空機の往来がおびただしく、この中から領空侵犯のおそれのある航空機を識別するのは大変根気のいる作業であるが、これを発見した場合には、地上に待機させている要撃機に緊急発進をさせている。緊急発進した要撃機は、対象機に接近じ、その状況を把握しながら、必要に応じて退去の警告等を発する。

 第三は、国外からわが国に飛来する軍事通信電波、電子兵器の発する電波等の収集である。これらの電波を整理分析して、わが国の防衛に必要な情報資料の作成に努めている。ソ連軍用機による大韓航空機の撃墜事件(昭和58年)の際、真相の究明に大いに役立ったのは、多くの人の記憶しているところである。

 さらに、現在29の在外公館に37名の防衛駐在官を派遣して軍事情報の収集などを行っている。

 このように、自衛隊は、いついかなる状況にも対処できるよう、24時間体制で黙々と活動している。(機上からの監視活動

3 技術研究開発

 先の湾岸危機において多くのハイテク兵器が使われたことに示されるように、各国は兵器の技術研究開発を進めており、その結果、軍事戦略や戦術に大きな変革がもたらされた。わが国としても、これらの国々の技術的水準の動向に対応できるよう、装備の研究開発に努めている。

 装備の整備にあたっては、費用対効果などの総合的検討が必要なことはいうまでもないが、装備をみずから研究開発し生産することは、わが国の国土や国情に適した装備を持つことができる、装備の導入後も技術の進歩に即した所要の改善が可能である、長期にわたる装備の維持、補給が容易である、防衛生産基盤や技術力の維持、育成を図ることができるといった利点がある。

 防衛庁には、陸・海・空各自衛隊の運用上の要求等に応じて、装備に関する研究開発を一元的に行う機関として技術研究本部が置かれている。ここでは、各自衛隊が必要とする装備をシステムとしてまとめあげる業務、技術開発の基礎となる調査、研究等の技術研究や試験評価の業務及び実際の環境条件下における試験評価等の業務を行っている(資料52、資料53、資料54参照)。

 技術研究本部での開発や研究にあたっては、民間の持つ優れた先端汎用技術に大きく依存している。一方、技術研究本部の研究成果の中には、他の分野に応用できるものもあり、国全体の技術水準の向上にも役立っている。

 官民の技術が相互に活用され、飛躍的に技術が向上した例として、複合材料があげられる。複合材料は、性質の異なる素材を組み合わせた、軽量、高強度の材料である。複合材料の中で実用化がもっとも進んでいるCFRP(炭素繊維強化プラスチック)は、もともと米国で、航空宇宙機器用の材料として開発、応用が進んだ軍用技術であった。これが日本では、釣竿やゴルフクラブ、テニスラケットのようなスポーツやレジャー用品など民需の分野で大量の需要があり、技術的にも大きく発展した。この民需の分野で発展した技術が、技術研究本部等で開発する航空機や誘導武器をはじめとする各種装備の構造用材料の分野で、ふたたび応用されるようになっている。

 民間で開発されたファインセラミックスは、軽量で強度、耐熱性、電磁気特性、光学特性に優れていることから、装甲材料、エンジン部品、電子機器、光学機器等の防衛分野への応用が進んでいる。また、フラットディスプレイの技術は航空機、戦車等の装備品に使用する各種表示装置に応用されているし、光ファイバー技術は航空機の制御系、誘導弾の有線誘導等に応用されている。

 このほか、防衛技術として開発された高剛性、軽量の合金の技術が東北、上越新幹線の車両をはじめとする鉄道車両や自動車、橋梁等の構造用材料に応用された例や、化学剤や生物剤から兵員を防護するマスクの技術が消防や塗装等の民生作業用の防護マスクに応用された例などもある。(地対艦誘導弾SSM−1

第3節 国民生活と自衛隊

 自衛隊は国を守るための組織であり、そのため必要な隊員及び装備を有し、平素から教育訓練を積み重ね、さまざまなノウハウを蓄積していることはすでに述べたとおりである。

 自衛隊は、その組織、装備、能力を生かして、防衛任務のほか災害派遣や各種の民生協力活動などを行っている。これらの活動は、民生の安定に寄与するとともに、隊員に平素から直接国民生活に貢献しているという誇りと使命感を自覚させている。

 また、自衛隊は、これらの活動や部隊の公開などを通じて、地域との交流や触れ合いの場をつくり、あるいは防衛施設周辺の抱える問題点への積極的な対処などを通じて、国民の理解を求めるなど、自衛隊を真に国民的基盤に立脚したものとするよう努力している。

1 災害救助活動

 自衛隊は、天災地変その他の災害に際して、都道府県知事、海上保安庁長官、管区海上保安本部長及び空港事務所長からの要請に基づき、人命または財産の保護のため災害派遣を行っている。昭和62年度から平成3年度までの5年間に自衛隊が行った災害派遣は3,400件を超え、作業に従事した隊員は延べ約16万3千名、車両延べ約3万3千両、航空機延べ約6,700機、艦船延べ約150隻に及んでいる(資料55参照)。

 派遣された自衛隊の具体的な活動は、遭難者や遭難した船舶、飛行機の捜索救助、水防、防疫、給水、人員や物資の緊急輸送など広範多岐にわたっている。

 最近の大規模な災害派遣の例としては、平成3年6月からの雲仙普賢岳噴火への派遣及び平成4年5月から6月の風倒木等による二次災害防止のための九州4県への派遣がある。

 また、地震に関しては、実際に発生すれば災害派遣が行われることになるが、発生前でも、地震による災害の発生の防止または軽減を図るため、地震防災派遣が行われることがある。地震防災派遣は、「大規模地震対策特別措置法」に基づく警戒宣言が発せられたとき、地震災害警戒本部長(内閣総理大臣)の要請に基づき行うこどになっている。

 防衛庁では、地震防災対策強化地域に指定されている東海地域での大規模地震に備え、「東海地震対処計画」を準備している。この計画では、地震発生前に措置される地震防災応急対策の一環としての自衛隊活動と、地震発生後の災害派遣実施体制、活動内容、派遣規模等について定めている。地震発生前に行われる地震防災派遣においては、関係省庁、強化地域指定県と調整の上、へリコプターによる交通状況、避難状況等の把握、艦艇、航空機等を使用しての人員、物資の輸送のほか、偵察機も用いて都市部の撮影、解析を行うことになっている。

 また、防衛庁では、南関東地域(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県)に大規模な震災が発生した場合に備え、「南関東地域震災災害派遣計画」を準備している。この計画は地震発生後の災害派遣実施体制、活動内容、派遣規模について定めている。

 自衛隊は、万一これらの事態が起きた場合に備えて、毎年「防災週間」に行われる総合防災訓練や水防等の訓練に参加するなど、災害派遣や地震防災派遣の能力の向上を図っている。(救難飛行艇による救助作業

2 輸送活動

 自衛隊は、災害派遣として、医療施設に恵まれない離島やへき地における救急患者を緊急輸送しており、民生の安定にも大きな役割を果たしている。昭和62年度から平成3年度までの5年間に実施した急患輸送は約2,500件にのぼり、従事した隊員は延べ約1万4千名、航空機は延べ約2,700機に及んでいる。

 また、自衛隊は国の機関からの依頼に基づき、陸・海・空各自衛隊のへリコプターや輸送機による、国賓や内閣総理大臣などの輸送を行っている。自衛隊は、これらの輸送に主として用いるへリコプター(スーパー・ピューマ機;AS−332L)を3機保有しているほか、本年4月に、総理府から所属替を受けた2機の政府専用機(B−747)を保有しており、現在運用のための準備を進めている。

 政府専用機について政府は、「国際社会におけるわが国の果たすべき役割にかんがみ、国際化の一層の進展に寄与するため、各国の例にならい、政府専用機を保有すること」とし、そのため、昭和62年5月、内閣に政府専用機検討委員会が設置された。

 同委員会は機種について、最新鋭機で航続性能等に優れていること、機体の容量が大きく運用に柔軟性があること、十分な整備支援体制を見込み得ること等を総合的に判断して、B747−400を選定した。

 平成3年10月、本格的な管理、運用体制について政府専用機検討委員会で検討した結果、平成4年4月1日から政府専用機を防衛庁に所属替することが決定された。また、使用目的についても、同委員会で、主として内閣総理大臣等の輸送の用に供することとするほか、必要に応じ、緊急時における在外邦人救出のための輸送、国際緊急援助活動実施のための輸送及び国際平和協力業務実施のための輸送等の用に供することができるよう準備を進めることが決定された。内閣総理大臣等の輸送については、自衛隊法第100条の5の規定に基づき輸送が可能である。また、国際緊急援助活動実施のための輸送及び国際平和協力業務実施のための輸送については、国際緊急援助隊法の一部改正法及び国際平和協力法の成立により、輸送を行うことが可能となった。しかしながら、緊急時における在外邦人救出のための輸送については、現行法上自衛隊の一般的、恒常的な権限として規定されていないので、自衛隊がこの輸送を行うことができることとするため、自衛隊法の改正案を国会に提出している。

 自衛隊では、現在、政府専用機の安全、確実な運航に向け、運用試験と訓練を行っている。(政府専用機内の会議室)(政府専用機内での訓練風景

3 教育訓練の受託等

 自衛隊は、部外から委託を受け、相当と認められる場合、任務遂行に支障のない範囲で、隊員以外の者や外国人に対しても教育訓練等を行っている。

(1) 公務員等に対する受託教育

 自衛隊では、警察庁からの委託を受け、救急活動に必要なレンジャー訓練を実施している。これは、山岳地域などでの救助活動に必要な能力を身につけるため、ロープを使用したへリコプターからの降下及び患者を背負っての岩場の移動などに関する教育を行うものである。

 また、警察庁、海上保安庁及び東京消防庁からの委託を受け、水難救助教育として、水中における捜索、救助法の教育を実施している。さらに、救急処置や健康管理に関する教育、水没した航空機の操縦席からの脱出訓練、船舶が破損したり火災になったときを想定しての防火及び防水の訓練、ボンべやヘルメットを使って20m程度の水中ヘ潜水して作業を行う訓練、航空機の操縦士や整備員の訓練など、自衛隊の持っているノウハウや訓練施設を有効に活かせる分野の教育を受託している。

(2) 外国人に対する教育訓練の受託

 防衛大学校では外国からの留学生を受け入れ、日本人学生と一緒に全く同一の教育を実施しており、あわせて事前の日本語教育も実施している。昨年度は、タイ及びシンガポールから、また、本年4月からは、これらの国に加えインドネシア、マレーシア及びフィリピンからの留学生を受け入れている。外国人の留学生は帰国後、それぞれの国の軍隊で活躍しているが、防衛庁では、これらの卒業生を日本ヘ招(へい)し、ぞの後の自衛隊の施設や活動を視察する機会をつくったり、文流を深めたりしている。

 また、防衛研究所、各自衛隊の幹部学校、幹部候補生学校等でも留学生を受け入れ、こわが国の学生と同様の教育を実施している。昨年度は、米国、タイ、韓国、ドイツ及びパキスタンから留学生を受け入れている。

 外国人留学生の受け入れは、人的交流を通じて日本人学生の国際的視野を広め、相互啓発を促すという教育効果が期待できるだけでなく、留学生派遣国との相互理解や友好親善を増進し、わが国の防衛政策及び自衛隊の実態などに対する諸外国の理解と認識を深める上で大きな意義をもつものである。

(3) 体験入隊

 自衛隊では、一般国民に自衛隊を理解してもらうため、広報活動の一環として民間企業や各種団体などからの依頼を受けて、新入社員などの体験入隊を実施している。これは、自衛隊の駐屯地や基地に2〜3日間宿泊し、隊員と同じような日課で自衛隊における隊内生活を体験してもらうものである。その内容は、防衛問題や自衛隊の現状に関する説明、敬礼や行進などの基本動作、体育、隊内見学等である。

 平成3年度には、約5万4千名の体験入隊を実施した。体験入隊に参加した人々は、「自衛隊に暗いイメージをもっていたが、実際は明るいことがわかり認識を新たにした」、「団体生活や規則正しい生活、時間の厳守などの大切さを知った」といった感想をよせている。(体験入隊に参加する民間の女性たち

4 地域社会との触れ合い

 自衛隊の部隊や機関は、北は北海道の礼文島から南は沖縄県の宮古島まで、全国すべての都道府県の駐屯地や基地に配置されている。これらの駐屯地や基地は、地域社会と密接に関連し、地域の発展及び民生の安定に寄与するための基盤となっている。また、多くの場合、駐屯地や基地の所在する地域には地元住民有志によって作られた各種の協力団体がある。これらは、防衛協会、自衛隊協力会、駐屯地友の会、に自衛隊を支援する婦人の会など名称はさまざまであり、組織の規模も数千人のものから十数人のものまであるが、それぞれ自衛隊の行う各種行事に対する支援や激励等の協力活動を行うことにより、自衛隊の活動を支えてくれている。さらに、これらの団体の人々と部隊の隊員の間で随時会合を持つことにより、率直に意見を交換し、親交を深めている。各部隊においては、このような親近感と連帯感を、より広範なものとするため、部隊の一般公開、各種行事への参加などさまざまな交流の場を作っている。

 これらの活動の具体的な例としては、地元の小中学生や各種団体の会員などによる部隊見学、創立記念日のような機会をとらえての部隊の一般公開、体験入隊、体験航海、体験搭乗などがある。また、地元からの要請により、グランド、体育館、プールなどの施設を開放したり、これらの施設を使って少年サッカーや小中学生の水泳大会などを行ったりしている。隊員は、一緒にスポーツを楽しんだり、各種武道、スキー、スキューバダイビンダ等の審判や指導員を引き受けるなど、地元の人たちと密接に交流している。さらに、春の花見や夏の盆踊り、花火大会などにも駐屯地や基地を開放し、地元の人たちと隊員とが一体となって楽しんでいる。

 このほか、駐屯地や基地の主要幹部は、地元の各種団体から要請を受け、国際情勢、安全保障、防衛問題等に関する講演を行うことも多い。このようなことは、地元の人たちの自衛隊に対する正確な理解を得るために有益なので、他の業務に支障がない限り進んで協力するようにしている。

 また、各自衛隊には音楽隊が設置されており、演奏会の開催や地方公共団体などからの協力要請により、平成3年度には約1,800回の演奏活動を行い、駐屯地や基地と地元の人たちとの架け橋として喜ばれている。

 以上のような広報活動のほかにも、自衛隊は、地元の行事に積極的に参加している。これらの中には、さっぽろ雪まつり、青森のねぶたまつり、徳島の阿波踊りのように全国に知られた大規模なお祭りもあるが、そのほかにも、一つひとつの規模は小さいが、全国いたるところで行われている地元主催の市民まつり、盆おどり大会などに創意工夫をこらして参加している。隊員も地元の人たちもこれを楽しみにしており、地元との交流を図るための絶好の場となっている。また、隊員は、スポーツ大会をはじめとする地域のさまざまな活動に参加し、自衛隊で培った経験を活かして地域社会に溶け込んだ活動を行っている。

 地域社会を守ることは、自衛隊の任務の一つである。また自衛隊員は、隊員であると同時に地域社会を構成する住民でもあり、地域社会とのつながりの中で生活している。隊員の子どもたちは地域の学校に通っているし、地域の慣習の中で成長していく。このように地域社会とともに生きる隊員にとって、その発展、充実は自分自身の願いであり喜びである。自衛隊は、地域社会の発展を願い、住民が安心して社会生活を送ることができるようさらに努力を重ね、地域とともに歩んで行きたい。(自衛隊基地内での盆踊り大会)(平成3年度「対話とふれあい写真コンクール」入選作品

5 地域社会と防衛施設

 自衛隊や在日米軍が使用する飛行場、港湾、演習場、通信所、営舎などの防衛施設は、訓練、警戒監視、情報収集などの活動の拠点であり、自衛隊と日米安全保障体制を支える基盤ともいうべきものである。それらの機能を十分発揮させるためには、防衛施設とその周辺地域との調和を図り、周辺住民の理解と協力を得て、常に安定して使用できることが必要である。

 防衛施設全体の土地面積は、平成4年1月1日現在約1,401km2であり、国土面積に占める割合は約0.37%である。このうち、自衛隊施設の土地面積は約1,069km2であり、その4割以上が北海道に所在する。また、自衛隊施設を用途別にみると、演習場と飛行場が全体の約82%を占めている。在日米軍専用の施設・区域の土地面積は約325km2であり、その7割以上が沖縄県に所在する。なお、自衛隊は、日米安全保障条約に基づく地位協定により、在日米軍の施設・区域のうち約35km2を共同使用している。

 防衛施設には、飛行場や演習場のように、そもそも広大な面積の土地を必要とする性格をもつものが多い。また、わが国の地理的特性から、狭い平野部に都市や諸産業と防衛施設とが競合しており、特に、経済発展の過程において多くの防衛施設の周辺地域の都市化が進んだ結果、防衛施設の設置や運用が制約されるという問題が大きくなっている。さらに、航空機の頻繁な離着陸や射爆撃、火砲による射撃、戦車の走行など、その運用によって周辺地域の生活環境に影響を及ぼすという問題もある。

 これらの諸問題の解決を図るため、政府は、従来から、防衛施設の設置や運用にあたっては、国の防衛の重要性や防衛施設の必要性について国民の理解を求めるとともに、防衛施設と周辺地域との調和を図るため、次のような施策を行っている。

 自衛隊や在日米軍が、演習場等を使用して訓練を行う際に、戦車等の頻繁な使用により道路の損傷が早まったり、射撃訓練等による演習場内の荒廃によって、付近に水不足や泥水の流出が生じやすくなる場合などがあるため、道路や河川の改修、ダムの建設、砂防施設の整備等について助成を行っている。

 航空機による騒音の防止対策として、防衛庁は、従来から消音装置の設置などによる音源対策や、飛行する時間帯に配慮するなどの運航対策を実施している。また、これらと並行して、飛行場等周辺の学校、病院や住宅の防音工事について助成を行うとともに、移転補償、緑地帯等の緩衝地帯の整備などを行っている。

 防衛施設の設置や運用により、周辺地域の住民が生活上または事業活動上被る障害を緩和するため、ごみ・し尿処理施設、消防施設、公園等の生活環境施設の整備や、農業用施設など事業経営の安定に資する施設の整備について助成を行っている。

 ジェット機が離着陸する飛行場や砲撃または射爆撃が実施される演習場など、その設置や運用が周辺地域の生活環境や開発に著しい影響を及ぼしている防衛施設の関連市町村に対し、交通施設、医療施設、教育文化施設など各種公共用施設の整備に充てるための交付金を交付している。

 このほか、航空機の頻繁な離着陸その他の行為により、農業、林業、漁業等を営む者に事業経営上の損失を与えた場合には、その損失の補償を行っている(資料56参照)。

 また、沖縄県においては、多くの在日米軍の施設・区域が集中しており、地元からその整理統合について強い要望がある。

 これを踏まえ、平成2年6月に23件、約1,000haの施設・区域について、返還に向けて作業を進めることが、国と米側との間で合意され、逐次返還手続きを進めているところである。その後、本年が沖縄復帰20周年にあたることから、これをさらに促進すること及び整理統合に関する沖縄県民の要望と日米安全保障条約の目的達成のための必要性との調和を図りつつ、未解決の整理統合問題をできる限り早急に解決するため引き続き努力していくことが、本年5月、国と米側との間で合意された。現在までに23件のうち6件、約492haについて、返還済又は返還について合意済であり、残ったものについてもできるだけ早く返還できるよう作業を進めている。

 なお、同月、わが国を訪問したクウェイル米副大統領は、整理統合問題について前向きに取り組んでいく旨表明するとともに、恩納村の都市型訓練施設を撤去する旨発表した。(第4−1図 自衛隊施設(土地)の地域的分布状況)(第4−2図 自衛隊施設(土地)の用途別使用状況)(第4−3図 在日米軍施設・区域(土地)の地域的分布状況)(第4−4図 在日米軍施設・区域(土地)の用途別使用状況)(障害防止工事の例(河川改修)

6 その他の活動

 以上のほか、自衛隊は、次のような活動を行っている。

 不発弾等が発見された場合、地方公共団体等の要請を受けてその処分にあたっている。また、わが国船舶の航行の安全確保のため、機雷の除去及び処理を行っている(資料57参照)。

 訓練の目的に適合する場合には、国、地方公共団体等の委託を受け、土木工事等を実施している。

 関係機関から依頼を受けて、オリンピック競技大会、アジア競技大会、国民体育大会などの運動競技会の運営に協力している。

 国が行う南極地域における科学的調査に対し、輸送等の協力を行っている。

 さらに、自衛隊は、気象庁の要請により航空機を使って行う北海道沿岸海域の海氷観測業務及び火山活動の観測、建設省国土地理院の要請による地図作成のための航空測量業務、放射能対策本部の要請による集(じん)飛行、厚生省の行う硫黄島戦没者の遣骨収集に対する輸送等の支援、環境庁の行う野鳥生息地調査に対する航空機の支援、国家的行事における天皇、皇族、国賓等に対する儀仗などを実施している。(物資積み卸し作業中の砕氷艦しらせ)(不発弾の処理に当たる自衛官

第4節 最近の自衛隊活画と世論

 平成の幕明けとともに、国際情勢は激動の時代を迎えた。平成元年11月、ベルリンの壁が崩壊し、これに伴い東欧情勢は激変した。それは遂にソ連の崩壊にまで進んだ。このような国際情勢の変化、すなわち冷戦が終結しながら国際新秩序が形成されていないというその間隙をぬうかの如く湾岸危機が発生した。幸い、これは国連の下に団結した国際社会の努力によって、平成3年4月に正式停戦が成立した。

 このような国際情勢の変化の中、わが国においては、世界の平和と安全を確保するため、わが国は何をなすべきかについての議論が起こった。とりわけ、湾岸危機の過程を通じ、国際世論はわが国に対し、世界第2位の経済大国にふさわしい貢献をすることを求めた。これに対し、わが国は資金面では十分な貢献をしてきたが、国際世論はこれでは満足せず、人的貢献をも求めてきた。

 このような声を受けて、国内でも世界平和のために人的な側面においても積極的な役割を果たしていくべきだという認識が高まってきた。ここにあって、政府は平成3年4月、自衛隊法第99条の規定に基づく措置として、正式停戦後もペルシャ湾に残存した機雷の除去及びその処理にあたる海上自衛隊の掃海部隊をペルシャ湾に派遣した。同部隊はその任務を無事終了し、同年10月帰国した。

 一方、国内においては、平成3年6月、雲仙普賢岳の大火砕流により災害が発生したため、長崎県知事の要請により、陸上自衛隊第4師団を中核とする部隊が派遣された。この災害派遣は現在もなお続いている。

 国の内外に発生する、このような問題の処理を通じ、国民は平和と安全の確保の必要性について、従来に増して真剣にこれを考えるようになり、防衛問題に対する関心と自衛隊への期待は高まってきた。

 こうした変化を踏まえ、政府は昨年9月、国連を中心とした人的な面での活動に対する協力を一層適切かつ迅速に行い得るための国際平和協力法案と、国際緊急援助隊法改正案を国会に提出した。これら二法は、本年6月国会を通過し、成立した。これにより、わが国は国際平和協力業務や国際緊急援助活動を行うため、必要な場合には自衛隊を海外に派遣することが可能となった。

 このように、近年自衛隊をめぐってさまざまな動きがみられたが、この節においては、ペルシャ湾における掃海作業及び雲仙普賢岳の噴火に伴う災害派遣における自衛隊の活動を紹介するとともに、世論の動きについて触れる。(機雷爆破の瞬間

1 ペルシャ湾における掃海作業

 平成2年8月のイラクのクウェート侵攻で始まった湾岸危機は、短期間の戦闘により多国籍軍の圧倒的勝利で終結し、平成3年4月に正式な停戦が成立した。しかし、ペルシャ湾には戦時中にイラクが敷設した多数の機雷が残され、この海域を航行するわが国などの船舶に対し重大な障害をもたらした。このような状況を踏まえ、政府は、平成3年4月24日、安全保障会議及び閣議において、自衛隊法第99条の規定に基づく措置として、掃海艇等の派遣を決定した。これを受け、防衛庁長官は、わが国船舶の航行の安全のためにペルシャ湾における機雷の除去及びその処理にあたるべく、海上自衛隊に「ペルシャ湾掃海派遣部隊」の派遣を命じた。

 なお、ペルシャ湾は世界の主要な原油輸送路の一つであり、この海域におけるわが国の掃海部隊の活動は、航行する船舶の安全を確保し、被災国の復興に寄与するという平和的、人道的な目的を有する人的な国際貢献策の一つとしても意義を有するものであった。

 ペルシャ湾掃海派遣部隊は、第1掃海隊群司令を指揮官として、掃海艇の「ひこしま」「ゆりしま」「あわしま」「さくしま」、掃海母艦の「はやせ」、補給艦の「ときわ」の計6隻、人員511名で編成された。4月26日、派遣部隊の各艦艇は神奈川県の横須賀、広島県の呉、長崎県の佐世保からそれぞれ出港し、ペルシャ湾に向かった。

 派遣部隊は、5月27日アラブ首長国連邦のドバイに入港、そこで3日間にわたり船体や装備品の点検整備、掃海艇の磁気チェック、燃料や食糧の補給などの準備作業を行った後、5月31日同地を出港、ペルシャ湾北西奥部の掃海作業海域に向かった。掃海作業には、すでに8か国(米国、英国、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、ベルギー、サウジアラビア)の部隊が従事していた。各国の部隊は、後から到着したわが国の掃海部隊に対して、機雷の敷設状態や処分上のノウハウを教示したり、磁気チェックのための施設を提供するなど、極めて好意的な対応ぶりであった。わが国の掃海部隊は、MDA−7と名付けられた海域の中央部について、各国の部隊と協力しつつ6月5日から作業を開始した。

 作業は、各国の部隊と同様、安全を第一とし、イラクが機雷を敷設したおそれのある全海域にわたり、技術的に可能な限度まで濃密な掃海作業を実施するという方針の下に行われた。また、各国部隊間の協力方法等については、現場等において緊密に調整された。

 掃海作業は、7月20日までの間にMDA−10等を除いて終了し、クウェートへの船舶航行の安全は一応回復された。この時点で、ヨーロッパ各国の掃海部隊はそれぞれ帰国した。その後は、日米両国の掃海部隊が残って、まだ手がつけられていなかったMDA−10,や、クウェート沖合の一部の航路付近での掃海作業などを行った。

 また、わが国の掃海部隊は、クウェート沖のカフジへの航路の掃海作業も行った。

 作業は、主として、掃海艇の機雷探知機により水中に敷設された機雷を逐次探知し、その機雷に対してリモコン式の処分具やダイバーにより爆薬を仕掛けて処理するという手順で行われた。派遣部隊は、6月19日に掃海艇の「ひこしま」が最初の機雷の爆破処理に成功したのを皮切りに、計34個の機雷を処分した。作業は、日本を含む各国の部隊により技術的に可能な限度まで行われ、その結果、ペルシャ湾掃海派遣部隊に与えられた任務は成し遂げられた。9月11日、防衛庁長官は任務の終結を命令し、6月5日以来99日間に及ぶ掃海作業は終了した。

 掃海作業を行っている間は、掃海母艦も洋上にとどまり、指揮通信中枢として機能するほか、掃海艇に対する各種の支援を行った。また、補給艦は、アラブ首長国連邦のドバイをメインの寄港地として、掃海作業海域との間を往復し、掃海艇や掃海母艦に真水、食糧燃料等を補給するとともに、日本の家族からの手紙などを届けた。

 隊員は、日中の最高気温がときに50℃、湿度90%以上にも達する中、万一の触雷に備えてヘルメットと救命胴衣を着用し、さらに砂漠からの砂塵や油田火災による煤煙を防ぐため、防塵メガネとマスクを付け、作業に従事した。また、海域によっては、水深が浅く潮流も速く、水中視界も極めて不良といった掃海作業が困難なところもあった。毎日の日課は、午前4時半頃起床、日の出とともに作業開始、日没とともに作業終了、機器の点検等を深夜まで行った後就寝というものであった。作業はおおむね1週間サイクルで進められ、5日半がこうした作業に、1日半が整備や休養に充てられた。長期間にわたる緊張と、厳しい自然環境下における作業であり、隊員間の融和や隊員の健康管理にはことのほか注意が払われた。このようにして、厳しい状況にもかかわらず、人身事故は皆無であり、船体、装備品の損傷も無く、100%の可動率が維持され、掃海作業は順調に経過した。

 掃海作業期間中、補給や休養のため、派遣部隊はアラブ首長国連邦のドバイ及びアブダビ、バーレーンのミナサルマンに寄港した。その際、在留邦人や大使館員、同国の関係者等を招待し、艦上レセプションなどを行った。また、在留邦人主催の歓迎会等が催された。これらの人々はいずれも、わが国の掃海部隊の活動に好意的であり、その親身な支援や激励は、作業に疲れた隊員の士気を高揚させた。さらに、派遣部隊はイラン及びクウエートの港にも寄港し、両国との友好親善にも寄与した。

 派遣部隊は、9月11日にすべての掃海作業を終了し、帰国準備を整えた後、9月23日にアラブ首長国連邦のドバイを出港、10月30日、6隻そろって呉に入港した。4月26日に日本を出発して以来188日ぶりの帰国であり、呉には、海部総理大臣、池田防衛庁長官ら多数の関係者や家族が出迎えた。

 呉における帰国歓迎式典の際、内閣総理大臣から派遣部隊に対して、その功績をたたえ、特別賞状が授与された。これは自衛隊創設以来初めてのものである。10月30日をもってペルシャ湾掃海派遣部隊は解散し、横須賀及び佐世保の艦艇はそれぞれの港に帰港した。(「ときわ」を中央に接舷する掃海艇等)(機雷に爆薬を仕掛けるダイバー)(第4−5図 ペルシャ湾における掃海作業)(500余人の食事の準備をする給養員

2 雲仙普蜂岳噴火に伴う災害派遣

 平成3年6月3日、長崎県の雲仙普賢岳の大規模な火砕流により、40名の死者、3名の行方不明者、9名の負傷者、49戸の家屋の損壊等の被害が発生した。自衛隊は、長崎県知事の要請を受け、第16普通科連隊長を派遣部隊指揮官として、北部九州に所在する陸上自衛隊第4師団を基幹とする所要の部隊を派遣した。派遣は、平成4年6月30日現在も継続して行われており、派遣規模は、派遣日数394日、人員延べ約9万2千名、車両延べ約2万8千両、航空機延べ約2,900機に達している。これまでの最大規模の派遣は、昭和34年の伊勢湾台風の際め災害派遣であり、その派遣日数は76日であった。雲仙普賢岳噴火に伴う災害派遣は、これまでにない大規模かつ長期間の派遣となっている。

 長崎県知事から自衛隊への要請は、人命救助及びそれに関わる情報収集・警戒であった。この要請に基づく陸上自衛隊第4師団第16普通科連隊を中心とした派遣規模は、大火砕流発生直後の6月3日〜6月10日の間は、最大で一日人員約1,100名、車両約300両、航空機20機であった。この間、火砕流に巻き込まれた行方不明者の捜索、遺体の収容、緊急救援物資の輸送、老人ホーム入居者の避難、警戒監視装置の設置、土石流によって封鎖された国道の復旧活動等の支援を行った。このほか、気象庁が設置した地磁気観測装置の電池交換、航空機による火山活動観測等の支援も行った。特に、大火砕流発生直後の捜索収容作業は、隊員の二次災害も起こり得る状況下で行わなければならず、状況の変化に直ちに対応できる態勢が必要とされた。「ふるさと防衛」の使命を果たすため、6月4日には隊員28名が連隊長を先頭に現地に入り遣体の収容作業にあたっていたが、大規模火砕流が発生し、退避した隊員の200m手前に止まるという危険な局面もあった。このため、6月5日からは、捜索収容作業に先立ち、装甲ドーザー等によって道路上に堆積した高温の火山灰や障害物を除去して、装甲車を突入させるという方法をとった。装甲車内部はもともと暑いうえ、隊員は高温の火山灰の中を通気性の悪い耐熱の火炎防護衣を着込んで作業しなけれぱならず、20分ないし30分が活動の限界であった。派遣部隊は、6月4日に4遣体、5日に22遺体、6日に1遺体を収容した。6月8日に大規模な火砕流が発生し、火山灰がさらに堆積したため、6月10日、派遣部隊の隊員は、未発見者4名の捜索を一時中断せざるを得なかった。

 6月11日からは、人員約600名、車両約200両、航空機20機で「第4師団島原災害派遣隊」を編成し、当面、火山活動の監視に主眼を置くとともに、状況の変化に対応できる態勢に変更した。

 7月15日からは、人員約200名、車両約60両、航空機6機をもって長期の派遣態勢に移行し、主に警戒監視、偵察、火山活動観測支援を実施するとともに、島原市災害対策本部、九州大学島原地震火山観測所に連絡官を派遣するなどして、自治体関係者との情報交換を行っている。

 一方、海上自衛隊は、雲仙普賢岳の噴火にかかる情報収集のため、輸送艦や護衛艦を6月7日から11月13日まで島原市沖合に配置し、以降佐世保港において待機態勢を維持しているほか、へリコプター等による航空偵察及び航空測量などを実施した。

 また航空自衛隊は、6月14日から11月14日まで輸送へリコプター(CH−47J)を大分県の築城基地に待機させ、噴火発生時の人員及び物資の空輸などに備えたほか、偵察機による雲仙普賢岳上空からの赤外線写真等の撮影を実施し、写真を気象庁等ヘ提供している。

 昨年6月3日の大火砕流発生以来、現在も火山活動は活発な状態が続いており、依然として予断を許さない状況である。ハイテク器材を駆使した自衛隊の警戒監視活動は、警戒区域内の地上作業などに欠かせないものであるのみならず、これらの情報を正確かつ迅速に関係機関や地域住民に伝達する24時間の警戒監視態勢は、島原市民の安全と安心感の確保に役立っている。

 自衛隊による警戒監視システムは、へリコプターによる空中からの偵察や指揮通信車による陸上からの偵察、夜間、目標物を追跡探知する赤外線暗視装置、ドップラー効果を利用し噴火や火砕流の規模、速度等を測定するレーダー、要衝地に設置し全体の状況を監視できるテレビカメラにより構成されている。へリコプターにより撮影された雲仙普賢岳火口付近の状況は、地上中継装置を経由して現地指揮所のみならず、島原市の災害対策本部、警察、消防、九州大学島原地震火山観測所、九州電力等にも伝達されている。また同時に、ケーブルテレビにより、島原市民もリアルタイムで普賢岳の活動の様子を見ることができるようになっている。さらに、テレビを通じ全国民に雲仙の模様が伝えられた。

 自衛隊におけるこのような監視活動は、本来、防衛出動に備えて必要な器材を装備し、訓練しているものであり、災害派遣を念頭においたものではない。このため、今回の災害派遣の初期段階では、暗視装置を活用するため戦車を出動させることもあったが、いずれもその持てる能力を効果的に発揮し、所期の任務を全うした。このようなことが可能なのは、平素の厳しい訓練の成果であるといえよう。また、自炊、野営施設の設営、補給、整備といった自衛隊独自の自己完結能力や隊員の使命感が被災地における長期間の活動を可能にしていることも見逃せない。(電池交換の準備にあたる隊員

3 自衛隊をめぐる世論の動き

 自衛隊にとって最も重要な任務がわが国と国民の生命及び財産を守ることである以上、国民の理解と協力がなければ、その任務を全うすることはできない。自衛隊では、隊員が真摯(しんし)な努力を重ね、それを国民が理解し、評価してはじめて協力が得られるものであると考え、国民に信頼され、親しまれる自衛隊をめざし努力を重ねてきた。幸い、国際情勢が激変する中で、国民の自衛隊や防衛問題への関心は近年一段と高まってきている。

 とりわけ、湾岸危機における国際連合平和協力法案等をめぐる議論の中で、国民の自衛隊・防衛問題に対する関心が一層の高まりをみせたことは、各種調査でうかがうことができる。例えば、平成3年2月に総理府が実施した「自衛隊・防衛問題に関する世論調査」(資料58参照)において「関心がある」とする者は、67.3%と前回の調査(昭和63年1月調査では54.8%)を上回っている。しかしながら、「関心がない」とする者も30.2%を占めており、依然として国民の間に自衛隊・防衛問題に無関心な傾向があることも否定できない。また、湾岸危機は国民にとっても平和と安全をいかに維持していくかという問題について改めて考える機会となったが、同時に、わが国がこのための努力に、いかに参加し、協力を実施していくかという議論を活発にさせた。

 このような情勢変化の最中において昨年は、ペルシャ湾における掃海作業と雲仙における災害派遣という2つの活動が展開された。この2つの国内外での活動を通じて、国民の間に自衛隊活動に対する認識が具体的なものとして広まるとともに、湾岸危機における教訓や国際平和協力法等の審議などを通じて、自衛隊の国連平和維持活動や国際緊急援助活動への協力をめぐり、さまざまな議論が起こったことは事実である。これらの議論の方向についてはいろいろな見方がある。関心の強さは必ずしも支持の高さにはつながらない。しかしながら、少なくとも、かつての防衛問題に関する国民の議論の中には「自衛隊は是か非か」という観念的議論が多かったことを考えると、最近は、具体的な自衛隊の活動についての評価という、より現実的な面にも関心が向けられるようになってきている。これは大きな変化といえる。

 平成3年10月に総理府が実施した「外交に関する世論調査」では、「日本が国際平和と安全の維持の分野で、経済大国としてふさわしい責務を果たすため、どのような貢献を行えばよいか」という問いに対して、「資金面での貢献を強化するだけでは不十分であり、国際平和と安全の維持のために要員を派遣するなど積極的に人的貢献を行うべきである」とする回答が約半数と最も多く、国民の国際的貢献に対する意識の高まりがみられる。一方、自衛隊の国連平和維持活動への協力について国民の中にいろいろな議論があることは否定できない。国際協調行動にわが国が人的な面での参加や協力を行っていくことは、今後ますます重要になっていくものと判断される。

 今般国際平和協力法が成立した背景には、このような世論の変化があったからといえよう。これを受けて、防衛庁・自衛隊としては、国連平和維持活動等への協力のための準備を開始したところであるが、これらの任務を全うするためには国民の理解と支持、協力が不可欠と考えている。

 このような観点から、防衛庁・自衛隊は、防衛問題や自衛隊の現状について、必要な情報を時宜をとらえて国民にわかりやすく提供するよう努力しており、防衛問題や自衛隊に関するパンフレット等を作成、配布している。このほか、国民の自衛隊への理解と支持を深めるため、各種の訓練や行事等の機会をとらえ、今後とも可能な限り自衛隊活動の一般公開をしていきたいと考えている。(第4−6図 外交に関する世論調査

むすび 

 自衛隊は、わが国に対する侵略を未然に防止し、万一侵略を受けた場合、わが国の平和と独立を守るため、実力をもってこれを排除するために存在している。東西冷戦が終結し、国際社会は、新しい世界平和の秩序を模索している。しかし、世界には依然として多くの不安定要因が存在している。こうした中で、国民一人ひとりの生命と財産にかかわる国防という課題について、わが国としては、引き続き、みずからの防衛努力を行うとともに、日米安全保障体制を堅持し、その信頼性を維持向上していくことが重要である。

 自衛隊の機能は組織として活動することにより十分に発揮されるものであり、多くの若者やいろいろな分野の専門家が、近代的装備を駆使しつつ、厳正な規律の下、一致協力して訓練に励み万一に備えている。このように多種多様な人材、装備、ノウハウを備えた自衛隊のような集団は、わが国社会で他にみられない。

 自衛隊は平時にあっては、持てる能力を活用して災害派遣、民生協力等、わが国の安全と発展に尽力している。また、国際平和協力法等の成立により、世界の平和のためにわが国が行う貢献に防衛庁・自衛隊としても協力していくこととなった。わが国の繁栄は、世界の平和の上に成り立っており、自衛隊による国連平和維持活動への協力は、ひいては、わが国の平和と安全に大きく寄与することとなろう。

 新しい時代を迎え、防衛庁・自衛隊は、国民の支持と協力を確固たるものとするよう、さらに一層の努力と研鑚を重ねていきたい。