第4部

 国民と防衛

第1章 国民と自衛隊

第1節 国民の防衛意識

 安全保障政策に関する国民的合意は、国の平和と安全を保つための基盤であり、防衛に対する国民の理解と支持及び国民の国を守る気概があって初めて国の防衛が全うされる。

1 防衛庁としては、従来から、このような認識に基づき、国民の防衛意識の動向について注目しつつ、わが国の防衛を国民的基盤に立脚したものとするため、自衛隊の現況と各般の防衛施策を広く紹介し、防衛問題や自衛隊に関する国民の関心を深め、理解と支持を得る努力をしている。総理府は、これまで3年毎に「自衛隊・防衛問題に関する世論調査」(全国20歳以上の男女3,000人の無作為抽出、面接聴取方式による。)を行ってきており、これにより国民の防衛意識の推移をみると次のとおりである。(第4−1図 自衛隊の必要性) 

「自衛隊の必要性」については、昭和50年代初期から国民の80%以上の者が「自衛隊はあった方がよい」と答えており、自衛隊に対する支持率は80%以上におおむね定着したと考えられる。

 「わが国の防衛のあり方」については、「現状どおり、日米安全保障体制と自衛隊で日本の安全を守る」と現在のあり方を肯定している者の割合が増えてきており、昭和59年の調査では70%近い値を示すに至っている。(第4−2図 わが国の防衛のあり方

 「日米安全保障条約に対する評価」については、「日本の平和と安全に役立っている」及び「どちらかといえば役立っている」とする者が最近では70%を超え、肯定的な評価が着実に増えている。なお日米安全保障条約の評価については米国民の間でも肯定的な意見が多く、外務省が実施している「米国における対日世論」調査では「同条約が米国の安全保障にとり有益である」と考えている者がここ10年間、80%を超えている。(第4−3図 日米安全保障条約に対する評価

 防衛政策の具体的な面に一歩踏み込んだ「防衛予算」及び「自衛隊の規模」については、現状維持の意向を示す者が増大して過半数を占めている。(第4−4図 防衛予算の増減)(第4−5図 自衛隊の規模(陸上自衛隊)

 また、「防衛意識」については、「国を守る気持が他の人と比べて非常に強い」及び「どちらかといえば強い」とするものが50%を超えており、「非常に弱い」及び「どちらかといえば弱い」とする者は10%以下である。この傾向は、ここ10年間あまり変化していない。(第4−6図 国を守る気持

2 ちなみに、外国における国防に関する国民の意識の動向の例として、NATO諸国の一員である西ドイツと伝統的に中立政策をとっているスウェーデンの場合を紹介すると次のとおりである(資料50参照)。

(1) 西ドイツ国防省が1986年8月に民間に委託して実施した世論調査の結果では、西ドイツ連邦軍の存在について87%の者が「平和の確保のために必要」と考えており、「平和の障害となっている」と考えている者は10%である。また、在西独駐留米軍の意義について「西ドイツの安全保障上不可欠で重要である」と肯定的な評価をする者が77%を占めている。

(2) 一方、1986年9〜10月、スウェーデン心理防衛委員会が実施した国防に関する意識調査結果では「欧州が戦争となった時にスウェーデンが中立を維持できる可能性」について、77%の国民が「可能性は小さい」又は「可能性はない」と否定的であり、「可能性あり」と考えている国民は19%である。さらに、攻撃を受けた場合、市民が武器をとって国防に参加することに積極的な態度を示す者が76%であるが、武装抵抗に否定的な者も14%いる。

第2節 国民生活への貢献

 自衛隊は、国民の理解と支持がなければ、その能力を十分に発揮することはできず、隊員個人も国民とともに生き、かつ、国民から信頼されているという実感によってその士気も高まり、自信をもって任務を遂行できる。

 自衛隊は、防衛任務のほか、その組織、装備、能力等を生かして災害派遣や各種の部外協力活動などを行っている。これらの活動は、国民生活や地域社会の安定に寄与するとともに、隊員には、有事に際し、国を守るという崇高な使命感だけでなく、平素から直接国民生活に貢献しているという誇りと生きがいを自覚させ、あるいは隊員と国民とが親近感を強めるなど国民と自衛隊とが接する場となっている。そして、これらのことは、国民の自衛隊に対する理解と信頼を深める一助となっている。

1 災害派遣

 自衛隊は、天災地変その他の災害に際して、原則として都道府県知事等の要請を受けて災害派遣を実施している。その具体的な作業は、遭難者及び遭難した船舶、航空機などの捜索救助、水防、道路の啓開、防疫、給水、人員や物資の緊急輸送など広範多岐にわたっている。

 昭和57年以来本年3月までの5年間に自衛隊が行った災害派遣ほ約3,200件を数え、作業に従事した人員ほ延べ約20万1千人、車両延べ約2万4千両、航空機延べ約5,800機、艦艇延べ約230隻である。

 最近の災害派遣の実績は、第4−1表に示すとおりである。

 昨年度の大規模な災害派遣の例としては、8月の北関東及び東北地方を中心とする台風10号とその後の低気圧による災害に対する派遣及び11月の伊豆大島噴火に対する派遣がある。伊豆大島の噴火では11月21日の大噴火後、直ちに合計12隻の自衛艦を派遣し、約850名の島民を避難させるための海上輸送を行ったほか、残留島民の捜索救助、資器材等の輸送、偵察機による写真撮影など、人員延べ約8,400人、航空機延べ約230機、艦艇延べ約60隻による災害派遣を実施した。

 このほか、自衛隊では、離島やへき地などにおける救急患者の輸送などの要請にも即応できる態勢となっている。例えば、沖縄県、長崎県、東京都などの離島やへき地においては、航空機による救急患者の輸送を最近5年間では年平均約420件実施しており、医療施設に恵まれない離島等における民生の安定に大きな役割を果たしている。

 わが国は、台風、豪雨、豪雪、地震、噴火など自然災害が多く、また、離島やへき地が多い地理的環境にあること、工業化や都市過密化の進展に伴い、災害の態様が複雑かつ多様化していることなどから、自衛隊による災害救援活動は、まずます重要性を増している。自衛隊は、これらの災害時に全力を挙げて国民の生命と財産の保護に貢献するため、平素から国や地方公共団体が行う訓練に積極的に参加するとともに、自らも災害に備え訓練を行うなど災害対処能力の向上を図り、国民の信頼にこたえるよう努力している。(伊豆大島噴火で避難のため輸送艦に移乗する大島住民

2 地震防災派遣

 自衛隊は、「大規模地震対策特別措置法」の規定により、地震発生が差し迫ったと判断され、内閣総理大臣により、警戒宣言が発せられた場合、地震災害警戒本部長(内閣総理大臣)の要請に基づく防衛庁長官の命令によって、地震防災応急対策の的確かつ迅速な実施を支援するため「地震防災派遣」を行うことになっている。

 ちなみに、地震防災対策強化地域に指定されている東海地域での大規模地震に備える「東海地震対処計画」では、自衛隊は、関係省庁、地震防災対策強化地域関係6県及び関係公共機関と調整の上、ヘリコプターにより文通状況、避難状況等の把握及び人員・物資の輸送を行うほか、RF−4E偵察機により都市部の撮影及び解析を行うこととしている。

 また、実際に地震災害が発生した場合には、相当規模の人員、装備をもって広域にわたり救援活動を行うこととしている。

 これらに備えて、自衛隊は、毎年「防災週間」に行われる総合防災訓練に参加し、対処能力の向上を図っている。

3 危険物の処理

 陸上自衛隊は、不発弾などが発見された場合、地方公共団体などの要請を受けて、その処分に当たっている。今日なお、全国各地に不発弾が残存しているものと思われ、都市部においても土地開発や建設工事の際などに発見されている。特に、沖縄県においては、まだ多量の不発弾が残存しているため、特別不発弾処理隊(約20人)を編成して処理に当たっている。

 一方、機雷の掃海業務については、海上自衛隊が行っており、第2次世界大戦中にわが国近海に敷設された膨大な数の機雷のうち危険海域にある機雷の掃海はおおむね終了し、現在では、地方公共団体などからの要請を受けて、その都度、残りの海域の掃海及び海上における機雷その他の爆発性の危険物の除去及び処理を行っている。

 昨年度の危険物の処理の実績は、第4−2表に示すとおりである。

4 部外協力

(1) 土木工事などの受託

 自衛隊は、地方公共団体などの長の申出に基づき、その内容が訓練の目的に適合する場合には、学校、運動場、公園などの造成工事や道路工事などの土木工事を始めとする各種の事業を行っている。

 また、自衛隊は、委託を受けた場合、任務遂行に支障を生じない限度で、航空機の操縦士や救急に従事する人などの教育訓練を行っている。

(2) 運動競技会に対する協力

 自衛隊は、関係機関から依頼を受けて、任務遂行に支障を生じない限度で、オリンピック競技大会や国民体育大会のような国際的、全国的規模又はこれらに準ずる運動競技会の運営について、式典、通信、輸送、音楽演奏、医療、救急、会場内外の整理などの面で協力している。

(3) 南極地域観測に対する協力

 自衛隊は、国が行う南極地域における科学的調査に対し、輸送その他の協力を行っている。

 昨年11月から本年4月までの第28次観測で自衛隊が保有する砕氷艦「しらせ」は、南極地域において89日間行動し、物資約900トン、今次観測隊員52名(うち越冬隊員は37名)の輸送支援を行った。

 なお、南極地域観測では今回から、さらに奥地にある「あすか」観測拠点での越冬観測を開始しており、これに伴い、同観測拠点への越冬用資材等の輸送量が増大した。

(4) その他の協力活動

 以上のほか、自衛隊は、気象庁の要請により航空機を使って行う北海道沿岸海域の海氷観測業務、建設省国土地理院の要請による地図作成のための航空測量業務、放射能対策本部の要請による集塵飛行、厚生省の硫黄島戦没者の遺骨収集に対する輸送等の支援、潜水医学実験隊及び航空医学実験隊などの特殊な調査研究施設や知識・技術を生かした重症潜水病患者の治療、航空事故調査、高所医学に関する協力など各種の協力活動を行っている。

第3節 国民との触れ合い

 自衛隊は、防衛問題や自衛隊に対する国民の理解と関心を深めるため、防衛政策や自衛隊の現況を広く紹介するなど各種の広報活動を行っている。また、地方公共団体等が行う公共性を有する各種の行事に対し、任務に支障のない範囲で積極的に参加するなど国民との様々な触れ合いの場を通じて、国民と自衛隊とのより一層の親近感と連帯感の醸成に努めている。

1 部隊の公開等

 自衛隊は、各種印刷物の作成配布、新聞・雑誌への広告及び広報記事の掲載、広報映画の製作上映、音楽隊による演奏会の開催、部隊の見学、各種記念日などにおける部隊の公開、隊内生活体験(体験入隊)、体験航海、体験搭乗などを行っている。

 また、自衛隊は、駐屯地等を、休日などには訓練に支障のない範囲でできる限り地域住民のスポーツやレクリエーションの場として開放している。

 さらに、防衛庁は、広く国民一般から意見や要望を聴き、今後の施策に反映させるため防衛モニター制度などを設けている。

 昨年度の主要な広報活動の実績は、第4−3表に示すとおりであり、これらの触れ合いの場を通じて自衛隊と交流する国民の数は、延べ約1,800万人にも達している。

2 各種行事への参加

 自衛隊の各部隊においては、地域住民と一体となって、球技、駅伝などのスポーツ大会に参加している。各地域における市民まつり、港まつりや北国で行われる雪まつりを始めとして、ねぶたまつり、阿波踊りなど郷土の祭典や各種の市民行事に参加したり、それらの協力を行うなど地域社会と調和した活動を行っている。

3 記念行事等

 自衛隊記念日の行事の一環として実施する観閲式及び観艦式は、自衛隊の最高指揮官である内閣総理大臣が部隊を観閲し、隊員の士気を高揚するとともに、自衛隊の装備や訓練の成果を広く国民に披露するために行われるものである。

 昨年の観閲式は、10月26日に朝霞において行われ、これには、陸・海・空各自衛隊の隊員等約5,200人、戦車・火砲等の車両約300両、航空機約100機が参加した。一般の見学者は、予行を含め約6万5千人であった。なお、観艦式については、昨年は実施しなかった。

 自衛隊記念日の行事の一環として、また、自衛隊音楽まつりが、毎年実施されており、昨年は11月21日、22日の両日、日本武道館において開催された。この音楽まつりでは、陸・海・空各自衛隊の音楽隊、儀じよう隊等の隊員、防衛大学校の学生、計約1,000名、ゲスト歌手及び特別出演の在日米陸軍軍楽隊等が、勇壮なマーチや各地の民謡の演奏、はつらつとしてさわやかな演技を披露し、約3万9千人の観客を魅了した。

 自衛隊の現状を広く国民に紹介するものとして、昨年9月には、陸上自衛隊が、富士山ろくにおいて、実弾を使用する富士総合火力演習を実施した。この演習には、隊員約1,600人が参加し、一般の見学者は約1万7千人であった。

 オリンピックや万国博覧会などにおける華麗な飛行で国民に親しまれてきたブルーインパルスは、全国各地で展示飛行を実施した。この展示飛行は、航空自衛隊の戦技研究の成果の一端を展示用に再構成して公開しているものである。昨年度のブルーインパルス展示飛行に対する観客は、約91万人であった。

 以上のほか、全国各地に所在する部隊においても、国民のより一層の理解を得るため、各種の行事を通じて自衛隊の現状を広く紹介している。(自衛隊音楽まつり

第2章 国民生活と防衛施設

 国民が家庭や地域社会において、平和で安定した生活を営むことは、活力ある豊かな社会を築く原動力となるものであり、わが国の繁栄を支えるものである。

 一方、自衛隊及び在日米軍の使用する防衛施設は、わが国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、すなわち、侵略から平和で安定した国民の生活を守るため必要不可欠なものである。しかし、わが国の国土が狭隘なことや防衛施設の特性上、その所在する地域において住民生活や地域社会と様々なかかわり合いを有し、防衛施設をめぐる種々の問題が生じている。このようなことから、国民生活との調和にできる限りの配慮をしつつ、防衛施設を設置し、その安定的使用を確保することが、わが国防衛のために極めて重要である。

 このため、防衛庁では、周辺住民の理解と協力を求めるとともに、その地域の特性を十分に配意した周辺住民の生活の安定と福祉の向上に寄与する施策を講じ、防衛施設の機能の維持と周辺地域の民生の安定との調和を保つように種々の努力を行っている。

 

(注) 防衛施設:自衛隊が使用する施設と日米安全保障条約に基づき在日米軍が使用する施設・区域とを総称する言葉であり、演習場、飛行場、港湾、通信施設、営舎、倉庫、弾薬庫、燃料庫などをいう。

第1節 国民生活と防衛施設のかかわり合い

1 防衛施設の意義

 防衛施設は、人員、装備と並んで防衛力の基盤となるものであり、自ら適切な防衛力を保持するとともに、日米安全保障体制を堅持して国の防衛を全うしようとするわが国において、自衛隊や在日米軍の使用する防衛施設は、その任務遂行上不可欠のものである。

 自衛隊が使用する飛行場、港湾、演習場、通信所などの施設は、防衛力発揮の基盤であり、平時においては教育訓練及び定められた任務を行う拠点となり、有事には防衛活動の拠点となるものである。また、わが国は、日米安全保障条約に基づき米国に施設・区域を提供しているが、その施設・区域は、在日米軍の活動の拠点となるものであり、その安定的な使用は、日米安全保障体制を維持し、信頼性を高めるための必要不可欠な要素となっている。

 このように、防衛施設は、わが国の防衛に欠くことのできないものであり、その機能を十分に発揮するためには、周辺住民の理解と協力が得られ、常に安定して使用できる状態に維持されることが必要である。

2 防衛施設の現状

 防衛施設全体の土地面積ほ約1,374km2であり、国土面積に占める割合は、約0.37%である。

(1) 自衛隊の施設

 自衛隊の施設の土地面積は約1,038km2で、その半分近くが北海道に所在している。この土地面積の約89%は国有地であり、他は民公有地である。また、施設の用途別では、演習場と飛行場とで約84%を占めている。

 このほか、自衛隊は、在日米軍の施設・区域を日米安全保障条約に基づく地位協定により共同使用しており、その土地面積は約35km2である。

(2) 在日米軍の施設・区域

 在日米軍の施設・区域(専用的なもの)の土地面積は約331km2で、その7割以上が、沖縄県に所在している。この土地面積の約48%は国有地であり、他は民公有地である。また、施設・区域の用途別の使用状況では、演習場と飛行場とで約71%を占めている。

 このほか、在日米軍は、自衛隊の施設等を地位協定により一定の期間を限って使用しており、その土地面積は、自衛隊の施設については約536km2(第3部第3章第3節で述べた日米共同訓練を行うために、施設・区域として提供している駐屯地、演習場、飛行場等の自衛隊の施設を含む。)、自衛隊め施設以外のものについては約6km2である。

 さらに、在日米軍の施設・区域には、訓練等のための水域42か所(このうち、36か所は陸上施設に接続したものである。)がある。

3 防衛施設をめぐる諸問題

 防衛施設の設置や運用をめぐって生じる問題は、多種多様である。この問題を発生原因により分析すると、まず、防衛施設又はその運用の特殊性が挙げられる。防衛施設には、飛行場や演習場のように、もともと広大な面積の土地を必要とするものがあり、さらに、航空機の頻繁な離着陸や射爆撃、火砲による射撃、戦車の走行など、その運用によって、周辺地域の生活環境に影響を及ぼすものがある。中でも、最も大きなものが航空機騒音問題である。

 次に、わが国の特殊な地理的条件が挙げられる。わが国は、主要各国に比べ人口密度は最高の部類に属し、しかも比較的険しい山岳地帯が多く、国土全体から森林、原野、湖沼などを差し引いた可住地面積の国土 面積に占める割合は21%しかないという地理的条件にある。このため、狭い平野部に都市や諸産業と防衛施設とが競合して存在し、防衛施設の側からみるとその設置や運用が制約され、都市開発その他の地域開発の側からみると防衛施設の存在や運用が支障となるという問題が生じている。特に、経済発展の過程において多くの防衛施設の周辺地域の都市化が進んだ結果、問題がより一層深刻化している。

 このほか、防衛施設をめぐる諸問題の発生原因としては、防衛施設用地の所有者などや訓練水域に利害関係を有する者による生活又は生産基盤の確保の要求、イデオロギー闘争としての基地反対又は撤去の要求など様々なものがある。

第2節 防衛施設と周辺地域との調和のための努力

 防衛施設をめぐる諸問題は、前述したような原因の一つ又は複数により生ずるものであり、いずれもその処理いかんによっては、政治問題化、社会問題化するおそれのあるものである。

 そこで、防衛庁としては、このような諸問題の解決を図るため、従来から、一方では国の防衛の必要性や防衛施設の重要性について国民の理解を求めるとともに、他方においては、防衛施設周辺の生活環境の整備、防衛施設の整理統合など、防衛施設と周辺地域との調和を図ることに努力している。

1 防衛施設周辺地域の生活環境の整備等の施策

 防衛庁は、防衛施設と周辺地域との調和を図るために、「防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律」(昭和49年制定)に基づく施策を中心に、次のような各種の施策を行っている。

(1) 障害防止工事の助成

 自衛隊や在日米軍は、その任務達成のため演習場や飛行場などの防衛施設を使用して演習、訓練などを実施しているが、このような際に、例えば、戦車その他の機甲車両などの頻繁な使用によって道路の損傷が早まったり、射撃訓練などによる演習場内の荒廃によって当該地域の保水力が減退したり、付近の河川に洪水が生じやすくなったり、あるいは航空機騒音などによって学校教育や病院の診療に迷惑がかかったりすることがある。

 このような場合に、地方公共団体などが障害を防止し、あるいは軽減するために行う道路や河川の改修、ダムの建設、砂防設備の整備、学校や病院の防音工事といった障害防止工事に対し、国は、これらの工事に要する費用を補助することとしている。

 この障害防止工事の助成については、自衛隊や在日米軍の活動がその任務遂行上不可欠ではあるものの、そこから生じる障害を特定の人々にのみ負担させることは不公平であり、また、学校教育に支障を招いたり、病弱者保護に欠けるというようなことがあってはならないとの考えから、これを実施しているものである。(障害防止工事の例(幼稚園)

(2) 飛行場等周辺の航空機騒音対策

 航空機による騒音の防止対策として、防衛庁は、従来から消音装置の設置などによる音源対策や早朝・夜間における飛行の自粛などの飛行時間の規制、人家密集地をできるだけ避けた飛行経路の設定、飛行高度の規制などの運航対策にも努めており、それ相応の効果を上げている。しかしながら、航空機騒音の完全な消去は不可能であり、また、任務達成のための夜間飛行練度維持の必要性や航行の安全性を考慮した場合の地形上からくる制約など、これらの運航対策にはおのずから限界がある。(輸送機C−1用消音装置

 このため、防衛庁としては、これらの対策と並行して、学校、病院などの防音工事に対する助成措置のほか、周辺地域の生活環境の整備を積極的に進めることとしている。すなわち、飛行場及び航空機による射爆撃が実施される演習場の周辺について、航空機の離陸、着陸等の頻繁な実施により生ずる音響に起因する障害の度合いを基準として、第4−7図に示すように、外側から第1種区域、第2種区域及び第3種区域をそれぞれ指定し、第1種区域内に所在する住宅については防音工事の助成を行い、第2種区域内から外に移転する者に対しては移転補償と一定の土地の質入れを行うとともに、移転先地において、道路、水道、排水施設などの公共施設を地方公共団体などが整備する場合には、その整備に関し、助成の措置をとることとしている。

 さらに、第3種区域については、住宅が建つことなどによって騒音障害が新たに発生することを未然に防止するため、この区域をこれら防衛施設と国民生活の場とを隔てる緩衝地帯にすることが適切であるので、緑地帯などの緩衝地帯として整備されるよう措置することとしている。

 また、前述の国が買い入れた土地を、地方公共団体が広場や駐車場などにする場合は、無償で使用させることができることとなっている。

(3) 民生安定施設の助成

 民生安定施設の助成は、防衛施設の設置や運用の結果として周辺住民の生活や事業活動が阻害されると認められる場合において、地方公共団体がその障害の緩和に資するため、生活環境施設や事業経営の安定に寄与する施設を整備する際には、国がその費用の一部を補助しようとするものである。

 このような事例を幾つか挙げてみると、次のような場合があり、助成の内容は多岐にわたっている。

 燃料や火薬を取り扱う施設の周辺市町村が、消防施設を強化、整備する場合

 演習場内の荒廃により、周辺住民が使用してきた河水や流水が減少したため、市町村が水道の設置などを行う場合

 航空機騒音のある地域で、児童の下校後の学習、青少年及び成人に対する社会教育あるいは集会を静かな環境下で行えるようにするため、市町村が、学習、集会などのための施設を設置する場合

(4) 特定防衛施設周辺整備調整交付金の交付

 ジェット機が離着陸する飛行場、砲撃や射爆撃が行われる演習場、港湾などの防衛施設の中には、市町村の面積に占める割合が非常に大きいなど、その設置や運用が周辺地域の生活環境や開発に著しい影響を及ぼしているものがある。このため、関係市町村が、公共用施設の整備に他の市町村に比べ特段の努力を余儀なくされているような場合がある。内閣総理大臣は、このような防衛施設及び関係市町村をそれぞれ,「特定防衛施設」及び「特定防衛施設関連市町村」として指定することができる。国は、これらの市町村に対して公共用施設(交通施設、医療施設、教育文化施設、社会福祉施設など)の整備に充てる費用として、特定防衛施設の面積、運用の態様などを基礎として算定した交付金を交付し、いわば町づくりに側面から協力することとしている。

(5) その他の施策

 以上の各種施策のほか、航空機の頻繁な離着陸その他の行為により農業、林業、漁業などを営む者に事業経営上の損失を与えた場合にはその損失の補償を行っている。

 以上に述べた防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する主な施策の昨年度における実施状況は、第4−4表に示すとおりである。

2 基地対策経費

 防衛施設周辺地域の生活環境の整備等のための諸施策に要する経費、在日米軍の施設・区域の整理統合に要する経費及び各種の補償などに要する経費と第3部第3章第5節で述べた在日米軍の駐留を円滑にするための提供施設の整備に要する経費、在日米軍の日本人従業員の福祉対策、離職者対策及び従業員対策に要する経費とを合わせた、いわゆる基地対策経費は、本年度当初予算においては、約3,299億円となっている。これらの予算の推移は、第4−8図に示すとおりである。

第3章 国民と防衛

 わが国を防衛するためには、精強で適切な防衛力を整備し、日米安全保障体制を堅持することが必要なことはいうまでもないが、単にそれだけでは国の防衛は不可能であり、防衛に関する国民の理解と積極的な支持、協力が不可欠である。このことに関連して、この章では諸外国の実情を紹介しつつ、国の防衛のあり方について考えてみたい。

第1節 諸外国の現状

 諸外国においては、国の防衛には、国民の積極的な支持と協力が必要との考えから、国の防衛と国民との関係について憲法や法律等で規定し、国の防衛のための国民の協力態勢が確立しているのが通例である。

 本節においでは、国の防衛に関する憲法等の規定と併せて、市民が国の防衛に積極的にかかわっている例として予備役制度などを取り上げ、諸外国の事例を紹介する。

(1) 自由主義諸国は、個人の最大限の自由の保障に高い価値を置いているが、同時にそれを可能とする体制を守るための国民の強い決意を憲法あるいは基本法等で表明し、さらにそのための具体的な手だてを種々講じている。

 米国では、憲法の前文において「われら合衆国の国民は、より完全な連邦を形成し、正義を樹立し、国内の静穏を保障し、共同の防衛に備え、一般の福祉を増進し、ねれらとれれらの子孫の上に自由の祝福のつろくことを確保する目的をもって、アメリカ合衆国のために、この憲法を制定する」と規定している。第2次世界大戦後アメリカ国民が自国及び同盟諸国の防衛と世界の安定のために、多大の犠牲を払いつつ、積極的な協力を行ってきたことは、周知のとおりである。米国には志願制の現役軍のほか、志願者、現役軍除隊者等で構成される予備役軍や州兵軍がある。これらの要員は、あらかじめ有事の際に編入される現役部隊あるいは予備役等をもって編成される部隊が指定されており、有事総兵力の半数近い兵力を充足している。

 イギリスでは、1961年に徴兵制を廃止し志願制に移行したほか、予備役の一種として兵役経験を必要としない志願予備役の制度を有するなど、国民の自発的な国防への参加を基本とした施策をとっている。志願予備役の隊員は、民間での仕事を続けながら、週末等に行われる年間12日の訓練や、通常、夏季に行われる15日間の連続野営訓練などに参加する。この連続野営訓練は欧州大陸にでかけて行われる場合もあり、動員時にはイギリス本土防衛のみならず、欧州大陸に駐留するイギリス軍を増強するのに大きな役割を演じるといわれている。

 フランスでは、憲法第34条において「国防のために課せられる身体又は財産による市民の負担」を法律で定めると規定している。さらに「国家役務法」において、国民が兵役・民間防衛の役務等を問わず定められた勤務に従事した後、一定年齢まで「軍の予備役」となる旨を定めている。これにより、例えば陸軍の有事総兵力の約半数を予備役に依存しているなど、予備役はフランスの戦力にとって不可欠な要素となっている。

 西ドイツでは、基本法第12a条第1項において「男子に対しては、18歳から軍隊、国境警備隊又は民間防衛団における役務に従事する義務を課することができる」と規定している。さらに同条第3項では「兵役義務を負う者で役務に従事していない者に対しては、法律により民間人の保護を含む国防目的のための義務を負わせ得る」とある。西ドイツの男子は15か月間の現役勤務のあと、義務として45歳に達するまで、ただし将校・下士官の場合ほ60歳に達するまで、予備役に指定され、平素から召集訓練などに応じている。

 隣国の韓国では、憲法第37条において「すべて国民は、法律が定めるところにより、国防の義務を負う」と規定している。また、正規予備軍、郷土予備軍、民間防衛隊など平時兵力の約14倍の人々が、民間にあって国防に直接、間接に関与している。韓国の民間防衛訓練は、民間防衛隊員はもとより、一般市民に至るまで多くの国民が参加して行われており、特に毎月15日の「民間防衛の日」には、防空訓練及び化学・生物兵器、核兵器等による攻撃からの退避訓練も含めて全国規模の訓練を実施している。

(2)社会主義諸国では、国家が国民の意志と利益を体現しているとして、国の防衛を国民の崇高な責務と位置付けている例が多い。

 ソ連では、憲法第31条において「社会主義祖国の防衛は、国家の最も重要な機能に属し、全人民の事業である。社会主義の獲得物とソビエト人民の平和な労働、国家の主権と領土保全の防衛を目的として、ソ連軍が創設され、かつ、一般兵役義務が制定される」と規定している。ソ連は「一般兵役義務法」で予備役についても規定している。現役勤務を終えた者のみならず特殊事情により現役勤務に就かなかった者も、年齢などによって区分された予備役に編入され、階級毎に定められた年齢(例えば、兵士は50歳)まで招集訓練を受け、一般市民として生活しつつも国防に参加している。

 中国は、憲法第55条において「祖国を防衛し、侵略に抵抗することは、中華人民共和国のすべての公民の神聖な責務である。法律に従って兵役に服し民兵組織に参加することは、中華人民共和国公民の光栄ある義務である」と規定している。また、兵役法に基づき現役勤務終了者等を予備役に編入している。

(3) いわゆる中立国等においては、独力で国の防衛を全うするために、関係の法令等を整備するとともに、人口に比して大規模な動員態勢を確立している例が多くみられる。

 例えばスイスは、1815年の永世中立に関する宣言書により、永世中立国としての地位を認められ、それ以降中立政策をとっている。しかし、スイスは、単にこうした国際保障に依存するだけでなく、憲法第18条において「いずれのスイス人も、兵役の義務を負う」と規定するのを始めとして、種々の施策を講じ防衛態勢の確立に努めている。

 同国では、原則として20歳から50歳までのすべての男子に対し兵役義務が課せられており、年齢に応じて一定期間の訓練が行われる。兵役勤務適格者は17週間の基礎訓練を受けた後、予備役に編入されて一般市民生活に戻る。そして32歳までは年間3週間の訓練を8回、以後、42歳までは年間2週間の訓練を3回、50歳までは年間1週間の訓練を2回など、生涯を通じ合計で最低49週間の軍事訓練を受けるようになっている。こうして、スイスの平時兵力は約1,500人の教官等の職業軍人と約1方8,500人の徴募兵であるが、有事には48時間以内に民間防衛隊を含め約110万人の動員が可能な態勢を整えているといわれている。

 スウェーデンは、条約に基づくものではないが、1814年以来国家の伝統的な基本政策として中立を維持している。そしていかなる勢力にも与せず、自力で侵略を排除し、中立政策を信頼あるものとするため、強力な防衛体制を確立している。

 同国では義務兵役法により、18歳から47歳までの男子は軍務に就くよう規定されている。一般に兵役義務者は、7か月半〜10か月の基礎訓練を受けた後、数年を経てから、戦闘部隊が18〜25日間実施する機動演習に5回招集されて再教育を受ける。このようにして訓練を受けた大部分の兵役義務者は、平時は「家庭で生活」し、動員発令後、直ちに国防に参加する。こうしてスウェーデンは、平時、約6万5,000人の兵力を、有事には72時間以内に郷土防衛隊を含め国民の1割弱に当たる約80万人まで動員する態勢を整えているといわれている。

 フィンランドは、自由民主主義体制の下にあって、1948年にソ連との友好・協力及び相互援助条約を締結しつつ、軍事的には東西いずれの側にも与せず、中立政策をとっている。憲法第75条においては「フィンランド国のすべての国民は、祖国防衛に参加し、あるいはこれを援助する義務を有する」と規定している。

 同国は、1947年に連合国との間で締結した平和条約(パリ条約)により平時兵力を合計4万1,900人以下に制限されており、このため、有事には予備役が兵力の中心となる。フィンランド男子ほ20歳〜21歳で8〜11か月間の徴兵訓練を終えた後、50歳まで予備役として訓練を受けている。このようにして約480万人という人口にもかかわらず、有事には動員発令後数日以内に約25万人が緊急展開部隊を形成し、最終的には約70万人が可動な態勢を整え、特殊な地形、気象条件等を活用して国土の防衛を全うしようとしている。

 独自の社会主義体制をとる非同盟国ユーゴスラビアは憲法第172条において「国の防衛は、すべての市民の神聖にして奪うべからざる権利であり、最高の名誉である」と規定している。また、同憲法第238条において「何人も、ユーゴスラビア社会主義連邦共和国又はその一部の降伏を承認又は署名し、占領を受入れ又は承認する権利を有しない」と規定している。そして、ユーゴスラビアは、陸、海、空軍合わせて約21万人の平時兵力を有しており、そのほかに、陸軍約50万人、海軍約4万5,000人、空軍約3万人の予備役、さらには約100万人を擁する地域防衛軍を備え、強固な防衛態勢を築いている。

第2節 国民と防衛

 日本の防衛は、我々国民にとって幸福な生活の基礎となっている何ものにも代え難い大切なこの国を侵略から守ることであり、国民自身にとって極めて重要な問題である。

 わが国の防衛のためには、国民一人一人が国の防衛の重要性をよく認識し、この大切な素晴らしい国を真に愛し、これを守ろうとする強い意志を持つことが何よりも大きな要素であり、この国民の防衛意識に支えられてこそ、自衛隊は真にわが国を防衛する力となり、また、日米安全保障体制も有効に機能するものである。

 国民の国を守る意志は、わが国が万一侵略を受けたときに、自衛隊に協力し、あるいはこれを支持して共に国を守ろうとする行動となって現れることも大切であるが、それだけではなく、平素から、防衛問題全般についての十分な認識に基づいて、自衛隊と日米安全保障体制に対する深い理解と強い支持となることが、わが国の防衛のために必要不可欠である。

 わが国においては、地続きの国境がないという地理的特性、あるいは第2次世界大戦の苦い経験や戦後今日まで安定した平和を享受していることなどから、国民の間には、防衛問題に対して感覚的に拒絶したり、あるいは無関心であったりする風潮があることは否めない。最近では、経済的にも世界の国々と一層深い関係を持つようになり、また、厳しい国際軍事情勢などから、防衛問題を内外の現実に即してとらえようとする傾向が強くなってはいるが、なお、わが国の防衛力整備の推進や日米安全保障体制の信頼性の強化について関心が欠如したり、理解が不足したりしている面がないとはいえない。

 例えば「わが国に対する侵略も生じていない現在、なぜ、防衛力の整備充実や日米安全保障体制の信頼性の維持向上に努める必要があるのか」という意見がある。しかし、わが国の防衛のために不可欠の精強な自衛隊の整備充実と日米安全保障体制の信頼性の向上は、平素から国民一人一人の理解と協力の下に、このための不断の努力を続けておかなければいざという時になってから急にこれらを行おうとしても間に合わないものである。

 自衛隊については、昭和29年の創設以来、今日まで30年余の間に、国民の大多数の理解と支持を得つつ精強な防衛力として成長してきた。現在、政府は、一昨年9月、「大綱」に定める防衛力の水準の達成を図ることを目標とする中期防衛力整備計画を策定し、その着実な実施に努めている。また、日米安全保障体制についても、国民の理解とこれに基づく日米間の信頼性の維持向上のための永年にわたる努力の結果、その基礎は揺るぎないものとなっているが、わが国に対するあらゆる態様の侵略の発生を今後とも一層確実に抑止するためには、日米安全保障体制の信頼性を更に高め、維持していく努力が必要である。このように、いかなる態様の侵略に対してもわが国を守り得る防衛の態勢を確立することは、一朝一夕にできるものではなく、平素からの不断の努力が必要である。

 21世紀は今や目前に迫っている。この平和で豊かな日本を次の世代へ継承していくことは我々の責務である。このためには、国民一人一人が平和の尊さ、安全保障の重要性を深く認識するとともに、国民の間で、防衛問題についての建設的かつ具体的な議論が積み重ねられ、それらを通じ、国民的な合意が着実に形成されていくことが大切である。