第1部

世界の軍事情勢

第1章 全般的な軍事情勢

第1節 軍事情勢の基本的な構造

 世界の各国や国連などは、自国の安全保障や世界の平和と安全を確保するため、国防努力、紛争の調停、相互協力等さまざまな努力を続けている。しかしながら、世界の各地には、武力紛争の危険性をはらむ政治経済体制及びイデオロギーの相違、領上問題、民族。宗教上の対立などの紛争要因が依然として冬数存在しており、実際、地域によっては、しばしぼ武力紛争が発生し、また、強い緊張状態が継続している。

 他方、科学技術の著しい進歩に伴い、核兵器に代表される大量破壊兵器やミサイルのように長射程かつ命中精度の高い兵器の出現により、武力紛争においては相互が甚大な被害を受ける可能性が高まった。このため、武力紛争の未然防止がますます重要となっている。また、冬くの国にとり、一国のカのみによって安全保障を確保することがほとんど不可能であるため、集団安全保障が欠くことのできないものとなった。

 第2次世界大戦終了後、自由と民主主義を基調とする米国及び西欧などの諸国の多くは、ソ連の周辺地域への影響力拡大の動きに危機感を抱き、自国の平和と独立を守り、同時に地域的な安定の確保に寄与することなどを目的として、米国を(かなめ)とする北大西洋条約機構(NATO)等の、抑止と防衛を基本的戦略とする集団安全保障体制を構築した。ソ連は、このような西側の集団安全保障体制に対抗して、自己の勢力圏の結束を図り、ワルシャワ条約機構(WPO)などの集団安全保障体制を構築した。

 このようにして、政治。経済体制及びイデオロギーを根本的に異にし、かつ、圧倒的な核戦力及び犬規模な通常戦力を保有する米国及びソ連を中心とする東西両陣営間の政治。軍事的対()という枠組みが形成され、世界の軍事情勢は、冒頭に述べた環境要素を背景に第2次世界大戦後、この枠組みを基本として推移してきた。

 他方、アジア、中東、アフリカ、中南米などの地域には、第2次世界大戦後、欧州等の植民地支配から解放されて独立を達成した国が多く、領土問題、民族・宗教上の対立等の紛争要因が数冬く未解決のまま残されており、しかも、これらの地域の国々の多くは、基本的に束西両沖営の対()の枠組みの外に置かれていることもあって、国内外からのカの影響を受けやすい状況にある。このような事情もあって、これらの地域においては、米ソを始め、関係国及び国連の努力によって、地域問題解決ヘ向けての種々の動きがみられるものの、武力紛争が繰り返し発土し、強い緊張状態が継続している。世界的な規模での相互依存関係がますます進展する状態の中にあって、こうした地域紛争の解決は、世界の安定、ひいては発展にますます重要となってきている。(第1−1図 世界の軍事力の対峙状況

第2節 世界の軍事情勢の基本をなす東西関係

1 東西関係の推移

 東西関係は、政治・経済体制やイデオロギーの根本的な相違に基づく対立関係にあり、これまで、1948年のベルリン危機、1950年の朝鮮戦争、1962年のキューバ危機、1979年のソ連軍のアフガニスタン侵攻など、東西間の緊張が極度に高まった時期があった。

 また、ソ連はキューバ危機を一つの大きな契機として、1960年代中期から大幅な軍事力増強を開始し、1970午代のいわゆるデタント期において米国が国防努力を抑制していた間にも、一貫して軍事力を増強してきた。この結果、その軍事力の蓄積には膨大なものがあるとともに、核戦力及び通常戦力全般にわたり近代化を継続している。さらに、このような巨大な軍事力を背景にその政治的影響力の増大に努めてきた。

 このようなソ連の動向に対して、米国を始めとする自由主義諸国は、抑止力を維持・強化するため、国防力の強化に努めてきている。

 一方、東西間においては、決定的な対立又は破局を回避するため、対話・協調の努力も続けられており、1963年の部分的核実験停止条約締結、1971年の核戦争の危険を減少するための措置に関する米ソ間の協定締結、1972年の第1次戦略兵器制限交渉(SALT)合意、1975年の欧州安全保障・協力会議(CSCE)最終文書(ヘルシンキ宣言)採択、1979年のSALT合意、1987年の中距離核戦力(INF)条約署名、1988年のアフガニスタン問題に関するジュネーブ合意など、軍備管理・軍縮や地域問題などに関して対話・協調が進展した面もみられている。

 このように、東西関係は、基本的には対立関係にあるが、他方において対話・協調の努力も続けられており、この両側面によるいわば一張一弛を繰り返しつつ推移してきている。

2 ソ連の「ペレストロイカ」と「新思考」外交

 ソ連径済は、中央集権的管理システムの下で、長期間にわたり停滞してきている。近年では、石油価格の低下による外貨収入の減少、生産技術の近代化の遅れに伴う労働生産性の伸び悩み、農業生産の停滞などにより、深刻な不振に陥っている。

 このようなことから、ゴルバチョフ政権は、「ペレストロイカ(建て直し)」を唱えて、国営企業の自主性・独立性の強化、農業改革、選挙制度の見直しを含む「民主化」、「グラスノスチ(情報の公開)」の推進など、経済・社会・政治等、内政各面にわたる広範な改革に着手し、停滞したソ連経済の活性化及び再建を図ろうとしている。このような手段及び力法による改革の試みは、ソ連発足以未、最も大胆かつ野心的なものであろう。しかし、ペレストロイカは、ソ連自身「経済改革はまだ十分なカをつけておらず、国民径済は今のところ必要な加速を身につけていない」と述べているように、特に経済面においては、ほとんど見るべき成果を得ておらず、当面の重大な懸案の一つである消費物資の不足問題や財政赤字の急増の問題もむしろ悪化している様子である。一方、「民主化」及び「グラスノスチ」の進展に伴い、沿バルト三国、カザフ共和国、アルメニア共和国、グルジア共和国などでは、ソ連政府の民族政策に対する不満から、自主性等を求める抗議運動や暴動が発生するなど冬民族国家であるソ連にとってはゆるがせにできない民族問題が顕在化し始めている。このように、ゴルバチョフ政権は内政面において重大かつ困難な問題を数冬く抱え、ベレストロイカの行方は予断を許さない状況にある。

 ゴルバチョフ政権は、ペレストロイカの推進及び成功のため、長期的にはともかく、当面は、東西間において、対立・競争の側面を極力抑制し、対話・協調の側面を追求することとし、同時に中国等との2国間の関係改善を図ることにより、自国をめぐる国際環境の全般的好転及び軍事情勢の緩和ムードの醸成を何よりも重要な戦略目標と認識しているとみられる。このため、ゴルバチョフ政権は、「新思考」外交を標膀して、米国との間における戦略核削減文渉、NATOとの間における軍備管理・軍縮交渉の積極的推進、アフガニスタンからの撤退、一方的戦力削減の表明、防衛的軍事ドクトリンへの移行の強調、中ソ首脳会談の開催及びその他一連の精力的外文活動の展開等を図っている。

 このようなソ連の動きが、東西関係の新たな展開に寄与したことは事実である。また、それが仮にソ連の軍事的脅威の実質的軽減や解消をもえんたらし、また、軍事力を背景とする勢力拡張政策の確実な終焉を真剣に目指すものであるならば、西側の安全のみならず世界の平和と安定にとって歓迎すべきものである。しかしながら、このように評価できるか否かについて、ゴルバチョフ政権の意図表明などの言葉のみによって判断することは困難である。

 ゴルバチョフ書記長によって表明されたソ連軍の一方的削減についていえば、それが言葉どおり実施されたとしても、依然としてソ連の軍事力は西側に対して優位にあり、さらに、このような削減表明を行う一方で、引き続き核戦力及び通常戦力の両面にわたり質的強化を図っている。また、各種軍備管理・軍縮提案については、西側の提案に対応するものとなりつつあるものもあるが、依然あいまいな表現が多く残っている。西側諸国の安全保障にとって大切なのは、具体的な軍事能力の縮小・削減による軍事的脅威の軽減又は解消である以上、今後ともソ連の保有する軍事力の実態やその性格などについて冷静に見極めていくことが何よりも重要である。同時に、西側諸国が結束して、ソ連に対して、より低い軍事的水準における東西関係の安定化を強く求めていく必要がある。

3 米国の動向

 米国は、自由と民主主義などの諸価値を守るとの立場から、西側諸国を防衛し、世界の平和と安全を維持するため、抑止と防衛を基本とする国防政策を一貫してとっている。

 米国の国防努力は、いわゆるデタント期といわれる1970年代を通じ、ソ連とは対照的に抑制されたものであったが、ソ連の長期にわたる頭著な軍事力増強とそれを背景とするアフガニスタンへの軍事介入などの対外進出に対応して、米国は、より一層の国防努力の必要性を認識するに至った。1980年代を通じ、米国は、核戦力と通常戦力の全般的な整備。近代化を図るとともに、これらを背景として、INF条約の締結など多くの成果を達成してきた。

 近年、膨大な財政収支の赤字を背景として、国力子算は、過去4年間にわたって実質で減少してきているものの、米国は、引き続き安定した国防努力を進めてきている。

 本年1月に成立したブッシュ政権は、依然厳しい財政事情の下で、議会との合意によって、1990年度の国防予算政府案の対前年度比実質液を受け入れたが、今後とも、国坊力を椎持・強化していく旨改めて明らかにするとともに、同盟国に対しては、引き続き、共同防衛のための負担の公正な分担を求めていくこととしている。

 同時に、米国は、ソ連・東欧とのあらゆる分野における話し合いを通して安定した東西関係の構築のために精力的に努力している。

4 欧州諸国の動き

 束欧諸国の中には、以前から径済活性化のためさまざまな改革を行ってきた国があるが、ソ連で広範な国内改革が開始されると、それに対して各国の事情に応じてさまざまな反応をみせている。

 特に、ゴルバチョフ書記長が推進している「グラスノスチ」、「民主化」等の政治・社会面での急激な改革の影響を受けて、ポーランドやハンガリーでは政治的多元主義や民主化の動きが顕著になっている。他方、その他の東欧諸国は、改革に対して慎重な対応や否定的姿勢をみせており、東欧各国の社会主義は多様化している。ソ連・東欧のこうした動きが、今後、東西関係にいかなる影響を及ばすか注目される。

 一方、西欧諸国においては、INFミサイル全廃後という新たな現実に伴い、欧州の安全保障のあり方について再検討の必要性が生じ、NATO内部において、NATO核戦力のあり方、軍備管理・軍縮の基本方針について検討が進められる一方、共同防衛のための負担の分担のあり方をめぐっての米欧関係の調整、「欧州の柱」の強化を目指したフランスと西独との防衛協力の推進、西欧連合(WEU)の再活性化などが図られている。

5 今後の東西関係

 米国及びソ連とも、近年その経済力等が相対的に低下してきており、特にソ連は、構造的な経済不振に陥っている。このような事情から、米国では、国防費の実質的削減、対外コミットメントについてのさまざまな議論、西側同盟諸国に対する防衛責任分担の拡大要請などの動きが生じている。他方、ソ連は、かつてのような大規模な軍事力増強及び世界的規模での勢力拡張の追求にいろいろな困難を感じ始め、同時に西側の結束強化に伴う同国をめぐる厳しい国際環境の好転を目指しており、最近、一方的戦力削減計画や各種軍備管理・軍縮提案を表明し、アフガニスタンからの撤退を行った。さらに、米ソ間において、より低いレベルの軍事的均衡を目指し、INF条約の締結、戦略兵器削減交渉(START)の継続などの動きのほか、欧州において欧州通常戦力交渉(CFE)も行われている。

 こうした対話の側面を一段と強める米ソ両国の動向及びこれらに関連した欧州諸国の動向は、東西関係を一層の安定化ヘ導く可能性をはらむ新たな展開といえよう。また同時に、東西関係は、流動的な様相を強め、変化の兆しをみせ始めている。

 これらの東西関係におけるさまざまな新たな展開の中にあって、東西間における政治・経済体制及びイデオロギーなどの面での相違が依然存在し、米ソ両国の保有する圧倒的な核戦力及び通常戦力を中心として東西が軍事的に対時しているという実態については、基本的な変化が生じたとはいえないであろう。

 このようなことから、東西間における武力紛争を抑止し、平和を維持していくためには、最近の東西関係の安定化への努力をより一層促進させるとともに西側諸国の結束した防衛努力が引き続き必要となっている。

 

(注) SALT(第1次戦略兵器制限交渉):1969年11月から開始され、1972年5月、「ABMシステムの制限に関する米ソ間条約」、「戦略攻撃兵器の制限に関する一定の措置についての米ソ間の暫定協定」及び関連議定書等が調印され、ABMシステムの設置場所数、ABM発射基数の制限やICBM・SLBMの発射基数、SSBN隻数の上限設定などが決められた。「戦略攻撃兵器の制限に関する一定の措置についての米ソ間の暫定協定」は、1977年10月失効したが、失効前の同年9月、米ソいずれも同協定を遵守する旨声明し、現在も有効とみられている。

(注) 欧州安全保障・協力会議最終文書(ヘルシンキ宣言):1972年11月、欧州安全保障・協力会議(CSCE)の予備交渉が、また、1973年7月には第1ラウンドがヘルシンキで開始され、1975年8月、CSCE参加35か国の首脳により最終文書(ヘルシンキ宣言)に署名が行われた。本文書は、「欧州安全保障に関する問題」(いわゆる第1バスケット)、「経済、科学・技術及び環境の分野における協力」(いわゆる第2バスケット)、「人道及びその他の分野における協力」(いわゆる第3バスケット)、「会議結果の検討措置」などからなっている。

(注) SALT(第2次戦略兵器制限交渉):1972年11月から開始され、1979年6月、戦略核運搬手段(ICBM、SLBMや戦略爆撃機など)の総数やMIRV化されたこれら運搬手段の上限を定めた「戦略攻撃兵器の制限に関する米ソ間条約」及び同議定書が署名された。しかし、ソ連のアフガニスタン軍事介入を契機として米国での批准が見送られ、未発効。

(注)ソ連国家統計委員会発表、1989年1月22口付プラウダ

第3節 東西の軍事的対()

1 米国とソ連

 今日の米ソ両国の世界的な軍事的対峠の基本構造は、戦略核戦力をもってする対時及びこれを背景とした米ソを中心とする集団安全保障体制の下に、主として欧州、極東におけるソ連の戦力集中と、これに対する米国の戦力の前方展開という形でとらえることができる。

 欧州では、米国とソ連をそれぞれ中心とするブロック化した集団安全保障体制であるNATOとWPOが東西の境界を挟んで厳しく対時している。ソ連は、欧州における戦略上の要域とされる中部欧州地域、特に、東独を中心として質的に最も高度な陸・空軍戦力を配備するとともに、東欧諸国に隣接する自国領に多大の戦力を配置している。他方、米国は、陸・空軍戦力を西独領内を中心に平時から前方展開させ、有事には米本土から部隊を迅速に増強することとしている。さらに、北米と欧州NATO諸国が大西洋によって隔てられているため、米国は、大西洋を中心とする海域に海軍力を展開している。

 極東においても、ソ連は、大きな陸・空軍戦力を中国との国境地域や沿海地域などに配備し、ソ連最大の艦隊を自国周辺の海域はもとより太平洋・南シナ海などの海域にまで展開させるとともに、戦力の近代化を一層進めている。これに対して、米国は、わが国を含む西太平洋地域に海・空軍部隊を主体とする戦力を前方展開させて紛争を抑止するとともに、必要に応じ米本土やハワイから増援する態勢をとっている。

(1) 米国及びソ連の軍事態勢

ア ソ連

ソ連は、軍事力増強を国策の最優先課題の一つとしてきたが、1985年のゴルバチョフ書記長就任の後も、軍事力増強のためには、「あらゆる努力を払っていく」(1986年採択の「ソ連共産党綱領」)ことを方針としている。その結果、今日では、核戦力と通常戦力のいずれの分野においても、米国に十分対抗できる戦力を構築するに至った。

ソ連は、このような軍事力を対外政策遂行の有効な手段としており、巨大な軍事力を背景に政治的影響力の増大に努めてきた。特に、東南アジア、中東、アフリカ、中米などの地域に対して、これらの地域が不安定かつ流動的であることを利用して、「民族解放闘争支援」などを旗印に、友好条約締結、武器輸出、軍事顧問団の派遣、ソ連の影響下にある第三国の軍事要員の派遣、海軍力のプレゼンスなどの手段により進出を図り、その政治的影響力を拡大してきた。

昨年12月のゴルバチョフ書記長の国連演説でも述べられているように、最近ソ連は、自国の軍事ドクトリンの「防衛的」性格への移行及び「合理的十分性」の枠内への転換を強調し始めている。

しかしながら、大幅な軍事力増強を図っていたブレジネフ政権の時期においても、ソ連の軍事力の「防衛的」性格をしばしぼ表明してきており、最近においても、党や軍の要人がこの問題についてさまざまな議論を行っているが、いまだに十分に統一された説明はなされていない。

このようなことから、軍事ドクトリンの「防衛的」性格への移行及び「合理的十分性」の原則への転換が、今後ソ連軍の現模や編成などをどのように変化させていくか現段階では明らかではなく、引き続きソ連軍の実際の動向を忙重に見極めていくことが重要である。

イ 米国

米国は、自由と民主主義などの諸価値を守るとの立場から、自国及び自由主義諸国を防衛し、世界の平和と安定を維持するため、基本的な国防政策として抑止と「衛の戦略をー灯してとっている。このため、米国は、核戦力から通常戦力に至る多様な戦力を保持することにより、いかなる侵略であれ、これを未然に防止できる態勢の整備に努めている。さらに、仮に抑止に失敗し、武力紛争が生起した場合には、これに有効に対処し、米国と同盟国にとって有利な形で、できるだけ早期にこれを終結させることとしている。また、米国は、欧州、アジア、オセアニア、米州諸国との間で集団安全保障条約を締結し、それぞれの地域の同盟国と協力して地域の安定並びに自国及びこれら諸国の平和と安全を維持することとしている。

ブッシュ新政権は、軍事ドクトリンの変更に関する主張などの軍事面でのソ連の新たな動きに対し、単なる言葉ではなく、その軍事態勢の明確で実証された長期的な変化が認められなけれぼ、米国の戦略や戦力構成は変更し得ないとして、引き続き従来の軍事態勢の維持・強化に努めていく姿勢を示している。

ブッシュ政権にとって初めての1990年度国防予算政府案は、財政赤字の解消に向けて、議会との合意により、レーガン前政権の予算案を減額修正することとなったが、人員の質、即応態勢及び継戦能力の維持・確保がこの修正予算案の最優先事項であるとして、今後とも軍事態勢の維持・強化を図っていく姿勢を明らかにしている。また、同政権は、米軍の前方展開とその即応態勢の維持も同国防予算修正案の優先事項としてあげ、世界的な米軍のコミットメント維持の意思を明確に表明している。

(2) 米ソの核戦力

 現在の軍事情勢、とりわけその基盤をなす東西関係において、基本をなすものは米ソの核戦力である。核戦力は、想像を絶する破壊力を有し、一度それが使用されれば相互に壊滅的な被害を与え得るものと認識されている。第2次世界大戦後、核戦争及びそれに至るような大規模な武力紛争は起こらなかったが、その最も大きな背景の一つとして、このような核戦力による抑止力の存在があったことは否定できない。

 米ソの核戦力には、米ソの本土を互いに直接攻撃することのできる戦略核戦力と主として戦域内で使用される非戦略核戦力がある。

ア  戦略核戦力等

米ソ両国の保有する戦略核戦力は、大陸間弾道ミサイル(ICBM)、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)、戦略爆撃機のいわゆる3本柱から構成されている。これらの核戦力には、それぞれ長所、短所があるため、米ソは、いずれも、この3本柱の整備を続けている

(ア) ソ連

戦略核戦力の分野では、ソ連は、これまで特にICBN4とSLBMを重視してその増強に努め、1960年代末にはICBMの、70年代前半にはSLBN4の発ヰ十基数において米国を上回るに至った(第1−2図参照)。

ICBMについては、ソ連の1CBMSS−25命中精度の高い複数個誘導弾頭(MIRV)化されたSS−18が主力を占めている。この結果、ソ連は、理論的には、SS−18の一部による先制攻撃によっても、米国の現有ICBMサイロの大部分を破壊できる能力を保有している。最近では、残存性の高い路上移動型のSS−25及び鉄道移動型でMIRV搭載のSS−24の実戦配備が進められ、質的な面で引き統き顕著な改善が行われている。また、SS−18、SS−24やSS−25の後継として、命中精度や投射能力の改善された新型ICBMの開発を推進している。

SLBMについては、より射程が長く、命中精度の高いSS−N−20やSS−N−23を搭載したタイフーン級及びデルタN級弾道ミサイル潜水艦(SSBN)の実戦配備を進めている。この結果、ソ連は、バレンツ海やオホーツク海など、自国の海上・航空戦力の支援が受けられるソ連本土に近い海域から、直接米国本土を攻撃できる能力を向上させている。

戦略爆撃機については、射程約3,000kmの空中発射巡航ミサイル(ALCM)AS−15を搭載できるTU−95ベアHを約70機以上配備し、また、超音速戦略爆撃機ブラックジャックを、間もなく実戦配備するものとみられる。さらに、新型のALCMAS−Xー19などの開発が進められている。

戦略防衛の分野でも、ソ連は、従来から活発な研究開発を行ってきている。ソ連は、ほぼ自国全土を囲む大型フェーズド・アレイ・レーダー網を構築し、モスクワ周辺に世界で唯一の弾道弾迎撃ミサイル(ABM)を配備してり単道ミサイル防衛(BMD)の強化を進めているほか、弾道ミサイルにも限定的な迎撃能力を有する地対空ミサイルの開発・配備も進めているとされている。また、ソ連は、人工衛星を攻撃できるシステム(ASAT)を保有している。

さらに、核戦争時の党・国家指導者の生存を確保するため、モスクワ周辺などに、地下数百メートルにも及ぶ地下施設を整備している。(ソ連のICBM SS−25)(ソ連のブラックジャック戦略爆撃機

(イ) 米国

戦略核戦力の分野では、米国は、ソ連が大型ICBMなどの増強により硬化目標破壊能力を向上させていることに対抗して、命中精度や残存性の向上など、核戦力全般の近代化を推進している。

ICBMについては、高い命中精度を有する新型ICBMピースキ−パ−の固定サイロへの50基の配備を完了したが、さらに、その鉄道移動型への転換や路上移動型の小型ICBMの開発を計画している。

SLBMについては、トライデントSLBM搭載のオハイオ級原子力潜水艦を建造し、また、これに将来搭載する硬化目標の破壊に必要な高い命中精度を有するとされるトライデントU(D−5)SLBMの開発を進めている。

戦略爆撃機については、B−1B爆撃機約100機の配備を完了し、ALCM搭載のためのB−52の改修を進めている。また、1990年代初めの配備を目指して、ステルス性を有する高度技術爆撃機(ATB)B−2の開発も推進中である。さらに、ステルス性を有し、より命中精度が高く、より長射程の新型巡航ミサイル(ACM)やBー1B、B−2爆撃機の有効性を高めるための新型短距離攻撃ミサイル(SRAM)の開発を推進している。

戦略防衛の分野では、現在、米国は、引き続きSDI研究計画を推進している。この目的は、将来の大統領と議会とが、弾道ミサイル防御システムの開発配備の是非を決定するに当たって必要な技術知識を提供することである。1990年代には、戦略防衛の第一段階の配備を開始することを目標としている。(米国のトライデントSLBM搭載オハイオ級原子力潜水艦)(米国のB−2ステルス戦略爆撃機

イ 非戦略核戦力
非戦略核戦力には、中距離爆撃機、地上発射ミサイル、海洋・空中発射ミサイル、戦術核などの冬様な核戦力がある。このうち、射程500kmから5、500kmまでの地上発川ミサイルについては、INF条約により廃棄が行われている。
(ア) ソ連

核搭載可能な射程300km以上のAS−4空対地(艦)ミサイルを装備できるTU−22N4バックファィアを、現在、約360機配備し、更に増強を続けている。

また、命中精度の高い新型の短距離地対地ミサイルSS−21も増加している。

海洋.空中発射の新型長射程巡航ミサイルについては、ALCMでは、前述のように既に配備されているAS−15に加えAS−X−19の開発を進めている。SLCMでは、SS−N−21のアクラ級原子力潜水艦への配備を進めるとともに、より大型のSS−NX−24もヤンキー級改造型原子力潜水艦などに搭載され、数年以内に運用可能となるものとみられる。

(イ) 米国

INFミサイルの廃棄後においても、欧州ではWPOが短距離核戦力や通常戦力の分野で依然として優位であるため、米国は、NATOの柔軟反応戦略を維持強化するための一環として、ランス地対地ミサイルの近代化を含む非戦略核戦力の近代化が必要であると認識している。

また、一部の艦艇において、対地用核弾頭搭載トマホーク巡航ミサイルの運用が可能となっている。

(3) 米ソの通常戦力

 巨大な破壊力を有する核戦力を米ソ両国が保有する中にあって、あらゆる紛争の抑止をより確実なものとするために、通常戦力の意義は一層大きくなってきている。特に最近では、科学技術の進歩により通常戦力の改善が一段と進められる傾向にある。

 米ソの通常戦力の構成と展開をみると、ソ連は、ユーラシア大陸のほぼ中央に位置して、多数の国と国境を接する大陸国家であるため、伝統的に大規模な地上軍を擁している。他方、海外との同盟関係に対する依存度が少ないことなどのため、本来、海上戦力に依拠するところが比較的小さい。しかしながら、近年、ソ連は、地上及び航空戦力の量的優勢の維持と質的改善に加えて、海上戦力についても、大型の新鋭艦の導入など質量両面にわたって顕著な増強を行ってきている。

これに対し、米国は、欧州と極東を中心とする重要地域に戦力を前方、展開するとともに、戦略機動性を重視した部隊を米本土に控置して、有事に際しては、太平洋や大西洋を経由して迅速に支援し得る態勢をとることにより抑止を図っている。これに加えて、米国の海外貿易依存度が大きいこともあって、米国及び同盟国の利益を確保するためには、シ−レーンが大きな役割を果たしている。

ア ソ連
(ア) 地上戦力

ソ連は、ユーラシア大陸において、北欧から極東まで、12か国と長大な地上国境を接する大陸国家であり、伝統的に大規模な地上軍を保有している。現在では、自国領土のほか、東欧等に総計212個師団約200万人、戦車約57,000両を配備し、欧州、極東、中東方面の3地域に戦力を集中している。近年では、量的な増強に加えT−72、T−80などの新型戦車、自走砲、攻撃へリコプターなどによる火力、機動力の向上や地対空ミサイルなどによる戦場防空能力の向上など質的向上が顕著になっている。

また、空挺師団、空中攻撃旅団と併せて多数の輸送機を有する空軍輸送部隊は、遠隔地への迅速な戦力投入能力の面でも注目される。さらに、敵の後方深く潜入し、敵の軍事施設の偵察、破壊などを主任務とするとみられる特殊任務部隊(スペツナッツ)を保有している。

このほか、ソ連は、化学・生物戦能力をこれまで一貫して重視してきており、汚染された環境下での作戦遂行能力のみならず、化学・生物兵器を使用する能力の維持・強化を図っている。なお、ソ連は、本年1月、化学兵器の廃棄の開始を発表したが、廃棄完了時期や廃棄量などは全く明らかにされていない。(ソ連のT−80戦車)(世界最大のソ連の輸送機An−255(ソ連のスペースシャトルを搭載)

(イ) 海上戦力

ソ連海軍は、沿岸防衛型から外洋型の海軍への成長のため、過去四半世紀以上にわたりー貫して増強されてきた。

ソ連海軍は、北洋、バルト、黒海、太平洋の4つの艦隊とカスピ小艦隊から構成され、その勢力は、艦艇約3,080隻(うち潜水艦約360隻)、約765万トン、TU−22Mバックファイアを含む作戦機約970機、海軍歩兵約1万7千人に達している。

その任務は、平時にあっては、主としてプレゼンスによる政治的・軍事的影響力の行使、有事卜は、ソ連にとって戦略的に重要な海域の確保、自由主義諸国の海上女通の妨害又は阻止、地上部隊等に対する支援などであるとみられる。

ソ連は、このような任務遂行能力を向上させるため、既に4隻のキエフ級空母を就役させている。また、黒海沿岸のニコラエフ造船所では、多数の航空機を搭載可能なトビリシ級新型空母の1番艦の()装が行われており、まもなく海上試験を開始するとみられる。トビリシ級2番艦も同造船所において昨年進水した。キエフ級空母は、排水量(満載)37,100トンとみられているが、トビリシ級空母は排水量60,000トンと推定され、注目されている。

さらに、キーロフ級原子カミサイル巡洋艦、スラバ級ミサイル巡洋艦などの水上艦艇や、静粛化などの分野で質的向上が図られたアクラ級、シエラ級などの原子力潜水叱の着実な増強が続いている。

(ウ) 航空戦力

ソ連の航空戦力は、作戦機約9,380機からなり、大規模かつ多様であり、即応性、運用の柔軟性を高めることにより、作戦遂行能力の向上が図られている。

航空機の増強は、質的側面において顕著であり、航続能力、機動性、低高度高速侵攻能力、搭載能力、電子戦能力に優れたMIG−23/−27フロッガー、SU−24フェンサーなどの戦門機や爆撃機の増強により、航空優勢獲得能力、対地・対艦攻撃能力などが著しく向上している。また、MIG−29フルクラム、N4IG−31フォックスハウンド、SU−27フランカーといったルックダウン(下方目標探知)、シュートダウン(下方目標攻撃)能力が特に優れた第4世代の戦闘機の配備が進められている。さらに、低空探知能力、早期警戒能力、戦闘指揮・管制能力に優れたIL−76メインステイ空中警戒管制機(AWACS)及び新型空中給油機ミダスの配備が続けられている。(米国のM−2装甲歩兵戦闘車ブラッドレー

イ 米国
(ア) 地上戦力

米国は、地上戦力については、陸軍18個師団約77万人、海兵隊3個師団約20万人を有しており、米本土のほかNATO諸国(4個師団)、韓国(1個師団)などに戦力を前方展開している。

特に、NATO正面に展開している在欧米軍はWPOの大規模な機甲部隊に対抗するため、M−1エイブラムズ戦車、M−2/M−3ブラッドレー装甲歩兵戦闘車、AH−64アパッチ武装へリコプターの配備など、対機甲能力と戦場機動能力の向上を図っている。

また、世界各地のさまざまな事態に迅速に対応するため、戦略機動性に優れた軽師団への改編を行っている。

(イ) 海上戦力

米国は、15個空母戦闘ダルーフ゜と4個戦艦戦闘グルーフ゜を基幹とする600隻海軍の建造計画を進めている。昨年10月、4隻目の戦艦ウイスコンシンが再就役し、また、空母エイブラハム・リンカーンの就役が本年末に、空母ジョージ・ワシントンの進水が本年9月に予定されている。また、優れた防空能力を有するイージス・システムを装備したタイコンデロガ級ミサイル巡洋川監やアーレイ・バーク級ミサイノレ躯逐艦の建造が進められている。

しかしながら、国防予算の制約による舟監艇建造計画の延期や空母を含む艦艇の早期退役などにより、艦艇数は、当分の間600隻には達しないものとみられる。なお、一部の艦艇においては、対艦用・対地用の通常弾頭搭載トマホ−ク巡航ミサイルが運用可能となっている。

米海軍は、大西洋に第2、地中海に第6、西太平洋及びインド洋に第7、東犬平洋に第3の各艦隊を展開させている。(米国の戦艦ウイスコンシン

(ウ) 航空戦力

米国は、航空戦力については、作戦機5,260機を保有し、航空優勢が空中、海上及び地上の戦闘の重要な要素であるとの認識から、この分野での質的優位を維持するため、F−15、Fー16、F/A−18などの高性能戦闘機の配備を進めている。

また、高性能戦術戦闘枝(ATF)を1993年から調達する計画を推進している。なお、米国は、昨年ステルス性を有するF−117A戦門浅の保有を公表した。

米空軍は、37個戦術戦闘航空団を中心に構成され、第9、第12空軍を米本土に、第3(英国)、第16(スペイン)、第17空軍(西独)を欧州に、第5(日本)、第7(韓国)、第13空軍(フィリピン)をアジア・太平洋に配備している。(米国のF−117A戦闘機

(エ) その他

このほか、米国は、戦力の前方展開と緊急展開を支える不可欠の手段として、統合軍である輸送軍の下、海・空輸送能力の強化を図っている。

また、これを補完するため、紛争が予想される地域に重装備などを事前に集積する措置もとられている。このため、陸上の施設に備蓄が行われるとともに、事前集積船が欧州周辺海域、インド洋や西太平洋に配備されている。

さらに、米国は、最近世界各地で多発しているテロ、反乱、内戦などの「低強度紛争(LIC:Low Intensity Conflict)」が、第三世界諸国の政治的、経済的、社会的不安定を通じて、ソ連の影響力拡大の機会となっていると懸念している。そして、低強度紛争が国際的な兵器移転の増大とあいまって、自由主義諸国を脅かしているとし、こうした紛争の抑止だけでなく、これらと実際に戦っていくことの必要性を強調している。このため、米国は、陸・海・空軍の約4万人からなる特殊行動軍(SOC)を編成し、対処手段の強化を図っている。

2 NATOとWPO

(1) 全般

 欧州地域は、第2次世界大戦後、東西両陣営の典型的な対()地域となっており、NATOとWPOが中部欧州を中心として、ノルウェー北端からトルコの東側国境にわたって、膨大な戦力をもって対()している。

 この地域は、紛争が発生すれば世界大戦にもつながりかねない極めて重要な地域である。

 対()の状況をみると、即応性の高い部隊がNATOとWPOの境界を挟んで高密度に対()しており、軍事的対()が世界で最も尖鋭な地域の一つといえる。NATOは、WPOが伝統的に領土占領能力などの面で優勢であることに加え、NATO西欧部の防御縦深が十分でないという条件下において、WPOの侵略を抑止するため、通常戦力、非戦略核戦力、戦略核戦力を有機的に整備して、WPOのいかなる攻撃に対しても柔軟に対処しようという柔軟反応戦略をとっている。すなわち、NATOは、西独領内に地上戦力と航空戦力を重点的に配置し、WPOの攻撃に際しては、できる限り東西両独国境線の近くでこれを「H≠止しようとする前方防衛態勢をとり、状況に応じ各段階の核兵器使用も辞さない構えをとることにより侵略を抑止することとしている。

 また、WPOの増強・補給は地続きで近接したWPO諸国に依存しているのに対して、北米大陸から欧州NATOへの増強・補給は約6,000kmの大西洋を隔てて行うために、NATOとWPOの海軍力の役割は大きく異なるものとなっている。

(2) WPOの動向

 昨年12月、ソ連は、ソ連欧州部及び東欧駐留ソ連軍の一部削減計画を発表し、東欧5か国も本年1月、相次いで戦力の削減計画を発表した。しかし、これらが計画どおり実施されたとしてもWPOは、伝統的な量的優位に加え、質的強化を継続するとみられることから、通常戦力の分野でのNATOに対するWPOの優位は基本的に変化はないとみられる。

 核戦力についてみると、INF条約によりSS−20などが廃棄されつつあるが、ソ連は、短距離核戦力の分野で依然として優位を保持している。また、TU−22Mバックファイアの増強、師団に配備しているフロッグミサイルのSS−21への更新も継続している。

 通常戦力の分野でのNATOとWPOの量的な軍事バランスは、第1−1表に示すとおり、多くの分野でWPOが優位に立っている

 地上戦力では、WPOの中核となる東欧駐留ソ連軍(戦車師団16個、自動車化狙撃師団14個)にT−80戦車などの最新の装備が優先的に配備されるなど、近年の質的強化には目覚ましいものがある。また、ソ連は、WPO主力の攻撃とあいまって、戦車を主体とする高度の機動性をもった軍団規模までの作戦機動グル−ブ(ONIG)を運用して、NATOの増援部隊の到着以前に核を使用することなく、迅速に西欧を占領し得る態勢の強化を図っている。

 海上戦力では、ソ連の北洋、バルト、黒海の3つの広隊を主力としている。潜水艦の分野での量的優位に加え、近年では、大型水上艦と新型原子力潜水艦の導入などによって、対潜戦能力、対水上戦能力や海上交通破壊能力を一段と向上させつつある。

 航空戦力では、量的優位に加え、新鋭機の配備による航空優勢獲得能力や対地・対艦攻撃能力の強化を図っている。さらに、新型地対空ミサイルの配備による防空能力の強化が進められている。(ソ連の短距離ミサイルSS−21

(3) NATOの動向

 昨年発効したINF条約によって、地上発射の中距離ミサイルが全廃されることになり、これによって通常戦力の比重が相対的に高まるとともに、短距離核戦力(SNF)と通常戦力の分野におけるソ連側の優位が一層際立つことは否定できない。このためにNATOは、今後も柔軟反応戦略の信頼性を保つために、核戦力と通常戦力の近代化を進めていくこととしている。

 特に、通常戦力は、INFミサイルに頼ることなく紛争の抑止をより確実にするために、従来以上にこの分野での整備の重要性が高まっている。このため、通常戦力改善計画(CDI)を推進するほか、敵後続部隊攻撃構想(FOFA)を採用し、この構想を可能とするための新技術の導入による装備の開発に努めている。

 また、核戦力の近代化については、1983年のNATO国防相会議での決定に基づいて行われてきている。最近、西独領内に配備されている米国のランス短距離核ミサイルの近代化に関して、NATO内において種種の論議が行われていたが、本年5月のNATO首脳会議において、1992年の東西関係の状況、CFE交渉及びSNF交渉の進展状況等を勘案して後継ミサイルの必要の是非の決定を行うことが合意された。

 NATOは、前方防衛態勢をとっているために、米国を始めとする同盟国軍約35万人以上を西独領内に平時から駐留させている。有事には、米国は、動員決定後10日以内に陸軍6個師団、空軍60個戦術戦1州飛行隊及び1個海兵機動展開旅団(MEB)等を欧州に増強することとしており、このために必要な装備、弾薬、資材などの事前配備を進めている。こうした平時、有事の同盟国軍の受け入れを支援するための協定などがNATO加盟国間で取り決められており、人的、物的に駐留軍を支援する態勢にある。

 海上戦力は、北米と欧州の同盟国が大西洋によって隔てられているNATOにとっては重要な意味をもっている。NATOの海軍力は、米国

の第2艦隊、第6艦隊を中心に構成されている。第2艦隊は、ノルウェー海、北海、北大西洋などのNATOの北翼海域において展開してWPOの侵略を抑止するとともに、大西洋全般、カリブ海などの海域にも展開して海上交通路の安全確保などの任務に当たっている。また、第6艦隊は、地中海に展開してNATO南翼に対するWPOの侵略を抑止するとともに、米国と中東の同盟・友好国の利益を守るために支援を行っている。

 航空戦力は、約4,400機からなり、そのうちにはF−15、F−16、F−18、トーネードなどの高性能機が含まれている。スペイン駐留の米空軍のF−16基地問題は、昨年5月のNATO防衛計画委員会(DPC)でF−16のイタリア移駐と移駐経費のNATO内での共同分担が合意され、昨年6月、イタリア政府もこれを承認し、NATOの航空戦カへの影響は少ないものとなった。

 また、NATOの欧州諸国は、欧州の安全保障を確保するために、米国のコミットメントとともに、欧州諸国自らによる防衛努力を推進している。NATOの軍事機構に参加していないフランスは、米・英・仏・西独の4か国条約に基づき軍隊を西独に駐留させるとともに、昨年10月には、西独との合同旅団司令部を設置した。これらのことは、欧州正面の軍事バランスの維持に貢献している。

 さらに、西欧連合(WEU)は、一昨年、西欧各国の防衛努力の重要性を強調した綱領を採択し、昨年11月には、スペイン、ポルトガルが新たに加盟するなどその活性化を図っている。(NATO軍演習

 

(注) 各戦略核戦力の特微:ICBMは、一般に命中精度が高く、投射重量も大きく、即時対応が可能であるが、配備場所を秘匿しにくいために攻撃に対し脆弱であり、また、SLBMは、生き残り能力が高く第2撃戦力として最適であるが命中精度に難点がある。戦略爆撃機は、発進後であっても目標・任務の変更が可能であること、各種の核弾頭を搭載して反復使用が可能であることなど運用の柔軟性があるが、防空システムによる攻撃に対して脆弱である。

(注) フェーズド・アレイ・レーダー:コンピューターの指令により電波ビームを電子的に高速で操作させ、目標位置、移動方向、速力などの情報を瞬時に得ることのできるレーダー

(注) 硬化目標破壊能力:ICBMサイロや指揮中枢施設など、強化.防護された目標を破壊することのできる能力。核兵器の弾頭威力の増大、命中精度の向上により能力は増大する。

(注) ステルス性:兵器の残存性を向上させるために、兵器の形状や材質などに工夫を凝らし、敵の目やレーダーなどから発見されにくくする秘匿性をいう。現在、ステルス航空機、ステルス巡航ミサイルの開発が行われているが、他の兵器への適用も可能とされている。

(注) イージス・システム(AEGIS):最近の径空脅威の増大等に対し、自らの艦隊を防護するため、目標の捜索・探知から情報処埋(目標追尾、脅威の評価、武器の選定等)、攻撃までを高性能レーダー及びコンピューターにより白動処理する対空ミサイルシステムを中心とした兵器・戦闘システム。このシステムにより、即応能力、同時多目標対処能力、電子戦能力等が格段に向上する。

(注) 航空優勢:航空戦力が、空において敵の航空伐力よりも優勢であり、敵から大きな妨害を受けることなく各種作戦を実拉できる状態をいう。

(注) 事前集積船:戦車、火砲などの装備や補給品をあらかじめ積載しておく船で、紛争発生が予想される戦略的に重要な地域の近くに配備しておくもの

(注) NATOは昨年11月、WPOは本年1月、それぞれ欧州における軍事バランスデータを公表した(資料8参照)

(注) 通常戦力改善計画(CDI):1984年のNATOのDPC(防衛計画委員会)において、NATOの通常戦力の欠陥分野を早急に改善するための計画として作業が指示され、1985年のDPCで報告され、了承された。具体的には、次の7つの分野に関して改善に努める必要があるとされている。

・弾薬備蓄の促進

・インフラストラクチャー基金の支出による航空機用シェルターの建設

・新規技術の継続的追求

・航空機用敵味方識別装置の開発の促進

・資源の適正な配分のための各種計画の調整の改善

・長期計画立案の重視

・ギリシャ、ポルトガル及びトルコ軍の近代化

(注) 敵後続部隊攻撃構想(FOFA):敵の後続部隊が最前線に増援されるのを最新式の通常兵器による後方攻撃で迅速に阻止しようとするものであり、これにより直ちに戦術核兵器の使用に頼ることなく、通常戦力で数的に優位に立つWPO軍の侵攻をくいとめることを狙いとしている。

現在、有人飛行機を除いて、後続部隊攻撃のための適切な目標捕捉手段と十分な射程距離、精度を有する通常兵器システムを欠いているが、将来、新技術によって次のょうな兵器が開発可能とされている。

・精密誘導兵器

・装甲上部攻撃用の誘導散布弾

・改良された監視・目標捕捉・情報収集処理配布システム

・航空機搭載地上目標用長距離レーダー

(注) 1983年の国防相会議決定:いわゆるモンテベロ決定。1983年10月、カナダのモンテベロで行われたNATOのNPG(核計画グループ)会合での決定。この会合で、必要最小限の核抑止力の維持のため、1,400個の核弾頭の削減と核戦力の近代化のガ針が明確にされた。

第4節 軍備管理・軍縮の動向

 米国を始めとする自由主義諸国は、その安全を確保するため、防衛体制の改善・強化に努めるとともに、他ガにおいて東西問の軍事バランスをより低い水準で均衡させることを目指して、ソ連を中心とする社会主義国と種々の文渉を行っている。このような東西間の軍備管理・軍縮交渉としては、米ソの2国間文渉や欧州における交渉がある。

 また、国連やジュネーブ軍縮会議などにおいては、束西両「車営以外の国を含む多国間の軍縮審議・交渉が冬年にわたって続けられている。

1 米ソ間の軍備管理・軍縮交渉

(1) 戦略核、宇宙・防御兵器

 戦略核削減交渉(START)については、一昨年12月の米ソ首脳会談などを通じ、

 戦略核兵器を50%削減すること

 このうち、戦略核運搬手段数の上限を1,600基(機)とし、弾頭数の上限を6,000発とすること

 重爆撃機搭載のALCMの計算方式について検討すること

 これらの枠外でSLCMの配備制限について相互に受け人れ可能な解決方策を見いだすこと

などについて、大枠の合意に達している。

 しかしながら、移動式ICBMやSLCMの現制のありカ、検証方法、SDI規制とのリンケージなどの問題について両国の間にはなお隔たりがあるとされている。

 また、宇宙・防御兵器分野については、ソ連は、依然としてSDI阻止を狙っており、ABNl条約の解釈をめぐって、未解決の問題として残されている。

 なお、米国は、1983年7月以来、ソ連のクラスノヤルスクの大型レーダーのABM制限条約違反を問題にしてきており、特に、昨年8月以来、今後の戦略兵器に関する軍備管理協定を締結する前提条件として、ソ連にその撤去を求めている。

(2) INF(中距離核戦力)

 昨年6月、INF条約が発効し米国のパーシング、GLCM、ソ連のSS−20などの長射程INF(射程1,000km〜5,500km)は、3年以内(1991年5月末まで)に、また、パーシングa、SS−22、SS−23などの短射程INF(射程500km〜1,000km)については、1年半以内(1989年11月末まで)に全廃されることとされており、昨年7月から相互に査察チームを受け入れて廃棄が進められている。(INFミサイルの廃棄の様子

2 欧州における軍備管理・軍縮交渉

 本年1月、1986年11月からウィーンで開かれていた欧州安全保障・協力会議(CSCE)第3回フォローアップ会議は最終合意文書を採択して終了した。この最終合意文書に基づき、CSCEの枠内で「欧州通常戦力交渉(CFE)」と「信頼・安全醸成措置交渉(CSBM)」の二つの交渉が本年3月から新たに開始された。これまで、欧州における通常戦力の軍備管理・軍縮に関しては、通常戦力軍備管理交渉の予備交渉、信頼醸成措置に関しては、1986年に終了した欧州軍縮会議(CDE)の今後の進め方についての協議が続けられてきたところであり、今般新たな二つの交渉の開始が決定されたことにより、これらの問題の検討の枠組みが作られたことになる。なお、CFE開始の合意に従い、1973年から15年以上にわたり継続されてきた中欧相互均衡兵力削減交渉(MBFR)は、実質的進展をみないまま、本年2月に終了した。

(1) CFE

 CFEは、より低いレベルでの通常戦力の均衡の確立、戦力不均衡の除去、奇襲及び大規模攻撃能力の除去による欧州の安定と安全保障の強化を目的とするものである。CFEの参加国と対象地域は、MBFR(NATO側12か国、WPO側7か国が参加して中部欧州を対象に行われてきた。)より大幅に拡大され、参加国はNATOとWPOの全加盟国23か国、交渉対象地域は大西洋からウラルまでの欧州の参加国の領土とされている。

 また、交渉の対象となる戦力は、兵員、装備を含む通常戦力であり、核兵器、海上戦力、化学兵器は除外されている。

(2) CSBM

 CDEのストックホルム最終合意文書による信頼.安全醸成措置(一定の軍事活動の事前報告、監視など)の成果などを踏まえて、新たな包括的信頼・安全醸成措置を作成するため、CSCE全参加国によりCFEと並行して開催されている。

3 国連等における多国間軍縮審議・交渉

(1) 国連における軍縮審議

 国連における軍縮問題の審議は、1978年の第1回軍縮特別総会における決定に基づき、専ら総会第1委員会、国連軍縮委員会で行われている。昨年5月から6月には、第3回国連軍縮特別総会が開かれた。

(2) ジュネープ軍縮会議(CD)

 ジュネーブ軍縮会議は、具体的な軍縮措置に関して交渉を行う唯一の多国間文渉機関である。1988年春・夏両会期において、前年同様、核実験禁止、化学兵器禁止、宇宙軍備競争防止、核軍備競争停止・核軍縮などの8議題を取り上げた。

 なお、イラン・イラク紛争での化学兵器の大規模使用などを背景として、本年1月、パリにおいて、149か国が参加して化学兵器禁止に関する国際会議が開かれ、1925年のジュネープ議定書の再確認、現在ジュネーブ軍縮会議で行われている化学兵器全面禁止条約作成作業の促進などを内容とする宣言を採択した。

第2章わが国周辺の軍事情勢

第1節 わが国周辺地域の特性

 わが国周辺地域は、ソ連や中国の大陸部、カムチャッカ半島や朝鮮半島、わが国を含む大小冬数の島々、これらに囲まれた日本海、オホ−ツク海、東シナ海などの海域及びこれらの海域から太平洋に通じる海峡など、さまざまな地形が交錯している。この中にあってわが国は、アジア大陸の東部に近接し、太平洋に弓形に張り出した列島であり、アジア大陸からオホーツク海、日本海、東シナ海などを経て太平洋に進出する最も主要な経路上に位置し、戦略的に重要な地位を占めている。

 わが国周辺においては、大陸国家であるソ連と中国に加えて、太平洋を越えて米国が存在するなど、政治・経済体制、イデオロギー、歴史、文化などの面においてそれぞれ特色を持つ国々が存在している。米国とソ連は、太平洋を挟んで軍事的に対()し、また、この地域の多くの国々は、NATOやWPOのような冬国間の集団安全保障体制ではなく、米国又はソ連と2国間の集団安全保障体制を構築している。これに加えて、東西両陣営のいずれにも属さず、広大な国土に膨大な人口と軍事力を有する中国が存在し、これらの国々が複雑な対立と協調の関係を形成している。

 このような状況を背景にして、わが国周辺の軍事情勢は、次のような軍事的対()にみられるように、複雑かつ多様なものとなっている。(第1−3図 わが国周辺における兵力配備状況(概数)

 米ソの軍事的対()

 アジア大陸周辺部から太平洋にかけて、ソ連は、大規模な陸・海・空戦力を展開し、他方、米国は海・空部隊を主体とする戦力を展開しており、米ソ両国は、わが国などの島峡部を含む広大な地域において、軍事的に対時している。ソ連は、ソ連極東地域の重要性の増大、米国と中国への対抗、発展する太平洋地域に対する影響力拡大などのため、1960年代中期から一貫して、陸・海・空戦力の全般にわたる増強を行ってきた。とりわけ、近年、ソ連は、沿海地域やオホーツク海方面などを重点にした戦力の強化を図ってきた結果、わが国に近接した地域において、木ソ両国が厳しく対時する状況となっている。

 中ソ国境における軍事的対()

 長大な地上国境を挟む中国とソ連は、1960年代に中ソ対立が激化したことを契機として、国境地域に地上軍を中心とする膨大な軍事力を配備して対時してきている。

 本年5月に30年ぶりに中ソ首脳会談が開催され、その際、両国が「中ソ両国の国境地区における軍事力を両国の正常な善隣関係にふさわしい最低の水準に削減する措置を講ずることに同意し、また、国境地区において信頼を強化し、安定を維持するために努力することに同意」することを含む共同コミュニケを発表したことなどにみられるように、最近、中ソ間では、関係改善が進展している。今後、これらの動きいかんによっては、中ソ国境における軍事的対時の状況にも変化が生じる可能性がある。

 朝鮮半島における軍事的緊張

 朝鮮半島においては、ソ連の支援を受けた北朝鮮の浸攻によって勃発した朝鮮戦争以後、韓国と北朝鮮との間で軍事的緊張が続いている。今日においても、朝鮮半島は、韓国と北朝鮮の合わせて120万人を超える地上軍が非武装地帯(DMZ)を扶んで対時する中で、米中ソ3か国の力が交錯する地域になっている。

 中越国境における軍事的対()

 中国とベトナムは、ベトナムのカンボジアへの軍事介入を契機として、1979年2〜3月に軍事衝突して以来、中国軍約20個師団を基幹とする約30万人と、ベトナム軍約30個師団を基幹とする約30万人が国境を挟んで軍事的対崎を続けてきている。

 最近では、中ソ関係の改善を背景とするカンボジア問題に関する中越間の話し合いなどもあって、国境を挟んだ軍事的対時には緊張の緩和の兆しがみられるが、カンボジア問題以外にも南沙群島領有問題等もあり、両国間には、依然、緊張関係が継続している。(第1−4図 わが国周辺の集団安全保障条約等

第2節 極東ソ連軍の軍事態勢と動向

1 全般的な軍事態勢

 ソ連は、1960年代に激化した中ソ対立を契機として極東地域において地上軍を中心どする顕著な軍事力の増強を開始し、その後も、アジア・太平洋への影響力の拡大のため主として海・空戦力の顕著な増強を行うなど、一貫して質量両面にわたり軍事力を増強してきた。その結果、今日では、極東ソ連軍は、核戦力及び通常戦力とも、ソ連全体の1/4〜1/3に相当する戦力を保有するに至っており、その軍事力蓄積には膨大なものがある。

 極東ソ連軍の配備・展開状況についてみれば、1978年の北力領土への地上軍再配備にみられるように、沿海地域、樺太、オホーツク海、カムチャッカ半島などのわが国に近接した地域に重点的に配備・展開されている。その結果、この地域には、極東ソ連軍の地上・航空戦力全体のうち、師団の約6割、戦闘機の約6割(第4世代戦闘機は約8割)、爆撃機の約8割が配備されるに至っているのに加え、ソ連最大の艦隊である太平洋艦隊がウラジオストクを主要拠点として展開している。このように、今日では、この地域に極東ソ連軍の大半が配備・展開されている。

 さらに、このような極東ソ連軍の増強に伴い、わが国周辺における艦艇と軍用機などの活動が活発化している。

 ソ連は、極東力面についても、最近各種の軍備管理・軍縮提案や戦力の一方的削減などの発表を行っている。本年5月、中国を訪問した際、コ゛ルバチョフ書記長は、今後2か年で兵力12万人、師団12個、航空連隊11個、艦艇16隻の一方的戦力削減などを発表した。この発表は、昨年12月の国連における一方的戦力削減発表を極東方面について若干具体化したものといえよう。しかし、その内容は、依然として、あいまいかつ不明な点が多く、総じて漠然としたものになっている。例えば、この発表では、兵力の内訳、対象師団の配備状況、地上・航空及び海上戦力の具体的内容などは一切明らかにされていない。また、欧州力面における一ガ的削減発表においては言及されている戦車、砲、作戦機などの数値について全く示されておらず、艦艇については艦種、トン数などが示されていない。さらに、戦力の削減などを実施した場合の2年後の極東ソ連軍の戦力規模、配備・展開についても触れていない。

 他方、後述するように、1985年にゴルバチョフ政権が誕生した後も、老朽装備の廃棄などの部分的削減が行われる一力で、SLCM搭載原子力潜水艦や新型駆逐艦の増強、多数の第4世代戦闘機の追加配備など、海空を中心とした装備の質的強化が続けられ、全般的な戦力の再編。合理化及び近代化が進められている。

 このように、今次発表どおり削減が実施されるとしても、それによって極東方面におけるソ連軍の軍事的圧力が基本的に減少することには疑問があり、むしろ、老朽装備の廃棄などによって極東ソ連軍の再編・合理化が一層促進され、戦力の近代化が加速される可能性がある。

 さらに、わが国周辺においては、活発な活動が引き続き行われているが、とりわけ最近では、オホーツク海力面での艦隊の演習やわが国のレーダーサイトに対する攻撃訓練の疑いのある飛行など、わが国に近接した海空域において、艦艇や軍用機の実戦的な活動が強化されている。

 このような極東ソ連軍の動向は、わが国に対する潜在的脅威であるのみならず、この地域の軍事情勢を厳しくしている要因となっている。(第1−5図 わが国に隣接した地域におけるソ連軍の配置

(1) 戦略核戦力については、ソ連の全戦略ミサイルの1/4〜1/3に当だる ICBMやSLBMなどが極東地域に配備されているとみられる。ICBMや戦略爆撃機がシベリア鉄道沿線を中心に、また、SLBMを搭載したデルタm級弾道ミサイル搭載原子力潜水艦などがオホーツク海を中心とした海域に配備されている。これらのICBMやSLBMは、SS−18、SS−N−18などに近代化されてきている。さらに、核弾頭装備の空中発射巡航ミサイルAS−15を搭載できる新型のTU−95ベアH爆撃機が配備されている。

(2) 非戦略核戦力については、バックファイアなどの中距離爆撃機、海洋・空中発射巡航ミサイル、戦術核などの多様な核戦力が配備されている。バックファイアは、約4,000kmの行動半径を有し、AS−4空対地(艦)ミサイルも搭載可能で、現在、バイカル湖西方と樺太対岸地域に約85機配備され、この地域の地上目標やわが国周辺海域のシーレ−ンなどに対する優れた攻撃能力を有している。このほか、地上軍部隊には、核装備可能なフロッグ、SS−1スカッドといった短距離弾道ミサイルが配備されている。さらに、最近、SS−Nー21海洋発射巡航ミサイルを搭載するアクラ級攻撃型原子力潜水艦が配備された。他方、SS−20などのINFミサイルについてはINF条約に基づき廃棄が進められている。

(3) 地上戦力は、1965年以来着実に増強され、現在では、ソ連の全地上兵力212個師団約200万人のうち、43個師団約39万人が極東地域(おおむねバイカル湖付近以東)に配備されている。

また、質的な面においても、T−72戦車、装甲歩兵戦闘車、地対地(空)ミサイル、多連装ロケットなどの増強が行われ、火力、機動力、防護力、戦場防空能力のほか化学戦遂行能力の向上が図られている。また、最近、アフガニスタンから移動したとみられるMI−24などの武装へリコプター1個連隊が樺太に配備され、対地攻撃能力が強化されている。(第1−6図 極東ソ連地上兵力の推移 師団数)(第1−7図 極東ソ連地上兵力の推移 兵員数

(4) 海上戦力は、今日では、ソ連の全主要水上艦艇約285隻と全潜水艦約360隻約290万トンのうち、主要水上艦艇約100隻、潜水艦約140隻(うち原子力潜水艦約75隻)の約100万トンを擁するソ連最大の太平洋艦隊が展開している。近年では、ソブレメンヌイ級やウダロイ級駆逐艦の増強による対潜・対艦・対空能力の向上、射程3,000kmmの海洋発射巡航ミサイルSS−N−21を搭載するアクラ級攻撃型原子力潜水艦の増強による対地・対艦攻撃能力の向上などが図られている。また、大平洋艦隊は、イワン・ロゴフ級などの揚陸艦艇を配備しているほか、ソ連唯一の海軍歩兵師団を有し、その装備の近代化を図るなど、水陸両用作戦能力の向上が図られている。そのほか、軍用に転用可能なラッシュ船ローロー船などの商船が増強されている。

なお、昨年、ソ連は、最近の5年間に大平洋艦隊を57隻削減したと伝えられたが、その大部分は老朽艦であるとともに、掃海艇などの小型艦艇が多く含まれており、同艦隊の実質的戦力を削減するものとはみられない。(第1−8図 極東ソ連海上兵力の推移 主要水上艦艇トン数)(第1−9図 極東ソ連海上兵力の推移 主要水上艦艇隻数)(第1−10図 極東ソ連の艦艇近代化の推移 主要水上戦闘艦艇のミサイル装備化)(第1−11図 極東ソ連海上兵力の推移 潜水艦隻数

(5) 航空戦力は、着実に増強されており、現在では、ソ連の全作戦機のうち約1/4に当たる約2,430機が配備されている。また、戦闘機の約7割がMIG−23/27フロッガー、SU−24フェンサーなどの第3世代航空機、約1割がMIG−31フォックスハウンド、SU−25フロッグフット、SU−27フランカーなどの第4世代航空機で占められており、引き続き第4世代航空機が増強されている。ソ連の戦闘機は、世代が進むにつれて第1−12図に示すように一般に行動半径が増大し、搭載能力も向上する傾向をみせている。これら第4世代戦闘機の増強などにより、オホーツク海や日本海などの方面に対する攻撃能力が強化されている。

なお、最近ソ連は、太平洋における航空機を遠距離から探知するため、新型のOTHレーダーを極東で運用試験中であるとみられる。(第1−12図 ソ連戦闘機の行動半径(例))(第1−13図 極東ソ連航空兵力の推移 戦闘機)(第1−14図 極東ソ連航空兵力の推移 爆撃機

2 北方領土におけるソ連軍

 ソ連は、同国が不法に占拠しているわが国固有の領土である北方領土のうち、国後・択捉両島と色丹島に、1978年以来地上軍部隊を再配備しており、現在、その規模は師団現模であると推定される。これらの地域には、ソ連の師団が通常保有する戦車、装甲車、各種火砲や対空ミサイル、対地攻撃用武装へリコプタ−MI−24ハインドなどのほか、ソ連の師団が通常保有しない長射程の130mm加農(かのん)砲が配備され、訓練も活発に行われている。

 また、択捉島天寧飛行場には、1983年に配備が開始されたMlGー23フロッガー戦闘機が現在約40機配備されている。

 ソ連が北方領土にこのような軍事力を配備。展開している狙いは、主として次のようなものであるとみられる。軍事的には、北方領土がオホーツク海へのアクセスを(やく)する上で重要な位置にあるため、同海域に展開されているデルタ級などのSSBNの残存性の確保などを目的としたオホーツク海の軍事的聖域化や、同海の周囲の大部分がソ連領土であることを利用した事実上の内海化を図るための前進拠点とすることを狙っているものとみられる。また、政治的には、北方領土を軍事力によっで確保し続けるとの意図を明らかにし、不法占拠どいう既成事実をわが国に対して押し付けるごとを狙っているものとみられる。(北方領土

3 わが国周辺における演習・演習

 わが国周辺においては、全般的に演習・行動は依然として活発であり、特に艦艇や軍用機の活動が実戦的になっている。1地上軍は、大規模な演習が1987年以降増加傾向にあり(第1−15図参照)、とりわけ樺太や北方領土などの周辺においては、オホーツク海方面の戦力の強化に伴い、上陸演習を含む大規模な統合演習が実施されている。

 艦艇については、昨年4月にキエフ級空母、カラ級巡洋艦を含む6隻が輪島沖を航行し演習を実施したこと、昨年7月にキーロフ級原子カミサイル巡洋艦「フルンゼ」、カラ級ミサイル巡洋艦を含む9隻が宗谷海峡を通行し、オホーツク海ヘ進出して対潜、対空、対艦などの訓練を含む演習を行ったとみられること、昨年10月にキンダ級ミサイル巡洋艦、クレスタ級ミサイル巡洋艦、スベルドルフ級軽巡洋艦などの5隻が礼文島北西を航行し演習を実施したことなどが注目される。

 一昨年の沖縄での領空侵犯に続き、本年4月、北海道礼文島沖で領空侵犯があったことにみられるように、ソ連軍用機の行動は依然として活発である。今般の侵犯事例は、礼文島近辺において、深夜、実戦的な訓練を繰り返した末に発生したものである。また、航空自衛隊のレーダーサイトに対する攻撃訓練を行っている疑いのあるソ連軍用機の飛行が引き続き行われており、その中には例年にない北海道のオホーツク海側のレーダーサイトに対する攻撃訓練の疑いのある飛行が含まれている(第1−16図参照)。さらに、MIG−31やSU−27などの第4世代航空機の増強に伴い、その活動も活発化し、最近では太平洋上まで進出しての長距離要撃訓練及び空中警戒管制機メインステイと組み合わせた攻撃訓練を実施したとみられる。このように、ソ連軍用機の行動については、総じて実戦的かつ攻撃的な活動が目立ってきている。(第1−17図)(ソ連の戦闘機SU−27フランカー)(わが国周辺で最近撮影されたソ連のクリバックIIIフリゲート艦

4 中ソ国境における配備状況

 中ソ間では、先に述べたように、5月に30年ぶりの中ソ首脳会談が開かれ、経済・文化の分野での文流の進展にみられた最近の関係改善の動きが改めて確認された。また、この会談の際に、ソ連は、モンコル駐留軍の75%の撤退を再確認するとともに、ソ連「極東部」における兵力の削減を発表した。

 しかしながら、中ソ国境付近の兵力配備状況をみれば、一昨年の1個師団を含む一部のソ連軍兵力のモンゴル領からの隣接する軍管区への移動及び人員削減、組織・機構の簡素化に伴う中国軍の削減以外には、現在のところ大きな変化は認められず、両国の基本的な軍事的対時は依然として続いている。

 対()する中ソ両軍の戦カバランスについていえば、中ソ両軍の対()状況は、第1−18図のとおりであり、兵員数は中国軍がソ連軍に対して約2倍の勢力であるが、火力、機動力、対航空戦力などにおいてソ連軍のカが優勢であり、総合的にはソ連軍が優位に立っている。しかしながら、大規模な陸軍を中心とする中国軍は、極東ソ連軍を(けん)制し得るものとなっている。(第1−18図 中ソ国境兵力配備

 

(注) 本年5月、ソ連は、ヤゾフ防相に対するプラウダ紙のインタビューの形で、極東におけるソ連軍の戦力に関するデータを初めて公表したが、これには、極東におけるソ連軍の区分が念意的かつ非合理的であること、兵力の内訳などが未だ明らかでなく極束におけるソ連軍の実態把握が困難なことなどの問題点がある

(注) ソ連太平洋艦隊全艦艇約840隻、約190万トン

(注) ラッシュ船(LASH;Lighter Aboard Ship):ほしけ(lighter)を積載する船。大型クレーンを装備し、岸壁に接岸することなく、沖合いで、ほしけの積卸しを行う。港湾設備の整備が十分でないところで利用される。

(注) ローロ−船(Roll on/Roll off):コンテナや貨物をトラック、トレ−ラーなどの運搬装置に載せ、岸壁で運搬装置ごと船積みし、そのまま積卸す荷役方式を取り入れた船で、船首又は船尾に開閉式の扉がある。

この方式は、商船では、カーフェリーに多く用いられている。軍用では、揚陸艦にも用いられ、艦艇を岸壁に接岸して戦車などを直接積載し、適当な上陸地に着岸し、艦首扉を開いて揚陸する。また、洋上から水陸両用の車両などを直接発進させるもの(Ro1l on/Float off)もある。

(注) 第1世代:MIG−17、MIG−19等 第2世代:MIG−21、MIG−25、SU−7等 第3世代:MIG−23/27、SU−24等 第4世代:MIG−31、SU−25、SU−27等

(注) OTHレーダー:短波帯電波が電離層で反射することを利用して、水平線以遠の航空機、艦船等の目標を探知・追尾するレーダー。一般に、その探知範囲は、約1,00km〜3,000km、幅約60度の範囲にわたるといわれている。

第3節 大平洋地域の米軍の軍事態勢と動向

1 全般的な軍事態勢

 太平洋国家の側面を有する米国は、従未からわが国を始めとするアジア地域の平和と安定の維持のために大きな努力を続けている。近年では、東アジア及び犬平洋地域は、既に欧州を抜いて米国にとって最大の貿易相手地域となるなど、この地域の平和と安定は、米国にとって一層重要なものとなっている。

 米国は、アジア・太平洋地域に、陸軍・海軍・空軍・海兵隊の統合軍である太平洋軍や戦略空軍の部隊などを配備するとともに,日本を始めいくつかの地域諸国と安全保障取極を締結することによって,この地域の紛争を抑止し、米国と同盟国の利益を守る政策をとってきている。また、米国は、有事において効果的かつ迅速に対応すると同時に,米国の抑止力の信頼性を維持するために、太平洋軍隷下の海・空軍部隊を主体とする戦力の一部を西太平洋やインド洋に前方展開させるとともに、必要に応じ所要の戦力をハワイや米本土から増援する態勢をとっている。

 米太平洋軍は、ハワイに司令部を置き、太平洋とインド洋を担当している。

 陸軍は、2個師団約5万人から構成され、韓国とハワイにそれぞれ1個師団が配備されている。

 海軍は、ハワイに司令部を置く太平洋艦隊の下、西太平洋とインド洋を担当する第7艦隊、東太平洋やベーリング海などを担当する第3艦隊などから構成されている。両艦隊は、主要艦艇約180隻、約170万トンをもって、米本土の西海岸、ハワイ、フィリピン、日本、ディエゴ・ガルシア、グアムなどの基地を主要拠点として展開している。

 海兵隊は、2個海兵機動展開部隊約9万人、作戦機約270機から構成され、米本土の西海岸と日本にそれぞれ1個海兵機動展開部隊が配備されている。

 空軍は、第5空軍が日本、第7空軍が韓国、第13空軍がフィリピンにそれぞれ配備され、作戦機約330機を保有している。(米国の空母ミッドウェー

2 わが国周辺における軍事態勢

(1) 配備・展開状況

陸軍は、韓国に第2歩兵師団、第19支援コマンドなど約3万1千人、日本に第9軍団司令部要員約2,100人など、この地域に合計約3万4千人を配備している。

海軍は,日本、フィリピン、グアムを主要拠点として、その戦力は、空母3隻を含む艦艇約70隻、作戦機約260機、兵員約4万人である。作戦部隊である第7艦隊は,西太平洋やインド洋に展開している海軍と海兵隊の大部分を隷下に置き、平時のプレゼンスの維持、有事における海沿岸地域に対する航空攻撃、強襲上陸などを任務としている。

空軍は、第5空軍がF−15、Fー16を装備する2個航空団を日本に、第7空軍がF−4、F−16、A−10を装備する2個航空団を韓国に、第13空軍がF−4を装備する1個航空団をフィリピンに、それぞれ配備している。また、戦略空軍がB−52、KC−135を装備する1個航空団をグアムに、KC−135を装備する1個航空団を日本にそれぞれ配備している。これらの空軍勢力は、約310機、兵員約4万1千人である。

海兵隊は日本に第3海兵師団とF/A−18、A−6などを装備する第1海兵航空団を配備し、洋上兵力やフィリピン駐留兵力を含め約2万9千人、作戦機約60機を展開している。

(2) 最近の動向

米国は、最近の極東ソ連軍の増強とその活動の活発化に対応して、戦力の増強と近代化、戦力の柔軟な運用を通じ、この地域における軍事バランスを維持し、米国の抑止力の信頼性の維持・強化を図っている。

わが国周辺における米軍の最近の動向は、次のとおりである。

陸軍では、在韓米軍のAH−1S武装ヘリコプターの増強、在韓第2歩兵師団の火力、機動力などの近代化が行ねれてきている。海軍では、ニミッツ級原子力空母、タイコンデロガ級イージス巡洋艦が配備され、また、空母ミッドウェーの搭載機がF/Aー18に更新された。空軍では、三沢にF−16飛行隊2個が配備され、また、在韓米軍のF−4がF−16に更新中である。海兵隊では、岩国にF/Aー18飛行隊2個が配備されたほか、AV−8Bバリア−の飛行隊が配備され、また、沖縄の第3海兵機動展開部隊ヘ改良ボーク・ミサイル及び軽装甲歩兵戦闘車が配備されるなど,火力や機動力の強化が進められている。このほか、重装備などを積載した事前集積船が西太平洋にも配備されている。

第4節 中国の軍事力

1 全般

 中国は、最近の中ソ間の関係改善の動きにもかかわらず,依然,軍事的にはソ連を主たる脅威と認識しているとみられ、強大な火力、機動力を有するソ連軍に対抗するため、引き続き、従来の広大な国土と膨大な人口を利用したゲリラ戦主体の「人民戦争」の態勢から各軍・兵種の協同運用による統合作戦能力と即応能力を重視する正規戦主体の態勢への移行を図っている。

 このため、中国は、大幅な人員削減や組織・機構の簡素化による編成・運用の効率化、装備の近代化や研究開発の強化、幹部の若返りや幹部教育の充実、各軍種・兵種間の協同訓練の強化を進めるとともに、昨年には、23年ぶりに階級制度を復活させた。また、このような軍の近代化・正規化の努力と並行して予備兵力についても整備が続けられており、予備役師団の整備や大学などの学生に対する軍事訓練の義務付けなどの有事における動員態勢の確立も進められている。さらに、装備の近代化に当たっては、自らの研究開発や生産を基本としつつ、西側を中心とする外国からの技術導入を図る一方、第三世界諸国への武器の輸出を増加させている。

 しかしながら、中国にとって、当面経済建設が最重要課題とされていることなどから、これらの努力を支える国防支出は限られており、装備の近代化を始めとして、早急な近代化は困難な状況にある。

 さらに、本年6月、中国当局が北京における学生・市民の民主化要求運動を武力を用いて制圧したことを契機に、各国から対中批判の声があがり、その結果、西側主要国が2国間における閣僚その他のハイレベルの接触を停止するなど、中国の対外関係に種々の影響が生じており、今後の経済建設や装備の近代化にどのような影響を与えるかが注目される。

 他方、例えば5月の中ソ首脳会談において、両国が国境地区における軍事力を両国の正常な善隣関係にふさわしい最低水準に削減する措置を講ずることに同意したことにみられるような中ソ関係の改善が中国軍の近代化に与える影響については、今後、引き続き注目を要する。

2 軍事態勢

 中国の軍事力は、核戦力のほか、陸・海・空軍からなる人民解放軍、人民武装警察部隊及び民兵から構成されている。

(1) 核戦力については、抑止力を確保すると同時に、国際社会における発言権を獲得する観点から、1950年代半ばごろから独自の開発努力を続けている。現在では、ソ連欧州部や米国本土を射程に収めるICBMを保有するほか、ソ連極東地域やアジア地域を射程に収めるIRBM(中距離弾道ミサイル)とMRBM(準中距離弾道ミサイル)を合計100基以上、中距離爆撃機(TU−16)を約120機保有している。また、SLBMの開発も進められており、昨年9月には、SSBNからの水中発射実験に初めて成功した。さらに、戦術核も保有しているとみられ、核戦力の充実と多様化に努めている。

(2) 陸軍は、総兵力は約230万人と規模的には世界最大であるものの、総じて火力、機動力が不足している。最近では、少数精鋭化による軍の近代化などを図るため、100万人以上の兵員を削減するとともに、従来の11個軍区を7個軍区に再編成した。さらに、統合作戦能力の向上などのため、歩兵師団を中心に編成された軍(軍団)を、歩兵、砲兵、装甲兵などの各兵種を総合化した「集団軍」へと改編している。

(3) 海軍は、北海、東海、南海の3つの艦隊からなり、艦艇約1,980隻(うち潜水艦約110隻)約94万5千トン、作戦機約890機を保有している。艦艇の多くは、旧式かつ小型であるが、ヘリコプター搭載可能とみられる護衛艦の建造、新型ミサイルの搭載などの近代化が積極的に進められている。また、西太平洋で海軍演習などを行っているほか、南沙群島や西沙群島における活動拠点の強化を図りつつ、これらの海域でのプレゼンスを強化するなど、海洋における活動範囲を拡大する動きがみられる。(中国のC−801対艦ミサイル

(4) 空軍は、作戦機を約5,160機保有しているが、ソ連の第1、第2世代の航空機をモデルにした旧世代に属するものがその主力となっている。最近では、F−8などの新型機の開発のほか、搭載電子機器の更新などによる性能の向上に努めるなど、航空機の近代化を図っている。

3 米中関係

 1979年の米中国交正常化以降、両国は、台湾問題を抱えながらも、関係発展の努力を払ってきており、本年1月に就任したブッシュ米大統領がその翌月に中国を訪問するなど、両国間の交流は全般的に拡大してきた。

 軍事関係の分野においても、米国は、防衛的でかつ米国やその同盟国などの安全を脅かさない一定の武器と技術的支援を中国に提供する用意があるとしており、魚雷やCH−47Dヘリコプターの売却が成立したとみられるなど、中国軍の近代化に対する米国の協力が進められてきた。また、昨年9月の米国防長官の訪中、同年11月の中国空軍代表団の訪米、本年4月の中国海軍練習艦のハワイ寄港、本年5月の米海軍艦艇の上海寄港など、交流が活発化していた。

 しかしながら、本年6月、中国当局が北京における学生、市民の民主化要求運動を武力を用いて制圧したことに対し、米国は、これを遺憾とし、中国向けの武器輸出の停止、米中軍指導者間の交流停止などの措置をとったことなどから、今後の米中関係には流動的要素が強まってきているとみられる。

第5節 朝鮮半島の軍事情勢

1 全般

 朝鮮半島は、地理的、歴史的にわが国とは密接不離の関係にあり、朝鮮半島の平和と安定の維持は、わが国を含む東アジア全域の平和と安定にとって重要である。この朝鮮半島においては、韓国と北朝鮮の合わせて120万人を超える地上軍が非武装地帯(DMZ)を挟んで対侍するなど軍事的緊張が続いている。

 韓国は、近年目覚ましい経済的発展を遂げている中で、史上最多の参加国の下に行われた昨年のソウル・オリンピックを成功裡に終え、国際的地位を高める一方、社会主義諸国との関係を深める動きも示している。他方、北朝鮮は、国際的に孤立するとともに、経済的にも深刻な不振状態にあるものとみられる。

 このような中で、韓国と北朝鮮は、昨年8月、約2年8か月ぶりに対話を再開したものの双方の思惑は依然として大きく異なっており、現在、この対話に進展はみられず、40年以上にわたる分断は、両者の溝を深いものにしている。(第1−19図 朝鮮半島の軍事力の対峙

2 北朝鮮

(1) 北朝鮮の軍事力

北朝鮮は、1962年以来、「全人民の武装化」、「全国土の要塞化」、「全軍の幹部化」、「全軍の近代化」という4大軍事路線に基づいて軍事力を増強してきた。特に、1970年代以降における軍事力の増強には著しいものがある。現在、北朝鮮は、引き続きGDPの約20〜25/を投入して軍事力の増強・近代化を図っており、航空機やミサイルの国産能力も保有しつつあるとみられている。

北朝鮮軍の勢力は、陸軍が戦車約3,500両を含む26個師団約75万人、海軍が潜水艦21隻、ミサイル高速艇32隻を主体に約520隻約7万1千卜ン、空軍が作戦機約770機である。これに加え、最近では化学兵器も保有しているとみられる。

陸軍は、1970年代後半以降に顕著に増強され、その兵員数は韓国の兵員数の約1.4倍である。また、戦車、装甲車、自走砲などの機動力や火力などの面で韓国に対し量的に優位に立っており、その主力はDMZ沿いに配備されている。また、最近は、一部部隊の機械化、機甲化への改編を行うとともに、前力配備を推進している。

海軍は、総トン数や駆逐艦などの隻数において韓国に劣り、また、運用海域が東西に二分されていることもあり、運用の柔軟性に欠ける面がある。しかい潜水艦、ミサイル高速艇を始め、冬数の上陸用舟艇、哨戒艇を保有しており、沿岸における作戦行動に適した能力を有している。

空軍は、その作戦機数では韓国に対し優位にあるが、概して旧型のものが多い。しかし、最近では、最新鋭の戦凹機の導入が図られている。このほか、多数の輸送機を保有しており、そのほとんどが低空からの侵入に適した機種で占められている。また、韓国軍が保有しているものと同型の米国製へリコプターが第三国経由で多数導入されている。

北朝鮮は、「正規戦と非正規戦の配合」をスローガンにして非正規戦を重視しており、陸軍の特殊部隊の増強とあいまって、海軍がミゼット型を含む潜水艦を、空軍が小型輸送機やへリコプターをそれぞれ保有している。さらに、準軍隊である労農赤衛隊も、韓国の郷土予備軍に比べ、装備の水準や訓練練度が高いとみられる。

(2) 北朝鮮とソ連の軍事協力

北朝鮮は、近年、ソ連との軍事関係を緊密化させており、ソ連からMIG−23、対地攻撃能力に優れたSU−25や制空能力に優れたMIG−29といった戦闘機、SA−5とみられる地対空ミサイルの供与を受けた。また、ソ連軍用機の東シナ海への進出、ベトナムのカムラン湾との往復などのため北朝鮮上空通過を許容している。本年1月には、これまで確認されたソ連軍用機の機数では最大規模の北朝鮮上空通過があった。

軍事面での交流では、各種記念日に際しての軍事代表団などの相互訪問が行われているほか、昨年5月のソ連ミサイル駆逐艦2隻の元山訪問、昨年7月の北朝鮮艦艇数隻のウラジオストク訪問などが行われている。また、昨年10月には、日本海において、1986年以来引き続いて3回目の両国海軍による合同演習が行われている。(SU−25フロッグフット対地攻撃機

3 韓国

 韓国は、全人口の約24%に当たる約1,029万人が集中する首都ソウルがDMZから至近距離にあり、また、三面が海で囲まれ、長い海岸線と冬くの島輿(しよ)群を有しているという防衛上の弱点を抱えている。このため、韓国は、北朝鮮の軍事力増強を深刻な脅威と受けとめ、並々ならぬ国防努力を払い、毎年GNPの約5〜6%を国防費に投入しており、近年、防衛力の強化には目覚ましいものがある。

 陸軍は、兵力21個師団約54万人で、その多くはDMZからソウルの間に数線にわたって配置され、ソウル防衛に当たっている。また、AH−lS武装ヘリコブターなどを米国から購入しているほか、初の国産88式戦車の配備を開始するなど、火力と機動力の増強を図っている。

 海軍は、海兵隊2個師団と1個旅団を含み、約170隻約11万トンの艦艇を保有している。艦艇の主力は駆逐艦であるが、ミサイル高速艇の増強なども行われている。

 空軍は、F−4、F−5を主力とし、1986年から導入を進めているF−16を含め約390機の作戦機を保有している。また、奇襲攻撃に対応するために早期警戒態勢の強化を図っている。

 なお、毎年数回、郷土予備軍と正規軍との合同訓練を行うなど、郷土予備軍の練度の向上を図っている。(韓国の88式戦車

4 在韓米軍

 米国は、米韓相互防衛条約に基づいて、現在、第2歩兵師団、第7空軍などを中心とする約4万4千人の部隊を配備し、韓国軍とともに「米韓連合軍司令部」を設置している。在韓米軍は、第2歩兵師団などの火力、機動力の向上、防空能力の向上、C3I(指揮、統制、通信及び情報)などの強化を図っている。

 また、米韓両国は、朝鮮半島における不測事態に対する共同防衛能力を高めるため、1976年から毎年米韓合同演習「チ−ムスピリット」を行っており、本年も例年並みの規模で1月末から4月末にかけて実施した。

 このような在韓米軍の存在と米国の対韓コミットメントは、韓国の国防努力とあいまって、朝鮮半島の軍事バランスを維持し、朝鮮半島における大規模な武力紛争の発生を抑止する上で大きな役割を果たすとともに、北東アジアの平和と安定にも寄与している。(米韓合同演習 チームスピリット

第6節 東南アジアの軍事情勢

1 この地域の特性

 東南アジアは、マラッカ海峡、南シナ海やインドネシア、フィリピンの近海を含み、太平洋とインド洋を結ぶ交通上の要衝を占めている。

 現在、この地域においては、ソ連に支援されたベトナムのカンボジアへの軍事介入、カムラン湾を拠点とするソ連の軍事行動等、不安定な状態が続いている。しかし、最近、ASEAN諸国の経済発展や結束の強化、ベトナム軍の本年9月末までのカンボジアからの撤退表明など、この地域の情勢には変化の兆しが現われ始めている。こうした情勢の下にあってASEAN諸国は、この地域の平和と安定を図るため更に結束の強化を図っている。

 ASEAN諸国は、経済的・政治的にみても、わが国にとって重要な近隣諸国であり、これらの諸国の平和と安定は、わが国の安全にとって重要である。(第1−20図 インドシナにおける軍事態勢

2 この地域の主な紛争の状況

(1) カンボジア紛争

カンボジアにおいては、1978年12月の軍事介入により、ソ連の支援を受けつつ「ヘン・サムリン政権」を擁立したベトナムが、国連などによるカンボジアからの撤退要求にもかかわらず、現在も大規模な兵力を駐留させている。これに対し、反ベトナム勢力である民主カンボジア連合政府三派は、カンボジア内部の各地でベトナム軍にゲリラ活動で対抗している。

この紛争は、本年で11年目に入っているが、カンボジア問題の「包括的政冶解決」への努力が続けられており、一昨年末から、民主カンボジア側のシアヌーク殿下と「ヘン・サムリン政権」側のフンセン首相との間で会談が行われているほか、ASEAN諸国なども含めたジャカルタ非公式協議も行われている。また、カンボジア問題に関し利害を異にする中ソ間の話し合いも開始されている。このような話し合いを通じて、一部には進展がみられるものの、暫定政権のあり方や国際監視機構の設置などに関して、各国・各派の立場が厳しく対立じている。このような中で、ベトナムは、昨年6月、カンボジア駐留兵力の第7次部分撤退(ベトナム側発表によると5方人)を開始した模様であり、本年4月には、本年9月末までにカンボジアから完全撤退すると発表している。

(2) 中越間の紛争

中越国境においては、現在、中国軍約20個師団を基幹とする約30万人と、ベトナム軍約30個師団を基幹とする約30万人が対時しており、1979年2〜3月の軍事衝突以来、小規模の武力衝突を繰り返してきた。

最近では、本年1月に10年ぶりに外務次官級の公式会談が再開され、中越間の軍事的対時には緩和の兆しもみられるが、中国、ベトナム、フィリピン、マレーシアなどが領有権を主張している南シナ海の南沙群島の周辺海域において、昨年、中国とベトナムの両国艦艇による小規模な武力衝突があり、現在も、中国その他の海軍艦艇が展開するなど、両国間には、依然緊張関係が続いている。

3 この地域におけるソ連の動向

 ソ連は、ベトナム、ラオス、カンボジア「ヘン・サムリン政権」に対し、軍事援助と軍事顧問の派遣を行うとともに、このような援助を背景に、ベトナムのカムラン湾の海・空軍施設を使用している。

 ソ連は、カムラン湾に水上戦闘艦艇や潜水艦などを寄港させるとともに、同港湾を利用して、南シナ海に20数隻程度のブレゼンスを維持している。また、ソ連は、カムラン湾にTU−95ベアやTU−16バジャー、MIG−23フロッガーなどを配備し、周辺海域における偵察などの活動を行っている。このほか、カムラン湾には、通信・情報収集施設や補給施設が存在し、ソ連にとって海外における重要な車事拠点となっている。このようにソ連は、カムラン湾の利用により、ソ連太平洋艦隊の運用の柔軟性の確保及び東南アジア地域におけるプレゼンスの維持に努めている。

4 米国、ASEAN諸国の動向

(1) 米国

米国は、ベトナムからの撤退以降、フィリビンを除いては、この地域には軍事力を常駐させていないが、経済・軍事援助などによりASEAN諸国との協力・友好関係を確保するとともに、地域的な安定の紺持に努めてし,、る。また、フィリビン駐留の海。空軍の存在、タイにおける戦時予備備蓄、タイなどとの共同演習、西太平洋やインド洋における空母戦門グループのフ゜レゼンスなどにより、この地域の安定を図っている。(2)ASEAN諸国

ASEAN諸国は、それぞれ白国の国防努力を継続し、2国間の合同軍事演習を行ったり、マラッカ海峡の共同「衛を協議するなど域内話国間の防衛協力を進めるとともに、経済。文化文流などを通じて域内の結束強化を図り、先進民主主義諸国との協力関係の増進に努めている。

フィリピンは、中東から太平洋に至る石油などの重要物資の海上輸送路を(やく)する地理的位置にある。フィリピンには米軍のスビック海軍基地やクラーク空軍基地が存在し、同国及びこの地域の平和と安定に寄与している。米国とフィリピンの間で行われていた米比軍事基地協定の見直し交渉は、昨年10月、米国の対比援助の増額(年間額べースで、従前の約2.7倍)などで合意した。しかし、1991年以降の米比軍事基地協定のあり方については未定であり、この協定の期限である1991年9月に向け、改めて米比間で交渉が行われる予定となっている。

第3章 その他の地域の軍事情勢

第1節 中東及びインド洋地域

1 この地域の特性

 中束・インド洋地域には、右油輸送ルートを始め、海洋による通商によって繁栄してきたわが国を始めとする自由主義諸国にとって重要な海上交通路とスエズ運河、ホルムズ海峡など海上交通上の要山が存在しており、このような地理的特性から、同地域は世界の交通上の要域となっている。

 特に、ペルシャ湾(アラビア湾)岸地域は、世界の原油埋蔵量の6割強と世界の石油輸出量の3分の1程度を占める大産油地帯であり、わが国を始めとする自由主義諸国は、石油供給のかなりの部分をこの地域に依存している(第1−2表参照)。このため、この地域の平和と安定の紺持と海上交通の安全の確保は、わが国を始めとする自由主義諸国や第三世界の国々の生存と繁栄にとって極めて重要となっている。

 一方、この地域においては、多くの国が第2次世界大戦後に旧植民地から独立したものであり、領土、民族、宗教などのさまざまな要因が絡んで、国内的にも、対外的にも不安定かつ流動的な情勢が続いている。さらに、これらの地域諸国への弾道ミサイルを始めとする高度兵器の拡散は、この地域の不安定さを強める要因となっている。(第1−2表 主要国のホムルズ海峡依存度(原油輸入)

2 この地域の主な紛争の状況

(1) イラン・イラク紛争の停戦

1980年9月に本格化したイラン・イラク紛争は、約8年を経過し、長期・消耗戦の様相を呈していたが、昨年以来、イランの死傷者増大と武器・弾薬不足などにより、地上戦闘においてもイラクが軍事的優位に立った。

このような戦闘の推移を背景として、イランは、既にイラクが受諾を表明していたイラン・イラク紛争の即時停戦などを求める国連安保理決議598号を受諾し、昨年8月20日に両国間の停戦が発効した。

現在、国連事務総長主催の下で直接交渉が行われているが、シャットルアラブ川の浚渫(しゆんせつ)、両軍の撤兵、捕虞の交換といった問題が国境問題と絡んで進展をみせておらず、交渉は長期化の様相を呈している。

(2) アフガニスタンからのソ連軍の撤退

昨年4月、パキスタン、アフガニスタン(ナジブラ政権)、米国及びソ連との間で、アフガニスタンからのソ連軍の撤退やアフガニスタンとパキスタンとの間の相互の内政不干渉と不介入などを内容とする合意文書が署名され、ソ連軍は、同合意文書に基づき、昨年5月から撤退を開始し、本年2月15日、撤退を完了した。このソ連軍の撤退は、数次にわたり国連総会決議が行われるなど、わが国を始めとする大多数の国々が強く要求していたものである。ソ連としても、軍事的に手詰まり状態になっていたこともあり、また、軍事介入による経済的・社会的負担からの脱却、西側の対ソイメ−ジ改善による国内経済の建て直しに必要な西側諸国との関係改善の促進などを図る上からも、撤退せざるを得なくなったものと考えられる。

ソ連軍撤退後、ナジブラ政権は、政府内部の体制固めを進めて、政権の維持を図っている。また、ソ連は、撤退後も同政権側への武器供与を継続している。これに対して、反政府勢力は、ソ連軍撤退後の2月18日にバキスタンに暫定政権を成立させるとともに、主要都市に対する攻撃を激化させ、ナジブラ政権に対する圧力を強めている。現在のところ、紛争が早期に解決する見込みは立っていない。

(3) アラブ・イスラエル間の紛争

イスラエルが占領しているヨルダン川西岸とガザ地」では、1987年以来、パレスチナ人による騒(じよう)が発生しており、これをめぐって、アラブ諸国などはイスラエルに対する非難を強めているところである。他方、昨年12月にPLOのアラファト議長がイスラエルの生存権の承認、テロ放棄などを明確に示したことを受け、PLOと米国との間で初めて直接対話が開始されている。これは、中東和平に向けての大きな前進と評価できるが、イスラエルは依然としてPLOを承認しておらず、今後の動向が注目される。

レバノンにおいては、国内各派の対立に加え、関係国の利害が複雑に絡み合い、混迷が続いている。

3 米国とソ連の動向

(1) ソ連の動向

ソ連は、アフガニスタンのナジブラ政権への軍事援助の継続のほか、シリア、リビア、イラク、南イエメンなどに武器供与、軍事顧問団の派遣、ソ連の影響下にある第三国の軍事要員の派遣などを行うことによって政治的影響力の伸長を図るとともに軍事施設などを獲得してきた。

ソ連海軍は、インド洋において、主として太平洋艦隊から分派した約20隻の艦艇を常時展開している。これらのソ連艦艇が使用している主な港湾、停泊地は、第1−21図のとおりであるが、これらは、ペルシャ湾(アラビア湾)からインド洋を経て、日本、欧州、米国に達する石油輸送ルートを(やく)することができる地点に位置している。

なお、ソ連は、インドに対し、昨年1月、原子力潜水艦(チャーリー級)を貸与しており注目される。(ソ連のチャーリーI級原子力潜水艦

(2) 米国の動向

米国は、中東・インド洋地域を米国と同盟国の国益と安全保障にかかわる重要な地域の一つとみており、パーセントづ岸諸国の安定とこの地域からの石油の安定的供給を図るため、インド洋に第7艦隊のブレゼンスを維持するほか、ペルシャ湾(アラビア湾)方面に中東統合任務部隊を配備して、空母を含む多数の征艇を展開している。

しかしながら、ペルシャ湾(アラビア湾)は、ソ連領から約900kmに満たないのに対し、米国東海岸からは、最短の地中海・スエズ運河経由で約15,000kmも隔たっている。このため、米国は、さらに、海・空輸送能力の強化、ディエゴ・ガルシアへの資材の事前集積と海軍支抜施設の維持、中央軍(CENTCOM)の設置、ケニア、ソマリア、オマーン、モロッコなどとの緊急時の通過や施設利用のための取極などにより、有事におけるこの地域での作戦遂行能力の向上を図っている(第1−21図参照)。

第2節 その他の地域

 南犬平洋地域は、豊富な食料・鉱物資源などが存在し、また、わが国を始めとする自由主義諸国との政治的・経済的なつながりが緊密化している地域であり、この地域の平和と安定の維持は、わが国を始めとする自由主義諸国にとっても重要である。オーストラリアとニュージーランドは、米国とANZUS条約を締結しており、オーストラリアは、条約に基づき、米国と密接な協力関係を維持し、軍事施設の共同使用や共同演習などを行っている。一方、ニュージーランドについては、その核政策との関連で、米国艦艇のニュ−ジーランド寄港が問題となり、1986年7月、米国はニュージーランドに対する防衛義務の履行を停止する旨公表している。ソ連は、1985年にキリバスと漁業協定を締結して以来、南太平洋地域に積極的な進出を試みている。また、フィジー、ツバル、パプア・ニューギニアなどとも漁業交渉の申し入れを行っているともいわれ、昨年2月、ナウル共和国と国文を樹立するなど、これら地域各国との国交の樹立にも積極的である。米国は、軍事援助・経済援助などを行うことにより、この地域の諸国との協力・友好関係を深めるとともに、地域的な安定の維持に努めている。

 アフリカ地域は、クロム、マンガンなどの希少金属資源を含む天然資源に恵まれ、また、この地域には重要な海上文通路が存在している。このため、この地域の平和と安定の維持及び海上交通の安全確保は、わが国を含む自由主義諸国の生存と繁栄にとって重要となっている。しかしながら、アフリカ諸国のほとんどは、第2次世界大戦後に旧植民地から独立したものであり、食糧不足などの径済的困難に加え、部族対立など各種要因が絡んで、西サハラ、チャドなどにおいて地域紛争が継続している。チャドにおいては、1987年9月に停戦が戊立したが、依然として紛争の焦点となったアオズ地区の領有問題が解決をみていない。他方、アンゴラにおいては、昨年12月に包括和平協定が署名され、本年1月からキューバ軍の撤退が開始されており、さらに6月には、アンゴラ大統領とUNITA議長の間で停戦につき合意が行われた。

 中南米地域は、豊富な天然資源に恵まれた広大な地域である。特に中米・カリブ海地域は、米国と地理的に近く、パナマ運河などが存在することもあって、米国にとって戦略上極めて重要な地域である。さらに、カリブ海は白由主義諸国への重要な海上文通路に当たっており、有事における米軍の展開、未援とも関連して、その安全の維持は、米国以外の自由主義諸国の安全保障にとっても重要である。この地域の多くの国は、深刻なインフレなど困難な径済問題に直面している。ニカラグア、エルサルバドルなどにおける中米紛争については、本年2月、エルサルバドルでの中米5か国大統領会議で、国連が関与した形での和平の枠組みにつき合意が成立した。なお、ニカラグアにおいては、昨年3月、暫定停戦合意が成立し、その後の本格的停戦文渉は決裂したものの、停戦状態は事実上継続している。(第1−22図 南太平洋地域の主な国々の位置関係