第4部

国民と防衛

第1章国民と自衛隊

第1節 国民の防衛意識

 安全保障政策に関する国民的合意は、国の平和と安全を保つための基盤であり、防衛に対する国民の理解と支持及び国民の国を守る気概があって初めて国の防衛が全うされる。

 防衛庁としては、従来から、このような認識に基づき、国民の防衛意識の動向について注目しつつ、わが国の防衛を国民的基盤に立脚したものとするため、自衛隊の現況と各般の防衛施策を広く紹介し、防衛問題や自衛隊に関する国民の関心を深め、理解と支持を得る努力をしている。

 総理府は、これまで3年毎に「自衛隊・防衛問題に関する世論調査」(全国20歳以上の男女3,000人の無作為抽出、面接聴取方式による。)を行ってきたが、その最近の調査(昭和59年11月実施)を中心に、国民の防衛意識の動向をみると、次のような結果となっている。

(1) 自衛隊の必要性

 自衛隊の必要性については、「自衛隊があった方がよいか、ない方がよいか」との問に対して、83%の者が「あった方がよい」としており、国民の多くは自衛隊が必要であると考えている(資料47参照)。

(2) 防衛体制

ア 防衛のあり方

 わが国の防衛のあり方については、「現状どおり、日米安全保障体制と自衛隊で日本の安全を守る」とする者が、69%と多数を占めている。

 また、日米安全保障条約については、日本の平和と安全に役立っているとの肯定的な評価が高く、米国民の多くも米国の安全保障に有益であると認識している(資料47参照)。

イ 防衛努力のあり方

 防衛努力のあり方を示す指標の一つである防衛予算の規模については、「今の程度でよい」とする者が54%と過半数を占めている。このほかに「増額した方がよい」とする者が14%あり、「今より少なくてよい」とする者が18%ある(資料47参照)。

(3) 国を守る気持

 国民の国を守る気持については、「非常に強い(18%)」と「どちらかといえば強い(36%)」を合わせて54%と過半数を占め、「非常に弱い(1%)」と「どちらかといえば弱い(6%)」を合わせた7%を上まわっている(資料47参照)。

第2節 国民生活への貢献

 自衛隊は、国民の理解と支持がなければ、その能力を十分に発揮することはできず、隊員個人も国民とともに生き、かつ、国民から信頼されているという実感によってその士気も高まり、自信をもって任務を遂行することができることとなる。

 自衛隊は、防衛任務のほか、その組織、装備、能力等を生かして災害派遣や各種の部外協力活動などを行っている。これらの活動は、国民生活や地域社会の安定に寄与するとともに、隊員には、有事に際し、国をる守るという崇高な使命感だけでなく、平素から直接国民生活に貢献しているという誇りと生きがいを自覚させ、あるいは隊員と国民とが親近感を強めるなど国民と自衛隊とが接する場となっている。そして、これらのことは、国民の自衛隊に対する理解と信頼を深める一助となっている。

1 災害派遣

 白衛隊は、天災地変その他の災害に際して、原則として都道府県知事等の要請を受けて災害派遣を実施している。その具体的な作業は、遭難者及び遭難した船舶、航空機などの捜索救助、水防、道路の啓開、防疫、給水、人員や物資の緊急輸送など広範多岐にわたっている。

 昭和56年以来本年3月までの5年間に自衛隊が行った災害派遣は約3,300件を数え、作業に従事した人員は延べ約20万4千人、車両延べ約2万6千両、航空機延べ約5,300機、艦艇延べ約200隻である。

 最近の災害派遣の実績は、第4−1表に示すとおりである。

 昨年度の大規模な災害派遣の例としては、日航機墜落事故に対する派遣等がある。昨年8月12日夕刻、乗客乗員524人が搭乗した日本航空羽田発大阪行き第123便のB−747型機が群馬県多野郡上野村山中に墜落炎上した。この日航機の墜落に対して、自衛隊は、猛暑の中、急峻な地形、原生林という厳しい条件の下で、遭難者の捜索、救出、物資の輸送等を行った。自衛隊の救援活動は、2か月間にわたり、派遣した人員延べ約5万2千人、車両延べ約7,800両、航空機延べ約1,200機に及んだ。

 昨年度の災害派遣の実績は、このような日航機墜落事故に対する派遣もあり、一昨年度に比較すると、人員は3倍以上に、車両は4倍以上に、航空機は約2倍に増加した。

 このほか、自衛隊は、主として艦船や航空機の救難のために、一定の数の艦艇、航空機を直ちに発進できる態勢で常時待機させており、また、離島やへき地などにおける救急患者の輸送などの要請にも即応できる態勢となっている。例えば、沖縄県、長崎県、東京都などの離島やへき地においては、航空機による救急患者の輸送を最近5年間では年平均約410件実施しており、医療施設に恵まれない離島等における民生の安定に大きな役割を果たしている。

 わが国は、台風、豪雨、豪雪、地震、噴火など自然災害が多く、また、離島やへき地が多い地理的環境にあること、工業化や都市過密化の進展に伴い、災害の態様が複雑かつ多様化していることなどから、自衛隊による災害救援活動は、ますます重要性を増している。自衛隊は、これらの災害時に全力を挙げて国民の生命と財産の保護に貢献するため、平素から国や地方公共団体が行う訓練に積極的に参加するとともに、自らも災害に備え訓練を行うなど災害対処能力の向上を図り、国民の信頼にこたえるよう努力している。

 これらの災害救援活動は、時としては通常の訓練以上につらく、大きな労苦と危険を伴うものであるが、隊員は、国民の生命や財産を守るという使命を生きがいとし、労苦をいとわず、また、危険を顧みず、この任務を行っている。(日航機墜落事故で救護活動中の隊員

2 地震防災派遣

 自衛隊は、「大規模地震対策特別措置法」の規定により、地震発生が差し迫ったと判断され、内閣総理大臣により、警戒宣言が発せられた場合、地震災害警戒本部長(内閣総理大臣)の要請に基づく防衛庁長官の命令によって、地震防災応急対策の的確かつ迅速な実施を支援するため「地震防災派遣」を行うことになっている。

 ちなみに、地震防災対策強化地域に指定されている東海地域での大規模地震に備える「東海地震対処計画」では、自衛隊は、関係省庁、地震防災対策強化地域関係6県及び関係公共機関と調整の上、へリコプターにより交通状況、避難状況等の把握及び人員・物資の輸送を行うほか、RF−4E偵察機により都市部の撮影及び解析を行うこととしている。

 また、実際に地震災害が発生した場合には、相当規模の人員、装備をもって広域にわたり救援活動を行うこととしている。

 これらに備えて、自衛隊は、毎年「防災週間」に行われる総合防災訓練に参加し、対処能力の向上を図っている。

3 危険物の処理

 陸上自衛隊は、不発弾などが発見された場合、地方公共団体などの要請を受けて、その処分に当たっている。今日なお、全国各地に不発弾が残存しているものと思われ、都市部においても土地開発や建設工事の際などに発見されている。このような不発弾が万一爆発することともなれば、周囲の住民の生命・財産に甚大な被害が及ぶおそれがあり、陸上自衛隊員が身の危険をも顧みず的確な処理を行っている。また、沖縄県においては、まだ多量の不発弾が残存しているため、特別不発弾処理隊土中に理まった不発弾を処理する隊員(約20人)を編成して処理に当たっている。

 一方、機雷の掃海業務については、海上自衛隊が行っており、第2次世界大戦中にわが国近海に敷設された膨大な数の機雷のうち危険海域にある機雷の掃海はおおむね終了し、通常の船舶の航行については危険がない状態になっている。現在では、地方公共団体などからの要請を受けて、その都度、残りの海域の掃海及び海上における機雷その他の爆発性の危険物の除去及び処理を行っている。

 昨年度の危険物の処理の実績は、第4−2表に示すとおりである。(土中に埋まった不発弾を処理する隊員

4 部外協力

(1) 土木工事などの受託

 自衛隊は、地方公共団体などの長の申出に基づき、その内容が訓練の目的に適合する場合には、学校、運動場、公園などの造成工事や道路工事などの土木工事を受託している。

 また、自衛隊は、委託を受けた場合、任務遂行に支障を生じない限度で、航空機の操縦士や救急に従事する人などの教育訓練を行っている。

 これらの受託は、保有する人員、装備等を平時に民生協力に活用し、部隊の能力向上にも資するという考えから行っているものである。

(2) 運動競技会に対する協力

 自衛隊は、関係機関から依頼を受けて、任務遂行に支障を生じない限度で、オリンピック競技大会や国民体育大会のような国際的、全国的規模又はこれらに準ずる運動競技会の運営について、式典、通信、輸送、音楽演奏、医療、救急、会場内外の整理などの面で協力している。

(3) 南極地域観測に対する協力

 自衛隊は、国が行う南極地域における科学的調査に対し、輸送その他の協力を行っている。

 昨年11月から本年4月までの第27次観測で自衛隊が保有する砕氷艦「しらせ」は、南極地域において89日間行動し、物資約870トン、今次観測隊員50名(うち越冬隊員は35名)の輸送支援を行った。

 なお、「しらせ」は、昨年12月、南極付近において氷海に閉じこめられたオーストラリアの観測船「ネラ・ダン」号を、同国政府の要請に基づき救出した。(昭和基地沖の砕氷艦「しらせ」

(4) その他の協力活動

 以上のほか、自衛隊は、気象庁の要請により航空機を使って行う北海道沿岸海域の海氷観測業務、建設省の国土地理院の要請による地図作成のための航空測量業務、放射能対策本部の要請による集塵飛行、厚生省の硫黄島戦没者の遣骨収集に対する輸送等の支援、潜水医学実験隊及び航空医学実験隊などの特殊な調査研究施設や知識・技術を生かした重症潜水病患者の治療、航空事故調査、高所医学に関する協力など各種の協力活動を行っている。

第3節 国民との触れ合い

 自衛隊は、防衛問題や自衛隊に対する国民の理解と関心を深めるため、防衛政策や自衛隊の現況を広く紹介するなど各種の広報活動を行っている。また、地方公共団体などが行う公共性を有する各種の行事に対し、任務に支障のない範囲で積極的に参加するなど様々な国民との触れ合いの場を通じて、国民と自衛隊とのよりー層の親近感と連帯感の醸成に努めている。

1 部隊の公開等

 自衛隊は、各種印刷物の作成配布、新聞・雑誌への広告及び広報記事の掲載、広報映画の製作上映、音楽隊による演奏会の開催、部隊の見学、各種記念日などにおける部隊の公開、隊内生活体験(体験入隊)、体験航海、体験搭乗などを行っている。

 部隊の公開等については、国民とともにある自衛隊や自衛官に、国民が直接接し、国民の自衛隊に対する親近感を増すとともに、わが国の防衛に対する正しい認識と深い理解の一助として役立てようとするものである。また、自衛隊は、駐屯地等を、休日などには訓練に支障のない限度でできる限り地域住民のスポーツやレクリエーションの場として開放している。

 また、防衛庁は、広く国民一般から意見や要望を聴き、今後の施策に反映させるため防衛モニター制度などを設けている。

 昨年度の主要な広報活動の実績は、第4−3表に示すとおりであり、これらの触れ合いの場を通じて自衛隊と交流する国民の数は、延べ約1,600万人にも達している。

2 各種行事への参加

 自衛隊の各部隊においては、地域住民と一体となって、球技、駅伝などのスポーツ大会に参加している。また、各地域における市民まつり、港まつりや北国で行われる雪まつりを始めとして、ねぶたまつり、阿波踊りなど郷土の祭典や各種の市民行事に参加したり、それらの協力を行うなど地域社会と調和した活動を行っている。隊員個人も、一地域住民として休日などを利用し、家族とともにそれぞれの地域の市民行事に参加している。

3 記念行事等

 自衛隊記念日の行事の一環として実施する観閲式及び観艦式は、自衛隊の最高指揮官である内閣総理大臣が部隊を観閲し、隊員の士気を高揚するとともに、自衛隊の装備や訓練の成果を広く国民に披露するために行われるものである。

 昨年の観閲式は、10月27日に朝霞において行われ、これには、陸・海・空各自衛隊の隊員約5,200人、戦車・火砲等の車両約300両、航空機約100機が参加した。一般の見学者は、予行を含め約5万5千人であった。なお、観艦式については、昨年は実施しなかった。

 自衛隊記念日の行事の一頂として、自衛隊音楽まつりが、毎年実施されており、昨年は11月15日、16日の両日、日本武道館において開催された。この音楽まつりは、“マーチング・フェスティバル'85in武道館”と銘打って、陸・海・空各白衛隊の音楽隊、儀じょう隊等の隊員、防衛大学校の学生、計約1,000名、ゲス卜歌手及び特別出演の在日米陸軍音楽隊が、勇壮なマーチや各地の民謡の演奏、はつらつとしてさわやかな演技を披露し、約3万7千人の観客を魅了した。

 自衛隊の現状を広く国民に紹介するものとして、昨年9月には、陸上自衛隊が、富士山ろくにおいて、実弾を使用する富士総合火力演習を実施した。この演習には、隊員約1,500人が参加し、一般の見学者は約1万6千人であった。

 オリンピックや万国博覧会などにおける華麗な飛行で国民に親しまれてきたブルーインパルスは、全国各地で展示飛行を実施した。この展示飛行は、航空自衛隊の戦技研究の成果の一端を展示用に再構成して公開しているものである。昨年度のブルーインパルス展示飛行に対する観客は、約128万4千人であった。

 以上のほか、全国各地に所在する部隊においても、国民のよりー層の理解を得るため、各種の行事を通じて自衛隊の現状を広く紹介している。(観閲式)(部隊公開を通じての国民との交流

第2章国民生活と防衛施設

 国民が家庭や地域社会において、平和で安定した生活を営むことは、活力ある豊かな社会を築く原動力となるものであり、わが国の繁栄を支えるものである。

 一方、自衛隊及び在日米軍の使用する防衛施設は、わが国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、すなわち、侵略から平和で安定した国民の生活を守るため必要不可欠なものである。しかし、わが国の国土が狭隘なことや防衛施設の特性上、その所在する地域において住民生活や地域社会と様々なかかわり合いを有し、防衛施設をめぐる種々の問題が生じている。このようなことから、国民生活との調和にできる限りの配慮をしつつ、防衛施設の安定的使用を確保することが、わが国防衛のために極めて重要である。

 防衛庁では、防衛施設の安定的使用について、周辺住民の理解と協力を求めるとともに、防衛施設の設置や運用に当たっては、その地域の特性を十分に配意した周辺住民の生活の安定と福祉の向上に寄与する施策を講じ、防衛施設の機能の維持と周辺地域の民生の安定との調和を保つように種々の努力を行っている。

 

(注) 防衛施設:自衛隊が使用する施設と日米安全保障条約に基づき在日米軍が使用する施設・区域とを総称する言葉であり、演習場、飛行場、港湾、通信施設、営舎、倉庫、弾薬庫、燃料庫などをいう。

第1節 国民生活と防衛施設のかかわり合い

1 防衛施設の意義

 防衛施設は、人員、装備と並んで防衛力の基盤となるものであり、自ら適切な防衛力を保持するとともに、日米安全保障体制を堅持して国の防衛を全うしようとするわが国において、自衛隊や在日米軍の使用する防衛施設は、その任務遂行上不可欠のものである。

 自衛隊が使用する飛行場、港湾、演習場、通信所などの施設は、防衛力発揮の基盤であり、平時においては教育訓練及び定められた任務を行う拠点となり、有事には防衛活動の拠点となるものである。また、わが国は、日米安全保障条約に基づき米国に施設・区域を提供しているが、その施設・区域は、在日米軍の活動の拠点となるものであり、その安定的な使用は、日米安全保障体制を維持し、信頼性を高めるための必要不可欠な要素となっている。

 このように、防衛施設は、わが国の防衛に欠くことのできないものであり、その機能を十分に発揮するためには、周辺住民の理解と協力が得られ、常に安定して使用できる状態に維持されることが必要である。

2 防衛施設の現状

 防衛施設全体の土地面積は約1,370km2であり、国土面積に占める割合は、約0.37%である。

(1) 自衛隊の施設

 自衛隊の施設の土地面積は約1,033km2で、その半分近くが北海道に所在している。この土地面積の約89%は国有地であり、他は民公有地である。また、施設の用途別の使用状況は、第4−1図に示すとおりであり、演習場及び飛行場が合わせて約84%を占めている。

 このほか、自衛隊は、在日米軍の施設・区域を日米安全保障条約に基づく地位協定により共同使用しており、その土地面積は約35km2である。

(2) 在日米軍の施設・区域

 在日米軍の施設・区域(専用的なもの)の土地面積は約331km2で、その7割以上が、沖縄県に所在している。この土地面積の約48%は国有地であり、他は民公有地である。また、施設・区域の用途別の使用状況は、第4−2図に示すとおりであり、演習場及び飛行場が約71%を占めている。なお、在日米軍施設・区域の件数及び土地面積の推移は、第4−3図に示すとおりである。

 このほか、在日米軍は、自衛隊の施設等を地位協定によりー定の期間を限って使用しており、その土地面積は、自衛隊の施設については約513km2(第3部第3章第3節で述べた日米共同訓練を行うために、施設区域として提供している駐屯地、演習場、飛行場等の自衛隊の施設を含む。)、自衛隊の施設以外のものについては約6km2である。

 さらに、在日米軍の施設・区域には、訓練等のための水域42か所(このうち、36か所は陸上施設に接続したものであり、第4−2図の件数に含まれている。)がある。

3 防衛施設をめぐる諸間題

 防衛施設の設置や運用をめぐって生じる問題は、多種多様である。この問題を発生原因により分析すると、まず、防衛施設又はその運用の特殊性が挙げられる。防衛施設には、飛行場や演習場のように、もともと広大な面積の土地を必要とするものがあり、さらに、航空機の頻繁な離着陸や射爆撃、火砲による射撃、戦車の走行など、その運用によって、周辺地域の生活環境に影響を及ぼすものがある。中でも、最も大きなものが航空機騒音問題である。

 次に、わが国の特殊な地理的条件が挙げられる。わが国は、世界の主要国に比べ人口密度は最高の部類に属し、しかも比較的険しい山岳地帯が多く、国土全体から森林、原野、湖沼などを差し引いた可住地面積の国土面積に占める割合は21%しかないという地理的条件にある。このため、狭い平野部に都市や諸産業と防衛施設とが競合して存在し、防衛施設の側からみるとその設置や運用が制約され、都市開発その他の地域開発の側からみると防衛施設の存在や運用が支障となるという問題が生じている。特に、経済発展の過程において多くの防衛施設の周辺地域の都市化が進んだ結果、問題がよりー層深刻化している。

 このほか、防衛施設をめぐる諸問題の発生原因としては、防衛施設用地の所有者などや訓練水域に利害関係を有する者による生活又は生産基盤の確保の要求、イデオロギー闘争としての基地反対又は撤去の要求など様々なものがある。

第2節 防衛施設と周辺地域との調和のための努力

 防衛施設をめぐる諸問題は、前述したような原因の一つ又は複数により生ずるものであり、いずれもその処理いかんによっては、政治問題化、社会問題化するおそれのあるものである。

 そこで、防衛庁としては、このような諸問題の解決を図るため、従来から、一方では国の防衛の必要性や防衛施設の重要性について国民の理解を求めるとともに、他方においては、防衛施設周辺の生活環境の整備、防衛施設の整理統合など、防衛施設と周辺地域との調和を図ることに努力しているところである。

1 防衛施設周辺地域の生活環境の整備等の施策

 防衛庁は、防衛施設と周辺地域との調和を図るために、「防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律」(昭和49年制定)に基づく施策を中心に、次のような各種の施策を行っている。

(1) 障害防止工事の助成

 自衛隊や在日米軍は、その任務達成のため演習場や飛行場などの防衛施設を使用して演習、訓練などを実施しているが、このような際に、例えば、戦車その他の機甲車両などの頻繁な使用によって道路の損傷が早まったり、射撃訓練などによる演習場内の荒廃によって当該地域の保水力が減退したり、付近の河川に洪水が生じやすくなったり、あるいは航空機騒音などによって学校教育や病院の診療に迷惑がかかったりすることがある。

 このような場合に、地方公共団体などが障害を防止し、あるいは軽減するために行う道路や河川の改修、ダムの建設、砂防設備の整備、学校や病院の防音工事といった障害防止工事に対し、国は、これらの工事に要する費用を補助することとしている。

 この障害防止工事の助成については、自衛隊や在日米軍の活動がその任務遂行上不可欠ではあるものの、そこから生じる障害を特定の人々にのみ負担させることは不公平であり、また、学校教育に支障を招いたり、病弱者保護に欠けるというようなことがあってはならないとの考えから、これを実施しているものである。(障害防止工事の一例(ダムの建設)

(2) 飛行場等周辺の航空機騒音対策

 航空機による騒音の防止対策として、防衛庁は、従来から消音装置の設置などによる音源対策や早朝・夜間における飛行の自粛などの飛行時間の規制、人家密集地をできるだけ避けた飛行経路の設定、飛行高度の規制などの運航対策にも努めており、それ相応の効果をあげているところである。しかしながら、航空機騒音の完全な消去は困難であり、また、任務達成のための夜間飛行練度維持の必要性や地形上からくる航行の安全性を考慮した場合、これらの運航対策にはおのずから限界がある。

 このため、防衛庁としては、これらの対策と並行して、学校、病院などの防音工事に対する助成措置のほか、周辺地域の生活環境の整備を積極的に進めることとしている。すなわち、飛行場及び航空機による射爆撃が実施される演習場の周辺について、航空機の離陸、着陸等の頻繁な実施により生ずる音響に起因する障害の度合いを基準として、第4−4図に示すように、外側から第1種区域、第2種区域及び第3種区域をそれぞれ指定し、第1種区域内に所在する住宅については防音工事の助成を行い、第2種区域内から外に移転する者に対しては移転補償と一定の土地の買入れを行うとともに、移転先地において、道路、水道、排水施設などの公共施設を地方公共団体などが整備する場合には、その整備に関し、助成の措置をとることとしている。

 さらに、第3種区域については、住宅が建つことなどによって騒音障害が新たに発生することを未然に防止するため、この区域をこれら防衛施設と国民生活の場とを隔てる緩衝地帯にすることが適切であるので、緑地帯などの緩衝地帯として整備されるよう措置することとしている。

 また、前述の国が買い入れた土地を、地方公共団体が広場や駐車場などにする場合は、無償で使用させることができることとなっている。 

(3) 民生安定施設の助成

 民生安定施設の助成は、前述の障害防止工事に対する助成のような自衛隊や在日米軍の特有の行為による障害の防止又は軽減措置に対する助成に限らず、防衛施設の設置や運用の結果として周辺住民の生活や事業活動が阻害されると認められる場合において、地方公共団体がその障害の緩和に資するため、生活環境施設や事業経営の安定に寄与する施設を整備する際には、国がその費用の一部を補助しようとするものである。

 このような事例を幾つか挙げてみると、次のような場合があり、助成の内容は冬岐にわたっている。

 燃料や火薬を取り扱う施設の周辺市町村が、消防施設を強化、整備する場合

 演習場内の荒廃により、周辺住民が使用してきた湧水や流水が減少したため、市町村が水道の設置などを行う場合

 航空機騒音のある地域で、児童の下校後の学習、青少年及び成人に対する社会教育あるいは集会を静かな環境下で行えるようにするため、市町村が、学習、集会などのための施設を設置する場合

(4) 特定防衛施設周辺整備調整交付金の交付

 ジェット機が離着陸する飛行場、砲撃や射爆撃が行われる演習場、港湾などの防衛施設には、その設置や運用が周辺地域の生活環境や開発に著しい影響を及ばしているものがある。このため、関係市町村が、公共用施設の整備に他の市町村に比ベ特段の努力を余儀なくされているような場合がある。内閣総理大臣は、このような防衛施設及び関係市町村をそれぞれ「特定防衛施設」及び「特定防衛施設関連市町村」として指定することができる。国は、これらの市町村に対して公共用施設(交通施設、医療施設、教育文化施設、社会福祉施設など)の整備に充てる費用として、特定防衛施設の面積、運用の態様などを基礎として算定した交付金を交付し、いわば町づくりに側面から協力することとしている。

(5) その他の施策

 以上の各種施策のほか、航空機の頻繁な離着陸その他の行為により農業、林業、漁業などを営む者に事業経営上の損失を与えた場合、当該損失の補償を行っている。

 以上に述べた防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する主な施策の昨年度における実施状況は、第4−4表に示すとおりである。

2 在日米重の施設・区域の整理統合

 在日米軍の施設・区域の整理統合については、沖縄県にある施設・区域の同県の面積に占める割合が、沖縄県以外のそれに比べ高く、かつ、その多くが沖縄本島中南部に集中していることから、日米安全保障協議委員会において了承された計画に沿って、その実現に努力している。

3 基地対策縫費

 防衛施設周辺地域の生活環境の整備等のための諸施策に要する経費、在日米軍の施設・区域の整理統合に要する経費及び各種の補償などに要する経費と第3部第3章第6節で述べた在日米軍の駐留を円滑にするための提供施設の整備に要する経費、在日米軍の日本人従業員の福祉対策、離職者対策及び従業員対策に要する経費とを合わせた、いわゆる基地対策経費は、本年度当初予算においては、約3,011億円となっている。これらの予算の推移は、第4−5図に示すとおりである。

第3章国民と防衛

 国を守るためには、精強で適切な防衛力を整備し、日米安全保障体制を堅持することが必要なことはいうまでもないが、単にそれだけでは国の防衛は不可能であり、防衛に関する国民の理解と積極的な支持、協力が不可欠である。このことに関連して、この章では諸外国の実情を紹介しつつ、国の防衛のあり方について考えてみたい。

第1節 諸外国の現状

 諸外国においては、国の防衛には、国民の積極的な支持と協力が必要との考えから、国の防衛と国民との関係について憲法や法律等で規定し、国の防衛のための国民の協力態勢が確立しているのが通例である。

(1) 自由主義諸国は、個人の最大限の自由の保障に高い価値を置いているが、同時にそれを可能とする体制を守るための国民の強い決意を憲法あるいは基本法等で表明し、さらにそのための具体的な手だてを種々講じている。

 米国では、憲法の前文において「われら合衆国の国民は、より完全な連邦を形成し、正義を樹立し、国内の静穏を保障し、共同の防衛に備え、一般の福祉を増進し、われらとわれらの子孫の上に自由の祝福のつづくことを確保する目的をもって、アメリカ合衆国のために、この憲法を制定する」と規定している。第2次世界大戦後アメリカ国民が自国及び同盟諸国の防衛と世界の安定のために、多大の犠牲を払いつつ、積極的な協力を行ってきたことは、周知のとおりである。

 イギリスでは、英本国及び属領に対し急迫した脅威又は攻撃を受けた場合、女王はその大権(Prerogative Power)の一つとして船舶徴用の権限を有する。フォークランド(マルビーナス)紛争のときは、女王はこの大権に基づき“The Requisitioning of Ships Order1982”と呼ばれる枢密院令(The Order in Counsil)を裁下し、これにより客船クィーン・エリザベス2世、キャンベラ、コンテナ船アトランティック・コンベア等が徴用された。

 フランスでは、憲法第34条において「国防のために課せられる身体または財産による市民の負担」を法律で定めると規定している。また、大統領令により総動員等が決定されると、政府は、「(a)人員、財産及び役務を徴用する権限、(b)エネルギー源、原料、工業製品及び補給に必要な製品を統制・分配する権限」を付与されることとされている。

 西ドイツでは、基本法第12a条第1項において「男子に対しては、18歳から軍隊、国境警備隊、または民間防衛団における役務に従事する義務を課することができる」と規定している。また、同条第4項によると「防衛事態において、民間の防衛施設及び医療施設並びに軍の常設衛じゅ病院の能力が志願者によってまかなわれ得ない場合は、満18歳以上満55歳までの女子を法律によりまたは法律の根拠に基づいてこの役務の給付に徴用することができる。女子は如何なる場合にも武器をもってする役務の給付をしてはならない」ことになっている。さらに、基本法に基づき定められた連邦給付法は、厳格な条件を付しつつも、政府当局が動産の収用等を行える旨を規定している。

 イタリアでは、憲法第52条において「祖国の防衛は、市民の神聖な義務である。兵役は、法律の定める制限及び方法に従い、これを義務とする。その履行は、市民の職務上の地位又は政治的権利の行使を妨げない。軍隊の組織は、共和国の民主的な精神に合致して形成される」と規定している。

 また、隣国の韓国では、憲法第37条において「すべて国民は、法律が定めるところにより、国防の義務を負う」と規定している。

(2) 社会主義諸国では、国家が国民の意志と利益を体現しているとして、国の防衛を国民の崇高な責務と位置付けている例が多い。

 ソ連では、憲法第31条において「社会主義祖国の防衛は、国家の最も重要な任務に属し、全入民の事業である。社会主義の成果とソビエト人民の平和な労働、国家の主権と領土保全の防衛を目的として、ソ連邦軍が創設され、かつ、一般兵役義務が制定される」と規定している。また、同32条第2項によると「国の安全を保障し、その防衛力を強化する上での国家機関、社会団体、公務員及び市民の義務は、ソビエト連邦の立法によって定められる」とされている。

 中国も、憲法第55条において「祖国を防衛し、侵略に抵抗することは、中華人民共和国のすべての公民の神聖な責務である。法律に従って兵役に服し民兵組織に参加することは、中華人民共和国公民の光栄ある義務である」と規定している。

(3) いわゆる中立国等においては、独力で国の防衛を全うするために、関係の法令等を整備するとともに、人口に比して大規模な動員態勢を確立している例が多くみられる。

 例えばスイスは、1815年の永世中立に関する宣言書により、永世中立国としての地位を認められ、それ以降中立政策をとっている。しかし、スイスは、単にこうした国際保障に依存するだけでなく、憲法第18条において「いずれのスイス人も、兵役の義務を負う」と規定するのを始めとして、種々の施策を講じ防衛態勢の確立に努めている。例えば、平時兵力は約1,500人の教官等の職業軍人と約1万8,500人の徴募兵であるが、有事には48時間以内に民間防衛隊を含み約110万人の動員が可能な態勢を整えている。

 スウェーデンは、条約に基づくものではないが、1814年以来国家の伝統的な基本政策として中立を維持している。しかし、それも、中立を唱えるだけでなく、平時から強力な軍隊を維持し、さらに有事における国民の国防への積極的な協力態勢を確立している。例えば、統治法(基本法の一つ)第6条において「王国が戦時の場合又は戦争の危険にさらされている場合、あるいはそれらと同様の特異な状況にある場合においては、政府は、基本法の下で別に法律で定める事項について、法律で定めるところにより布告の形で規則を定めることができる。他のいかなる場合においても、防衛の準備に関して必要な場合は、政府は、法律の定めるところにより、法律の定める準備及びこれに関する徴発その他の処分の適用の開始又は停止を布告により決定することができる」と現定している。

 また、法律も整備されており、例えば義務兵役法はスウェーデン男子は数え年18歳から47歳までの間兵役の義務を負うことを定め、民間防衛法は、国民は男女とも数え年16歳から61歳までの間肉体的状態及び健康状態が許す範囲内において民間防衛役務の義務を負うことを定めている。また有事における徴発等については、非常事態下で運用される法律が30余りあり、戦時等における地方自治、海運、鉄道、医療、食糧、価格統制、徴用、貿易、電力、前線の統制、伝書鳩等についてまで法規が整備されている。スウェーデンは、平時は、約6万5,000人の兵力であるが、有事には72時間以内に郷土防衛隊を含め国民の1割弱に当たる約80万人の動員が可能な態勢を整えている。

 フィンランドは、自由民主主義体制の下にあって、1948年にソ連との友好・協力及び相互援助条約を締結しつつ、軍事的には東西いずれの側にも与せず、中立政策をとっている。フィンランド憲法第75条においては「フィンランド国のすべての国民は、祖国防衛に参加し、あるいはこれを援助する義務を有する」と規定している。また、法律で徴兵や有事における物資等の徴用、輸送、交通の統制等について定め、民間防衛にも力を入れている。フィンランドは、1947年に連合国との間で締結した平和条約(パリ条約)により平時兵力を合計4万1,900人以下に制限されているが、約480万人という人口にもかかわらず、有事には動員発令後数日以内に約25万人が緊急展開部隊を形成し、最終的には約70万人が可動な態勢を整え、特殊な地形、気象条件等を活用して国土の防衛を全うしようとしている。

 独自の社会主義体制をとる非同盟国ユーゴスラビアは憲法第172条において「国の防衛は、すべての市民の神聖にして奪うべからざる権利であり、最高の名誉である」と規定している。また、同憲法第238条において「何人も、ユーゴスラビア社会主義連邦共和国またはその一部の降伏を承認または署名し、占領を承認する権利を有しない」と規定している。そして、ユーゴスラビアは、陸、海、空軍合わせて約24万人の平時兵力を有しており、そのほかに、陸軍約50万人、海軍約4万5,000人の予備役、さらには約100万人を擁する地域防衛軍等を備え、強固な防衛態勢を築いている。

(4) 以上とは対照的に、軍事力を持たないこととしている国もある。例えば、西サモア、キリバス、ツバル、ナウル、バヌアツなどの南太平洋の島しょ国や自国の外交・防衛をスイスに委ねているリヒテンシュタインがそれである。また、コスタリカでは、憲法第12条において「軍は、恒常的制度としては禁止され、警備及び公安維持のため必要な警察力を設ける。アメリカ大陸に関する協定によって、または、国家防衛のためにのみ軍を組織することができる」と定めている。

(5) また、憲法又は基本法において、国民の防衛に参加する義務を規定する一方で、侵略的戦争を否認する規定を特に置いている国もあり、次のような例がある。

 西ドイツでは、基本法第26条第1項において「諸国民の平和的共同生活を妨害するおそれがあり、かつ、このような意図でなされた行為、とくに、侵略戦争の遂行を準備する行為は違憲である。このような行為は処罰されなければならない」と規定している。

 イタリアでは、憲法第11条において「イタリアは、他国民の自由に対する攻撃の手段としての、及び国際紛争を解決する手段としての戦争を放棄し……」と規定している。

 また、韓国では、憲法第3条において「大韓民国は、国際平和の維持に努力し、侵略的戦争を否認する」と規定している。

第2節 国民と防衛

 日本の防衛は、我々国民にとって幸福な生活の基礎となっている何ものにも代え難い大切なこの国を侵略から守ることであり、国民自身にとって極めて重要な問題である。

 わが国の防衛のためには、国民一人一人が国の防衛の重要性をよく認識し、この大切な素晴らしい国を真に愛し、これを守ろうとする強い意志を持つことが何よりも大きな要素であり、この国民の防衛意識に支えられてこそ、自衛隊は真にわが国を防衛する力となり、また、日米安全保障体制も有効に機能するものである。

 国民の国を守る意志は、わが国が万一侵略を受けたときに、自衛隊に協力し、あるいはこれを支持して共に国を守ろうとする行動となって現れることも大切であるが、それだけではなく、平素から、防衛問題全般についての十分な認識に基づいて、自衛隊と日米安全保障体制に対する深い理解と強い支持となることが、わが国の防衛のために必要不可欠である。

 わが国においては、地続きの国境がないという地理的特性、あるいは第2次世界大戦の苦い経験や戦後今日まで安定した平和を享受していることなどから、国民の間には、防衛問題に対して感覚的に拒絶したり、あるいは無関心であったりする風潮があることは否めない。最近では、経済的にも世界の国々と一層深い関係を持つようになり、また、厳しい国際軍事情勢などから、防衛問題を内外の現実に即してとらえようとする傾向が強くなってはいるが、なお、自衛隊の防衛力整備の推進や日米安全保障体制の信頼性の強化について関心が欠如したり、理解が不足したりしている面がないとはいえない。

 例えば、「わが国が防衛努力をすれば、戦争に巻き込まれる」という意見がある。しかし、自衛隊も日米安全保障体制も、わが国に対する侵略を抑止することにより、わが国が外敵から侵略されて戦争の惨禍を受けないよう未然に防止するものである。厳しい軍事的対立と緊張の続く国際社会の現実やわが国の置かれている戦略的環境等を考慮すれば、国を防衛する努力をすることなく、ただ平和を願っているだけでは、決してわが国の平和と安全は保障されず、強固な防衛の態勢がなければ、かえって侵略を受けるおそれは大きくなると判断せざるを得ない。

 また、「わが国に対する侵略も生じていない現在、なぜ、防衛力の整備充実や日米安全保障体制の信頼性の維持向上に努める必要があるのか」という意見もある。しかし、わが国の防衛のために不可欠の精強な自衛隊の整備充実と日米安全保障体制の信頼性の向上は、平素から国民一人一人の理解と協力の下に、このための不断の努力を統けておかなければいざという時になってから急にこれらを行おうとしても間に合わないものである。

 自衛隊については、昭和29年の創設以来、今日まで30年余の間に、国民の大多数の理解と支持を得つつ精強な防衛力として成長してきた。しかしながら、わが国の防衛力は、平時においてわが国が保有すべき必要最小限の防衛力の水準を定める「防衛計画の大綱」を策定してから10年を経た今日においても、いまだ「大綱」の定める防衛力の水準に到達していないのが現状である。また、日米安全保障体制についても、現在の体制が確立してから既に35年が経過し、その基礎は揺るぎないものとなっているが、わが国に対するあらゆる態様の侵略の発生を今後とも一層確実に抑止するためには、日米安全保障体制の信頼性を更に高め、維持していく努力が必要である。このように、いかなる態様の侵略に対してもわが国を守り得る防衛の態勢を確立することは、一朝一夕にできるものではなく、平素からの不断の努力が必要である。

 我々は、平和な今日こそ、平和の尊さ、安全保障の重要性を深く認識するとともに、内外の現実に即したわが国防衛のあり方について真剣に考えていかなければならない。

 今後、国民の防衛問題に対する関心が更に高まり、建設的な議論が積み重ねられ、それらを通じ、わが国の防衛についての国民の理解が一層深まり、国民的な合意が着実に形成されていくことが、わが国に対する侵略を未然に防止し、わが国の平和を守り、安全を全うするための最も重要な鍵となるのではなかろうか。

 そして、かかる国民的合意は、わが国固有の伝統と文化を尊重しつつ、人類にとって普遍的な基本的価値である平和と自由、民主主義と人道主義の精神に立脚して形成されていくことが大切であろう。