第3部

わが国防衛の現状と課題

第1章 自衛隊

第1節 防衛庁・自衛隊の組織・編成

1 防衛庁・自衛隊の組織

防衛庁と自衛隊は、共に同一の防衛行政組織であるが、防衛庁は、国家行政組織法に基づき総理府の外局として設置される行政組織という点に着目して、いわば静的にこれをとらえたものであるのに対し、自衛隊は、部隊行動を行う実力組織という点に着目して、いわば動的にこれをとらえたものであるといえよう。このように、自衛隊は、実力組織という点に着目してとらえられているので、自衛隊離職者就職審査会や防衛施設庁の一部は、自衛隊の組織には含まれていない。

防衛庁・自衛隊の組織は、第3−1図のとおりである。

防衛庁には、防衛庁長官の下に、政務次官、事務次官及び10人の参事官が置かれるほか、防衛庁本庁(内部部局、陸・海・空各幕僚監部、統合幕僚会議、防衛大学校、防衛医科大学校、防衛研究所、技術研究本部、調達実施本部その他の機関並びに陸・海・空各自衛隊の部隊及び機関から成る。)及び防衛施設庁が置かれている。

2 陸上自衛隊の編成

陸上自衛隊は、第3−2図のように編成されている。

方面隊は、担当する方面の防衛に当たる部隊であり、2〜4個の師団、特科団(又は特科群)、高射特科団(又は高射特科群)、施設団及び教育団(又は教育連隊)を基幹として編成されている。

師団は、陸上戦闘に必要な各種機能を備え、一定の期間独立して戦闘行動を行うことができる基本的な作戦部隊として位置づけられるものであり、外国の歩兵に当たる普通科を主体とした師団を12個と戦車部隊を主体とした機甲師団(第7師団)1個の計13個師団がある。混成団は、師団より小型ではあるが、師団と同様に各種の陸上戦闘機能を持つ部隊である。

機甲師団、特科団、空挺団、教導団及びヘリコプター団各1個は主として機動的に運用される部隊であり、また、高射特科群8個は低空域防空に当たる部隊である。

3 海上自衛隊の編成

海上自衛隊は、第3−3図のように編成されている。

自衛艦隊は、機動的運用によってわが国周辺海域において防衛に当たる部隊であり、対潜水上艦艇(護衛艦)から成る護衛艦隊、固定翼対潜機、対潜ヘリコプター及び掃海ヘリコプターを主体とした航空集団、潜水艦を主体とした潜水艦隊、掃海艇を主体とした掃海隊群並びに開発指導隊群を基幹として編成されている。

地方隊は、自衛艦隊と密接に連係しながら、担当海域の防衛に当たるとともに、自衛艦隊を含む部隊等の後方支援を実施する部隊であり、護衛隊、掃海隊等を基幹として編成されている。

4 航空自衛隊の編成

航空自衛隊は、第3−4図のように編成されている。

航空総隊は、全般的な防空作戦等空におけるわが国防衛のための作戦を行う部隊であり、3個の航空方面隊及び1個の航空混成団を基幹として編成されている。

航空方面隊は、担当する区域の防衛に当たる部隊であり、戦闘機をもって要撃戦闘及び支援戦闘に当たる航空団、周辺空域の警戒監視及び要撃管制に当たる航空警戒管制団並びに地対空ミサイルをもって要撃戦闘に当たる高射群を基幹として編成されている。

航空混成団は、航空方面隊より小型ではあるが、航空方面隊に準じて編成されている。

第2節 防衛力の機能別の概要

 本節では、第2部第3章第2節で述べた、主として直接侵略事態におけるわが国防衛のための主要な作戦である防空、着上陸侵攻対処、海上交通保護のそれぞれの能力及びこれらを有効に機能させるためのその他の能力の概要について述べる。

1 防空

わが国の各種の防空能力のうち、ここでは、全般的な防空能力及び基地等の防空能力の概要について述べる。なお、地上において行動する部隊等の対空火力については着上陸侵攻対処の項で、洋上における防空能力については海上文通保護の項でそれぞれ述べる。

(1) 全般的な防空能力

航空自衛隊は、わが国のほぼ全空域を常続的に監視できるよう、全国28か所に固定レーダーサイトを設置している。しかし、電波は直進するという特性を有するのに対し、地表面はわん曲しているなどのため、地上レーダーの見通し線より下の低空からの侵攻機を発見することはできない。この欠点を補完するため、レーダーを搭載して空中を哨戒する早期警戒機E−2Cを配備している。また、地上レーダーは、装備後20年以上経過しているものがあり、電子戦能力も不十分であることから、逐次近代化を進めている。さらに、自動警戒管制組織(バッジシステム)についても、要撃管制能力などの向上を図るために、昭和58年度から新バッジシステムの整備を推進している。

E−2Cを装備する警戒飛行部隊の整備及びバッジシステムの近代化や地上レーダーの換装が進めば、これらを有機的に運用することにより、防空作戦における発見・識別及び要撃管制等の能力は相当向上すると考えられる。

航空自衛隊は、近年の航空機の質的向上に対応するため、戦闘能力が相対的に低下しているF−104Jの減勢に伴い、逐次F−15への機種更新を推進中である。昭和59年度末現在、要撃戦闘機部隊としてF−15部隊を3個飛行隊、F−4EJ部隊を6個飛行隊、F−104J部隊を1個飛行隊保有している。また、現在の主力戦闘機であるF−4EJは、防衛力の整備及び運用における効率化、合理化を図る見地からその延命施策を実施しているが、同時に、将来見込まれる相対的な戦闘能力の低下を補うため、要撃能力向上を主眼とした試改修を行い、現在、所要の評価を行っているところである。

地対空ミサイル(SAM)としては、航空自衛隊がナイキJを、陸上自衛隊がホークを保有している。このうち、ナイキJは、航空脅威に対処できない分野が増大していることに加え、米国からの支援の面で今後長期にわたって維持することが困難となったことから、本年度、ナイキJの後継システムとして、総合的なシステムの特性、能力、防空効果などに優れたペトリオットシステムを導入し、整備に着手する。(要撃戦闘機F−15Jとレーダーサイト

(2) 基地等の防空能力

基地等は、航空機の発進帰投、地対空ミサイルの発射及び機雷、魚雷、弾薬等の保管の場所となるなど、各種作戦を実施する上での基盤となるものであるが、この自衛隊の基地等の機能を維持するために必要な防空能力は、必ずしも十分とはいえない現状にある。このため、航空自衛隊は、81式短距離地対空誘導弾(短SAM)、携帯式地対空誘導弾(携帯SAM)及び対空機関砲の整備を進めている。また、海上自衛隊は、基地防空能力の保持について検討している。

2 着上陸侵攻対処

わが国への着上陸侵攻に対処するための各種能力のうち、ここでは、人的勢力、主要戦闘機能、航空阻止能力、陸・海作戦支援能力、航空偵察能力及び輸送能力の概要について述べる。なお、洋上撃破能力については、航空阻止能力の項及び海上交通保護の対水上艦船攻撃能力の項で述べる。

(1) 人的勢力

陸上戦闘においては、戦場に展開する「人」一人一人がその保有する多種多様な装備を複雑な地形の特性を利用して有効に活用することが必要であり、その意味において、「人」の陸上防衛力に占める役割には大きなものがある。

陸上自衛隊は、自衛官の定員18万人に対して、年間平均充足率を86.33%とされている。このため、北部方面隊における第一線部隊を優先して、その欠員補充に努めており、また、各部隊においては、保有する人員をもって、各種の工夫を凝らして教育訓練に励み、練度の維持向上を図っている。

(2) 主要戦闘機能

陸上防衛力の各種戦闘機能を構成する装備は、戦場が広域化、立体化、流動化する近代戦の特性及び平地、山地などが複雑に入り組んだわが国における陸上作戦の特性から多種多様なものとなっている。これらの装備は、いずれも質的に優れたものであるとともに、その量が確保され、個々の機能が総合された戦闘力として発揮されることが要求される。

ア 機動打撃力

機動打撃力は、装甲打撃力及び装甲防護力に優れた戦車を骨幹とするものである。戦車は、火力、機動力、装甲防護力を兼ね備えた陸上戦闘力の主力であるが、陸上自衛隊が現在保有する戦車の半数は、旧式化しつつある61式戦車(昭和37年度装備開始)であり、逐次74式戦車(昭和50年度装備開始)の整備を進め、近代化を図るとともに、昭和57年度から新戦車の研究開発を進めている。(機動打撃力の骨幹 74式戦車

イ 火力

野戦砲や迫撃砲などの地上火力は、縦深にわたる火力戦闘を行うとともに、近接戦闘部隊に直接協力するものである。陸上自衛隊は、短射程の迫撃砲から長射程の加農砲やりゅう弾砲まで種々の火砲を保有しているが、その大半は、米軍が第2次世界大戦中に使用したものと同型式で旧式化している。このため、203mm自走りゅう弾砲、75式155mm自走りゅう弾砲、新155mmりゅう弾砲及び75式130mm自走多連装ロケット弾発射機の整備を進め、火力及び機動力の向上に努めている。

戦車、装甲車などを中核とする敵の攻撃を阻止するために必要な対戦車火力として、陸上自衛隊は、64式対戦車誘導弾発射装置、106mm無反動砲、89mmロケット発射筒などを保有しているが、これらは既に旧式化しつつある。このため、84mm無反動砲及び79式対舟艇対戦車誘導弾発射装置の整備を推進するとともに、空中機動し、遠距離から戦車などを攻撃できる対戦車ヘリコプターAH−1Sの整備も進め、本年度1個対戦車ヘリコプター隊を新編する。

上陸侵攻部隊の水際阻止などに使用する対海上火力としては、79式対舟艇対戦車誘導弾発射装置を保有しているほか、地対艦誘導弾の研究開発を進めている。

ウ 対空火力

航空攻撃が多用される状況下においても、地上戦闘を効果的に行えるよう、地対空ミサイルや対空機関砲などにより縦深にわたる対空防御網を構成する必要がある。このため、陸上自衛隊は、対空ミサイルとしてホークを保有し、その近代化を進めている。また、短距離の対空火器としては、高射機関砲などを装備しているが、これらは、一部旧式化しており、また、充足も不十分であることから、現在、短SAMや携帯SAMを整備しつつあるほか、新高射機関砲の研究開発を進めている。

エ 機動力

陸上自衛隊は、待ち受けの態勢の下、18万人の限られた勢力で長大な上陸可能正面に対処するほか、後方地域への随時の空挺攻撃・ヘリボン攻撃にも対処する必要があるため、着上陸等に即応して迅速に戦闘力を集中し得る優れた機動力を保持しなければならない。

このため、装甲車、輸送用トラック、各種ヘリコプターなどを装備し、師団などの部隊の移動又は集中を行うこととしているが、まだその能力は十分でなく、逐次その整備を進めている。(第3−5図 主要正面装備の更新状況

オ その他の能力

陸上防衛力については、以上に述べた能力のほか、指揮・通信、情報、電子戦、夜間戦闘、築城・障害、機動支援、後方支援などの能力を主要戦闘機能とバランスよく保持することが必要であり、このため、陸上自衛隊は、82式指揮通信車、81式自走架柱橋などの整備を進めている。

(3) 航空阻止及び陸・海作戦直接支援能力

航空自衛隊は、主として航空阻止及び陸・海作戦の直接支援を行うための支援戦闘機部隊としてF−1部隊を3個飛行隊保有している。現在、F−1の戦闘能力の向上を図るため、わが国で開発した80式空対艦誘導弾「ASM−1」の装備を進めている。

また、最近の艦艇の対空火器の性能向上に対応して、艦船攻撃能力の向上と搭載母機の損失防止を図る必要があるため、本年度、通常爆弾に装着し、侵攻艦船に対する爆撃に使用する命中精度の高い爆弾用誘導装置の開発に着手する。

(4) 航空偵察能力

航空偵察は、各種作戦実施のため、短期間に広範囲の情報を収集することを目的として、偵察機等により、写真撮影、目視確認などを行うものである。

航空自衛隊は、航空偵察部隊として、RF−4E部隊を1個飛行隊保有し、侵攻する上陸部隊等を洋上で減殺・阻止するための作戦や陸上における戦闘を支援する作戦などに必要な情報を収集することとしている。

陸上自衛隊は、陸上における作戦などに必要な情報を収集する手段として、連絡偵察機や観測ヘリコプターなどを保有している。

(5) 輸送能力

陸上自衛隊は、普通科連隊等の戦闘部隊の空中機動や補給品の輸送に当たるヘリコプター団を保有しているが、その能力向上を図るため、輸送ヘリコプターCH−47の整備を進めている。

海上自衛隊は、人員・装備・作戦用資材などを作戦地域や離島などに輸送するため、現在、輸送艦8隻(2,000トン型3隻、1,500トン型3隻及び500トン型2隻)を保有しているが、さらに輸送能力の向上について検討している。

航空自衛隊は、航空輸送部隊として、輸送機C−1を主体とする3個飛行隊を保有している。しかしながら、各種状況に対応する機動展開や空挺作戦支援などの空輸所要に対する能力は不十分な状況にあるため、現在、輸送機C−130Hの整備を進めている。また、航空自衛隊は、輸送機の着陸が可能な飛行場と各基地等との間を結ぶ端末輸送能力が欠落している現状から、その能力の整備を図るため、輸送ヘリコプターCH−47の整備を進めている。

なお、海上・航空輸送については、自衛隊は、その大部分を民間に依存しているところである。米国においては、有事、事態の度合いに応じて、民間航空機や商船の支援を確保するための各種の計画を平時から準備しており、NATO諸国もそれぞれ民間輸送力を確保する計画を準備しているが、わが国にはこのような計画はない。

3 海上交通保漢

わが国の海上交通保護のための各種能力のうち、ここでは、対潜戦能力、洋上における防空能力、対水上艦船攻撃能力及び機雷戦能力について述べる。

(1) 対潜戦能力

最近の潜水艦の著しい性能向上に対応するため、対潜水上艦艇、固定翼対潜機などは、従来よりも優れた捜索・探知能力、機動力及び情報処理能力を保有することが必要となっている。

このため、海上自衛隊は、対潜水上艦艇については、機動力を有する対潜ヘリコプター、種々の情報を迅速かつ的確に処理できる総合情報処理システムなどの新鋭装備を有する護衛艦の整備を進めるとともに、従来から装備しているアクティブ(音を発信)方式のソーナーに加え、広域の捜索を可能とするえい航式のパッシブ(聴音)方式のソーナー(TASS)を護衛艦に装備できるよう開発を行っている。

固定翼対潜機については、漸次除籍されていく対潜哨戒機P−2J等に替え、広域捜索能力や総合情報処理能力などに優れ、高性能潜水艦に対処できる対潜哨戒機P−3Cの整備を進めている。

対潜ヘリコプターについては、アクティブソーナー、磁気探知装置(MAD)、ソノブイシステム(艦載ヘリコプターのみ)などの装備を有するHSS−2Bの整備を進めるとともに、米国のSH−60Bを原型とし、艦艇との間のデ−タリンク機能を有し、かつ、より優れた情報処理機能を有する新対潜ヘリコプタ−の開発を進めている。(対潜訓練中の護衛艦とヘリコプター

(2) 洋上における防空能力

最近における航空機は、速度や航続距離などの面での飛行性能が向上するとともに、長射程の空対艦ミサイル(ASM)を装備し、水上艦艇が装備している艦対空ミサイル(SAM)の射程圏外から艦船を攻撃できる能力を持つに至っており、また、水上艦艇や潜水艦も対艦ミサイルを装備するすう勢にある。

海上自衛隊の水上艦艇の防空能力は、現在、必ずしも十分とはいえない状況にあり、このため、海上自衛隊は、各種の対空ミサイル、対空砲及び高性能20mm機関砲(CIWS)を組み合わせた縦深性のある対空防御網及び各種の電子戦装置と、これらの能力の最大限発揮を図るための指揮管制システムを装備した水上艦艇の整備を進めている。

なお、航空自衛隊の戦闘機がわが国周辺の空域において可能な範囲で防空作戦を行うことは、当然である。

(3) 対水上艦船攻撃能力

近年、水上艦艇は、艦対艦ミサイル(SSM)を装備するすう勢にある。このため、海上自衛隊も、艦対艦ミサイル「ハープーン」を装備し、水上艦艇自らのレーダーでは探知できないレーダー水平線以遠の目標を捜索するため、レーダーを有する対潜へリコプターを搭載した護衛艦の整備を進めている。さらに、固定翼対潜機及び潜水艦についても、対水上艦船攻撃能力を強化するため、「ハープーン」の整備を逐次進めている。この能力は、わが国の海上交通の安全確保のためだけでなく、着上陸侵攻対処の際の洋上撃破のためにも発揮されるものである。

(4) 機雷戦能力

機雷は、これを重要港湾や水路などに敷設することにより、その海域の海上交通を制約することができる兵器であり、多くの重要な港湾や海峡を持つわが国にとって、機雷戦は極めて重要な意義を持つものといえる。なお、機雷戦は、敷設された機雷を除去する「対機雷戦」と、機雷を敷設する「機雷敷設戦」とに分けられる。

海上自衛隊は、掃海艇部隊、V−107A掃海ヘリコプター部隊、水中処分隊などの対機雷戦部隊を保有しており、その能力は、第2次世界大戦中に米国がわが国近海に敷設した機雷を戦後実際に処理してきた実績もあって、主要各国の中でも高いレベルにあると考えている。しかし、最近、主要各国では、従来に比べ、深深度に敷設される機雷等を保有するに至っているが、海上自衛隊は、このような機雷を排除する能力を有していない。このため、本年度、深深度機雷対処能力の向上を図るための深深度係維機雷の掃海具の開発に着手する。また、掃海ヘリコプターの更新近代化についても、検討している。

海上自衛隊の現有装備のうち、機雷敷設能力を有するものは、機雷敷設艦及び掃海母艦各1隻と潜水艦、対潜哨戒機である。

4 警戒監視、情報収集

専守防衛を旨とするわが国にとって、領域及びその周辺の海空域の警戒監視や防衛に必要な情報の収集処理を、平時、有事を問わず、常続的に実施することは極めて重要である。

このため、自衛隊は、レーダーサイト、沿岸監視隊、警備所、航空機及び艦艇により常続的な警戒監視を行うとともに、諸外国の艦船、航空機の動静や装備等に関する情報の収集を行っている。

航空自衛隊は、全国28か所のレーダーサイトにおいて、わが国及びその周辺上空を飛行する航空機を常時監視し、領空侵犯のおそれのある航空機を発見した場合には、地上に待機中の航空機を緊急発進(スクランブル)させ、領空侵犯機であることを確認したときは、その航空機を領空外に退去させたり、最寄りの飛行場ヘ着陸させるために必要な措置をとることとしている。

緊急発進の年間の平均回数は、約850回(過去5年間平均)であるが、昨年度は、944回を記録し、過去最高の回数となった。また、昨年11月には、第1部第2章第2節で述べたように、ソ連機によって、2回にわたり領空侵犯され、これに対して、航空自衛隊は、要撃機を緊急発進させ、対処するとともに、わが国は、これら一連の領空侵犯に対し直ちに外交ルートを通じてソ連に抗議を申し入れた。

主要な海峡等を通過する艦船などに対する陸上からの警戒監視は、天候などにより制約があることから、これを補う措置として、津軽海峡、対馬海峡及び宗谷海峡への艦艇の常続的配備を行っている。また、わが国周辺の海域を行動する艦船については、固定翼対潜機により、日本海は1日1機、東シナ海及び北海道周辺の海域は2日に1機の割合で警戒監視を行うはか、必要に応じ、艦艇や航空機による警戒監視を実施している。

このほか、国外からわが国に飛来する軍事通信電波、電子兵器の発する電波などを収集し、整理分析して、わが国の防衛に必要な情報資料の作成に努めている。

さらに、在外公館を通じ国際軍事情勢などを把握することとしており、現在、30の在外公館に防衛駐在官が置かれている。

今日、米ソ両国が衛星による偵察や早期警戒に努めているのを始めとして、主要各国においては、各種手段によって種々の情報収集が行われている。わが国においても、警戒監視及び情報収集機能については、その重要性にかんがみ、一層の強化を図る必要がある。

5 指揮通信、電子戦

(1) 指揮通信

防衛庁は、指揮命令や各種情報などが各級司令部と第一線部隊等の間で迅速、確実かつ安全に伝達され、かつ、緊急時における通信量の大幅な増加に対応できるような指揮通信組織を平素から確立しておくことは極めて重要であるとの認識に立ち、各種通信系及び指揮統制システムの整備を推進している。

防衛庁では、主要駐屯地及び基地間を結ぶ回線は、従来その多くの部分を電電公社(昭和60年4月1日以降日本電信電話株式会社:NTT)の通信回線に依存してきたが、昭和52年度以来整備してきた自衛隊自ら保守し、運用する防衛マイクロ回線が、昨年度末、完成した。これによって、自衛隊の通信回線は、借上げ回線中心から自営回線中心に大きく転換することとなった。しかし、最近の通信技術の急速な進歩に伴う通信形態の変化に対応するとともに、今後、通信の抗たん性、保全性を確保し、かつ、通信の迅速性、確実性を図る必要があるため、昨年度から防衛マイクロ回線のディジタル化を始めとして、複ルー卜化などの方策について検討を進めている。

また、硫黄島に所在する海・空各自衛隊の部隊との通信のため、通信衛星を経由したNTTの回線が昨年度末整備された。

一方、移動通信については、保全性の向上等を目的として、本年度から、野戦部隊の使用する野外無線機のディジタル化を推進し、また、今後の課題として、基地と艦艇との洋上・遠距離通信系などについて通信衛星の利用を検討していくこととしている。

(2) 電子戦

電子戦とは、電磁波を利用するセンサー(検知・判別装置)、兵器、通信などについて、彼我それぞれ相手側を不利にするように妨害、逆用、使用効果の減殺などを行い、それによって味方を防護し、有利にする活動であるといえる。

電子戦の手段や方法は、電子技術などの発達によって、一層複雑かつ巧妙となっているが、各国とも、この種の情報は公表することがない。それは、電子戦能力の優劣が直ちに現代戦の勝敗を決定するほど重要な要因となってきたからである。第4次中東戦争において、陸・海・空の各戦闘の勝敗の行方を左右したのは、正に電子戦であったといわれ、各国は、一段と関心を高めるようになってきている。

自衛隊は、電波探知装置など電子戦装置の一部を装備しているのみであったが、近年、この分野における能力の向上に努めている。今後とも、平素から電子戦の基礎となる電子情報の収集・分析に努め、また、侵攻する敵が使用する電磁波を探知し、これに対処するとともに、侵攻する敵の妨害を克服して、自らの電磁波使用を防護するための各種の電子戦能力の保持に努める必要がある。

6 後方支援、救難

補給・輸送・整備・衛生などの後方支援は、作戦実施のための基盤であり、これが戦闘部隊と均衡をもって維持され、円滑に機能しなければ、自衛隊の迅速かつ有効適切な作戦は極めて困難となる。

自衛隊の作戦遂行のためには、所要の弾薬類や燃料などの作戦用資材を継続的に補給し得る体制が必要であり、特に、弾薬類は戦車、艦艇、航空機などの主要装備の能力発揮に不可欠である。しかし、これらは、現在、必ずしも十分な状況ではないため、弾薬類の確保や作戦部隊にこれらの作戦用資材を適時に補給し得る輸送体制の充実などに努力している。

これらの機能は、次節で述べる即応態勢や継戦能力の確保に必要不可欠のものであり、特に、兵器の進歩の著しい現代における後方支援は、装備の導入あるいは近代化に対応して改善され、装備の性能を十分に発揮させるものでなければならない。

また、自衛隊の航空機や艦艇などが、山岳地あるいは洋上で不時着し、又は遭難した場合、その搭乗員や乗組員を捜索し、救助することは、人員の損耗を防ぎ、隊員の士気を維持する上で極めて大切なことである。

このため、現在、自衛隊は、救難捜索機MU−2、救難ヘリコプターV−107、救難飛行艇US−1などを保有しており、主要な航空基地や艦艇基地において、航空救難や洋上救難などに対して即応できる態勢で、これらの航空機や艦艇を常時待機させている。また、潜水艦救難については、潜水艦救難艦「ふしみ」を保有しており、昨年度末深深度救難能力を有する潜水艦救難母艦「ちよだ」が就役した。

第3節 即応態勢及び継戦能力

 有事の際、自衛隊が有効に機能し、その能力を十分発揮するためには、平素から、戦車、艦艇、航空機などの正面装備の充実を図るとともに、即応態勢を確立し、併せて継戦能力を確保しておく必要がある。

 自衛隊が、常に有事即応の態勢を維持しておくことは、侵略の未然防止に大きな役割を果たすとともに、万一侵略があった際に、初期の段階において被害を局限し、事態の拡大を防止するために必要不可欠であり、また、継戦能力は、専守防衛に徹し、米軍の来援まで持久しなければならないわが国にとって極めて重要である。

1 即応態勢

即応態勢を確立するためには、指揮運用面での態勢の整備及び部隊等における高度な練度の維持が重要であることはもとより、必要な人員・装備を充足し、魚雷、機雷、ミサイルを直らに使用可能な状態にするために必要な調整を行う施設や弾薬庫などが確保され、装備・器材の可動率を維持するための整備能力等を保持していることが必要である。

このため、自衛隊では、自衛官の充足率の向上、魚雷・機雷の実装化、魚雷・機雷やミサイルなどの調整施設及び弾薬庫の整備、装備品等の整備態勢の向上に努めている。

なお、各自衛隊の現状について例示すれぱ、次のとおりである。陸上自衛隊については、自衛官の定員18万人は、陸上自衛隊全体を、常時、有事即応の態勢で維持することを前提として定められており、部隊の精強性や即応性を維持するためには、平素からこの定員を充足しておくことが望ましい。しかし、各年度の防衛力整備に当たっては、現下の厳しい財政事情の下で、限られた財源の配分に当たり、人件費と装備品購入費のバランス、練度の維持等を総合的に勘案する必要があり、このような観点から、有事に際し、緊急に充足し得る職域・部隊等については、平時において、教育訓練、部隊の運営等に重大な支障を来さない限度で、充足をある程度下げておくこともやむを得ない措置であるとの考えから、過去数か年、人員充足率を86.33%としてきている。この充足率は、陸上自衛隊全般の平均を示すものであり、これを個々の部隊別にいえば、任務上常時高度の即応態勢及び高い技術水準の維持を必要とする情報・高射・航空等の部隊は、平素から高い充足を維持しておく必要があることなどから、一般の部隊の充足率は、相対的に低いものとなっている。

このため、陸上自衛隊では、北部方面隊における第一線の部隊の欠員補充に努めている。

海上自衛隊については、砲銃弾薬及び実装化された魚雷を常時艦艇に搭載し、又は航空基地に配備し、機雷を実装化された状態で保有しておく必要があり、このため、これらの整備・調整や保管のための実装調整場や弾薬庫などの整備が必要不可欠であり、その努力を行っている。

航空自衛隊については、要撃機へのミサイル搭載等の措置を実施している。また、パイロットの練度を維持するための年間所定飛行時間の確保が必要不可欠であり、その努力を行っている。

2 継戦能力

継戦能力を維持するためには、有事、後方地域における警備等に充てるための予備自衛官等の確保、弾薬を始めとする有事に必要な作戦用資材の備蓄及び輸送能力の保持並びに基地、レーダーサイトへの攻撃に対する被害局限、復旧及び代替機能の確保等による抗たん性の保持が必要である。

多くの国では、平時において常備兵力の節減を図り、経済的負担を少なくするとともに、有事に必要となる兵力の増強や戦闘損耗の補充にも対処し得るよう、予備の兵力を保持するという考えにより、予備役制度を採用している。わが国においても、防衛出動時において、自衛隊の実力を急速かつ計画的に確保することを目的として、自衛隊発足以来、予備自衛官制度を整備してきたところであり、現在、陸上自衛隊43,000人、海上自衛隊600人の予備自衛官を保有している。予備自衛官は、有事に際して、後方警備、後方支援及び第一線部隊の補充要員としての運用を予定するものであり、このような制度は、主要各国における予備役制度にほぼ見合うものであるが、その規模などにおいて著しい隔たりがある(資料4参照)。

有事において、弾薬類の不足は、戦車、艦艇、航空機などの主要装備の能力発揮に致命的な影響を及ぼすものであるが、その備蓄は、現在必ずしも十分な状況ではないため、これを確保するための努力を続けている。また、防衛力の機動的運用を図るため、作戦用資材などを補給するための輸送能力の充実にも努力を払っている。

さらに、現在、抗たん性を確保するための態勢は必ずしも十分とはいえない状況にあるので、被害局限のための短SAM、携帯SAM、対空機関砲、航空機用えん体等、被害復旧のための滑走路被害復旧マット、代替機能確保のための移動式レーダー、移動式無線車及び通信手段の多様化などについて逐次整備を進めている。(第3−6図 基地の抗たん化の一例)

第4節 運用態勢の整備

 わが国の防衛力は、部隊の作戦遂行能力、後方支援能力、部隊の指揮や情報機能等逐年整備され充実してきているが、有事に際して自衛隊が有効にその力を発揮するためには、これを最も効果的に運用し得る態勢が整備されていなければならない。

 このため、防衛庁では有事法制の研究を行い、また、防衛出動等の自衛隊の行動に関して、防衛庁長官の指揮命令を迅速かつ的確に行うために中央指揮システムの整備を行っている。

1 有事法制の研究

防衛庁が行っている有事法制の研究は、自衛隊法第76条の規定により防衛出動を命ぜられるという事態において、自衛隊がその任務を有効かつ円滑に遂行する上での法制上の諸問題を、その対象としている。この研究は、昭和53年9月に公表した有事法制の研究の基本的姿勢についての見解(資料14参照)に基づいて進めており、昭和56年4月、防衛庁所管の法令についての問題点を中心に報告(資料15参照)を取りまとめ、これを公表した。引き続き他省庁所管の法令について、部隊の移動、輸送、土地の使用、構築物建造、電気通信、火薬類の取扱い、衛生医療、戦死者の取扱い、会計経理にそれぞれ関連する法令ごとに区分して、防衛庁の立場から拾い出した関係法令の条文の解釈、有事の際の適用関係等を関係省庁に照会するなどの作業を実施し、その問題点等について、昨年10月報告(資料16参照)を取りまとめ、公表した。

これにより防衛庁所管の法令及び他省庁所管の法令について問題点の整理は、おおむね終了したと考えている。今後の研究の対象としては、例えば、有事における住民の保護、避難又は誘導を適切に行う措置、民間船舶及び民間航空機の航行の安全を確保するための措置、電波の効果的な使用に関する措置など国民の生命財産の保護に直接関係し、かつ、自衛隊の行動にも関連するため総合的な検討が必要と考えられる事項及びいわゆるジュネーブ4条約に基づく捕虜収容所の設置等捕虜の取扱いの国内法制化など所管省庁が明確でない事項が考えられる。これらについては、政府全体の問題として研究を進めることが必要であるが、自衛隊の行動との関連という観点から、政府全体の研究に資するため、防衛庁において問題点の基礎的な整理を行うこととしている。

2 中央指揮システムの整備

防衛庁では、防衛出動等の自衛隊の行動に関して、防衛庁長官が情勢を把握し、適時所要の決定を行い、部隊等に対し命令を下すまでの一連の活動を迅速かつ的確に実施し得る態勢を整備するため、昭和56年度以降、中央指揮システムの整備を進めてきた。昭和58年度末には、防衛庁本庁檜町庁舎内に、中央指揮所庁舎が完成し、主要部隊等との通信器材等も整備されたので、部分的ではあるが、システムの運用を開始した。その後、更に整備を進め、昭和59年度末に中央指揮システムの全器材の整備が完了した。

中央指揮所は、防衛庁長官を中心に会議する防衛会議室のほか、内部部局等の作業室、各種の調整を行う調整室等により構成され、また、主要部隊及び関係省庁等との間に電話及びファクシミリが設置されるとともに、航空自衛隊の自動警戒管制組織(バッジシステム)及び海上自衛隊の自衛艦隊指揮支援システム(SFシステム)と連接し、これらの情報が表示されるようになっている。さらに、中央指揮所には、中央指揮システムの即応態勢を確保するため、平素から所要の人員を配置し、各種機能が常に発揮できる態勢を維持することとしている。

中央指揮システムの運用の対象となる事態としては、防衛出動に係るものの他、治安出動、海上における警備行動、大規模な災害派遣等の自衛隊の行動に係る事態及びその他全庁的な対処を必要とする緊急事態を考えている。このような事態又はこれに発展すると思われる事態が発生したときには、直ちに、内部部局、陸・海・空各幕僚監部及び統合幕僚会議事務局の関係者が中央指揮所に参集し、情勢の把握、防衛庁長官への報告、部隊等との連絡、関係部局間の調整など、迅速、的確な初動対処を行う。また、防衛庁長官を始めとする関係幹部は、随時、中央指揮所において最新の情勢を把握しつつ所要の調整及び決定を行い、部隊等に対する命令も直ちに伝達されることになる。

なお、昨年度の総合防災訓練(昭和59年9月1日)及び統合演習(昭和60年2月12日から3日間)は、中央指揮所を活用して実施された。

第5節 教育訓練

1 教育訓練の重要性

自衛隊が有事に際して、わが国防衛の任務を有効に遂行するためには、装備品等の整備充実を図るだけではなく、指揮官を始めとする隊員の資質と能力が高く、かつ、部隊として高い練度を有することが重要である。なぜならば、装備品の性能を発揮させること、組織としての部隊の総力を発揮すること及び各種の状況下で適切な判断を行い最終的に部隊を任務達成に導くことは、隊員の資質・能力と部隊の練度によるところが非常に大きいからである。このためには、たゆみない教育訓練の積み重ねが必要不可欠であり、日夜厳しい教育訓練を実施して、優れた隊員の育成と精強な部隊の練成に努めている。

自衛隊における教育訓練は、「基本教育」と「練成訓練」とに分けて実施されている。

「基本教育」は、隊員として必要な資質を養うこと及び隊員に任務遂行上必要である基礎的知識や技能を修得させることを目的として、自衛隊の学校又は教育部隊等で実施している。特に隊員は、有事に際して危険を顧みず、身をもって責務の完遂に努める立場にあるので、自衛隊の使命に対する自覚とおう盛な責任感を養うなど常に徳操を養うことに努めている。

「練成訓練」は、隊員のそれぞれの部門における練度を向上させること及び組織として各種の状況に対応できる精強な部隊を練成することを目的として、自衛隊の部隊等で実施している。自衛隊の行動場面においては、個々の隊員の能力とともに、部隊として有効に行動し得る能力が任務遂行上重要である。このため、練成訓練は、基礎的な訓練から高度な訓練へ、小規模な部隊の訓練から大規模な部隊の訓練へ、単一の機能をもった部隊ごとの訓練から関係部隊との協同訓練へと訓練を段階的に進めることとしている。

2 隊員の教育

(1) 幹部自衛官の教育

幹部自衛官は、指揮官、幕僚として部隊等の指揮、運用に責任を負う者であり、部隊が精強であるか否かは、幹部自衛官の能力によるといっても過言ではない。このため、近代的装備体系に即応した戦略・戦術と部隊運用に習熟し、あらゆる事態に弾力的に対応し得る十分な統率力のある幹部自衛官を養成することが重視されている。

幹部自衛官の教育のうち、最も基礎的なものは、幹部候補生課程である。この課程は、防衛大学校の卒業生、一般大学の出身者及び曹である自衛官から選抜された幹部候補生に対し、幹部自衛官としての資質を養うとともに、初級の幹部自衛官として必要な基礎的知識・技能を修得させるものであり、各自衛隊の幹部候補生学校において、約6か月〜1年の間実施される。

幹部候補生課程を修了し、幹部自衛官に任命された者に対する教育は、階級に応じその職務を遂行するために必要な知識・技能を与えることをねらいとして、部隊等における訓練・実務との連係を図りつつ、段階的かつ体系的に行われている。初級及び中級の幹部自衛官に対しては、職種学校、術科学校又は教育部隊において、それぞれの職域に応ずる部隊運用及び専門技術について、原則として全員を対象に教育が行われる。

上級の指揮官、幕僚となる者に対しては、各自衛隊の幹部学佼で戦略・戦術及び統率などの教育を行っている。また、統合幕僚会議に附置された統合幕僚学校においては、陸・海・空3自衛隊の統合運用に関する知識・技能を修得させるための教育を実施しており、また、防衛研究所においては、わが国の安全保障に関する広範な内容を総合的に研修させ、上級の幹部自衛官に必要な資質を養成することとしている。

このような国内の教育のほかに、自衛隊は、米国を始め欧州諸国などの軍関係の学校等に各自衛隊の幹部自衛官を留学させ、高度の専門知識の導入及び国際的感覚と広い視野の育成に努めている。

(2) 曹士自衛官の教育

2等陸・海・空士として採用され、入隊した新隊員は、陸・海・空各自衛隊の教育部隊において、約3か月間、基礎的な教育を受ける。この教育は、新隊員に対し、自衛隊の使命を自覚させ、自衛官としての基本的資質を養成し、団体生活に慣れさせ、体力の練成を図ることを主眼として、服務指導、体育、基本教練、小火器射撃訓練などを実施する。この間に、適性検査や面接などを行い、各人に適した職域が決定され、職種学校、術科学校又は職域の教育を担当する部隊において、職域別に必要な専門的知識・技能の教育を修了した後、各部隊に配置される。

曹である自衛官は、任期制隊員である陸・海・空士長の中で本人が志願して選抜された者、一般曹候補学生等曹の候補者として採用された者及び特殊な技能を有し直接曹として採用された者により構成される。曹である自衛官は、部隊の中堅であり、小部隊の指揮官あるいは専門的な技術者として、高度の能力を発揮して部隊の任務を遂行する立場にある。このため、初級から上級へと各段階において、曹として必要な資質を養い、知識・技能を修得させるための教育を行っている。

3 部隊の練成

(1) 陸上自衛隊

陸上自衛隊の練成訓練は、個人の能力を向上するための「各個訓練」と組織としての力を発揮するための「部隊訓練」とから成っている。各個訓練では、陸上自衛官として必要な精神的基盤を充実させ、隊員に共通する必要な技能としての射撃、格闘技、スキーなどの課目及び各職種毎に任務遂行上必要とされる特技を演練する。部隊訓練では、普通科、機甲科、特科などの各職種ごとの部隊行動の基礎を演練し、逐次、訓練部隊を拡大するとともに、他の職種部隊と協同して部隊としての組織的な戦闘力を発揮できるよう訓練を実施している。

これらの訓練は、できる限り実戦に近い環境下で実施し、これを努めて客観的に評価することが重要である。このため、本年度は、富士学校等にレーザーを利用した交戦訓練用装置の導入に着手し、実戦的環境条件下での訓練に活用することとしている。この装置により、戦車部隊やヘリコプターを含む対戦車部隊などによって増強された中隊クラスの部隊が、相互に対抗して、対戦車戦闘などを総合的に訓練することが可能である。また、この装置は、連続して部隊の損害等の訓練状況を把握でき、訓練部隊の練度をより科学的に評価することができる。さらに、富士演習場には、普通科、戦車及び野戦特科などの総合的な実弾射撃訓練を行うための設備を導入することとしており、これらの施策により、部隊の訓練の質的な改善が図られ、部隊の実戦能力の向上が期待される。

連隊戦闘団や師団のような大規模な部隊の演習は、その目的に応じ、実際に部隊を展開、行動させる実動演習、地図上において指揮機関を演練する指揮所演習等により実施している。これらの演習により、部隊は、各職種の総力を結集した組織的な戦闘力発揮のための指揮運用及び部隊行動を演練している。また、今夏、陸上自衛隊の総力が参加する陸上自衛隊演習を実施し、総合的な演練を行うこととしている。(野戦特科部隊の実弾射撃訓練

(2) 海上自衛隊

海上自衛隊の艦艇や航空機の部隊の訓練は、定期的な要員の交代や、艦艇の検査、修理があるため、一定期間を周期とし、これを数期に分け、段階的に練度を向上させる周期訓練方式をとっている。訓練周期の初期には、艦艇の乗組員及び航空機搭乗員の個人の技能の向上と、乗組員、搭乗員のチームワーク作りに主眼が置かれ、艦艇部隊では、艦載兵器等の基本的な操作要領などを、航空部隊では、搭載機器による目標の捜索・識別の要領などを訓練する。

周期が進むにつれ、基本的な訓練から応用的な訓練に移行し、訓練を行う部隊の規模を拡大しながら練度の向上を図る。訓練項目としては、対潜戦、防空戦等があり、艦艇相互の連係や艦艇と航空機の協同要領などを演練する。対潜戦については、艦艇と航空機が協同し、潜水艦の捜索・探知・識別・攻撃の一連の手順を訓練するが、初期には地上訓練装置を用いて基本的な訓練を行い、練度の向上に従って、実際に潜水艦を目標とした応用的な訓練を行っている。防空戦については、水上艦艇がレーダー等を使用して敵機の捜索・探知・識別及び砲やミサイルによる射撃、艦艇の回避行動等の訓練を行っており、また、訓練支援機を用いて、実際の戦闘場面で予想される電波妨害の状況を付与したり、訓練支援艦により洋上で無人標的機を飛行させるなど、実戦的な訓練に努めている。

毎年秋季には、艦艇、航空機の多数が参加する大規模な海上自衛隊演習を行っており、この演習を通じ各艦及び各搭乗チームは、日ごろの訓練成果を発揮するとともに、各部隊の指揮官は、部隊の運用、各部隊の協同連係などについて総合的に演練している。(護衛艦の射撃・発射訓練

(3) 航空自衛隊

航空自衛隊の部隊における訓練は、領空侵犯措置のための態勢を維持しつつ、有事に即応し得る部隊を練成するため、隊員個々の練度を向上させるとともに、組織としての任務遂行能力を向上させることを目的として行われている。

戦闘機部隊における操縦士の訓練は、教育課程で修得した基本的操縦法などを基礎として、必要な各種戦闘法、すなわち、要撃戦闘、対戦闘機戦闘、空対空射撃、空対地射爆撃などを段階的に実施する。本年度、F−4EJの飛行時間の若干の増加が認められ、従来、諸外国に比べて、操縦士の訓練飛行時間が少ない傾向にあった点を、幾らか改善した。さらに、実戦的環境下での訓練が実施できるよう、空対空射撃訓練用の標的の改善を図るなど、装備、施設の面においても工夫をして、訓練の質量両面での充実を図ることとしている。

また、航空警戒管制部隊では、侵入機の発見及び識別、最適要撃兵器の指向、要撃機の誘導などの訓練を、地対空誘導弾部隊では、ミサイルの組立て、整備、射撃、米国での実射訓練等を行っている。

これらの部隊は、訓練の実施に当たっては、有事の際に予測される電子戦の状況を付与し、電子戦環境下での航空戦闘能力の向上に着意している。さらに、戦闘機部隊、地対空誘導弾部隊及び航空警戒管制部隊ごとの訓練のほか、各部隊の連係要領についても演練し、組織としての総合力の向上に努めている。毎年秋季には、航空輸送部隊、航空救難部隊等を含めて、航空自衛隊として総合的な演習を行い、有事に際して必要な総合戦闘力の練磨に励んでいる。(シミュレータによるパイロットの訓練)

4 統合演習

わが国の防衛作戦は、有事の際、迅速に有効な防衛力を総合発揮して侵攻に対処する必要があり、そのためには、陸・海・空各自衛隊の能力を最も効果的に発揮するように統合運用を図ることが重要である。このため、自衛隊は、二つ以上の自衛隊が協同して行う統合訓練を実施している。昭和36年度から昨年度までに14回実施されており、昨年度は中央指揮所を使用し、陸・海・空3自衛隊の部隊と統合幕僚会議事務局が参加して指揮所演習を実施し、成果をあげている。

また、陸・海・空各自衛隊で計画し、実施する空地作戦、空挺作戦、海空作戦等の作戦別訓練が毎年実施されており、それぞれ、成果をあげている。(第3−1表 自衛隊の主要演習実績(昭和59年度))

5 教育訓練の制釣

自衛隊が実施する教育訓練には、現実の問題として種々の制約があるため、部隊としては、必ずしも十分な訓練ができているとはいえないのが実情である。このため、防衛庁では、教育訓練と国民の生活環境の保全との調和を図るための努力を継続しつつ、一方では現有の演習場等を最大限に活用して訓練方法に創意工夫を図り、部隊の練度の維持向上に努めているところである。

(1) 陸上自衛隊

演習場及び射場は、その数が少なく、地域的に偏在し、それぞれの演習場の広さも十分ではないため、大部隊を使用する演習や、長射程の火砲、ミサイル等の射撃訓練などを十分には行えない状況にある。さらに、演習場周辺地域の都市化現象により、演習場の使用や実弾射撃の実施に各種の制約を受けている。

このため、陸上自衛隊では、国内で射撃訓練を行うことができないホーク部隊の実射訓練を米国の射場で実施するほか、限られた国内の演習場等を最大限に活用するために、他方面区の演習場に移動して訓練を行っている。

(2) 海上自衛隊

訓練海面は、漁業などの関係から、その使用時期や場所などに制約を受けている。特に、掃海訓練、潜水艦救難訓練などに必要な比較的水深の浅い海面は、一般船舶の航行、漁船の操業などと競合するため、場所もむつ湾や周防灘などの一部に限定され、また、使用期間も限られている。

このため、海上自衛隊は、艦対空ミサイルや魚雷の発射訓練等の一部について米国で訓練を実施するほか、国内での訓練にあっては、限られた期間内で訓練目的を達成するために、計画的、効率的な訓練を実施している。また、本土における飛行訓練環境に制約があることから、硫黄島に移動して訓練を行うため、同島での訓練支援態勢を整備し、昨年から移動訓練を行っている。

(3) 航空自衛隊

訓練空域は、現在、高高度及び低高度訓練空域等が合計23か所設定されているが、飛行安全確保の面から、航空路との競合を避けつつ、主として洋上に訓練空域が設定されているため、基地によっては、訓練空域への往復の飛行に長時間を要し、実質的な訓練時間を十分にとれない状況にある。また、空域の広さが十分ではなく、超音速飛行などの一部の訓練項目について、航空機の性能や特性を十分に発揮した訓練が実施できないところもある。また、飛行場の運用面については、航空機騒音と飛行場周辺地域の生活環境の保全との兼ね合いから、早朝及び夜間の飛行訓練を制限するなど、種々の規制を行わざるを得ない状況となっている。

このため、航空自衛隊では、訓練空域と航空路等との分離について、従来の平面的、空間的な分離方式に加え、民間機と自衛隊機を同時に同一空域を飛行させないという時間的分離方式による訓練空域の設定を逐次進めている。また、本土では十分実施できない訓練を行うため、硫黄島における訓練支援態勢を整備するなど、制約下でのより効率的な訓練に努めている。ナイキ部隊は、ホーク部隊と同様、米国において実射訓練を行っている。

 

(注) 連隊戦闘団普通科連隊を基幹として、それに戦車中隊、対戦車小隊、野戦特科大隊、施設中隊などを配属して、総合した戦力を発揮できるように編成した部隊。

第6節 人事施策

1 隊員

自衛隊は、その任務を効果的に遂行するため、各種の機能を有する部隊、機関等を有しているが、それぞれの部隊、機関等は、必要に応じ様々な職域の人員を擁している。これら自衛隊を構成する職員は、防衛庁職員であると同時に自衛隊員とされている(第3−7図参照)。

自衛官は、実力組織としての自衛隊の部隊等の主たる構成員であり、自衛隊員の約90%を占めている。自衛官は、すべて本人の自由意志による志願に基づいて採用され、階級によって幹部自衛官、准尉、曹及び士に区分されるが、曹以上の自衛官には、自衛隊の精強性を維持するため、比較的若年の定年が定められ、大多数の者は、50歳代前半に定年を迎えることになっている(第3−2表参照)。また、士については、通常2年又は3年の任用期間が設けられているが、実力に応じ試験等により、幹部や曹に登用される。

自衛官以外の隊員のうち、参事官及び書記官はそれぞれ防衛庁の内部部局の局長等及び課長等の職に就き、部員は内部部局において事務に参画する。事務官、技官、教官等は、内部部局、防衛大学校、防衛医科大学校、防衛研究所、陸・海・空各自衛隊、統合幕僚会議、技術研究本部、調達実施本部及び防衛施設庁でそれぞれ事務、技術、教育などの業務に従事している。

装備品がいかに進歩、近代化してもこれを使用するのは隊員であり、また、部隊を構成し、あるいはこれを指揮するのも隊員である。したがって、精強な自衛隊の維持、運営に当たり、人の要素は特に重要である。このため、自衛隊が有能な人材を確保し、隊員がその任務に誇りを持ち、安心して勤務に精励することができるよう、一般職の国家公務員と均衡のとれた給与の支給、営内居住等特殊な勤務上の制約条件に見合う生活環境等の整備、公正適切な昇任管理、短任期又は若年定年を考慮した就職援護、退職手当・年金制度等その任務の特性に応じた、きめの細かい配慮を加えているところである。

2 募集

自衛官等の募集は、任期制自衛官である2等陸・海・空士(2士)、非任期制自衛官である幹部候補生や曹候補学生等、防衛大学校、防衛医科大学校の学生にそれぞれ区分して行っている。昨年度における各区分ごとの募集状況は、第3−8図のとおりである。

これらの募集のうち、2士(男子)の募集が、毎年度困難な状況にある。これは、その募集人員が膨大であること、長期的にみて適齢人口(18歳以上25歳未満)が減少傾向にあり、また、進学意欲の高まりや地元志向などの社会的風潮の中で、募集対象となる若者が慢性的に不足している状況にあること、さらに、短任期の任期制が一般になじみにくいものであることなどによると考えられる。

このような状況の中で、全国50か所にある自衛隊地方連絡部が、都道府県知事、市町村長、教育委員会、学校、民間の募集相談員などの協力を得ながら、2士(男子)の募集業務を行っている。これまでは、自衛隊側の努力や関係者の協力により、所要の採用者数を確保しているが、一部において関係者の十分な協力が得られない向きがあるなど、円滑な業務遂行のための態勢は必ずしも万全ではない。

また、2士(男子)の募集においては、単に所要の採用者数を確保するだけではなく、優れた資質を備えた者を確保することが、自衛隊の精強性を維持するためには不可欠である。

今後、優れた資質を備えた青少年を自衛官等に採用するためには、青少年にとって魅力ある自衛隊となるよう更に努力を続けなければならないが、同時に、国民の自衛隊に対する理解と支持が一層深まることが望まれる。

3 就職援護

短任期制及び若年定年制という特殊な任用制度の下で勤務する自衛官は、退職後の生活基盤の確保などのために、再就職を必要としているが、わが国の雇用慣行等から中途採用者は不利な扱いを受けるのが現実である。しかも、昨今の経済・雇用情勢の下で、特に再就職が困難な中高年齢の定年退職者が、昭和58年度の約2,500人、昭和59年度の約3,400人に対し、昭和60年代前半は各年度約6,000人から約7,000人程度に急増することが見込まれる。

このため、防衛庁では、退職予定自衛官の再就職を円滑、有利に実施するための就職援護を人事施策上の最重要事項の一つと考え、制度的に可能な範囲で職業訓練等の援護施策を実施している。毎年、退職予定自衛官に対して、各種の技能訓練や再就職先での勤務への適応性を高めるための教育等各種の職業訓練が実施されており、多くの希望者がこの訓練を受けている。

また、これらの援護施策を円滑に行う組織として、各幕僚監部に援護室、各自衛隊地方連絡部に援護課、各部隊等に援護センタ−等を置き、退職予定自衛官が、その求職条件に適合した就職ができるように、職業安定機関との密接な連係を確保するなどの活動を活発に行っている。さらに、以上のような就職援護施策に加え、社団法人隊友会に援護本部が設置され、その7支部(札幌、仙台、東京、名古屋、大阪、広島及び福岡)において、職業安定法に基づく労働大臣の許可を得て、退職予定自衛官のための無料職業紹介事業等を行っている。

このような就職援護は、退職後の生活についての不安を解消するとともに、その結果、入隊した自衛官が安心して隊務に精励できることとなり、ひいては各部隊の士気を高め、さらには、優れた資質を備えた自衛官の確保に結びついていくものと考えられる。このため、防衛庁としては、今後とも、効果的な援護活動を行うことができるよう、努力を継続することとしている。しかし、退職予定自衛官の再就職については、防衛庁の努力のみによっては多くの成果を期待することはできず、受け入れる社会の事情、企業の意識等によるところも大きいことから、自衛官特有の、短任期制及び若年定年制に対する幅広い国民の理解と支援が望まれるところである。

なお、退職自衛官は、製造業及びサービス業を始めとする広範多岐にわたる分野において活躍しているが、これら民間企業に就職した退職自衛官は、全般的に責任感、勤勉性、気力、体力、規律等の面で優れていること、さらに、定年退職者については、高い指導力を有していること等から総じて企業側から高く評価されている。(第3−3表 援護施策とその内容

第2章 防衛力整備

第1節 五九中業

1 中期業務見積り

わが国の防衛力整備については、昭和5l年10月29日の国防会議及び閣議において決定された「大綱」によって防衛力整備の目標が明らかにされて以降、政府としては、それまでのような一定期間を限った第何次防衛力整備計画といったものを作成する方法はとらず、年々必要な決定を行ういわゆる単年度方式を主体とすることとしている。

これは、内外情勢の変化等を考慮し、各年度の防衛力整備の具体的内容は、その時々における経済財政事情等を勘案し、国の他の諸施策との調和を図りつつ、柔軟に決定するのが適当である等の考えに基づくものである。

一方、防衛庁が「大綱」に基づき、逐年の防衛力整備を進めるに当たり、重視すべき主要な事業について可能な範囲で将来の方向を見定めておくことは、実際の業務を進める上で必要なことであり、このような観点から、防衛庁は、次の基本的性格を持つ中期業務見積り(中業)を作成することとしている。

 逐年の防衛力整備の基礎とする業務計画、予算概算要求等の作成に資することを目的とした防衛庁の内部参考資料である。

 対象とする範囲は、陸上、海上及び航空自衛隊の実施する主要な事業であり、併せて、それに要する経費の概略等の見積りを行うものである。

 その作成する年度の翌々年度以降おおむね5年間の見積りであるが、従来の防衛力整備計画のような固定的な計画ではなく、各年度の予算の決定等により毎年度見直しを行い、また、3年ごとに新たな見積りを作成し直すなど、その時々の状況の変化に柔軟に対応していくこととしているものである。

2 五九中業

昭和61年度から昭和65年度までを対象とする中業(五九中業)については、防衛庁としては、次の基本的考え方に従って作成する必要があると考え、昭和59年5月8日の国防会議において、防衛庁における五九中業の作成に際しての基本的考え方について報告し、この基本的考え方に従って防衛庁が五九中業の作成作業を行うことについて了承を得て、その作業を実施中である。

防衛庁における五九中業の作成に際しての基本的考え方は、次の5点である。

 五九中業は、防衛庁の年度業務計画の作成等に資するため、内部の参考資料として作成するものとし、従前どおり、主要な事業及びそれに要する経費の概略の見積りを行うこととする。

 五九中業においては、現下の厳しい国際情勢にかんがみ、「大綱」に定める防衛力の水準の達成を期するものとする。

 五九中業の作成に当たっては、真に有効な防衛力の発揮に資するよう、特に、正面と後方のバランスに極力配意し、継戦能力等の向上に努める。

 防衛力の整備に当たっては、諸外国の技術的水準の動向に対応し得るような質的な充実向上に配意する。

 計上すべき事業の選択に当たっては、その必要性、優先度を十分考慮して、防衛力の整備及び運用の両面にわたる効率化、合理化を図り、極力財政負担の軽減に努める。

 

(注)「五九中業」は、昭和61年度からの5年間を対象とする中期の見積りであるが、主として昭和59年度に作成作業を行っていることに着目して「五九中業」と呼称されている。

 

第2節 昭和60年度防衛力整備の概要

1 方針

わが国は、「大綱」に従い、その時々における経済財政事情等を勘案し、国の他の諸施策との調和を図りつつ防衛力の整備を進めてきているところであるが、いまだ「大綱」に定めるわが国が平時から保有すべき必要最小限の防衛力の水準に達していない。本年度の防衛力整備に当たっては、現下の厳しい国際軍事情勢等にかんがみ、「大綱」に定める防衛力の水準をできるだけ速やかに達成する必要があるとの考えの下に、正面及び後方についてバランスのとれた整備に配慮しつつ、五六中業を参考として、引き続き質の高い防衛力の着実な整備に努めること、練度の維持向上等教育訓練態勢の充実、隊員の処遇改善に努めること等を基本とし、その際、現下の厳しい経済財政事情等にかんがみ、事業項目を厳選するとともに、各般の効率化、合理化に努めたところである。

2 昭和60年度における防衛力の整備

(1)部隊等の新編

ア 第1対戦車ヘリコプター隊(仮称)の新編(陸上自衛隊)

陸上自衛隊の対戦車戦闘能力の改善を図るため、昭和57年度から、対戦車誘導弾を装備した対戦車ヘリコプターAH−1Sの整備を進めてきたが、本年度、対戦車ヘリコプター等約20機を装備する第1対戦車ヘリコプター隊(仮称)を編成し、北海道帯広市に配置する。(対戦車ヘリコプター AH−1S

 イ 静内駐屯地の新設(陸上自衛隊)

静内は、東千歳駐屯地の分屯地であったが、本年度から短SAM部隊の射撃訓練が開始されるのに伴い、訓練部隊への支援業務等の増大が予想されるため、駐屯地に格上げを行い、所要の後方支援の機能を充実する。

(2)装備の更新・近代化

昨年度までに調達したもののうち本年度取得する主要装備及び本年度調達する主要装備は、第3−4表のとおりである。主要な事項は、次のとおりである。

ア 陸上自衛隊

(ア) 特科火力、機動力などの向上のため、74式戦車60両、75式155mm自走りゅう弾砲13門、203mm自走りゅう弾砲12門、新155mmりゅう弾砲20門、73式装甲車15両などを取得するとともに、74式戦車60両、75式155mm自走りゅう弾砲13門、203mm自走りゅう弾砲12門、新155mmりゅう弾砲43門、73式装甲車16両などを調達する。

 (イ) 重要地域の低空域防空能力の一層の向上を図るため、基本ホーク1個群を改良ホ−ク(改善型)へ改装するための装備品を取得するとともに、基本ホーク1個群の改良ホーク(改善型)への換装に着手する。これにより、基本ホークは、すべて改良ホークに改装されることとなる。また、野戦防空火力の強化のため、短SAM5セット等を取得するとともに、短SAM8セット等を調達する。

イ 海上自衛隊

(ア) 対潜能力、艦艇防空能力などの向上を図るため、4,500トン型護衛艦1隻、2,900トン型護衛艦2隻、2,200トン型潜水艦1隻、対潜哨戒機P−3C7機等を取得するとともに、3,400トン型護衛艦3隻及び2,200トン型潜水艦1隻の建造に着手し、また、P−3C10機等を調達する。

 (イ) 対潜水艦作戦に必要な海底地形、海象、潮流などのデ−タを収集、分析する能力の向上を図るため、2,000トン型海洋観測艦1隻を新たに就役させる。

ウ 航空自衛隊

(ア) 防空戦闘能力の向上を図るため、要撃戦闘機F−15の整備を推進しており、本年度は、23機を取得するとともに、14機の調達を行う。また、ナイキJの後継機種として、ペトリオットを整備することとし、本年度は、ペトリオット部隊の円滑な部隊建設を図るため、要員養成、運用法の研究等に使用する教導高射隊用器材を調達する。

(イ) 対地支援能力の向上を図るため、支援戦闘機F−1を4機取得する。

(3) 即応態勢、継戦能力及び抗たん性の向上策

即応態勢を向上させるため、引き続き、機雷、魚雷の実装化及び所要の弾薬庫などの整備を推進する。また、継戦能力を向上させるため、各種弾薬の備蓄などを推進する。さらに、抗たん性を向上させるため、基地防空用として短SAM、携帯SAMなどの整備、被害対策として航空機えん体、滑走路被害復旧マットの整備及び代替確保策として移動3次元レーダーなどの整備を推進する。

(4) 研究開発

本年度は、新たに、深深度係維掃海具及び爆弾用誘導装置等の研究開発に着手する。

深深度係維掃海具は、海上自衛隊が現有する掃海具では排除することのできない深深度に敷設された機雷に対処するものであり、最近の機雷敷設の深深度化に対応しようとするものである。

爆弾用誘導装置は、通常爆弾に装着し、誘導爆弾として目標に対する高精度爆撃に使用するものであり、支援戦闘機部隊がわが国に侵攻する艦船を洋上で撃破する場合に、精度の高い攻撃を可能とし、作戦行動の効率化を図ろうとするものである。

(5) 隊舎等施設の改善

隊員の処遇改善の一環として、営内に居住する曹クラスの2段ベッドを段階的に解消するため、本年度は、10か所の増設等を行う。また、自衛隊員の宿舎のうち、自衛隊の創設期に設置した老朽狭隘なものについて、隊員の士気の高揚、良質隊員の確保の観点から重点的に建替えを促進する。

(6) 五六中業との関係

五六中業に計上した主要事業の昭和58年度ないし昭和60年度予算における進捗状況は、第3−5表のとおりである。

 

(注) ペトリオットの導入航空自衛隊のナイキ部隊は、昭和30年代後半以降整備されたものであるが、将来の航空侵攻では、高速度や高機動の戦闘爆撃機や高性能爆撃機による侵攻、電子妨害を伴う低高度侵攻などの様相が予測され、数次にわたる器材の改修等にかかわらず、ナイキシステムの能力は相対的に低下している。また、米軍の補給支援が本年度で打ち切られるため、昭和60年代後半には、システムの維持が困難になる。これらの状況を踏まえ、昭和の年以降ナイキ後継機種の選定作業を行い、昨年12月、ペトリオットに決定し、部隊建設に必要な期間を考慮して本年度から装備化を進めるものである。

第3節 防衛関係費

1 昭和60年度防衛関係費の概要

防衛関係費は、自衛隊の維持運営に必要な経費のほかに、防衛施設周辺の生活環境の整備などの事業のための経費や国防会議の運営に必要な経費を含む。

本年度の防衛関係費は、経費の節減・合理化に極力配慮しつつ、わが国を防衛するために必要な最小限の経費を計上したものであり、その総額は、3兆1,371億円である。これは、本年度一般会計歳出予算の約5.98%を占め、また、政府見通しによるGNPに対する比率は、0.997%となっている。(第3−9図 一般会計歳出予算中の割合)(第3−6表 防衛関係費の概要

 

(注)このほか、特定国有財産整備特別会計への繰入れの必要のある年度は、同会計繰入れ分(大蔵本省計上)を含む。

 

2 防衛関係費の内訳と推移

防衛関係費は、陸・海・空各自衛隊などの機関別に経費を分類した「機関別内訳」、人件・糧食費、装備品等購入費などの使途別に経費を分類した「使途別内訳」、既国庫債務負担行為及び継続費の歳出化経費、当年度における新規装備品調達等のための経費などの性質別に経費を分類した「経費別内訳」などに分類することができる。

(1) 機関別内訳

本年度の防衛関係費を、陸・海・空各自衛隊などの機関別に分類すると、第3−10図のとおりである。陸・海・空各自衛隊の経費は、防衛関係費全体の約87%を占め、防衛施設庁の経費は約10%、その他の機関の経費は、約3%となっている。

(2) 使途別内訳

防衛関係費を使途別にみると、隊員の給与や糧食費となる「人件・糧食費」、隊員の生活の維持や教育訓練活動に必要な経費である「維持費等」、戦車、艦船、航空機などを購入するための経費である「装備品等購入費」、飛行場、隊舎などを整備するための経費である「施設整備費」、装備品等を研究開発するための経費である「研究開発費」、基地周辺整備等の経費である「基地対策経費」などに分類される。本年度の防衛関係費をこれらの使途別にみると、第3−11図のとおりである。

「人件・糧食費」は、昭和40年代末の大幅なベースアップなどにより、昭和51年度には防衛関係費の56.0%に達したが、その後低下の傾向にある。しかしながら、本年度は、45.1%と昨年度に比べ若干増加している。

「維持費等」の防衛関係費に占める割合は、装備品の近代化等に伴い近年増加の傾向にあるが、本年度は昨年度より0.4%低下し、15.1%になっている。

「装備品等購入費」は、昭和48年の石油ショックを契機として、その防衛関係費に占める割合は、昭和48年度の25.4%から昭和51年度には16.4%まで低下したが、装備品の近代化の進捗に伴い近年増加に転じ、本年度は、昨年度とほぼ同様の26.2%となっている。

「施設整備費」については、本年度は、飛行場、港湾、弾薬庫などの装備の就役に伴い必要となる施設に対して財源の重点的配分に努める一方、隊舎、公務員宿舎などの隊員の生活関連施設も、曹クラスの2段ベッドや老朽木造の9.5坪型宿舎の段階的解消等を図るなど、隊員の生活環境の改善の観点から極力配慮したが、厳しい財政事情からギリギリ必要なものにとどめざるを得ない状況にある。その結果、「施設整備費」の防衛関係費に占める割合は、昨年度とほぼ同様の1.4%と低い割合にとどまっている。

最近の技術の目覚ましい発展に対応して、装備の質的な充実向上を図るとともに、わが国の地勢・国情に適したものを自ら整えるため、装備の自主的な研究開発が重視されており、「研究開発費」の防衛関係費に占める割合は、近年増加しつつある。本年度は、昨年度より0.4%増加し1.6%になっている。

「基地対策経費」の防衛関係費に占める割合は、昨年度よりも若干低下し、9.5%となっている。

(3) 経費別内訳

防衛関係費の経費別内訳は、「人件・糧食費」、既に国会の議決を経ている国庫債務負担行為及び継続費の後年度支払分に係る「歳出化経費」及び当年度における新規装備品調達などのための「一般物件費」に分類される。

防衛力の整備に当たっては、「大綱」に従い、艦艇や航空機などの主要装備の更新近代化を中心に質の高い防衛力を着実に整備してきているところである。これらの主要装備品の製造には、第3−7表に示すとおり長年月を要するため、単年度予算では調達できないものが多い。このため、これらの装備品等の取得に当たっては、財政法に定められている国庫債務負担行為及び継続費の方式を採用している。これらの方式によれば、最長5年間にわたる製造などの契約をするための予算措置が行われることになり、当年度予算で支払われる前金部分以外の経費は、いわゆる後年度負担となり、次年度以降の歳出予算によって支払われることになる。これが、「歳出化経費」といわれるものであり、毎年度の防衛関係費の中で相当の割合を占めている。「歳出化経費」は、護衛艦、P−3C、F−15などの大型装備品等の調達に伴い逐年増加の傾向にあり、その防衛関係費に占める割合は、本年度は34.2%になっている。

「一般物件費」の防衛関係費に占める割合は、近年低下の傾向にある。本年度の防衛関係費は、総額で昨年度に比べ約2,025億円の増加となっているが、その内訳をみると、「人件・糧食費」が、俸給・退職手当等の増によって、約1,045億円増となっており、これは、増加額全体の約52%を占めている。また、「歳出化経費」は、約903億円増となっており、「人件・糧食費」と「歳出化経費」の増加額を合わせると、約1,948億円となり、これは、増加額全体の約96.2%を占めている。このように、昭和60年度防衛関係費の増は、そのほとんどがこれらのいわば義務的な経費の増によるものである。

他方、「一般物件費」については、経費の効率的かつ合理的な配分に極力配意し、教育訓練に必要な油購入費や修理費等については、練度が低下することのないよう、また、主要装備品の更新・近代化に必要な調達頭金等の確保に努めるとともに、前述したように、生活関連施設整備については、ギリギリ必要な経費の計上にとどめた結果、昨年度に比べ約77億円の増加にとどまり、防衛関係費に占める割合は、昨年度の21.9%から20.7%に低下している。(第3−12図 防衛関係費の経費別内訳の推移

3 各国との比較

防衛関係費の国際比較については、各国の置かれた政治的及び経済的諸条件、社会的背景などが異なること、さらに、各国における防衛費や国防費については、その内訳が明らかでない場合が多く、また、その定義も各国の歴史、制度等の諸事情により異なり、必ずしも統一されたものではないことから、外部に現れた計数のみをもって単純に比較を行うことには、おのずから限度がある。しかし、GNPや歳出予算に対する比率などによる国際的な比較が一般に行われており、その際使用することが多い英国の国際戦略研究所発行の「ミリタリ−・バランス(1984−1985)」等に基づいて諸外国と比較すれば第3−8表のとおりである。

これによると、わが国の防衛関係費は、金額においては世界第8位と推定されるが、防衛関係費の対GNP比、国民1人当たりの防衛関係費及び防衛関係費の対歳出予算比のいずれにおいても、欧米諸国に比べてかなり低いことが分かる。

第3章 日米防衛協力

第1節 日米両国政府の開係者による協議

 日米両国間の安全保障上の意見の交換は、通常の外交ルートによるもののほか、従来から内閣総理大臣と米国大統領との日米首脳会談を始め、わが国の防衛庁長官と米国の国防長官との間の定期的な会談、第3−13図に掲げる協議など、両国政府関係者の間で行われてきている。

1 日米首脳会談

本年1月には、中曽根首相が米国を訪れ、レーガン大統領と会談し、経済・貿易、軍備管理、防衛等について意見を交換した。防衛面については、中曽根首相は、わが国が厳しい財政事情の中で予算上最大限の努力をしている旨述べるとともに、憲法と基本的防衛政策に沿って自主的努力を継続する旨発言したのに対し、レーガン大統領は、わが国の努力を高く評価した。また、レーガン大統領から、空母艦載機の着陸訓練場確保の問題について解決の要請があり、中曽根首相は、解決のため引き続き努力する旨述べた。

日米首脳の記者発表において、中曽根首相は、わが国としては、日米安保体制の信頼性を一層強化しつつ、わが国の自衛力の整備のための自主的な努力を更に進めていく所存である旨述べた。一方、レーガン大統領は、我々自身の防衛努力が地域の平和と安定にとって有する重要性を再確認し、日米安全保障条約の枠内で相互安全保障協力の強化のためにカを合わせていくことを誓い合った旨述べた。

2 日米防衛首脳会談

昭和50年8月に行われた坂田・シュレシンジャー会談の合意に基づき、日米両国の防衛首脳による定期的協議が行われており、以来随時の協議も含めて、これまで日米防衛首脳会談は17回を数えている。

(1) 昨年9月には、栗原防衛庁長官が米国を訪問し、ワインバーガー国防長官と会談を行った。この会談の概要は、次のとおりである。

ア まず、日本側から、世界平和のためには、米ソ両国間の対話が重要であり、この点、レーガン大統領が国連における演説の中で、ソ連に対話を呼びかけたことは、極めて意義深く、常に平和と軍縮の問題を念頭に置きながら、防衛施策を進めることが肝要であるとの考えを述べた。

これに対し、米側から、同意を表明するとともに、軍縮で一番大きな問題は、検証可能な措置をとることにあるとの発言があり、日本側は、検証可能なところから実施していくとの米側の考え方は、十分理解できるものである旨述べた。

イ わが国の防衛努力については、米側から、厳しい財政事情の中で努力を続けていることを高く評価しているが、より一層の努力が必要と考えている旨発言があった。

これに対し、日本側から、今後とも日米安保体制を堅持しつつ、憲法に基づき、できる限りの防衛努力を行う考えである旨を述べた。また、これに関連して、五九中業の長官指示及び昭和60年度概算要求の説明を行った。

ウ 継戦能力の問題については、米側から、抑止力確保の観点から、日米両国ともその能力向上に努める必要がある旨の発言があった。

これに対し、日本側から、この問題の重要性はよく認識しており、五九中業作成に当たって、特にその能力向上に努めるよう指示するとともに、昭和60年度概算要求においても重点的に配意しているところである旨述べた。

エ 空母艦載機の着陸訓練場確保の問題については、米側から、早期解決の要請があり、日本側から、本問題の重要性は十分理解しており、今後とも誠意をもって対処したい旨述べた。

オ このほか、米側から、日米両国間のインターオペラビリティ (相互運用性)、在日米軍に対する提供施設の整備問題、ソ連への技術流出問題等について発言があった。

(2) 本年6月には、加藤防衛庁長官が米国を訪問し、ワインバーガー国防長官と会談を行った。この会談の概要は、次のとおりである。

ア まず日本側から、日米の防衛関係については、良好な状態が続いており、これを維持発展させるため、双方が最善の努力を行う必要があること、また、わが国の防衛政策に関し憲法や非核三原則の遵守、日米安保体制の堅持等防衛に関する基本的な政策は、国民のコンセンサスを得ているものと認識しており、今後ともこのような政策に従った防衛努力を着実に積み重ねて行きたいとの考え方を述べたのに対し、米側から、わが国の自主的な防衛努力を評価するとともに、米国としても支援と協力を惜しまない旨の発言があった。

イ 次に、五九中業について、日本側から、現在、「防衛計画の大綱」に定める防衛力の水準の達成を期すとの方針の下に作業を進めていることを述べ、正面と後方のバランスの確保、わが国の地理的特性への配意等、この中業策定に当たっての基本的な考え方を説明した。

ウ さらに、日本側から、「日米防衛協力のための指針」に基づく各種の研究、日米共同訓練や装備技術交流の進展について述べるとともに、今後とも、双方がその内容の充実に一層の努力を払っていくことの重要性を述べ、また、こうした交流の深まりに対応し、既存の枠組みの中でシビリアン・コントロールの観点からも、政策担当者間の交流を一層促進させる必要性を述べたのに対し、米側から、これらについていずれも同感である旨の発言があった。

エ 空母艦載機の着陸訓練場確保の問題については、日本側から、最大の懸案として、政府としてこの問題の解決のため最大限の努力を行っている旨述べたのに対し、米側から、日本側の努力を評価しており、継続的な努力方要請する旨の発言があった。

オ このほか、米側から、在日米軍駐留経費の負担について、日本の努力に対する謝意が表明され、日本側から、沖縄駐留米軍の事故防止に配慮するよう要請した。(加藤・ワインバーガー会談

第2節 日米防衛協力のための指針

1 「指針」の作成経緯

(1) 昭和51年の第16回日米安全保障協議委員会において、前年の三木首相とフォード大統領との会談及び坂田防衛庁長官とシュレシンジャー米国防長官との会談における了解をうけて、日米安全保障条約及びその関連取極の目的を効果的に達成するために、軍事面を含めて日米間の協力のあり方について研究・協議を行うため、同委員会の下部機構として防衛協力小委員会が新たに設置された。

 防衛協力小委員会は、昭和51年8月の第1回会合以来、2年有余にわたり8回に及ぶ研究・協議を重ね、その結果を「日米防衛協力のための指針」としてとりまとめた。

(2) 昭和53年11月に開催された第17回日米安全保障協議委員会は、防衛協力小委員会から、これまでの研究・協議の成果である「指針」の報告を受け、これを了承した。次いで、国防会議及び閣議に外務大臣及び防衛庁長官から報告されるとともに、防衛庁長官から「この指針に基づき自衛隊が米軍との間で実施することが予定されている共同作戦計画の研究その他の作業については、防衛庁長官が責任をもって当たることとしたい」旨の発言があり、いずれも、了承された(「指針」については、資料33参照)。

2 「指針」の前提条件

(1) 事前協議に関する諸問題、日本の憲法上の制約に関する諸問題及び非核3原則は、研究・協議の対象としない。

(2) 研究・協議の結論は、日米安全保障協議委員会に報告し、その取扱いは、日米両国政府のそれぞれの判断にゆだねられるものとする。この結論は、両国政府の立法、予算ないし行政上の措置を義務付けるものではない。

3 「指針」の概要

このような経緯を経て策定された「日米防衛協力のための指針」の概要は、次のとおりである。

(1) 前文

この「指針」は、日米安全保障条約及びその関連取極に基づいて日米両国が有している権利及び義務に何ら影響を与えるものではない。

この「指針」が記述する米国に対する日本の便宜供与及び支援の実施は、日本の関係法令に従う。

(2) 侵略を未然に防止するための態勢

ア 日本は、自衛のために必要な範囲内において適切な規模の防衛力を保持し、かつ、施設・区域の安定的効果的使用を確保する。

米国は、核抑止力を保持するとともに、即応部隊を前方展開し、来援し得るその他の兵力を保持する。

イ 共同対処行動を円滑に実施し得るよう、日本防衛のための共同作戦計画についての研究を行う。

ウ 作戦、情報及び後方支援の事項につき、共通の実施要領を研究する。

エ 日本防衛に必要な情報を作成し、交換する。

オ 必要な共同演習及び共同訓練を実施する。

カ 補給、輸送、整備、施設等後方支援の各機能について研究を行う。

(3) 日本に対する武力攻撃に際しての対処行動等

ア 日本に対する武力攻撃がなされるおそれのある場合

(ア) 必要と認められるときは、自衛隊と米軍との間に調整機関を開設する。

(イ) 作戦準備に関し、共通の準備段階をあらかじめ定めておき、両国政府の合意によって選択された準備段階に従い、それぞれが必要と認める作戦準備を実施する。

イ 日本に対する武力攻撃がなされた場合

(ア) 日本は、原則として、限定的かつ小規模な侵略を独力で排除し、侵略の規模、態様等により独力で排除することが困難な場合には、米国の協力をまって、これを排除する。

(イ) 自衛隊は主として日本の領域及びその周辺海空域において防勢作戦を行い、米軍は自衛隊の行う作戦を支援し、かつ、自衛隊の能力の及ばない機能を補完するための作戦を実施する。

(ウ) 自衛隊及び米軍は、緊密な協力の下に、それぞれの指揮系統に従って行動する。

(エ) 自衛隊及び米軍は、緊密に協力して情報活動を実施する。

(オ) 自衛隊及び米軍は、効率的かつ適切な後方支援活動を緊密に協力して実施する。

(4) 日本以外の極東における事態で日本の安全に重要な影響を与える場合の日米両国間の協力

両国政府は、情勢の変化に応じ随時協議する。また、両国政府は、日本が米軍に対して安全保障条約その他の関係取極及び日本の関係法令に従って行う便宜供与のあり方について、あらかじめ相互に研究を行う。

4 「指針」に基づく研究

 防衛庁では、「指針」に基づいて、現在、共同作戦計画の研究その他の研究作業を実施している。

(1) 主な研究項目

「指針」で予定されている主要な研究項目は、大略、次のとおりである。

ア 「指針」第1項及び第2項に基づく研究項目

(ア) 共同作戦計画

(イ) 作戦上必要な共通の実施要領

(ウ) 調整機関のあり方

(エ) 作戦準備の段階区分と共通の基準

(オ) 作戦運用上の手続

(カ) 指揮及び連絡の実施に必要な通信電子活動に関し相互に必要な事項

(キ) 情報交換に関する事項

(ク) 補給、輸送、整備、施設等後方支援に関する事項

イ 「指針」第3項に基づく研究項目

日本以外の極東における事態で、日本の安全に重要な影響を与える場合の米軍に対する便宜供与のあり方

(2) 「指針」第1項及び第2項に基づく研究の進捗状況

ア 「指針」に基づき、自衛隊が米軍との間で実施することが予定されている共同作戦計画の研究その他の研究作業については、防衛庁と米軍との間で、これまで、統合幕僚会議事務局と在日米軍司令部が中心となって実施してきた。

これまでの研究作業においては、共同作戦計画の研究を優先して進め、わが国に対する侵略の一つの態様を設想の上、研究を行い、昭和56年夏に一応の概成をみた。以後、この研究を補備充実する作業を実施し、昭和59年末、一応の区切りがついたところであり、今後は、情勢に応じた見直し等を実施していく考えである。また、新たな設想に基づく研究については、これを開始するための準備作業を行っている。

イ 昭和57年の第14回日米安全保障事務レベル協議において、シーレーン防衛に関する研究を「指針」に基づく共同作戦計画の研究の一環として行っていくことで日米両国間に意見の一政をみた。これを受け、昭和58年3月に開催された第9回日米防衛協力小委員会において、同研究の前提条件等研究の基本的な枠組みの確認が行われ、研究作業に着手した。

本研究は、「指針」作成の際の前提条件及び「指針」に示されている基本的な制約、条件、構想等の範囲内において、日本に武力攻撃がなされた場合、シーレーン防衛のための日米共同対処をいかに効果的に行うかを研究するものである。本研究によりわが国のシーレーン防衛についての自衛隊と米軍との具体的な協力のあり方が現在以上に明確になり、日米安全保障体制の効果的な運用に資することになるものと考えられている。この研究については、脅威の分析、シナリオの設定等を終え、現在、日米の作戦能力の分析作業を行っている。

その他の日米調整機関、情報交換に関する事項、共通の作戦準備等の研究作業についても、逐次研究を実施しているところである。

なお、日米間のインターオペラビリティ(相互運用性)の問題についても、「指針」に基づく各種の研究を実施するに当たって考慮を払っているところである。

(3) 「指針」第3項に基づく研究について

日本以外の極東における事態で、日本の安全に重要な影響を与える場合の米軍に対する便宜供与のあり方の研究については、昭和57年1月に開催された日米安全保障協議委員会において、研究を開始することで意見の一致が見られ、現在、日米両国間で研究作業が進められているところである。

第3節 日米間の装備・技術面の協力関係

1 装備・技術面の協力の現状

(1) 装備・技術の提供

米国からのわが国への装備・技術の提供は、日米安全保障体制を踏まえ、主として、昭和29年に日米両国政府間で締結された「日本国とアメリカ合衆国との間の「相互防衛援助協定」(「相互防衛援助協定」(資料34参照)に基づき、従来から活発に行われているところであり、わが国の防衛力の充実・向上に大きく寄与している。昨年度は、有償援助(FMS)により、輸送機C−130H、対艦ミサイル「ハープーン」、携帯SAMなどを調達している。また、要撃戦闘機F−15、対潜哨戒機P−3C、203mm自走りゅう弾砲などは、米国との間の取極に基づいてライセンス生産されている。さらに、防衛庁が調達している主要な装備品などのうち、商社などを経由して調達する一般輸入品も、米国からのものが多い。このほか、日米両国間においては、装備に関する資料の交換などの交流が行われている。

(2) 装備・技術面の対話(日米装備・技術定期協議)

日米装備・技術定期協議は、装備・技術面における日米防衛当局間の協力関係の一層の緊密化を図ることを目的とした事務レベルの非公式会合であり、昭和55年9月以来開催されている。

昨年8月ワシントンにおいて開催された第6回定期協議に続いて、本年5月には、東京において第7回定期協議が開かれた。

第7回定期協議においては、「防空構想に係る装備技術」に関する技術調査ダル−プの活動状況に関する報告、「通信系に係る装備技術」に関する調査・検討の進め方、昨年7月に来日した米国防省技術調査団の調査結果の取りまとめ状況、武器技術供与問題に関する意見交換、FMS納入促進及びライセンス・リリースの拡大に関する要請等各種の装備・技術に関する話合いが行われた。

日米間の装備・技術面の協力関係は、技術の進展に伴い、ますます重要になってきており、このような装備・技術面における日米防衛当局者間の意見交換等を通じてその円滑な進展を図っていくべきであると考えている。

2 対米武器技術供与

(1) 防衛分野における技術の相互交流については、昭和56年以来、米側からその推進についての希望が表明されてきている。

この問題については、相互交流の一環としての対米武器技術供与と、武器輸出三原則及び昭和51年2月の武器輸出に関する政府方針(「武器輸出三原則等」)などとの関係や日米安全保障体制との関係などについて、政府部内において、約1年半にわたり慎重な検討が重ねられた。その結果、昭和58年1月に「武器輸出三原則等」の例外として米国に対し武器技術を供与する途を開くとの結論に達し、この政府の決定を内閣官房長官談話(資料35参照)で明らかにした。これは、防衛分野における米国との技術の相互交流を図ることが日米安全保障体制の効果的運用を確保する上で極めて重要となっているとの認識に立って行われたものであり、具体的な武器技術供与は、「相互防衛援助協定」の関連規定の枠組みの下で実施されることとされた。

なお、対米武器技術供与には、これを実効あらしめるために必要な物品で武器に該当するもの、例えば、試作品などの輸出もその対象として含まれるが、それ以外の場合の武器の輸出については、従来どおり「武器輸出三原則等」が適用される。

(2) 昭和58年11月には、「相互防衛援助協定」に基づく交換公文(資料36参照)が締結されたが、それ以降、昭和59年11月に、第1回武器技術共同委員会が開催され、今後の運営手続等について話合いが行われるなど、対米武器技術供与を実施するための枠組みの整備が進められている。具体的な供与技術については、武器技術共同委員会での協議を通じ、慎重な手続を経て、わが国が自主的に決定することとされているが、現在、米国から最初の具体的供与要請がわが国に対してなされており、政府部内において検討が進められているところである。

(3) また、対米武器技術供与の決定以降、米国側において、防衛分野における日米両国間の技術の相互交流を進めるための検討がなされており、昭和58年10月から11月にかけて米国防省国防技術審議会のメンバ−が来日し、わが国の政府及び民間企業の関係者と意見交換をしたほか、昭和59年7月及び昭和60年4月には、米国防省技術調査団が来日し、光電子工学及びミリ波・マイクロ波の技術領域におけるわが国の民間企業等の技術力、技術開発状況等を調査するなど、わが国の技術に対する関心が高まっている。

3 SDIの研究に対する参加招請問題

米国が現在進めている戦略防衛構想(SDI)に関して、SDIの研究に対する参加を招請するワインバーガー米国防長官の書簡が同盟国に対して発出され、本年3月28日、わが国も受領した。

わが国の対応については、わが国の基本的立場を踏まえて、政府部内で検討しているところである。

 

(注) 武器輸出三原則昭和42年4月、当時の佐藤首相が表明したもので、共産圏諸国向けの場合、国連決議により武器等の輸出が禁止されている国向けの場合、国際紛争当事国又はそのおそれのある国向けの場合には、原則として武器の輸出を認めないというものである。

また、昭和51年2月の武器輸出に関する政府方針とは、当時の三木首相が表明したもので、その概要は、武器の輸出について、三原則対象地域については、「武器」の輸出を認めない、三原則対象地域以外の地域については、「武器」の輸出を慎むものとする、武器製造関連設備については、「武器」に準じて取り扱うものとする、という方針により処理するものとし、武器の輸出を促進することはしないというものである。

(また、武器技術の輸出(非居住者への提供)についても、武器輸出三原則及び昭和51年2月の武器輸出に関する政府方針に準じて処理することとされている。)

第4節 在日米軍の現状等と必要施策

1 在日米軍の現状

(1) 在日米軍は、司令部を東京都の横田飛行場に置き、司令官は、第5空軍司令官が兼務している。司令官は、わが国の防衛を支援するための諸計画を立案する責任を有し、平時には、在日米陸軍司令官及び在日米海軍(在日米海兵隊を含む。)司令官に対して調整権を保有している。緊急事態発生時には、在日米軍司令官として、在日米軍の諸部隊及び新たに配属される米軍部隊を指揮することになっている。

また、在日米軍司令官は、わが国における米国の軍事関係の代表として、防衛庁及びその他の省庁との折衝を行うとともに、地位協定の実施に関し外務省と調整する責任も有している。

(2) 在日米陸軍は、司令部(第9軍団司令部)を神奈川県のキャンプ座間に置いており、管理、補給、通信などの業務を主任務としている。

(3) 在日米海軍は、司令部を神奈川県の横須賀海軍施設に置き、主に第7艦隊に対する支援に当たっている。神奈川県の厚木飛行場は、主として艦載機の修理及び訓練基地として、米海軍航空部隊がこれを使用している。また、青森県の三沢飛行場と沖縄県の嘉手納飛行場には、対潜哨戒飛行隊が配備されている。

(4) 海兵隊は、沖縄県のキャンプ・コートニーに第3海兵両用戦部隊司令部を置き、1個海兵師団及び1個海兵航空団から成る強襲兵力を擁している。

(5) 在日米空軍は、東京都の横田飛行場に第5空軍司令部を置き、沖縄県の嘉手納飛行場に1個戦術戦闘航空団などを配備している。また、横田飛行場には、戦術空輸群を配備している。

 

在日米軍の配置の概要は、第3−15図及び第3−16図に示すとおりであり、また、在日米軍の兵力は約47,300人(陸軍約2,500人、海軍約7,700人、海兵隊約21,800人及び空軍約15,200人、昭和59年12月31日現在)である。(第3−14図 在日米軍兵力の推移

2 F−16の三沢配備

昭和57年6月、在日米軍司令部を通じて、米国側から、青森県の三沢飛行場にF−16を配備したい旨の説明があった。米国側の説明によれば、この配備の目的は、極東における軍事バランスの改善に努め、米国のコミットメントの意思を明確にすることにより、日米安全保障体制の抑止力の維持向上を図るものであることが明らかにされた。政府としては、関係省庁間において検討を進めた結果、この措置が、日米安全保障体制の信頼性を高め、抑止力を強化し、わが国及び極東における平和と安全の維持に寄与するものであることから、地元に協力を求めるなどの必要はあるものの、基本的にこの計画に協力することとし、昭和57年9月の伊藤防衛庁長官の訪米に際し、この旨を米国側に伝えたものである。

当初の米国側の計画は、1985年(昭和60年)以降、おおむね4年間にF−16を約40〜50機三沢飛行場に配備し、第5空軍隷下に2個飛行隊を有する1個航空団として新編するというものであり、本年4月から配備が開始された。この配備に伴う人員増は、軍人及びその家族を含めて合計約3,500人程度と見込まれている。

なお、わが国は、この計画に関連する施設について必要に応じ整備し提供することとし、本年度は、昨年度に引き続き、隊舎、家族住宅等を整備することとしている。(三沢に配備された第432戦術戦闘航空団のF−16

3 在日米軍の駐留を円滑にするための施策

(1) 在日米軍の駐留は、日米安全保障体制の核心をなすもので、わが国の安全のために不可欠である。その駐留を真に実効あるものとして維持するために、わが国としても、条約に定められた責任を積極的に遂行する必要がある。

在日米軍の駐留に関することは、地位協定に規定されているが、この中には、在日米軍の使用に供するための施設・区域の提供に関すること、在日米軍が必要とする労務の需要の充足に関することなどの定めがある。

(2) わが国は、地位協定の定めるところにより、施設・区域について、日米合同委員会を通じて日米両政府間で合意するところに従い、米国に負担をかけないで提供する義務を負っている。在日米軍は、駐留目的を達成するために、これら施設・区域において必要な訓練・演習その他の活動を行っている。

また、在日米軍は、同軍を維持するために日本人従業員の労働力を必要としており、この労務に対する在日米軍の需要は、地位協定によりわが国の援助を得て充足されることとなっている。そこで、わが国は、給与、その他の勤務条件を定めた上、日本人従業員(昭和60年3月31日現在約20,800人)を雇用し、その労務を在日米軍に提供しており、所要経費については米側が負担してきた。

(3) ところで、在日米軍の駐留に関連して米側が負担する経費は、昭和40年代後半からわが国における物価と賃金の高騰や国際経済情勢の変動などによって、相当圧迫を受け、窮屈なものとなっている。このような事情を背景として、政府は、在日米軍の駐留が円滑かつ安定的に行えるようにするため、また同時に、日本人従業員の雇用の安定を図るため、在日米軍が駐留に関連して負担する経費の軽減について、現行の地位協定の範囲内で、できる限りの努力を行うとの方針の下に、次のような施策を講じている。すなわち、在日米軍の施設・区域については、昭和54年度から老朽隊舎の改築、家族住宅の新築、老朽貯油施設の改築、消音装置の新設などを行い、これらを施設・区域として提供することとしているほか、労務費については、昭和53年度から日本人従業員の福利厚生費などを、昭和54年度からは給与のうち国家公務員の給与水準を超える部分の経費をわが国が負担してきている。本年度においても、前述のF−16の三沢配備に伴い必要となる施設整備のはか、各地で老朽化、又は不足している施設の現状を是正するための隊舎及び家族住宅の整備や環境を保全するための汚水処理施設の整備などを行うとともに、引き続き日本人従業員の福利厚生費などと前述の給与の一部を負担することとしている。

これらの措置に要する本年度歳出予算額は、提供施設の整備費約614億円(ほかに後年度負担額約437億円)及び労務費約193億円、計約807億円である。

(4) これらの経費の負担のほかに、わが国は、在日米軍の駐留に関連して、従来から、施設・区域の提供に必要な経費の負担、施設・区域の周辺地域の生活環境等の整備のための措置、日本人従業員の離職対策などの諸施策を行ってきており、これらの施策のために本年度に防衛庁分として防衛施設庁に計上された予算額は、前掲の約807億円を含めて約1,969億円である。

わが国としては、これらの経費を効率的に使用し、在日米軍の駐留をより円滑にする努力を続けていく必要がある。

4 空母艦載機の着陸訓練場確保の問題

在日米軍の駐留の円滑化に関連する日米両国間の大きな懸案の一つとして空母艦載機の着陸訓練場確保の問題がある。この問題については、従来から日米両国の防衛首脳による会談を始めとして、各般のレベルにおける会談において、米側から強く解決の要請を受けており、本年1月の日米首脳会談においても、レーガン大統領から本問題解決の要請があり、また、本年6月の防衛庁長官訪米時にも、防衛庁長官から、本問題については最大の懸案として、政府としてその解決のため最大限の努力を行っている旨述べたのに対し、米国防長官から、日本側の努力は評価しており、継続的な努力を要請する旨の発言があった。

陸上における空母艦載機の夜間着陸訓練は、艦載機のパイロットの練度維持に欠くことのできないものであるが、他方、その騒音が周辺住民に与える影響も無視することができない。

現在、この訓練は、厚木、三沢及び岩国の各飛行場で行っているが、主として訓練が行われる厚木飛行場は、周辺地域が住宅密集地帯であるため、米軍においても訓練の運用上種々工夫をこらし、騒音軽減に努力しているが、なお周辺住民等に与える騒音影響は大きく、地方公共団体及び住民から訓練中止の強い要請が出される等、大きな政治問題となっている。

三沢及び岩国飛行場は、騒音問題のほか、遠隔地にあることから訓練効率が悪い等、必ずしも訓練場として適当とはいえない。

このため、関東地方及びその周辺地域において円滑に着陸訓練が実施できる施設を是非とも確保する必要があり、現在、関係地方公共団体の協力を得ながら政府が一体となって、この問題を早期に解決するため努力しているところである。また、本件については、国会においても重要な問題として度々論議されているところである。

 

(注) 施設・区域建物、工作物等の構築物及び土地、公有水面をいう。

第5節 日米共同訓練

 自衛隊は、平素から部隊を訓練じて、有事に即応し得る態勢の維持向上に努めているが、自衛隊独自の訓練を行うほかに、米軍との共同訓練を行っている。

 自衛隊が米軍と共同で訓練を行うことは、自衛隊にとって新たな戦術・戦法の導入及び練度の向上を図る上で有益である。また、このような日米共同訓練を通じて、平素から自衛隊と米軍との戦術面等における相互理解と意思疎通を図っておくことは、わが国に対する武力攻撃が発生した場合に、両者がそれぞれの指揮系統に従って行動することから、有事における日米共同対処行動を円滑に行うために不可欠であり、日米安全保障体制の信頼性及び抑止効果の維持向上に資するものである。

 このような観点から、今後とも、日米共同訓練を機会をとらえて積極的に実施していく方針である。

1 陸上自衛隊

陸上自衛隊は、昭和56年度から共同訓練を開始し、昨年度は、指揮所訓練を2回、実動訓練を3回行った。指揮所訓練においては、日米両国の指揮官、幕僚等が参加し、侵攻部隊に対し、日米両国が共同で対処する場を想定し、図上において相互の調整要領を演練した。実動訓練においては、日米両国実動部隊相互間の連係要領について演練した(資料37参照)。(陸上自衛隊と米海兵隊の共同訓練

2 海上自衛隊

海上自衛隊は、昭和30年度以来、対潜訓練及び掃海訓練を中心とした共同訓練を行ってきた。昨年度は、米国派遣訓練の際にリムパック84に参加したほか、日本周辺の海域において、対潜訓練及び掃海訓練をそれぞれ2回、小規模訓練を1回行った。また、海上自衛隊演習の際、その一部で共同訓練を行ったほか、指揮所訓練を初めて行った。これらの共同訓練を通じて、戦術技量の向上を図るとともに、日米両国部隊相互の基礎的な連係要領を演練した(資料37参照)。(米海軍補給艦から洋上給油中の海上自衛隊護衛艦

3 航空自衛隊

航空自衛隊は、昭和53年度以来、戦闘機戦闘訓練を主に共同訓練を行ってきたほか、指揮所訓練等を日米共同で行っている。昨年度は、戦闘機戦闘訓練を8回、指揮所訓練を1回、救難訓練を1回行った。

また、航空自衛隊総合演習の際に初めて共同訓練を行い、日米部隊相互間の連係要領を演練した(資料37参照)。

なお、沖縄においては、日米両国の部隊が近接しているという地理的特性を利用して、週1回程度の小規模な戦闘機戦闘訓練を実施している。(訓練後の検討を行う日米両国パイロット

 

(注) リムパック(RIMPAC;RIM OF THE PACIFIC EXERCISE)リムパックは、米海軍第3艦隊が計画する総合的な演習であり、外国艦艇等の参加を得て、2年に1回程度の割合で実施されている。リムパック84は、1971年の第1回以来通算9回目である。

(注) このほか、飛来する米空軍のB−52のいわゆるターゲット・サービスを受けて、同機を目標機とする電子戦訓練を、昭和57年8月以来継続的に行っている。

第6節 その他の協力

 以上述べてきたもの以外の日米両国間の協力としては、留学生の交換、自衛隊の米国派遣訓練、隊付訓練などがある。

1 留学生の交換

隊員の外国留学は、外国の新しい知識を導入することにより、自衛隊の近代化及び精強化に資するとともに、国際的感覚と広い視野を備えた幹部を育成する目的で行っているものであり、毎年90人程度(最近5年間の平均)を留学生として外国に送り出しているが、そのうち米国には毎年80人程度を、主として軍の大学及び各職種学校並びに一般大学に派遣している。

他方、外国からの防衛庁の教育機関への留学生は、昭和50年度以降、昨年度末までに累計128人を数えるが、そのうち、米国からは13人にとどまっており、今後の増加が望まれる(資料38参照)。

留学生の交換は、日米両国の相互理解の増進と密接な人間関係を育成する見地からも、極めて有意義なものであると考えられる。(第3−9表 外国留学実績

2 米国派遣訓練

日本に訓練施設がないため行うことができない訓練は、所要の部隊を毎年1〜3か月間米国に派遣し、米国の諸訓練施設を使用して訓練を行うことにより戦術技量の向上を図っている。

また、米国から新装備を導入した際には、所要の人員の初度教育を米国に委託している。最近では、P−3C、F−15、E−2C及びC−130Hの導入に伴い、昭和54年度から昨年度にかけて延べ約500人を米国各地の教育部隊に派遣し、所要の教育訓練を実施した。(米国でのホーク年次射撃訓練)(第3−10表 米国派遣訓練の概要

3 隊付訓練等

陸上自衛隊は、日米相互の戦術・戦法、国民性などの理解を図るため、隊員を米国及び国内の米軍基地に派遣し、また、米軍の中・初級将校を部隊等に受け入れ、相互に訓練・演習等を研修・見学させている。

昨年度は、陸上自衛隊から164人を派遣し、また、米軍から246人 を受け入れた。

隊付訓練は、日米共同訓練及び部隊等における教育訓練の充実に資するとともに、日米間の相互理解の促進と友好親善に寄与するものであり、今後とも規模・内容の充実を図っていく考えである。