第2章

わが国の防衛政策

 今日の国際社会は、互いに平等な主権国家の併存の上に成り立っている。各々の国は、国民のためにも、また、国際社会全体との関係においても、自国の安全の確保を当然の責務として真剣な努力を行っている。

 安全保障の考え方や方法は、当然のことながら、それぞれの国情などを反映して異なる。わが国の場合は、自ら適切な規模の防衛力を保持するとともに、日米安全保障体制を堅持することにより、いかなる態様の侵略にも対応し得る防衛体制を構成し、これによって侵略を未然に防止することを防衛の基本としている。

 しかしながら、防衛というもののパラドックスであろうか、侵略が未然に防止され、平和が維持されればされるほど、そうした防衛努力の重要性に対する国民の認識は薄らいでしまう傾向がある。防衛問題に国民の理解と協力を得る難しさは、この辺りにある。

 平成3年度は、新たな中期防衛力整備計画が始まったという意味で節目の年でもある。本章においては、日米安全保障体制とわが国の防衛力整備を中心に、わが国の防衛政策について説明し、わが国が目指す方向を明らかにすることとする。

第1節 わが国の防衛政策の基本的考え方

1 防衛努力の重要性

(1) 今日の国際社会と安全保障

 今日、わが国は自由と民主主義を基本理念とする自由主義国家として発展を続けている。わが国が第2次世界大戦後の廃墟から立ち上がり、今日の繁栄と発展を遂げてきたのは、いうまでもなく国民一人一人の英知と努力のたまものである。しかし、その背景には、武力紛争が絶えない厳しい国際環境の中で、外国からの侵略を受けることなく国の安全が保たれてきたことがある。この自由で活力のある国民生活を維持・発展させ、国民の幸福を増進していくためには、将来にわたり、国の安全を確保していくことが不可欠である。

 もとより、世界の平和は万人共通の願いである。国際社会においては、国際連合の活動をはじめとして、より安定した国際秩序の確立を目指して、様々な努力が続けられている。国連は、最近の東西間の緊張緩和を受け、世界の平和と安全を維持する機能を従来以上に発揮することが期待されている。わが国としても、このような国連の活動を積極的に支援している。しかし、それにもかかわらず、今日の国際社会においては、依然として、侵略により国の独立と平和が侵害される可能性があることは、クウェートの事態を挙げるまでもなく厳然たる事実である。このようなことから、各国は、国の安全確保が国家存立の基盤であると考え、安全保障を国政の基本として様々な努力を行っている。

 平和は、ただこれを祈るだけでは得られない。わが国としても、国際社会の現状に照らし、国の安全を確保するため、国力国情に応じ、最大限の努力をしなければならない。

 また、今日の国際社会にあって、わが国は、国際関係全般にわたりますます大きな責任と役割を有しており、世界の平和と繁栄に一層貢献することが期待されている。そのような国際的貢献を果たしていくためにも、自国の平和と安全が、確固として守られていることが、当然の前提となる。

(2) 国の安全保障における防衛分野での努力

 わが国の安全を確保するための手段としては、国際政治の安定を確保するための外交努力、内政の安定による安全保障の基盤の確立、自らの防衛努力および日米安全保障体制の堅持がある。

 外交努力により平和な国際環境をつくり上げていくことは、極めて重要である。わが国の場合、対米関係を基軸として、西側諸国との協調を図りつつ、より低い軍事的水準における東西関係の安定化のため、米ソ間や欧州における軍備管理・軍縮交渉の努力を支持するとともに、東側との間に広範な分野で対話と交流の拡大に努めてきている。

 また、内政の安定により、安全保障の基盤を確立することが重要である。わが国としては、適切な内政諸施策を講ずることにより、国民生活を安定させ、活力ある社会の中で国民の国を守る気概の充実を図り、国内的にも侵略を招くような間隙が生じないよう努力している。

 国際協調の必要性が高まり、国内問題と国際問題とのつながりが強まっている今日、このような様々な分野での努力は、ますますその重要性を増している。

 しかし、こうした分野の努力のみでは、実力をもってする侵略を必ずしも未然に防止することはできない。また、万一侵略を受けた場合、これを排除することもできない。軍事力は、侵略を未然に防止し、万一侵略が行われた場合にこれを排除するという機能を有する。その意味で、軍事力の機能は、他のいかなる種類の手段や力によっても代替し得ず、軍事力は、国の安全保障を最終的に担保するものである。このため、世界各国とも、国際情勢が総じて好ましい方向ヘ変化しつつあるとみられる今日においても、依然、軍事力を保持し、自国の安全の確保に努めている。

 このようなことから、外交などの分野での努力と整合性を図りつつ、平素から防衛分野での努力を着実に進めておくことが肝要である。わが国としては、自ら適切な規模の防衛力の整備を進めるとともに、米国との安全保障体制を堅持し、その信頼性を高めていくことが、わが国の安全を確保するうえで基本的に重要であるとの考えに立って、継続的な努力を行っているところである。このような努力は、わが国の安全を確保するのみならず、アジアひいては世界の平和と安全に貢献することとなる(本章第2節参照)。

2 憲法と自衛権

(1) わが国は、第2次世界大戦後、再び戦争の惨禍を繰り返すことのないよう決意し、ひたすら平和国家の建設を目指して努力を重ねてきた。恒久の平和は、日本国民の念願であり、この平和主義の理想を掲げる日本国憲法は、第9条に戦争放棄、戦力不保持および交戦権の否認に関する規定を置いている。わが国が独立国である以上、この規定が主権国家としてのわが国固有の自衛権を否定するものでないことは、異論なく認められている。

 政府は、このようにわが国の自衛権が否定されない以上、その行使を裏付ける自衛のための必要最小限度の実力を保持することは、憲法上禁止されているものではないと解している。このような考えの下に、政府は、専守防衛(本節3(2)ア参照)をわが国防衛の基本的な方針として、実力組織としての自衛隊を保持し、その整備を推進し、運用を図っており、これらほ憲法上何ら問題がない。

(2) 憲法第9条の趣旨についての政府の見解は、次のとおりである。

 ア 保持し得る自衛力

  わが国が憲法上保持し得る自衛力は、自衛のための必要最限度のものでなければならない。
  自衛のための必要最小限度の実力の具体的な限度は、その時々の国際情勢、軍事技術の水準その他の諸条件により変わり得る相対的な面を有するが、憲法第9条第2項で保持が禁止されている「戦力」に当たるか否かは、わが国が保持する全体の実力についての問題である。自衛隊の保有する個々の兵器については、これを保有することにより、わが国の保持する実力の全体がこの限度を超えることとなるか否かによって、その保有の可否が決せられる。
  しかしながら、個々の兵器のうちでも、性能上専ら相手国の国土の壊滅的破壊のためにのみ用いられる、いわゆる攻撃的兵器を保有することは、これにより直ちに自衛のための必要最小限度の範囲を超えることとなるから、いかなる場合にも許されない。したがって、例えば、ICBM、長距離戦略爆撃機、あるいは攻撃型空母を自衛隊が保有することは許されない。

 イ 自衛権発動の要件

  自衛権の発動は、いわゆる自衛権発動の三要件、すなわち、わが国に対する急迫不正の侵害があること、この場合にこれを排除するために他に適当な手段がないこと、必要最小限度の実力行使にとどまるべきことの三要件に該当する場合に限られる。

 ウ 自衛権を行使できる地理的範囲

  わが国が自衛権の行使としてわが国を防衛するため必要最小限度の実力を行使できる地理的範囲は、必ずしもわが国の領土、領海、領空に限られないが、それが具体的にどこまで及ぶかは個々の状況に応じて異なるので、一概にはいえない。しかしながら、武力行使の目的をもって武装した部隊を他国の領土、領海、領空に派遣するいわゆる海外派兵は、一般に自衛のための必要最小限度を超えるものであって、憲法上許されないと考えている。

 エ 集団的自衛権

  国際法上、国家は、集団的自衛権、すなわち、自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止する権利を有しているものとされている。わが国が、国際法上、このような集団的自衛権を有していることは、主権国家である以上当然である。しかし憲法第9条の下において許容されている自衛権の行使は、わが国を防衛するため必要最小限度の範囲にとどまるべきものであると解しており、集団的自衛権を行使することは、その範囲を超えるものであって、憲法上許されないと考えている。

 オ 交戦権

  憲法第9条第2項は、「国の交戦権は、これを認めない」と規定しているが、わが国は、自衛権の行使にあたっては、すでに述べたように、わが国を防衛するため必要最小限度の実力を行使することが当然に認められており、その行使は、交戦権の行使とは別のものである。

3 防衛政策の基本

(1) 国防の基本方針

 わが国が憲法の下で進めている防衛政策は、昭和32年5月に国防会議および閣議で決定された「国防の基本方針」にその基礎を置いている。

 この「国防の基本方針」は、まず、国際協調など平和への努力の推進と民生安定などによる安全保障基盤の確立を、次いで効率的な防衛力の整備と日米安全保障体制を基調とすることを基本方針として掲げている。

(2) その他の基本政策

 このような「国防の基本方針」を受けて、これまで、わが国は、平和憲法の下、専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国とならないとの基本理念に従い、日米安全保障体制を堅持するとともに、文民統制を確保し、非核三原則を守りつつ、節度ある防衛力を自主的に整備してきている。このことは、累次の機会に明らかにしてきており、平成2年12月19日に安全保障会議および閣議で決定された「平成3年度以降の防衛計画の基本的考え方について」(資料9参照)の中でも明らかにしている。

ア ここで、専守防衛とは、相手から武力攻撃を受けたとき初めて防衛力を行使し、その防衛力行使の態様も自衛のための必要最小限にとどめ、また、保持する防衛力も自衛のための必要最小限のものに限られるなど、憲法の精神にのっとった受動的な防衛戦略の姿勢をいうものである。
イ 軍事大国という概念については、明確に定義されたものはないが、わが国として他国に脅威を与えるような軍事大国とならないということは、自衛のための必要最小限度を超えて、他国に脅威を与えるような強大な軍事力をわが国が保持することはないとの意味である。
ウ また、非核三原則とは、核兵器を持たず、作らず、持ち込ませずという原則を指すものであり、わが国はこれを国是として堅持している。
  なお、核兵器の製造・保有は、原子力基本法の規定のうえからも禁止されているが、さらに、わが国は、昭和51年6月、核兵器の不拡散に関する条約を批准し、非核兵器国として、核兵器を製造しない、取得しないなどの義務を負っている。
エ 文民統制は、シビリアン・コントロールともいい、民主主義国における軍事に対する政治優先または軍事力に対する民主主義的な政治統制を指す。
  わが国の場合、終戦までの経緯に対する反省もあり、自衛隊があくまで国民の意思によって整備・運用されることを確保するため、旧憲法下の体制とは全く異なり、厳格なシビリアン・コントロールの諸制度を採用している。
  具体的には、まず、国民を代表する国会が、自衛官の定数、主要組織などを法律・予算の形で議決し、また、防衛出動などの承認を行う。次に、国の防衛に関する事務は、一般行政事務として、内閣の行政権に完全に属している。また、この内閣を構成する内閣総理大臣その他の国務大臣は、憲法上文民でなければならないことになっている。内閣総理大臣は、内閣を代表して自衛隊に対する最高の指揮監督権を有しており、自衛隊の隊務を統括する防衛庁長官も、文民である国務大臣をもって充てられる。内閣には、国防に関する重要事項等を審議する機関として安全保障会議が置かれている。さらに、防衛庁では、防衛庁長官が自衛隊を管理し、運営するにあたり、政務次官および事務次官が長官を助けるのはもとより、基本的方針の策定について長官を補佐するいわゆる文官の参事官が置かれている。
 なお、シビリアン・コントロールの制度が実をあげるためには、運営上の努力が今後とも必要であることはいうまでもない。
自衛隊高級幹部の異動の挨拶を受ける海部内閣総理大臣(平成3.3)
自衛隊高級幹部会同で訓示する池田防衛庁長官(平成3.5)

第2節 日米安全保障体制

 日米安全保障体制は、わが国の存立と繁栄にとって不可欠なものである。

 わが国は、激動する国際社会の中にあって過去約40年間、平和と繁栄を享受してきたが、これは、わが国自身の防衛努力とあいまって、日米安全保障体制が抑止の体制として一貫して有効に機能してきた結果である。振り返れば、わが国が、先の大戦後再び独立を回復するにあたって、米国との同盟関係を選択したことは、わが国が自由主義陣営の一員としての道を歩むことの宣明であった。この選択が極めて適切なものであったことは、何よりその後の実績が示している。日米安全保障体制は、今や広範な国民的支持を得て、国民の間に深く定着している。わが国は今後とも、この体制の維持を国政の基本としていくべきである。

 本節では、このような日米安全保障体制のもつ意義を説明し、その信頼性の向上を図るために行っている様々な努力の現状について述べることとする。

1 日米安全保障体制の意義

(1) わが国の安全に対する直接的貢献

 まず第一に、日米安全保障体制は、わが国の安全の確保にとって重要な役割を果たしている。

 今日の国際社会において、自国の意思と力だけで国の平和と独立を確保しようとすれば、核兵器の使用を含む全面戦争から通常兵器による様々な態様の侵略事態、さらには軍事力による示威、恫喝(どうかつ)いったようなものまで、あらゆる事態に対応できる(すき)のない防衛態勢を独自に構築する必要がある。

 わが国が独力でこのような態勢を保持するとなれば、経済的に容易ではなく、何よりもわが国の政治姿勢として適切なものとはいいがたい。

 このため、わが国としては、強大な軍事力を有する国と同盟関係を結び、その抑止力をわが国の安全保障のために有効に機能させていくことが現実的な道である。米国は、そのような抑止力を十分に有する軍事力を備えるのみならず、何よりも自由と民主主義という基本的な価値、理念をわが国と共有している国である。そこで、わが国としては、自ら適切な規模の防衛力を保持するとともに、米国との安全保障体制とあいまって隙のない態勢を構築し、考えられるあらゆる侵略事態に対しわが国の安全を確保することとしているものである。

 日米安全保障条約(資料10参照)は、第5条において、わが国への武力攻撃があった場合、日米両国が共同対処を行うことを定めている。この米国の日本防衛義務により、わが国への武力攻撃は、自衛隊のみならず米国の有する強大な軍事力とも直接対決することとなり、侵略には相当の犠牲を覚悟しなければならなくなる。このため、相手国ほ侵略を躊躇(ちゅうちょ)せざるを得ず、結果として侵略は未然に防止されるのである。

 前述のように、いかなる事態にも対応できる(すき)のない防衛態勢を単独ではとらないこととしているわが国にとって、こうした面での日米安全保障体制の必要性は、引き続き妥当するものである。

(2) 極東の平和と安全の維持への貢献

 第二に、日米安全保障体制は、わが国の安全のみならず、極東の平和と安全の維持にも寄与している。

 日米安全保障条約は、第6条において、わが国の安全および極東における国際の平和と安全のため、米軍のわが国における施設・区域の使用を認めており、同条に基づき、米国はその軍隊をわが国に駐留させている(資料11・資料12参照)。この米軍のプレゼンスは、米国のこの地域への深い関心の表れであり、わが国の安全のみならず、極東における国際の平和と安全の維持にも貢献している。

 また、極東地域の平和と安全を抜きにした世界の平和と安全は考えられないという意味で、日米安全保障体制は、世界の平和と安全を確保するうえでも重要な意義を有しているといえよう。

(3) 日米関係の中核

 第三に、日米安全保障体制は、わが国にとって一番重要な二国間関係である日米関係の中核をなしている。

 日米安全保障条約は、あくまで安全保障の側面をその中核とするものであるが、同時に、政治的、経済的協力関係の促進についても重要な規定を置いている。この条約により、日米安全保障体制は、日米間において単に防衛面のみならず、政治、経済、社会などの両国の幅広い分野における友好協力関係の基盤となっているのである。

 米国との緊密な友好関係の保持は、わが国の発展と繁栄のために欠かせないものであり、さらには、アジア・太平洋地域での安定した国際政治構造にとっても必要不可欠なものとなっている。そればかりか、今日の日米両国の国際社会に占める地位からみても、両国の協力と協調は国際社会の平和と安定にとっても極めて重要なものとなっている。

(4) 幅広い外交関係の基盤

 第四に、日米安全保障体制を基軸とする日米同盟関係は、日本の外交の基盤となっている。

 欧州を中心として対話と協調を求める国際関係の新たな構築の動きがみられるが、アジア・太平洋地域においても近年の好ましい動きをさらに発展させていくためには、わが国は、近隣諸国と積極的な対話を推進していく必要がある。そのために、日米安全保障体制に裏付けられた強固な日米の同盟関係は、重要な役割を果たしている。

2 日米安全保障体制の信頼性の向上

 日米安全保障体制は、単に日米間で、安全保障条約が締結されてさえいればよいというものではなく、両国が常日ごろから、不断にその信頼性を維持・向上させる努力を払わなければならないものである。日米両国は、あらゆる機会をとらえて間断なき対話を行い、相互信頼と協調関係の確立を図ってきた。また、日米双方が、それぞれ応分の責任を果たし、同体制が有効に機能するよう努めることも肝要である。

 このため、わが国は、米国の関係者との協議のほか、後述する「日米防衛協力のための指針」の策定とこれに基づく研究、共同訓練、共同研究開発などの各般の日米防衛協力を行い、また在日米軍の駐留の一層の円滑化を進めるなど、様々な努力を重ねてきている。

 米国は、自由主義陣営のリーダーとして、そのグローバルな役割と同盟国に対するコミットメントを今後も果たしていくであろう。しかしその一方で、米国には経済的地位の相対的低下や財政的な制約などの新たな状況が生じてきている。したがって、米国は、同盟国に対するコミットメントを維持するにあたり、同盟国側からの協力も強く求めている。米国は、わが国に対しても責任分担の面での努力を引き続き行うことを期待している。わが国は、今日の国際社会の中にあって、国力国情に応じた役割を自ら積極的に果たしていこうとしているが、わが国として自主的に施策を講じていくことは、日米安全保障体制の信頼性の維持・向上を図っていくうえでも、極めて重要なものとなっている。

 

(1) 間断なき対話の継続

 日米両国間の安全保障上の意見の交換は、通常の外交ルートによるもののほか、内閣総理大臣と米国大統領との間の日米首脳会談や、防衛庁長官と米国国防長官との間の日米防衛首脳会談をはじめ、防衛実務担当者の交流に至るまで、各レベルにおいて緊密に行われている(資料13参照)。

 このように、あらゆる機会とレベルで意思の疎通を図っていくことは、日米安全保障体制を有効に機能させるうえで肝要である。

 なお、昭和35年以降、日米両国政府間の理解の促進と安全保障の分野での協力関係の強化のため、日米安全保障協議委員会が設けられてきた。そのメンバーは、日本側が外務大臣と防衛庁長官であるのに対し、米側は従来、駐日米国大使と太平洋軍司令官であったが、平成2年12月以降、国務長官と国防長官となった。これは、安全保障協議委員会を再活性化させ、安全保障の分野における日米間の協力関係を一層発展させていくうえで大きな意義を有するものである。

ア 日米首脳会談
  平成3年4月に行われた日米首脳会談では、日米二国間関係および湾岸危機後の世界の諸問題につき意見交換を行い、日米関係は両国にとってのみならず、世界全体の平和と繁栄の維持・促進のために極めて重要であることが改めて確認された。また、両首脳は、湾岸危機後の国際秩序の構築に向けて、両国が協力・協調して行うべき課題は多岐にわたり、今後、アジア・太平洋、中東をはじめとする世界各地の平和と繁栄の確保などにおいて、日米のグローバル・パートナーシップを更に実りあるものとしていくことで意見が一致した。
イ 日米防衛首脳会談
 平成3年4月にワシントンで行われた日米防衛首脳会談では、ソ連、中国、朝鮮半島を中心とした東アジア・太平洋地域の軍事情勢、日米安全保障体制の意義、米国のアジア・太平洋地域における米軍再編成計画の第2段階の検討など広範な議題について十分な意見交換を行い、今後とも緊密な協力と話合いを継続することに合意した。また、在日米軍駐留経費の負担増や湾岸危機に際してのわが国の政治的支援等について、米国から謝意が表明された。なお、ペルシャ湾への自衛隊の掃海艇の派遣については、米国から高い評価が示された。

(2) 日米防衛協力のための指針

 米国の対日コミットメントを確保し、日米安全保障条約が有効に機能するには、この条約に基づき、平時から緊密な協力関係が確保されていなければならない。特に、軍事面での協力態勢に関し、平時から研究・協議を行っておかなければ、万一わが国に対して武力攻撃が発生した際に、有効に対処し得ない。

 このため、万一の場合に両国が協力してとるべき措置について協議することが、日米の首脳や防衛首脳の間の会談で合意され、これを受け、日米安全保障協議委員会の下部機構として防衛協力小委員会が設置された。そして、緊急時における自衛隊と米軍との間の、整合のとれた共同対処行動を確保するためにとるべき措置に関する指針を含め、日米間の協力のあり方に関し研究・協議を行った。その結果、昭和53年11月「日米防衛協力のための指針」(資料14参照が作成された。

 この「指針」は、じ後行われるべき研究作業のガイドラインとしての性格を有するものとして、侵略を未然に防止するための態勢、日本に対する武力攻撃に際しての作戦構想や指揮・調整、情報、後方支援活動などの対処行動等についての基本的な事項のあり方を示すべく作成されたものである。これに基づき、共同作戦計画についての研究をはじめとした各種の研究を行っている。なお、「指針」を含め、こうした細部の研究作業は、政府間の協定といったものではなく、両国政府の立法、予算ないし行政上の措置を義務づけるものではない。

日米防衛首脳会談に際し、儀じょう隊を巡閲する池田防衛庁長官(右隣はチェイニー国防長官)(平成3.4)

(3) 日米共同訓練

 自衛隊が米軍と共同訓練を行うことは、それぞれの戦術技量の向上を図るうえで有益である。さらに、日米共同訓練を通じて、平素から自衛隊と米軍との戦術面などにおける相互理解と意思疎通を促進し、インターオペラビリティ(相互運用性)を向上させておくことは、わが国有事における日米共同対処行動を円滑に行うために不可欠である。加えて、このような努力は、日米安全保障体制の信頼性と、抑止効果の維持・向上に役立つものである。このため、自衛隊は米軍との間で従来から各種の共同訓練を実施しており、今後とも積極的に行っていく方針である。なお、自衛隊の統合運用態勢の充実のため、日米共同訓練を実施するにあたっては、その統合化を重視している。

 平成2年度においては、航空自衛隊と米軍との日米共同訓練で、日米共同の航空輸送訓練を初めて実施した(資料15参照)。

 

(4) 装備・技術面での協力

 日米両国は、日米安全保障条約において、それぞれの防衛能力の維持、発展のために相互に協力するとしている。また「日本国とアメリカ合衆国との間の相互防衛援助協定」(資料16参照)は、両国間の防衛分野における相互協力のための枠組みを定めている。これら条約の相互協力の原則を踏まえ、わが国としても、装備・技術面において、米国との協力を積極的に推進する必要があることはいうまでもない。

 ただし、これまでは、来国の技術水準の相対的優位などにより、有償援助(FMS)、ライセンス生産などの形で米国から装備・技術の提供など各種の協力を受ける一方で、わが国からは積極的な協力は行い得る状況になかった。

 しかしながら、近年におけるわが国の技術水準の向上により、わが国の技術が米国の防衛能力の向上に寄与し得るものとなってきており、防衛分野における米国との技術交流を相互的なものとすることが日米安全保障体制の効果的運用を図るうえで極めて重要となっていると考えられる。

 このような観点から、昭和58年、わが国は、米国に対しては武器技術を供与する(みち)を開くこととし、その供与にあたっては、武器輸出三原則および武器輸出に関する政府方針等(「武器輸出三原則等」)によらないこととした(資料17参照)。これを受けて、わが国はこれまで、米海軍の艦船の建造および改造のための技術などについてその対米供与を決定しているほか、次期支援戦闘機(FS−X)の共同開発作業の円滑な進展を図るため、その関連武器技術を対米供与することを決定している(資料18・資料19参照)。

 現在、日米共同で開発が進められている次期支援戦闘機は、日米間の装備品の共同研究開発の初めてのケースであり、このような日米間の共同研究開発は、両国の優れた技術者を結集して効果的に装備品を開発するだけでなく、日米間の防衛協力関係を進展させることができるという観点からも重要なものである。こうしたことから、日米両国は、現在、日米装備・技術定期協議の下に設置された作業グループ会合で、5項目の共同開発プロジェクトの具体化に向けた意見交換を行うなど、新たな協力分野の具体化に努めている(資料20参照)。

 また両国間では、従来から装備に関する資料の交換などの交流も行われている。

(5) 在日米軍の駐留を円滑にするための施策

 在日米軍の駐留は、日米安全保障体制の核心であり、同体制の有する機能を真に有効に発揮するためには、わが国としても、在日米軍の駐留を円滑にするための諸施策をできる限り積極的に実施していく必要がある。こうした諸施策のうち、在日米軍駐留経費の負担については、平成3年度に新たな措置を講じたところであり、在日米軍の効果的な活動の基盤の確保に大きく寄与することが期待される。他方、施設・区域の提供については、空母艦載機の着陸訓練場の確保や池子米軍家族住宅の建設の問題があり、引き続きその解決の努力を行っている。

ア 在日米軍駐留経費の負担
  わが国は、地位協定資料21参照)に基づき、日米両国で合意するところに従い、施設・区域を、米国に負担をかけないで在日米軍に提供する義務を負っている。また、在日米軍は、日本人従業員の労働力を必要としており、この労働力は、地位協定によりわが国の援助を得て充足することとなっている。
  昭和40年代後半から、わが国の物価と賃金の高騰や、国際経済情勢の変動により、在日米軍の駐留に関して米国が負担する経費は相当圧迫を受けている。わが国は、これらの事情を勘案し、在日米軍の駐留を円滑かつ安定的にするための施策を可能な限り推し進めており、これまでの経費負担の経緯についての概略は次のとおりである。

 わが国は、米軍が使用する施設について、昭和54年度から、老朽隊舎の改築、家族住宅の新築、汚水処理施設の整備、老朽貯油施設の改築、消音装置の新設などを行い、これらを米軍に提供している。

 在日米軍が必要とする日本人従業員の労務費については、従来、米側が負担していたが、米側負担の軽減を図り、かつ、従業員の雇用の安定を図るため、昭和53年度から福利厚生費などを、また、昭和54年度からは語学手当などわが国の国家公務員の給与条件にない部分の経費をわが国が負担してきた。

  その後、日米両国を取り巻く経済情勢の大きな変化により、従業員の労務費が圧迫され、これを放置すれば、従業員の雇用の安定が損なわれ、ひいては、在日米軍の効果的な活動にも影響するおそれが出てきた。このため、退職手当など8手当についても、その一部を日本側が負担することとし、昭和62年、このような地位協定の特例措置を講ずるため、日米間で特別協定を締結した。その後、昭和63年、この特別協定を改正し、8手当の全額までをわが国が負担できるようにした。

 さらに、わが国は、日米安全保障体制の効果的な運用を確保するための努力の一環として、新中期防衛力整備計画策定の作業の中で検討した結果、日米両国を取り巻く諸情勢の変化に留意し、在日米軍の効果的な活動を確保するため、経費負担につき新たな措置を講ずることとした。

 具体的には、従来米側が負担してきた経費のうち、日本人従業員の基本給および諸手当全項目と、在日米軍が公用のため調達する電気、ガス、水道、下水道および暖房用等の燃料の料金・代金の全部または一部を5年間にわたって新たに負担することとした。その負担要領としては、平成3年度から段階的に負担を増大し、平成7年度にその全額を負担することとした。そして、このような地位協定の特例措置を講ずることを可能にするため、新たな特別協定が日米間で締結され、平成3年4月、国会で承認され発効した(資料22参照)。

(4) このほか、わが国は、従来から施設・区域の提供に必要な経費(施設の借料など)の負担、施設・区域の周辺地域の生活環境などの整備のための措置、日本人従業員の離職対策などの施策を行ってきている。
(5) さらに、以上の経費のほか、自治省が市町村に交付している基地交付金などの経費と、在日米軍施設のうち無償提供している国有地を仮に民有地とした場合の賃借料の試算額を総合すると、平成7年度には、在日米軍駐留経費についての日米間の負担割合は、最終的にほぼ半々になるものと見込まれる。
イ 空母艦載機の着陸訓練場確保

  空母艦載機のパイロットは、広い洋上では点のような空母の狭い甲板に着艦するため、非常に高度な技術を必要とする。空母は、補給、整備、休養などのために入港するが、入港中もパイロットはその技量を維持するため、陸上の飛行場で着陸訓練を十分に行う必要がある。

  現在、この訓練は主として厚木飛行場で行われているが、同飛行場周辺は市街化しており、米軍にとっては訓練の制約の問題が、周辺住民にとっては深刻な騒音問題がそれぞれある。これらの問題を解決するため、政府は、三宅島に飛行場を設置することが適当と考え、そのための努力を続けているが、村当局をはじめ地元住民の間に、なお反対の意向が強く、実現までには相当の期間を要すると見込まれる。

 この間、厚木飛行場周辺の騒音問題をこのまま放置できないため、三宅島に訓練場を設置するまでの暫定措置として、硫黄島において着陸訓練ができるよう、政府はこれに必要な施設の整備を進めており、訓練の早期実現に努めているところである。

ウ 池子米軍家族住宅の建設

  わが国には、多くの米軍人が遠く本国を離れて駐留している。しかし、このために必要な米軍家族住宅は、特に横須賀地区で著しく不足している。

  政府は、在日米軍の駐留を効果的なものとするため、その対策は緊急の課題と考え、池子地区の一部に米軍家族住宅を建設することとし、逗子市と長期にわたり話合いを続けてきた。

  この建設にあたっては、国は、同市の要請もあって、神奈川県条例に基づく環境影響評価を行い、さらには、神奈川県知事から逗子市長の意向に配慮した調停案が提示されたのを受け、これに従って大幅な計画の修正を行い、自然環境を最大限に保全することとしている。

  国としては、このように地元の意向を十分に尊重し、配慮を行ったうえで、昭和62年9月から、順次工事を進めてきている。なお、国は、住宅建設を行うための敷地造成と周辺地域の洪水対策のために、防災調整池の設置などを計画しているが、この工事を実施するためには、河川法に基づき河川管理者である逗子市長との河川協議が必要である。そこで国は、同年12月、同市長に対しこの協議を申し入れたが、同市長は、協議に応じていない。国としては、この住宅建設を早急に行う必要があるので、引き続き河川協議が早期に成立するよう努めるとともに、当面の措置として河川協議を要しない仮設の調整池を平成3年4月に設置し、敷地造成などの工事を進めている。

 

(注)インターオペラビリティ(相互運用性):インターオペラビリティについて確立された定義があるわけではないが、一般には、戦術、装備、後方支援などに関し、共通性、両用性を確保することをいう。

(注)有償援助(FMS:Foreign Military Sales):米国政府が武器輸出管理法に基づき、友好国政府等に対して、有償で行う軍事援助をいう。

(注)武器輸出三原則等:武器輸出三原則は、昭和42年4月、当時の佐藤首相が表明したもので、共産圏諸国向けの場合、国連決議により武器等の輸出が禁止されている国向けの場合、国際紛争当事国又はそのおそれのある国向けの場合には、原則として武器の輸出を認めないというものである。

 また、昭和51年2月の武器輸出に関する政府方針とは、当時の三木首相が表明したもので、その概要は、武器の輸出について、三原則対象地域については、「武器」の輸出を認めない、三原則対象地域以外の地域については、「武器」の輸出を慎むものとする、武器製造関連設備については、「武器」に準じて取り扱うものとする、という方針により処理するものとし、武器の輸出を促進することはしないというものである。

 (また、武器技術の輸出(非居住者への提供)についても、武器輸出三原則及び昭和51年2月の武器輸出に関する政府方針に準じて処理することとされている。)

(注)5項目内容

ダグテッドロケット・エンジン

ミリ波・赤外線複合シーカ

クローズド・ループ消磁技術

戦闘車両用セラミックエンジン

艦艇・装甲車両用先進鋼材

(注)施設・区域:建物、工作物等の構築物及び土地、公有水面をいう。

(注)地位協定:日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定

(注)特別協定:日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定第二十四条についての新たな特別の措置に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定

第3節 わが国の防衛力整備−「防衛計画の大綱」

 わが国は、昭和33年度以降、3年または5年を対象とする防衛力整備計画を4次にわたって策定し、防衛力の整備を図ってきたが、第4次防衛力整備計画が昭和51年度をもって終了することに伴い、昭和51年10月、「防衛計画の大綱」(「大綱」(資料23参照))を国防会議および閣議において決定した。

 従来の防衛力整備計画は、限られた期間内における主要装備の調達規模を主たる内容とするものであったのに対し、「大綱」は、わが国が平時から保有すべき防衛力の水準を明らかにし、わが国の防衛力整備のあり方などについての指針を示したものである。昭和52年度以降の防衛力整備は、この「大綱」に従って進められている。

 「大綱」は、国際社会において、相互関係の改善のための対話が継続し、また、紛争の未然防止や国際関係の安定化のための努力が続いている国際情勢などを前提としている。また、わが国が「大綱」に定めるような防衛力を保有していることが、わが国周辺の国際政治の安定の維持に貢献することともなっているものである。すなわち、これは、わが国に対する軍事的脅威に直接対抗することを目指すよりも、自らが力の空白となって、この地域の不安定要因とならないようにすべきであるとの考え方に立っているものである。

1 国際情勢の認識

 「大綱」の策定にあたって考慮した国際情勢のすう勢について、「大綱」は、次のように述べている。

 核相互抑止を含む軍事均衡や各般の国際関係安定化の努力により、東西間の全面的軍事衝突またはこれを引き起こすおそれのある大規模な武力紛争が生起する可能性は少ない。
 わが国周辺においては、限定的な武力紛争が生起する可能性を否定することはできないが、大国間の均衡的関係および日米安全保障体制の存在が国際関係の安定維持およびわが国に対する本格的侵略の防止に大きな役割を果たし続けるものと考えられる。

2 防衛の構想

 「大綱」は、1で述べた国際情勢の認識の下に、次のような「防衛の構想」を示している。

 わが国の防衛は、まず、わが国自ら適切な規模の防衛力を保有し、日米安全保障体制とあいまって、いかなる態様の侵略にも対応し得る防衛体制を構成することにより、侵略を未然に防止することを基本とする。また、核の脅威に対しては、米国の核抑止力に依存する。さらに、万一侵略事態が発生した場合には、米国の協力とあいまって、極力早期にこれを排除するとしている。

 なお、「大綱」には、「限定的かつ小規模な侵略については、原則として独力で排除する」旨の記述があるが、「限定的かつ小規模な侵略」とは、全面戦争や大規模な武力紛争に至らない規模の侵略のうち、小規模なものをいう。その規模、態様等を具体的に示すことは困難であるが、一般的には、事前に侵略の意図が察知されないよう、侵略のための大掛かりな準備を行うことなしに行われ、かつ、短期間のうちに既成事実を作ってしまうことなどをねらいとしたものである。わが国の防衛力整備は、「大綱」のこのような考え方に基づいて行っているものである。

 一方、実際にわが国に対して具体的にどのような規模、態様の侵略が起こり得るかについては、武力紛争の原因やその時々の国際環境等により千差万別であり、一概にはいえない。

3 わが国が保有すべき防衛力

 「大綱」は、以上の「防衛の構想」の下にわが国が平時から保有すべき防衛力の水準などの枠組みについて、次のように定めている。

 防衛上必要な各種の機能を備え、後方支援体制を含めてその組織および配備において均衡のとれた態勢を保有するものであること。
 平時において十分な警戒態勢をとり得るものであること。
 限定的かつ小規模な侵略までの事態に有効に対処し得るものであること。
 情勢に重要な変化が生じ、新たな防衛力の態勢が必要とされるに至ったときは、円滑にこれに移行し得るよう配意された基盤的なものであること。
  また、「大綱」は、このような枠組みの下、警戒のための態勢など、保有すべき防衛力が備えるべき「防衛の態勢」を明らかにしている。

4 各自衛隊の体制

 「大綱」は、以上のような考え方に基づいて、各自衛隊が維持すべき体制を「陸上、海上及び航空自衛隊の体制」として明示し、「大綱」別表に示す各自衛隊の基幹部隊や主要装備などの具体的規模を導き出す考え方を明らかにしている。

 この別表に示された各自衛隊の基幹部隊のうちの代表的なものの規模について、「大綱」策定時からの考え方を説明すれば次のとおりである。これらは、すでに述べたとおり、平時における均衡ある組織・配備の態勢や十分な警戒態勢の維持などの観点から導き出されるものであり、特定の軍事的脅威に対抗するとの観点から導き出されるものではないことに留意すべきである。

(1) 陸上自衛隊

 陸上部隊として最も重要な師団等については、「わが国の領域のどの方面においても、侵略の当初から組織的な防衛行動を迅速かつ効果的に実施し得るよう、わが国の地理的特性等に従って均衡をとって配置された師団等を有していること」とされている。

 わが国の地形は、主として山脈、河川、海峡によって分けられている。さらに、平時における行政事務の便から都道府県などの境界線をも考慮すると、わが国の全土は、北海道が道北・道東・道央の3区画、東北が北部・南部の2区画、関東、甲信越、東海北陸、近畿、中国、四国がそれぞれ1区画、九州が北部・南部の2区画、それに沖縄が1区画と、合計14区画に分けられる。このため、平時に地域に配備する部隊としては14個の単位が必要となる。地域の特性から四国と沖縄を除く12区画には師団各1個を配置し、四国と沖縄には混成団を配置すれば、12個の師団と2個の混成団とが必要となる。

(2) 海上自衛隊

 海上部隊で最も重要な部隊の単位は、護衛隊群である。これに関しては、「海上における侵略等の事態に対処し得るよう機動的に運用する艦艇部隊として、常時少なくとも1個護衛隊群を即応の態勢で維持し得る1個護衛艦隊を有していること」とされている。

 わが国の周辺海域で侵略などの事態が生じた場合、直ちに現場に進出して対応措置をとり得るためには、常時少なくとも1個護衛隊群は即応の態勢で維持しなければならない。ところが、艦艇部隊の場合、艦艇の修理期間として長い期間を割くことが必要であることに加え、乗員が新隊員と交替することなどから基礎的訓練のためにもかなりの期間を割く必要がある。さらに、基礎的訓練の期間を終えても、困難な状況の下で護衛隊群としての任務を果たし得るような即応の態勢にある期間は限定される。したがって、常時少なくとも1個護衛隊群を即応の態勢で維持するためには、4個の護衛隊群を必要とする。

(3) 航空自衛隊

 航空自衛隊は、「領空侵犯及び航空侵攻に対して、即時適切な措置を講じ得る態勢を常続的に維持し得るよう、戦闘機部隊を有していること」とされている。

 この態勢を維持するためには、わが国の地形と戦闘機の行動半径などとの関係から、即応の待機態勢を全国の要域でとる必要がある。この待機を常時継続して実施するためには、戦闘機の稼働時間、パイロットの技能保持のための訓練などを考慮し、各区域に原則として2個飛行隊が必要であり、わが国全体では、合計13個飛行隊が必要となる。なお、この13個飛行隊は、要撃戦闘機部隊10個と支援戦闘機部隊3個に分けて保有することとされている。

5 防衛力整備実施上の方針および留意事項

 防衛力の質の面については、「大綱」は、諸外国の技術的水準の動向に対応し得るよう質的な充実向上に配意しつつ、「各自衛隊の体制」等を維持することを基本としている。

 また、防衛力整備は、その時々における経済財政事情などを勘案し、国の他の諸施策との調和を図りつつ行うこととしている。

 さらに、隊員施策への配慮、防衛施設の維持・整備、装備品の国産化への配意、技術研究開発態勢の充実などの点に留意すること牛している。

(注)混成団:師団よりほ小型であるが、師団と同様に各種の陸上戦闘機能を持つ部隊であり、外国の旅団に相当する。

第4節 わが国防衛のための主要作戦に関する機能

 わが国の防衛力整備は、わが国に対する侵略事態が発生した場合に備えて、各種の装備および態勢・機能を平素から整備するものである。したがって、わが国有事の際に自衛隊が実施する主要作戦である防空、周辺海域の防衛と海上交通の安全確保、着上陸侵攻対処について明らかにすることは、次節で述べる新中期防衛力整備計画の理解にも資すると考えられるので、ここで簡潔に説明する。

 なお、実際の運用にあたっては、陸・海・空各自衛隊が互いに緊密に連携し、それぞれが持つ特性・機能を十分に発揮するとともに、米軍とも共同してわが国の防衛に当たることはいうまでもない。

1 防空のための作戦

 わが国に対する侵略が行われる場合、四面環海であるわが国の地理的特性や近代戦の様相から、まず航空機やミサイルによる急襲的な攻撃で開始され、この航空攻撃は、侵略が続いている間、反復して行われる可能性が高い。そこで、自衛隊としては、こうした事態に備えることが必要である。

 わが国の防空は、航空自衛隊が主体となって行う全般的な防空と陸・海・空各自衛隊がそれぞれの基地や部隊などを守る個別的な防空に区分できる。

 全般的な防空においては、航空機の侵攻に即応し、できる限り国土から遠くの空域で要撃し、敵に航空優勢を獲得させず、国民と国土の被害を防ぎ、防衛作戦の遂行能力を確保するとともに、敵に大きな損害を与え、航空攻撃の継続を困難にするよう努める。

 他方、個別的な防空は、基地や部隊を自ら防護し、その作戦遂行能力を維持することにより、全般的な防空とあいまって防空作戦全体の効果を増大させる。

 全般的な防空作戦を時系列的に例示すれば、次のとおりである。

 航空警戒管制部隊が、全国に設置したレーダーサイトによりわが国周辺のほぼ全空域を常に監視するほか、警戒飛行部隊が、早期警戒機などにより、主として地上レーダーの死角となる低空域を監視するなど、侵攻してくる航空機をできるだけ早く発見する。
 次いで、航空警戒管制部隊が、自動警戒管制組織(バッジシステム)により、目標の識別、要撃機または地対空誘導弾部隊への目標の割り当ておよび要撃管制を速やかに行う。
 要撃管制などを受けて、要撃戦闘機部隊または地対空誘導弾部隊が目標を迎え撃つ。

地対空誘導弾「ペトリオット」

要撃戦闘機F−15

第2−1図 防空作戦の例

2 周辺海域の防衛と海上交通の安全確保のための作戦

 わが国は、資源、エネルギー、食糧など生存に必要な多くの重要物資を海外に大きく依存している。このため、周辺海域の防衛や海上交通の安全確保は、生存基盤の確保に不可欠であるほか、継戦能力、米軍の来援基盤の確保のためにも必要である。

 わが国に対する海上交通の妨害としては、潜水艦、航空機、水上艦艇などを使用して、わが国周辺を航行する船舶を攻撃したり、わが国の港湾などに機雷を敷設することが考えられる。

 自衛隊は、次に示すような洋上における哨戒護衛、港湾・海峡の防備などのための作戦を行うことにより敵の進出を阻止し、その兵力を漸減させ、敵の有効な作戦を阻むことなどの累積効果によって、わが国の海上交通の安全確保に当たる。

 周辺海域においては、対潜機部隊(固定翼対潜哨戒機)による広域哨戒や護衛艦部隊などによる船舶航行の要域の哨戒を行い、外洋に展開してわが船舶を攻撃しようとする敵艦艇を制圧する。また、必要に応じ、護衛艦部隊や対潜機部隊により船舶を護衛する。哨戒や護衛においては、海上自衛隊は、対潜戦、対水上戦、防空戦を行う。
 沿岸海域においては、特に船舶の出入りの多い重要港湾付近で掃海部隊、対潜機部隊(主として対潜ヘリコプター)、護衛艦部隊などにより港湾を防備し、船舶の安全の確保を図る。この場合、脅威の態様に応じ対潜戦、対機雷戦などを行う。
  また、主要な海峡においては、これを通過しようとする敵艦艇に対し、護衛艦部隊、潜水艦部隊、対潜機部隊などにより対潜戦、対水上戦、機雷敷設戦などを行い、場合によっては陸上、航空自衛隊と協同して通峡阻止に努める。
 なお、洋上における防空については、護衛艦部隊が防空戦を行い、航行する船舶などを防護するほか、航空自衛隊が、その能力の及ぶ範囲で防空作戦を行う。

護衛艦「はたかぜ」

潜水艦「はるしお型」

第2−2図 海上作戦の例

 

3 着上陸侵攻対処のための作戦

 着上陸侵攻は、侵略国が領土の占領などを目的として、通常、侵攻正面における航空・海上優勢を獲得した後、艦船や航空機により地上部隊を輸送し、これらの部隊を相手国の国土に上陸または着陸させて侵略する侵攻形態である。

 侵攻する地上部隊は、艦船や航空機による移動の間、その戦力発揮ができず、また、上陸や着陸の直後は組織的な戦力発揮が困難であるという弱点を有する。このため、着上陸侵攻対処のためには、敵の侵攻に対し、このような弱点をとらえ、努めて前方で対処し、これを早期に撃破することが必要である。

 着上陸侵攻への対処は、洋上、海岸地域および内陸のそれぞれにおける対処に分けられる。

 洋上における対処としては、自衛隊は、海上からの侵攻部隊に対し、艦艇、支援戦闘機、地対艦誘導弾により攻撃し、できる限り洋上で撃破し、その侵攻企図を断念させ、または侵攻兵力を減殺する。また、航空機を利用した侵攻部隊に対しては、努めてこれを空中で撃破する。

 海岸地域においては、上陸する敵に対し、海上自衛隊は、機雷敷設戦でその行動を妨害・阻止する。また、陸上自衛隊は、海岸付近に配置した部隊の火力で敵を水際で阻止する。敵が上陸してきたら、師団を基幹とする主要部隊の戦闘力を集中して、敵を撃破し、わが国土から排除する。また、(てい)攻撃へリボン攻撃により着陸した敵に対しては、主として陸上自衛隊の火力と機動打撃力によりこれを撃破する。

 万一敵を早期に撃破できなかったときは、内陸部で主として陸上自衛隊が持久作戦を行い、この間に、他の地域から部隊を結集して反撃し、侵略を排除する。

 以上のような各段階を通じ、海上自衛隊は、水上艦艇や潜水艦などにより敵の増援や後方補給路の遮断に努め、航空自衛隊は、支援戦闘機部隊などにより航空阻止や陸上・海上自衛隊の支援を行う。また、陸・海・空各自衛隊は、作戦に必要な防空、情報活動、補給品の輸送などを行う。

地対艦誘導弾SSM−1

90式戦車

第2−3図 着上陸侵攻対処作戦の例

 

(注)早期哨戒機:レーダーを搭載し、空中から侵攻機を警戒監視することを主任務とする航空機

(注)自動警戒管制組織:防空作戦を実施するために必要な指揮命令、航跡情報などを伝達・処理する全国的規模の指揮通信システム。各級の指揮所、防空指令所などに設置されたコンピューター、情報表示装置や、これらとレーダーサイトなどを有機的に連接する通信回線により構成される。

(注)要撃管制:目標への要撃機の誘導

(注)要撃戦闘機:来襲する敵戦闘機を迎え撃ち、空対空ミサイルや機関砲によって撃墜することを主任務とする戦闘機

(注)哨戒:敵部隊の撃破または行動の抑圧、情報の収集などのため、特定の区域

 を計両的に見回り、任務達成のために必要な行動をとることをいう。

(注)護衛:艦船、航空機などに同行しつつ、敵の攻撃からこれらを防護することをいう。

(注)空挺攻撃:陸上部隊が航空部隊と統合して航空機によって空中を機動し、降下または着陸して行う攻撃であり、通常、特定地域を確保してじ後の地上作戦のための態勢を確立するために行われる。

(注)へリボン攻撃:地上戦闘部隊がヘリコプターを使用して空中を機動し、着陸して行う攻撃であり、相手の弱点を急襲したり、速やかに地形上の要点を確保するなど、主力部隊の地上戦闘に寄与するために行われる。

(注)航空阻止:主として支援戦闘機により、洋上においては艦船攻撃を行って侵攻兵力を撃破(洋上撃破)し、また、着上陸した部隊に対しては敵の後方連絡線、資材集積所、交通要路などに対する航空攻撃を行い、侵攻部隊の作戦遂行能力の減殺を図る作戦をいう。

第5節 新中期防衛力整備計画

1 計画策定の経緯

 わが国は、昭和52年度以降、「大綱」に定める防衛力の水準の達成を図ることを目標として防衛力の整備を進めてきた。この間、当初は、政府レベルの中期的な計画は作成せず、年々必要な決定を行ういわゆる単年度方式によってきた。一方、実際の業務を進めるうえで、主要な事業について将来の方向を見定めておくことも必要であったため、防衛庁内部で、一定期間を対象とする見積りを作成し、これを参考に各年度の防衛力整備を進めてきた。しかし、昭和61年度からの5年間に関する防衛庁内部の見積りの作成にあたり、文民統制の充実を一層図る観点などから、国防会議における審議のうえ、政府計画として「中期防衛力整備計画」(前中期防)が国防会議および閣議で決定され、昭和61年度からの防衛力整備は、これに基づいて行われてきた。この計画の対象期間が平成2年度で終了することから、政府は、昭和63年12月以降、12回にわたり安全保障会議を開き、国際情勢、軍事技術の動向、「大綱」の考え方などについて審議し、平成3年度以降の防衛力整備のあり方を検討してきた。

 これらの審議を踏まえ、政府はまず、平成2年12月19日、安全保障会議および閣議において「平成3年度以降の防衛計画の基本的考え方について」を決定した(資料9参照)。ここでは、政府として「大綱」策定以降の国際情勢の変化についての認識を明らかにし、今後とも「大綱」の基本的な考え方に従って防衛力整備を行っていくことが適当との考え方を示した。

 政府は、この決定に基づき、12月20日、安全保障会議および閣議において平成3年度から7年度までの5年間の防衛力整備の内容を定めた「中期防衛力整備計画(平成3年度〜平成7年度)」(新中期防)を決定した(資料24参照)。

2 計画策定の必要性

 現在、国際情勢は流動的であるが、政府は、後に述べるように、現在の国際情勢を踏まえれば、引き続き「大綱」の基本的な考え方に従って効率的で節度ある防衛力の整備を行うことが適切であると判断している。このため、政府としては、現在の国際情勢の変化を的確にとらえた計画をつくり、国民に対し今後の防衛力整備の方向を明らかにすることとしたものである。

 そもそも防衛力整備というものは、一朝一夕に行われ得るものではない。例えば、艦艇や航空機は、契約から取得まで通常3年から5年を要する。それに搭乗する要員の養成には、更に数年を要する。また、一つの施設の建設にも通常数年を要する。こうしたことから、防衛力整備は、具体的な中期的な見通しに立って、継続的かつ計画的に進めていくことが合理的といえる。

 また、前中期防は、前記lで述べたとおり、防衛庁内部の中期的な見積りを、文民統制の充実を一層図る観点などから、国防会議における審議のうえ、政府計画に格上げしたものであり、この経緯からしても、中期的な防衛力整備計画を政府レベルの計画として策定することが適切である。

3 新中期防の基本的考え方

(1) わが国防衛の基本方針との関係

 わが国は、これまで憲法や専守防衛などの基本方針の下で、国際情勢やその時々の経済財政事情などを勘案して節度ある防衛力の整備に努めてきた。平成3年度以降の防衛力整備の検討を行うにあたっても、同様の方針の下に検討を進めてきた。その検討の結果に基づいて、以下に今後の防衛力整備の基本的考え方を説明する。

(2) 国際情勢の認識

 わが国ほ昭和52年度以降、「大綱」に基づいて防衛力整備を進めてきたことはすでに述べたとおりである。平成3年度以降の防衛力整備について検討するにあたっても、引き続き「大綱」が今後の防衛力整備の指針として妥当であるかという点について検討がなされた。

 その際、今のように流動的な国際情勢が「大綱」策定の際に前提とした国際情勢の認識とどのような関係に立つのかが検討の一つの論点であった。この点について、政府はあらためて次のように判断したところである。

 国際関係の多元化や国際的な相互依存関係の深まりといった傾向が一層進展し、また、国家関係におけるイデオロギーや体制の相違の持つ意味合いが相対的に低下しつつある。
 国際関係の安定化に向けての努力については、「大綱」策定当時から続けられてきた東西間の対話などの努力がようやく実りつつあるといえる。このことは、「大綱」策定当時、各種の対立要因が根強く存在していた東西関係が、欧州を中心に対話と協調の時代に移行しつつあることや、軍備管理・軍縮をはじめとする様々な努力が継続されていることにみられるとおりである。ただし、国際社会は、依然として宗教上の対立や民族問題、領土問題、ナショナリズムなどに起因する地域紛争などの不安定要因を内包している。
 アジア・太平洋地域においても、韓ソ国交樹立など、緊張緩和の方向へ向かっての動きがみえ始めている。また、米国、ソ連、中国およびわが国の関係が、この地域の平和と安定にとって一層重要となりつつある。一方、これまで質量両面にわたり一貫して増強されてきた極東ソ連軍の動向については、質的向上は依然として続いているものの、量的には削減傾向がみられる。
 以上のように、国際情勢は総じて好ましい方向に変化しつつあり、また、東西間の全面的な軍事衝突やこれを引き起こすおそれのある大規模な武力紛争が起こる可能性は、「大綱」策定当時よりも更に少なくなっていると見込まれる。また、わが国周辺においては、この地域の平和と安定のため日米安全保障体制の存在が依然として重要な役割を果たしている。

(3) 今後の防衛力整備の基本的考え方

 上記(2)で述べたような国際情勢の動向については、地域紛争の生起などの不安定要因があることや、わが国周辺の軍事情勢には依然として厳しいものがあることなどから、今後とも注視する必要があるが、総じてみれば、「大綱」策定の際に前提とした国際関係安定化の流れがより進んだ形で現れつつあるとみることができる。このような状況を踏まえれば、憲法や専守防衛などの基本方針の下で、日米安全保障体制の信頼性の向上を図りつつ、引き続き「大綱」の基木的考え方に従って効率的で節度ある防衛力の整備を行うことが適切と考えたものである。

 また、このような努力が、わが国に対する侵略の未然防止に大きな役割を果たすとともに、わが国周辺地域の平和と安定の維持に貢献することとなるものと考えている。

4 計画の特色

 政府は、前中期防により「大綱」に定める防衛力の水準がおおむね達成される状況を踏まえ、国際情勢の変化などを勘案しつつ、「大綱」の基本的な考え方の下、これに定める防衛力の水準の維持に配意して、効率的で節度ある防衛力の整備を進めることをその方針としている。

 この新中期防の特色は、次のとおりである。

(1) 防衛力全体として効率的で均衡がとれた態勢の維持・整備

 主要装備については、「大綱」に定める水準が、これまでの防衛力整備によりおおむね達成される状況などを踏まえ、更新・近代化を基本とする。

 一方、隊員の生活環境、情報・指揮通信などの各種支援機能、技術研究開発などのいわゆる後方分野については、その一層の充実に努め、防衛力全体として効率的で均衡がとれた態勢の維持、整備を図ることとする。

(2) 「人」の問題への対応

 隊員の募集環境が今後ますます厳しくなることなどを踏まえ、自衛隊をめぐる「人」の問題に対応すべく、次のような努力を行う。

 防衛力の整備・運用面で一層の効率化、合理化を徹底する。
 自衛官定数を含む防衛力のあり方について検討し、この計画期間中に結論を得る。
 陸上自衛官の充足について、その現状を踏まえ、上限を設定する。海上および航空自衛隊において新たに必要となる人員については、効率化、合理化の努力によって対応することとする。

(3) 日米安全保障体制の信頼性の維持・向上

 第2節で述べたとおり、わが国の安全を確保するうえで日米安全保障体制の信頼性の維持・向上は極めて重要である。このため、在日米軍駐留支援など各種の施策を推進する。

(4) 所要経費総額の限度の明示

 この計画の実施に必要な経費の限度額は、計画を策定した平成2年度の価格に基づく金額(実質額)で示されており、その総額の範囲内で対象期間内の各年度の防衛関係費を決定していくという方式がとられている。この計画の実施に際しては、この所要経費の枠内において、極力経費を抑制するよう努力するとともに、国の他の諸施策との調和を図りつつこれを行うこととしている。この方式は、防衛力整備の内容とその裏付けとなる経費を一体として明示するものであることから、防衛力整備上の具体的かつ合理的な指針となるものである。

(5) 計画の弾力性の確保

 新中期防では、3年後には、その時点の内外の諸情勢を勘案して、上記の総額の範囲内で、必要に応じ計画を修正することとしている。このように、新中期防は、情勢の変化にも柔軟に対応して、計画の修正が必要な場合に適切に対応できるようになっている。

5 正面装備の主な整備内容

(1) 能力別の主な整備内容

 防空能力
  最近の航空戦力の動向をみると、特に、航空機の飛行性能、搭載電子機器やミサイルなどの性能が向上し、その攻撃能力が著しく強化されている。そこで、新中期防においては、防空戦闘においてこれに有効に対処し得るようにするための事業を行うこととしている。
  まず、領空侵犯に対する措置を実施する態勢を維持するとともに、適正な訓練態勢を確保するなどのため、引き続き要撃戦闘機(F−15)の整備などを進める。また、低空からの航空機の侵入に対する早期警戒監視体制を充実するため、早期警戒管制機を導入する。また、重要地域の防空火力を充実するため、引き続き地対空誘導弾ナイキJのペトリオットへの換装を行う。
 周辺海域の防衛能力および海上交通の安全確保能力
  新中期防では、護衛艦部隊全般の効率的な近代化を図りつつ、老朽化した護衛艦の減勢を補充するため、護衛艦の建造を行うこととしている。また、老朽化した対潜哨戒機P−2Jなどの減勢を補充しつつ、固定翼対潜機の近代化を図るため、引き続き対潜哨戒機P−3Cの整備を進めることとしている。
 着上陸侵攻対処能力
ア 新中期防では、洋上・水際撃破能力を整えるため、引き続き地対艦誘導弾の整備を進めることとしている。また、空中火力を整え、敵の戦車や装甲車を上空から攻撃するため、引き続き対戦車ヘリコプター(AH−1S)を整備する。さらに、老朽火砲の更新・近代化のため、新多連装ロケットシステムを導入することとしている。
イ なお、艦船への攻撃や着上陸部隊の後方連絡線などへの攻撃を行ったり、陸上および海上自衛隊の支援を行うため、航空自衛隊が保有している支援戦闘機F−1の減勢に伴い、その後継機FS−Xを開発中であるが、新中期防では、「大綱」にある支援戦闘機部隊3個飛行隊を維持するため、暫定的に現有の要撃戦闘機F−4EJ改の一部を支援戦闘機に転用することとしている。

(2) 主要装備の調達量・保有量

 主要装備の調達については、すでに「計画の特色」の項で述べたとおり、更新・近代化を旨としていることから、新たな調達は、前中期防に比べて大幅に減少している。例えば、戦車、対潜哨戒機(P−3C)、要撃戦闘機(F−15)の調達量は、前中期防期間中よりも新中期防期間中の方が少なくなる。

 また、護衛艦などの調達量は、新中期防期間中に減勢する量より少ないので、それらの保有量は、前中期防期間中より減少する。

第2−1表 主要装備の調達量

第2−2表 主要装備の保有量(完成時勢力)

6 主要な後大事業の内容

(1) 情報・指揮通信能力

 専守防衛を旨とするわが国にとって、周辺の警戒監視や防衛に必要な情報の収集・分析を平時から常に実施することは極めて重要である。

 また、自衛隊の能力を最大限に発揮するためには、防衛力運用の神経中枢ともいうべき指揮通信面の整備が必要である。

 このため、警戒監視については、引き続き固定式3次元レーダー装置および移動式警戒監視システムを整備するほか、艦艇・航空機による周辺海・空域の監視態勢を充実することとしている。また、情報については、総合的な分析を実施し得る体制の充実に努めるとともに、各種の情報収集手段を整備する。なお、OTHレーダーについては、その有用性などに関し引き続き検討のうえ、必要な措置を講ずることとしている。

 また、指揮通信については、引き続き、指揮機能の充実、防衛統合ディジタル通信網(IDDN)の整備、衛星通信の利用などを進めることとしている。

 

(2) 隊員の生活環境などの改善

 好景気に伴う雇用需要の増大や若年層の意識・価値観の変化などを背景として、隊員の募集環境は、厳しい状況にある。さらに、今後、隊員募集の対象となる若年人口の減少が予想される。こうした状況に対応して、質の高い防衛力を維持していくためには、自衛隊の魅力化を図ることにより、優秀な隊員の確保と士気の高揚を推進することが必要である。

 また、より基本的には、自衛隊に対する国民の理解を深め、個々の隊員が誇り・やりがい・ゆとりをもって任務に精励できるようにすることが必要である。

 以上のような基本的な認識を踏まえ、隊員の確保・処遇改善を重点施策として推進することとしている。

 その際、隊員の生活環境の向上を図るため、地域や勤務の特性等に配意しつつ、隊舎、宿舎等の建設・改修を推進するとともに、厚生施設等の整備・充実を図ることとしている。

(3) 教育訓練体制および救難体制

 自衛隊が任務を有効に遂行するには、個々の隊員の高い能力と、部隊としての高い練度が必要である。

 また、自衛隊の任務の性格から、その訓練や行動は危険と隣合わせであり、不時着した航空機や遭難した艦艇などの乗員の捜索・救助に当たる体制の充実に努めなければならない。

 このため、新中期防においでも、教育訓練体制と救難体制の充実を図ることとしている。

 教育訓練体制の充実については、中等練習機(T−4)などの航空機や練習艦の整備を行うとともに、シミュレータなどの器材の充実を図る。また、訓練施設など教育訓練環境の改善を図る。救難体制の充実については、救難飛行艇(US−lA)、救難ヘリコプター(UH−60J)、新型救難捜索機などを整備する。

7 技術研究開発

 装備の研究開発は、長い年月を要することから、継続的・計画的に実施する必要がある。また、諸外国における軍事技術の進歩には著しいものがあり、さらに、各種の装備品の性能などに占める先端技術の役割は増大傾向にある。こうした中で、わが国としては、防衛力整備にあたり諸外国の技術的水準の動向に対応できるよう質的な充実向上に配意する必要があることから、研究開発体制の充実に努めることが重要である。このため、新中期防においても引き続き研究開発を重視することとしている。

 新中期防では、次期支援戦闘機(FS−X)、各種誘導弾などの主要装備の研究開発を推進する。また、技術進歩のすう勢を十分に勘案して、先端的な基礎技術の確立に資するための研究を行うこととしている。

 また、日米の優れた技術を結集して共同研究開発を行うことは、効果的に研究開発を行うことができるばかりでなく、日米間の防衛協力関係を進展させることができるという観点からも重要であるので、日米共同の技術研究開発を積極的に推進することとしている。

8 在日米軍駐留支援

 在日米軍駐留支援については、第2節「日米安全保障体制」の中で詳しく述べたとおりである。

9 その他

(1) 空中給油機能の検討

 空中給油機能については、空中給油機の性能、運用構想等を、新中期防においても引き続き検討することとしている。

(2) 防衛力のあり方の検討

 将来における人的資源の動向などを勘案して、これに的確に対応するため、新中期防では、自衛官の定数を含む防衛力のあり方について検討を行い、この計画の期間中に結論を得ることとしている。

(3) 陸上自衛官の充足

 陸上自衛官の定数は18万人であり、これまで、即応態勢の向上などを図るため、充足率の向上に努めてきた。しかし、将来の充足数がここ数年来の充足数を大幅に上回ることは予想しがたいことなどから、新中期防では、充足の現状を踏まえ、15万3千人を充足の限度とし、その範囲内で教育訓練、部隊運営の一層の効率化・合理化に努めることとした。

10 所要経費

 新中期防の5年間の防衛関係費の総額の限度は、平成2年度価格で、おおむね22兆7,500億円程度をめどとすると決定された。

 この結果、前中期防期間中の防衛関係費の年平均実質伸率が5.4%であったのに対し、新中期防期間中は3.0%となる。特に、正面装備の調達に要する経費(契約額)は約5兆円であり、年平均7.7%の伸びを示した前中期防に比べ大幅に低下し、平成2年度の予算から年平均2.3%のマイナスの伸びとなっている。

 全体的にみても、正面装備よりも、各種支援機能、隊員施策等に用いられる後方部門に、より重点を置いた経費配分を行っており、防衛関係費全体に占める後方経費のシェアは、前中期防では約33%だったものが、新中期防では40%を超えている。

 さらに、期間中の各年度の予算編成に際しては、一層の効率化・合理化により極力経費の抑制に努め、また、その時々の経済財政事情等を勘案し、国の他の諸施策との調和を図りつつこの計画の所要経費の枠内で決定することとしている。

第2−3表 経費規模

第2−4表 正面装備

第2−4図 経費の内訳

第6節 平成3年度の防衛力整備

1 基本方針

 平成3年度は、新中期防の初年度に当たる。新中期防の着実な実施を図るため、平成3年度の防衛力整備は、次の諸点を基本方針としている。

 正面と後方の均衡がとれた防衛力の整備に配意する。
 諸外国の技術的水準の動向に対応し得るよう、質的向上を図ることを基本として、各種防衛機能の更新・近代化を図る。
 防衛力発揮の基盤となる情報・指揮通信などの各種支援機能と教育訓練体制の充実を図る。
 優れた人材の確保と士気の高揚を図るため、隊員の処遇改善を推進する。

2 主要な事業内容

(1) 正面装備の更新・近代化

 陸上防衛力については、対戦車誘導弾などの整備による師団の近代化、90式戦車や対戦車へリコプター(AH−1S)の整備による対戦車火力の充実、改良ホークの改善による対空火力の更新、88式地対艦誘導弾の整備による洋上・水際撃破能力の充実などを図る。

 海上防衛力については、イージスシステム搭載護衛艦の整備による防空能力の充実、固定翼対潜哨戒機(P−3C)や対潜ヘリコプター(SH−60J)の整備による対潜能力の充実、掃海艇や掃海ヘリコプター(MH−53E)の整備による対機雷戦能力の充実などを図る。

 航空防衛力については、領空侵犯に対する措置を実施する態勢を維持するとともに適正な練成訓練態勢の確保を図るなどのため要撃戦闘機(F−15)の整備を進める。このほか、要撃戦闘機F−4EJの延命に伴う相対的な能力不足の改善のための同機の改修、地対空誘導弾ペトリオットの整備による防空能力の充実、輸送ヘリコプター(CH−47J)の整備による主要基地とレーダーサイトなどとの間の空輸能力の充実、救難ヘリコプター(UH−60J)の整備による救難能力の向上などを図る(資料27・資料28参照)。

 なお、新中期防に計上した主要事業などの進捗状況は、第2−5図のとおりである。

対戦車ヘリコプターAH−1S

音響測定艦「ひびき」

輸送ヘリコプターCH−47J

第2−5図 中期防衛力整備計画の進捗状況

(2) 情報・指揮通信能力の向上

 航空警戒監視能力の向上を図るため、固定式3次元レーダー装置などを整備する。

 情報機能に関しては、対潜戦(ASW)センターの整備などを図る。

 また、指揮通信能力の向上に関しては、防衛通信の(ぜい)弱性の解消と機能面の欠落分野の早期解消を図ることとしている。このため、防衛統合ディジタル通信網(IDDN)の整備による通信網の抗たん性の向上および陸上自衛隊の方面総監部の指揮所の近代化による指揮機能の充実に努めるほか、潜水艦用超長波(VLF)送信所および衛星通信機能の整備による洋上通信の信頼性の向上を図る。

(3) 教育訓練体制の充実

 陸上自衛隊では小火器射撃評価システムなど、海上自衛隊では潜水艦聴音訓練装置など、航空白衛隊ではペトリオット戦術訓練シミュレータなどの教育訓練用器材の充実を図る。

 また、陸上自衛隊の北方機動特別演習、海上自衛隊演習、航空自衛隊の航空総隊総合演習などの各種訓練・演習を実施する。

(4) 隊員のための施策の推進

 まず、生活関連施設の充実を図ることとしている。隊舎については、個人のプライバシーを重視したり、冷房化を図るなど、隊員のニーズに応じた整備を行う。また、宿舎については、設置戸数を増やすとともに、老朽宿舎の建て替えや既設宿舎の補修などの環境改善を進める。その他、老朽化した食堂・厨房、浴場の改修や建て替えを進めるとともに、体育館、プール、厚生センターを逐次整備していくこととしている。

 このほか、恒常的な交替制勤務に服し、その勤務時間が深夜に該当した隊員に支給される夜間特殊業務手当を新設するほか、艦艇乗組員の乗組手当の支給率の改善を図ることとしている。また、陸上自衛隊の常装被服の改正、隊員の営舎外居住許可基準の拡大を図る。曹長以下の自衛官の営舎外居住については、従来は既婚の士長以上の自衛官に認められていたが、平成3年度からは、既婚の2士以上の自衛官、2曹で30歳以上の自衛官および1曹、曹長の自衛官にまで認めることとした。さらに、新造の水上艦艇のベッドを3段から2段にしたり、船舶用衛星放送テレビ受信装置や食器洗浄機の整備などを推進し、艦艇乗組員の生活環境等の改善を図ることとしている。

(5) 要員の確保

 新たに必要となる人員については、厳しい募集環境にもかんがみ、業務の省力化・合理化を図り、既定定数の削減努力を行うことにより対応することとし、平成2年度までに予算上認められている定数を超える新たな定数増は行わないこととした。

(6) 技術研究開発の推進

 すでに行われている次期支援戦闘機(FS−X)などの研究開発を継続する。また、新たに、小型回転翼無人機を使用した遠隔操縦観測システムや艦艇の自艦防御用の投棄型電波妨害機などの研究開発に着手する。

第2−5表 隊舎の基準

3 平成3年度の防衛関係費

 防衛関係費は、自衛隊の維持運営に必要な経費のほか、防衛施設周辺の生活環境の整備などの事業のための経費や、安全保障会議の運営などに必要な経費を含んでいる。

 平成3年度の防衛関係費は、新中期防の初年度としてふさわしい内容とするため、個々の事業を精査し、経費を極力抑制して積み上げた結果であり、総額4兆3,860億円となっている。これは、平成3年度の一般会計歳出予算の6.2%を占め、昨年度の6.3%と比べ0.1%の減である。

第2−6表 防衛関係費の概要

第2−6図 一般会計歳出予算中の割合

第2−7図 一般会計歳出主要経費の推移

(1) 防衛関係費の内容

 防衛関係費の内訳
  防衛関係費の内訳には、主として「機関別内訳」、「使途別内訳」、「経費別内訳」があり、それぞれ次のようになっている。
ア 機関別内訳
  防衛関係費は、陸・海・空各自衛隊、防衛施設庁などの機関別に分類することができる。平成3年度の防衛関係費の機関別内訳は、第2−8図のとおりである。
イ 使途別内訳
  使途別内訳は、防衛関係費を人件・糧食費、装備品等購入費などの使途によって分類したものである。平成3年度の防衛関係費を使途別にみると第2−9図のとおりである。
ウ 経費別内訳
  防衛関係費は、経費別には、「人件・糧食費」、すでに国会の議決を経ている国庫債務負担行為および継続費の後年度支払い分に係る「歳出化経費」、装備品の修理・整備、油の購入、隊員の教育訓練、新規装備品の調達などのためにその年度に支払われる経費である「一般物件費」に分類される。平成3年度の防衛関係費を経費別にみると、第2−10図のとおりである。
  主要装備品の製造には、長い年月を要するため(例えば、戦闘機・護衛艦で4〜5年、戦車・自走砲・装甲車で2〜3年)、単年度の予算で調達できないものが多い。このため、これらの装備品などの調達にあたっては、財政法に定められている国庫債務負担行為および継続費の方式を採用している。これらにより、最長5年間にわたる製造などの契約をするための予算措置が行われ、当年度予算で支払われる前金の部分以外の経費は、いわゆる後年度負担となり、この後年度負担が将来歳出される年度において、「歳出化経費」として予算計上される。
  第2−10図からもわかるように、防衛関係費は、その年度の歳出予算でみると、人件・糧食費および歳出化経費といういわば義務的な経費が非常に大きな部分を占めている(本年度は78.8%)。また、一般物件費についても、装備品の修理・整備や隊員の教育訓練に要する経費のような、いわば維持的な経費がかなりの部分を占めている。
 契約額でみた正面・後方の比率
  各年度の予算の特徴を表すものの一つに、一般物件費と当該年度の契約に係る後年度負担とを合計した額(契約額)でみた、正面(主要装備品の購入など)と後方(隊員施策および情報・指揮通信などの各種支援機能)の比率がある。
  契約額でみた平成3年度防衛関係費の正面・後方の比率については、後方分野の一層の充実に努めるという新中期防の方針を踏まえ、後方分野の比率が高くなっている(平成元年度の59.0%、平成2年度の59.5%に対し、平成3年度は65.2%)。
第2−8図 防衛関係費の機関別内訳
第2−9図 防衛関係費の使途別内訳
第2−10図 防衛関係費の経費別内訳

(2) 各国との比較

 各国の防衛費は、その内訳が明らかでない場合が多く、また、その範囲も各国の歴史や制度などの諸事情により異なり、統一された定義はない。さらに、各国の置かれた政治的、経済的諸条件、社会的背景なども異なるので、単に各国が自国の防衛費として公表している計数のみをもって防衛費の国際比較を行うことには、おのずから限度がある。

 これについて、例えば、英国の国際戦略問題研究所の研究によれば、1989年度時点のわが国の防衛費は、米ソ両国ならびにフランス、英国および西独(当時)に次いで世界第6位となっているが、国民一人当たりの防衛費および防衛費の対GNP比のいずれにおいても、欧米諸国に比べてかなり低いことがわかる。

 なお、各国の防衛費を比較する場合、各国の通貨で表示された防衛費をドル表示に換算することが一般的であるが、単純なドル換算の金額比較は、為替レートの変動の影響を受けるため、必ずしも実態を正確に反映するものではない。したがって、各国の防衛費を比較する際には、この点にも十分注意する必要がある。

 いずれにしても、各国における諸事情が異なるため、防衛費の規模がそのまま、それにより整備、保有している防衛力の規模の比較に直接的に結びつくものではない。ちなみに、防衛力(兵力)の量的な規模についてわが国と諸外国とを比較しても、わが国は、フランス、英国などの諸国に匹敵するような水準とはなっていない。

第2−7表 上位20か国・地域の国防費(1989年度)

第2−11図 主要国の兵力比較

4 湾岸地域の平和回復活動へのわが国の支援に伴う防衛費削減

 以上に述べた平成3年度の防衛関係費は、国会において議決されたものである。なお、これは、平成2年12月末に政府として決定し、国会に当初提出した予算案を修正したものであり、この修正の経緯などは次のとおりである。

 政府は、平成3年1月、湾岸地域における平和回復活動を行っている米国をはじめとする関係諸国に対し、わが国としてその国際的地位にふさわしい支援を行うため、湾岸平和基金に対し、それまでの拠出分に加え、新たに90億ドル相当の金額を拠出することとした。

 その際政府としては、国会での議論などを踏まえ、その財源について、すべて増税措置によるのではなく、歳出の節減合理化などに最大限努力することとし、平成2年度予算の既定経費の節減、予備費の減額および税外収入の追加を行うほか、平成3年度の防衛関係費(国庫債務負担行為に係る平成4年度以降の支出予定額を含む。)、公務員宿舎施設費などの減額措置をとった。

 平成3年度の防衛関係費に係る修正は、上記の経緯から行われたものであり、その結果、平成3年度の防衛関係費は、政府提出の予算案から、国庫債務負担行為に係る平成4年度以降の支出予定額を含め約1,002億円(このうち平成3年度の歳出約10億円)を削減したものとなっている。

 なお、新中期防に盛り込まれている3年後の見直しにあたっては、その時点における国際情勢、技術的水準の動向、経済財政事情等内外の諸情勢にあわせて、今回の措置を重要な要素として勘案することとしており、新中期防の計画期間中の各年度の防衛予算の編成にあたっては、今回の措置を念頭に置きつつ実施することにより、結果として今回の措置が当該期間中の防衛関係費の総額に反映されることとなる。

第7節 その他の諸施策

(1) 有事法制

 一般論として、わが国有事に際して必要な法制としては、自衛隊の行動にかかわる法制、米軍の行動にかかわる法制、自衛隊および米軍の行動に直接にはかかわらないが国民の生命・財産等の保護などのための法制の三つが考えられるが、昭和52年に開始された有事法制の研究は、自衛隊の行動にかかわる法制の研究である。これまでに、防衛庁所管の法令および他省庁所管の法令についての問題点の整理は、おおむね終了したと考えている(資料33・資料34・資料35参照)。なお、所管省庁が明確でない事項に関する法令については、政府全体として取り組むべき性格のものであり、個々の具体的検討事項の担当省庁をどこにするかなど今後の取り扱いについて、内閣安全保障室が種々の調整を行っている。

 

(2) 民間防衛

 わが国に対して万一侵略があった場合、国民の生命・財産を保護し、被害を最小限にとどめるうえで、国民の防災や救護・避難のため、政府・地方公共団体と国民が一体となって民間防衛体制を確立することが必要である。このような民間防衛の努力は、国民の強い防衛意思の表明でもあり、侵略の抑止につながり、国の安全を確保するため重要な意義を有する。わが国においては、民間防衛に関してみるべきものがない。今後、国民のコンセンサスを得つつ、政府全体で広い観点から慎重に検討していくべきである。

 

(3) 国民生活を維持するための施策

 わが国にとって国民生活を維持するためには、資源、エネルギー、食糧などの確保が不可欠である。これらの生産地や輸送経路で武力紛争や大規模な天災地変などが発生した場合、あるいはわが国有事の際に海上交通が妨害される場合などに予想されるこれらの供給の停止などに備え、これらを備蓄しておくことが有効である。また、有事におけるわが国の国民生活、経済活動などを維持するために必要な物資の海上輸送の実施体制のあり方についても、政府全体として総合的な観点から研究する必要がある。

 

(4) その他

 防衛力を支え、これを有効に発揮させるためには、平時から防衛産業を育成し、建設、運輸、通信、科学技術などの分野で国防上の配慮を加えておく必要がある。