第4部

国民と防衛

第1章 国民と自衛隊

第1節 国民の防衛意識

 わが国の平和と安全を保つためには、精強な自衛隊を育成するとともに、日米安全保障体制を堅持しその信頼性を高めていくことがもとより重要である。しかし、これを支えるのは国民である。すなわち、国の防衛は、国民の防衛に対する理解と協力があって初めて全うされるものである。

 防衛庁は、このような認識に基づき、国民の防衛意識の動向に注目しつつ、わが国の防衛をより広範で、より確固とした国民的基盤に立脚したものとするための努力を行っている。

 総理府が昭和47年度から3年ごとに実施してきている「自衛隊。防衛問題に関する世論調査」によって国民の防衛意識の推移を概観すると、次のとおりである。

1 自衛隊・防衛問題に関する関心

 地続きの国境がないというわが国の地理的特性や戦後今日まで安定した平和を享受していることなどから、国民の一部には、防衛問題に対してあまり関心がないか、全く関心がないという層が存在している。しかし、この10年間をみると、自衛隊や防衛問題に対する国民の関心は、徐々に高まる傾向をみせている。(第4−1図 自衛隊・防衛問題への関心

2 自衛隊の役割

 「自衛隊が設けられた一番の目的」については、大半の国民が「国の安全の確保」と答えており、その割合は増加の傾向にある。その反面、「自衛隊が一番役に立ってきたこと」については、「災害派遣」とする意見が従来から大きな割合を占め、「国の安全の確保」とする意見は、1割弱となっている。これは、災害救援活動が最も国民の目に触れやすいのに対し、自衛隊の存在が日米安全保障体制とあいまってわが国の安全の確保に役立っているという目に見えない抑止力の意義・役割がなかなか理解されにくいことによるものと考えられる(第4−2図 自衛隊が設けられた一番の目的)(第4−3図 自衛隊が一番役に立ってきたこと

3 防衛体制

 「わが国の防衛のあり方」については、「現状どおり日米の安全保障体制と自衛隊で日本の安全を守る」と現在のあり方を肯定する人が、昭和40年代には約4割であったのに対し、約7割にまで増加している。また、「防衛予算の規模」については、「今の程度で良い」とする現状肯定の意見が約6割に達している。これらは、大半の国民が、自衛隊と日米安全保障体制からなる現在の体制、防衛努力の現状といったわが国防衛の基本的あり方に理解を示し、支持していることを表すものと考えている。(第4−4図 わが国の防衛のあり方)(第4−5図 防衛予算の規模

4 防衛意識

 「国を守る気持ちが他の人と比べて強い方か弱い方か」との問いに対しては、5割強の人が「強い」(非常に強い、どちらかといえば強い)と答えており、この傾向は約10年間ほとんど変化していない。また、7割弱の人が侵略されたとき「何らかの形で抵抗する」としており、近年少しずつ増加の傾向にある。

 以上のことから、国民の防衛意識は、徐々に高まりつつあると思われる。しかし、「自衛隊が一番役に立ってきたこと」に対する答えにみられるように、自衛隊や防衛問題が必ずしも正しく理解されているとはいえない面もあるので、防衛庁としては、今後とも自衛隊や防衛問題に対する国民の関心を高め、理解を深めるための着実な努力が必要であると考えている。(第4−6図 国を守る気持ち)(第4−7図 侵略されたときの態度

 

(注) 自衛隊・防衛問題に関する世論調査:総理府が昭和47年度から3年ごとに実施してきている世論調査で、全国の20歳以上の男女から無作為抽出した3,000人を対象に、面接聴取方式で行われる。最新の調査は、昭和63年1月に行われた。

第2節 国民生活への貢献

1 国の平和と安全の確保

 自衛隊は、日米安全保障体制とあいまって、わが国への武力攻撃を未然に防止する役割を持つだけでなく、外部からの武力攻撃に際してわが国を防衛するという役割を持つものである。そして、この役割を十分に果たすためには、自衛隊が精強であるとともに、日米安全保障体制が信頼性のあるものでなければならない。

 このため、自衛隊は、科学技術の進歩に対応して装備品等の更新・近代化を行い、厳しい訓練を実施し、日夜、警戒監視等の任務に従事するなど、休みなく活動している。また、在日米軍との間において、共同訓練や研究などさまざまな日米防衛協力が推進されている。

 このようにわが国の防衛の体制を維持・強化するための日常的な活動こそが、わが国の防衛意思とそれを裏付ける能力を目に見える形で表すものとなり、国の平和と安全の確保に貢献している。

2 災害派遣

 自衛隊は、天災地変その他の災害に際して、原則として都道府県知事などの要請を受けて災害派遣を行っている。その具体的な活動は、遭難者や遭難した船舶・航空機などの捜索救助、水防、防疫、給水、人員や物資の緊急輸送など広範・多岐にわたっている。

 わが国は、台風、豪雨、豪雪、地震、噴火といった自然災害が多く、また、離島やへき地が多い地理的環境にあることなどから、自衛隊による災害救援活動は重要なものになっている。自衛隊は、これらの災害時に国民の生命と財産の保護に貢献し、国民の信頼に応えるため、平素から国や地方公共団体が行う訓練に積極的に参加するとともに、自らも災害に備えて訓練を行うなど、災害対処能力の向上に努めている。また、離島やへき地における救急患者の輸送などの要請にも即応できる態勢となっており、医療施設に恵まれない離島などにおける民生の安定に大きな役割を果たしている。

 最近の災害派遣の実績は、第4−1表に示すとおりである。(座礁した漁船の救助に向かう隊員

3 地震防災派遣

 自衛隊は、「大規模な地震が発生し、著しい地震災害が生ずるおそれ」があると認められ、「警戒宣言」が発せられたどき、地震災害警戒本部長(内閣総理大臣)の要請に基づく防衛庁長官の防災訓練中の隊員命令によって、関係機関の行う地震防災応急対策の的確かつ迅速な実施を支援するため、「地震防災派遣」を行うことになっている。

 ちなみに、自衛隊は、地震防災対策強化地域に指定されている東海地域での大規模地震に備えるため「東海地震対処計画」を持っている。この計画では、地震発生前に措置される地震防災応急対策の一環としての自衛隊の活動(地震防災派遣)と地震発生後の「災害派遣」における派遣規模などについて定めている。

 地震防災派遣においては、関係省庁、強化地域指定県、関係公共機関と調整の上、へリコプター34機による交通状況、避難状汎等の把握、人員。物資の輸送を実施するほか、RF−4E偵察機最大10機程度による都市部の撮影、解析を行うことになっている。また、実際に地震災害が発生した時には、災害派遣として、最大で航空機約270機、艦艇約25隻、人員約6万6千人などを投入して救援に当たることとしている。

 自衛隊は、これらの事態に備えて、毎年「防災週間」に行われる総合防災訓練に参加し、地震防災派遣、災害派遣の能力の向上を図っている。(防災訓練中の隊員

4 危険物の処分

 陸上自衛隊は、不発弾などが発見され不発弾(1トン爆弾)処理を行う隊員た場合、地方公共団体などの要請を受けてその処分に当たっている。不発汁は、今日なお全国各地で土地開発や建設工事の際などに発見されている。特に、沖縄県ではその量が多いため、特別不発弾処理隊(約20人)を編成して処分に当たっている。

 一方、機雷の掃海業務については、海上自衛隊が行っており、第2次世界大戦中わが国近海に敷設された膨大な数の機雷のうち、危険海域にある機雷の掃海はおおむね終了した。現在では、地方公共

 団体などからの要請を受けて、その都度、海上における機雷その他の爆発性の危険物の処分などを行っている。

 昨年度の危険物の処分の実績は、第4−2表に示すとおりである。不発弾(1トン爆弾)処理を行う隊員

5 部外協力

(1) 土木工事などの受託

自衛隊は、地方公共団体などの申し出により、その内容が訓練の目的に適合する場合には、学校、運動場、公園などの造成工事や道路工事などの土木工事を行っている。

また、自衛隊は、委託を受けた場合、任務遂行に支障を生じない限度で、山岳救助員、潜水救助員などの救急に従事する人や航空機のパイロットなどの教育訓練を行っている。

(2) 運動競技会に対する協力

自衛隊は、関係機関から依頼を受けて、任務遂行に支障を生じない限度で、アジア競技大会や国民体育大会のような国際的、全国的規模又はこれらに準ずる運動競技会の運営について、式典、通信、輸送、音楽演奏、医療、救急などの面で協力している。

(3) 南極地域観測に対する協力

自衛隊は、国が行う南極地域における科学的調査に対し、輸送その他の協力を行っている。

昨年11月から本年4月までの第30次観測支援で、自衛隊が保有する砕氷艦「しらせ」は、南極地域において91日間行動し、物資約970トン、観測隊員54人などの輸送を行った。

なお、「しらせ」は、本年1月に南極大陸奥地で発生した雪上車のクレバス転落事故に際して、搭載へリコプターを派出し、負傷者3名を含む観測隊員9名を救助した。(氷海を航行する砕氷艦「しらせ」

(4) 国賓等の輸送

自衛隊は、国の機関から依頼があった場合には、任務遂行に支障を生じない限度で、国賓・内閣総理大臣等の輸送を行っており、これに主として用いられるスーパー・ピューマ機(AS−332L)を3機保有している。

ちなみに、本年2月に行われた昭和天皇の「大喪の礼」に当たっては、これに参列するため来日した諸外国の元首等多数を輸送した。

(5) その他の協力活動

以上のほか、自衛隊は、気象庁の要請により航空機を使って行う北海道沿岸海域の海氷観測業務、建設省国土地理院の要請による地図作成のための航空測量業務、放射能対策本部の要請による集塵飛行、厚生省の硫黄島戦没者の遣骨収集に対する輸送等の支援、潜水医学実験隊及び航空医学実験隊などの特殊な調査研究や知識・技術を生かした重症潜水病患者の治療、航空事故調査、高所医学に関する協力など各種の協力活動を行っている。

第3節 国民との触れ合い

 防衛庁・自衛隊は、防衛問題や自衛隊に対する国民の理解と関心を深めるために、防衛政策や自衛隊の現況を広く紹介するなど、さまざまな広報活動を行っている。また、地方公共団体などが行う公共性のあるいろいろな行事に、任務に支障のない範囲で積極的に参加している。自衛隊は、このようなさまざまな触れ合いの場を通じて、国民とのより一層の親近感と連帯感の醸成に努めている。

1 部隊の公開等

 防衛庁・自衛隊では、パンフレットなどの配布、新聞・雑誌への広報記事の掲載、広報映画の上映、音楽隊による演奏会の開催、部隊の見学、記念日などにおける部隊の公開、隊内生活体験(体験入隊)、体験航海、体験搭乗などを行っている。

 自衛隊の現状を広く国民に紹介するためのものとして、昨年9月には、陸上自衛隊が富士山麓において、参加隊員約1,600人により実弾を使用して繰り広げられる富士総合火力演習を行った。一般の見学者は、予行を含め、約5万人であった。また、航空自衛隊のプルーインパルスは、全国各地の航空祭などで展示飛行を行い、昨年度の観客数は約42万5千人であった。この展示飛行は、高度な空中戦技術の研究成果の一端を公開しているものである。

 これらのほか、全国各地の部隊において、国民のより一層の理解を得るため、さまざまな行事を通じて自衛隊の現状を広く紹介している。

 また、自衛隊は、休日などに駐屯地等を市民のスポーツやレクリエーションの場としてできる限り開放している。

 昨年度は、諸般の事情から一部の広報行事を中止したため例年に比較して部隊公開などの広報活動が少なかったが、主要な広報活動の実績は、第4−3表に示すとおりであり、これらの触れ合いの場を通じて自衛隊と交流した国民の数は、延べ1,100万人であった。

 さらに、防衛庁は、広く国民から意見や要望を聴き、今後の施策に反映させるため、防衛モニター制度などを設けている。(富士総合火力演習を見る人々

2 各種行事への参加

 自衛隊の各部隊においては、市民と一体になって、球技、駅伝などのスポ−ツ大会に参加している。また、各地域における市民まつり、港まつり、雪まつり、ねぶたまつり、阿波踊りなど郷土の祭典やさまざまな市民行事に参加するとともに、これらに協力するなど、地域社会に溶け込んだ活動を行っている。

 また、国際的なスポ−ツ大会にも優秀な選手を派遣して、自衛隊の体育水準の向上を図るとともに、世界各国とのスポ−ツを通じた交流にも寄与している。

3 記念行事

 自衛隊記念日の行事の一環として行われる観閲式及び観艦式は、自衛隊の最高指揮官である内閣総理大臣が部隊を観閲し、隊員の士気を高楊するとともに、自衛隊の装備や訓練の成果を広く国民に披露するためのものであり、観閲式は毎年、観艦式は2〜3年ごとに実施している。このほか、自衛隊記念日の行事の一環として、陸・海・空各自衛隊の音楽隊、儀じょう隊、防衛大学校の学生、ゲスト歌手等が出演する自衛隊音楽まつりなどを実施している。なお、昨年の自衛隊記念日関連行事は、諸般の事情により、観閲式その他の主要な行事が中止された。(第4−3表 主要広報活動の実績(昭和63年度)

第2章 国民生活と防衛施設

第1節 国民生活と防衛施設のかかわり合い

1 防衛施設の意義

 わが国は、精強な自衛隊を育成するとともに、日米安全保障体制の信頼性を一層高めることにより、国の防衛を全うしようとしている。このため、自衛隊や在日米軍は、昼夜を分かたぬ教育訓練、警戒監視、情報収集などを行っている。自衛隊や在日米軍が使用する飛行場、港湾、演習場、通信所、営舎などの防衛施設は、これらの活動の拠点となるものであり、わが国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、必要不可欠のものである。

 このように、防衛施設は、いわば自衛隊と日米安全保障体制を支える基盤ともいうべきものであり、それらの機能を十分に発揮させるためには、防衛施設と周辺地域との調和を図り、周辺住民の理解と協力を得て、常に安定して使用できる状態に維持することが必要である。

2 防衛施設の現状

 防衛施設全体の土地面積は約1,380km2(昭和64年1月1日現在)であり、国土面積に占める割合は約0.37%である。

(1) 自衛隊の施設

自衛隊の施設の土地面積は約1,047km2であり、その半分近くが北海道に所在している。この土地面積の約89%は国有地であり、他は民公有地である。また、施設の用途別では、演習場と飛行場とで約83%を占めている。

このほか、自衛隊は、在日米軍の施設・区域を日米安全保障条約に基づく地位協定により共同使用しており、その土地面積は約35km2である。

(2) 在日米軍の施設・区域

在日米軍の施設・区域(専用的なもの)の土地面積は約325km2であり、その7割以上が沖縄県に所在している。この土地面積の約48%は国有地であり、他は民公有地である。また、施設の用途別の使用状況では、演習場と飛行場が合わせて約71%を占めている。

このほか、在日米軍は、自衛隊の施設等を地位協定により一定の期間を限って使用しており、その土地面積は、自衛隊の施設については約635km2(日米共同訓練を行うために、施設・区域として提供している駐屯地、演習場、飛行場などの自衛隊の施設を含む。)、自衛隊の施設以外のものについては約8km2である。

さらに、在日米軍の施設・区域には、訓練などのための水域42か所がある。

3 防衛施設をめぐる諸問題

 防衛施設の設置や運用をめぐって生じる問題は、冬種多様である。この問題を発生原因により分析すると、まず、防衛施設又はその運用の特殊性が挙げられる。防衛施設には、飛行場や演習場のように、もともと広大な面積の土地を必要とするものがあり、さらに、航空機の頻繁な離着陸や射爆撃、火砲による射撃、戦車の走行など、その運用によって周辺地域の生活環境に影響を及ばすものがある。中でも、最も大きなものが航空機騒音問題である。

 次に、わが国の特殊な地理的条件が挙げられる。わが国は、主要各国に比べ人口密度は最高の部類に属し、しかも比較的険しい山岳地帯が多く、国土全体から森林、原野、湖沼などを差し引いた可住地面積の国土面積に占める割合は21%しかないという地理的条件にある。このため、狭い平野部に都市や諸産業と防衛施設とが競合して存在し、防衛施設の側からみるとその設置や運用が制約され、都市開発その他の地域開発の側からみると防衛施設の存在や運用が支障となるという問題が生じている。特に、経済発展の過程において多くの防衛施設の周辺地域の都市化が進んだ結果、問題がより一層深刻化している。

 このほか、防衛施設をめぐる問題の発生原因としては、防衛施設用地の所有者などや訓練水域に利害関係を有する者による生活又は生産基盤の確保の要求、イデオロギ−闘争としての基地反対又は撤去の要求などさまざまなものがある。

 防衛施設をめぐる問題は、以上のようなさまざまな原因により生ずるものである。

 

(注) 防衛施設:自衛隊が使用する施設と日米安全保障条約に基づき在日米軍が使用する施設・区域とを総称する言葉であり、演習場、飛行場、港湾、通信施設、営舎、倉庫、弾薬庫、燃料庫などをいう。

第2節 防衛施設と周辺地域との調和のための努力

 防衛庁としては、このような防衛施設をめぐる問題の解決を図るため、従来から、国の防衛の必要性や防衛施設の重要性について国民の理解を求めるとともに、防衛施設周辺の生活環境の整備、防衛施設の整理統合など、防衛施設と周辺地域との調和を図ることに努力している。

1 防衛施設周辺地域の生活環境の整備等の施策

 防衛庁は、防衛施設と周辺地域の調和を図るために、「防衛施設周辺

 の生活環境の整備等に関する法律」(昭和49年制定)に基づく施策を中心に、次のような各種の施策を行っている。

(1) 障害防止工事の助成

自衛隊や在日米軍は、その任務達成のため演習場や飛行場などの防衛施設を使用して演習、訓練などを行っているが、このような際に、例えぼ戦車その他の機甲車両などの頻繁な使用によって道路の損傷が早まったり、射撃訓練などによる演習場内の荒廃によって、その地域の保水力が減退したり、付近に水不足や泥水の流出などが生じやすくなったり、あるいは航空機騒音などによって学校教育や病院の診療に影響がでたりすることがある。

このような場合、地方公共団体などが障害を防止し、あるいは軽減するために行う道路や河川の改修、ダムの建設、砂防施設の整備、学校や病院の防音工事といった障害防止工事に対し、国は、これらの工事に要する費用を補助することとしている。

障害防止工事の助成を行っているのは、自衛隊や在日米軍の活動はわが国防衛に不可欠なものではあるが、そこから生ずる障害を特定の人々にのみ負担させることは不公平であり、また、学校教育に支障を招いたり、病弱者の保護に欠けるというようなことがあってはならないとの考えによるものである。(障害防止工事の例(河川改修)

(2) 飛行場等周辺の航空機騒音対策

航空機による騒音の防止対策として、防衛庁は、従来から消音装置の設置などによる音源対策に努めたり、また、早朝・夜間における飛行の自粛などの飛行時間の規制、人家密集地をできるだけ避けた飛行経路の設定、飛行高度の規制などの運行対策にも努めており、それ相応の効果を上げている。しかしながら、航空機騒音の完全な消去は不可能であり、また、夜間飛行の練度維持等任務遂行上の必要性や経路設定等安全上の制約などから、運行対策にはおのずから限界がある。

このため、防衛庁としては、これらの対策と並行して、学校、病院などの防音工事に対する助成措置のほか、周辺地域の生活環境の整備を積極的に進めることとしている。すなわち、飛行場や航空機による射爆撃が行われる演習場の周辺について、航空機の頻繁な離陸、着陸などにより生ずる音響に起因する障害の度合いを基準として、第4−8図に示すように、外側から第1種区域、第2種区域、第3種区域を指定し、それぞれに対し、次のような対策を講ずることとしている。

 第1種区域内に所在する住宅については、防音工事の助成を行う。

 第2種区域内から外に移転するものに対しては、移転補償などを行い、移転跡の土地などを買い入れるとともに、移転先地において、地方公共団体などが、道路、水道、排水施設などの他の公共施設を整備する際に補助を行う。

 第3種区域については、住宅が建つことなどにょって騒音障害が新たに発生することを未然に防止するため、緑地帯などの緩衝地帯として整備されるよう措置する。

また、前述の国が買い入れた土地を、地方公共団体が広場や駐車場などにする場合は、無償で使用させることができることとなっている。

なお、平成元年度からは、住宅防音工事の助成により設置したエアコン等のうち、老朽化した機器の更新に要する費用の補助及び生活保護世帯に対するエアコン等の使用に伴う電気料金の補助を行うこととしている。(第4−8図 飛行場周辺における区域

(3) 民生安定施設の助成

民生安定施設の助成は、防衛施設の設置や運用の結果として周辺住民の生活や事業活動が阻害されると認められる場合において、地方公共団体がその障害の緩和に資するため、生活環境施設や事業経営の安定に寄与する施設を整備する際には、国がその費用の一部を補助しようとするものである。

このような事例をいくつか挙げてみると、次のような場合があり、助成の内容は多岐にわたっている。

 燃料や火薬を取り扱う防衛施設の周辺市町村が、消防施設を強化、

 整備する場合

 演習場内の荒廃により、周辺住民が使用してきた湧水や流水が減少

 したため、市町村が水道の設置などを行う場合

 航空機騒音のある地域で、児童の下校後の学習、青少年や成人に対する社会教育あるいは集会などを静かな環境下で行えるようにするため、市町村が、学習、集会などのための施設を設置する場合(民生安定施策の例(体育館)

(4) 特定防衛施設周辺整備調整交付金の交付

ジェット機が離着陸する飛行場、砲撃や射爆撃が行われる演習場、港湾などの防衛施設の中には、市町村の面積に占める割合が非常に大きいなど、その設置や運用が周辺地域の生活環境や開発に著しい影響を及ばしているものがある。このため、関係市町村が、公共用施設の整備に他の市町村に比ベ特段の努力を余儀なくされているような場合がある。内閣総理大臣は、このような防衛施設及び関係市町村をそれぞれ「特定防衛施設」及び「特定防衛施設関連市町村」として指定することができる。国は、これらの市町村に対して、公共用施設(文通施設、医療施設、教育文化施設、社会福祉施設など)の整備に充てる費用として、特定防衛施設の面積、運用の態様などを基礎として算出した交付金を交付し、いわぼ町づくりに側面から協力することとしている。

(5) その他の施策

これらの施策のほか、航空機の頻繁な離着陸その他の行為により農業、林業、漁業などを営む者に事業経営上の損失を与えた場合には、その損失の補償を行っている。

以上に述べた防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する主な施策の昨年度における実施状況は、第4−4表に示すとおりである。

2 基地対策経費

 いわゆる基地対策経費は、次の各経費を合わせたものである。

 防衛施設周辺地域の生活環境の整備等のための施策に要する経費

 在日米軍の駐留を円滑にするための提供施設の整備に要する経費

 各種の補償などに要する経費

 在日米軍の日本人従業員の福祉対策、離職者対策及び従業員対策に

 要する経費

 在日米軍の施設・区域の整理統合に要する経費

 本年度当初予算においては、約3,738億円となっており、これらの予算の推移は、第4−9図に示すとおりである。

第3章 諸外国における国民と防衛

 諸外国においては、国の防衛には、国民の積極的な支持と協力が必要との考えから、国の防衛と国民との関係について憲法や法律等で規定し、国の防衛のための国民の協力態勢が確立しているのが一般的である。

 本章においては、自由主義諸国、社会主義諸国、いわゆる中立国などのうち、いくつかの国における国民と防衛に関する規定などを紹介する。

1 自由主義諸国

 自由主義諸国は、個人の自由を最大限に保障することに高い価値を置いているが、同時にそれを可能とする体制を守るための国民の強い決意を憲法あるいは基本法などで表明し、さらにそのための具体的な手だてを講じている例が多い。

 一方、多くの国で、軍隊を管理・運営する行政組織(多くの場合国防省)の長を文民としたり、国民の代表である議会が軍隊の予算、組織など重要な事項を議決するなど、軍事力に対する民主主義的な政治統制が行われている。

(1) 米国

米国では、憲法の前文において「われら合衆国の国民は、より完全な連邦を形成し、正義を樹立し、国内の静穏を保障し、共同の防衛に備え、一般の福祉を増進し、われらとわれらの子孫の上に自由の祝福のつづくことを確保する目的をもって、アメリカ合衆国のために、この憲法を制定する」と規定している。米国は、1973年以来志願制をとっているが、併せて、1980年、徴兵登録制を復活させ、必要なときに徴兵制へ移行できるように、徴兵の対象となる者のリストを整備している。予備役としては、志願者、現役軍除隊者などで構成される予備役軍や州兵軍があり、現役部隊による訓練にも参加している。これらの要員は、あらかじめ有事の際に編入される部隊が指定されており、陸軍では有事総兵力の半数近くを充足できるようになっている。

また、非常事態において民間航空機により軍の空輸能力を向上させるため、民間予備飛行隊(CRAF;Civil Reserve Air Fleet)の制度を定めている。

さらに、高校、大学に在学中の希望者に対して奨学金を与え、軍事訓練を行い、卒業後は現役または予備役軍人に任命する制度を設けている。

(2) 英国

英国では、1961年に徴兵制を廃止し、志願制に移行しており、軍務経験者からなる予備役のほか軍務経験を必要としない志願予備役の制度を有している。志願予備役の隊員は、民間での仕事を続けながら、週末などに行われる年間12日の訓練や、通常、夏季に行われる15日間の連続野営訓練などに参加する。これらの予備兵力は、陸軍では正規軍の約1.6倍である。

また、英本国と属領に対し急迫した脅威または攻撃を受けた場合、女王(国王)はその大権(Prerogative Power)の一つとして、船舶徴用の権限を有している。

(3) フランス

フランスでは、憲法第34条において「国防のために課せられる身体又は財産による市民の負担」を法律で定めると規定している。この規定に基づき、「国家役務法」において、満18歳から50歳までのすべての男子は、一定の期間、兵役・民間防衛などの役務に従事する義務及びこれらの役務に従事した後、一定年齢まで軍又は民間防衛の予備役となる義務を有する旨を定めている。これにより、陸軍の有事総兵力の約半数を予備役に依存している。

大統領により総動員などが決定されると、政府は、「(a)人員、財産及び役務を微用する権限、(b)エネルギー源、原料、工業製品及び補給に必要な製品を統制・分配する権限」を付与されることとされている。

(4) 西独

西独では、基本法第12a条第1項において「男子に対しては、18歳から軍隊、国境警備隊又は民間防衛団における役務に従事する義務を課することができる」と規定している。さらに同条第3項では「兵役義務を負う者で役務に従事していない者に対しては、法律により民間人の保護を含む国防目的のための義務を負わせ得る」とある。西独の男子は15か月間の現役勤務のあと、原則として一定の年齢まで予備役に指定され、平素から動員召集訓練などに応じており、陸軍の予備役の規模は、正規軍の約2倍となっている。

また、基本法に基づき定められた連邦給付法は、厳格な条件を付しつつも、防衛目的などのため、政府が動産、不動産、通信手段などを使用・収用できる旨規定している。

(5) 韓国

韓国では、憲法第39条において「すべての国民は、法律が定めるところにより、国防の義務を負う」と規定している。また、郷土予備軍、民間防衛隊など平時兵力の約13倍の人々が、民間にあって国防に直接、間接に関与している。さらに、徴発法は、戦時などにおいて、政府が土地、物資、施設などの使用・収用などを行える旨規定している。

韓国の民間防衛訓練は、民間防衛隊員はもとより、一般市民に至るまで多くの国民が参加して行われており、特に毎月15日の「民間防衛の日」には、防空訓練や化学・生物兵器、核兵器などによる攻撃からの退避訓練も含めて全国規模の訓練を行っている。

2 社会主義諸国

 社会主義諸国では、国家が国民の意思と利益を体現しているとして、国の防衛を国民の崇高な責務と位置付けている例が多い。

(1) ソ連

ソ連では、憲法第31条において「社会主義祖国の防衛は、国家の最も重要な機能に属し、全人民の事業である。社会主義の獲得物とソビエト人民の平和な労働、国家の主権と領土保全の防衛を目的として、ソ連軍が創設され、かつ、一般兵役義務が制定される」と規定している。この規定に基づき、ソ連は「一般兵役義務法」を定め、18歳から26歳の男子に対し、一定の期間兵役に従事することを義務付けている。

また、現役勤務を終えた者のみならず特殊事情により現役勤務に就かなかった者も、年齢などによって区分された予備役に編入され、階級ごとに定められた年齢(例えば、兵士は50歳)まで召集訓練を受け、一般市民として生活しながら国防に参加している。これにより、ソ連は平時から大規模な予備兵力を保有している。

さらに、学校においては10年制中等学校の9年生(15〜16歳)以上の生徒などに対し、また、企業やコルホ−ズなどにおいては17歳に達した青年に対し、初等軍事訓練を行っている。

(2) 中国

中国では、憲法第55条において「祖国を防衛し、侵略に抵抗することは、中華人民共和国のすべての公民の神聖な責務である。法律に従って兵役に服し民兵組織に参加することは、中華人民共和国公民の光栄ある義務である」と規定している。この規定に基づき、中国は「兵役法」を定め、18歳から22歳の男子に対し、一定の期間兵役に従事することを義務付けているほか、軍隊の必要に基づき、女子も徴兵できることとしている。また、現役勤務終了者や、18歳から35歳までの兵役条件に合致する男子で現役勤務に就かない者を予備役に編入している。

さらに、高級中学(高校)、高等院校(大学など)などの学生に対し、基本的な軍事訓練を行っている。

(3) 北朝鮮

北朝鮮では、憲法第72条で「祖国防衛は公民の最大の義務であり、栄誉である。公民は祖国を防衛しなけれぼならず、法の定めるところに従って、軍隊に服務しなければならない」と規定しており、徴兵制を採っている。

北朝鮮は、正規予備軍約54万人を有するほか、準軍隊としての「労農赤衛隊」、「赤い青年近衛隊」などを有しているといわれている。

3 中立国等

 いわゆる中立国などにおいては、独力で国の防衛を全うするために、関係の法令などを整備するとともに、人口に比して大規模な動員態勢を確立し、民間防衛態勢も充実している例が多くみられる。

(1) スイス

スイスでは、憲法第18条において「いずれのスイス人も、兵役の義務を負う」と規定するのを始めとして、さまざまな施策を講じ、防衛態勢の確立に努めている。

スイスは、原則として20歳から50歳までのすべての男子に対し兵役義務を課しており、年齢に応じて一定期間の訓練を行っている。兵役勤務適格者は、17週間の基礎訓練を受けた後、部隊に編入されたまま一般市民生活に戻る。その後、更に50歳まで、合計で最低32週間の訓練を受けるようになっている。

スイスの兵力は、約3,800人の教官、パイロットなどの職業軍人と約63万人の民兵であるが、有事には8時間以内に民兵の主要部隊、48時間以内に全部隊の動員が可能な態勢を整えているといわれている。

また、戦時などにおいて、各人は、軍事目的のため動産又は不動産を軍当局又は部隊に提供する義務を負うこととされている。

さらに、全国の家庭には、司法・警察省が発行した「民間防衛」という小冊子が配布されており、それには祖国愛、戦時の防衛態勢、市民の自衛抵抗措置などが事細かに記述されている。

(2) スウェーデン

スウェーデンでは、「義務兵役法」により、18歳から47歳までの男子は軍務に就くよう規定されている。一般に兵役義務者は、7か月半〜15か月の基礎訓練を受けた後、数年を経てから、戦闘部隊が18〜25日間実施する機動演習に5回召集されて訓練を受ける。このようにして訓練を受けた大部分の兵役義務者は、平時は一般市民として生活し、動員発令後、直ちに国防に参加する。こうしてスウェーデンは、平時約6万7千人の兵力を、有事には72時間以内に郷土防衛隊を含め国民の約1割に当たる約80万人まで動員する態勢を整えているといわれている。

また、非常事態下で運用される法律が30余りあり、戦時などにおける海運、鉄道、医療、食料、電力などについてまで法規が整備されている。

さらに、民間防衛組織を通じて、戦時における国民の行動などについてのパンフレットなどが各家庭に配布されている。

(3) フィンランド

フィンランドでは、憲法第75条において「フィンランド国のすべての国民は、祖国防衛に参加し、あるいはこれを援助する義務を有する」と規定している。

フィンランドは、1947年に連合国との間で締結した平和条約(パリ条約)により平時兵力を合計4万1,900人以下に制限されており、このため、有事には予備役が兵力の中心となる。男子は20〜21歳で8〜11か月間の微兵訓練を終えた後、50歳まで予備役として訓練を受けている。このようにして、約490万人という人口にもかかわらず、有事には動員発令後まず約25万人、最終的には約70万人の兵力となるといわれている。また、非常事態においては、政府は、輸送、生産活動、経済活動の統制などを行うことができる。