第2部

わが国の防衛政策

第1章 わが国の安全保障

第1節 安全保障を確保するための努力

1 安全保障の重要性

(1) 現在、世界には160を超える国家がある。これらの国は、国際社会において、それぞれ自国の発展と繁栄を目的として、政治、径済、文化などの面において相互に交流を図りながら活動している。国の発展と繁栄という目的は、匡が安全であるという基七住があって初めて十分に追求できるものであるが、千トン賂により可の独立と下和がド害される可能性があり得ることは、ん厳な肛しU白勺事りことして認めないわけには、いかない。

他方、今日の国際社会においては、侵略を未然に防止し、万一、侵略が発生した場合、これに有効に対処できるような世界的な機構はない。

このため、各国は、国の安全保障を重視し、国力国情に応じ、安全保障を確保するためのさまざまな努力を行っている。

(2) 今日、わが国ほ自由と民主主義を基本理念とする白由主義国家として充展を続けている。わが国が第2次世界太戦後の廃垢から今日の繁栄と発展を遂げてきたのは、国民の英知と努力のたまものであることはいうまでもないが、その背景には、武力紛争が絶えることのない厳しい国際環境の中で、外国からの侵略を受けることなく、安全が保たれてきたことがある。今日の自由で活力のある国民生活は、良き伝統を受け継ぎ、独自の文化を育み、国民の幸福を増進するための基盤である。これを今後とも維持していくためには、わが国は、将来にわたって安全を確保していかなければならない。

相互依存関係がますます深まっている今日の国際社会において、わが国は国際関係全般にわたって大きな責任と役割を有しており、世界の平和と繁栄に一層貢献することが期待されているが、わが国の安全保障の確保は、わが国がこのような国際的貢献を果たすに当たっての前提であるといえよう。

2 外交等の分野での努力

 国の安全を確保するための手段として、外交などの分野での努力は極めて重要である。外文などによって平和的な国際環境を造り、内政諸施策によって国内の政治、経済、社会の安定化を図り、侵略が発生しにくい環境を造り上げておくことが、国の安全の確保にとって何よりもまず大切だからである。特に、経済的相互依存関係が深まり、国際協調の必要性や国内間題と国際問題とのつながりが強まるにつれて、これらの分野での努力の重要性は増している。

 わが国の場合、外交面では、対米関係を基軸として西側諸国との協調を図りつつ、より低い軍事的水準における東西関係の安定化のため、米ソ間や欧州における軍備管理・軍縮交渉の動きに貢献するとともに、東側との間に広範な分野で対話と文流の拡大に努めている。また、アジア、中東、アフリカ、中南米地域にある発展途上国の安定と発展の動向も、国際社会の平和と安定に影響を与えることから、わが国としても、世界に貢献する日本の立場に立って、近年、発展途上国の自助努力に対し、顕著な協力を行っているところである。さらに、国際社会の発展と平和維持のために重要な機能を果たしている国際連合等を通じても、わが国は多大の貢献を行っている。

 なお、政府は、昨年5月、紛争解決のための外交努カへの積極的参加、要員の派遣、資金協力などを含む平和のための協力構想の確立、国際文化交流の強化、政府開発援助(ODA)の拡充強化からなるわが国の「国際協力構想」を明らかにした。

 このほか、国民生活を安定させ、国民の国を守る気概の充実を図り、安全保障の基盤を確立することが国の平和と安全を確保するために重要であるとの観点からも、内政面を中心に各般の努力が行われている。

3 防衛分野での努力

 国の安全を確保する上で、外交などの分野での努力は欠くことのできないものである。しかし、こうした努力のみでは、実力をもってする侵略を必ずしも有効に未然防止することはできないし、また、方一侵略を受けた場合、これに反撃し、これを排除することはできない。このため、侵略を未然に防止するとともに、万一侵略を受けた場合、これを排除するための防衛分野での努力を平素から進めておくことが必要である。その際、外交などの分野での努力と整合性をもって進めることが肝要である。

 第1部で述べたように、第2次世界大戦後今日まで、米国とソ連の強力な軍事力を中心とする東西の集団安全保障体制の対()の枠組みによって、核戦争やそれに至るような大規模な武力紛争が抑止されてきた。このような中で、米国を中心とする自由主義諸国は、自国の安全確保はもとより、自国が属する集団安全保障体制の維持・強化にいかに貢献すべきかとの観点をも踏まえ、防衛分野において大きな努力を払ってきている。

 わが国についていえば、自ら適切な規模の防衛力の整備を進めるとともに、米国との安全保障体制を堅持し、その信頼性を高めていくことが、わが国の安全を確保する上で基本的に重要であるとの考えに立って、継続的な努力を行っているところである。

第2節 自由主義諸国の一員としての日本の役割

 今日のわが国の繁栄と発展は、国民の努力に加えて、わが国が、一貫して、自由と民主主義を共通の価値観とする自由主義諸国の一員として、関係各国との友好と協調を図ってきたたまものでもあろう。

 この背景としては、

 東西両陣営間の力の均衡を背景に、東西間の核戦争やそれに至るような大規模な武力紛争が抑止されてきたこと

 IMFガットなど、自由主義経済を支え、経済成長や貿易の拡大を可能とする枠組みが存在し、機能してきたこと

 OECDや先進国首脳会議など、自由主義先進国間の政策協調を可能とする枠組みが存在し、機能してきた

ことなどが挙げられる。

 わが国が、これからも国の安全を確保し、発展していくためには、今後ともこれらの枠組みの中で米国を始めとする自由主義諸国との友好と協調によって世界の平和と安定を維持することが重要である。

 米国は、その大きな軍事力・経済力を基盤に、依然として国際社会において中心的な存在であるが、近年同国が直面している困難な経済、財政事情の中で、同盟諸国の防衛のために過大なコストを担っているとの認識が国内に広まりつつある。これを背景として、経済的に力をつけてきた同盟諸国に対し、世界の平和と繁栄のため、各々の力量に応じた貢献を求め、より公平に負担を分かち合うべきであるとの議論が米議会を中心として、現在盛んに行われている。

 自由主義諸国の中で米国に次ぐ経済力を持つようになったわが国としては、国際社会において、その占める地位にふさわしい役割を自主的判断に基づき果たすこととしているが、その際、平和国家としての立場を堅持するわが国としては、政治、経済、文化などの非軍事面でより一層の寄与をしていく必要がある。

 他方、わが国が以上のような国際的貢献を果たすに当たっては、まず、自国の平和と安全を守る努力が前提となることはいうまでもない。

 この面に関しては、わが国は、あくまでもわが国自衛のため防衛力の整備に努めることとしている。そして、このような努力は、わが国の安

 全をより一層確実なものとするだけでなく、日米安全保障体制の信頼性の維持強化にもつながり、結果的に、東西両陣営間の軍事バランス面において自由主義諸国の安全保障の維持にも貢献し、アジアひいては世界の平和と安全に貢献するものである。(第2−1図 主要国のGNPシェア)(山崎防衛庁長官とゴー・チョク・トン・シンガポール第一副首相兼国防大臣との会談(平成1.6)

 

(注) IMF(国際通貨基金):1944年7月、米国のプレトンウッズでIMF協定が調印され、1945年12月に発効し、1947年3月に業務を開始した。通貨間題に関する国際協力と国際貿易の拡大、為替の安定化を図り、加盟国間の正常取引について多角的な決済制度を確立すること、を目的とする国連の専門機関。加盟国は151か国。

(注) ガット(GATT:関税及び貿易に関する一般協定):1948年1月に発効した。関税や輸出入制限などの貿易障害を軽減・撤廃し、通商の差別待遇を廃止することにより、各締約国の経済発展を促すことを目的としている。正式加盟国は96か国。

(注) OECD(軽済協力開発機構):第2次世界大戦後の欧州復興のため設立されたOEEC(欧州経済協力機構)を発展的に改組し、l961年9月に発足した。経済成長、開発途上国援助、自由かつ多角的な貿易の拡大を目的としている。加盟国は24か国。

第3節 安全保障会議

 昭和61年7月、内閣に安全保障会議が設置され、従来国防に関する重要事項を審議する機関として内閣に設置されていた国防会議は廃止された。安全保障会議は、従来の国防会議の任務をそのまま継承するとともに、ミグ25事件(昭和51年9月)、ダッカにおけるハイジャック事件(昭和52年9月)、大韓航空機事件(昭和58年9月)のような、わが国の安全に重大な影響を及ばすおそれのある重大緊急事態への対処措置等をも審議するものである。

 内閣総理大臣は、

  国防の基本方針

  防衛計画の大綱

  の計画に関連する産業等の調整計画の大綱

  防衛出動の可否

  その他内閣総理大臣が必要と認める国防に関する重要事項

については安全保障会議に諮らなければならない。

 また、内閣総理大臣は、重大緊急事態が発生した場合において、必要があると認めるときは、当該重大緊急事態への対処措置について安全保障会議に諮るものとされている。

 さらに、安全保障会議は、国防に関する重要事項及び重大緊急事態への対処に関する重要事項につき、必要に応じ、内閣総理大臣に対し、意見を述べることができる。

 安全保障会議は、内閣総理大臣を議長とし、内閣法第9条の規定によりあらかじめ指定された国務大臣、外務大臣、大蔵大臣、内閣官房長官、国家公安委員会委員長、防衛庁長官、径済企画庁長官を議員として構成される。また、議長は、必要があると認めるときは、関係の国務大臣、統合幕僚会議議長その他の関係者を会議に出席させ、意見を述べさせることができる。

第2章 防衛政策の基本

第1節 憲法と自衛権

1 わが国は、第2次世界大戦後、再ぴ戦争の惨禍を繰り返すことのないよう決意し、ひたすら平和国家の建設を目指して努力を重ねてきた。恒久の平和は、日本国民の念願であり、この平和主義の理想を掲げる日本国憲法は、第9条に戦争放棄、戦力不保持及び交戦権の否認に関する規定を置いている。

2 もとより、わが国が独立国である以上、この規定が主権国家としてのわが国固有の自衛権を否定するものでないことは、異論なく認められている。政府は、このようにわが国の自衛権が否定されない以上、その行使を裏付ける自衛のための必要最小限度の実力を保持することは憲法上禁止されているものではないと解しており、専守防衛(第2節参照)をわが国防衛の基本的な方針として、実力組織としての自衛隊を保持し、その整備を推進し、運用を図ってきた。

3 憲法の諸規定のうち、戦争の放棄などを定めた憲法第9条の趣旨に

 ついての政府の見解は、次のとおりである。

(1) わが国が憲法上の制約の下において保持を許される自衛力は、自衛のための必要最小限度のものでなければならない。

自衛のための必要最小限度の実力の具体的な限度については、そのときどきの国際情勢、軍事技術の水準その他の諸条件により変わり得る相対的な面を有することは否定し得ないが、憲法第9条第2項の「戦力」に当たるか否かは、わが国が保持する全体の実力についての問題であって、自衛隊の保有する個々の兵器については、これを保有することにより、わが国の保持する実力の全体がこの限度を超えることとなるか否かによって、その保有の可否が決せられるものである。

しかしながら、個々の兵器のうちでも、性能上専ら相手国の国土の懐滅的破壊のためにのみ用いられるいわゆる攻撃的兵器を保有することは、これにより直ちに自衛のための必要最小限度の範囲を超えることとなるから、いかなる場合にも許されず、したがって、例えば、lCBM、長距離戦略爆撃機、あるいは攻撃型空母を白衛隊が保有することは許されない。

(2) 白衛権の発動については、いわゆる自衛権発動の三要件、すなわち、わが国に対する急迫不正の侵害があること、この場合にこれを排除するために他に適当な手段がないこと及び必要最小限度の実カ行使にとどまるべきことの三要件に該当する場合に限られる。

(3) わが国が白衛権の行使としてわが国を防衛するため必要最小限度の実力を行使できる地理的範囲は、必ずしもわが国の領土、領海、領空に限られるわけではないが、それが具体的にどこまで及ぶかは個々の状況に応じて異なるので、一概にはいえない。しかしながら、武力行使の目的をもって武装した部隊を他国の領土、領海、領空に派遣するいわゆる海外派兵は、一般に自衛のための必要最小限度を超えるものであって、憲法上許されないと考えている。

(4) 国際法上、国家は、集団的自衛権、すなわち、自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻.止する権利を有しているものとされている。わが国が、国際法上、このような集団的自衛権を有していることは、主権国家である以上当然であるが、憲法第9条の下において許容されている自衛権の行使は、わが国を防衛するため必要最小限度の範囲にとどまるべきものであると解しており、集団的自衛権を行使することは、その範囲を超えるものであって、憲法上許されないと考えている。

(5) 憲法第9条第2項は、「国の交戦権は、これを認めない」と規定しているが、わが国は、自衛権の行使に当たっては、既に述べたように、わが国を防衛するため必要最小限度の実力を行使することが当然に認められており、その行使は交戦権の行使とは別のものである。

第2節 国防の基本方針等

1 わが国の防衛政策は、昭和32年5月に国防会議及び閣議で決定された「国防の基本方針」にその基礎を置いている。

また、昭和62年1月の閣議決定(資料12参照)でも述べているとおり、わが国は、平和憲法の下、専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国とならないとの基本理念に従し、日米安保体制を堅持するとともに、文民統制を確保し、非核三原則を守りつつ、節度ある防衛力を自主的に整備してきている。

2 ここで、専守防衛とは、相手から武力攻撃を受けだとき初めて防衛力を行使し、その防衛力行使の態様も自衛のための必要最小限にとどめ、また、保持する防衛力も自衛のための必、要最小限のものに限られるなど、憲法の精神にのっとった受動的な防衛戦略の姿勢をいうものである。

3 非核三原則とは、核兵器を持たず、作らず、持ち込ませずという原則を指すものである。

なお、核兵器の製造・保有は、原子力基本法の規定の上からも禁止されているところであるが、さらに、わが国は、昭和51年6月、核兵器の不拡散に関する条約を批准し、非核兵器国として核兵器を製造しない、取得しないなどの義務を負っている。

4 また、文民統制(シビリアン・コントロール)については、次のように考えている。

自衛隊は、国民の意思にその存立の基礎を置くものであり、国民の意思によって整備・運用されなければならないことから、旧憲法下の体制とは全く異なり、厳格なシビリアン・コントロールの下にある。

シビリアン・コントロールの実態を画一的なものとしてとらえることはできないが、現在の欧米などの民主主義国では、シビリアン・コントロールとは、民主主義政治を前提としての、軍事に対する政治優先又は軍事力に対する民主主義的な政治統制を指すといわれている。

わが国の場合は、終戦までの経緯に対する反省もあり、他の民主主義諸国と同様、厳格なシビリアン・コントロールの諸制度を採用した。

まず、自衛隊は、国民の代表たる国会によって、そのコントロールを受けている。自衛隊の定員、組織、予算などの重要な事項は国会で議決され、防衛出動については国会の承認が必要とされていることなどのほか、自衛隊の諸問題に関しては絶えず国会で審議されている。

次に、内閣は、国会に提出する法律案や予算案を決定し、政令を制定し、あるいは、防衛にかかわる重要な方針や計画を決定している。この内閣を構成する内閣総理大臣その他の国務大臣は、憲法上文民でなけれぱならないことになっている。内閣総理大臣は、内閣を代表して自衛隊に対する最高の指揮監督権を有しており、自衛隊の隊務を統括する防衛庁長官も、文民である国務大臣をもって充てられる。

内閣には、国防に関する重要事項及び重大緊急事態への対処に関する重要事項を審議する機関として安全保障会議が置かれている(第1章第3節参照)。

さらに、防衛庁では、防衛庁長官が自衛隊を管理し、運営するに当たり、政務次官及び事務次官が長官を助けるのはもとより、基本的方針の策定については、いわゆる文官の参事官が補佐するものとされている。

このように、自衛隊を民主的に管理・運営するためのシビリアン・コントロールの制度は、わが国においても整備されている。

なお、シビリアン・コントロールの制度がその実をあげるためには、政治、行政両面における運営上の努力が今後とも必要であることはもとより、国民全体の防衛に対する深い関心と隊員自身のシビリアン・コントロールに関する正しい理解と行動が必要とされるところである。(自衛隊高級幹部の異動の挨拶を受ける宇野内閣総理大臣(平成1.6)

第3節 防衛政策の二本柱−自衛隊と日米安全保障体制

 わが国の国防の目的は、国防の基本方針に定められているとおり、「直接及び問接の侵略を未然に防止し、万一侵略が行われるときはこれを排除し、もって民主主義を基調とするわが国の独立と平和を守る」ことにある。このため、わが国は、自衛隊を保有し、日米安全保障体制を堅持している。

 防衛政策は、この国防の目的を達成するため、先に述べた防衛政策の基本にのっとり、関係法令に従い、他の政策との協調・調和を図りつつ、策定。実施されている。

1 自衛隊

 自衛隊は、白衛隊法上、「わが国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、直接侵略及び間接侵略に対しわが国を防衛することを主たる任務とし、必要に応じ、公共の秩序の維持に当たる」ものと定められている。具体的には、「防衛出動」、「治安出動」、「海上における警備行動」、「災害派遣」、「地震防災派遣」、「領空侵犯に対する措置」などの行動を自衛隊法の定める要件、手続きに従い実施する。

 このような自衛隊については、主として、いかにして効率的で質の高い防衛力として整備し、いかに効率的に運用するかとの観点に立って、その管理・運営に当たっている。

2 日米安全保障体制

 わが国が核兵器の使用を含む全面戦争から通常兵器による各種の侵略事態など、考え得るあらゆる事態に対処できる態勢を独自に築くことは不可能である。このため、わが国は、自ら適切な規模の防衛力を保有するとともに、米国との安全保障体制とあいまって、わが国の安全を確保することとしている。

 日米安全保障条約は、第5条において、「各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続きに従って共通の危険に対処するように行動することを宣言する」と規定し、わが国への武力攻撃があった場合において、日米両国が共同対処することを定めている。

 この米国の日本防衛義務を中核とする日米安全保障体制によって、わが国に対する外部からの武力攻撃は、自衛隊のみならず、米国の強大な軍事力とも直接対決する可能性を有することとなり、侵略国は相当の犠牲を覚悟しなければならないため、侵略を蹟踏(ちゆうちよ)せざるを得なくなり、侵略の未然防止につながることとなる。

 また、同条約は、第6条において、「日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される」と規定し、同条に基づき米国は、その軍隊を日本に駐留させている。この在日米軍のプレゼンスは、わが国の安全に大きく寄与しているのみならず、極東の平和と安全の維持にも寄与している。

 このように、わが国の安全を確保する上で必要不可欠な日米安全保障体制を実効性のあるものとするため、施設・区域の提供による在日米軍の運用体制の円滑化を進めるとともに、各種研究、共同訓練、共同研究開発など各般の日米防衛協力を中心とする日米の相互協力によって、日米安全保障体制の信頼性の一層の向上を図っている。

(注) 間接侵略:外山の教唆又は干渉によって引き起こされる大規模な内乱及び騒(じよう)

第3章 防衛政策

第1節 防衛計画の大綱

 わが国は、昭和33年度以降、3年又ほ5年を対象とする防衛力整備計画を4次にわたって策定し、防衛力の充実整備に努めてきたが、第4次防衛力整備計画が昭和51年度をもって終了することに伴し、昭和51年10月、「防衛計画の大綱」(「大綱」(資料10参照))を国防会議及び閣議において決定した。

 「大綱」は、わが国が平時から保有すべき防衛力の水準を明らかにし、わが国の防衛力整備のあり方などについての指針を示したもので、ある。昭和52年度以降の防衛力整備は、この「大綱」に従って進められてきた。

1 「大綱」が前提にしている国際情勢等

 「大綱」は、「安定化のための努力が続けられている国際情勢及びわが国周辺の国際政治構造並びに国内諸情勢が、当分の間、大きく変化しないという前提」に立ち、この国際情勢の基本的枠組みを次のように記述している。

 核相互抑止を含む軍事均衡や各般の国際関係安定化の努力により、東西間の全面的軍事衝突又ほこれを引き起こすおそれのある大規模な武力紛争が生起する可能性は少ない。

 わが国周辺においては、限定的な武力紛争が生起する可能性を否定することほできないが、大国間の均衡的関係及び日米安全保障体制の存在が国際関係の安定維持及びわが国に対する本格的侵略の防止に大きな役割を果たし続けるものと考えられる。

2 防衛の構想

 「大綱」は、上記の国際情勢などを前提とし、次項に述べるわが国が保有すべき防衛力を導き出す基本的な考え方として、「防衛の構想」を示している。

 その中で、まず、わが国の防衛は、日米安全保障体制とあいまって、いかなる態様の侵略にも対応し得る防衛体制を構成することにより、侵略を未然に防止することが基本であるとし、このため、わが国自ら適切な防衛力を保有することなどを定めている。

 また、万一、侵略事態が発生した場合には、米国の協力とあいまって、侵略を早期に排除することなどを定めている。

3 わが国が保有すべき防衛力

 「大綱」は、わが国が平時から保有すべき防衛力の水準などの枠組みについて、

 防衛上必要な各種の機能を備え、後方支援体制を含めてその組織及び配備において均衡のとれた態勢を保有するものであること

 平時において十分な警戒態勢をとり得るものであること

 限定的かつ小規模な侵略に原則として独力で対処し得るものであること

 情勢に重要な変化が生じ、新たな防衛力の態勢が必要とされるに至ったときには、円滑にこれに移行し得るよう配意された基盤的なものであること

と定めるとともに、わが国の防衛力が備えるべき「防衛の態勢」及びこの態勢を保有するための基幹として維持すべき「陸上、海上及び航空自衛隊の体制」を示している。

 なお、ここにいう「限定的かつ小規模な侵略」とは、全面戦争や大規模な武力紛争に至らない規模の侵略、すなわち限定的な侵略のうち、小規模なものをいう。その規模、態様等を具体的に示すことは困難であるが、一般的には、事前に侵略の意図が察知されないよう、侵略のための大掛かりな準備を行うことなしに行われ、かつ、短期間のうちに既成事実を作ってしまうことなどをねらいとしたものである。

 このような基本的考え方に基づいて保有すべき防衛力の具体的規模については、「大綱」の別表において、「大綱」策定時における装備体系を前提とした各自衛隊の基幹部隊、主要装備等を掲げ、その枠組みを明示している。

 また、「大綱」は、防衛力の整備に当たっては、「大綱」の定める防衛の態勢、陸上・海上及び航空自衛隊の体制を整備し、「諸外国の技術的水準の動向に対応し得るよう、質的な充実向上に配意しつつこれらを維持することを基本とし」、さらに、「その具体的実施に際しては、そのときどきにおける経済財政事情等を勘案し、国の他の諸施策との調和を図りつつ」行うものとしている。(第2−1表 「防衛計画の大綱」の達成状況

第2節 防衛力の具体的機能

 「防衛計画の大綱」(「大綱」)では、わが国が保有すべき防衛力の具体的規模己ついて、別表において各自衛隊の基幹部隊、主要装備等を掲げ、その枠組みを明示している。

 本節においては、「大綱」に基づく防衛力整備の理解に資するため、これらの防衛力の具体的機能について例示的に説明する。

 わが国に対する侵略の規模や態様は、そのときどきの国際軍事情勢やわが国の防衛態勢、侵略国の意図などによってさまざまであろうが、わが国の地理的特性などから判断すれば、侵略の主要な形態としては次の4つが考えられる。

 陸・海・空戦力による着上陸侵攻

 海・空戦力による領域への攻撃

 海・空戦力による海上文通の妨害

 これらの複合

 このようなことから、自衛隊にほ主として防空、着上陸侵攻対処及び海上交通の安全確保のための各機能が要求される。なお、実際の運用に当たっては、日米安全保障条約に基づき、米軍が自衛隊と共同してわが国の防衛に当たることほいうまでもない。

1 防空のための機能

 わが国に対する侵略が行われる場合、まず航空機による急襲的な攻撃で開始され、この航空攻撃は、侵略が続いている間、反復して行われる可能性が高い。

 防空作戦は、航空自衛隊が主体となって行う全般的な防空と、陸・海・空各自衛隊がそれぞれの基地や部隊等を守り、あわせて防空作戦全体の効果を増犬させるために行う個別的な防空に区分される。

 全般的な防空においては、敵航空機の侵攻に即応し、所要の部隊をもってこれをできる限り国土から遠くの空域で要撃し、敵に大きな損害を与え続けるよう努める。

 航空警戒管制部隊は、全国28個所に設置したレーダ−サイトによりわが国のほば全空域を常続的に監視するほか、警戒飛行部隊が早期警戒機を用いて地上レーダーの死角となる低空域を監視して、侵攻してくる航空機をできるだけ早期に発見する。

 次いで、航空警戒管制部隊は、自動警戒管制組織(バッジシステム)を用いて、目標の識別、戦闘機・地対空誘導弾部隊への目標の割り当てと要撃管制を迅速に行う。

 この要撃管制などを受けて、要撃戦闘機部隊と地対空誘導弾部隊(高空域防空用及ぴ低空域防空用)などが目標を要撃する。

 以上の作戦の実施により、敵に航空優勢を獲得させず、国民と国土の被害を防ぎ、防衛作戦全般を遂行する能力を確保するとともに、敵の航空攻撃の継続を困難にする。(第2−2図 防空作戦の例)(第2−3図 着上陸侵攻対処作戦の例

2 着上陸慢攻対処のための機能

 着上陸侵攻は、侵略国が領土の占領などの目的で、輸送機、揚陸艦艇などに地上部隊を搭載し、これらの部隊を相手国の国土に着陸又は上陸させて侵略する侵攻形態である。

 この着上陸侵攻に対処するための作戦は、陸・海・空各自衛隊が協同して行う

 洋上における対処

 海岸・着陸地域における対処

 内陸における対処

に区分される。

 洋上又は着上陸の際にあっては、侵攻してくる地上部隊は、所要の海空兵力に(えん)護されてはいるであろうが、いまだ組織的なカを発揮できる状態にはない。自衛隊は、このような機会を利用し、国土に戦火が及ぼないよう努めて前方で対処し、侵攻部隊の早期撃破に努める。

 洋上における対処

侵攻部隊に対し、艦艇部隊による攻撃、支援戦闘機部隊による航空阻止、地対艦誘導弾による攻撃などさまざまな作戦を行い、できる限り洋上で撃破して、その侵攻兵力の減殺に努める。

 海岸・着陸地域における対処

上陸してくる敵に対しては、海上自衛隊は、機雷敷設戦を行い、その行動を妨害・阻止する。陸上自衛隊は、海岸に近い地域に配置した部隊の火力により、敵を水際で阻止することに努める。

さらに敵が上陸してきた場合には、師団を基幹とする主要部隊により、敵を撃破してわが国土から排除する。

敵の空挺攻撃ヘリボン攻撃などに対しては、陸・空自衛隊が防空作戦などを行う。地上に降着された場合は、主として陸上自衛隊の火力と機動打撃力をもって撃破する。

 内陸における対処

万一、敵を早期に撃破できなかった場合には、主として陸上自衛隊が内陸部において持久作戦を行い、この間に他の地域から部隊を集結して反撃し、侵略を排除する。

 これらの各段階の作戦を通じて、海上自衛隊は艦艇部隊などにより敵の増援や後方補給路を遮断することに努め、航空自衛隊は支援戦闘機部隊などによる航空阻止、陸・海作戦の直接支援を行う。

 以上の作戦の実施により、侵攻部隊の早期撃破に努める。万一、それができなかった場合にも占領の既成事実を作らせないよう持久し、この間に態勢を整えて反撃し、侵略を排除する。

3 海上交通の安全確保のための機能

 資源、エネルギー、食料など生存に必要な多くの重要物資の海外依存度が高いわが国にとって、海上交通の安全確保は、その生存基盤の確保や継戦能力及び米軍の来援基盤の確保のために必要である。

 わが国に対する海上交通の妨害は、敵が潜水艦、航空機などを使用してわが国周辺を航行する船舶を攻撃したり、航空機、艦艇による攻撃や機雷の敷設により港湾の使用を妨害することなどが考えられる。

 この妨害に対処し海上交通の安全を確保するため、自衛隊は、敵の多様な手段、方法による攻撃に対応して、哨戒、護衛、防空、港湾・海峡の防備などの各種の作戦を行う。

 周辺海域においては、対潜機部隊(固定翼対潜哨戒機)による広域哨戒や、護衛艦部隊などによる船舶航行の要域の哨戒により、外洋に展開してわが船舶を攻撃しようとする敵艦艇を制圧する。必要に応じ、護衛艦部隊や対潜機部隊により船舶を護衛する。哨戒や護衛においては、海上自衛隊は、脅威の態様に応じ、対潜戦、対水上戦、防空戦を行う。

 沿岸海域においては、船舶の出入りの多い重要港湾付近などで掃海部隊、対潜機部隊(主として回転翼対潜哨戒機)、護衛艦部隊などによる港湾の防備などを行う。これらの作戦においては、対潜戦、対機雷戦などを行う。

主要な海峡においては、これを通過しようとする敵潜水艦、水上艦艇に対し、護衛艦部隊、潜水艦部隊、対潜機部隊による一場合によっては、陸・空自衛隊と協同し−通峡阻止に努める。この作戦においては、対潜戦、対水上戦、機雷敷設戦などを行う。(第2−4図 対潜戦の例

 なお、洋上における防空は、護衛艦部隊が防空戦を行し、航行する船舶などを防護するほか、航空自衛隊がその能力の及ぶ範囲で防空作戦を行う。

 以上の作戦の実施により、敵の進出を阻止し、その兵力を漸減させ、敵の有効な作戦を阻むことなどの累積効果によって、海上交通の安全確保を図る。(第2−5図 洋上における防空の例

 

(注) 早期讐戒機:レーダ−を搭載し、空中から侵攻機を警戒監視することを主任務とする航空機

(注) 要撃戦闘機:来襲する敵航空機を迎え撃ち、空対空ミサイルや機関砲によって撃墜することを主任務とする戦闘機

(注) 航空阻止:主として支援戦闘機により、洋上においては艦船攻撃を行って侵攻兵力を撃破(洋上撃破)し、また、着上陸した部隊に対しては敵の後方連絡線、資材集積所、交通要路などに対する航空攻撃を行い、侵攻部隊の作戦遂行能力の減殺を図る作戦をいう。

(注) 師団:陸上戦闘に必要な各種の機能を備え、一定の期間独立して戦闘行動を行うことができる基本的な作戦部隊として位置付けられるものである。

(注) 空挺攻撃:陸上部隊が航空部隊と統合して航空機によって空中を機動し、降下又は着陸して行う攻撃であり、通常、特定地域を確保してじ後の地上作戦のための態勢を確立するために行われる。

(注) ヘリボン攻撃:地上戦闘部隊がへリコプターを使用して空中を機動し、着陸して行う攻撃であり、相手の弱点を急襲したり、速やかに地形上の要点を確保するなど、主力部隊の地上戦闘に寄与するために行われる。

第3節 日米安全保障体制の信頼性の確保

 日米安全保障体制の信頼性を維持向上させるためには、日米両国があらゆる機会をとらえて間断なき対話を行うことにより相互信頼と協調関係の確立を図るとともに、日米の防衛協力の下に、それぞれが応分の責任を果たし、同体制が有効に機能するよう努めることが必要である。このだめ、わが国は米国政府の関係者との協議(第3部第3章第1節参照)のほか、以下に述べるような施策を推進することとしている。

 

日米防衛協力−「日米防衛協力のための指針

 

(1) 「指針」の作成

日米安全保障条約が有効に機能するためには、この条約に基づき、有事及び平時において日米間で緊密な協力が行われなければならない。このような観点から、日米安全保障条約及びその関連取極の目的を効果的に達成するため、軍事面を含めて日米間の協力のあり方について研究・協議を行うこととし、日米安全保障協議委員会の下部機構として設置された防衛協力小委員会において研究・協議を重ね、その結果を取りまとめて、「日米防衛協力のための指針」(「指針」(資料15参助)が作成された。この「指針」は、昭和53年11月に開催された第17回日米安全保障協議委員会に報告され、了承された。

「指針」は、じ後行われるべき研究作業のガイドラインとしての性格を有するものであって、外務大臣及び防衛庁長官が処理すべきものであるが、その内容が日米防衛協力のあり方にわたるものであることから、シビリアン・コントロールの確保という面も考慮し、昭和53年11月、国防会議で審議を行い、さらに、閣議において、資料を席上配布の上、所管大臣たる外務大臣及び防衛庁長官が発言し、その経緯・内容を報告するとともに、防衛庁長官から「この指針に基づき自衛隊が米軍との間で実施することが予定されている共同作戦計画の研究その他の作業については、防衛庁長官が責任をもって当たることとしたい」旨の発言があり、いずれも、了承された。

(2) 「指針」の前提条件

「指針」は、次のことを前提条件としている。

 事前協議に関する諸問題、日本の憲法上の制約に関する諸問題及び非核3原則は、研究・協議の対象としない。
 研究・協議の結論は、日米安全保障協議委員会に報告し、その取扱いは、日米両国政府のそれぞれの判断にゆだねられるものとする。この結論は、両国政府の立法、予算ないし行政上の措置を義務づけるものではない。

(3) 「指針」の概要

「指針」の概要は、次のとおりである。

ア 前文

この「指針」は、日米安全保障条約及びその関連取極に基づいて日米両国が有している権利及び義務に何ら影響を与えるものではない。

この「指針」が記述する米国に対する日本の便宜供与及び支援の実施は、日本の関係法令に従う。

イ 侵略を未然に防止するための態勢

 日本は、自衛のために必要な範囲内において適切な規模の防衛力を保持し、かつ、施設・区域の安定的効果的使用を確保する。

米国は、核抑止力を保持するとともに、即応部隊を前方展開し、来援し得るその他の兵力を保持する。

 共同の対処行動を円滑に実施し得るよう、日本防衛のための共同作戦計画についての研究を行う。

 作戦、情報及び後方支援の事項につき、共通の実施要領を研究する。

 日本防衛に必要な情報を作成し、交換する。

 必要な共同演習及び共同訓練を実施する。

 補給、輸送、整備、施設等後ガ支援の各機能について研究を行う。

ウ 日本に対する武力攻撃に際しての対処行動等

(ア) 日本に対する武力攻撃がなされるおそれのある場合

 必要と認められるときは、 自衛隊と米軍との間に調整機関を開設する。

 作戦準備に関し、共通の準備段「皆をあらかじめ定めておき、両国政府の合意によって選択されたヰ備段「皆に従い、それぞれが必要と認める作戦準備を実施する。

(イ) 日本に対する武力攻撃がなされた場合

 日本は、原則として、限定的かつ小規模な侵略を独力で排除し、侵略の規模、態様等により独力で排除することが困難な場合には、米国の協力をまって、これを排除する。

 自衛隊は主として日本の領域及びその周辺海空域において防勢作戦を行い、米軍は自衛隊の行う作戦を支援し、かつ、自衛隊の能力の及ばない機能を補完するための作戦を実施する。

 自衛隊及び米軍は、緊密な協力の下に、それぞれの指揮系統に従って行動する。

 自衛隊及び米軍は、緊密に協力して情報活動を実施する。

 自衛隊及び米軍は、効率的かつ適切な後方支援活動を緊密に協力して実施する。

エ 日本以外の極東における事態で日本の安全に重要な影響を与える場合の日米両国間の協力

両国政府は、情勢の変化に応じ随時協議する。また、両国政府は、日本が米軍に対して安全保障条約その他の関係取極及ぴ日本の関係法令に従って行う便宜供与のあり方について、あらかじめ相互に研究を行う。

第4節 その他の諸施策

1 有事法制

 一般論として、わが国有事に際して必要な法制としては、自衛隊の行動にかかわる法制、米軍の行動にかかわる法制、自衛隊及び米軍の行動に直接にはかかわらないが国民の生命・財産等の保護等のための法制の三つが考えられるが、従来行っている有事法制の研究は、このうち自衛隊の行動にかかわる法制についての研究である。

 この研究は、シビリアン・コントロールの原則に従って、昭和52年8月、福田首相の了承の下に、三原防衛庁長官の指示によって開始され、その基本的な考え方は、昭和53年9月の見解(資粕8参吻に示されている。この見解でも述べているように、自衛隊法第76条の規定により防衛(出動を命ぜられるという事態においての自衛隊の任務遂行に必要な法制は、現行の自衛隊法によってその骨幹は整備されているが、なお残された法制上の不備はないか、不備があるとすれば、どのような事項かなどの問題点の整理を目的として研究を進めてきたところである。これまでに、防衛庁所管の法令(第1分類)について、昭和56年4月に、その問題点を取りまとめ公表し、引き続き他省庁所管の法令(第2分類)について、防衛庁の立場から拾い出した関係法令の条文の解釈、有事の際の適用関係等を関係省庁に照会するなどの作業を実施し、昭和59年10月に、その問題点を取りまとめ公表しており、これらの分類についての問題点の整理は、おおむね終了したと考えている(資料19、20参照)。

 なお、所管省庁が明確でない事項に関する法令(第3分類)に属するものとしては、例えば、有事における住民の保護、避難又は誘導を適切に行う措置、民間船舶及び民間航空機の航行の安全を確保するための措置、電波の効果的な使用に関する措置、いわゆるジュネーブ4条約に基づく捕虜収容所の設置など捕虜の取り扱いの国内法制化などが考えられる。これらについては、政府全体として取り組むべき性格の問題であり、個々の具体的検討事項についての担当省庁をどこにするかなど今後の取り扱いについて、内閣安全保障室が種々の調整を行っている。

2 民間防衛

 わが国に対して万一侵略があった場合、国民の生命・財産を保護し、被害を最小限にとどめる上で、国民の防災や救護・避難のため、政府・地方公共団体と届民が一体となって民間防衛体制を確立することが必、要である。このような民間防衛に関する努力は、また、国民の強い防衛意思の表明でもあり、侵略の抑止につながり、国の安全を確保するため重要な意義を有するものである。

 欧州諸国などでは、第2次世界大戦において、市民の死亡者が膨大な数になったため、もしも将未、他国から武力攻撃が加えられた場合、これらの被害に対する対策が講じられなければ、市民に(ばく)大な数の犠牲者が出るであろうとの予想に基づいて、民間防衛に関する努力を行ってきている。これらの諸国では、いずれも担当する政府機関の設置、関連する法律の制定、組織づくり、退避所の建設など民間防衛体制の整備に努めている。また、これらの諸国では、中央政府と地方自治体の計画・指導の下に、いざという場合のために、平素から退避訓練などの民間防衛に関する諸活動を行っている。これらの活動は、結果的に、平時突発する自然災害などに対処する上でも有効なものとなっている(第4部第3章参照)。

 わが国においては、現在のところ、民間防衛に関してはみるべきものがない。今後、国民のコンセンサスを得つつ、政府全体で広い観点から慎重に検討していくべきであろう。

3 国民生活を維持するための施策

 わが国にとって、国民生活を維持するためには、資源、エネルギー、食糧等の確保が不可欠である。これらの生産地あるいは輸送経路などにおいて武力紛争や大規模な天災地変などの事態が起こった場合、あるいはわが国の有事において海上交通が妨害される場合などに予想される資源、エネルギー、食糧等の供給の停止などに対し、わが国が冷静に対処するためには、これらの必要物資を備蓄しておくことが有効であろう。

 さらに、有事におけるわが国の国民生活、経済活動などを維持するために必要な物資の海上輸送の実施体制のあり方についても、有事において講ずべき緊急措置の一環として、政府全体として総合的な観点から研究する必要があろう。

4 その他

 防衛力を支え、これを真に有効に発揮させるためには、平時から防衛産業を育成し、建設、運輸、通信、科学技術などの分野において国防上の配慮を加えておく必要があろう。

 スイスなどにおいては、高速道路を臨時の滑走路として使用できるようにしており、有事の際、飛行場が爆撃などによって破壊されても、空軍ほこれらを臨時飛行場として利用できるようにしている事例がある。また、各国とも、教育の面においても配慮を加えているところである(第4部第3章参照)。

 

(注) ジュネーブ4条約

 戦地にある軍隊の傷者及び病者の状態の改善に関する1949年8月12日のジュネーブ条約

 海上にある車隊の傷者、病者及び難船者の状態の改善に関する1949年8月12日のジュネーブ条約

 捕虜の待遇に関する1949午8月12日のジュネーブ条約

 戦時における文民の保護に関する1949年8月12日のジュネーブ条約