第3部

わが国防衛の現状と課題

第1章 自衛隊の現状と課題

第1節 主要作戦における防衛力の概要

わが国は、日米安全保障体制を堅持するとともに、平時から独立国として必要な最小限の防衛力を整備することにより、侵略の未然防止を図っている。そのため、わが国に対する侵略事態が発生した場合に備えて、各種の装備及び態勢・機能を平素から整備している。

本節では、このような場合において、自衛隊が実施する主要な作戦である防空、着上陸侵攻対処、海上交通の安全確保のための各作戦について、その基本的な考え方、自衛隊が保有する防衛力及びこれらの能力発揮のための態勢・機能の概要について説明する。

なお、実際の運用に当たっては、陸・海・空各自衛隊が互いに緊密に連携し、それぞれが持つ特性・機能を十分に発揮するとともに、米軍とも共同してわが国の防衛に当たることとなる。

1 防空のための作戦と能力

(1) 作戦の概要

わが国に対する直接侵略が行われる場合、わが国の地理的特性と近代戦の様相などから、まず航空機による急襲的な攻撃で開始され、この航空攻撃は、侵略が続いている間、反復して行われる可能性が高いものと想定されるので、これらの事態に備える作戦が必要である。

わが国の防空作戦は、航空自衛隊が主体となって行う全般的な防空と、陸・海・空各自衛隊がそれぞれの基地や部隊などを守る個別的な防空に区分することができる。

全般的な防空においては、航空機の侵攻に即応し、所要の部隊をもってこれをできる限りわが国土から遠くの空域で要撃し、敵に航空優勢を獲得させず、わが国民と国土の被害を防ぎ、防衛作戦の遂行能力を確保するとともに、侵攻の都度、敵に大きな損害を与え、航空攻撃の継続を困難にするよう努める。

一方、個別的な防空においては、各種作戦を遂行する上で基盤となる基地や部隊を自ら防護し、その作戦遂行能力を維持することにより全般的な防空とあいまって防空作戦全体の効果を増大させるものである。全般的な防空作戦を時系列的に例示すれば次のとおりである。

 航空警戒管制部隊は、全国28か所に設置したレーダーサイトによりわが国のほぼ全空域を常に監視するほか、警戒飛行部隊は、早期警戒機を用いて、主として地上レーダーの死角となる低空域を監視するなど、侵攻してくる航空機をできるだけ早期に発見する。

 次いで、航空警戒管制部隊は、自動警戒管制組織(バッジシステム)を用いて、目標の識別、戦闘機又は地対空誘導弾(SAM)部隊への目標の割当て及び要撃管制を迅速に行う。

 この要撃管制などを受けて、要撃戦闘機部隊又はSAM部隊(高空域防空用及び低空域防空用)などが目標を要撃する。

(2) 能力の概要

近年の航空機は、飛行性能、搭載電子機器やミサイルなどの性能が向上し、その攻撃能力が著しく強化されてきており、レーダーサイトやSAM部隊などに対して電子妨害を行いながら、超低高度や高高度から高速で侵入したり、遠距離から空対地ミサイル(ASM)を使用して攻撃するなど、多様な侵攻が可能となってきている。

このような諸外国の航空戦力の向上に有効に対処するため、自衛隊は、警戒システム、要激戦闘機及びSAMなどの装備を充実・近代化することにより、防空能力の向上に努めている。(第3−1図 防空作戦の例

ア 警戒監視・要撃管制能力

航空自衛隊は、警戒監視・要撃管制能力の充実・向上のため、新バッジシステムの運用を昭和63年度から開始するとともに、早期警戒機E−2Cの整備などを進めている。また、昨年度から新型の固定式3次元レーダー装置などの整備を進めている。

イ 要撃能力
(ア) 要撃戦闘機等

要撃戦闘機は、性能向上の著しい新鋭機による侵攻に対しても、天象気象、昼夜を問わず広範囲にわたって迅速かつ柔軟に対処できる優れた飛行性能や装備を持つ必要がある。

このような観点から、航空自衛隊は、F−15の整備を進めており、昨年度末現在、6個飛行隊を保有している。

また、F−4EJについては、昨年度末現在、4個飛行隊を保有しているが、防衛力の整備・運用における効率化、合理化を図る見地からその延命施策を行うとともに、延命に伴う相対的な戦闘能力の低下を改善するため、逐次改修を進めている。

さらに、最近の航空機の侵入能力の著しい向上に対処する方法の一つとして、要撃戦闘機が事前に空中で哨戒・待機する空中警戒待機(CAP)がある。この場合、空中給油機を使用すれば、要撃戦闘機の待機時間を延ばすことができるなどの効果が考えられる。このため、中期防衛力整備計画に基づき、空中給油機の性能、運用構想など、空中給油機能に関する研究を進めている。

なお、航空自衛隊は、要撃戦闘機の外に支援戦闘機としてF−1を3個飛行隊保有している。このF−1の主任務は、支援戦闘であるが併せて要撃戦闘任務も有しており、平時から要撃戦闘機と同様、対領空侵犯措置の任務につくとともに、有事には状況により要撃戦闘にも使用される。(F−4EJとF−15

(イ) 地対空誘導弾

重要地域の防空火力として、航空自衛隊は現有のナイキJの老朽化に伴い、その後継システムとしてペトリオットシステムヘの更新を進めている。また、陸上自衛隊は、ホークを保有しており、その能力の向上を図るため、逐次改善を進めている。(米国における実用試験中の地対空誘導弾(ペトリオット)

(ウ) 基地などの防空火器

航空自衛隊は、航空基地やレーダーサイトの防空のための装備として、短SAM、携帯SAM、対空機関砲の整備を進めている。また、海上自衛隊も基地の防空用として、昨年度から、これらの防空火器の整備を開始している。

なお、地上部隊や艦船の防空のための装備については、本節第2項、第3項で述べる。

2 着上陸侵攻対処のための作戦と能力

(1) 作戦の概要

着上陸侵攻は、侵略国が領土の占領などを目的として、通常、侵攻正面における航空・海上優勢を獲得した後、艦船や航空機により地上部隊を輸送し、これらの部隊を相手国の国土に上陸又は着陸させて侵略する侵攻形態である。わが国は、周りを海に囲まれた島国であるため、侵略国が地上部隊を使用する場合は、この着上陸侵攻作戦をとることが想定される。

着上陸侵攻作戦において、侵攻する地上部隊は、艦船や航空機による移動の間、その戦力発揮ができず、また、上陸や着陸の直後において、組織的戦力発揮が困難であるという弱点を有する。このため、着上陸侵攻対処のための作戦は、敵の侵攻に対し、このような弱点を捕らえ、努めて前方で対処し、これを早期に撃破することが必要である。

この着上陸侵攻対処のための作戦は、陸・海・空各自衛隊が協同して行う

 洋上における対処

 海岸地域における対処

 内陸における対処

に区分され、その概要は次のとおりである。

ア 洋上における対処

海上からの侵攻部隊に対し、自衛隊は、艦艇、支援戦闘機、地対艦誘導弾による攻撃などのさまざまな作戦を行い、できる限り洋上で撃破し、その侵攻企図を断念させ、又は侵攻兵力を減殺することに努める。

また,航空機を利用した侵攻部隊に対しては努めてこれを空中において撃破する。

イ 海岸地域における対処

上陸してくる敵に対し、海上自衛隊は、機雷敷設戦によりその行動を妨害・阻止する。また、陸上自衛隊は、海岸付近に配置した部隊の火力により敵を水際で阻止する。

さらに敵が上陸してきた場合には、師団を基幹とする主要部隊の戦力を集力して、敵を撃破し、わが国土から排除する。

また、空挺攻撃ヘリボン攻撃により着陸した敵に対しては、主として陸上自衛隊の火力と機動打撃力によりこれを撃破する。

ウ 内陸における対処

万一敵を早期に撃破できなかった場合には、主として陸上自衛隊が内陸部において持久作戦を行い、この間に、他の地域から部隊を結集して反撃し、侵略を排除する。

エ 各段階の作戦を通じての対処

これらの各段階の作戦を通じ、海上自衛隊は、水上艦艇や潜水艦などにより敵の増援や後方補給路の遮断に努め、航空自衛隊は、支援戦闘機部隊などにより航空阻止や陸上自衛隊及び海上自衛隊の支援を行う。また、陸・海・空各自衛隊は、作戦に必要な防空、情報収集及び補給品の輸送などを行う。(第3−2図 着上陸侵攻対処作戦の例

(2) 能力の概要

近年、諸外国では、地上部隊の戦車・火砲などの質的向上が著しい。また、部隊などを輸送する艦船や航空機は、搭載量が大きくなるなど、海上及び航空輸送能力も増大する傾向にある。さらに、これらの部隊などを護衛する艦艇にミサイルを装備するようになり、(えん)護する戦闘機の性能も向上している。このような各分野での能力向上により、侵攻部隊は、広範囲の正面にわたり迅速に上陸できるばかりでなく、空挺・ヘリボン部隊を使用して、奥深く、同時に侵攻できるようになってきた。

このため、自衛隊は、洋上から内陸部にわたり、より奥行きの深い防衛態勢が可能となるよう、以下に述べるような多層にわたる対処能力の向上を図っている。

なお、敵侵攻部隊の空中での撃破や全段階を通じて行う全般防空に必要な能力は、本節第1項で述べたとおりである。

ア 洋上における対処能力

海上自衛隊は、侵攻部隊を洋上において阻止するため、艦艇及び航空機の対水上戦能力などの整備を進めている。航空自衛隊は、主として航空阻止や陸上自衛隊及び海上自衛隊の支援を行うため、支援戦闘機F−1を保有しているが、このF−1の対艦船攻撃能力を向上させるため、空対艦誘導弾(ASM−1)や爆弾用誘導装置の整備を進めており、また、新空対艦誘導弾の開発を進めている。なお、F−1の後継機として、次期支援戦闘機(FS−X)の日米共同開発を進めている。

陸上自衛隊は、洋上・水際における打撃能力を向上させるため、昭和63年度から、その対処火力の骨幹となる88式地対艦誘導弾(SSM−1)の整備を進めている。

イ 海岸地域及び内陸における対処能力

この能力については、対地火力や装甲機動打撃力を重視し、主として師団の近代化によりその向上を図っている。特に師団の近代化についていては、各師団が防衛を担当する地域の特性を考慮して、それぞれの編成を多様にするなど効率的整備に努めている。(第3−3図 陸上自衛隊の主要装備の更新状況(平成2年度末)

(ア) 対地火力

野戦砲や迫撃砲などの火力は、敵部隊を遠距離かつ広範囲にわたって射撃し、より前方地域で撃破するための効果的な戦闘力であり、また、敵に接近して戦闘する部隊の行動を直接的に支援するものである。現在、野戦砲の近代化のため、203mm自走りゅう弾砲、155mmりゅう弾砲FH70の整備を進めている。(155mmりゅう弾砲FH70

また、戦車や装甲車などによる敵の攻撃を阻止するためには、戦車とともに対戦車火力が必要である。このため、79式対舟艇対戦車誘導弾発射装置、87式対戦車誘導弾発射装置、84mm無反動砲のほか、広い正面にわたり迅速に飛行し、上空から戦車などを攻撃できる対戦車ヘリコプターAH−1Sの整備を進めている。さらに、本年度から、新重対舟艇対戦車誘導弾の開発に着手することとしている。

(イ) 装甲機動打撃力

装甲機動打撃力の中心である戦車については、これまで、61式戦車(90mm砲搭載)から逐次74式戦車(105mm砲搭載)への更新を進めてきたが、更に近代化を図るため、本年度から120mm砲搭載の90式戦車の整備に着手することとしている。

また、戦車に随伴し、乗車したまま戦闘できる89式装甲戦闘車については、昨年度から逐次整備を進めている。

(ウ) 対空火力

敵の航空攻撃から陸上部隊を直接的に防護するためには、航空自衛隊を主体として行う全般防空のほか、陸上自衛隊が個別に行う防空が必要である。なお、陸上自衛隊の対空火力は、広い範囲にわたり対空防御網を構成でき、陸上戦闘の推移に応じ、迅速に対応できるものでなければならない。このため、中距離の対空火器としてホークの改善を行い、短距離の対空火器として短SAM、携帯SAM、87式自走高射機関砲の整備を進めているほか、新個人携帯SAMの開発を進めている。(87式自走高射機関砲

(エ) 機動力

限られた兵力で、侵攻する敵に対処する陸上自衛隊の担当正面は広範囲にわたる。一方、一つの作戦地域内においても、敵は自由意思をもって侵攻地点を選定できる。このため、陸上自衛隊は、この侵攻地点に対し迅速に戦闘力を集力する必要があり、装甲車、輸送用トラック、多用途ヘリコプターHU−1H及び輸送ヘリコプターCH−47Jなど、機動力の整備を進めている。

(オ) 障害の構成及び陣地の構築能力

海岸線付近における障害の構成については、陸上自衛隊の水際地雷の整備及び新水際地雷システムの開発を進めている。

また、陸上における障害の構成及び陣地の構築については、戦闘状況下でも使用できる装甲ドーザーの整備、坑道式陣地を構築するための坑道掘削装置の開発など、その近代化に努めている。

ウ 各段階の作戦を通じて必要な能力
(ア) 航空偵察能力

航空自衛隊は、航空偵察部隊として、RF−4E部隊を1個飛行隊保有しているが、その機数が不足していることから、現有要撃戦闘機F−4EJの一部を偵察機に転用することを計画しており、昨年度から、そのための試改修(1機)を行っている。

陸上自衛隊は、陸上における作戦などに必要な情報を収集する手段として、連絡偵察機や観測ヘリコプターなどを保有するほか、無人偵察機の整備を進めている。

(イ) 輸送能力

陸上自衛隊は、普通科連隊などの戦闘部隊や補給品などの空輸に当たるヘリコプター団を保有しているが、その能力向上を図るため、CH−47Jの整備を進めている。

海上自衛隊は、現在、輸送艦艇9隻を保有しているが、さらに、本年度、輸送艇(LCU)1隻の整備に着手することとしている。

航空自衛隊は、輸送機C−1及びC−130Hからなる3個輸送航空隊を保有しているほか、飛行場と各基地などとの間を結ぶ輸送能力の向上を図るため、CH−47Jの整備を進めている。

3 海上交通の安全確保のための作戦と能力

(1) 作戦の概要

資源、エネルギー、食糧など生存に必要な多くの重要物資の海外依存度が高いわが国にとって、海上交通の安全確保は、その生存基盤の確保や継戦能力及び米軍の来援基盤の確保のために必要である。

わが国に対する海上交通の妨害は、潜水艦、航空機、水上艦艇などを使用して、わが国周辺を航行する船舶を攻撃したり、わが国の港湾等に機雷を敷設することが考えられる。自衛隊は、以下に示すような洋上における哨戒護衛、港湾・海峡の防備などのための作戦を行うことにより敵の進出を阻止し、その兵力を漸減させ、敵の有効な作戦を阻むことなどの累積効果によって、わが国の海上交通の安全確保に当たる。

 周辺海域においては、対潜機部隊(固定翼対潜哨戒機)による広域哨戒や護衛艦部隊などによる船舶航行の要域の哨戒を行い、外洋に展開してわが船舶を攻撃しようとする敵艦艇を制圧する。また、必要に応じ、護衛艦部隊や対潜機部隊により船舶を護衛する。哨戒や護衛においては、海上自衛隊は、脅威の態様に応じ、対潜戦、対水上戦、防空戦を行う。

 沿岸海域においては、特に船舶の出入りの多い重要港湾付近などで掃海部隊、対潜機部隊(主として対潜ヘリコプター)、護衛艦部隊などにより港湾を防備し、船舶の安全の確保を図る。この場合、脅威の態様に応じ対潜戦、対機雷戦などを行う。

また、主要な海峡においては、これを通過しようとする敵艦艇に対し、護衛艦部隊、潜水艦部隊、対潜機部隊などにより対潜戦、対水上戦、機雷敷設戦などを行い−場合によっては、陸・空自衛隊と協同し−通峡阻止に努める。

 なお、洋上における防空については、護衛艦部隊が防空戦を行い、航行する船舶などを防護するほか、航空自衛隊がその能力の及ぶ範囲で防空作戦を行う。(第3−4図 海上作戦の例

(2) 能力の概要

ア 対潜戦能力

近年、諸外国の潜水艦は、在来型に比べ、より速く、長期間潜航することができる原子力推進型の割合が増加するとともに、捜索能力、通信能力などが向上した。また、潜対艦ミサイル(USM)装備の一般化、魚雷の高性能化に加え、機雷敷設能力の向上が図られている。さらに、最近では、新しい世代の原子力潜水艦に代表されるように、より深く、静かに潜航できるようになり、一段と高性能化の傾向にある。

洋上において、このような潜水艦を捜索・探知し撃沈するためには、単一の対潜兵器体系では困難であるため、水上艦艇、潜水艦、対潜航空機(固定翼、ヘリコプター)などのそれぞれの機能を有機的に組み合わせ、総合的な対潜戦を行う必要がある(第3−1表参照)。

このため、海上自衛隊は、次のような装備などの充実・近代化に努め、対潜能力の向上を図っている。

(ア) 対潜水上艦艇

対潜水上艦艇については、高性能潜水艦に対処するため、対潜ヘリコプター、総合情報処理システム、(えい)航式パッシブ・ソーナー(TASS)などの装備による護衛艦の近代化に努めている。(護衛艦

(イ) 対潜航空機

固定翼対潜哨戒機については、P−2Jの老朽化に伴い、高性能潜水艦に対処できるP−3Cの整備を進めている。

また、対潜ヘリコプターについては、HSS−2Bの老朽化に伴い、捜索能力、情報処理能力などに優れたSH−60Jの整備を進めている。(固定翼対潜哨戒機 P−3C

(ウ) 潜水艦

潜水艦については、雑音の低減と水中行動能力の向上による隠密性の向上、潜水艦用(えい)航式パッシブ・ソーナー(STASS)の装備による捜索能力の向上、コンピューターを使用した情報処理能力の向上などに努めている。(潜水艦

(エ) その他

近年の潜水艦の静粛化などに対応し、対潜戦に関する各種データの収集・分析などを行うため、昭和63年度から対潜戦(ASW)センターの整備を進めている。

また、音響情報収集能力の向上を図るため、本年度は、昨年度に引き続き2隻目の音響測定艦の整備に着手することとしている。さらに、高速・深深度潜航の高性能潜水艦を攻撃するために使用する対潜用短魚雷G−RX4の開発を進めている。

イ 防空戦能力

近年の航空機は、速度や航続距離などの飛行性能が向上するとともに、長射程の空対艦ミサイル(ASM)を装備し、水上艦艇が装備している艦対空ミサイル(SAM)の射程圏外から艦船を攻撃できるようになっている。また、潜水艦から発射される潜対艦ミサイル(USM)なども空からの脅威を複雑なものにしている。

これに対し、海上自衛隊は、奥行きの深い対空防御網を形成するため、電子戦装置、SAM、対空砲及び高性能20mm機関砲(CIWS)を装備し、これらを総合的かつ効率的に管制する指揮管制システムを装備した水上艦艇の整備を進めており、本年度は、昭和63年度に引き続き2隻目のイージス・システムを装備する護衛艦の整備に着手することとしている。

ウ 対水上戦能力

諸外国の水上艦艇は、長射程の艦対艦ミサイル(SSM)を装備する趨勢(すうせい)にあり、対水上戦の能力を向上させるためには、従来の艦砲だけでは不十分である。

このため、海上自衛隊は、SSMを装備する護衛艦の整備に努めている。また、水上艦艇自らのレーダーでは探知できない水平線より遠くの目標を捜索するため、レーダーや電波探知装置を有する対潜ヘリコプターの整備を進め、水上艦艇との連携による対水上戦能力の向上を図っている。

さらに、固定翼対潜哨戒機や潜水艦についてもASMやUSMの整備を逐次進めている。また、魚雷艇の老朽化に伴い、水上打撃能力の向上を図るため、本年度からSSMを装備したミサイル艇の整備に着手することとしている。

エ 機雷戦能力

機雷は、これを港湾や水路などに敷設することにより、比較的容易にその海域の海上交通を制約することができる。近年、機雷自体の高性能化に加えて、航空機、潜水艦などの敷設手段の性能向上により、機雷戦の重要性が増大してきた。

海上自衛隊は、対機雷戦を行う掃海艇部隊、掃海ヘリコプター部隊、水中処分隊などを保有しており、昭和63年度から、中深度に敷設された機雷を排除できる掃海艇の整備を進めている。また、昨年度から、深深度に敷設された機雷を排除できる掃海艦の整備を進めている。また、高感度機雷、複合機雷に対する掃海能力が高い掃海ヘリコプターMH−53Eの整備を進めている。なお、海上自衛隊の現有装備のうち、機雷敷設艦、掃海母艦、潜水艦、固定翼対潜哨戒機が機雷敷設能力を有している。

4 能力発揮のための態勢・機能

自衛隊は、主要作戦能力の発揮に必要な各種の態勢・機能の整備に努めている。

(1) 即応態勢・継戦能力・抗(たん)

ア 即応態勢

即応態勢とは、有事に自衛隊が、直ちにその能力を最大限に発揮できるように、部隊の任務・特性に応じて、あらかじめ十分に配意された態勢である。

即応態勢の維持は、侵略を受けた場合に、初期の段階での被害をできるだけ少なくし、事態の拡大を防止するために必要不可欠である。

即応態勢を確立するためには、必要な装備などを充足し、それらを直ちに使用可能な状態に維持しておくこと、必要な人員を充足し、部隊の練度や隊員の士気、健康状態などを良好に維持しておくこと、指揮運用面において、速やかに事態に応じ得る態勢を確立しておくことが重要である。

陸・海・空各自衛隊は、それぞれの特性に応じ、即応態勢の向上に努めており、その一部を例示すれば、次のとおりである。

陸上自衛隊では、戦車、火砲等の装備の可動率を高水準に維持するとともに、車両、通信機等の充足率を高める努力を行っている。また、即応態勢を維持するためには、人員の定数を常に充足しておくことは望ましいが、現下の厳しい財政事情や募集環境の下、本年度の陸上自衛隊の充足率は、前年度比2%減の約84.5%となっている。防衛庁としては、中・長期的視点に立って、人的資源の確保のために必要な各種の施策の検討に取り組んでいるところである。

海上自衛隊では、ミサイル、弾薬、実装化された魚雷を常に艦艇に搭載し、又は航空基地に配備し、機雷を実装化された状態で保有しておく必要がある。このため、実装調整場や弾薬庫などの整備を進めている。

航空自衛隊では、常に警戒待機を行っており、その際には要撃機にミサイルなどを搭載している。また、パイロットの練度を維持するための年間飛行時間の確保に努めている。

イ 継戦能力

継戦能力とは、有事の際、組織的な戦いを継続できる能力であり、特に、侵略を独力で排除することが困難な場合には、米軍の来援まで持久しなければならないわが国にとって極めて重要である。

継戦能力を維持するためには、予備自衛官の確保、弾薬など作戦用資材の備蓄、輸送能力の保持などが必要であり、また、次項に述べる抗(たん)性を確保することが不可欠である。

近代戦の特徴の一つとして、弾薬、魚雷、ミサイルなどを始めとする作戦用資材の使用量が膨大となる傾向がある。これらの不足は、自衛隊の能力発揮に致命的な影響を及ぼすものであるので、有事において緊急に取得することが困難な作戦用資材については、平時から備蓄しておく必要がある。しかし、現在、有事を想定したこれらの備蓄は、必ずしも十分でないため、これを確保するための努力を続けている。また、防衛力の機動的運用を図り、作戦用資材などの補給を行うための輸送能力の充実にも努めている。

ウ 抗(たん)

(たん)性の確保とは、基地や施設などが敵の攻撃を受けた場合でも、簡単にはその機能を停止することがないように対策を講じておくことである。抗(たん)性を確保するためには、被害をできるだけ少なくしたり(被害局限)、被害箇所などを速やかに回復させ(被害復旧)、あるいは代わりの器材などをあらかじめ整備しておく(代替機能の確保)などの方策がある。現在、自衛隊の基地などの抗(たん)性は必ずしも十分とはいえない状況にあり、これを向上させるため、被害局限のための基地などの防空火器、航空機用抗(えん)体、重要施設の地下化、被害復旧のための滑走路復旧マット、代替機能確保のための移動式レーダー、移動式無線機、通信手段の多様化などの整備を逐次進めている(第3−5図参照)。

(2) 警戒監視・情報収集機能

自衛隊は、本節第1項で述べたように、レーダーサイトのレーダーなど各種警戒監視・情報収集手段の近代化に努めている。

今日、主要各国においては各種の手段による情報収集が行われ、しかも、その能力は向上している。自衛隊においても、OTHレーダーについて、中期防衛力整備計画に従い、その有用性などについて検討するため、米国における同レーダーの開発状況など各種の調査を行っている(警戒監視・情報収集活動の状況については、第2節参照)。

(3) 指揮通信機能

指揮通信は、防衛庁長官を中心とする指揮中枢から、各級司令部、末端の各部隊などに至るまでの間を指揮通信システムにより有機的に結び、自衛隊の指揮統制を支援するものであり、いわば、防衛力運用の神経中枢ともいうべきものである。

現在、自衛隊の指揮通信システムは、指揮中枢と各自衛隊の主要司令部とを連接する中央指揮通信システムを始め、各自衛隊の戦術指揮通信システムとして、陸上自衛隊の野外通信システム、海上自衛隊の自衛艦隊指揮支援システム(SFシステム)、航空自衛隊の自動警戒管制組織(バッジシステム)などがある。また、これらを支援するとともに、一般の業務管理などを支援する通信システムとして、航空保安管制システム、後方データ通信システム、自営の電話網、野戦特科射撃指揮システムなどがある。

この自衛隊の指揮通信システムは、指揮官の意志決定を支援するための情報処理及び指揮命令、情報などを迅速・確実に伝達するなどの能力を有するだけでなく、通信情報内容などを秘匿するための保全性とその被害局限、被害復旧、代替機能の確保という抗(たん)性を兼ね備えたものであることが必要である。また、急速に高度化、多様化する電子通信技術の動向に対応した近代性を有するものであることが必要である。

こうした機能を確保することによって、自衛隊の保有する各種の防衛力が統合され、その能力を最大限に発揮することが可能となる。このため、現在、防衛通信網の近代化、通信衛星の利用などの各種の施策を進めている。

ア 防衛統合ディジタル通信網(IDDN)の整備

自衛隊の多数の指揮通信システムの共通伝送路として防衛マイクロ回線がある。現在、この回線は、太平洋側に沿った単一ルートで構成されているため、これが途絶した場合には、防衛マイクロ回線を伝送路としている多数の指揮通信システムの運用に支障が生じるなどの抗(たん)性などに欠けたものになっている。

このような問題を解決し、自衛隊の指揮通信能力を向上させるため、防衛庁では、昭和62年度から防衛統合ディジタル通信網(IDDN)の整備を行っている(第3−6図参照)。

イ 通信衛星の利用の推進

近年の通信衛星を利用した通信技術の進歩と普及は目覚ましく、現在、既に多くの通信衛星が広く利用されている。防衛庁では、国会決議の趣旨を踏まえながら、これまで各種の通信衛星を利用しているが、自衛隊の通信に必要な多様な通信手段を確保し、迅速・確実な通信を実施できるようにするため、引き続きその利用を進めていく必要があると考えている(資料14、15参照)。

このため、昨年度から、IDDN整備の一環として、通信衛星の利用により伝送路を立体化しているほか、洋上通信の信頼性の向上のため洋上に展開した艦艇相互間、艦艇と陸上基地との間の通信に通信衛星を利用している。

(4) 電子戦機能

電子戦は、敵の使用する電磁波を探知し、それを逆用し、又はその有効な使用を妨げるとともに、味方の電磁波の有効な利用を確保する活動である。すなわち、電子戦は、電磁波の利用技術とそれを妨げようとする技術の戦いでもある。また、電子戦の効果を高めるためには、相手の兵器や電子戦装置の性能・諸元などに関する情報が重要であることから、情報の戦いともいえる。

電磁波の使用範囲は、通信分野、レーダーなどの捜索機器、ミサイルの誘導システムなどあらゆる分野にわたっており、近年の電子技術の発達とあいまって、電子戦の優劣が直ちに現代戦の勝敗を決定するほどに重要な要因となってきた。

このため、自衛隊は、関連情報の蓄積、各種電子戦装置の研究開発、装備化などを進めている。

(5) 後方支援態勢

整備・補給・輸送・衛生などの後方支援は、作戦実施のための基盤であり、戦闘部隊がその機能を十分に発揮できる態勢を維持することが必要である。

現在、これら後方支援の分野における自衛隊の態勢は、必ずしも十分ではないため、戦車、艦艇、航空機などの整備のための器材や施設の充実、弾薬などの作戦用資材の補給・輸送体制の充実・向上、コンピューターを導入した業務の自動化などに努めている。

(6) 救難態勢

自衛隊の航空機や艦艇などが、不時着したり遭難した場合、速やかにその搭乗員や乗組員の捜索・救助に当たるため、自衛隊は、救難機、潜水艦救難母艦などを保有し、主な航空基地や艦艇基地に常に待機させるなどの救難態勢を維持している。このような態勢を維持することは、平時から、危険な任務に就いている隊員の士気を支えるとともに、災害派遣時などにおいても迅速な対処を可能にするため極めて重要である。なお、救難態勢の一層の向上を図るため、救難ヘリコプター(UH−60J)の整備を進めている。

 

(注) 早期警戒機:レーダーを搭載し、空中から侵攻機を警戒監視することを主任務とする航空機

(注) 要撃戦闘機:来襲する敵航空機を迎え撃ち、空対空ミサイルや機関砲によって撃墜することを主任務とする戦闘機

(注) 空挺攻撃:陸上部隊が航空部隊と統合して航空機によって空中を機動し、降下又は着陸して行う攻撃であり、通常、特定地域を確保してじ後の地上作戦のための態勢を確立するために行われる。

(注) ヘリボン攻撃:地上戦闘部隊がヘリコプターを使用して空中を機動し、着陸して行う攻撃であり、相手の弱点を急襲したり、速やかに地形上の要点を確保するなど、主力部隊の地上戦闘に寄与するために行われる。

(注) 航空阻止:主として支援戦闘機により、洋上においては艦船攻撃を行って侵攻兵力を撃破(洋上撃破)し、また、着上陸した部隊に対しては敵の後方連絡線、資材集積所、交通要路などに対する航空攻撃を行い、侵攻部隊の作戦遂行能力の減殺を図る作戦をいう。

(注) 哨戒:敵部隊の撃破又は行動の抑圧、情報の収集などのため、特定の区域を計画的に見回り、任務達成のために必要な行動をとることをいう。

(注) 護衛:艦船、航空機などに同行しつつ、敵の攻撃からこれらを防護することをいう。

(注) 在来型潜水艦:推進力に原子力以外の動力源を使用している潜水艦

(注) CIWS:艦艇に接近したミサイルを撃破する最終段階の防御システム。目標の捜索から発射までを自動処理する機能を持つ射撃指揮装置と機関砲とを組み合わせたもの。

(注) 機雷戦:機雷を敷設する機雷敷設戦と敷設された機雷を除去あるいは無能化する対機雷戦を合わせた作戦をいう。

(注) 複合機雷:船舶航行に伴う磁気・音響・水圧などの特性の変化のうち、2つ以上を検出した場合に作動する機雷

(注) 実装化:魚雷及び機雷に起爆装置、制御装置等の全部又は一部を取り付けて、直ちに使用できる状態にしておくこと

第2節 警戒監視・情報収集及び対領空侵犯措置

専守防衛を旨とするわが国にとって、領域とその周辺の海空域の警戒監視や防衛に必要な情報収集を平時から常に実施することは、極めて重要である。

また、自衛隊は、わが国領空に侵入した航空機又は侵入するおそれのある航空機に対し、即時適切な措置を講じ得る態勢を常に維持している。

本節では、これらの活動状況などについて説明する。

1 警戒監視・情報収集

自衛隊は、わが国の領域とその周辺の海空域の警戒監視や防衛に必要な情報収集を常に実施している。

航空自衛隊は、全国28か所のレーダーサイトと早期警戒機E−2Cによって、わが国とその周辺上空を飛行する航空機を常に監視するほか、必要な情報収集を行っている。

陸上及び海上自衛隊は、主要な海峡を通過する艦船などに対し、陸上の沿岸監視隊、警備所から警戒監視を行っている。また、海上自衛隊は、津軽、対馬、宗谷海峡に艦艇を配備している。わが国の周辺海域を行動する艦船については、固定翼対潜哨戒機により、日本海と北海道周辺の海域及び東シナ海を1日1回の割合で警戒監視を行うほか、必要に応じ艦艇や航空機による警戒監視・情報収集を行っている。

このほか、国外からわが国に飛来する軍事通信電波、電子兵器の発する電波などを収集し、整理分析して、わが国の防衛に必要な情報資料の作成に努めている。

さらに、在外公館を通じ国際軍事情勢などを把握することとしており、現在、30の在外公館に防衛駐在官が置かれている。(ソ連艦艇と監視行動中の海上自衛隊機(P−2J)

2 対領空侵犯措置

航空自衛隊は、レーダーサイトなどによる対空警戒監視により、わが国の領空を侵犯するおそれのある航空機を発見した場合には、地上に待機中の航空機を緊急発進(スクランブル)させている。その際、航空自衛隊は、領空侵犯しないよう警告したり、領空侵犯であることを確認したときは、その航空機を領空外に退去させたり、最寄りの飛行場へ着陸させるための必要な措置をとることとしている。このため、全国7か所の航空基地に航空機とパイロットなどを常に地上待機させている。

これらは、自衛隊法第84条に規定された「領空侵犯に対する措置」に基づき実施しているものである。なお、国際法上、国家はその領域の上空において、完全かつ排他的な主権を有するとされており、国際法規又は航空法その他の法令の規定に違反してわが国領空に侵入した航空機に対し、こうした措置をとることは広く認められている。

本任務の遂行は、昭和33年度開始以来、30年以上にわたっているが、この間のスクランブル回数と領空侵犯に至った回数の推移は、第3−7図のとおりである。過去5年間の平均スクランブル回数は約850回であり、昨年度は812回であった。(ソ連軍用機とスクランブルにより領空侵犯に備えるF−15

第3節 教育訓練

自衛隊が、わが国防衛という任務を有効に遂行するには、装備品などの整備充実を図るだけでなく、指揮官を始めとする一人一人の自衛官が高い資質と能力を持つとともに、部隊としても高い練度を有する必要がある。

部隊の練度の維持向上は、部隊の戦闘能力を高め、即応態勢を充実させ、堅固な防衛体制を築くものであり、自衛隊が日米安全保障体制とあいまって侵略を未然に防止する役割を果たす基礎となるものである。

このような考えから、自衛隊では、さまざまな制約の中、平素から教育訓練を実施し、より精強な自衛官・部隊の育成に努めている。

1 自衛官の教育

自衛隊では、自衛官の教育に当たり、次の事項を重視している。

 使命感の育成

 装備の近代化に対応する知識と技能の修得

 基礎的体力の練成

 統率力ある幹部の養成

このような考え方に基づき、自衛官に対して階級などに応じた体系的な教育を行っている(資料17参照)。(自衛官の教育風景

このほか、防衛大学校においては、将来のわが国の防衛を担うにふさわしい幹部自衛官の養成を目的とした教育を、また、防衛医科大学校においては、人格、識見ともに優れた有能な総合臨床医である幹部自衛官の養成を目的とした教育を行っている。

2 部隊の練成

(1) 陸上自衛隊

陸上自衛隊では、部隊における訓練を各個訓練と部隊訓練に分けている。このうち、各個訓練では、陸上自衛官として必要な精神面を充実させるとともに、射撃、格闘技、スキーなど共通して必要な技能や、各職種の任務遂行に必要な知識、技能などを修得させている。また、部隊訓練では、普通科、機甲科、特科などの各職種ごとの部隊の行動を訓練するとともに、他の職種部隊との協同による組織的な戦闘力の発揮にも留意している。なお、部隊訓練では、特に、中隊、戦闘団などの訓練を充実し、練度の一層の向上を図っている。また、これらの訓練では、実戦に近い訓練環境の下で、各種の訓練装置などを用いて訓練成果を客観的に評価しつつ、繰り返し実施することに努めている。

なお、戦闘団や師団などの大規模な部隊の演習では、実際に部隊を行動させる実動演習のほか、指揮機関だけを対象とする指揮所演習(CPX)も行っている。(訓練中の戦車部隊

(2) 海上自衛隊

海上自衛隊では、部隊における訓練を周期訓練方式により行っている。これは、要員の交替や艦艇の検査・修理の時期を見込んだ一定期間を周期とし、これを数期に分け、段階的に練度を向上させるものである。

訓練周期の初期には、個人技能の向上とチームワーク作りを主眼とし、艦艇部隊では艦載機器の基本的な操作要領などを、航空部隊では目標の捜索・識別要領などを訓練する。以後、周期が進むにつれ、応用的な訓練に移行し、訓練に参加する部隊の規模を拡大しつつ、対潜戦、防空戦などにおける艦艇相互の連携や艦艇と航空機の協同要領などを訓練する。

また、毎年秋には、多数の艦艇、航空機が参加する海上自衛隊演習を行い、各部隊の連携要領などについて総合的な訓練を行っている。

なお、幹部候補生学校を卒業した初級幹部のうち防衛大学校や一般大学の出身者などを対象に、海上実習の一環として遠洋練習航海を行っており、これは、参加者の国際的視野の養成や国際親善にも役立っている。(遠洋練習航海の出港風景

(3) 航空自衛隊

航空自衛隊では、領空侵犯に対処する態勢を維持しながら有事に即応できる部隊を練成するため、自衛官個々の練度の向上とともに組織としての任務遂行能力の向上を目的として部隊における訓練を行っている。

戦闘機部隊におけるパイロットの訓練では、教育課程で習得した基本的な操縦法などを基礎として、要撃戦闘、対戦闘機戦闘、空対空射撃、空対地射爆撃などの訓練を段階的に実施している。また、航空警戒管制部隊では侵入機の発見・識別、最適な要撃手段の選定、要撃機の誘導などの訓練を、地対空誘導弾部隊では誘導弾の組み立て、整備、射撃などの訓練を行っている。

さらに、組織としての総合力を向上させるため、戦闘機部隊、航空警戒管制部隊、地対空誘導弾部隊の間の連携要領についての訓練も行っており、毎年秋には、航空輸送部隊や航空救難部隊なども含めた航空自衛隊のほとんどが参加する総合的な演習を行っている。(訓練中のF−1

3 統合訓練

わが国の防衛に当たっては、陸・海・空各自衛隊の防衛力を総合的に発揮する必要があるため、自衛隊では、従来から統合訓練の充実に努めている。

統合訓練は、統合演習、作戦別訓練、機能別訓練に区分される。このうち、統合演習は、統合幕僚会議が計画と実施を担当するものであり、昭和36年度以降これまでに15回(米軍との共同統合訓練を除く。)行っている。

また、陸・海・空各自衛隊でも、適宜協同して空地作戦、海空作戦などの作戦別訓練や、通信機能の統合運用についての機能別訓練を行っている。

4 教育訓練の制約と対応

自衛隊が教育訓練を行うに当たっては、さまざまな制約がある。このため、防衛庁は、国民の生活環境保全のための各種の施策を実施するとともに、訓練施設の効率的な利用や教材の整備などにより、教育訓練の目的達成に努めている。

(1) 陸上自衛隊

演習場や射場は、数が少なく地域的にも偏在している上、広さも十分でないため、大部隊の演習、射程の長い火砲・ミサイルの射撃訓練などを十分に行うことができない状況にある。しかも、これらの制約は、装備の近代化に伴い大きくなる傾向にある。また、演習場や射場の周辺地域の都市化現象に伴う制約も年々増大している。

このため、国内では行うことのできないホーク部隊の実弾射撃訓練を米国において行っている。また、師団レベルの実動演習では、一部の部隊を使用するにとどめたり、他の方面区の演習場に移動して訓練を行うなど、限られた国内の演習場を最大限に活用した訓練を行っている。このほか、演習場の改善などにも努めている。

(2) 海上自衛隊

訓練に使用する海域は、漁業などの関係から使用できる時期や場所に制約がある。特に、掃海訓練、潜水艦救難訓練などに必要な比較的浅い海域は、一般船舶の航行や漁船の操業などと競合するため、場所はむつ湾や周防灘の一部などに限られ、また、使用期間も限られている。このため、短期間により多くの部隊が訓練成果をあげられるように計画的・効率的な訓練に努めている。

また、航空部隊については、硫黄島での訓練支援態勢を整備し、同島における移動訓練の充実を図っている。

(3) 航空自衛隊

現在24か所ある訓練空域は、航空機の安全な飛行を確保するため、航空路との競合を避け、主に洋上に設定されている。このため、基地によっては、訓練空域への往復に長時間を費やし、実質的な訓練時間が十分にとれない状況にある。また、空域の広さが十分でないため、一部の訓練では航空機の性能・特性を十分に発揮できないこともある。さらに、飛行場の運用に当たっては、航空機の騒音が飛行場周辺地域の生活環境に及ぼす影響を考慮し、早朝や夜間の飛行訓練を制約するなど、種々の規制を行わざるを得ない状況になっている。

このため、訓練空域の状況を改善するための努力を続けるとともに、必要に応じて他の基地に移動して訓練するなどの工夫を行っており、特に、硫黄島の訓練空域では、逐次各部隊から航空機を派遣し、騒音などの関係で本土では十分に実施できない訓練などを中心に集中的な訓練を行っている。

また、ナイキ部隊では米国において実弾射撃訓練を行っており、ペトリオット部隊でも本年度から同様の訓練を開始することとしている。

このほか、昨年度から、C−130H輸送機2機を米国に派遣し、国内では騒音などの問題で十分に実施できない戦術空輸訓練を行うとともに、米空軍戦術空輸競技会に参加し、練度の向上を図っている。

5 安全管理

自衛隊が、有事の際に実力をもってわが国を防衛する任務を有する以上、その訓練や行動に危険が伴うことは避けることができない。しかし、それでも国民に被害を与えたり、隊員の生命や国有財産を失うことにつながる各種の事故は絶対に避けなければならない。

このような考えから、防衛庁・自衛隊では、安全管理に常に細心の注意を払っており、海難防止・救難装備や航空保安無線施設を整備するなど、海上安全や航空安全を確保するための施策の推進に努めている。

 

(注) 普通科、機甲科、特科:普通科部隊は小銃・迫撃砲・対戦車火器等を、機甲科部隊は戦車等を、特科部隊は野戦砲又は対空ミサイル等をそれぞれ主要装備とする部隊

(注) 戦闘団:普通科連隊(又は戦車連隊等)を基幹として、それに戦車(又は普通科)部隊、対戦車、特科、施設などの部隊を配属し、総合した戦力を発揮できるように編成した部隊

 

第4節 研究開発

1 研究開発の意義

最近の科学技術の進展に伴う装備の高性能化や複雑化などの質的変化は著しく、軍事戦略や戦術に大きな変革をもたらすに至っている。そのため、防衛上必要とする装備にかかわる技術的水準を将来にわたり維持向上させることは重要なものとなっており、諸外国では、先端技術を応用した装備の研究開発、近代化を進めている。

わが国としても、防衛力の整備に当たっては、諸外国の技術的水準の動向に対応できるように質的な充実向上に配意する必要があり、このためには、研究開発態勢の充実に努めることが重要である。

また、装備の研究開発には長い年月を要することから、継続的・計画的に実施する必要がある。

装備品の整備に当たっては、費用対効果などの総合的検討が前提になることはいうまでもないが、わが国が防衛上必要とする装備を自ら研究開発し生産することは、わが国の国土や国情に適した装備を持つことができる、装備の導入後も技術の進歩に即した所要の改善が可能である、長期にわたる装備の維持、補給が容易である、さらに、防衛生産基盤や技術力の維持、育成を図ることができるといった長所がある。

2 研究開発の方向

わが国は、先端技術の研究開発を独自に進めることのできる優れた工業力を有しているが、先端技術、特に汎用の先端技術の装備に占める役割が増大している現在、こうした優れた技術力は、装備の研究開発を進める上で、力強い基盤となっている。このため、防衛庁は、研究開発に当たっては、セラミックスや複合材などの新素材やマイクロエレクトロニクスなどの先端技術分野での優れた民間技術力を研究開発の基盤とし、特に基礎的な研究面においては、民間に大きく依存し、その積極的な活用を図ることとしている。そして、これら民間の技術力を将来の先進的な装備に適合できるものにするための技術研究を行うとともに、これらの研究成果をシステムとしてまとめ上げ、わが国独自の運用上の要求を満たすことができる装備の開発を行うことにより、諸外国の技術水準に対応できる優れた装備の効率的な整備を図ることとしている。

また、日米の優れた技術を結集して共同研究開発を行うことは、効果的に研究開発を行うことができるばかりでなく、日米間の防衛協力関係を進展させることができるという観点からも重要であると考えており、研究開発を進める上でその進展に配意している。

3 研究開発の取組み

防衛庁としては、以上のような認識の下、技術研究開発の推進に努めてきたが、研究開発費が防衛関係費に占める割合は、各国の研究開発費の算定方法が必ずしも同一でなく、一概には比較できないものの、西側主要国に比べかなり少ないものである。このため、防衛庁では、中期防衛力整備計画の下、研究開発のための経費を逐次増加させてきており、同計画の最終年度に当たる平成2年度予算では、技術研究本部予算の防衛関係費に占める割合は2.5%となっている。

なお、最近の主な研究開発の事例は、以下のとおりである。(第3−8図 防衛関係費に占める技術研究本部予算の割合の推移

(1) 次期支援戦闘機(FS−X)

FS−Xは、現有の支援戦闘機(F−1)の後継機として、わが国の運用構想、地理的特性等に適合するよう、日米の優れた技術を結集し、F−16を改造・開発するものである。

主な特徴は、CCV技術(運動能力向上技術)、一体成形複合材技術、ステルス技術、アクティブ・フェーズド・アレイ・レーダー技術といった先進技術により、優れた飛行性能や火器管制能力などを有することであり、昭和63年度から開発に着手している。

(2) 新重対舟艇対戦車誘導弾(XATM−4)

XATM−4は、地上戦闘において戦車などを遠距離から撃破するとともに、対上陸戦闘において上陸前の小型上陸用舟艇を撃破するものである。

主な特徴は、光ファイバーを使用した赤外線画像誘導技術により、物陰の目標に対処できる能力や、複数の目標に対処できる能力などを有することであり、本年度から開発に着手することとしている。(第3−9図 新重対舟艇対戦車誘導弾(XATM−4)の概要

(3) 艦載用新射撃指揮装置(FCS−3)

FCS−3は、護衛艦に装備し、個々の艦艇の防空システムとして、電子妨害下における同時・異方向・多数攻撃に対処するものである。

主な特徴は、アクティブ・フェーズド・アレイ・レーダーを使用して複数のミサイルを同時に管制できる能力などを有することであり、本年度から開発に着手することとしている。

 

(注) 技術研究本部:陸・海・空各自衛隊の装備に関する研究開発を行う防衛庁の機関

(注) アクティブ・フェーズド・アレイ・レーダー技術:多数の放射素子(一つ一つが小さなレーダーアンテナ)から放射されるレーダービームを、アンテナ面を動かすことなく、コンピューターにより、高速かつ任意の方向に変えることのできる新しいレーダー技術であり、多目標同時追尾能力の強化などが図られる。

第5節 自衛官の生活と処遇

組織の基盤は「人」である。装備品がいかに進歩・近代化してもこれらを運用するのは自衛官であり、組織の運営なども結局は自衛官一人一人の力量にかかっている。

わが国の防衛という崇高な使命を与えられた自衛官は、有事の際、身の危険を顧みず、与えられた責務を完遂しなければならない。そのため、自衛官は、平素からその使命を自覚し、与えられた責任を遂行するとともに、厳正な規律を守り、強固な団結心を養うことが要求されている。

主として、このような自衛官によって構成されている自衛隊が、将来とも優れた資質を備えた人材を確保していくことは、わが国防衛上極めて重要である。そのためには、まず何よりも日々の職務が、自衛官の使命を自覚させるようなやりがいのあるものであり、自衛隊が魅力ある職場でなければならない。そうして、一人一人の自衛官がその任務に誇りを持ち、安心してそれぞれの職務に精励できるようにする必要がある。

このため、防衛庁では、従来から自衛官の処遇の改善に努めており、本節においては、これら自衛官の募集・任用、生活と処遇などの現状について紹介する。

1 募集・任用

(1) 募集

わが国では、自衛官の任用に当たっては、すべて本人の自由意思に基づくという志願制度の下で、前途有為な青少年に対し、(2)「任用」で述べるような多様な形で広く門戸を開いている。

防衛庁では、この志願制度の下で、自衛官の外に防衛大学校学生などを加えると年間約2万5千人(昨年度)という多数の者を採用している。この採用数の約80%強を占める男子の任期制の2等陸・海・空士(2士男子)の募集は毎年度厳しい状況にある。その理由としては、2士男子の募集人員数そのものが膨大であること、任期制が一般になじみにくいことなどが考えられる。

さらに、平成元年度においては、景気の拡大に伴う労働需給の(ひつ)迫等の影響もあり、自衛官の募集は例年にも増して困難な状況で推移した。

また、長期的にみても、2士男子の応募適齢人口(18歳以上27歳未満)は、平成5年度の約900万人をピークに逐次減少し、特に18歳男子についてみれば、平成3年度の約100万人が平成15年度には約70万人となる見込みであること、地元就職志向が強まっていることなどから、2士男子自衛官の募集環境は今後一段と厳しさを増すことが予想される。

このような状況の中で、現在、全国50か所の自衛隊地方連絡部が、都道府県知事、市町村長、教育委員会、学校、民間の募集相談員などの協力を得ながら募集業務を行っている。これまで、自衛隊側の努力や関係者の協力により所要数を確保してきたが、優れた資質を備えた自衛官の確保は、自衛隊に必要な精強性を維持するために欠くことができないものであるので、防衛庁としては、今後とも募集業務について一層の努力を傾注する必要があるものと考えている。

(2) 任用

自衛隊は、その任務の性格上、組織を常に精強な状態に維持する必要があるため、定年制(曹以上の大多数は50歳代の前半に定年となるいわゆる若年定年制)と任期制の両者を併用している。

その自衛官の任用においては、第3−10図「自衛官の任用制度」に示すとおり、幹部候補者として任用される場合(幹部候補生)、曹候補者として任用される場合(一般曹候補学生、曹候補士等)などのほか、任期制自衛官として2等陸・海・空士に任用される場合がある。いずれの場合でも、本人の努力次第で上位階級に昇任する道が開かれており、任期制自衛官が曹に昇任した場合は、定年制自衛官となることは言うまでもない。

本年度から導入される曹候補士の任用制度は、入隊時から曹候補者として定年まで勤務し得ることを保証し、士から曹にかけて一貫した管理を行うことにより、職業としての安定性という面での任期制の問題点を改善し、良質な人材を確保するとともに、人材の有効活用や教育投資効率の向上を図るものである。

婦人自衛官の任用は、看護職域については自衛隊発足当初から行われていたが、更に広い分野で女性の能力を生かすため、陸上自衛隊では昭和42年度から、海上・航空自衛隊では昭和49年度から一般婦人自衛官制度が発足した。防衛庁では、近年の女性のあらゆる分野への参加が促進されつつある一般社会の動向などを踏まえ、自衛隊の精強性に配慮しつつ婦人自衛官の職域拡大及び採用数の増加に努めており、現在では、婦人自衛官は、通信や会計だけでなく航空管制、航海(支援船勤務)、警戒管制などさまざまな職域で活躍している。

さらに、婦人自衛官の職域拡大等に伴い幹部自衛官についても女性が活躍できる職域が広がりつつあり、より多くの女性幹部を育成、確保していくことが必要となっていることから、現在、女子の受験が制限されている防衛大学校についても女子に門戸を開放することを、防衛庁としては、基本的に決定し、細部については、今後検討していくこととしている。(操船訓練中の海上婦人自衛官 航空管制業務に従事する航空婦人自衛官 VTR編集に従事する陸上自衛官

2 自衛官の生活と処遇

(1) 自衛官の生活

ア 入隊・部隊配属

自衛官は、まず、陸・海・空各自衛隊の教育隊や学校に入隊する。ここでは、「自衛官の心がまえ」(資料16参照)に基づく自衛官としての基本的な資質を養成するための教育や、体力の練成のほか、それぞれの自衛隊で必要な知識・技能の教育が行われる。

それぞれの教育課程を終えるまでに、各人の希望や適性などに応じて、その進むべき職種・職域が決定される。職種・職域には、陸上自衛隊においては普通科、特科、機甲科など、海上自衛隊においては水上艦艇、航空機、潜水艦など、航空自衛隊においてはパイロット、ナイキ(ペトリオット)、航空機整備などがある。入隊教育を終えた自衛官は、それぞれの決められた職務につくため、北は北海道から南は沖縄まで全国の部隊へ赴任することになる。

イ 営舎(艦艇)内生活

自衛官は、その任務の性格上いつでも職務に従事することのできる態勢になければならないとされている。このため、陸上において勤務する曹長以下の自衛官は営舎内に居住し、艦艇乗組員は艦艇を居住の場とすることが原則とされている。結婚によって親族等を扶養する場合など一定の要件に該当すると認められる自衛官については、基地などの外で居住することが認められてる。

営舎内での生活は、例えば陸上自衛隊では、通常1個班約7名を基準とした営内班編成をとっており、営内班長には曹の適任者が指名される。営内班長は、若い班員の指導を行うほか私的な悩みなどについても相談相手となっている。このように、営内班を単位とした団体生活は、自衛官に必要とされる規律を守る態度や団結心、協調性などを自然に身につけさせている。

(2) 自衛官の処遇

自衛官の勤務には、それぞれの任務に応じて、常時勤務態勢の維持、離島・遠隔地勤務、艦艇乗組・航空機搭乗、落下傘降下・不発弾処理などがあり、その勤務環境や態様は、平時においても一般の職場に比べて特殊な面がある。

こうした勤務につく自衛官に対して適正な処遇を与えることは、自衛官一人一人がその任務に誇りを持ち、安心して勤務に精励できる士気の高い自衛隊を維持する上で必要なだけでなく、将来とも、有能な人材を確保する上で不可欠の要素である。このため、防衛庁では次のような処遇の改善に努めている。

ア 給与

一般職の国家公務員と均衡がとれ、かつ、自衛官の勤務の特殊性を考慮した給与が支給されており、例示すれば次のとおりである。

 俸給については、勤務の特殊性を考慮した自衛官独自の俸給表が適用されている。

 艦艇乗組員、航空機搭乗員及び落下傘隊員には定率による手当が、不発弾処理など特殊勤務を行った場合には、その特殊性に応じた手当が定額により支給されている。

  また、扶養手当、通勤手当、期末手当等については、おおむね一般職の国家公務員と同様となっている。

 任期制自衛官については、その任用期間が極めて短いことなどから任期満了時に支給される退職手当は、通常の退職手当よりも割り増しになっている。

  これらの給与については、例年、人事院勧告に沿った改定を行うほか、自衛官独自の手当などについてもその改善に努めている。

イ 生活環境
(ア) 営舎内居住者の生活環境

営舎内居住を義務づけられている曹・士の自衛官や艦艇乗組員にとって、隊舎や艦艇は日常の生活の場でもある。一般国民の生活環境の向上・生活意識の変化の中で、これらの自衛官の士気を維持するとともに人材確保の上からも、その生活環境の整備・充実に努めることは重要なことである。

このような考えから、防衛庁では、従来から隊舎、食堂・厨房、浴場、体育館、プール、厚生センターなどを整備し、これらの自衛官が、明るく衛生的でくつろいだ雰囲気の日常生活ができるよう努めている。

近年、国民の生活水準の向上は著しく、若い自衛官の募集環境は、ますます厳しくなることが予想されることから、防衛庁では、今後ともこの面における特段の努力を続ける必要があると考えている。

また、営舎内生活における自衛官の雑務を軽減するため、食器洗浄作業などを民間に委託するほか、艦艇乗組魅力化施策として、狭い水上艦艇乗組員の居住空間を広げるための曹土用三段ベッドの二段化などを進めている。

(イ) 宿舎

営舎外で居住することが認められた自衛官が、家族とともに生活する場である宿舎は、量的にも不足し、また、古くて狭いものがある。このため、防衛庁では、中期防衛力整備計画期間中に老朽宿舎の建替えなどに配意し、約6,700戸の整備を行い大幅な改善を図った。近年、国民の居住環境の向上が著しいなかで、自衛隊が将来にわたって優秀な人材を集め、高い士気を維持していくためにも、防衛庁としては、今後とも、これら自衛官の居住環境の改善努力を続ける必要があると考えている。

(3) 健康管理・医療

任務の特性上、自衛官は、常に健康で高い水準の体力を維持する必要があるため、自衛官に対する適切な健康管理や医療は、自衛隊の行動能力を支える上で極めて重要である。

このため、自衛隊では、健康診断、健康指導、負傷や疾病の早期治療、体力練成など総合的な健康管理・医療施策の充実に努めている。

また、これらを実施する施設としては、自衛隊中央病院を含む16の自衛隊病院や防衛医科大学校病院のほか、駐屯地・艦艇・基地などに166の医務室が置かれているが、防衛庁としては、今後とも、これら医療施設やその設備の充実に努めることが重要であると考えている。

さらに、医官を確保するための施策の一環として防衛医科大学校を置いている。このほか、救急処置や健康管理等に関して衛生関係者に対する教育訓練や調査研究を行う衛生学校、潜水艦乗員・潜水員・航空機搭乗員など自衛官の特殊な勤務に対応し、調査研究・適性検査・医療・教育訓練などを行う潜水医学実験隊や航空医学実験隊を置いている。

3 若年定年制に対する施策

(1) 自衛官若年定年退職者給付金

若年定年制がとられている自衛官は、大部分の者が53歳以前に定年退職するが、この時期は子弟の養育等出費のかさむ時期であるため、ほとんどの者が再就職している。しかしながら、わが国の雇用慣行及び賃金体系の中では、再就職賃金は退職前の給与に比べかなり低いため、自衛官の退職後の生活を安定させるためには、何等かの対応策が不可欠となっている。

従来、自衛官の若年定年制から生ずるこのような問題へは、一般公務員と同じ共済年金制度の中で、自衛官に対しては55歳から年金を支給する特例等を設けることにより対応してきたところである。

しかしながら、掛け金を納める期間が短く受給期間が長いため、現在でも一般公務員よりかなり高くなっている自衛官の掛け金率は、今後、年金の受給者が増加するのに伴い、過重なものになると予測されていることなどの問題が生じていた。

この問題に対する対応策のあり方については、高度に専門的な判断を必要とすることから、部外の学識経験者の意見を聞きながら、若年定年制に起因する人事施策の問題として位置付けて検討を行ってきたところである。この検討の結果、若年定年制から生ずる問題について将来にわたって共済年金制度の中で対応策をとっていくことは適当でないので、共済年金制度を離れ、別途人事施策上の観点から特別の施策を行うことが適当である旨の結論を得た。

この特別の施策として、新たに自衛官若年定年退職者給付金制度を設けることとした。このために必要な「防衛庁職員給与法の一部を改正する法律案」は、去る6月衆・参両院において可決され、成立したところである。この制度は、若年定年等により退職した者に対し、若年定年と一般公務員の定年60歳との差1年につき、退職時本俸の6か月分に相当する金額を支給するとの考え方を基本として計算された一時金を、退職時と退職の翌々年の2回に分けて支給するものであり、本年10月以降に定年等により退職した者から適用することとしている。また、この制度の発足に当たっては、経過措置を設けており、平成7年までに制度を完成させることとしている。なお、本制度の新設に伴う経費として平成2年度予算においては、約13億5千万円を計上しているところである(第3−2表参照)。

(2) 定年延長

防衛庁では、自衛官若年定年退職者給付金制度の検討を契機に、若年定年対策の一環として、豊富な知識と経験を有する人材の有効活用という観点と自衛隊の精強性の確保という観点との調和を図りつつ、自衛官の定年年齢について検討を行ってきた。その結果、知的能力がより要求される将、将補の階級の自衛官の定年年齢を60歳に延長する、医師、歯科医師及び薬剤師である自衛官並びに音楽等の職務に携わる自衛官の定年年齢を段階的に60歳に延長する、装備の近代化などを踏まえ、1等陸・海・空曹、2等陸・海・空曹及び3等陸・海・空曹の階級の自衛官の定年年齢を53歳に延長することとしている(第3−3表参照)。

4 就職援護

自衛隊は、任期制及び若年定年制をとっていることから、自衛官の多くは任期満了あるいは定年退職後の生活基盤の確保などのために再就職が必要である。このうち、わが国の雇用慣行などから、中途採用に際して特に不利な扱いを受けやすい中高年齢の定年退職者についていえば、ここ数年間、各年度約5千人から6千人程度になるものと見込まれる。

このため、防衛庁では、任期満了や定年で退職する自衛官の再就職を円滑・有利に実施することを人事施策上の最重要事項の一つとして、従来から各種の就職援護施策を行っている。本年度は、就職援護態勢を強化するため、陸・海・空各幕僚監部に援護業務課を新設するほか、公的資格取得の機会を拡大するための通信教育を新たに制度化するなど、就職援護施策の充実を図ることとしている(第3−4表参照)。

また、退職する自衛官の再就職が円滑に行われるためには、職業紹介が適切に実施されることが必須であることから、財団法人自衛隊援護協会が職業安定法に基づく労働大臣の許可を得て、退職する自衛官に対して無料職業紹介事業を行っている。

これらの施策の結果、任期満了により退職する自衛官はもとより、定年退職する自衛官についても、その再就職が必ずしも容易でない状況下にあって、ほぼ全員が再就職をしている。なお、退職自衛官は、製造業及びサービス業を始めとする広範多岐にわたる分野において活躍しているが(資料24参照)、これら民間企業に再就職した退職自衛官は、全般的に責任感、勤勉性、気力、体力、規律などの面で優れていること、特に、定年退職者については、高い指導力を有していることなどから、総じて企業側から高く評価されている。防衛庁としては、引き続き援護教育の強化、再就職先の拡大などを図り、就職援護の充実に努めていくが、今後なお多くの成果を得るためには、自衛官特有の任期制、若年定年制に対する幅広い国民の理解と企業の積極的な協力が望まれる。

 

(注) 任期制:1任期2年又は3年を任用期間として、士である自衛官に任用する制度。継続任用(2年)の制度がある。

第2章 防衛力整備

1 中期防衛力整備計画

政府は、昭和60年9月、昭和61年度から5か年間を対象期間とし、「防衛計画の大綱」(弟2部第3章第1節参照)に定める防衛力の水準の達成を図ることを目標とする中期防衛力整備計画(資料25参照)を策定した。

(1) 計画の概要

本計画は、具体的事業の推進に当たり、次の点を重視している。

 要撃戦闘機、地対空誘導弾などの充実近代化による本土防空能力の向上に努めること。

 護衛艦、固定翼対潜哨戒機などの充実近代化によるわが国周辺の海域における海上交通の安全確保能力の向上に努めること。

 わが国の地理的特性を踏まえ、師団の近代化・編成の多様化、洋上・水際撃破能力などの強化による着上陸侵攻対処能力の向上に努めること。

 正面と後方の均衡のとれた質の高い防衛力の整備を図ること。特に、情報・偵察・指揮通信能力、継戦能力、即応態勢及び抗(たん)性の向上並びに技術研究開発の推進を重視するとともに、教育訓練体制などの充実による練度向上及び隊員の生活環境の改善に配意すること。

 防衛力の整備、運用の両面にわたる効率化、合理化の徹底を図ること。

(2) 所要経費

この計画の実施に必要な防衛関係費の総額の限度は、昭和60年度価格でおおむね18兆4千億円程度をめどとしている。また、各年度ごとの予算編成に際しては、一層の効率化、合理化に努め、極力経費を抑制するよう努力するとともに、そのときどきの経済財政事情などを勘案し国の他の諸施策との調和を図りつつ、これを決定することとしている。

2 平成2年度の防衛力整備

(1) 基本方針

中期防衛力整備計画が目指している有効で効率的な防衛力は、陸上装備、艦艇、航空機などの正面装備の整備のみならず、導入される装備品を効率的に運用するための後方支援態勢を整備することによって初めて形成されるものである。

このような観点から、平成2年度の防衛力整備においては・中期防衛力整備計画の最終年度として、同計画の総仕上げを図り、諸外国の技術的水準の動向に対応し得る質の高い防衛力を整備し、特に、指揮通信・情報機能の充実、練度の向上及び隊員施策を重視し、正面・後方の均衡及び統合運用態勢の充実に配意し、平成3年度以降の中期的な防衛力整備計画が現在検討されつつあることにも配意することを基本としている。

(2) 主要整備内容

ア 正面装備の充実・近代化

正面装備の整備計画は、第3−5表に示すとおりである。

(ア) 陸上防衛力

師団の近代化並びに対戦車、特科及び対海上火力、機動力などの向上を重視して装備を調達する。なお、本年度は、90式戦車、90式戦車回収車を新たに調達する。

(イ) 海上防衛力

対潜能力、防空能力、対機雷戦能力などの向上を重視して装備を調達する。なお、本年度は、水上打撃能力を向上させるため、ミサイル艇を新たに調達する。

(ウ) 航空防衛力

防空能力、空中輸送能力などの向上を重視して装備を調達する。なお、本年度は、飛行点検能力の向上を図るため、飛行点検機(U−125)を新たに調達する。

イ 継戦能力・即応態勢・抗(たん)性の向上

 継戦能力の向上を図るため、引き続き弾薬備蓄を進めるとともに、予備自衛官の員数増を図る。

 即応態勢の向上を図るため、引き続き魚雷、機雷の実装化及び弾薬庫の整備を進める。

 抗(たん)性の向上を図るため、引き続き基地防空用の短SAM、携帯SAM、対空機関砲を整備するほか、航空機用(えん)体、滑走路復旧マットなどの整備を進める。

ウ 指揮通信・情報機能の充実

 防衛通信の(ぜい)弱性の計画的解消と機能的に欠落している分野の早期解消を図るため、次の事業を行う。

a 防衛統合ディジタル通信網(IDDN)の整備、通信の秘匿化を進め、通信網の抗(たん)性などの向上を図る。

b 潜水艦用超長波(VLF)送信所、衛星通信機能の整備を行い、洋上通信の信頼性の向上を図る。

c 固定式3次元レーダー装置の整備を行い、航空警戒監視能力の向上を図る。

d 老朽通信機材の更新を進める。

 情報機能・周辺海空域の監視態勢の充実のため、監視用レーダー、対潜(ASW)センターの整備などを行う。また、電子戦能力向上のため、電波探知・妨害装置などを整備する。

エ 練度の向上

 陸上自衛隊の訓練水準の向上と海上自衛隊の護衛艦の年間航海時間数の向上を図るため、これらに必要な燃料を確保する。

 効率的な要員の練度向上を図るため、新たに90式戦車射撃訓練用シミュレーターを調達するほか、引き続き教育訓練用装備などを整備する。

 日米共同訓練を含む各種の訓練、演習を行う。

オ 隊員施策
(ア) 生活関連施設の充実

隊舎については、二段ベッドの解消のための増設、老朽隊舎の改修・建替え、部隊の新改編に伴う増設などを進める。

宿舎については、建替えによる老朽宿舎の解消及び増設を引き続き進めるとともに、居住環境の改善を図る。

その他、食堂・厨房、浴場、体育館、プール、厚生センターの整備を進める。

(イ) 処遇改善

艦艇乗組魅力化施策として、新造水上艦艇の二段ベッド化及び船舶用衛星放送テレビ受信装置の整備を進める。

また、食器洗浄作業などの部外委託を拡大し雑務軽減を進める。

(ウ) 定年に係る施策

自衛官の若年定年対策として、自衛官若年定年退職者給付金制度を新設する。また、現有人員の有効活用を図る観点から、一部の自衛官の定年を延長する。

(エ) 援護施策

陸・海・空各幕僚監部に援護業務課を新設するほか、通信教育の導入、就職援護教育における情報処理機器関係教育の拡充を図る。

カ 研究開発の充実

防衛力の質的水準の維持・向上に資するため、引き続き次期支援戦闘機(FS−X)の共同開発を進める。

また、新たに新重対舟艇対戦車誘導弾(XATM−4)、艦載用新射撃指揮装置(FCS−3)などの開発に着手する。

キ 組織改編

 戦車の一部の北海道への転用配備に伴う独立戦車中隊の新編及び師団の近代化に伴う改編を行う。

 装備品の取得などに伴い所要の部隊の新改編などを行う。

3 平成2年度の防衛関係費

防衛関係費は、自衛隊の維持運営に必要な経費の外に、防衛施設周辺の生活環境の整備などの事業のための経費や安全保障会議の運営などに必要な経費を含んでいる。本年度の防衛関係費については、中期防衛力整備計画の最終年度として、同計画の総仕上げを図るため、個々の事業を精査し、経費について、極力抑制して積み上げた結果として、総額4兆1,593億円を計上している。これは、本年度一般会計歳出予算の6.3%を占め、また、政府見通しによるGNPに対する比率は0.997%となっている。

なお、前年度との比較については第3−6表のとおりである。(第3−11図 一般会計歳出予算中の割合)(第3−12図 一般会計歳出主要経費の推移

(1) 防衛関係費の内訳

防衛関係費は、「機関別内訳」、「使途別内訳」、「経費別内訳」などに分類することができる。

ア 機関別内訳

本年度の防衛関係費を、陸・海・空各自衛隊、防衛施設庁などの機関別に分類すると、第3−13図のとおりである。

イ 使途別内訳

防衛関係費を使途別にみると、隊員の給与や糧食費となり、隊員を勤務させるための義務的な経費である「人件・糧食費」、隊員の生活の維持や教育訓練、装備品の効果的な運用などのために必要な経費である「維持費等」、戦車、艦船、航空機などを購入するための経費である「装備品等購入費」、飛行場、隊舎などを整備するための経費である「施設整備費」、装備品などを研究開発するための経費である「研究開発費」、防衛施設周辺地域の生活環境の整備や在日米軍の駐留の円滑化などの経費である「基地対策経費」などに分類される。

本年度の防衛関係費を使途別にみると第3−14図のとおりである。

ウ 経費別内訳

防衛関係費の経費別内訳は、「人件・糧食費」、既に国会の議決を経ている国庫債務負担行為及び継続費の後年度支払分に係る「歳出化経費」、当年度における新規装備品調達などのために予算が計上され、当年度に支払われる「一般物件費」に分類される。本年度の防衛関係費を経費別にみると、第3−15図のとおりである。

主要装備品の製造には、長い年月を要するため(例えば、戦闘機・護衛艦で4〜5年、戦車・自走砲・装甲車で2〜3年)、単年度の予算では調達できないものが多い。このため、これらの装備品などの調達に当たっては、財政法に定められている国庫債務負担行為及び継続費の方式を採用している。これらの方式によれば、最長5年間にわたる製造などの契約をするための予算措置が行われることになり、当年度予算で支払われる前金部分以外の経費は、いわゆる後年度負担となり、この後年度負担が将来歳出される年度において、「歳出化経費」として予算計上される。

(2) 各国との比較

各国の防衛費は、その内訳が明らかでない場合が多く、また、その定義も各国の歴史や制度などの諸事情により異なり、統一されたものではない。さらに、各国の置かれた政治的、経済的諸条件、社会的背景なども異なるので、単に各国が自国の防衛費として公表している計数のみをもって、防衛費の国際比較を行うことには、おのずから限度がある。

これについては、軍事問題を分析、研究している諸機関などが、独自の手法で国際的な比較を行っている例があり、その著名なものとして、英国の国際戦略研究所の「ミリタリー・バランス」がある。同書の最新版(1989〜1990)によれば、1988年度時点におけるわが国の防衛費は、米ソ両国並びに英国、フランス及び西独に次いで、世界第6位となっているが、防衛費の対GNP比、国民1人当たりの防衛費及び防衛費の対政府支出比のいずれにおいても、欧米諸国に比べてかなり低いことが分かる(資料31参照)。

なお、NATO定義の防衛費で比較すると、わが国の防衛費は、既に米ソ両国に次いで、英国、フランス及び西独を超える水準に達しているのではないかとの指摘がある。いわゆるNATO定義防衛費は、NATO加盟国が共通の基準に基づいて、各国の防衛努力の状況等について把握するためのものであるが、その範囲の具体的基準は公表されておらず、わが国の防衛費をこの基準によって算定することは困難である。

また、各国の防衛費を比較する場合、各国の通貨で表示された防衛費をドル表示に換算することが一般的である。近年のドル相場の推移をみると、円のドルに対する評価は、英・仏・西独の三国のそれよりもかなり大きな伸びを示しているため、ドル換算したわが国の防衛費は、より大きく表示される傾向にあった。例えば、第3−7表に示すとおり、昭和60年度以降の5年間で、わが国の防衛費は、円表示では約1.3倍となったのに対し、ドル表示では約2.3倍になっている。また、平成2年度の防衛費の伸率は、円表示では6.1%増となっているものの、円安のため、ドル表示では4%減となっている。これからみても、単純なドル換算の金額比較は、実態を正確に反映することなく、その評価を大きく変動させ得るため、各国の防衛費を比較する際には十分に注意を払う必要がある。なお、為替レートの影響を受けない自国通貨による近年の主要国の防衛費の伸率は、第3−8表に示すとおりである。

わが国の防衛費が、諸外国との比較でかなり高い水準にあるとの指摘は、わが国が必要以上に大きな防衛力を整備しつつあるのではないかとの懸念を背景にしたものと考えられる。しかし、各国における諸事情が異なるため、防衛費の規模がそのまま、それにより整備、保有している防衛力の規模の比較に直接的に結びつくものではない。ちなみに、防衛力(兵力)の規模について、わが国と諸外国とを比較してみると第3−16図のとおりであり、わが国は、英国、フランス及び西独といった諸国に匹敵するような水準とはなっていない(資料3参照)。

4 中期防衛力整備計画の達成状況

昭和61年度から平成2年度までの防衛力整備により、その完成時において、中期防衛力整備計画の目標をおおむね達成できるものと考えられる。

中期防衛力整備計画に計上した主要事業などの達成状況は、第3−17図のとおりであり、各種装備の充実・近代化により、中期防衛力整備計画の完成時において、本土防空能力、着上陸侵攻対処能力及び海上交通の安全確保能力の向上が図られるとともに、「防衛計画の大綱」に定める防衛力の水準をおおむね達成することになる。中期防衛力整備計画により向上する能力は、第3−9表から第3−11表のとおりである。(第3−10表 着上陸侵攻対処能力の向上

なお、第3−17図に掲げる主要装備品のうち、戦車、護衛艦、地対空誘導弾などが100%の達成率となっているほか、航空機についても、計画策定時以降の実績減耗機数が見込みを下回った結果、整備の必要性がなくなったことなどを考慮すれば、ほぼ目標どおりの整備規模が確保されている。

ただし、地対艦誘導弾(SSM−1)については、他の装備品に比較し達成率が低くなっている(54基に対し38基)が、これは、整備の平準化を図ったことなどによるものである。

5 平成3年度以降の防衛力整備について

平成3年度以降の防衛力整備について、政府は、昭和63年12月22日、安全保障会議を開催し、同会議において、国際情勢や諸外国の技術的水準の動向等を考慮すれば、引き続き現行のような中期的な計画を政府として策定する必要があるということで意見の一致をみ、逐次検討を行っていくこととした。これは、中期防衛力整備計画終了後においても防衛力整備というものが継続的かつ計画的に進められるべきものであるという観点からみても、また、適切な文民統制の充実という観点からみても、必要であるとの認識に立ったものである。

このようなことから、安全保障会議においては、本年6月、まず、国際情勢及び国際軍事情勢などの動向について自由な意見交換を行ったのをはじめ活発な審議を行っているところである。

いずれにしても、平成3年度以降の防衛力整備計画の策定に際しては、昭和62年1月、閣議決定した「今後の防衛力整備について」(資料26参照)にもあるとおり、憲法及び専守防衛などの基本方針の下で、国際情勢及び経済財政事情等を勘案しつつ、昭和51年の閣議決定の節度ある防衛力整備を行うという精神を尊重すべきことは当然である。

 

(注) 飛行点検機:航空保安無線施設及び航空管制施設から発射される電波が基準の精度・強度を保持しているかどうか、また、飛行場に設定されている計器出発・進入方式が適切かどうかなどを点検するため各種の計測用機器を搭載した航空機

(注) 完成時:調達した装備品を取得できる時期のこと。戦闘機や護衛艦などは、その製造に4〜5年を要するため、例えば、平成2年度に調達しても、これらの装備品を取得するのは平成5〜6年度となり、この取得時点をもって完成時という。

第3章 日米防衛協力

第1節 日米両国政府の関係者による協議

日米両国間の安全保障上の意見の交換は、通常の外交ルートによるもののほか、内閣総理大臣と米国大統領との日米首脳会談や防衛庁長官と米国国防長官との日米防衛首脳会談を始め、各レベルにおいて緊密に行われている(資料32参照)。

1 日米首脳会談

昨年9月及び本年3月、米国を訪問した海部首相は、ブッシュ大統領と会談し、経済・貿易や安全保障問題などについて意見を交換した。これらの会談において両国首脳は、日米安全保障体制の上に立った日米協力関係が、わが国を含むアジア・太平洋地域の平和と安定にとって不可欠であるとの点で認識が一致し、両国関係の基盤である日米安全保障体制を堅持していくことを確認した。また、海部首相は、米国が太平洋国家として、この地域で他国により代替することのできない役割を果たし続けていることを評価し、在日米軍支援を含め日米安全保障体制の円滑な運用を引き続き確保するために必要な協力を行っていくとの決意をブッシュ大統領に伝えた。

2 日米防衛首脳会談

本年2月、チェイニー米国国防長官がわが国を訪問し、海部首相及び松本防衛庁長官等と会談を行った。松本防衛庁長官とチェイニー国防長官とが行った日米防衛首脳会談の概要は、次のとおりである。

 国際情勢については、日米双方が、今後の見通しが不透明のため西側諸国のより一層の結束と相互協力に努力が必要であるという基本的な共通認識を有していることが確認された。

 米軍再編問題については、米側から、米国の財政事情等もあり、東アジアの米国の軍事プレゼンスにつき前方展開戦略を堅持しつつも、再編・合理化があり得るなどの説明があった。これに対し、日本側から、米国が現在困難な財政状況にありながらも、東アジアに前方展開戦力を維持する考え方に変化がないことは、わが国を含むこの地域の平和と安全に寄与するものと評価している旨及び米国がこの考えを実行する際は、この地域の平和と安全に十分考慮し、関係国と十分協議して、慎重かつ弾力的に行われたい旨述べた。

 バードン・シェアリングについては、米側から日本側の今までの努力を評価するとともに、引き続き協力を期待したい旨の発言があった。これに対し、日本側から、在日米軍駐留経費負担について、日米安全保障体制の効果的運用の確保のため、今後とも自主的に努力していく所存である旨述べた。

3 日米安全保障事務レベル協議

昨年10月、第19回日米安全保障事務レベル協議が開催され、国際情勢、日米防衛協力、わが国の防衛努力、在日米軍駐留支援などについて意見が交換された。この協議は、日米両国政府における事務レベルの安全保障関係者が、日米相互にとって関心のある安全保障上の諸問題について、自由かつ率直な意見の交換を行うものである。

第2節 「日米防衛協力のための指針」

1 「日米防衛協力のための指針」の作成経緯

日米安全保障条約が有効に機能するためには、この条約に基づき、有事及び平時において日米間で緊密な協力が行われなければならない。このような観点から、日米安全保障条約及びその関連取極の目的を効果的に達成するため、軍事面を含めて日米間の協力のあり方について研究・協議を行うこととし、日米安全保障協議委員会の下部機構として設置された防衛協力小委員会において研究・協議を重ね、その結果を取りまとめて「日米防衛協力のための指針」(「指針」資料33参照)が作成された。この「指針」は、昭和53年11月に開催された第17回日米安全保障協議委員会に報告され、了承された。

「指針」は、じ後行われるべき研究作業のガイドラインとしての性格を有するものであって、外務大臣及び防衛庁長官が処理すべきものであるが、その内容が日米防衛協力のあり方にわたるものであることから、シビリアン・コントロールの確保という面も考慮し、昭和53年11月、国防会議で審議を行い、さらに、閣議において、資料を席上配布の上、所管大臣たる外務大臣及び防衛庁長官が発言し、その経緯・内容を報告するとともに、防衛庁長官から「この指針に基づき自衛隊が米軍との間で実施することが予定されている共同作戦計画の研究その他の作業については、防衛庁長官が責任をもって当たることとしたい」旨の発言があり、いずれも了承された。

2 「指針」に基づく研究

(1) 「指針」第1項及び第2項に基づく研究

「指針」に基づき、自衛隊が米軍との間で行うことが予定されている共同作戦計画についての研究、その他の研究作業については、統合幕僚会議事務局と在日米軍司令部が中心となって行っている。

ア 共同作戦計画についての研究等

「指針」に基づく研究作業については、共同作戦計画についての研究を優先して進め、わが国に対する侵略の一つの態様を想定した最初のケース・スタディは、昭和59年、一応の区切りがつき、現在は情勢に応じた見直しなどを行っている。

二つ目のケース・スタディである「新たな研究」については、従来から日米間で話し合いが行われ、昭和63年夏ごろから研究が具体的に緒につき、現在研究中である。また、いわゆる有事来援研究については、この研究の一環として、時宜を得た米軍の来援について検討が進められている。

さらに、共同作戦計画の研究にかかわる後方支援面についても、引き続き、問題点の洗い出しを行うこととしている。なお、日米調整機関、共通の作戦準備などについても、逐次研究を行っている。

イ シーレーン防衛共同研究

この研究は、「指針」作成の際の前提条件や「指針」に示されている基本的な制約、条件、構想などの範囲内において、日本に武力攻撃がなされた場合、シーレーン防衛のための日米共同対処をいかに効果的に行うかを目的として行われ、昭和61年に終了した。

その結果、一定の前提の下における日米のシーレーン防衛能力の検証ができたほか、シーレーン防衛構想、共同作戦要領に関する日米相互理解の増進などの成果を得ることができた。

ウ インターオペラビリティ(相互運用性)に関する研究

日米間のインターオペラビリティの問題については、「指針」に基づく各種の研究を行うに当たって考慮してきているが、昨年9月、通信面を対象とした研究に一応の区切りがついたところである。

(2) 「指針」第3項に基づく研究

日本以外の極東における事態で、わが国の安全に重要な影響を与える場合の米軍に対する便宜供与のあり方の研究については、昭和57年の日米安全保障協議委員会において、研究を開始することで意見が一致し、日米両国間で研究作業が行われている。

 

(注) インターオペラビリティ(相互運用性):インターオペラビリティについて確立された定義があるわけではないが、一般には、戦術、装備、後方支援等に関し、共通性、両用性を確保することをいう。

第3節 日米共同訓練

自衛隊が米軍と共同訓練を行うことは、それぞれの戦術技量の向上を図る上で有益である。また、日米共同訓練を通じて、平素から自衛隊と米軍との戦術面などにおける相互理解と意思疎通を促進し、インターオペラビリティを向上させておくことは、有事における日米共同対処行動を円滑に行うために不可欠であり、日米安全保障体制の信頼性と抑止効果の維持向上にも役立つものである。

このため、従来から統合幕僚会議及び陸・海・空各自衛隊において日米共同訓練を実施しており、今後とも、日米共同訓練を積極的に行っていく方針である。なお、自衛隊の統合運用態勢の充実のため、日米共同訓練を実施するに当たっては、その統合化を重視している。(米軍と指揮所演習を行う陸上自衛官

1 統合幕僚会議

昨年度は、第3−12表に示すように、統合指揮所演習を1回行った。

2 陸上自衛隊

昨年度は、第3−13表に示すように、方面隊指揮所演習を1回、師団指揮所演習を1回、米陸軍との実動訓練を2回、米海兵隊との実動訓練を2回行った。

3 海上自衛隊

昨年度は、第3−14表に示すように、海上自衛隊演習の一部で日米共同訓練を行ったほか、指揮所演習を2回、対潜特別訓練を2回、掃海特別訓練を2回、小規模特別訓練を1回行った。

このほか、昨年度は、派米訓練の際に日米共同訓練を行った。また、本年4〜6月に行われたリムパック90にも参加した。(米軍と共同訓練中の海上自衛隊の護衛艦

4 航空自衛隊

昨年度は、第3−15表に示すように、航空総隊総合演習の際に実施した防空戦闘訓練を含め、防空戦闘訓練を4回、戦闘機戦闘訓練を7回、救難訓練を1回行った。

このほか、北部航空方面隊など日米両国の部隊が近接しているという地理的条件が利用できる部隊では、米空軍と小規模な戦闘機戦闘訓練を日常的に行っている。(米軍に対して共同訓練のためのブリーフィングを行う航空自衛官

第4節 日米間の装備・技術面の協力関係

1 装備・技術面の協力の意義及び現状

日米安全保障条約は、武力攻撃に抵抗するそれぞれの能力、すなわち、日米両国の防衛能力の維持、発展のために相互に協力することを規定しており、また、「日本国とアメリカ合衆国との間の相互防衛援助協定」(「相互防衛援助協定」(資料3惨照))は、日米間の防衛分野における相互協力のための枠組みを定めている。

わが国は、従来より、主として相互防衛援助協定に基づいて、米国から防衛力整備のために各種の協力を得てきており、装備・技術面については、早期警戒機E−2C、携帯SAMなどを有償援助(FMS)により調達しているほか、対潜哨戒機P−3C、要撃戦闘機F−15、地対空誘導弾ペトリオットなどを米国との間の取極に基づいてライセンス生産している。このような技術の供与を含めた各種の協力は、わが国の防衛力の充実・向上及び防衛産業基盤の確立に大きく寄与している。

一方、わが国としても、日米安全保障条約を踏まえ、米国との防衛分野における協力を積極的に推進する必要があることは当然である。特に、近年におけるわが国の技術水準の向上により、わが国の技術が米国の防衛能力の向上に般的に寄与し得るものとなってきたことなどの状況の下で、日米安全保障体制の効果的運用を図るためには、防衛分野における米国との技術の相互交流を図ることが、ますます重要になっている。このような認識は、本年2月に開催された日米防衛首脳会談においても、日米双方が確認している。

また、昭和63年に開催された第11回日米装備・技術定期協議において、装備技術の日米共同研究の可能性などについて意見交換が行われるなど、同協議においても近年では両国間の相互交流がその中心議題となってきている。このほか、両国間では、従来から装備に関する資料の交換などの交流も行われている。

2 対米武器技術供与

前述した防衛分野での技術の相互交流の一環として、昭和58年、武器輸出三原則及び武器輸出に関する政府方針等(「武器輸出三原則等」)の例外として、米国に対し武器技術を供与する途を開くこととした(資料35参照)。

こうした枠組みの下、これまで、昭和61年に米海軍の艦船の建造及び改造のための技術などについてその対米供与を決定しているほか、本年2月には次期支援戦闘機(FS−X)の共同開発作業の円滑な進展を図るため、その関連武器技術を対米供与することを決定した。

3 日米共同研究開発

日米間の共同研究開発は、両国の優れた技術を結集して効果的に装備品を開発するだけでなく、日米間の防衛協力関係を進展させることができるという観点からも重要なものである。

日米間の研究開発については、FS−Xの共同開発が初めてのケースである。昭和63年、日米両国政府は、FS−Xの共同開発に関する交換公文及びこれに基づく細目取極(資料36、37参照)を締結した。また、昨年3月、米国内の手続を進める過程で、日米間の取極内容について米国側から日本側に対しクラリフィケーション(明確化)の要請があり、日米間で話合いが行われた結果、4月には決着し、9月までに米国の武器輸出管理法に基づく手続などが終了した。本年3月には日米企業の共同設計チームが発足しており、今後、日米間の取極に従って本共同開発計画が着実に進展することが期待されている。

 

(注) 有供援助(FMS):米国政府が武器輸出管理法に基づき、友好国政府等に対して、有償で行う軍事援助をいう。

(注) 武器輸出三原則等:武器輸出三原則は、昭和42年4月、当時の佐藤首相が表明したもので、共産圏諸国向けの場合、国連決議により武器等の輸出が禁止されている国向けの場合、国際紛争当事国又はそのおそれのある国向けの場合には、原則として武器の輸出を認めないというものである。

また、昭和51年2月の武器輸出に関する政府方針とは、当時の三木首相が表明したもので、その概要は、武器の輸出について、三原則対象地域については、「武器」の輸出を認めない、三原則対象地域以外の地域については、「武器」の輸出を慎むものとする、武器製造関連設備については、「武器」に準じて取り扱うものとする、という方針により処理するものとし、武器の輸出を促進することはしないというものである。(また、武器技術の輸出(非居住者への提供)についても、武器輸出三原則及び昭和51年2月の武器輸出に関する政府方針に準じて処理することとされている。)

第5節 在日米軍の現状と駐留を円滑にするための施策

1 在日米軍の現状

 在日米軍は、司令部を東京都の横田飛行場に置き、司令官は、第5空軍司令官を兼務している。司令官は、わが国の防衛を支援するための諸計画を立案する責任を有し、平時には、在日米陸軍司令官と在日米海軍(在日米海兵隊を含む。)司令官に対して調整権を持ち、緊急事態発生時には、在日米軍の諸部隊及び新たに配属される米軍部隊を指揮することになっている。

また、在日米軍司令官は、わが国における米国の軍事関係の代表として、防衛庁及びその他の省庁との折衝を行うとともに、地位協定(資料38参照)の実施に関し外務省と調整する責任も持っている。

 在日米陸軍は、司令部(第9軍団司令部)を神奈川県のキャンプ座間に置いており、管理、補給、通信などの業務を主な任務としている。

 在日米海軍は、司令部を神奈川県の横須賀海軍施設に置き、主に第7艦隊に対する支援に当たっている。神奈川県の厚木飛行場は、米海軍航空部隊が、主として艦載機の修理及び訓練基地として使用している。また、青森県の三沢飛行場と沖縄県の嘉手納飛行場には、対潜哨戒飛行隊が配備されている。

 海兵隊は、沖縄県のキャンプ・コートニーに第3海兵機動展開部隊司令部を置き、1個海兵師団と1個海兵航空団からなる強襲兵力を擁している。

 在日米空軍は、司令部(第5空軍司令部)を横田飛行場に置いている。嘉手納及び三沢飛行場には、それぞれ1個戦術戦闘航空団が配備され、また、横田飛行場には1個戦術空輸団が配備されている。

 在日米軍の兵力は、約4万9,400人(陸軍約2千人、海軍約7千人、海兵隊約2万4,300人及び空軍約1万6千人、平成元年12月31日現在)である(資料40、41参照)。

2 在日米軍の駐留を円滑にするための施策

(1) 施策の現況

在日米軍の駐留は、日米安全保障体制の核心であり、その駐留を真に実効あるものにすることは、日米安全保障体制の持つ機能を有効に発揮させる上で必須の条件である。このため、わが国としては、在日米軍の駐留を円滑にするための施策を積極的に実施していく必要がある。

わが国は、地位協定の定めるところにより、施設・区域について、日米合同委員会を通じて両国で合意するところに従い、米国に負担をかけないで在日米軍に提供する義務を負っている。また、在日米軍は、日本人従業員の労働力を必要としており、この労働力は、地位協定によりわが国の援助を得て充足されることになっている。

在日米軍の駐留に関して米国が負担する経費は、昭和40年代後半から、わが国における物価と賃金の高騰や国際経済情勢の変動などによって、相当圧迫を受け窮屈なものとなっている。わが国は、これらの事情を勘案し、在日米軍の駐留を円滑かつ安定的にするための施策を可能な限り推し進めている。

 在日米軍が使用する施設・区域については、わが国は、昭和54年度から老朽隊舎の改築、家族住宅の新築、汚水処理施設の整備、老朽貯油施設の改築、消音装置の新設などを行い、これらを米軍に提供している。

これら提供施設の整備に要する本年度の歳出予算額は、約1,001億円(外に後年度負担額約745億円)である。

 在日米軍が必要とする日本人従業員の労働力については、わが国が、給与その他の勤務条件を定めて従業員(平成2年3月3日現在約2万2,100人)を雇用し、その労務を提供している。これら日本人従業員の労務費については、従来米国が負担してきたが、在日米軍が負担する経費の軽減を図り、かつ、日本人従業員の雇用の安定を図るため、昭和53年度から福利厚生費などを、昭和54年度から給与のうち格差給など国家公務員の給与条件にない部分の経費をわが国が負担してきた。

しかし、その後の日米両国を取り巻く急激な経済情勢の変化により、日本人従業員の労務費が圧迫され、これを放置すれば、これら従業員の雇用の安定が損なわれ、ひいては、在日米軍の効果的な活動にも影響するおそれが生じてきた。このような事情を背景として、昭和62年、日米間において地位協定第24条についての特別の措置を定める協定(いわゆる特別協定(資料39参照))を締結し、退職手当等8手当の一部をわが国で負担することとした。さらに、特別協定発効後、日米両国を取り巻く経済情勢はなお一層変化し、在日米軍駐留経費が従前にも増して圧迫された。そこで、日本人従業員の安定的な雇用の維持を図り、もって在日米軍の効果的な活動を確保するとの観点から、昭和63年、この特別協定を改正し、その対象とする諸手当の全額までをわが国が負担できるようにした。これを受けて、昨年度においては対象とする諸手当のうちの75%を負担し、本年度から全額を負担することにしている。

これらの措置に要する労務費の本年度の予算額は、約679億円(うち特別協定約459億円)である。

 わが国は、これらのほか、在日米軍の駐留に関連して、従来から、施設・区域の提供に必要な経費(施設の借料など)の負担、施設・区域の周辺地域の生活環境などの整備のための措置、日本人従業員の離職対策などの施策を行ってきている。

これらからに係る施策のための防衛施設庁の本年度予算額は、約2,938億円である。なお、在日米軍の駐留を円滑にするためわが国が負担する経費は、この防衛施設庁の経費に、自治省が市町村に交付している基地交付金など防衛施設庁所管経費以外の経費及び在日米軍施設のうち無償提供している国有地を仮に民有地とした場合の賃借料試算額を加えると、約4,115億円(神奈川県の厚木航空基地(自衛隊管理)周辺の住宅防音工事助成関連の予算額(約290億円)を加えれば約4,405億円)となる。

(2) 施設・区域の提供問題

ア 空母艦載機の着陸訓練場確保の問題

空母艦載機のパイロットは、着艦の技量を維持するため、空母入港中も陸上の飛行場で着陸訓練を十分に行う必要がある。

現在、この訓練は主に厚木飛行場で行われているが、この訓練については、同飛行場周辺の市街化により、米軍にとっては訓練の制約の問題が、周辺住民にとっては深刻な騒音問題がそれぞれある。これらの問題を解決するため、わが国は、三宅島に飛行場を設置することが適当と考え、そのための努力を続けているが、三宅島では、村当局を始め住民の間になお反対の意向が強く、実現までには相当の期間を要すると見込まれている。

一方、厚木飛行場周辺の騒音問題をこのまま放置できないため、三宅島に訓練場を設置するまでの暫定措置として硫黄島における着陸訓練が早期に実現できるよう、わが国は、昨年度からこれに必要な施設の整備を進めている。

イ 池子における米軍家族住宅の建設の問題

池子住宅地区及び海軍補助施設における米軍家族住宅の建設は、横須賀地区における米軍人の家族住宅が著しく不足している現状に照らし、在日米軍の駐留を効果的なものとするために、わが国として是非とも早期に実施すべき施策である。

この建設に当たっては、国は、逗子市と長期にわたって話合いを行い、同市の要請もあって、自然環境を最大限に保全するため神奈川県条例に基づく環境影響評価を行い、さらには、国、逗子市及び神奈川県の3者間で話合いの結果、同知事から逗子市長の意向に配慮した調停案が提示され、これに従って大幅な計画の修正を行った。例えば、計画に当たっては、緑を可能な限り保全するため、新たに住宅などの敷地とする面積は池子住宅地区及び海軍補助施設の全面積約290haのうちわずか約10ha程度にとどめて、当初920戸計画していた家族住宅を854戸に減らすなど、地元の意向を十分尊重している。

国は、このように配慮を行った上で、昭和62年9月、建設工事に着手し、建設事業区域内において行われている埋蔵文化財調査が終了した地区から順次工事を進めてきている。なお、国は、住宅建設を行うための宅地造成と周辺地域の洪水対策のために、防災調整池の設置などを計画しているが、この工事を実施するためには、河川法に基づき河川管理者である逗子市長との河川協議が必要である。そこで国は、同市長に対しこの協議を申し入れたが、同市長は、二年半余を経過した今日に至っても、いまだ協議に応じていない。国としては、この住宅建設を早急に行う必要があるので、引き続き河川協議が早期に成立するよう努めるとともに、暫定措置として河川協議を要しない仮設の調整池を設置し、宅地造成などの工事を進めることとしている。

 

(注) 地位協定:日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定

(注) 各軍の合計との不符合は、四捨五入による誤差

(注) 施設・区域:建物、工作物等の構築物及ぴ土地、公有水面をいう。

(注) 特別協定:日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定第24条についての特別の措置に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定