第3部

わが国防衛の現状と課題

第1章 国民と防衛

 わが国は、「国防の基本方針」で述べているように、「民生を安定し、愛国心を高揚し、国家の安全を保障するに必要な基盤を確立する」ことを、国の防衛を達成するための大きな柱の一つとしている。

 防衛庁は、これを踏まえ、わが国の防衛は決して自衛隊と日米安全保障体制だけで全うできるものではなく、真にわが国を守ろうとする国民の確固とした防衛意識が基盤になければならないとの認識の下に、民生の安定と国民の防衛に対する理解を求める努力にも配慮しているところである。

 すなわち、防衛庁は、災害派遣などを通じて直接民生の安定に寄与するとともに、わが国の防衛政策や自衛隊の現状に対する理解と認識を深めるための広報活動を始めとする種々の活動を積極的に行うことによって、国民の防衛に対する理解と支持を得ることに努めている。また、全国各地に所在する防衛施設の安定的使用とその周辺地域住民の民生安定との調和を図るため、種々の努力を行っているところである。

 本章では、以上の観点から、国民と防衛との関連に焦点を当てて、国民の防衛意識の現状、災害派遣などを通じての国民と自衛隊との交流、装備品等の調達を通じての国民経済との結びつき及び防衛施設の安定的使用と周辺地域住民の民生安定との調和のための努力について紹介する。

 

(注) 防衛施設自衛隊が使用する施設と日米安全保障条約に基づき在日米軍が使用する施設・区域とを総称する言葉であり、演習場、飛行場、港湾、通信施設、営舎、倉庫、弾薬庫、燃料庫などをいう。

第1節 国民の防衛意識

 安全保障政策に関する国民的合意は、国の平和と安全を保つための基盤であり、防衛に対する国民の理解と支持及び国民の国を守る気概があって初めて国の防衛が全うされる。

 わが国においては、地続きの国境を持たない島国であるという地理的条件、あるいは第2次世界大戦での苦い経験や、戦後の安定した平和を享受していることなどから、国民の間に、防衛問題に対して無関心であったり、拒絶反応を示す向きがあることは否めない。この傾向は、さらに、現代の防衛問題が非軍事的分野の政策と複雑に絡んでいること、国際的な集団安全保障体制とのかかわり合いや、軍事技術の急速な進歩とそれに伴う戦略の変化等、一般の人々の理解を困難とする要因を持っていることなどによって強められているといえよう。

 しかしながら、最近では厳しい国際情勢を反映して、防衛問題を内外の現実に即してとらえようとする傾向が強まってきている。また、国の防衛に関する論議や論調も次第に具体的になり、国民の防衛に対する関心も高まっている。

 防衛庁としては、国民の国を守る気概が防衛を支える柱の一つであるとの認識から、また、わが国の防衛に対する国民の理解と関心を高めるため、国民の防衛意識の動向については、注目しているところである。

1 自衛隊に対する認識

(1) 自衛隊の必要性

昭和56年12月に実施された総理府の「自衛隊・防衛問題に関する世論調査」によれば、82%の国民が「自衛隊はあった方がよい」としており、最近の世論調査においても資料10−1にみられるとおり、国民の多くは自衛隊についてその必要性を認めている。また、最近5回の総理府の世論−調査の傾向は第3−1図のとおりで、自衛隊への支持率は高い水準で推移している。

(2) 自衛隊の役割

自衛隊の任務は、「わが国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、直接侵略及び間接侵略に対し、わが国を防衛することを主たる任務とし、必要に応じ、公共の秩序の維持に当たるものとする」と定められている。これに関する国民の理解度をみると、前述の昭和56年の総理府調査によれば、「自衛隊の設けられた1番の目的」として「国の安全確保」を挙げた者が過半数の60%を占める一方で、自衛隊がこれまでどのようなことで役立ってきたかについては、「災害派遣」とする者が73%と多数を占めたのに対し、「国の安全確保」とする者は9%とl割以下になっている。

しかし、今後、自衛隊がどのような面にカを入れたらよいかについては、「国の安全確保」とする者が最も冬く、最近5回の総理府の調査の結果をみても、この意見ほ逐次増加しでおり、このことは、自衛隊の主たる任務についての国民の理解の高まりを示しているといえよう。(第3−2図 自衛隊が今後力を入れるべき面(傾向)

 2 わが国の防衛に対する考え方

(1) 国際情勢に対する認識

昭和56年12月に総理府が実施した「わが国の平和と安全に関する世論調査」によれば、わが国を取り巻く最近の国際情勢について、「厳しくなってきている」とする者が66%を占め、次いで「以前と変わらない」が10%、「一概に言えない」7%、「改善されてきている」3%となっている。(第3−3図 日本を取り巻く最近の国際情勢の動き

国際情勢が厳しくなってきた原因としては、「世界的な景気停滞・インフレ・失業」が最も多く47%であり、「ソ連の軍備の強化やアフガニスタンへの軍事介入」、「米国の軍備強化」がそれぞれ45%、37%と続き、さらに、「産油地帯を含む中東地域における紛争や対立」が36%となっている(資料10−2参照)。

(2) 戦争に対する不安感及びわが国に対する武力攻撃の可能性

近い将来において、わが国に対して武力攻撃や武力を背景とした政治的圧力が加えられる可能性については、「わが国の平和と安全に関する世論調査」によれば、国民の過半数は程度の差こそあれ、そのような可能性を認識しており、こうした傾向は、例えば米国民に対する同様の調査においてもみられるところである(資料10−3参照)。

(3) わが国の防衛のあり方

わが国の防衛体制のあり方については、「わが国の平和と安全に関する世論調査」によると、「日米安保体制どわが国独自の防衛力による現在の防衛体制を維持する」が60%と過半数を占め、以下「日米安保体制を廃棄し、わが国独自の防衛力に頼る」10%、「日米安保体制及びわが国の防衛力をいずれも廃棄する」6%となっていて、国民の多くは現行の自衛隊と日米安全保障体制による防衛体制を支持している。(第3−4図 わが国の防衛体制のあり方

また、日米安全保障体制についてみると、同体制が日本の平和と安全に役立っているとの肯定的な評価が否定的なそれを上回っており、同時に米国民の多くも、これが米国の安全保障にとって有益であると認識している(資料10−4参照)。 さらに、今後の防衛力のありカについては、「わが国の平和と安全に関する世論調査」によれば、第3−5図にみられるとおり、わが国の防衛力を「現状程度とする」、「強化する」が合わせて76%と多数を占めている。(第3−5図 今後の防衛力のあり方

(4) 国を愛する心

国民一人一人が、国を愛し、自由で平和な国家を守り抜くという気概を持つことが、わが国防衛において大切なことである。昨年12月に総理府が行った「社会意識に関する世論調査」の中に愛国心の項目がある。その調査結果をみると、「国を愛する」という気持が、「非常に強い」、「どちらかといえば強い」を合わせて49%とほば半数を占めているが、

同時に、「どちらともいえない(わからない)」と答えた者の割合も39%の高率を示している。

また、愛国心を育てることの必要性があるか否かについての同調査結果は、次のとおりであり、「そう思う」と答えた者が61%を示している。(第3−6図 国を愛する心

(5) 侵略に対する態度

わが国が不幸にして侵略された場合は、自衛隊を中核にして、国民が一致協力して、外敵に当たることが必要である。このような侵略に対する国民の態度は、昭和56年l2月に実施された総理府の「自衛隊・防衛問題に関する世論調査」によれば、「自衛隊に参加して戦う」、「何らかの方法で自衛隊を支援する」とする者41%、これに、その他の方法でとにかく抵抗するとする者l8%を合わせると、59%の者が抵抗の意志を示している。また、「無抵抗」とする者は12%、「わからない」とする者は28%である。(第3−7図 侵略に対する態度

以上にみられるとおり、国民各層の意見や志向は多岐多様にわたっているが、国民の多くは、自衛隊の存在を肯定し、自衛隊の主たる任務が国の安全確保にあることを認め、また、自衛隊と日米安全保障体制から成るわが国の防衛体制を支持しているといえよう。

国の安全保障・防衛問題は、一般国民生活にはなじみの薄い問題であるが、国家の存立と国民の生存と自由にかかわるものであり、国民的合意が望まれる問題であるだけに、わが国の防衛努力を行う必要性等について、国民がより具体的な判断できるように、今後とも、国の安全保障・防衛問題に対する国民の理解と関心を高めるための着実な努力が必要であるといえる。

第2節 国民と自衛隊

 自衛隊は国民の理解と支持がなければ、その機能を十分に発揮することができず、隊員個人も国民から信頼されているという実感によって初めてその士気も高まり自信をもってその任務を遂行することができることとなる。

 自衛隊は防衛任務のほか、その組織、装備、能力などをいかして災害派遣や部外協力などの多くの活動を行っているが、これらの活動は、民生の安定に寄与するとともに、国民が自衛隊の活動に接する場となり、自衛隊に対する理解を深める一助となっている。

 本節では、災害派遣、部外協力、記念行事など国民と自衛隊との触れ合いの場についてその現状を紹介する。(海難救助中の救難ヘリコプター)(雪山遭難者を救助中の救難ヘリコプター

(1) 災害派遣の実施状況

自衛隊は、暴風、豪雨、豪雪、地震その他の災害に際し、人命又は財産を保護するため、災害派遣を行っている。その具体的作業等は、遭難者及び遭難した船舶、航空機などの捜索救助、水防活動、消防活動、救急患者や緊急救援物資の輸送、給水支援など広範多岐にわたっている。

昭和26年以来本年3月末までの間に自衛隊が行った災害派遣は約1万6千件を数え、作業に従事した隊員は延べ約4百万人に達している。このうち、昨年度1年間に行った災害派遣の内訳及び近年の災害派遣実績は、資料11のとおりである。

昨年度の大規模な災害派遣の例としては、昨年7月の長崎県を中心とする豪雨災害に対するものが挙げられる。昨年7月23日夕刻以降、九州から近畿地方にかけての西日本一帯で、断続的に強い雨が降り、特に、長崎市では同日19時から22時までの3時間に315ミリメートルという記録的な豪雨となった。このため、集中豪雨に見舞われた地域では、各河川がはんらんし、土砂崩れによる家屋の倒壊が相次ぎ、生き埋めや行方不明者が続出した。この長崎県を中心とする豪雨災害に対して、自衛隊は人員延べ約22,700人、車両延ベ約3,500両、航空機延べ241機、艦艇延べ11隻を派遣して、行方不明者の捜索、道路の啓開、物資輸送、給水支援、防疫支援などの災害救援を行った。ちなみに、この一連の災害派遣に出動した部隊に対し、県知事及び市長から36件の感謝状が寄せられている。

また、自衛隊は、本年4月27日の午後、フェーン現象により東北地方を中心に同時多発した山林火災に対して消火活動を行った。特に、へリコプターによる空中からの消火活動は、地上からの接近が困難であり、飛び火により焼損面積が拡大した今回のような大規模な山林火災の消火に対し多大の効果を発揮した。さらに、本年5月26日に発生した日本海中部地震に対しては、自衛隊は被害状汎の把握、行方不明者の捜索、給水支援などを行い、なかでも潜水員(水中処分隊員)による水中捜索活動は津波の犠牲者の捜索に貢献した。

なお、木年1月から2月にかけて、ソ連原子炉衛星コスモス1402号の地上への落下が懸念された際には、自衛隊は関係機関と調整の上、各部隊が災害派遣の要請に迅速に対処し得る態勢などをとったほか、航空自衛隊が、内閣の放射能対策本部の要請に基づきわが国上空の放射能調査のための集じん飛行を行った。

このほか、自衛隊は、主として艦船や航空機の救難のために、一定の数の艦艇、航空機を直ちに発進できる態勢で常時待機させており、このことは、また、離島やへき地などにおける救急患者の輸送などの要請にも即応できる態勢となっている。例えば、沖縄県を始め奄美大島以南の離島においては、航空機による救急患者の輸送を最近5年間では年平均約200件実施しており、医療施設に恵まれない離島における民生の安定に大きな役割を果たしている。

わが国は、台風、地震など自然災害が多く、離島やへき地が多いという環境にあること、工業化や都市過密化の進展などに伴い、災害の態様が複雑かつ冬様化していること、さらに、前述のソ連原子炉衛星の落下のような新たな災害の危険も生じてきていることなどから、自衛隊による災害救援活動は今後ますます重要になると思われ、また、国民のそれにかける期待も大きいと考えられる。一方、隊員の側からみても、これらの活動は、隊員に国民生活の安全に寄与しているという誇りと生きがいを実感させ、それによって隊員と国民との連帯感を強める場となっている。自衛隊は、今後とも国民の期待にこたえ、災害救援を行っていくこととしている。(長崎水害で救援活動中の隊員

(2) 大規模震災への対応

自衛隊の行う大規模震災への対応としては、地震発生前に行う「地震防災派遣」と大規模地震発生時に行う「災害派遣」とがある。

昭和53年12月に施行された「大規模地震対策特別措置法」の規定により、地震発生が差し迫ったと判断される場合は、内閣総理大臣が警戒宣言を発し、自衛隊は地震災害警戒本部長(内閣総理大臣)の要請により、「地震防災派遣」を行うこととしている。この場合の自衛隊の活動は、地震による災害の発生の防止又は軽減を図るためのものであり、地震発生前に措置されるべき地震防災応急対策の一環である。ちなみに、東海地震対処計画では、自衛隊は、関係省庁、地震防災対策強化地域指定県及び関係公共機関と調整の上、へリコプター34機により交通状況、避難状況等の把握及び人員・物資の輸送を行うほか、RF−4E偵察機最大10機程度により都市部上空の撮影及び解析を行うこととなっている。

また、実際に地震災害が発生した場合には、相当規模の人員、装備をもって広域にわたり救援活動を行う必要があるので、通常の災害派遣の特例として、原則的には防衛庁長官の命令により方面総監等の上級の部隊の長が災害派遣を行うものとし、自衛隊の総合力を発揮して救援活動に当たることとしている。

これらに備えて、自衛隊は、毎年「防災週間」に行われる総合防災訓練及び全国各地で行われる防災訓練に参加し、対処能力の向上を図っている。(ヘリコプターによる消化剤散布訓練

2 部外協力

(1) 不発弾、機雷などの危険物の処理

陸上自衛隊は、不発弾などが発見された場合、地方公共団体などの要請を受けて、その処分に当たっている。昨年度においては、約2,900件、約100トンを処分し、累計すると約6万6千件、約3,600トンの膨大な量に達している。今日、沖縄県及び硫黄島には、まだ多量の不発弾が残存しているので、特に沖維においては特別不発弾処理隊(約20%)を編成して処理に当たっており、昨年度の不発弾処理量は約42トンと、日本全国の不発弾処理量の約半分に達している。硫黄島においても、発見される都度、これら不発弾を処理しており、復帰後約34トンを処理した。

一方、機雷の掃海業務については、海上保安庁から保安庁に引き継がれ、さらに、昭和29年に保安庁が防衛庁になるに伴い海上自衛隊がこの業務を行うこととなった。これらの掃海の結果、第2次世界大戦中にわが国近海に敷設された膨大な数の機雷のうち危険海域にある機雷の掃海がおおむね終了し、通常の船舶の航行については危険がない状態になっている。現在では、海上保安庁などからの要請を受けて、その都度、残りの海域の掃海並びに海上における機雷その他爆発性の危険物の除去及び処理を行っている。(資料12参照)

(2) 土木工事など各種事業の受託

自衛隊は、地方公共団体などの長の申出に基づき、その内容が訓練の目的に適合する場合には、道路め建設、学校、公園その他の用地の造成などの土木工事、へき地における医療事業その他の事業を行っている(資料13参照)。

また、自衛隊は、部外者の委託を受けて、任務遂行に支障を生じない限度において、航空機の操縦士や救急に従事する人などの技術者の教育訓練を行っている(資料14、15参照)。(部外工事中の隊員

(3) 運動競技会に対する協力

自衛隊は、関係機関から依頼された場合、任務遂行に支障を生じない限度において、オリンピック競技大会や国民体育大会のような国際的、全国的規模又はこれらに準ずる運動競技会の運営について、式典、通信、輸送、音楽演奏、医療、救急、会場内外の整理などの面で協力している(資料l6参照)。

(4) 南極地域観測に対する協力

自衛隊は、国が行う南極地域における科学的調査に対し、輸送その他の協力を行っている。昭和40年度の第7次南極地域観測以降は、へリコプター搭載の砕氷艦「ふじ」によって、わが国と昭和基地との間における観測隊員、観測器材、基地資材、食糧などの輸送を毎年行ってきたが、「ふじ」の老朽化、観測規模の拡充による輸送物資量の増加などに対応して、新しい砕氷艦「しらせ」が昨年11月12日就役し、「ふじ」は第24次(昭和57年度)南極地域観測協力を最後に、その任務を「しらせ」に引き継ぐこととなった。

この間「ふじ」は、第7次から第24次まで18年間にわたり、南極地域の厳しい自然と闘いながら延べ約36万7千海里(地球約17周分)の大航海を行い、累計約8,740トンの物資と約800人の人員の輸送を行った。また、国内の航海訓練の途中約50か所に寄港して、約146万人に及ぶ見学者に南極観測事業を紹介するなどの広報事業を行ってきた。「ふじ」は、これらの南極観測事業における協力に多大の役割を果たして「しらせ」と交代するが、輸送能力、砕氷能力などの強化された「しらせ」の活躍が期待され、昭和31年に開始された南極観測事業も新しい時代を迎えようとしている。

(5) その他の協力活動

以上のはか、自衛隊は、気象庁の要請により航空機による北海道沿岸海域の海氷観測業務の協力を行っている。この協力は、毎年12月下旬頃から5月中旬頃までの間、海上自衛隊機による洋上観測を主体とし、これに陸上自衛隊機及び航空自衛隊機の沿岸観測を加え、期間中に約40回の海氷観測を行っているもので、この結果は、関係気象官署に速やかに通報ざれ、海氷による各種災害の防止に役立っている。

また、建設省の国土地理院の要請により、地図作成のための航空測量業務に対する協力を行っている。この協力は、年間の航空測量実施計画に従い、海上自衛隊が国土地理院の航空測量員の搭乗する航空測量機の飛行を実施し、陸上自衛隊が写真処理の支援を行うほか、自衛隊の各航空基地が航空測量機に対する基地支援を行うというものである。昭和35年度以来この業務に就役してきたB−65P型航空測量機「くにかぜ」号は、本年10月で、その任務を終え、新しい航空測量機UC−90型機と交代する予定である。

さらに、自衛隊は、前項で紹介した放射能調査のための集じん飛行や、厚生省の硫黄島における戦没者の遺骨収集に対する輸送等の支援など、各種の協力活動を行っている。

3 国民と自衛隊との交流

 自衛隊は、防衛力を真に国民的基盤に立脚したものとするため、国民の信頼にこたえ得る精強な自衛隊の維持、練成を図る一方、自衛隊の現況や防衛政策あるいはわが国の安全保障に関係のある施策、情報などを広く紹介し、自衛隊や防衛問題に対する国民の理解と関心を高めるための各種の広報活動を行っている。

 具体的活動としては、各種印刷物の作成配布、新聞・雑誌への広告及び広報記事の掲載、広報映画の製作上映、音楽隊による演奏会の開催、部隊の見学、各種記念日などにおける部隊の公開、隊内生活体験(体験入隊)、体験航海、体験搭乗などを行っている。また、広く国民一般から意見や要望を聞き、今後の施策に反映させるため防衛モニター制度なども設けている。昨年度の主要な広報活動の実績は第3−1表のとおりであり、これらの活動を通じて自衛隊と交流する国民の数は、年平均延べ約2千方人にも達している。

 オリンビックや万国博覧会などにおいて華麗な飛行で国民に親しまれてきたブルー・インパルスは、老朽化したF−86Fから国産の超音速機T−2に機種更新して、長期にわたる訓練の後、昨年7月松島基地において初の展示飛行を実施し、その後各地の航空祭などで多くの航空ファンを楽しませてきた。しかし、昨年11月浜松基地航空祭において公開演技中の1機が墜落し、パイロットは死亡、市民に負傷者を出し、民家等及び多数の車両に損害を与えるという誠に不幸な事故が発生した。ブルー・インパルスは、航空機の有する性能、特性を極限まで追求する最高度の操縦・戦闘技法を研究し、開発する航空自衛隊の戦技研究班の愛称であり、その日頃の研究成果の一端を、主として安全性、付随的には展示効果を考慮して再構成し、各基地航空祭などに際して広く一般に公開してきたものである。しかし、今般の事故の発生にかんがみ、展示公開のあり方については、これまで以上の万全の安全確保体制を図るべく見直し、検討を進めているところである。

 また、自衛隊記念日の儀式の一つとして、毎年観閲式が行われているが、昨年は10月31日に朝霞において、隊員約5,300人、戦車などの車両約300両及び航空機62機が参加して行われた。一般の見学者は、約3万5千人であった。これは、自衛隊の最高指揮官である内閣総理大臣が部隊を観閲して隊員の士気を高揚するとともに、自衛隊の装備及び訓練の成果を広く国民に披露するために行われているものである。(部隊公開を通じての国民との交流)(観閲式(婦人自衛官の観閲行進)

第3節 装備品等の調達と防衛生産

 わが国の産業は、自由世界第2位の経済力を支え、先端技術に挑戦する活力のある優れた工業力を有している。

 自衛隊は、その装備を自ら製造する能力を保有しておらず、主として民間の工業力を活用して装備の取得、維持を図ることとしており、その意味で、わが国の防衛力の物的側面における整備は、基本的にはわが国の産業の力を基盤としているといえよう。そして、防衛庁の調達する装備品等は、一般の事務用品のようなものから1隻数百億円もする艦艇まで各種にわたり、その供給源もほとんどあらゆる分野の産業に及んでいる。

 本節では、防衛力を構成する主要な一要素としての装備品等がどのような考え方で取得されているか、また、その過程が国民経済とどのように結びついているかを紹介する。

1 装備品等の調達

(1) 特色

防衛庁の行う装備品等の調達は、自衛隊の防衛力の物的側面を、国の財政資金によって整えていく行為である。装備品等の調達に際しては、安定した装備品等の供給、維持を可能とする生産基盤として、また、優れた技術・研究開発基盤として、わが国産業の有する優れたカを活用していくという視点や、米国を始めとする西側諸国の進んだ技術的成果を取り入れていくという視点などから様々な検討を加え、最適な取得方法を選択しなければならない。

装備品等のうちでも一般の市販品で足りるものについては市販品を調達しているが、戦車、戦闘機といった主要正面装備はもとより、通信機器などのように類似品が市販されているものであっても、自衛隊の行動時の厳しい環境、激しい使用などに耐える性能を満たすものが市販品に見いだせない場合が多いことから、これらの調達に当たっては自衛隊用のものとして特別に発注することとなる。

近年の科学技術の進歩による装備体系の高性能化、複雑化には著しいものがあり、このようなすう勢に対応した有効な装備を自ら整えるためには、その生産に先立ち、技術研究開発を行うことが必要不可欠であり、また、長期間使用していくものについては、その過程で所要の改良を行うことについても配慮していくことが必要である。装備体系の高性能化、複雑化は、また、生産設備の巨大化、生産工程の複雑化などをもたらし、これらがあいまって、生産技術の改良進歩などによるコストダウンにもかかわらず、一般的すう勢として、現代の装備が高価格なもの‘となる傾向は否めないところとなっている。

(2) 取得方式

ア このような装備品等の調達の特色を踏まえ、防衛庁が具体的な装備品等を取得する際、どのような方式があるか、また、最も適切な方式を選択するためどのような考え方をとっているかを述べる。

(ア) 装備品等の取得を国内生産に求める場合には、品質管理面などを始めとして優れたわが国企業の生産技術を活用できるほか、部品の補給、修理技術などの面から、長期にわたるその維持管理が容易であるという長所がある。また、このことは、多額の設備投資、技術者の確保などに資し、一朝一夕には築くことのできない生産基盤や技術力を維持・育成していくという効果もある。他方、需要が自衛隊に限られ生産数量が少ない場合には、生産設備費などの固定費の負担が大きく、一般に割高となる。

製造に高度な技術力を要する装備品等を国内で生産することを可能とする方法としては、大別して国内での研究開発を経て企業が製造する場合と、わが国の企業が外国企業等に工業所有権、ノウハウなどの提供の対価を支払って、外国で開発された当該製品に係る技術を導入し、これに基づいてわが国で製造を行うライセンス生産の場合とがある。

前者の場合は、わが国の地勢、国情に最適な装備の取得が可能であるとともに、装備後は、技術進歩に即して所要の改良改善を行い得る。また、わが国技術力の向上への貢献の面でも、ライセンス生産の場合に比べて、より幅広い効果を期待できる。他力、研究開発には相当の期間を要するため、長期的な見通しをもって計画的に研究開発を進めていなければ、必要な時期に装備の取得ができないこともあるので、防衛力の質的水準の維持向上に資するための研究開発態勢の充実が必要となる。

後者の場合は、外国から製造技術を導入し、自ら研究開発を行わないので、比較的短期間のうちに国内に生産体制を築くことができ、外国の技術の吸収にも資する効果がある。しかし、当該外国において、より大量に生産された同様のものを安価に輸入できる場合もあるので、ライセンス生産を行う場合は、完成品を輸入する場合と対比し、その効果の程度を見定める必要がある。なお、外国との関係であるから、技術によっては導入が不可能ないし困難な場合もある。

(イ) 装備品等の取得に当たり完成品を輸入する場合は、比較的早期に入手することができ、また、量産効果が期待できるものについては割安となる。他方、価格面及び装備の維持管理面については、生産国における事情に左右されることを避けられず、また、装備導入後、運用実績を踏まえて装備の改良等を行うことが困難となる。

 

以上述べたように、個々の装備品等の調達に当たっては、その装備品等がわが国の防衛所要に適合することを前提に、国産、ライセンス生産又は輸入のそれぞれの長所、短所を十分に勘案し、わが国産業の優れた生産・開発基盤を活用しながら、最も効率的かつ経済的な取得に努めているところである。

イ 装備品等の調達額に占める国内調達額の割合をみると、第4次防衛力整備計画期間中は平均93%であったが、昭和53年度以降は、F−15DJ、E−2Cなど新規の大型装備の導入を輸入によったため、cc%台で推移している(資料18参照)。

また、国内開発したもの、ライセンス生産中のもの及び輸入しているもののうち主な装備品等は、それぞれ第3−2表第3−3表第3−4表に示すとおりである。

 

 (注)輸入(FMS・一般輸入):第3章第3節参照

ウ なお、以上のほか、陸・海・空各自衛隊が同様の装備品等を必要とする場合には、可能な限り標準品目を指定してこれを共通して使用することとしている。また、電子部品、機械部品等についても標準品目を定め、装備品等の製造に当たって、これら指定された部品を使用して部品の互換性を高めるなど、効率的、経済的な調達のため、きめ細かな努力も行っている。(F−15J 要撃戦闘機の組立て

2 防衛生産とわが国産業

(1) 防衛生産の地位

防衛庁の国内調達額と特需額の合計を防衛生産額としてとらえ、これを工業生産額と対比すれば、前者の後者に対する比率は、近年一貫して0.4%程度で推移してきている(資料19参照)。この比率は、昭和56年度において、パン製造業や自動車タイヤ・チューブ製造業が工業生産額に占めている割合とほぼ等しい値である。防衛庁の装備品等は、先にみたように、いわゆる「軍需産業」の「兵器」のイメージに該当しない一般の市販品をも含んだものであることや統計その他の面での困難など、対比する上で考慮を要する点ほ多いが、この比率は防衛関係費の対GNP比率同様、防衛分野の国民経済全体における地位を示す一つの指標として理解することができよう。

次に、品目別に防衛生産額と工業生産額との関係をみると、第3−5表のように、武器弾薬関係は、防衛庁向けがほとんどを占めているほか、航空機関係についても、YS−l1の製造が行われていた昭和40年代前半を除き、防衛庁向けが約8割を占めてきている。造船関係では、わが国造船工業の規模が大きいため、防衛庁の調達額は1〜2%台という小さな比率で推移してきた。ただし、近年の造船不況により、この比率の上昇がみられる。

(2) 防衛生産の担い手

防衛庁の調達は、装備品等のうち主要なもの、制服など大量に購入するもの、その他調達の一元化が必要又は有利なものについては、調達実施本部において実施され(「中央調達」)、糧食その他現地調達が適当なもの、部隊運用に密接な関連のある修理役務、少額の需品等は、各部隊、機関で実施されている。

防衛庁の「中央調達」の契約相手方となるため、会計法令に基づき資格審査を受け、有資格者として調達実施本部に登録されている企業の数は、毎年度2,000社を超えている。そのうち、実際に受注した企業の数は800社を超えており、そのおおむね半数は中小企業である。

中小企業の受注については、「官公需についての中小企業者の受注の確保に関する法律」に基づき、毎年度閣議決定される中小企業者に関する国等の契約の方針に沿って、予算の適正な使用に留意しつつ、中小企業の受注機会の増大を図るよう積極的に努力しているところである。

「中央調達」においては、戦車、艦艇、航空機等の大型装備が金額的に大きな割合を占めているため、第3−6表に示すように、これらを受注している比較的少数の企業の受注額が調達総額に占めている割合は高いが、このような大型装備にあっては、主契約者たる企業の下に多くの下請企業や納入企業が参加しているところである。なお、受注額の上位の企業にあっては、防衛生産以外の売上高も大きく、防衛庁の調達への依存度は高くない(資料20参照)。(自衛隊員用冬シャツの縫製風景

 

(注) 装備品等防衛庁設置法第5条第4号に定める「所掌事務の遂行に直接必要な装備品、船舶、航空機及び食糧その他の需品」をいう。したがって、施設の取得、維持に係ることは含まれない。

(注) 中小企業:「官公需についての中小企業者の受注の確保に関する法律」において、原則として、工業等にあっては資本の額が1億円以下の会社又は従業員の数が300人以下の会社若しくは個人をいい、業種の実態に応じて、その範囲が政令で定められている。

 

第4節 防衛施設の安定的使用のための努力

 自衛隊が使用する飛行場、港湾、演習場、通信所などの施設は、防衛力発揮の基盤であり、平時においては教育訓練及び定められた任務を行う拠点となり、有事には防衛活動の拠点となるものである。また、わが国は、日米安全保障条約に基づき米国に施設・区域を提供しているが、その施設・区域は、在日米軍の活動の拠点となるものであり、その安定的な使用は、日米安全保障体制を維持し、信頼性を高めるための必要不可欠な要素となっている。

 このように、防衛施設は、わが国の防衛に欠くことのできないものであり、その機能を十分に発揮するためには、周辺住民の理解と協力が得られ、常に安定して使用できる状態に維持されることが必要である。このため、防衛庁は、防衛施設の設置や運用に当たっては、その地域の特性に十分配慮するとともに、周辺住民の生活の安定と福祉の向上に寄与する施策を講じ、防衛施設の機能の維持と周辺地域の民生の安定との調和を保つように種々の努力をしている。

 本節では、防衛施設の現状とそれをめぐる諸問題、さらにはその解決のために防衛庁が実施している施策について紹介する。

1 防衛施設の現状

 自衛隊が使用している施設と在日米軍が使用している施設・区域とを合わせた防衛施設全体の土地面積は約1,367であり、国土面積の約0.36%に相当する。

(1) 自衛隊の施設

自衛隊の施設の土地面積は約1,031で、その地域的な分布状況は第3−8図のとおりであり、その半分近くが北海道地方に所在している。これは、同地力に別海矢臼別、北海道(島松、恵庭地区等)、上富良野などの演習場が多いためである。

これらの土地の約90%は国有地で、他は民公有地である。また、これらの施設の用途別の使用状況は第3−9図に示すとおりであり、土地面積で、演習場及び飛行場が合わせて約84%を占めている。

(2) 在日米軍の施設・区域

在日米軍の施設・区域の土地面積は約572で、その地域的な分布状況は第3−10図のとおりである。

これらの土地の約54%は国有地で、他は民公有地である。また、これらの施設・区域の用途別の使用状況は第3−11図に示すとおりであり、土地面積で、演習場及び飛行場が合わせて約83%を占めている。

なお、在日米軍の施設・区域の土地面積には、自衛隊の施設を一時使用しているもの約235を含んでおり、その主な施設・区域としては富士演習場、厚木飛行場があり、昨年度は、小松飛行場、北海道・千歳演習場などが日米共同使用の施設になった結果、在日米軍の施設・区域の件数及び土地面積は増加した。

さらに、在日米軍の施設・区域には、前述の施設・区域のほか、訓練等のための水域41か所(うち11か所は空域も使用)がある。

2 防衛施設をめぐる諸問題

 防衛施設の設置や運用をめぐって生じる問題は多種多様である。この問題を発生原因により分析すると、まず、防衛施設又はその運用の特殊性が挙げられる。防衛施設には、飛行場や演習場のように、もともと広大な面積の土地を必要とするものがあり、さらに、航空機の頻繁な離着陸や射爆撃、火砲による射撃、戦車の走行など、その運用によって、周辺地域の生活環境に影響を及ぼすものがある。このように防衛施設の設置や運用に当たっては、周辺地域における生活環境をいかにして保全するかという問題が生ずることが多い。なかでも、最も大きなものが航空機騒音問題である。

 次に、わが国の特殊な地理的条件が挙げられる。わが国は、世界の主要国に比べ人口密度は最高の部類に属し、しかも比較的急峻な山岳地帯が多く、国土全体から森林、原野、水面などを差し引いた可住地面積の国土面積に占める割合は、21%しかないという地理的条件にある。このため、狭い平野部に都市や諸産業と防衛施設とが競合して存在し、防衛施設の側からみるとその設置や運用が制約され、都市開発その他の地域開発の側からみると防衛施設の存在や運用が支障となるという問題が生じている。特に、経済発展の過程において多くの防衛施設の周辺地域の都市化が進んだ結果、問題がよりー層深刻化している。

 このほか、防衛施設をめぐる諸問題の発生原因としては、防衛施設用地の所有者などや訓練水域に利害関係を有する者による生活又は生産基盤の確保の要求、イデオロギー闘争としての基地反対又は撒去の要求など様々なものがある。

 そこで防衛庁としては、このような防衛施設をめぐる諸問題の解決を図るため、従来から、一方では国の防衛の必要性なり、防衛施設の必要性なりについて国民の理解を求めるとともに、他方においては、防衛施設周辺の生活環境の整備、防衛施設の整理統合など、防衛施設と周辺地域との調和を図ることに努力しているところである。

3 防衛施設と周辺地域との調和のための努力

(1) 防衛施設周辺地域の生活環境等の整備

防衛庁は、防衛施設と周辺地域との調和を図るために、「防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律」(昭和49年制定)に基づく施策を中心に次のような各種の施策を行っている。

ア 障害防止工事の助成

自衛隊や在日米軍は、その任務達成のため演習場や飛行場などの防衛施設を使用して演習、訓練などを実施しているが、このような際に、例えば、戦車その他の機甲車両などの頻繁な使用によって道路の損傷が早まったり、射撃訓練などによる演習場内の荒廃によって、当該地域の保水力が減退したり、付近の河川に洪水が生じやすくなったり、あるいは航空機騒音などによって学校教育や病院の診療に迷惑がかかったりすることがある。

このような場合に、地方公共団体などが、障害を防止し、あるいは軽減するために行う道路や河川の改修、ダムの建設、砂防設備の整備、学校や病院の防音工事といった障害防止のための工事に対し、国はその工事に要する費用を補助することとしている。

この障害防止工事の助成については、自衛隊や在日米軍の活動がその任務遂行上不可欠ではあるものの、そこから生じる障害を特定の人々にのみ負担させることは不公平であり、また、学校教育に支障を招いたり、病弱者保護に欠けるというようなことがあってはならないとの考え方からこれを実施しているものである。(障害防止工事の例(ダムの建設)

イ 飛行場等周辺の航空機騒音対策

航空機による騒音の防止対策として、防衛庁は、従来から消音装置の設置などによる音源対策や早朝・夜間における飛行の自粛などの飛行時間の規制、人家密集地をできるだけ避けた飛行経路の設定、飛行高度の規制などの運航対策にも努めており、それ相応の効果をあげているところである。しかしながら、航空機騒音の完全な消去は困難であり、また、夜間飛行練度の維持や地形上からくる航行の安全性を考慮した場合、これらの運航対策にはおのずから限界がある。

このため、防衛庁としてはこれらの対策と並行して、学校、病院などの防音工事に対する助成措置のほか、周辺地域の生活環境の整備を積極的に進めることとしている。すなわち、飛行場及び航空機による射爆撃が実施される演習場の周辺について、航空機の音響に起因する障害の度合いを基準として、第3−12図に示すように、外側から第1種区域、第2種区域及び第3種区域をそれぞれ指定し、第1種区域内に所在する住宅については防音工事の助成を行い、第2種区域内から外に移転する者に対しては移転補償と一定の土地の買入れを行うとともに、移転先地において、道路、水道、排水施設などの公共施設を地方公共団体などが整備する場合には、その整備に関し、助成の措置をとることとしている。

さらに、第3種区域については、住宅が建つことなどによって騒音障害が新たに発生することを未然に防止するため、この区域をこれら防衛施設と市民生活の場とを隔離する緩衝地帯にすることが適切であるので、緑地帯などの緩衝地帯として整備されるよう措置することとしている。

また、前述の国が買い入れた土地を、地方公共団体が広場や駐車場などにする場合は、無償で使用させることができることとなっている。(消音装置(ジェット機の整備中における試運転時の騒音を低減する装置))(住宅の防音工事の例(施行前))(住宅の防音工事の例(施行後)

ウ 民生安定施設の助成

民生安定施設の助成は、前述の障害防止工事に対する助成のような自衛隊や在日米軍の特有の行為による障害の防止又ほ軽減措置に対する助成に限らず、防衛施設の設置や運用の結果として周辺住民の生活や事業活動が阻害されると認められる場合において、地力公共団体が、その障害の緩和に資するため、生活環境施設や事業経営の安定に寄与する施設を整備する際には、国がその費用の一部を補助しようとするものである。

このような事例を幾つか挙げてみると、次のような場合があり、助成の内容は多岐にわたっている。

 燃料や火薬を取り扱う施設の周辺市町村が、消防施設を強化、整備する場合

 演習場内の荒廃により、周辺住民が使用してきた湧水や流水が減少したため、市町村が水道の設置などを行う場合

 航空機騒音のある地域で、児童の下校後の学習、青少年及び成人

 に対する社会教育あるいは集会を静かな環境下で行えるようにするため、市町村が学習、集会などのための施設を設置する場合

エ 特定防衛施設周辺整備調整交付金の交付

ジェット機が離着陸する飛行場、砲撃や射爆撃が行われる演習場、港湾などの防衛施設には、その設置や運用が周辺地域の生活環境や開発に著しい影響を及ぼしているものがある。このため、関係市町村が、公共用施設の整備に他の市町村に比べ特段の努力を余儀なくされているような場合がある。内閣総理大臣は、このような防衛施設及び関係市町村をそれぞれ「特定防衛施設」及び「特定防衛施設関連市町村」として指定することができる。国はこれらの市町村に対して公共用施設(交通施設、医療施設、教育文化施設など)の整備に充てる費用として、特定防衛施設の面積、運用の態様などを基礎として算定した交付金を交付し、いわば町づくりに側面から協力することとしている。

オ その他の施策

以上の各種施策のほか、次のような施策を実施することとしている。

 障害防止工事や民生安定施設の整備を行う地方公共団体に対する資金の融通やあっせん

 障害防止工事、民生安定施設又は前述の交付金をもって整備する公共用の施設の用に供するための地方公共団体等に対する国の普通財産の譲渡や貸付け

 航空機の頻繁な離着陸その他の行為により、農業、林業、漁業などを営む者に事業経営上の損失を与えた場合における当該損失の補償

以上に述べた防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する主な施策の昨年度における実施状況は、第3−7表に示すとおりである。

(2) 在日米軍の施設・区域の整理統合

在日米軍の施設・区域の整理統合については、国内の経済発展などによる地方公共団体や各種団体の種々の要請を考慮しつつ、従来から絶えず日米間において協議し、その結果、第3−8表に掲げる計画に沿って、鋭意その実現に努め、成果をあげているところである。

なお、沖縄県にある施設・区域が沖縄県の面積に占める割合は、沖縄県以外のそれに比べて高く、その多くが沖縄本島中南部に集中しているので、これらの在日米軍施設・区域の整理統合を重点的に実施しているところである。

(3) 以上の諸施策に要する経費(生活環境の整備のための諸施策に要する経費、在日米軍の施設・区域の整理統合に要する経費及び各種の補償などに要する経費)並びに在日米軍の駐留を円滑にするための提供施設の整備に要する経費、さらには在日米軍の日本人従業員の福祉対策、離職者対策及び従業員対策に要する経費を含めた、いわゆる基地対策経費についてみると、本年度予算においては約2,747億円となっている。また、最近5年間における基地対策経費の防衛関係予算に占める割合は約10%となっており、これら予算の推移は第3−13図のとおりである。

なお、以上のはか、在日米軍の施設・区域の整理統合に要する経費として、本年度予算において約26億円が特別会計に計上されている。

第2章 自衛隊の現状と防衛力整備

第1節 防衛庁・自衛隊の組織・編成等

1 防衛庁・自衛隊の組織

 防衛庁と自衛隊は、共に同一の防衛行政組織であるが、防衛庁は、国家行政組織法に基づき総理府の外局として設置される行政組織という点に着目して、いわば静的にこれをとらえたものであるのに対し、自衛隊は、部隊行動を行う実力組織という点に着目して、いわば動的にこれをとらえたものであるといえよう。このように、自衛隊は、実力組織という点に着目してとらえられているので、自衛隊離職者就職審査会や防衛施設庁の一部は、自衛隊の組織には含まれていない。

 防衛庁・自衛隊の組織は、第3−14図のとおりである。

 防衛庁の長は、防衛庁長官(長官)であり、国務大臣をもって充てられる。長官は、内閣総理大臣の指揮監督を受け、自衛隊の隊務を統括する。長官の下には、他の省庁と同様、政務次官及び事務次官が置かれている。政務次官は、長官を助け、政策及び企画に参画し、政務を処理し、並びにあらかじめ命を受けて長官不在の場合その職務を代行するものである。事務次官は、長官を助け、庁務を整理し、各部局及び機関の事務を監督するものである。このほかに、防衛庁の所掌事務に関する基本的方針の策定について長官を補佐するためいわゆる文官である参事官(10人以内)が置かれている。

 上記のほか、防衛庁には、防衛庁本庁(内部部局、陸・海・空各幕僚監部、統合幕僚会議、附属機関並びに本節第2項で説明する陸・海・空各自衛隊の部隊及び機関から成る)及び防衛施設庁が置かれている。

(1) 防衛庁本庁

ア 内部部局

内部部局には、長官官房のほか、防衛局、人事教育局、衛生局、経理局及び装備局の5局が置かれ、自衛隊の業務の基本的な事項をその所管に応じて担当することとなっており、それぞれの部局の事務を掌理する官房長及び局長は参事官をもって充てることとされている。

イ 幕僚監部

陸・海・空各幕僚監部は、各自衛隊のそれぞれの隊務に関する長官の幕僚機関であり、その長である各幕僚長は、自衛官をもって充てられる。各幕僚長は、各自衛隊のそれぞれの隊務に関する最高の専門的助言者として長官を補佐する。

ウ 統合幕僚会議

統合幕僚会議は、議長及び陸・海・空各幕僚長をもって組織される。統合幕僚会議の会務を総理する議長は、自衛官をもって充てられ、自衛官の最上位にあるものとされている。統合幕僚会議は、統合防衛計画の作成、幕僚監部の作成する防衛計画の調整等について長官を補佐する。

エ 附属機関

(ア) 防衛研修所

防衛研修所は、自衛隊の管理及び運営に関する基本的な調査研究を行うとともに、幹部自衛官その他の幹部職員の教育訓練を行う機関である。

(イ) 防衛大学校

防衛大学校は、幹部自衛官となるべき者を教育訓練する機関であり、昭和27年8月に設置されて以来、本年3月までに約1万2千人の卒業生を送り出している。

(ウ) 防衛医科大学校

防衛医科大学校は、医師である幹部自衛官となるべき者を教育訓練する機関であり、昭和48年11月に設置されて以来、本年3月までに270人の卒業生を送り出している。

(エ)技術研究本部

技術研究本部は、自衛隊の任務遂行に必要な装備品等に関する研究開発を行う機関であり、戦車、艦船、航空機等の各種の装備品竿について研究開発を行っている。

(オ) 調達実施本部

調達実施本部は、自衛隊の任務遂行に必要な装備品等及び役務の調達を行う機関であり、昨年度には総額1兆1,283億円にのばる装備品等の調達を行っている。

(カ) 自衛隊離職者就職審査会

自衛隊離職者就職審査会は、隊員が離職後において、在職中の職務と密接な関係にある私企業の役員等に就職する場合に必要とされる長官の承認の公正を期するため、学識経験者等5人の委員によりその承認の可否について審査を行う機関である。

(2) 防衛施設庁

防衛施設庁は、防衛庁に置かれる国の行政機関であり、自衛隊の施設の取得及びこれに関する事務、建設工事の実施並びに自衛隊の施設に供される行政財産の管理を行うとともに、条約に基づく外国軍隊の駐留に伴う事務で他の行政機関の所掌に属しないもの(施設及び区域の提供、在日米軍等に勤務する日本人従業員の雇用、在日米軍の行為等により生ずる損害の賠償等)を行うことを任務としている。

なお、防衛施設庁に、附属機関として防衛施設中央審議会を置くほか、その所掌事務の一部を分掌させるため、地方支分部局として防衛施設局を置いている。

(3) 自衛隊に対する指揮監督等

ア 自衛隊に対する指揮監督

(ア) 内閣総理大臣は、内閣を代表して自衛隊の最高の指揮監督権を有する。このことは、内閣総理大臣が内閣を代表して行政各部を指揮監督するという憲法上の規定に根拠を置き、自衛隊法の規定するところである。

(イ) 長官は、内閣総理大臣の指揮監督を受け、自衛隊の隊務を統括する。この場合において、陸上幕僚長、海上幕僚長又は航空幕僚長の監督を受ける部隊及び機関に対する指揮監督は、それぞれ当該幕僚長を通じて行う。(防衛大学校卒業式における総理大臣訓示

(ウ) 陸・海・空各幕僚長ほ、長官の指揮監督を受け、それぞれ陸・海空各自衛隊の隊務及び所部の隊員の服務を監督し、また、それぞれの部隊及び機関に対する長官の命令を執行する。

(エ) 防衛出動及び治安出動を行う際、特別に編成された部隊で、陸・海・空各自衛隊のいずれか2以上から成る部隊についての長官の指揮は、統合幕僚会議の議長を通じて行い、この部隊に関する長官の命令は、統合幕僚会議の議長が執行する。

イ 官房長及び局長と幕僚長及び統合幕僚会議との関係

官房長及び各局長は、各々その所掌事務に関し、次の各事項について長官を補佐するものとされている。

 陸・海・空各自衛隊に関する事項に関する各般のガ針及び基本的な実施計画の作成について長官の行う幕僚長に対する指示

 陸・海・空各自衛隊に関する事項に関してそれぞれの幕僚長の作成した方針及び基本的な実施計画について長官の行う承認

 統合幕僚会議の所掌する事項について長官の行う指示又は承認

 陸・海・空各自衛隊に関し長官の行う一般的監督

2 陸・海・空各自衛隊の編成

(1) 陸上自衛隊の編成

陸上自衛隊は、第3−15図のように編成されている。

ア 主要部隊の編成と役割

(ア) 方面隊は、担当する力面の防衛に当たる部隊であり、2〜4個の師団、特科団(又は特科群)、高射特科団(又は高射特科群)、施設団及び教育団(又は教育連隊)を基幹として編成されている。

(イ) 師団は、陸上戦闘に必要な各種の機能を備え、一定の期間独立して戦闘行動を行うことができる基本的な作戦部隊として位置づけられるものであり、外国の歩兵に当たる普通科を主体とした師団を12個と戦車部隊を主体とした機甲師団(第7師団)1個の計13個師団を有している。また、普通科を主体とした師団ほ、編成人員約9,000のものと約7,000のものと2種類に分けられる。これらの師団ほ、一般的に第3−16図及び第3−17図のように編成されている。

なお、混成団は、師団より小型ではあるが、師団と同様に各種の陸上戦闘機能を持つ部隊で、外国の旅団に相当するものである。

(ウ) 機甲師団、特科団、空挺団、教導団及びへリコブタ−団は、主として機動的に運用する部隊であり、各1個戦術単位を保有している。

機甲師団は、戦車部隊を主体として編成され、その火力及び機動力によって主として機動打撃に任ずるものである。

特科団は、各種の野戦砲(155mmりゅう弾砲、155mm加農砲、203mmりゅう弾砲など)及びロケット弾発射機を装備し、師団等の全般的な地上火力支援に当たる部隊である。

空挺団は、空中機動により重要正面に不意急襲的に降下するなど各種の空挺作戦を遂行し、地上部隊と協力し又は独力で敵の撃破ないし地域の確保等を行う部隊である。

教導団は、平時は富士学校で学生の教育及び研究支援に従事するが、保有する各種の機能の均衡がとれており、有事の際は重要正面の地上戦闘に充当される部隊である。

へリコプター団は、輸送へリコプターを装備し、普通科連隊等の戦闘部隊の空中機動及び補給品等の航空輸送に当たる部隊である。

(エ) 高射特科群は、地対空ミサイルホークを装備し、低空域防空に当たる部隊であり、8個高射群を保有している。

イ 主要部隊の配置と警備区域

(ア) 陸上自衛隊は、全国を第3−18図に示すような警備区域に区分し、方面隊を配置している。

(イ) 各方面隊の警備区域は、地域の広狭その他の特性に応じて、2〜4個の警備地区に区分し、師団又は混成団を配置している。

 (2) 海上自衛隊の編成

海上自衛隊は、第3−19図のように編成されている。

ア 主要部隊の編成と役割

(ア) 自衛艦隊は、機動的運用によってわが国周辺海域において防衛に当たる部隊であり、対潜水上艦艇から成る護衛艦隊、固定翼対潜機及び回転翼対潜機を主体とした航空集団、潜水艦を主体とした潜水艦隊、掃海艇を主体とした掃海隊群並びに開発指導隊群を基幹として、第3−20図のように編成されている。

(イ) 地方隊は、自衛艦隊と密接に連係しながら、担当海域の防衛に当たるとともに、自衛艦隊を含む部隊等の後方支援を実施する部隊であり、第3−21図のように編成されている。

(ウ) 海上自衛隊における主要部隊としては、対潜水上艦艇部隊が、自衛艦隊に4個護衛隊群、地方隊に10個隊ある。また、固定翼対潜機又は回転翼対潜機から成る陸上対潜機部隊として航空隊が自衛艦隊及び地方隊を通じて15個隊あり、潜水艦部隊が自衛艦隊に6個隊、掃海部隊が自衛艦隊に2個掃海隊群ある。

イ 主要部隊の配置と警備区域

海上自衛隊は、わが国沿岸海域を地理的特性に応じ第3−22図に示すように区分し、地方隊を配置している。

(3) 航空自衛隊の編成

航空自衛隊は、第3−23図のように編成されている。

ア 主要部隊の編成と役割

(ア) 航空総隊は、主として空において、わが国を防衛するための航空作戦を実施する部隊であり、3個の航空力面隊及びl個の航空混成団を基幹として第3−24図のように編成されている。

航空方面隊は、担当する防衛区域の防衛に当たる部隊であり、戦闘機をもって要撃戦闘及び支援戦闘に当たる航空団、周辺空域の警戒監視及び要撃管制に当たる航空警戒管制団並びに地対空ミサイルをもって要撃戦闘に当たる高射群を基幹として編成されている。

航空混成団は、航空方面隊に準じて編成されている。

(イ) 航空自衛隊における主要部隊としては、航空総隊に要撃戦闘機部隊が10個飛行隊、支援戦闘機部隊が3個飛行隊、固定レーダーを装備した航空警戒管制部隊が28個警戒群、地対空ミサイルナイキJを装備した高空域防空用地対空誘導弾部隊が6個高射群及びRF−4Eを装備した航空偵察部隊が1個飛行隊ある。

また、航空輸送に当たる輸送航空団にC−1を主体とした航空輸送部隊が3個飛行隊ある。

イ 主要部隊の配置と防衛区域

航空自衛隊は、わが国とその周辺空域を第3−25図に示すような防衛区域に区分し、航空方面隊又は航空混成団を配置している。

(4) 陸・海・空各自衛隊の機関

陸・海・空各自衛隊には、部隊の活動を維持、支援するために学校、補給処、病院等の機関が置かれている。なお、陸・海・空各自衛隊の共同機関として自衛隊体育学校自衛隊中央病院及び自衛隊地方連絡部が置かれている。

(注) 地方隊における対潜水上艦艇部隊としては、護衛隊及び駆潜隊がある。

(注) 自衛隊体育学校隊員の体育指導に必要な知識及び技能を修得させるための教育訓練並びに体育に関する調査研究を行う。

自衛隊中央病院隊員等の診療、診療に従事する隊員の専門技術に関する訓練及び看護に従事する隊員の養成並びに医療その他の衛生に関する調査研究を行う。

自衛隊地方連絡部自衛官の募集、募集に伴う広報、予備自衛官の人事・人事記録・招集等の業務、離職した自衛官に対する援護業務等を行う。

第2節 防衛の現状

 わが国は、「国防の基本方針」に基づき、これまで4次にわたる防衛力整備計画を経て、昭和52年度以降は、「大綱」に従い防衛力の整備を進め、逐次その充実を図っている。

 本節では、第2部第2章第4節で述べた保有すべき防衛能力を踏まえ、わが国の防衛の現状について述べる。

1 防衛力の現状

(1) 防空能力

わが国領域及び周辺海空域における航空機等による攻撃に対処するに必要な各種の能力のうち、ここでは防空作戦能力及び基地等の防空能力の現状について述べる。なお、地上において行動する部隊等の対空火力の現状は着上陸侵攻対処能力の項で、洋上における防空能力の現状は海上交通保護能力の項でそれぞれ述べる。

ア 防空作戦能力

近年における航空技術の進歩は著しく、速度、上昇力、航続距離、運動性及び加速性といった飛行性能やレーダー、航法装置及び電子戦装置などの搭載電子機器の性能向上に加え、空対空ミサイル(AAM)や空対地ミサイル(ASM)などの装備により、その戦闘能力も大きく向上している。このような能力は、防空作戦の耳目であるレーダーサイト等に対する電波妨害を併用しつつ行う低高度及び高々度高速の侵入や遠距離からのASM攻撃など多様な侵攻を可能にしている。

このため、自衛隊は、防空レーダー網、要撃機及び地対空ミサイル(SAM) を自動警戒管制組織(バッジシステム)と連接し、航空侵攻に対し、迅速かつ効果的に対処できるようシステム化された防空態勢の整備に努めている。

侵攻機を早期に発見するため、わが国全周にわたって間隙の生じない防空レーダー網が必要であり、航空自衛隊は、わが国のほぼ全空域を常続的に監視できるよう全国28か所に固定レーダーサイトを設置している。しかし、電波は直進するという特性を有しているのに対し、地球表面がわん曲しているなどのため、地上レーダーのみでは、地上レーダーの見通し線より下の低空からの侵攻機を早期に発見することは困難である。この地上レーダーの欠点を補完するため、低高度侵入機を早期に発見できる早期警戒機による警戒飛行部隊の建設を推進中である。また、地上レーダーは、装備後20年以上経過しているものがあり、電子戦能力も不十分であることから逐次近代化を進めている。さらに、バッジシステムは、近年の航空脅威の増大に対処するため、本年度から近代化に着手することとしている(第3節参照)。

警戒飛行部隊の整備及び地上レーダーやバッジシステムの近代化が進めば、防空作戦における発見・識別及び要撃管制の能力は、相当向上すると考えられる。

航空自衛隊は、侵攻機を撃破するための要撃戦闘機部隊として、現在、F−15部隊を1個飛行隊、F−4EJ部隊を6個飛行隊、F−104J部隊を3個飛行隊保有している。近年の航空機の質的向上に対応するため、戦闘能力が相対的に低下しているF−104Jの減勢に伴い、逐次F−15への機種更新を推進中である。また、現在の主力戦闘機であるF−4EJは、防衛力の整備及び運用における効率化、合理化を図る見地から延命を計画しているが、同時に、将来見込まれる相対的な戦闘能力の低下を補うため、要撃能力向上を主眼とした試改修をも併せ実施中である。

地対空ミサイルとしては、航空自衛隊が高空域防空用のナイキJを、陸上自衛隊が低空域防空用のホークを保有している。しかし、ナイキJ及びホークは、いずれも導入後約20年を経過しているため、性能が相対的に低下するとともに、補給及び整備の面で今後長期にわたって維持することは困難となってきている。現在、ホークの一部について、運用上の即応性や電子戦能力などが向上した改良ホークへの改装を進めているほか、ナイキJ及びホークの後継システムの整備構想について検討を進めている。(第3−26図 防空システム

イ 基地等の防空能力

航空機の発進帰投、地対空ミサイルの運用及び機雷、魚雷、弾薬等の保管など各種作戦を実施する基盤である自衛隊の基地・施設などの機能を維持するに必要な基地等の防空能力は、必ずしも十分とはいえない現状にあり、航空自衛隊は短距離地対空誘導弾(短SAM)、携帯式地対空誘導弾(携帯SAM)、対空機関砲などの整備を進めている。また、海上自衛隊は基地防空能力の保持について検討している。

(2) 着上陸侵攻対処能力

着上陸侵攻対処に必要な各種の能力のうち、ここでは陸上防衛力の基幹部隊である師団、骨幹となる人的勢力及び主要戦闘機能並びにこれを支援する航空阻止能力、陸・海作戦直接支援能力、航空偵察能力及び輸送能力の現状について述べる。なお、海上自衛隊の対艦船攻撃能力の現状は海上交通保護能力の項で述べる。

ア 師団

わが国の師団は前節で述べたように編成されている。

主要各国の師団の現状は、大半が機動打撃力、機動力、火力及び対空火力等を重視する方向に進んでおり、これに対応すべく、わが国においても陸上防衛態勢を改善するため師団の編制の近代化について検討している。(第3−9表 主要各国の師団の比較

イ 人的勢力

陸上戦闘においては、戦場に展開する「人」一人一人がその保有する装備を複雑な地形を利用して有効に活用することが必要であり、その意味において「人的勢力」が陸上防衛力に占める役割は大きなものがある。

陸上自衛隊の自衛官の定数18万人は、陸上自衛隊全体を常時、有事即応の態勢で維持するために必要なものとして定められており、部隊の精強性や即応性を維持向上する上では平素からこの定数を充足しておくことが望ましい。しかしながら、有事に際し緊急に充足し得る職域・部隊などについては、平時においては、教育訓練や部隊運営などに重大な支障をきたさない限度で充足をある程度下げておくこともやむを得ない措置であるとの考えから、従来から86%程度の人員充足率としてきたが、昨年度は第2師団の精強性、即応性を向上するため陸上自衛隊の全般充足率を86.33%とした。本年度もこの充足率を維持することとしている。

ウ 陸上防衛力の主要戦闘機能

陸上防衛力の各種戦闘機能を構成する装備は、戦場が広域化、立体化、流動化する近代戦の特性及び平地、山地などが複雑に入り組んだわが国における陸上作戦の特性から多種多様なものとなっている。これらの装備は、いずれも質的に優れたものであるとともに、その量が確保され、個々の機能が総合された戦闘力として発揮されることが要求される。(第3−27図 陸上自衛隊の主要装備の使用例)

(ア) 機動打撃力

戦車、装甲車などを中核とする地上部隊や空挺部隊などを阻止、撃破するためには迅速に移動して対処する必要がある。この場合、戦車を骨幹とする機動打撃力がその中心となる。戦車は、火力、機動力及び装甲防護力を兼ね備えた陸上戦闘力の主力というべきもので、主要各国は、その近代化に多大の努力を払っており、10数年を基準として更新近代化を進めている。

陸上自衛隊が保有する戦車の過半数は弾丸威力、射程、機動力などにおいて旧式化しつつある61式戦車(昭和37年度装備開始)であり、逐次74式戦車(昭和50年度装備開姶)の整備を進め近代化を図っている。

(イ) 機動力

主要各国では、より速く、より大量に、より遠くに戦闘力を移動し又は集中するため、部隊の機械化や空中機動化により機動力の向上に努めている。

陸上自衛隊は、待ち受けの態勢の下、18万人の限られた勢力で長大な上陸可能正面に対処するほか、後方地域への随時の空挺攻撃・へリボン攻撃にも対処する必要があるため、着上陸等に即応して戦闘力を集中し得る優れた機動力を保持しなければならない。このため、装甲車、輸送用トラック、各種へリコプターなどを装備し、師団などの部隊の移動又は集中を行うこととしているが、まだその能力は十分でなく、逐次その整備を進めている。

(ウ) 火力

野戦砲迫撃砲などの地上火力は、縦深にわたる火力戦闘を行うとともに、近接戦闘部隊に直接協力するものである。戦場の広域化の傾向の下で、主要各国では、射程の延伸、発射速度の増大、命中精度の向上など火砲の性能向上を図るとともに、ミサイル化及び弾薬の性能向上並びに機動性向上のための自走化、残存性を高めるための装甲化を推進している。

陸上自衛隊は、わが国の地形の特性をいかして効果的な戦闘を行い得るよう、短射程の迫撃砲から長射程の加農砲やりゅう弾砲まで種々の火砲を保有しているが、その大半は米軍が第2次世界大戦中に使用したものと同型式で旧式化している。このため、現在、203mm自走りゅう弾砲、75式自走155mmりゅう弾砲、75式自走多連装130mmロケット弾発射機の整備を進め、機動力及び火力の向上に努めている。また、本年度から、新155mmりゅう弾砲(FH70)の整備に着手している。

戦車、装甲車などの機甲戦力を中核とする敵の攻撃を直接阻止するために重要な役割を果たす対戦車火力としては、64式対戦車誘導弾発射装置、106mm無反動砲、89mmロケット発射筒などを保有しているが、これらは既に旧式化しつつある。このため、79式対舟艇対戦車誘導弾発射装置や84mm無反動砲の整備を進めている。また、空中を機動し遠距離から戦車などを撃破できる対戦車へリコプターの整備も進めている。

着上陸侵攻部隊の水際阻止などに使用する対海上火力としては、79式対舟艇対戦車誘導弾発射装置を保有しているほか、地対艦誘導弾の研究開発に努めている。(第3−28図 日本と主要各国のりゅう弾砲の射程の比較)

(エ) 対空火力

近年の航空機の性能向上は著しく、航空攻撃ほ地上戦闘に重大な影響を与えるようになっており、航空攻撃が多用される状況下でも地上戦闘を効果的に行えるよう、地対空ミサイルや対空機関砲などによる縦深にわたる防空火網を構成する必要がある。このため、陸上自衛隊は、中距離の対空ミサイルとしてホークを保有している(本項(1)参照)。また、短距離の対空火器としては、高射機関砲などを装備しているが、これらは機動性が低く、一部旧式化しており、また、充足も不十分であることから、現在、短SAMや携帯SAMの整備を進めている。(第3−29図 主要正面装備の更新状況)

 

陸上防衛力については、このほか、指揮・通信、情報、電子戦、夜間戦闘、築城・障害、機動支援、後方支援などの機能をバランスよく保持することが必要であり、これらの機能についても逐次整備を進めている。

エ 航空阻止能力及び陸・海作戦直接支援能力

侵攻する陸・海部隊は、対空ミサイルなどによって強力な対空火網を構成しており、この対空火網を突破し又は無力化しない限り、侵攻部隊を阻止、排除することはできない。このため、主要各国は、スタンドオフ・ミサイル、対空レーダーを無効にする電子戦装置及び精密誘導爆弾などを保有し、航空攻撃能力の向上を図っている。

航空自衛隊は、主として航空阻止及び陸・海作戦直接支援作戦(第2部第2章第4節参照)を行うための支援戦闘機部隊として、F−1部隊を3個飛行隊保有している。F−1の戦闘能力の向上を図るため、現在、わが国で開発した空対艦ミサイル(ASM−1)の装備を進めている。また、F−1は昭和60年代後半には逐次耐用命数に達し減勢することから、その更新が必要となると見積もっている。(第3−30図 航空阻止作戦(対艦船攻撃)

オ 航空偵察能力

航空偵察は、各種作戦実施のため、短期間に広範囲の情報を収集することを目的として、偵察機などにより攻撃予定地の写真撮影、攻撃後の効果の判定、目標確認などを行うものである。主要各国は、戦略及び戦術的な航空偵察の手段を持ち、電子情報の収集などを含めた広範囲の能力を保有している。

航空自衛隊は、航空偵察部隊としてRF−4E部隊を1個飛行隊保有し、侵攻する上陸部隊等を海上で阻止するための作戦や陸上における戦闘を支援する作戦などに必要な情報を収集することとしている。

陸上自衛隊は、陸上における作戦などに必要な情報を収集する手段として、連絡偵察機や観測へリコプターなどを保有している。

カ 輸送能力

陸上自衛隊は、普通科連隊等の戦闘部隊の空中機動や補給品等の航空輸送に当たるへリコプター団を保有しているが、現在、輸送へリコプターの更新近代化について検討している。

海上自衛隊は、人員・装備・作戦用資材などを作戦地域や離島などに輸送するため、現在、輸送艦8隻(2,000トン型3隻、1,500トン型3隻、500トン型2隻)を保有しており、さらに輸送能力の向上について検討している。

航空自衛隊は、航空輸送部隊としでC−1を主体とする3個輸送航空隊を保有している。輸送機については、各種状況に対応する機動展開や空挺作戦支援などの空輸所要に対する能力が要求されるが、現在は不十分な状況にあり、輸送能力強化のためC−130Hの整備を進めている。本年度は最初の2機を取得する予定である。また、航空自衛隊は、輸送機の着陸が可能な飛行場と各基地との間を結ぶ端末輸送機能が不十分であることにかんがみ、現在、その不備是正を図るため輸送へリコプターの導入を検討している。

なお、海上・航空輸送については、自衛隊はその大部分を民間に依存しているところである。米国においては、有事、事態の度合に応じて、民間航空機や商船の支援を確保するための各種の計画を平時から準備しており、NATO諸国もそれぞれ民間輸送力を確保する計画を準備しているが、わが国にはこのような計画はない。

(3) 海上交通保護能力

海上交通を保護するに必要な各種能力のうち、ここでは対潜戦能力、対水上艦船攻撃能力、洋上における防空能力及び機雷戦能力の現状について述べる。

ア 対潜戦能力

対潜戦は、敵潜水艦を見つけ出し、これを撃破することを目的とする。対潜戦は、一般に第3−31図に示すように、レーダー、ソーナー、ソノブイなどにより、水上又は海中の潜水艦らしい目標を捜し出し(捜索、探知)、次いで目標が間違いなく敵潜水艦であることを確認し(識別)、確認した潜水艦の位置を正確につかみ(位置局限、追尾)、そしてそれを魚雷や対潜ロケットで攻撃して撃沈するという流れで推移する。海中に潜む潜水艦は、光もレーダー波も通さない海水という厚いヴェールに包まれているため、隠密性をその最大の利点としている。このため、潜水艦を捜し出すには主として音波を利用している。しかし、海中における音の伝わり方は海域、季節、深度などにより様々に変化し、また、海中には種々の雑音があるため、潜水艦を捜し出し、撃沈することは容易ではない。したがって、水中に潜っている潜水艦を確実に捜索、探知、撃沈できる単一の対潜兵器はなく、第3−10表に示すような特徴を持った水上艦艇、潜水艦、固定翼対潜機、対潜へリコプター等を組み合わせて、相互に短所を補いながら総合効果によって潜水艦に対処することとなる。

最近の潜水艦の水中速力、潜航持続力、深々度潜航力、静粛性、攻撃力などの著しい性能向上に対応するため、対潜水上艦艇等は、従来よりも優れた捜索・探知能力、機動力及び情報処理能力を保有することが必要となっている。

このため、対潜水上艦艇は、アクティブソーナーに加え、広域の捜索を可能とするTASSのようなパッシブ(聴音)方式のソーナーの装備、機動力を有する対潜へリコプターの搭載及び種々の情報を迅速かつ的確に処理できる総合情報処理システムなどの装備を進めている。また、固定翼対潜機は、漸次除籍されていくP−2J等に替え、広域捜索能力や総合情報処理能力などに優れ、高性能潜水艦に対処できるP−3Cを導入しつつある。対潜へリコプターは、従来のアクティブソーナーに加え、磁気探知装置及びソノブイシステム(艦載型へリコプターのみ)などの装備を進めている。

イ 対水上艦船攻撃能力

水上艦船攻撃は、着上陸侵攻対処や海上交通の保護に際し、艦艇や航空機などにより行われる。

近年、水上艦艇は艦対艦ミサイル(SSM)を装備するすう勢にあり、その攻撃も従来の砲の打ち合いから遠距離におけるSSMの打ち合いに変わりつつある。したがって、海上自衛隊は、水上艦艇へのSSMの装備及び水上艦艇では探知できない水平線以遠の目標を捜索するためのレーダーを装備した対潜へリコプターの搭載を進めている。

また、対水上艦船攻撃能力を強化するため、固定翼対潜機及び潜水艦への対艦ミサイルの装備についても逐次整備を図りつつある。

なお、陸上自衛隊の対海上火力及び航空自衛隊の戦闘機をもってする沿岸海域における対水上艦船攻撃能力の現状は、本項(2)で述べたとおりである。(第3−32図 対水上艦船攻撃

ウ 洋上における防空能力

防空戦は、空からの攻撃に対し、艦船を防護することを目的とする。最近の航空機は、速度や航続距離といった飛行性能が向上するとともに、長射程の空対艦ミサイル(ASM)を装備し、艦対空ミサイル(SAM)の射程圏外から艦船を攻撃できる能力を持つに至っている。このため、洋上の艦船に対する航空機の脅威は大きなものとなっている。また、水上艦艇や潜水艦は対艦ミサイルを装備するすう勢にある。したがって、防空戦では第3−33図に示すように、味方戦闘機による防御のほか、水上艦艇については長・短射程のミサイル、対空砲及び高性能機関砲(CIWS)を装備することにより縦深的防御網を構成して航空機及びミサイルを撃破するとともに、各種電子戦装置等を装備してミサイルを回避することが必要である。

海上自衛隊の防空能力は必ずしも十分とはいえない状況にあり、現在、ミサイルや砲等を組み合わせた縦深防御体系及びミサイルを回避する各種電子戦装置並びにこれらをコンピュータで結合し能力の最大発揮を図るための指揮管制システムの水上艦艇への装備を進めている。

なお、味方戦闘機による防御は、航空自衛隊が可能な範囲で周辺空域において防空作戦により行う。

エ 機雷戦能力

機雷は、重要港湾や水路などに敷設することにより、その海域の海上交通を制約することができる兵器であり、多くの重要な港湾や海峡を持つわが国にとって、機雷戦は極めて重要な意義を持つものといえる。

海上自衛隊の対機雷戦能力は、第2次世界大戦中に米国がわが国近海に敷設した機雷を戦後実際に掃海してきた実績もあって、主要各国の中でも高いレベルにあるといえる。

しかし、最近主要各国では、従来に比し深々度に敷設される機雷を保有するに至っており、現在、深々度機雷対処能力について研究開発に努力している。また、掃海へリコプターの更新近代化について検討している。

機雷敷設を行うには、有事において所要の機雷を短期間で準備し、迅速に敷設し得る態勢を確保する必要がある。これらの態勢については必ずしも十分でなかったところから、逐年機雷の備蓄、機雷を即応の状態に維持するための調整施設及び弾薬庫の整備を進めている。

(4) 警戒監視、情報収集

航空自衛隊は、全国28か所のレーダーサイトにおいて、わが国及びその周辺上空を飛行する航空機を常時監視し、領空侵犯のおそれのある航空機を発見すると、地上に待機中の航空機を緊急発進(スクランブル)させ、領空侵犯機であることを確認した場合には、その航空機を領空外に退去させたり、最寄りの飛行場へ着陸させるために必要な措置をとることとしている。

緊急発進の年間の平均回数は約600回(10年間平均回数)であるが、昭和56年度には939回を記録するなど最近は漸増の傾向にある。また、昨年4月3日、ソ連のIL−62 1機によって、長崎県男女群島鳥島西方領海上空において領空侵犯され、わが国はこれに対して直ちに外交ルートを通じてソ連に抗議を申し入れた。

航空機に対する警戒監視能力を強化するための諸施策は、本項(1)で述べたとおりである。

主要な海峡等を通過する艦船などに対しては、沿岸監視隊、警備所、艦艇などによる常続的な警戒監視を行っている。沿岸監視隊や警備所による陸上からの警戒監視は天候などにより制約があることから、これを補う措置として、昭和53年度から津軽及び対馬両海峡への艦艇の常続的配備を行っており、本年度からは宗谷海峡においても行うこととしている。また、沿岸監視隊や警備所などのレーダーの近代化、夜間において目標を識別できる暗視装置の艦艇等への装備などを進めている。

わが国周辺海域を行動する艦船に対しては、固定翼対潜機による警戒監視を、日本海は1日1機、東シナ海及び北海道周辺海域は2日に1機の割合で行っている。

このような常続的な警戒監視のほか、必要の都度、艦艇や航空機による警戒監視を行っている。

このほか、国外からわが国に飛来する軍事通信電波や電子兵器の発する電波を監視収集し、整理分析してわが国の防衛に必要な情報資料の作成に努めている。

また、在外公館を通じ国際軍事情勢などを把握することとしており、現在29の在外公館に防衛駐在官が置かれている。

今日、米ソ両国が衛星による偵察や早期警戒に努めているのを始めとして、主要各国においては、各種手段によって種々の情報収集が行われている。わが国においても、警戒監視及び情報収集機能については、その重要性にかんがみ一層の強化を図る必要がある。

(5) 指揮通信、電子戦

ア 指揮通信

防衛庁は、有事において自衛隊を効果的に運用するため、各種通信系及び指揮統制システムの整備を推進している。

通信系としては、固定通信系と移動通信系を保有している。

固定通信系には、駐屯地、艦艇基地、航空基地などの主要基地間を結んでいる骨幹通信回線のほか、各レーダーサイト間を結ぶ自営の防空通信網などがある。骨幹通信回線は、従来その大部分を電々公社の通信回線に依存してきたが、通信量が大幅に増加する緊急時において、所要量の迅速な確保が困難で柔軟な運用ができない状況にあるとともに、抗たん性に欠ける面があった。このため、自衛隊自らが保守整備し運用できる「防衛マイクロ回線」を整備して通信機能の強化を図ることとし、昭和52年度からその整備を進めており、一部については運用を開始している。近年、各種装備のシステム化に伴い、自衛隊においてもデータ通信の所要が年々増大する傾向にあるが、「防衛マイクロ回線」が完成すれば、陸上主要基地間の通信量の増加に対しては、かなりの程度対応できる見込みである。

移動通信系は、野戦部隊、艦艇、航空機の相互間又はこれらと各基地を結ぶもので、移動を主とした無線機による無線通信網から成り立っている。野戦部隊と駐屯地との通信系、艦艇、航空機及び離島との洋上・遠距離通信系、潜水艦との通信系については、通信の確達などについて今後とも検討していく必要がある。

指揮統制システムとしては、中央指揮システム、自衛艦隊指揮支援システム、バッジシステム(第3節参照)などがある。

中央指揮システムは、自衛隊の行動に際し、防衛庁長官が情勢を把握し、部隊に対する命令を迅速・的確に行うための指揮支援システムであり(第2項参照)、自衛艦隊指揮支援システムは自衛艦隊司令官及び他の主要部隊指揮官が行う作戦指揮などに資するための指揮支援システムである。

イ 電子戦

電子戦に関する兵器の技術的な開発競争は日進月歩の状況にあり、主要各国の電子戦能力の進歩は目覚ましいものがある。電子戦能力を向上させるための主な手段としては、電波探知装置やミサイル警報装置などの装備による電子戦支援対策、チャフロケットなどの装備による電子戦対策及び相手の電子戦対策を回避する能力を有する各種レーダーなどの保持による対電子戦対策がある。

自衛隊は、電波探知装置など電子戦装置の一部を装備しているのみであったが、近年になり電子戦能力の向上に力を注いでいる。しかし、主要各国の航空機やミサイルなどの電子戦能力の向上に対応する装備の近代化が遅れていること、また、技術の進歩が著しく電子戦はますます広範、複雑かつ高度化の傾向にあることから、電子戦能力の向上には今後一層の努力が必要である。

(6) 後方支援

自衛隊の作戦遂行のためには、所要の弾薬類や燃料などの作戦用資材を継続的に補給する必要がある。特に、弾薬類の不足は、戦車、艦艇、航空機などの主要装備の能力発揮に致命的な影響を及ぼすものである。弾薬類の備蓄は、現在必ずしも十分な状況ではないため、これを確保するための努力を続けている。また、防衛力の機動的運用や作戦用資材などを補給するための輸送能力の充実にも努力を払っている。

現在、抗たん性を確保するための機能は必ずしも十分とはいえない状況にあり、被害局限のための短SAM、携帯SAM及び航空機用えん体等、被害復旧のための滑走路被害復旧マット、代替機能確保のための移動式レーダー、移動式無線車及び通信手段の多様化などについて逐次整備を進めている。

また、即応態勢の向上を図るため、隊員の充足率の向上、機雷・魚雷の実装化、機雷・魚雷やミサイルなどの調整施設及び弾薬庫の整備、装備品等の整備態勢の向上などに努めている。

(7) 救難、災害救援等

自衛隊の主要な航空基地や艦艇基地では、海難救助や航空救難などに対して即応できる態勢で航空機や艦艇を常時待機させている。

航空救難については、東北地方の日本海側の救難態勢がー部不十分な状況にある。

洋上救難については、救難飛行艇US−1 7機の運用態勢が整備され、おおむね対処可能な状況にある。

潜水艦救難については、深々度救難能力が不十分な状況にあり、現在潜水艦救難母艦の整備を進めている。

本年度も、救難飛行艇US−lA、救難へリコブターV−107A、各種器材などの整備を図り装備面での充実・強化に努めている。

なお、災害派遣等については、前章第2節で述べたとおりである。

2 運用態勢の整備

 防衛力が真に有効なカを発揮するためには、これを最も効果的に運用し得る態勢が整備されていなければならない。

 このため防衛庁では、万一侵略事態が発生した場合に、自衛隊がこれに即応して効果的に任務を達成する上での問題点について、運用、法制などの面から研究、検討することとしており、現在有事法制などの研究を進めている。また、防衛出動等の自衛隊の行動に関する防衛庁長官の指揮命令を迅速かつ的確に行うための中央指揮システムの整備を進めている。

(1) 有事法制の研究

防衛庁が行っている有事法制の研究は、防衛出動が命ぜられるという事態において、自衛隊がその任務を有効かつ円滑に遂行する上での法制上の諸問題をその対象としている。この研究は、昭和53年9月に公表した有事法制の研究の基本的姿勢についての見解(資料26参照)で示している基本的な考え方に基づいて進めているが、昭和56年4月、防衛庁所管の法令に関する研究の中間報告(資料27参照)を取りまとめ、これを公表し、引き続き他省庁所管法令について検討している。

(2) 中央指揮システムの整備

中央指揮システムは、防衛出動等の自衛隊の行動に関して、防衛庁長官が情勢を把握し、適時所要の決定を行い、部隊などに対し命令を下達するまでの一連の活動を的確かつ迅速に行うための指揮支援システムである。これは、自衛隊がその実力を十分に発揮するためには、中央からの指揮命令が確実迅速に伝達されて、すべての自衛隊の部隊及び機関が整合性のある行動をとれる態勢になっていなければならないとの認識から、昭和56年度から整備に着手したものであり、本年度末には運用が開始される予定である。このシステムは、情報の収集提供機能、命令伝達機能などから成り、自衛艦隊指揮支援システムやバッジシステムとも連接される。

3 教育訓練

 自衛隊は、その任務を遂行するため、逐次各種装備の整備、近代化を進めている。これらの近代的装備を十分に使いこなして、その本来の性能を発揮させ、また、部隊を指揮運用して与えられた任務を遂行するのは人であり、この意味で任務遂行の成否はつまるところ人の問題に帰するといえよう。有能な隊員を育成すること、また、その集団としての部隊を練成することは、防衛力整備の重要な要素である。自衛隊では、日夜厳しい教育訓練を行い、精強な隊員及び部隊の練成に努めている。

 一方、装備の近代化に伴い、要員教育は多様化、長期化の傾向にあり、また、高度な教材が必要となっている。このため、教育訓練体系の見直しを行うとともに、練習機の更新、各種訓練装置や教材などの充実向上、教育訓練用の弾薬や燃料などの確保に努めることにより、教育訓練の充実を図っている。

 自衛隊における教育訓練は「基本教育」と「練成訓練」に大別される。

(1) 基本教育

基本教育は、隊員として必要な資質を養うこと及び職務遂行上必要な基礎的知識や技能を修得させることを目的として、自衛隊の学校や教育部隊などにおいて、次のように行っている。

ア 陸上自衛隊

陸上防衛力は、複雑で多様な地形からなるわが国の国土において運用される。このような国土において、その地形に対応する多種多様な装備とこれを駆使する人とが有機的に結合されていなければ総合化された陸上戦闘力とはなり得ない。この点において、特に陸上防衛力における「人」は重要な意味を持っており、一人一人が防衛力としての役割を果たさなければならない。このため、陸上自衛隊では、防衛力たる人としての資質を養い、各職務に応じた知識と技能を身につけることを重視した基本教育を行っている

イ 海上自衛隊

海上自衛隊は、水上艦艇、航空機、潜水艦などの多様で近代的な装備を保有し、これらを千変万化する広大な海において、海中、海上から空中にわたり相互の密接な連係の下に総合的に運用しなければならない。このような任務を達成することができる隊員を養成するため、素養教育と術科教育とに分けて基本教育を行っている。

素養教育は、海上自衛官としての資質を養うとともに、必要とする基礎的な知識と技能を身につけるためのものであり、術科教育は、艦艇や航空機などの装備を駆使するために、より高度の、あるいは新しい知識と技能を修得させるためのものである。

ウ 航空自衛隊

航空自衛隊は、科学技術の最先端をいく、しかも進歩改善が目覚ましい装備品等を保有し運用していること、一人一人の仕事が細分化されていること及び組織自体が機能的に分かれていることが特徴である。このため、隊員の一人一人が高度な装備を駆使でき、科学技術の進歩に対応できるよう個人の技能の向上及び組織としての機能の発揮を重視した基本教育を行っている。

基本教育には、防衛教養など隊員として一般的に必要な基礎的資質のかん養や知識と技能の向上を主体とする一般教育と特技に応じて専門的に必要な技術の修得を主体とする技術教育とがある。

(2) 練成訓練

練成訓練は、隊員のそれぞれの部門における練度を向上させること及び組織として各種の状況に対応できる精強な部隊を練成することを目的として、自衛隊の部隊などにおいて行っている。

練成訓練は、基礎的な訓練から高度な訓練へ、また、各部隊・職種ごとの訓練から関係部隊との協同訓練、演習へと段階的に進め、努めて実戦に近い状態において練成し、任務達成に必要な諸作戦行動に習熟させることとしている。特に演習は、防衛出動等の行動時における各級指揮官の部隊の指揮運用、各部隊の協同連係などを主眼に総合的に演練するために行っている。

また、陸・海・空各自衛隊は、必要に応じ、他自衛隊の部隊あるいは米軍と訓練を行っている。

ア 陸上自衛隊

陸上自衛隊の部隊における訓練は、隊員個々の職務遂行能力に基礎を置いて、班、小隊などの小部隊から、連隊、師団などの大部隊へ段階的に積み上げられ、さらに、普通科、機甲科、特科などの職種部隊が相互に協力して部隊としての組織的な戦闘力を発揮できるように行われる。

個人訓練は、陸上自衛官として必要な精神的基盤を充実させるとともに、隊員に共通した射撃、格闘技、スキーなどや各職種ごとの任務遂行に必要な特技を練成する。

班、小隊及び中隊の訓練は、,職種部隊運用上の基礎となるもので、指揮官を中心とした強固な団結を図り、組織の機能を有効に発揮することを目的とし、通常、部隊編成区分ごと又は他の部隊と協同して訓練を行う。例えば、相手の攻撃を撃破又は阻止するための防御の訓練、相手の陣地を撃破するための攻撃訓練、へリコプタ−を用いて機動し攻撃等を行うへリボン訓練などである。

連隊戦闘団や師団の演習は、その目的に応じ、実動演習(実際に部隊を展開して行う演習、実員演習ともいう)、指揮所演習(指揮機関だけを設置して行う演習)、図上演習(地図等の図面上で兵棋を用いて行う演習)などにより行われる。

通常、仕上げの訓練として、演習場において3〜7日間連続した状況の下で演習を行う。(機甲部隊の訓練

イ 海上自衛隊

海上自衛隊の艦艇や航空機の訓練は、定期的な隊員の交代や、艦艇の検査・修理があるため、一定期間を周期とし、これを数期に分け、段階的に練度を向上させる周期訓練方式をとっている。艦艇部隊では個艦を、航空部隊では搭乗チームを単位として訓練を行う。

周期の初期においては、個艦や搭乗チームの個人の技能とチームワーク作りとに主眼が置かれる。例えば、艦艇部隊では基本的な射撃要領や戦闘被害を受けた場合の防火、防水処置などについて、航空部隊では計器飛行、緊急時の処置、水中音響機器やレーダーなどによる目標の捜索や識別要領などについてそれぞれ演練する。

周期が進むにつれ、部隊の規模を次第に拡大しながら、対潜戦、護衛、防空戦などの訓練を行い、艦艇相互の連係や、艦艇と航空機の協同要領などを演練する。これらの訓練は忍耐のいる長期にわたるものであり、隊員の肉体的、精神的疲労が激しいため、艦艇では全乗員を二つ又は三つに区分し、昼夜を問わず2〜4時間おきに輪番で勤務する当直体制をとり、艦全体の戦闘力を常時即応状態に維持している。

また、機雷戦部隊は、掃海訓練、積極的に機雷を捜索処分する機雷掃討訓練及びわが国の治岸や水道などに近接する艦艇や潜水艦を阻止するための防御的な機雷敷設の訓練を行う。

毎年秋季には総合的な演習を行っている。(海上自衛隊の対潜訓練

ウ 航空自衛隊

航空自衛隊の部隊における訓練は、領空侵犯に対する措置のための態勢を維持しつつ、有事に即応し得る部隊を練成するため、隊員個々の練度を向上させるとともに、組織としての任務遂行能力を向上させるよう行っている。防空作戦において、直接戦闘に参加する主なものは、戦闘機部隊、航空警戒管制部隊及び地対空誘導弾部隊である。これらが有効に戦闘力を発揮するには、多くの隊員がそれぞれの持場で与えられた任務を遂行することが基盤となっている。

戦闘機部隊における操縦士の訓練は、教育課程で修得した基本操縦を基礎として、必要な各種戦闘法、すなわち、要撃戦闘、対戦闘機戦闘、空対空射撃、空対地射爆撃などを段階的に訓練する。操縦士は、当初対領空侵犯措置任務を実施できることを目標に訓練を受け、その能力を習得したところで初級操縦士としての資格を付与され、じ後、各種戦技の段階的な習得及び射撃資格の取得等に応じて、中級、上級の技量資格が付与され、技量を向上させていく。

航空警戒管制部隊では侵入機の発見・識別、最適要撃兵器の指向、要撃機の誘導などの訓練を、地対空誘導弾部隊ではミサイルの組立て、整備、射撃、米国での実射訓練などを行っている。

このような訓練と同時に、戦闘機部隊、航空警戒管制部隊及び地対空誘導弾部隊の連係要領を適時訓練し、組織としての総合力の向上に努めている。

毎年秋季には総合的な演習を行っている。(編隊飛行中の航空自衛隊機

(3) 統合演習

わが国の防衛作戦は、有事、迅速に有効な防衛力を総合発揮して侵攻に対処する必要があり、そのためには、陸・海・空各自衛隊の能力を最も効果的に発揮するように統合運用を図ることが重要である。

すなわち、防衛作戦を統ーした作戦指導の下に遂行するとともに、個々の作戦についても、例えば、陸上自衛隊の部隊の移動・集中時の海・空各自衛隊との協同、陸上戦闘や海上作戦に当たっての空からの支援など、陸・海・空各自衛隊が相互に密接に協力することが必要である。したがって、平素から、各自衛隊の統合運用について演練する必要があり、これまでも、各自衛隊の各種の訓練に際して他自衛隊が協力することにより、積極的に行ってきている。

統合幕僚会議が計画及び実施を担当する統合演習は、昭和36年度から昨年度までにその内容の充実と規模の拡大を図りつつ12回行われている(昭和56年度からは毎年実施)。

昨年度は、指揮所演習及び実動演習が行われた。これは、外部からの武力攻撃に際しての対処行動について、陸・海・空各自衛隊の協同連係要領を総合的に演練するとともに、統合運用に関する資料を得ることを目的としたものである。

ア 指揮所演習

本演習は、上級司令部(主として統幕・各幕レベル)における指揮所活動を通じて、外部からの武力侵攻前後における各自衛隊の統合運用に関する事項を演練したものである。

イ 実動演習

本演習は、北海道を中心とする北日本の海・空域で展開されたものであり、部隊が移動する際の海上作戦輸送、航空作戦輸送及び防空戦闘を訓練することによって、陸・海・空各自衛隊の実動部隊相互の協同連係要領を総合的に演練したものである。

陸・海・空各自衛隊の統合作戦を行う上において、このような演習は極めて重要であり、今後とも毎年度統合演習を行っていくことが必要であると考えている。(第3−11表 自衛隊の主要演習実績(昭和57年度)

(4) 教育訓練の制約

防衛庁としては、国民の生活環境の保全に配慮しつつ教育訓練に努めているが、現実問題として種々の制約が教育訓練の実施を困難なものとしており、必ずしも十分な訓練が実施できているとはいえないのが実情である。

演習場は、その数が少なく地域的に偏在しており、また、広さも十分ではないため、大部隊の演習や長射程砲及びミサイル等の射撃訓練などを十分に行えない状況にある。

訓練海面は、漁業などの関係から訓練の場所や時期などに制約を受けている。特に、掃海訓練や潜水艦救難訓練などに必要な比較的水深の浅い海面は、一般船舶の航行や漁船の操業などと競合しており、訓練海面の設定は、むつ湾や周防灘などのごく一部に限定され、また、その期間も短期間に限られている。

訓練空域は、現在、低高度及び高々度訓練空域等が計23か所設定されているが、飛行安全上航空路等との競合を避けつつ主として洋上に設定されているため、基地によっては訓練空域への往復に長時間を要し、実質的訓練時間を十分取れない状況にある。また、全般に広さも十分ではなく、超音速飛行など一部訓練項目について、航空機の性能や特性を十分発揮した訓練が実施できないところもある。

さらに、パイロットがその航空機の性能を安全かつ正確に発揮させるには、年間の所定飛行時間を確保する必要がある。特に、戦闘機パイロットに要求される高度の操縦技術などの練度を維持するためには、各種飛行訓練を一定の飛行間隔を保ちつつ行う必要があるが、燃料の高騰もあって最近は所定飛行時間の確保に制約を受けている。

また、航空機騒音に対する飛行場周辺地域の生活環境の保全の観点から、早朝及び夜間の飛行訓練を制限するなど種々の規制を行わざるを得ない状況となっている。さらに、防衛施設周辺の地域について策定される都市計画や総合開発計画などの内容によっては、結果として教育訓練などの防衛施設の運用が制約される場合がある。

(5) 諸制約の克服

このような種々の制約は、訓練の質的量的低下をもたらし必然的に練度の維持向上を困難にさせるものであり、防衛庁は、国民の生活環境の保全との調和を図りつつ、効率的な訓練を実施するため、創意工夫を行っているところである。例えば、限られた演習場や訓練空域を最大限に活用するための他方面隊、他基地などに移動しての訓練の実施及びシミュレーターなどの訓練用器材の活用を図る一方、実弾射撃訓練に際しては装薬量を減らして砲弾の飛しょう距離を少なくするなどしている。

しかしながら、訓練空域については、民間航空の交通量の増大しつつある今日、空域の拡大や新たな設定にもおのずから限度があるので、民間の航空交通と自衛隊の訓練飛行との共存を図り、限られた空域を安全かつ有効に利用することが重要となっている。このため、訓練空域と航空路等との安全かつ有効な分離について、今後とも検討を進めていくことが必要である。

また、陸上自衛隊のホーク部隊や航空自衛隊のナイキ部隊の射撃訓練並びに海上自衛隊の艦対空ミサイルや魚雷発射訓練等の一部などは、従来から、戦術技量の向上を図るに必要な訓練設備がわが国にないこともあり米国で行っている。

さらに、防衛庁は、本土における飛行訓練環境の制約によりパイロットの教育訓練を十分に実施し得ない状況を打開するため、昭和55年度以来硫黄島の訓練施設の整備を行ってきており、本年度末頃には同島における移動訓練のための支援態勢を整える計画である。

今日、社会生活環境の保全や防衛施設周辺の都市計画などと防衛施設の運用とをいかに調和させるかは、限られた日本の国土にあって、解決の道を精力的に追求しなければならない重要課題である。

(6) 航空事故

防衛庁は、航空機の運航については、かねてから安全確保に努力を傾注しているところであるが、本年4月、鳥羽市においてC−1型輸送機2機が、岩国基地においてPS−1型固定翼対潜機1機が訓練飛行中に墜落する大事故が相次いで発生し、合わせて隊員25人が死亡、3人が負傷した。これらの事故にかんがみ、防衛庁長官は、4月27日、「航空事故防止に関する長官指示」を発出して、教育訓練の実施要領等の総点検等を行うよう指示した。これを受けて、各部隊等においては、具体的な安全対策を講じて、事故の再発防止に特段の努力を傾注している。

4 人事

 自衛隊は、その任務の性格上、組織を常に精強な状態に維持する必要があり、このためには、若い年齢層の隊員を常時継続して確保していかなければならない。このような目的に基づいて、自衛官の任用制度においては、第3−34図に示すように、任期制と非任期制(停年制)との両者を併用している。

 すなわち、士である自衛官は、一般曹候補学生、自衛隊生徒等を除き、2年又は3年の任期を限って任用される若い年齢層の任期制自衛官である。任期制自衛官は、本人が志願したときは、選考に基づき引き続き2年を任期として継続任用されることができ、また、一部の者については非任期制自衛官に任用されるが、相当数の者は20歳代後半までに退職することとなる。

 その他の自衛官は、非任期制自衛官である。非任期制自衛官についても、自衛隊の精強性を維持するため、一般公務員と異なり、比較的若い停年制を採用しており、大部分の者は50〜53歳で退年職することとなる。

 このような任用制度の下において、毎年度の退職者数は、ここ数年をみると任期制自衛官において約1万6千〜1万8千人、非任期制自衛官において約4,000〜6,000人(いずれも本人の意思等による中途退職者を含む)にのぼっている。このため、毎年度これらの退職者数に相当する2万人以上を採用することが必要となっている。この採用者数は、終身雇用制を前提とする民間企業や他の官公庁にはみられない任用制度を採用していることによるものといえる。(第3−34図 自衛官の任用制度

(1) 募集

自衛官等の募集は、任期制自衛官である2等陸・海・空士(2士)、非任期制自衛官である幹部候補生や曹候補学生等、防衛大学校・防衛医科大学校の学生にそれぞれ区分して行っている。昨年度における各区分ごとの募集状況は第3−35図のとおりである。

これらの募集のうち、2士(男子)の募集が毎年度最も困難な状況にある。これは、その募集人員が膨大であること、長期的にみて適齢人口(18歳以上25歳未満)が減少傾向にあり、また、進学意欲の高まりや地元志向などの社会的風潮の中で、募集対象となる若者が慢性的に不足している状況にあること、さらに、短期間の任期制が一般的になじみにくいものであることなどによると考えられる。

このような状況の中で、全国で50の自衛隊地方連絡部が、各都道府県知事や市町村長、各教育委員会や学校、民間の募集協力者としての募集相談員などの協力を得ながら、2士(男子)の募集業務を行っている。これまでは、自衛隊側の努力や関係者の協力により、幸いにして、所要の採用者数が確保できているが、一部において関係者の十分な協力が得られない向きがあるなど、円滑な業務遂行のための態勢は必ずしも万全ではない。

また、2士(男子)の募集においては、単に所要の採用者数を確保するだけでなく、優れた資質を備えた者を確保することが自衛隊の精強性を維持するためには不可欠である。採用者の資質を具体的な指標により示すことは困難であるが、一般的には適応性と耐久性に富んだ若年者が望ましい。2士(男子)の採用者の年齢別及び学歴別状況は第3−36図のとおりである。

今後、優れた資質を備えた青少年を自衛官等に採用するためには、青少年にとって魅力ある自衛隊となるようさらに努力を続けなければならないが、同時に、国民の自衛隊に対する理解と支持が一層深まることが望まれる。

(2) 停年延長

自衛隊の任務の特殊性から、自衛官は比較的若い停年制を採用している。ところが、近年の日本人の平均寿命の伸びと体力の向上は著しく、高齢者の労働能力の向上に伴い60歳停年が徐々に増加するすう勢にあり、50歳は働き盛りというのが今や社会通念となってきている。自衛隊においても、装備の近代化などに伴って、高度の知識と技能を有する隊員の必要性が従来より高まっている。

このような情勢から、防衛庁では、人材の有効活用と隊員の士気の高揚を図るため、停年延長を行ってきており、本年度は、2佐〜准尉の停年を52歳から53歳へ延長した。

(3) 就職援護

ア 就職援護施策

任期制自衛官の大部分の者は20歳代後半までに、非任期制自衛官の大部分の者は50〜53歳で自衛隊を退職することとなるが、これらの退職自衛官については、次のような点に注目する必要がある。

 任期制・非任期制のいずれについても、自衛隊を退職した後、再就職を必要とする年齢であると考えられる。

 わが国の雇用慣行上、中途採用にあっては、給与その他の待遇の面で不利な扱いを受けることとなるのが現実であり、特に停年退職者についてその傾向が強い。

 任期満了及び停年により退職する者の数は、毎年度約1万3千〜1万7千人(本人の意思等による中途退職者を含まない)もの多数にのばり、その70%以上の者が就職援護を希望するが、このような多数の退職者を毎年度同一の職域で発生させる事業所等は、他に例をみない。しかも、昨今の経済・雇用情勢の下で再就職の困難な中高年齢者である停年退職者は、近い将来、激増することが見込まれる(昭和57年度の約2,000人に対し、昭和60年代前半は各年度約6,000人から約7,000人の停年退職者が見込まれる)。

このような事態に対処するため、防衛庁としては、退職予定自衛官に対する就職援護を人事施策上の最重要課題として位置づけ、かねてから、退職予定自衛官に対して、技能教育や一般社会への適応性を高めるための教育など各種の就職援護施策を行っている。また、これらの施策を円滑に行う組織として、陸・海・空各幕僚監部に援護室、自衛隊地方連絡部に援護課、各部隊に援護センター等を置き、求職条件に適合した就職ができるよう、職業安定機関との緊密な連係を確保するなどの活動を活発に行っている。

さらに、以上のような就職援護施策に加え、昭和54年10月、社団法人隊友会に職業紹介を専門的に行う組織として援護本部が設けられ、昭和55年度以降、東京、福岡、札幌及び仙台に援護本部の支部が設置されている。これらの支部においては、職業安定法に基づく労慟大臣の許可を得て退職予定自衛官のための無料職業紹介事業等を行っているが、本年12月にはさらに広島に支部が設けられる予定である。今後、大阪及び名古屋にも支部が設けられ、全国的な事業実施体制が概成されることにより、就職援護を一層円滑かつ強力に行える実働的態勢が整備されることとなり、昭和60年度以降の停年退職者の激増期においてはその機能を十分に発揮することが期待される。

このような就職援護は、退職後のより良き生活の確保と退職後の生活についての不安を解消することにより、志願制により入隊した自衛官が安心して隊務に精励できることとなり、ひいては各部隊の士気の高揚やさらには優れた資質を備えた自衛官の確保に結びついていくものと考えられる。(第3−37図 退職自衛官の産業別就職状況

イ 退職自衛官の活躍

退職自衛官は広い分野で活躍しているが、これを産業別にみると第3−37図に示すように、製造業及びサービス業が1位及び2位を占めている。これは、わが国の産業構造の現況に対応するものであり、今後、第3次産業特にサービス産業の一層の進展に伴って、その分野での求人や就職の増加が予想される。

また、退職自衛官で民間企業に就職した者は、総じて企業側から高い評価を与えられている。とりわけ、第3−38図にみられるように、責任感、仕事に打ち込む態度(勤勉性)、体力・気力、規律等の面で高く評価されている。このほか、停年退職者については、組織内での培った資質を一層向上させ、足らない点を可能な限り補うための就職援護施策を充実強化するとともに、本人の自覚に基づく自己啓発や能力開発を進めることによって、一層広い分野において活躍の場を開拓することが可能となり、ひいてはわが国の経済社会の発展に貢献できるようになるものと期待される。

(4) 予備自衛官

自衛隊は、防衛出動時においてその実力を急速かつ計画的に確保することを目的として、予備自衛官制度を有している。予備自衛官の員数は、現在、陸上自衛隊4万1千人、海上自衛隊600人であり、また、陸上自衛隊について2,000人を増員することを予定しているが、この増員は、自衛隊法の改正を待って行われるものである。また、航空自衛隊にも予備自衛官の制度を設けることについて検討している。このような予備自衛官制度は、主要各国が有事に備えて有している予備役制度にほぼ見合うものであるが、第3−12表にみられるように、その規模や現役との比率などにおいて著しい隔たりがある。

有事に際しては、陸上自衛隊の予備自衛官は後方警備、後方支援及び第一線補充の要員として、海上自衛隊の予備自衛官は後方警備等の要員として運用することとするものであるが、平時においては、それぞれの職場において一般社会人としての生活を送っており、年2回以内一定期間(1年を通じて20日を超えないこととされており、現在は年5日間程度としている)訓練に従事することが義務づけられている特殊な勤務態様にある特別職の国家公務員である。

防衛庁では、予備自衛官制度の改善に資するため、昨年度、陸上自衛隊の予備自衛官から2,000人を抽出しその意識等について実態調査を行ったが、そのうちの幾つかを紹介すれば、次のようになっている。

ア 予備自衛官への志願動機

「自衛隊に愛着を感じる」と「有事の際、自衛官として国防に役立ちたい」とを合わせると、65.6%の者が自衛隊や国防に対する積極的な認識を持って予備自衛官を志願している。(第3−39図 予備自衛官に志願した動機

イ 普段の生活における心構え

普段の生活における心構えについては、「国民の中にあって、防衛思想の普及等防衛基盤の育成が主な役割と思っている」とする者が31.6%、「現職の自衛官と同様、有事国防を担う一員と思っている」とする者が29.1%となっており、有事における自衛隊の人的基盤としてだけでなく、平時における国民全般にわたる防衛基盤の育成についても、その役割として認識している。(第3−40図 普段の生活における心構え

ウ 職場の同僚等に対する態度

予備自衛官の職場の同僚や周囲の人に対する態度については、予備自衛官であることを誇りに思っている者は87.4%にのばるものの、予備自衛官であることを積極的に表明している者は35.7%にすぎず、これ以外の者は、何らかの理由によって予備自衛官であることを表明せず、さらには肩身の狭い思いをしている者もいる。(第3−41図 職場の同僚等に対する態度

エ 広報の必要性

国民に対する予備自衛官制度等の広報の必要性については、「積極的に広報すべきである」とする者が49.8%、また、「現状でよいが、もっと企業主等に実施してもらいたい」とする者が38.9%にのばり、前項の「職場の同僚等に対する態度」と合わせ考えると、予備自衛官制度についての国民の理解を得るための一層の努力の必要性が示されているものといえる。(第3−42図 広報の必要性

 

以上のように、予備自衛官制度は、有事における自衛隊の継戦能力を確保するための人的基盤となるものであるとともに、平時における自衛隊と国民とのかけ橋としての役割をも担っているものであるが、同時に、この制度自体、国民の理解と支持なくしては存立し得ないものであり、そのための一層の努力を続けなければならないものと考える。

 

(注) バッジシステム空中日標の発見・識別、要撃機や地対空ミサイルに対する目標割当て、要撃機の要撃管制などをコンピュータ等を使って自動的に処理するシステム

(注) 野戦砲りゅう弾砲や加農砲などがあり、射程が長大かつ正確で大きな威力の発揮が可能である。わが国には、105mm、155mm及び203mmりゅう弾砲、155mm加農砲などがある。

迫撃砲高射角をもって射撃する火器で、発射速度が大きく、短時間に多量の火力を発揮できるが、一般に射程が短い。わが国には、60mm、81mm及び107mm迫撃砲がある。

(注) 対戦車へリコプター対戦車誘導弾を搭載したへリコプターで、特有の機動力を発揮して、効果的に戦車に対応しようとするものである。

(注) スタンドオフ・ミサイル相手の砲火にさらされる危険のないところから打ち放しができ、一般に自己ホーミンダ(IRホーミング、アクティブホーミング等)によって目標をとらえ、攻撃することができるミサイルをいう。

(注) TASS(Towed Array Sonar System)えい航式アレイソーナーシステム:艦艇がえい航するアレイソーナーで、潜水艦の発生音響をパッシブ方式により遠距離から探知するシステム

(注) CIWS(Close−In Weapon System):目標の捜索から発射までを自動処理する機能を持つ射撃指揮装置と機関砲を組み合わせたもので、艦艇に接近したミサイルを撃破する最終段階の防御システム

(注) 機雷戦機雷戦は、敷設された機雷を除去する対機雷戦と、着上陸侵攻対処や海峡防備などのために機雷を敷設する機雷敷設戦に分けられる。

(注) 機雷の深々度化最近の機雷については、主要各国とも深々度敷設を目指して研究開発を行っており、その中には水深1,000m以上でも敷設可能なものがある。また、機雷そのものも、艦船や潜水艦にホーミング(追尾)する自走式のものが開発されている。

(注) 連隊戦闘団普通科連隊を基幹として、それに戦車中隊、対戦車小隊、野戦特科大隊、施設中隊などを配属して、総合した戦力を発揮できるように編成した部隊

第3節 防衛力整備の概要

 わが国の防衛力整備については、昭和51年10月29日の国防会議及び閣議において決定された「大綱」によって防衛力整備の目標が明らかにされて以降、政府としては、それまでのような一定期間を限った第何次防衛力整備計画といったものを作成する方法は採らず、年々必要な決定を行ういわゆる単年度方式を主体とすることとしている。

 これは、内外情勢の変化等を考慮し、各年度の防衛力整備の具体的内容は、その時々における経済財政事情等を勘案し、国の他の諸施策との調和を図りつつ、柔軟に決定するのが適当であり、中期の防衛力整備の見積りを政府計画として決定しておく必要はないとの考えに基づくものである。

 一方、防衛庁が、「大綱」に基づき、逐年の防衛力整備を進めるに当たり、重視すべき主要な事業について可能な範囲で将来の方向を見定めておくことは、実際の業務を進める上で必要なことであり、このような観点から、防衛庁は、次の基本的性格を持つ中期業務見積り(中業)を作成することとしている。

 逐年の防衛力整備の基礎とする業務計画、予算概算要求等の作成に資することを目的とした防衛庁の内部参考資料である。

 対象とする範囲は、陸上、海上及び航空自衛隊の実施する主要な事業であり、この場合、正面装備に関する事業についてはある程度詳細な見積りを行うが、その他の事業については概略の方向を見定めることにとどめるものである。

 その作成する年度の翌々年度以降おおむね5年間の見積りであるが、従来の防衛力整備計画のような固定的な計画ではなく、各年度の予算の決定等により毎年度見直しを行い、また、3年ごとに新たな見積りを作成し直すなど、その時々の状況の変化に柔軟に対応していくこととしているものである。

 本節では、昭和58年度から昭和62年度までを対象とする中期業務見積り(56中業)及び昭和58年度防衛力整備の概要などについて述べる。

1 56中業

(1) 56中業の性格

56中業は、前述した中業の基本的性格を変更するものではないが、近年の厳しい国際情勢等を背景として、わが国の防衛力整備に対する内外の関心が強くなっていることなどにかんがみ、シビリアン・コントロールの観点からも、国防会議に付議することとされ、昭和57年7月23日の国防会議において、防衛庁の中期にわたる防衛力整備の進め方に関する考え方の大筋を示すものとして了承されたものである。また、この56中業について、特に次の諸点が確認されている。

ア 56中業は、向こう5か年間において、「大綱」水準ヘ到達するための一つの見積りとし、防衛庁が各年度の業務計画、概算要求等を作成する際の参考資料という性格のものであって、当然のことながら、各年度の予算編成を拘束するものではないこと

イ 56中業の対象期間内における各年度の主要事業の具体的整備内容等については、国防会議において、年々「防衛力の整備内容のうち主要な事項の取扱いについて」(昭和51年11月5日 国防会議及び閣議決定)(資料30参照)審議する際に、その時々における経済財政事情、国の他の諸施策との調和、防衛力整備の重要性等を勘案しつつ審議し、所要の措置を採るものであること

ウ 56中業の進捗状況等については、適宜、国防会議において、防衛庁から報告を聴取するものとすること

(2) 整備方針

56中業は、同見積り案の作成に際しての長官指示(昭和56年4月28日長官指示第2号)に基づき、「大綱」の「別表」に定める基幹部隊、主要装備等を中核として、「大綱」に定める「防衛の構想」に従い、その「防衛の態勢」及び「陸上、海上及び航空自衛隊の体制」を量的にも質的にも備えた防衛力を、原則としてその完成時において保有することを基本的目標とし、

四面環海のわが国の国土、地勢等に適した防空能力、対潜能力、水際防御能力等の充実近代化、電子戦能力、継戦能力、即応態勢及び抗たん性の向上を特に重視し、指揮通信、後方支援及び教育訓練態勢の充実近代化にも配意して作成したものである。

ただし、厳しい財政事情、財政負担の平準化の必要性、要員確保、施設取得の困難さ等にかんがみ、次のことが考慮されている。

 隊員の充足及び緊急時における急速取得が比較的容易と認められる装備品等の充足については、警戒のための態勢、教育訓練の態勢等に支障を生じない範囲にとどめる。

 装備品等の量的及び質的充足については、装備品等の耐用命数、期間中の減耗状況、防衛生産・技術基盤の安定的維持向上の必要性等との関連において、計画的に充実近代化することによって達成できる程度にとどめる。

 期間中に質的に満足する装備品等を選定し、整備することが困難なものについては、現状の充足にとどめる。

 新たな用地の取得等を必要とする装備品等の充実については、用地の確保が見込める範囲にとどめる。

(3)  達成状況

56中業による防衛力整備の結果到達する完成時勢力について概観すれば、次のとおりである。

これは、作戦用航空機数、継戦能力、抗たん性等それぞれの事情により、例外的に不備があるものもあるが、全体としては、量的には「大綱」水準をほぼ達成する域に到達していると評価され、質的には、引き続きこの程度の着実な整備テンポを継続することによって、「大綱」水準に到達し、これを維持できるものと評価している。

ア 防空能力についてみると、要撃戦闘機部隊は、新鋭のF−15部隊が6個飛行隊、延命施策を施したF−4EJの部隊が4個飛行隊と充実し、E−2Cの警戒航空隊は運用態勢に入り、作戦用航空機は約400機に増加し、地対空誘導弾部隊の一部の更新近代化が行われるなど、現在の不備が相当改善される。

イ 対潜能力についてみると、対潜水上艦艇60隻、潜水艦15隻と量的に概成し、質的には、4個護衛隊群の近代化が完了し、作戦用航空機も新鋭のP−3C72機を含み、約190機の勢力となり、掃海部隊の近代化も進むなど、周辺海域の防衛及び海上交通保護能力は相当向上するものと考えている。

ウ 着上陸侵攻対処能力についてみると、支援戦闘機部隊の充実、師団の特科火力、装甲機動打撃力、対戦車火力の向上、機雷の充実等が図られ、ミサイル艇の整備も予定され、地対艦誘導弾の開発も行われるなど、水際防御能力を含めその能力の向上が期待される。

エ 各種の作戦に必要な電子戦能力、継戦能力、即応態勢及び抗たん性についても、弾薬備蓄の充実、レーダーサイト等の防空能力の向上、航空基地の被害復旧資材の備蓄等を予定し、その向上に配慮しているところである。

オ 警戒監視、指揮通信、後方支援、災害救援態勢についても、自動警戒管制組織(バッジシステム)の更新による多目標処理能力の向上、中央指揮所の運用開姶による統合運用体制の改善、救難機の更新等により、その能力向上が図られる。

 

 なお、56中業の主要整備内容は、資料31のとおりである。

(4) 経費の概略等

56中業における主要整備内容のうち、正面装備の取得のために昭和58年度から昭和62年度までの間に必要とする経費の概略は、昭和57年度価格で4兆4千億円ないし4兆6千億円と見積もっている。

56中業においては、正面事業以外については、概略の方向を見定めることにとどめており、後方関係経費、人件糧食費については見積りの対象としていないので、56中業期間中の防衛関係経費の総額については、詳細な見積りを行っていない

他方、GNPは、経済の状況によって変化するものであり、したがって、期間中の防衛関係経費とGNPは双方とも相当の不確定要素を持った流動的なものである。

各年度の防衛力整備については、その時々における経済財政事情等を勘案し、国の他の諸施策との調和を図りつつ、「大綱」に定める防衛力の水準を着実に達成することとしているところである。

防衛庁としては、このような方針の下に策定した56中業を着実に実施することを基本としつつ、できる限りの効率化、合理化等により、極力財政負担の軽減に努めることとしている。

56中業の実施に伴う期間中の防衛関係経費とGNP1%相当額については、以上のような事情にあるが、政府としては、防衛関係経費に関する昭和51年11月5日の閣議決定(第4節参照)に沿うよう最大限努力することとしており、現在のところ、この閣議決定を変更する必要はないと考えている。(高級幹部会同における防衛庁長官訓示

2 昭和58年度防衛力整備の概要

 本年度の防衛力整備に当たって、防衛庁としては、現下の厳しい国際情勢にかんがみ、「大綱」に定める防衛力の水準をできるだけ速やかに達成する必要があるとの考えに立ち、

 56中業を参考として引き続き質の高い防衛力の着実な整備に努める

 正面のみならず後方についてもバランスのとれた整備を行い、特に教育訓練態勢の維持向上に努める

ことを基本としている。

 また、行政改革の推進が現在の緊急課題であることを念頭におき、引き続き、防衛力の整備及び運用の両面にわたる効率化及び合理化に特段の配慮を払って、限られた資源の有効な活用に努力した。具体的には、艦艇や航空機の延命、整備方式の合理化、用途廃止武器などの転活用のほか、教育訓練の合理化などを推進することとしている。

 本年度の防衛力整備の主な事項は次のとおりである。

(1) 部隊の新編

ア 多連装ロケット中隊

陸上自衛隊は、火力の強化を図るため、同時広域制庄能力に優れた75式自走多連装130mmロケット弾発射機の整備を進めている。方面隊や師団等の全般的な火力支援に当たるため機動的に運用する第l特科団に多連装ロケット中隊を新編する。

イ 誘導弾整備所

護衛艦等への対空及び対艦ミサイルの装備の進展に伴い、ミサイルの整備所要が逐年増加している。今後のミサイルの整備所要の増大に対処し、業務を効率的に遂行するため、海上自衛隊は、ミサイル整備を専門的に実施する部隊として、誘導弾整備所を横須賀に新編する。

ウ 臨時警戒航空隊

 航空自衛隊は、低空侵入機を早期に発見するための早期警戒機E−2Cの整備を進めている。昨年度取得した2機と本年度取得する2機の計4機で、本年度から運用試験を開始することとしており、その態勢等を整備するため、臨時警戒航空隊を三沢基地に新編する。

なお、本格的な部隊編成は、既に調達を行っている8機のE−2Cの取得が完了する昭和60年度に行う予定である。(E−2C 早期警戒機

エ 硫黄島基地隊

航空自衛隊は、飛行訓練上の諸制約に対処するため、硫黄島を訓練場として整備する計画を推進しており、本年度末から移動訓練を開姶する予定である。このため、現地において訓練を支援する硫黄島基地隊を新編する。

(2) 装備の更新近代化

昨年度までに調達したもののうち本年度取得する主要装備及び本年度調達する主要装備は第3−13表のとおりである。以下、主なものについて説明する。

ア 陸上自衛隊

(ア) 新155mmりゅう弾砲(FH70)

FH70は、北海道以外の師団等の特科火力の更新近代化を図るため、新規に調達に着手するものである。その性能は、現有の米軍供与の旧式化した155mmりゅう弾砲(M1)に比べて第3−14表に示すように優れており、特科火力の近代化に欠かせないものである。本年度は、教育用及び部隊用として20門調達することとしている。(新155mmりゅう弾砲(FH70)

(イ) 携帯式地対空誘導弾(携帯SAM)

航空機の性能向上に対応し、陸上自衛隊は航空攻撃下で地上戦闘を効果的に遂行するための戦車部隊等の対空火器として、また、航空自衛隊は基地防空用火器として、昭和56年度から導入を開始した携帯SAMを、本年度は陸上自衛隊が35セット、航空自衛隊が12セット調達することとしている。本年度取得する陸上自衛隊の14セットと航空自衛隊の6セットは、その最初のものである。

イ 海上自衛隊

(ア) 艦艇

3,400トン型護衛艦(DD)は、2,900トン型護衛艦(DD)の性能向上型であり、対空(低空)目標の捜索能力や情報処理能力の向上などが図られている。この護衛艦は、HSS−2B対潜へリコプター1機を搭載するほか、76mm速射砲、アスロック発射装置、艦対艦ミサイル(SSM)ハープーン、短距離艦対空ミサイル(短SAM)シースパロー、高性能E20mm機関砲(CIWS)及び各種電子戦装置などを装備する。本年度建造に着手するのはその1番艦である。

本年度就役する2,200トン型潜水艦は、艦船攻撃能力及び自己の残存性を強化するために対艦ミサイル(USM)ハープーンを装備した最初の艦である。

なお、既に就役している護衛艦の防空能力の向上を図るためのCIWSの装備及び2,200トン型潜水艦の艦船攻撃能力等の向上を図るためのUSMの装備を逐次進めることとしている。(2,900トン型護衛艦「しらゆき」

(イ) 航空機

最近の各国の潜水艦の著しい性能向上にかんがみ、逐次除籍されていく対潜哨戒機Pー2Jなどに替えP−3Cの整備を推進中であり、本年度は7機の調達を行う。これによって、P−3Cの総調達機数は32機(うち本年度末における取得機数13機)となる。

ウ 航空自衛隊

(ア) 航空機

防空戦闘能力の強化を図るため、要撃戦闘機F−104Jの減勢に伴いF−15の整備を推進中であり、本年度は13機の調達を行う。これによって、F−15の総調達機数は93機(うち本年度末における取得機数40機)となる。

また、現有の輸送機C−1及びYSー11に加えて、航空輸送能力を向上させるため、昭和56年度に導入を開始した輸送機C−130H2機を本年度初めて取得する。

(イ) 新自動警戒管制組織

現有の自動警戒管制組織(バッジシステム)は、昭和43年度に運用を開始し今日に至っているが、未自動化のレーダーサイトがある上、近年の著しい航空脅威の増大に対して自動探知・追尾能力、要撃管制能力などにおいて性能上の不足が生じてきている。また、わが国の戦闘機など各種装備の近代化やE−2Cの導入などにより電子計算機の容量不足などの問題も生じている。新バッジシステムはこうした状況に対応するため、本年度からその整備に着手するものである。

バッジシステム近代化の主な内容は、次のとおりである。

 28か所のレーダーサイトをすべて自動化し、全国的な自動警戒管制システムとする。

 航跡処理能力を増大するなどにより、警戒監視機能を強化する。

 自動要撃管制数を増大するなどにより、要撃管制能力を向上させる。

 部隊等の現況に関する自動表示機能を付加するなどにより、指揮統制機能を強化する。

(3) 即応態勢・継戦能力等の向上策

即応態勢を向上させるための機雷・魚雷の実装化及び弾薬庫やミサイル完成弾集積所などの整備、継戦能力を向上させるための各種弾薬の備蓄、抗たん性を向上させるための短SAM、携帯SAM、航空機用えん体及び滑走路被害復旧マット等の整備などを引き続き推進している。

(4) 研究開発

本年度は、次の研究開発を推進することとしている。

ア 着上陸侵攻対処能力の向上を図るものとして、海上からの武力攻撃に際し、できる限り水際以遠においてこれを減殺し国土に戦闘が及ぶのを最小限に食い止めるために有効な地対艦誘導弾、主要各国の主力戦車に対抗し得る火力、機動力及び防護力を備えた新戦車、小型軽量で個人携行可能な中距離における対戦車火力としての対戦車誘導弾、航空及び地上の火力の脅威下で偵察や警戒に使用可能な偵察警戒車など
イ 対潜能力の向上を図るものとして、現有艦載ヘリコプターの後継機とするために、米国製の機体を活用してわが国の対潜戦の運用に適したものとする新対潜ヘリコプター(艦載型)システムなど
ウ 防空能力の向上を図るものとして、航空機が近接戦闘する際に有効な、運動性に優れた格闘戦用ミサイル、陸上部隊などを航空機の攻撃から護る自走型の新高射機関砲など
エ 警戒監視能力の向上を図るものとして、高い対電子戦対策能力を有する次期警戒管制レーダーなど
オ パイロットの教育訓練の効率化を図るための中等練習機、ミサイルの射撃訓練を経済的、効率的に実施し得るターゲット・ドローンなど

 

これらの中で、偵察警戒車、新対潜へリコプター(艦載型)システム、次期警戒管制レーダー及びターゲット・ドローンは本年度から新たに開発に着手する。

3 防衛力整備の推移

 第2部第2章で述べたように、「大綱」では、わが国が保有する防衛力について、防衛の態勢として、わが国の防衛力が備えておくべき機能別のあり方を示すとともに、この防衛の態勢を確保するために陸・海・空各自衛隊が維持すべき体制及び各自衛隊の基幹部隊や主要装備などの具体的規模を示している。

 わが国の防衛力の機能面からみた現状は前節で述べたとおりであるが、陸・海・空各自衛隊の基幹部隊や主要装備などの規模について、近年の推移も含めて「大綱」の別表と比較すると第3−15表のとおりである。この表において、主要装備の一部には、58完成時勢力が現在(昭和57年度末)よりも減少するものがみられるが、これは逐年整備を推進しているものの、現在保有している主要装備の減勢が58完成時までの間に取得量を上回って生ずることが見込まれるためである。

 また、「大綱」に定められている防衛の態勢及び各自衛隊の体制を維持するためには、装備品等の量だけでなく、必要な質が伴わなければならない。防衛力は、わが国に対する侵略を未然に防止し、万一侵略が行われた場合にはこれを排除するためのものであり、防衛力の整備に当たっては、諸外国の技術的水準の動向に対応し得るよう、質的向上に配意していく必要がある。

 現状においては、陸上自衛隊の火砲など、一部の装備には米軍が第2次世界大戦中に使用したものと同型式の旧式化したものがあるなど、整備の遅れている分野も一部みられる。このため、防衛庁としては、装備の更新近代化を進めるほか、研究開発にも鋭意努力しているところである。

 また、装備の更新近代化や研究開発については、その成果が現実にわが国防衛の一翼を担うまでには多大の費用と労力のほかに長い期間を要することに注意する必要がある。例えば、戦車についてみると、研究開発から第一線部隊に配備するまでにl0年以上を要している。また、主要な護衛艦の整備については予算成立から就役までにはほぼ5年を要し、航空機の整備についても、3〜5年を要している。さらに、装備の整備とは別に、これら新装備を使用する要員等の養成も一朝一夕になし得るものではない。

 このように防衛力整備には長い期間を要し、国際情勢の急激な変化に急速に対応することは容易ではない。したがって、平素から将来のわが国防衛力のあるべき姿を検討しつつ、長期的視野に立って着実な更新近代化等を図っていくことが大切である。

 

(注) 装備等には、調達(発注)後取得するまで2年ないし5年の長期間を要するものがあり、ここにいう完成時勢力とは、56中業対象期間の最終年度である昭和62年度までに調達(発注)を終了し、これらがすべて取得された時点での勢力をいう。

(注) 参考までに、防衛関係経費等について、防衛庁において、大まかに試算してみると、期間中の防衛関係費総額は、昭和57年度価格で15兆6千億円ないし16兆4千億円となる。

(注) ターゲット・ドローン空対空ミサイルの標的として訓練等に使用するための、戦闘機から空中発進が可能な無人標的機

第4節 防衛関係費

 わが国の防衛力整備に関する経費については、従未の第3次防衛力整備計画(3次防)や第4次防衛力整備計画(4次防)においては、その計画の実施に必要な5か年間の防衛関係費の総額の見込みが具体的金額をもって明示されていた。これに対し、「大綱」によって防衛力整備の目標が明らかにされてからはこのような具体的金額は示されず、「大綱」において「防衛力整備の具体的実施に際しては、そのときどきにおける経済財政事情等を勘案し、国の他の諸施策との調和を図りつつ行うものとする」との基本力針のみが示されている。

 また、防衛力整備に必要な年々の防衛関係費の規模に関する政府としての当面の態度を明らかにするため、政府は、過去の実情、「大綱」に基づく今後の防衛力整備、経済財政事情の見通しなどを総合的に勘案し、昭和51年11月5日、「大綱」とは別に、当面の防衛力整備について.国防会議及び閣議において「防衛力整備の実施に当たっては、当面、各年度の防衛関係費の総額が、当該年度の国民総生産の100分の1に相当する額を超えないことをめどとして、これを行うものとする」ことが決定されている。

1 昭和58年度防衛関係費の概要

 防衛関係費は、自衛隊の維持運営に必要な経費のほかに、防衛施設周辺の生活環境の整備などの事業のための経費や国防会議の運営に必要な経費を含み、さらに大蔵本省への計上額(特定国有財産整備特別会計への繰入れ分。本年度は計上なし)を含んでいる。

 本年度の防衛関係費は、わが国を防衛するために必要な最小限の経費を計上したものである。

(1) 防衛関係費の規模

本年度の防衛関係費は総額で2兆7,542億円であり、前年度予算2兆5,861億円に比べて6.5%の伸び率となっている。この結果、一般会計歳出予算に占める防衛関係費の割合は本年度は5.5%となり、昨年度の5.2%に比べ0.3%上昇している。

また、本年度の防衛関係費の国民総生産に対する比率(対GNP比)は、昨年度の0.93%を上回る0.98%となっている。(第3−43図 国家予算中の割合(%)

(2) 主要事業の経費

本年度の事業内容を予算面からみれば次のとおりである。

ア 防衛関係費の概要

イ 装備の充実

ウ その他の主要事項

2 防衛関係費の内訳と推移

 防衛関係費は、陸・海・空各自衛隊などの機関別に経費を分類した「機関別内訳」、人件・糧食費、装備品等購入費などの使途別に経費を分類した「使途別内訳」、既国庫債務負担行為及び継続費の歳出化経費、当年度における新規装備品調達等のための経費などの性質別に経費を分類した「経費別内訳」などに分類してみることができる。

(1) 機関別内訳

本年度の防衛関係費の機関別内訳は第3−44図のとおりであり、陸、海、空自衛隊の経費は防衛関係費全体の約86%(陸37%、海24%、空25%)となっており、防衛施設庁の経費は約11%を占めている。

(2) 使途別内訳

防衛関係費を使途別にみると、隊員の給与や糧食費となる「人件・糧食費」、隊員の生活の維持や教育訓練活動に必要な経費である「維持費等」、戦車、艦船、航空機などを購入、建造するための「装備品等購入費」、飛行場、隊舎などを整備するための経費である「施設整備費」、装備品等を研究開発するための経費である「研究開発費」、基地周辺整備等の経費である「基地対策経費」(前章第4節参照)などに分類される。

これらの経費のうち、「人件・糧食費」を除く、「維持費等」、「装備品等購入費」、「施設整備費」、「研究開発費」、「基地対策経費」等を合わせて「物件費」という。また、「装備品等購入費」、「施設整備費」及び「研究開発費」は、将来にわたる防衛力の整備充実のための新たな投資的経費であることから、これらを合わせて「資本的経費」という場合がある。

「人件・糧食費」は、昭和48年秋の石油ショック以降のべースアップが大幅であったことなどにより、その防衛関係費に占める割合は、昭和51年度には56.0%とピークに達したが、その後べースアップが落ち着いてきたこともあり低下の傾向がみられている。特に、本年度は人事院勧告の凍結の影響等もあり、昨年度よりも約2%低下し44.5%になっている。

「維持費等」の防衛関係費に占める割合は、装備品の近代化等に伴し、近年増加を続けており、本年度は16.3%になっている。

「装備品等購入費」は、石油ショックを契機として、その防衛関係費に占める割合は、昭和47年度の24.9%から昭和51年度には16.4%まで減少したが、装備品の近代化等に伴い近年増加に転じ本年度は24.9%になっている。

「施設整備費」の防衛関係費に占める割合は、昭和49年度以後2%台で推移してきた。本年度においては、飛行場、港湾、弾薬庫などの事業関連施設を整備するための経費は昨年度並みに確保されているものの、隊舎、公務員宿舎などの隊員の生活関連施設を整備する経費は、厳しい財政事情を反映して約66億円と昨年度(約109億円)に比し大幅な減額となっている。このため、本年度の「施設整備費」の防衛関係費に占める割合は1.9%と最近における最も低い割合となっている。

最近の技術の目覚ましい発展に対応して、「研究開発費」の防衛関係費に占める割合は近年やや増加しつつあり、本年度は1.1%になっている。

「基地対策経費」は、昭和47年度の沖縄復帰に伴う大幅な増額や昭和53、54年度からの在日米軍駐留経費の増額などにより防衛関係費に占める割合は高まり、昭和54年度以降は10%台で推移し本年度は10.0%になっている。(第3−45図 防衛関係費の使途別内訳の推移

(3) 経費別内訳

防衛関係費の経費別内訳は、「人件・糧食費」、既に国会の議決を経ている国庫債務負担行為及び継続費の後年度支払い分、いわゆる後年度負担に係る「歳出化」経費及び当年度における新規装備品調達などのための「その他」経費に分類される。

防衛力の整備に当たっては、「大綱」に従い、主要装備の更新近代化を中心に質の高い防衛力を着実に整備していくことを基本方針としているが、その際、艦艇や航空機などの大型装備品等は、その製造に第3−16表のとおり長年月を要し、単年度予算では調達できないものが多い。したがって、これらの装備品等の取得に当たっては、財政法に定められている国庫債務負担行為及び継続費の方式を採用している。これらの方式によれば、最長5年間にわたる製造などの契約をするための予算措置が行われることとなり、当年度予算で支払われる前金部分以外の経費は、いわゆる後年度負担となり、次年度以降の歳出予算によって支払われることになる。これが、いわゆる「歳出化」経費といわれるものであり、毎年度の防衛関係費の中で相当の割合を占めている。

「歳出化」経費は、護衛艦、P−3C、F−15などの大型装備品等の調達に伴い逐年増加の傾向にあり、その防衛関係費に占める割合は本年度は31.1%になっている。

また、「その他」経費の防衛関係費に占める割合は近年やや低下しつつある。特に本年度においては、一般歳出が前年度同額以下に抑制された中で、防衛関係費は昨年度に比し約1,680億円の増加となっているが、増加額の内訳をみると、「人件・糧食費」の増加(約205億円)と「歳出化」経費の増加(約1,540億円)という、いわば義務的な経費のみで約1,740億円となり、防衛関係費の増加額より多い増加額となっている。このため、新規装備品などの調達のための「その他」経費は、昨年度に比べ約60億円減少と厳しく抑制(防衛関係費に占める割合も昨年度の26.3%から24.4%に低下)されている。「その他」経費の減少は、自衛隊の草創期である昭和35年度予算以来23年ぶりのことである。(第3−46図 防衛関係費の経費別内訳の推移

3 各国との比較

 防衛関係費の国際比較については、各国の置かれた政治的及び経済的諸条件、社会的背景などが異なること、さらに各国における防衛費や国防費については、その内訳が明らかでない場合が多く、また、その定義も各国の歴史、制度等の諸事情により異なり、必ずしも統一されたものではないことから、外部に現れた計数のみをもって単純に比較を行うことにはおのずから限度がある。しかし、国民総生産(GNP)や国家予算に対する比率などによる国際的な比較が一般的に行われており、その際使用されることが多い英国の国際戦略研究所発行の「ミリタリー・バランス(1982−1983)」により諸外国と比較すれば第3−17表のとおりである。

 これによると、わが国の防衛関係費は、金額においては世界第8位に位置するが、第7位のフランスの金額の半分以下であり、防衛関係費の対GNP比、国民1人当たりの防衛関係費及び防衛関係費の対歳出予算比においても、欧米諸国に比べて低いことがわかる。

 

第3章 日米防衛協力

 わが国の防衛にとって、自らが適切な規模の防衛力を保有し、これを最も効率的に運用し得る態勢を築くことはもとより、日米安全保障体制が有効に機能することが必要不可欠の要件である。このためには、日米両国の不断の協力による日米安全保障体制の円滑かつ効果的な運用態勢の整備を通じて、その有効性と信頼性を維持向上させることが必要であり、これによるわが国の安定が、アジアひいては世界の平和と安定に貢献することともなる。このような観点から、日米両国政府の関係者がふだんから日米両国間の安全保障上の諸問題について、自由かつ率直な意見の交換を図り、密接な意思疎通を図ることは極めて重要なことであるといえよう。

 日米両国間の安全保障上の意見の交換は、通常の外交ルートによるもののほか、従来から内閣総理大臣と米国大統領との日米首脳会談を始めとする両国政府関係者の間で行われてきている。本年l月には、中曽根首相が米国を訪れ、レーガン大統領と経済・貿易、安保防衛問題など2国間の関係について全般的な意見交換を行った。その会談において、レーガン大統領は、日米間に良好な協力関係があることを高く評価し、政治的、経済的困難にもかかわらず、中曽根首相が防衛予算及び対米武器技術供与の問題で示した決断を高く評価するとともに、日本が自らの防衛政策を達成し得るよう一層前進することを希望する旨述べた。これに対して中曽根首相は、日本の防衛政策について基本的考え方を説明するとともに、防衛力整備の問題については、今後とも自主的な判断に基づきわが国自身のために努力していきたい旨述べた。また、両首脳は鈴木・レーガン共同声明(昭和56年5月8日 資料35参照)を再確認した。

 本章では、日米安全保障体制の有効性と信頼性を確保するために行っている日米両国の防衛協力に関する具体的努力について説明する。

第1節 日米両国政府の関係者による協議

 日米両国間の安全保障上の意見の交換として、前述の日米首脳会談のほか、わが国の防衛庁長官と米国の国防長官との間でも定期的に会談が行われている。

 このほか、日米両国政府の関係者の間で行われる協議のうち、主要なものとしては第3−18表に掲げるものがある。

 本節では、最近の日米防衛首脳会談及び日米安全保障事務レベル協議の動きについて述べる。

1 日米防衛首脳会談

 昭和50年8月に行われた坂田・シュレシンジャー会談の合意に基づき、日米両国の防衛首脳による定期的協議が行われており、以来随時の協議も含めて、これまで日米防衛首脳会談は12回を数えている。

 昨年9月には伊藤防衛庁長官が米国を訪問し、ワインバーガー国防長官と会談を行った。この会談の概要は次のとおりである。

 まず、日本側から、「指針」に基づく共同作戦計画の研究の場で行われるシーレーン防衛に関する日米共同研究をできる限り速やかに開始したい旨述べたのに対し、米国側から、同研究の円滑な進展を期待していること、また、1,000海里以遠は米国が責任をもって当たる旨の発言があった。また、日本側から、わが国は厳しい財政状況にあるが、56中業及び昭和58年度概算要求においてシーレーン防衛の重要性をも考慮して防衛力整備を進めることを説明したのに対し、米国側からは、米国も厳しい財政状況の中で努力をしており、議会も含め米国側としては昭和57年度防衛予算についての努力は評価するが、これは第一歩であり、昭和58年度の防衛努力も着実に行われることを期待している旨の発言があった。

 武器技術の対米供与については、米国側から、防衛技術の日米間の交流が相互通行になるように、本件の検討を進めてほしい旨の期待が表明されたほか、米国側から説明のあった青森県三沢飛行場へのF−16の配備について、日本側から協力する旨述べた。

 ミッドウェー空母艦載機の着艦訓練の問題については、米国側から協力方要請がなされ、日本側から、訓練の重要性にかんがみ、あらゆる角度から検討し、訓練が円滑に実施できるよう努力していく旨述べた。

 最後に、今後とも日米間において間断なき対話を続けていくことで意見の一致をみた。

2 日米安全保障事務レベル協議

 昨年9月の日米防衛首脳会談に先立ち、昨年8月から9月にかけて第14回の日米安全保障事務レベル協議が開催された。本協議は、日米両政府における事務レベルの安全保障関係者が、日米相互にとって関心のある安全保障上の諸問題について、自由かつ率直な意見の交換を行うものである。

 第14回協議においては、まず、双方に関心のある国際情勢についての意見交換を行った。さらに、日本側から56中業、昭和58年度概算要求の作成の背景及びその内容を説明し、国内の財政事情等種々の制約の中で、わが国としては精一杯の防衛努力を行っていることを説明した。これに対し、米国側からは、56中業における「大綱」達成のための努力は評価するが、80年代の国際情勢を考えると、達成される防衛力水準は不十分であること、56中業がなるべく早く達成されるなど一層の防衛努力をしてほしいという期待が寄せられた。

 また、わが国のシーレーン防衛能力については、米国側から、米国の分析によれば56中業を達成してもなお弱点を有するとの見解が述べられたのに対し、日本側から、56中業によりその能力は相当程度向上するものと考えている旨説明の上、シーレーン防衛については「指針」に基づく共同作戦計画の研究の場で研究することを提案し、米国側も賛同した。

第2節 日米防衛協力のための指針

1 「指針」の作成経緯

 昭和51年の第16回日米安全保障協議委員会において、前年の三木首相とフォード大統領との会談及び坂田防衛庁長官とシュレシンジャー米国防長官との会談における了解を受けて、日米安全保障条約及びその関連取極の目的を効果的に達成するために、軍事面を含めて日米間の協力のあり方について研究、協議を行うため、同委員会の下部機構として防衛協力小委員会が新たに設置された。この小委員会は、昭和51年8月の第1回会合以来、2年有余にわたり8回に及ぶ研究・協議を重ね、その結果を「日米防衛協力のための指針」としてとりまとめた。

 第17回日米安全保障協議委員会(昭和53年11月)は、防衛協力小委員会から、これまでの研究・協議の成果である「指針」の報告を受けこれを了承した。次いで、国防会議及び閣議に外務大臣及び防衛庁長官から報告されるとともに、防衛庁長官から「この指針に基づき自衛隊が米軍との間で実施することが予定されている共同作戦計画の研究その他の作業については、防衛庁長官が責任をもって当たることとしたい」旨の発言があり、いずれも了承された(「指針」については資料36参照)。

2 「指針」の前提条件

(l) 事前協議に関する諸問題、日本の憲法上の制約に関する諸問題及び非核3原則は、研究・協議の対象としない。

(2) 研究・協議の結論は、日米安全保障協議委員会に報告し、その取扱いは、日米両国政府のそれぞれの判断に委ねられるものとする。この結論は、両国政府の立法、予算ないし行政上の措置を義務づけるものではない。

3 「指針」の概要

 このような経緯を経て策定された「日米防衛協力のための指針」の概要は次のとおりである。

(1) 前文

この「指針」は、日米安全保障条約及びその関連取極に基づいて日米両国が有している権利及び義務に何ら影響を与えるものではない。

この「指針」が記述する米国に対する日本の便宜供与及び支援の実施は、日本の関係法令に従う。

(2) 侵略を未然に防止するための態勢

ア 日本は、自衛のために必要な範囲内において適切な規模の防衛力を保持し、かつ、施設・区域の安定的効果的使用を確保する。

米国は、核抑止力を保持するとともに、即応部隊を前方展開し、来援し得るその他の兵力を保持する。

イ 共同対処行動を円滑に実施し得るよう、日本防衛のための共同作戦計画についての研究を行う。

ウ 作戦、情報及び後方支援の事項につき共通の実施要領を研究する。

エ 日本防衛に必要な情報を作成し、交換する。

オ 必要な共同演習及び共同訓練を実施する。

カ 補給、輸送、整備、施設等後方支援の各機能について研究を行う。

(3) 日本に対する武力攻撃に際しての対処行動等

ア 日本に対する武力攻撃がなされるおそれのある場合

(ア) 必要と認められるときは、自衛隊と米軍との間に調整機関を開設する。

(イ) 作戦準備に関し、共通の準備段階をあらかじめ定めておき、両国政府の合意によって選択された準備段階に従い、それぞれが必要と認める作戦準備を実施する。

イ 日本に対する武力攻撃がなされた場合

(ア) 日本は、原則として、限定的かつ小規模な侵略を独力で排除し、侵略の規模、態様等により独力で排除することが困難な場合には、米国の協力をまって、これを排除する。

(イ) 自衛隊は、主として日本の領域及びその周辺海空域において防勢作戦を行い、米軍は、自衛隊の行う作戦を支援し、かつ、自衛隊の能力の及ばない機能を補完するための作戦を実施する。

(ウ) 自衛隊及び米軍は、緊密な協力の下に、それぞれの指揮系統に従って行動する。

(エ) 自衛隊及び米軍は、緊密に協力して情報活動を実施する。

(オ) 自衛隊及び米軍は、効率的かつ適切な後方支援活動を緊密に協力して実施する。

(4) 日本以外の極東における事態で日本の安全に重要な影響を与える場合の日米間の協力

両国政府は、情勢の変化に応じ随時協議する。また、両国政府は、日本が米軍に対して安全保障条約その他の関係取極及び日本の関係法令に従って行う便宜供与のあり方について、あらかじめ相互に研究を行う。

4 「指針」に基づく研究

 防衛庁では、「指針」に基づいて、現在、共同作戦計画の研究その他の研究作業を実施しており、その概要ほ次のとおりである。

(1) 主な研究項目

「指針」で予定されている主要な研究項目は、大略、次のとおりである。

ア 「指針」第1項及び第2項に基づく研究項目

(ア) 共同作戦計画

(イ) 作戦上必要な共通の実施要領

(ウ) 調整機関のあり方

(エ) 作戦準備の段階区分と共通の基準

(オ) 作戦運用上の手続

(カ) 指揮及び連絡の実施に必要な通信電子活動に関し相互に必要な事項

(キ) 情報交換に関する事項

(ク) 補給、輸送、整備、施設等後方支援に関する事項

イ 「指針」第3項に基づく研究項目

日本以外の極東における事態で、日本の安全に重要な影響を与える場合の米軍に対する便宜供与のあり方

(2) 「指針」第1項及び第2項に基づく研究の進捗状況

「指針」に基づき、自衛隊が米車との間で実施することが予定されている共同作戦計画の研究、その他の研究作業については、「指針」の報告・了承が行われた国防会議及び閣議において、防衛庁長官が責任をもって推進することが了承され、防衛庁と米軍の間で、これまで統幕事務局と在日米軍司令部が中心となって実施してきた。

これまでの研究作業においては、共同作戦計画の研究を優先して進め、わが国に対する侵略の一つの態様を設想の上研究を行い、昭和56年夏に一応の概成をみた。その他の日米調整機関、情報交換に関する事項、共通の作戦準備等の研究作業についても、逐次研究を実施しているところである。

なお、共同作戦計画の研究については、現在も情勢の変化に応じた見直しや補備のための研究作業を進めているところであり、いわばエンドレスに続けられるべき性格のものとして、今後とも、引き続きその研究を行っていくほか、その他の事項についても、鋭意研究作業を推進していくこととしている。

(3) 「指針」第3項に基づく研究について

日本以外の極東における事態で、日本の安全に重要な影響を与える場合の米軍に対する便宜供与のあり方の研究については、昨年1月8日の日米安全保障協議委員会において、これに取りかかることについて意見の一致がみられ、外務省及び防衛庁と、在日米大使館及び在日米軍司令部との間で研究作業を行っているところである。

5 シーレーン防衛に関する日米共同研究の開始

 前節に述べたように、昨年の第14回日米安全保障事務レベル協議において、シーレーン防衛に関する研究を、「指針」に基づく共同作戦計画の研究の一環として行っていくことで日米両国間に意見の一致をみた。これを受け、本年3月12日に開催された第9回日米防衛協力小委員会において、同研究の前提条件等研究の基本的な枠組みの確認が行われた。

 本研究は、「指針」作成の際の前提条件及び「指針」に示されている基本的な制約、条件、構想等の範囲内において、日本に武力攻撃がなされた場合、シーレーン防衛のための日米共同対処をいかに効果的に行うかを研究するものである。本研究が円滑に実施されることによって、わが国のシーレーン防衛についての自衛隊と米軍との具体的な協力のあり方が現在以上に明確になり、日米安全保障体制の効果的な運用に資することになるものと考えている。

第3節 日米間の装備・技術面の協力関係

 本節では、日米両国間の装備・技術面での協力の現状と、今般新たにその途が開かれた対米武器技術供与について説明する。

1装備・技術面の協力の現状

(1) 装備・技術の提供

米国からのわが国への装備・技術の提供は、日米安全保障体制を踏まえ、従来から活発に行われてきているところであり、わが国の防衛力の充実・向上に大きく寄与している。その提供の形態としては、無償又は有償援助によるもの、ライセンス生産によるもの等がある。米国からわが国への装備・技術の提供は、主として、昭和29年に日米両国政府間で締結された「日本国とアメリカ合衆国との間の相互防衛援助協定」(「相互防衛援助協定」(資料37参照))に基づき行われている。

米国からのわが国に対する装備品等の提供は、無償援助(MAP:Military Assistance Program)に始まる。その後、わが国を含む経済的先進国に対する無償援助は打ち切られることとなり、わが国に対する無償援助は昭和42年をもって終了している。有償援助(FMS:Foreign Military Sales)は、米国による対外軍事援助の一形態であり、わが国はこの方式により早期警戒機E−2C、輸送機C−130H、対艦ミサイル ハープーン、対空ミサイル ターター等を調達している。要撃戦闘機F−15J、対潜哨戒機P−3C、203mm自走りゅう弾砲等は、米国との間の取極に基づいてライセンス生産されている。

さらに、防衛庁が調達している主要な装備品等のうち、商社等を経由して調達する一般輸入品も、そのほとんどが米国からのものである。このほか、日米両国間においては、装備に関する資料の交換等の交流が行われている。

(2) 装備・技術面の対話(日米装備・技術定期協議)

日米防衛当局間における装備・技術面における協力の一つとして、昭和55年9月、ワシントンにおいて第1回日米装備・技術定期協議が開催され、続いて同年12月及び昭和56年12月に東京において第2回、第3回協議が開かれ、さらに本年7月ワシントンにおいて第4回協議が開かれた。この協議は、装備・技術面における日米防衛当局間の協力関係の一層の緊密化を図ることを目的とした事務レベルの非公式会合であり、これまで、各種装備・技術情報の交換及びライセンスリリース(技術導入による国内生産についての米国政府からの許可)の円滑化、資料交換に関する取極の活発化等について話合いが行われた。

このような装備・技術面の協力関係は、技術の進展に伴いますます重要になるため、今後ともよりー層の充実を図るべきであると考えている。

2 対米武器技術供与

(1) 防衛分野における技術の相互交流については、昭和56年以来、米側よりその推進についての希望が表明されてきている。

この問題については、相互交流の一環としての対米武器技術供与と、武器輸出三原則及び昭和51年2月の武器輸出に関する政府方針(「三原則等」)等との関係や日米安全保障条約に基づく日米安全保障体制との関係等について、政府部内において、約1年半にわたり慎重な検討が重ねられた。その結果、本年1月14日に米国に対し武器技術を供与する途を開くとの結論に達し、この政府の決定を内閣官房長官談話(資料38参照)の形で明らかにした。

(2) 日米安全保障体制の下においては、日米両国が相互に協力してそれぞれの防衛力を維持し発展させることとされており、これまで本節第1項で述べたように、わが国は必要に応じ防衛力整備のため、米国からライセンス生産等技術の供与を含め各種の協力を得てきている。しかしながら、近年わが国の技術水準が向上してきたことなどの新たな状況を考慮すると、わが国としても防衛分野における米国との技術の相互交流を図ることが、日米安全保障体制の効果的運用を確保する上で極めて重要となっている。また、これは、防衛分野における日米両国間の相互協力を定めた日米安全保障条約等の趣旨に沿うゆえんであり、わが国及び極東の平和と安全に資するものであるといえる。このような認識に立って、相互交流の一環としての対米武器技術供与に限って「三原則等」の例外扱いとするという今回の政府の決定がなされたものである。

(3) 対米武器技術供与は、「相互防衛援助協定」の関連規定の枠組みの下で実施されることとされており、その供与に当たっては「三原則等」によらないこととされている。しかしながら、同協定では、その下で供与される援助について、国際連合憲章と矛盾する使用の禁止、供与国の事前同意なき第3国への移転の禁止等厳しい制約が課せられており、これにより国際紛争等を助長することを回避するという「三原則等」のよって立つ平和国家としての基本理念は確保されることとなる。

なお、今般その途が開かれた対米武器技術供与は、これを実効あらしめるために必要な物品で武器に該当するもの、例えば、試作品などの輸出もその対象とされるが、それ以外の場合の武器の輸出については従来どおり「三原則等」が適用されることとなっている。

 

(注) 武器輸出三原則とは、昭和42年4月、当時の佐藤首相が表明したもので、共産圏諸国向けの場合、国連決議により武器等の輸出が禁止されている国向けの場合、国際紛争当事国又はそのおそれのある国向けの場合には、武器の輸出を認めないというものである。

また、昭和51年2月の武器輸出に関する政府方針とは、当時の三木首相が表明したもので、その概要は、武器の輸出について、三原則対象地域については、「武器」の輸出を認めない、三原則対象地域以外の地域については、「武器」の輸出を慎むものとする、武器製造関連設備については「武器」に準じて取り扱うものとする、という方針により処理するものとし、武器の輸出を促進することはしないというものである。

(また、武器技術の輸出(非居住者への提供)についても、武器輸出三原則及び昭和51年2月の武器輸出に関する政府方針に準じて対処することとされている。)

第4節 在日米軍の現状等と必要施策

 既に述べたとおり、日米安全保障体制を堅持することはわが国の防衛政策の基本方針であり、防衛庁は、これを真に実効あるものとしていくために、在日米軍に施設・区域を提供してその安定的使用の確保に努め、あるいは、同軍を維持していくために必要な労務を提供するなどの施策を講じているところである。

 以下、本節では、在日米軍の現状、第1節で触れた米軍のF−16の三沢配備及び在日米軍の駐留を円滑にするために防衛庁が行っている施策の内容を述べる。

1 在日米軍の現状

(1) 在日米軍は、司令部を東京都福生(ふつさ)市の横田飛行場に置き、司令官は第5空軍司令官が兼務している。司令官は、わが国の防衛を支援するための諸計画を立案する責任を有し、平時には、在日米陸軍司令官及び在日米海軍(在日米海兵隊を含む)司令官に対し調整権を保有している。緊急事態発生時には、在日米軍司令官として、在日米軍の諸部隊及び新たに配属される米軍部隊を指揮することになっている。

また、在日米軍司令官は、わが国における米国の軍事関係の代表として、防衛庁及びその他の省庁との折衝を行うとともに、地位協定の実施に関し外務省と調整する責任も有している。

(2) 在日米陸軍は、司令部を神奈川県のキャンプ座間に置いているが、わが国内には陸軍の戦闘部隊は駐留しておらず、管理、補給、通信などの業務を主任務としている。米陸軍が使用している施設・区域としては、神奈川県の相模総合補給廠、広島県の川上弾薬庫などがある。このほか、米軍事運輸管理コマンドの在日部隊は、那覇港湾等の管理に当たっている。

(3) 在日米海軍は、司令部を神奈川県の横須賀海軍施設に置き、主に第7艦隊に対する支援に当たっている。横須賀には、米海軍の各種の艦船を修理することができる施設があり、これらの施設は米海軍の任務遂行のために重要な役割を果たしている。

このほか、長崎県の佐世保海軍施設や沖縄県のホワイト・ビーチ地区等にも海軍関係施設があり、艦艇に対する補給などを行っている。

神奈川県の厚木飛行場は、主として艦載機の修理及び訓練基地として、米海軍航空部隊が使用している。また、青森県の三沢飛行場と沖縄県の嘉手納飛行場には、対潜哨戒飛行隊が配備されている。

(4) 海兵隊は、沖縄県のキャンプ・コートニーに第3海兵両用戦部隊司令部を置き、1個海兵師団及びl個海兵航空団から成る強襲兵力を擁している。

海兵隊地上戦闘部隊は、沖縄県のキャンプ・ハンセン及び静岡県の東富士演習場などで訓練を実施し、高度の即応態勢を堅持している。また、海兵両用戦部隊の一部は、常に第7艦隊両用戦艦艇に乗艦し、緊急事態発生に備えている。

対地支援を主任務とする海兵航空団は、その司令部を沖縄県のキャンプ瑞慶覧生(ずけらん)に置き、1個海兵航空群を同県の普天間飛行場に、2個海兵航空群を山口県の岩国飛行場にそれぞれ配備している。

(5) 在日米空軍は、東京都の横田飛行場に第5空軍司令部を置き、沖縄県の嘉手納飛行場に1個戦術戦闘航空団を配備している。さらに、同飛行場には、昭和55年からF−15及び空中警戒管制機E−3Aが配備され、戦術航空能力が強化されている。また、横田飛行場には、戦術空輸群を配備している。

 

以上の在日米軍の配置状況は第3−47図及び第3−48図に示すとおりであり、また、在日米軍の兵力は約49,700人(昭和57年12月31日現在)である。

2 F−16の三沢配備

 昨年6月、在日米軍司令部を通じて、米国側から、青森県の三沢飛行場にF−16を配備したい旨の説明があった。米国側の説明によれば、この配備の目的は、極東における軍事バランスの改善に努め、米国のコミットメントの意思を明確にすることにより、日米安全保障体制の抑止力の維持向上を図るものであることが明らかにされた。政府としては、関係省庁間において検討を進めた結果、この措置が、日米安全保障体制の信頼性を高め、抑止力を強化し、わが国及び極東における平和と安全の維持に寄与するものであることから、今後地元に協力を求めるなどの必要はあるものの、基本的に本計画に協力することとし、昨年9月の伊藤防衛庁長官の訪米に際し、この旨を米国側に伝えたものである。

 米国側の計画では、1985年(昭和60年)以降、おおむね4年間にF−16を約40〜50機三沢飛行場に配備し、第5空軍隷下に2個飛行隊を有する1個航空団として、新編する予定であり、この配備に伴う人員増は軍人及びその家族を含めて合計約3,500人程度と見込まれている。(F−16 戦闘機

3 在日米軍の駐留を円滑にするための施策

(1) 在日米軍の駐留は、日米安全保障体制の核心をなすもので、わが国の安全のために不可欠である。その駐留を真に実効あるものとして維持するために、わが国としても、条約に定められた責任を積極的に遂行していかなければならない。

在日米軍の駐留に関することは、地位協定に規定されているが、この中には、在日米軍の使用に供するための施設・区域の提供に関すること、在日米軍が必要とする労務の需要の充足に関することなどの定めがある。

(2) わが国は、地位協定の定めるところにより、施設・区域について、日米合同委員会を通じて日米両政府間で合意するところに従い、わが国の経費負担で提供する義務を負っている。在日米軍は、駐留目的を達成するために、これら施設・区域において、必要な訓練・演習、その他の活動を行っている。

また、在日米軍は、同軍を維持するために日本人従業員の労働力を必要としており、この労務に対する在日米軍の需要は、地位協定によりわが国の援助を得て充足されることとなっている。そこでわが国は、給与、その他の勤務条件を定めた上、日本人従業員(本年4月末現在約20,800人)を雇用し、その労務を在日米軍に提供しており、所要経費については米側が負担してきた。

なお、わが国は、在日米軍の駐留に関連して、従来から、施設・区域の提供に必要な経費を負担するほか、わが国の負担による独自の施策として、施設・区域の周辺地域の生活環境等の整備について、各般の施策を実施するとともに、日本人従業員の離職対策なども行ってきている。

(3) ところで、在日米軍の駐留に関連して米側が負担する経費は、昭和40年代後半からわが国における物価と賃金の高騰や国際経済情勢の変動などによって、相当圧迫を受け窮屈なものとなっている。このような事情を背景として、政府は、在日米軍の駐留が円滑かつ安定的に行えるようにするため、また同時に、日本人従業員の雇用の安定を図るため、在日米軍が駐留に関連して負担する経費の軽減について、現行の地位協定の枠内で、できる限りの努力を行うとの方針の下に、次のような施策を講じている。すなわち、在日米軍の施設・区域については、昭和54年度から老朽隊舎の改築、家族住宅の新築、老朽貯油施設の改築、消音装置の新設などを行い、これらを施設・区域として提供することとしているほか、労務費については、昭和53年度から日本人従業員の福利厚生費などを、昭和54年度からは、給与のうち国家公務員の給与水準を超える部分の経費をわが国が負担してきている。本年度においても、老朽化、又は不足している米軍の宿舎の現状を是正するための隊舎及び家族住宅の整備、施設・区域の周辺住民の環境を保全するための汚水処理施設などの整備並びにその他の施設整備を行うとともに、引き続き、日本人従業員の福利厚生費などと前述の給与の一部を負担することとしている。

これらの措置に要する本年度歳出予算額は、施設整備費約439億円(ほかに後年度負担額約303億円)、労務費約169億円、計約608億円である。

(4) この経費の負担のほかに、わが国は、前述のとおり、在日米軍の駐留に関連して、従来から、施設・区域の提供に必要な経費の負担、施設・区域の周辺地域の生活環境等の整備のための措置、日本人従業員の離職対策などの諸施策を行ってきており、これらの施策のために本年度に防衛庁分として防衛施設庁に計上された予算額は、前掲の約608億円を含めて約1,813億円である。

わが国としては、以上のように在日米軍の駐留をより円滑にする努力を行っているところであり、在日米軍が駐留に関連して負担する経費の軽減について、今後とも地位協定の枠内において、できる限りの努力を続けていく考えである。(第3−47図 在日米軍(沖縄を除く)配置の概要(昭58.3.31現在))(第3−48図 沖縄における在日米軍の配置(昭58.3.31現在)

第5節 日米共同訓練

 自衛隊は、平素から部隊を訓練して、有事に即応し得る態勢の維持向上に努めているが、自衛隊独自の訓練を行うほかに、米軍との共同訓練を実施している。

 自衛隊が米軍と共同で訓練を行うことは、自衛隊にとって新たな戦術・戦法の導入及び練度の向上を図る上で有益である。また、このような日米共同訓練を通じて平素から自衛隊と米軍との戦術面等における相互理解と意思疎通を図っておくことは、わが国に対する武力攻撃が発生した場合に、両者がそれぞれの指揮系統に従って行動することから、このような有事における日米共同対処行動を円滑に行うために不可欠であり、日米安全保障体制の信頼性及び抑止効果の維持向上に資するものである。

 このような観点から、防衛庁としては今後とも、日米共同訓練を機会をとらえて積極的に実施していく方針である。

1 陸上自衛隊

 陸上自衛隊の共同訓練は昭和56年度から開始され、昨年度は、通信訓練及び指揮所訓練のほか、初めて実動訓練を行った。これらの訓練を通じ、日米共同訓練の基礎は確立したと考えられ、今後は、さらに内容・規模の充実を図ることとしている。

(1) 通信訓練

通信訓練は、昨年9月、北海道大演習場において行われ、陸上自衛隊から第7師団の約180人、米陸軍から第25歩兵師団の約120人の指揮官、幕僚及び通信要員が参加し、日米の部隊相互間における交信要領等を訓練した。この訓練により、通信系の構成要領、通信文の送受要領等について演練することができた。

(2) 指揮所訓練

指揮所訓練は、昨年6月米国ハワイ州スコフィールドバラックス及び同年12月北海道東千歳駐屯地において行われた。いずれも日米の指揮官、幕僚等が参加し、侵攻部隊に対し日米が共同して対処する場を想定し、図上において相互の調整要領を演練したものである。これらの訓練を通じて、米軍の指揮幕僚活動や戦術・戦法についての認識を深めたほか、日米両部隊の相互理解及び信頼感を深めるのに役立った。

(3) 実動訓練

陸上自衛隊は、昨年11月東富士演習場において、初めて米陸軍と共同して実動部隊を演習場に展開して訓練を行った。陸上自衛隊からは第1師団の約500人、米陸軍からは第9歩兵師団の約200人の部隊が参加し、日米の部隊相互間の連係要領を実行動により演練した。

この種の訓練は初の訓練であったため、実弾射撃は実施しないなど初歩的かつ基礎的なものであったが、指揮官・幕僚の相互調整要領及び日米両実動部隊の連係要領について修得するとともに、米軍の戦術・戦技についても理解を深め、今後の実動訓練実施の基礎を確立することができた。(日米共同訓練(日・米両部隊指揮官の前線視察)

2 海上自衛隊

 海上自衛隊は、昭和30年度以来、対潜訓練及び掃海訓練を中心とした共同訓練を行ってきた。昨年度は、対潜訓練を中心とする共同訓練を行ったほか、海上自衛隊の演習に米海軍が参加して、日米間の連係を含め総合的な訓練を行った。

(1) 共同訓練

海上自衛隊は、わが国周辺海域において、第7艦隊との共同訓練を毎年度2〜3回行っているが、昨年8月に日本海において、また本年1月には九州西方から四国南方に至る海域において、共同訓練を行った。日本海における共同訓練は、前・後半を通じ延べ10日間にわたって行われ、前・後半とも海上自衛隊から艦艇9隻及び航空機数機が、米海軍から艦艇8隻(前半においては空母1隻を含む)及び航空機数機が参加し、対潜訓練、水上打撃戦訓練、防空戦訓練等を行った。九州西方から四国南方に至る海域における共同訓練は6日間にわたって行われ、海上自衛隊から艦艇7隻及び航空機数機が、米海軍から艦艇5隻及び航空機数機が参加し、対潜訓練を主とした訓練を行った。

(2) 海上自衛隊演習における共同訓練

昨年9月に、約1週間にわたり、三陸沿岸から紀伊半島に至る周辺海域において行われた海上自衛隊演習に、昭和56年度に引き続き米海軍が参加し、対潜訓練、防空戦訓練等を行った。参加艦艇及び航空機は、海上自衛隊の護衛艦等15隻及び航空機延べ25機、米海軍の艦艇5隻及び航空機数機であった。

これらの訓練を通じて、海上自衛隊の戦術・技量の向上が図られたほか、日米部隊相互の基礎的な連係要領を演練することができた。(日米共同訓練(第7艦隊旗艦ブルーリッジとのハイライン訓練)

3 航空自衛隊

 航空自衛隊は、昭和53年度以来、戦闘機戦闘訓練を主に共同訓練を行ってきたほか、救難訓練を日米共同で行った。

(1) 戦闘機の戦闘訓練

航空自衛隊は、昨年度米軍と合計9回にわたって戦闘機の戦闘訓練を行い、航空自衛隊からF−4EJ等が、米軍からF−15等が参加した。この訓練の中で、米空軍の早期警戒管制機であるE−3Aと計2回にわたって連係訓練を行った。これは、E−3Aによって提供された目標情報を基に、航空自衛隊の戦闘機が米軍機と戦闘訓練を行うものであり、今回の訓練を通じてE−3Aとの連係要領について演練することができた。

(2) 救難訓練

この訓練は、捜索機及び救難へリコプターを使用して洋上における遭難者の捜索及び救助要領の演練を行うものであり、昨年度1回行った。(日米共同訓練(日米両国パイロットの検討会と両国戦闘機)

第6節 その他の協力

 以上、述べてきたもの以外の日米両国間の協力としては、留学生交換、自衛隊の米国派遣訓練等を挙げることができる。

1 留学生等の交換

 隊員の外国留学は、高度の専門知識の修得及び国際的感覚と広い視野を具えた幹部の育成を目的として実施されており、毎年85人程度(最近5年間の平均)を外国に留学生として送り出しているが、そのうち米国には毎年70人程度を、主として軍の大学校及び各職種学校並びに一般大学に派遣している。

 他方、外国からの防衛庁の教育機関等への留学生は、昭和50年度以降、累計90人を数えるが、そのうち、米国からは数人にとどまっており今後の増加が期待される。

 そのほか、米3軍の士官学校と防衛大学校との間で、毎年3〜5人の学生を短期間、相互に交換しており、これら学生については相互に部隊及び訓練の見学等を実施している。

 留学生等の交換は、日米の相互理解の増進と密接な人間関係を育成する見地からも、極めて有意義なものであると考えられる。

2 米国派遣訓練

 日本にはない諸訓練施設を使用して、戦術技量の向上を図っていく必要から、自衛隊は、毎年1〜3か月の期間、所要の部隊を米国に派遣して、第3−19表に示す訓練を行っている。また、これまで、米国から新装備を導入した際には、必要に応じその基幹となる要員の初度教育を米国に委託して実施してきたが、最近では、P−3C、F−15、E−2C及びC−130Hの導入に伴い、昭和54年度から昨年度にかけて延べ約500人の基幹要員を米国各地の教育部隊等に派遣し、所要の教育訓練を実施した。

3 隊付訓練等

 陸上自衛隊は、隊員を米国及び国内の米軍基地に派遣し、米軍の訓練・演習を研修・見学させている。一方、米軍の中・初級将校を部隊等に受け入れて、訓練・演習等を研修・見学させ、日米相互に戦術・戦法、国民性等の理解を図っている。これらは、日米共同訓練及び部隊等における教育訓練の実施に資するとともに、日米間の相互理解の促進と友好親善に寄与するものであり、今後とも規模・内容の充実を図っていく考えである。