第2部

わが国の防衛政策

第1章 わが国の安全保障と防衛力

 わが国は、資源・エネルギーの大部分を海外に依存して、その生存と繁栄を維持している北東アジアに位置する先進民主主義国である。このようなわが国にとって、国の安全を脅かし、その存立を危うくするものとしては、武力による侵略等のほか、資源・エネルギー、食糧などの供給制限又は停止等、様々なものが考えられるが、本章では、武力による侵略等に対するわが国の安全保障について説明した上で、わが国の防衛力の意義を明らかにする。

第1節 安全保障

1 侵略等の態様

 わが国の安全を脅かす侵略等の態様としては、そのときの国際情勢等により様々なものが考えられるが、これを一般的にみた場合、「防衛計画の大綱」(第2章第2節参照)にもあるように、直接侵略(限定的かつ小規模なものから、これを超えるものまであろう)、間接侵略(一般に外国の教唆又は干渉によって引き起こされた大規模な内乱及び騒じょうをいう)及び軍事力をもってする不法行為(わが国近傍海域にあるわが国の船舶に対して行われる軍事力をもってする示威、恫喝、臨検、だ捕、あるいは隠密的な破壊活動(非公然武力行使)等のほか領海侵犯等)等が考えられる

2 侵略等に対する安全保障

 我々は、国民一人一人が個人として尊重され、多様な意識や価値観を持ち、それぞれの好むところに従い、多彩な活動を行い得る国家体制、すなわち、個人の最大限の自由の保障に高い価値を置く民主主義を基調とする国家体制の下で生活している。わが国が国民の意思に基づき、人権を保障し、社会秩序を維持するとともに、国際社会の平和と安定や自由貿易体制を維持するための努力を行ってきたからこそ、このような国家体制が維持されてきたのであり、このことと、我々が世界でも有数の活力ある豊かな社会を築きあげることができたこととは、決して無関係ではない。

 万一にも侵略等が生起し、わが国の平和が損なわれ、独立が侵されるようなことがあれば、もはや自由と繁栄とを追求することはおろか、国民の安全を確保することすら困難となるであろう。

 国の安全を保つためには、国を守る気概の充実と活力ある豊かな社会の維持とともに、次の3つの面での努力を整合性をもって推進することが必要である。

 まず、平和な国際環境の実現に努めることである。わが国は、西側諸国を始めとする諸外国との連帯と協調を図り、国連の平和と安全の確保のための諸活動に対する協力を一層強化しつつ、世界の各地における紛争、対立の解決・緩和のための外交努力や経済協力等を通じて、世界の政治的安定や経済的発展に貢献する必要がある。また、国際社会の平和と安定が力の均衡によって支えられているという現状を踏まえ、力の均衡を維持しつつ、その均衡の水準をできるだけ引き下げるようたゆまざる軍縮努力を行っていかなければならない。

 次に、自ら適切な防衛力を保持することにより、侵略等を抑止するとともに、万一侵略等が生起した場合には、これに対処できるように自助の努力をすることである。

 さらに、日米安全保障体制を堅持し、その円滑かつ効果的な運用に努めることである。

(注) なお、平時の軍事力の利用についてみれば、軍事力を背景として政治的影響力を行使することもあろう。

第2節 防衛力の意義

 わが国の安全保障のあり方は、前節において述べたとおりであるが、このための手段として防衛力も重要かつ不可欠な機能を果たしている。本節では、まず軍事力の意義を一般的に述べ、次いで、わが国の防衛力の意義を説明する。

1 軍事力の意義

(1) 軍事力

国の安全が非軍事的手段によって確保されることは望ましいことではあるが、今日の国際社会においては、非軍事的手段だけで国の安全を全うすることは困難である。いかに適切な非軍事的手段を尽くしたとしても、現実に直接侵略が生起した場合に、これを直接に排除し得るのは軍事力である。

また、軍事力は、間接侵略や軍事力をもってする不法行為に対処するためにも必要である。

さらに、政治的影響力行使の手段としても軍事力は重要な意味を持つことがあり、このような点から、直接軍事力を行使することがなくても、相手国に対する圧力や恫喝により政治目的を達成しようとする動きには警戒を要しよう。軍事力による政治的威圧や恫喝を受けたとき、それを決然としてはね返すためには、軍事力の保持を含む安全保障体制等を整えておくことが必要である。

今日の世界では、主権国家が分立し現実に紛争等が多発しているが、その中にあって、それぞれの地域において各国が適切な軍事力を保持することにより力の空白地帯を作らないこと、すなわち軍事的均衡が維持されることが、その地域における安定的な国際関係の維持を図る上で極めて重要である。

このように、軍事力は、依然として国の安全を保障する上で必要不可欠の要素であるといえる。

(2) 核時代における通常戦力の意義

核時代の今日、巨大な破壊力を有する核戦力の存在にもかかわらず、世界各国が通常戦力の整備に努めているのはなぜであろうか。

軍事力の役割は、核兵器の出現と科学技術の急速な進歩によって大きく変化した。すなわち、東西間においては、核兵器の使用による相互破滅の可能性が生まれたことのほか、通常戦力による武力紛争であっても、相互に極めて大きな被害を受けることになったため、軍事力は、武力行使の手段としてよりはむしろ戦争をできる限り回避し、未然に防止するという抑止力の側面が重視されるようになり、通常戦力についても、このような抑止力としての側面が重視されている。

しかしながら、第三世界等においては、この間通常戦力による紛争が数多く生起してきた。

このような状況の下において、世界各国は、核兵器の保有国であると否とを問わず、通常戦力による紛争等を抑止し、また、必要な場合これに対処するために通常戦力の整備に努めている。

2 わが国の防衛力の意義

 現代において、国の平和と安全を維持するためには、外交努力による国際協調の推進並びに政治、経済及び社会の安定と発展といった非軍事面における努力が極めて重要な条件であることはいうまでもないが、同時に武力侵略の可能性が否定できない限り、侵略に備えて自衛手段としての防衛力を整備しておくことが必要不可欠である。

 わが国が防衛力を保持することは、その自由と独立、平和と安全及び発展と繁栄を自らの手によって守り維持するという国民の意志を諸外国に対して具体的に表明するものであるとともに、直接的には日米安全保障体制とあいまって、わが国に対する侵略を未然に防止し、万一侵略があった場合には、独力で又は米国との共同によってこれに対処することを目的としている。

 すなわち、わが国の防衛力は、日米安全保障条約に基づく米国の核抑止力を含む軍事力の存在とあいまって、あらゆる脅威に対処し得る態勢を構成することにより、相手国に侵略意図を放棄させ、侵略を未然に防止する役割を果たしている。また、万一侵略が生起した場合には、限定的かつ小規模な侵略に対しては原則としてわが国の防衛力により独力で排除することとし、侵略の規模、態様等により独力での排除が困難な場合には米国と協力してこれを排除する役割を果たすものである。わが国がこのような防衛態勢を保持していることが、わが国周辺の国際政治の安定の維持に貢献することともなっているといえよう。

 さらに、わが国の防衛力は、軍事力を背景とする他国の政治的・外交的威圧や脅迫を抑止し、万一そのような事態が生起した場合には、これに屈しない備えともなるものであるとともに、間接侵略その他の緊急事態に際して、−般の警察力をもっては治安を維持することができない場合、これを補完して治安維持の機能をも果たし得るものである。

 加えて、わが国の防衛力は、天災地変その他の災害の発生などに際して、その組織、装備、能力などをいかして人命、財産、国民生活の保護を図るなど民生の安定にも寄与している。

第3節 西側の一員としての日本

 第2次世界大戦後に形成された、圧倒的な軍事力を有する米国及びソ連をそれぞれ中心とする東西の集団安全保障体制間の対峙という基本的な国際軍事構造は、現在の国際秩序の基本的な枠組みをなしている。このような枠組みの中で、これまで東西間の緊張は何度かあったものの、米国を始めとする西側の安全保障面における努力により、主要国間の大規模な武力紛争といった事態は生じず、国際社会の平和が維持されてきた。このような国際軍事構造の中で、戦後、西側諸国は協力して自由貿易体制等の堅持に努めることにより、経済的、社会的及び政治的安定と繁栄を享受してきた。

 他方、ソ連の軍事力増強による東西間の軍事バランスにおける変化、日欧等の経済力の充実などの動きによって、近年、経済的、政治的及び軍事的な分野における米国の力は、かつてのように圧倒的なものではなくなった。このため、米国の地位は相対的に低下して国際軍事構造が変化し、国際平和の維持に不確実性を高めるおそれが生じている。このような状況において、米国は、国際社会の平和と安定の前提条件である軍事バランスの維持のために自ら一層の国防努力を図るとともに、同盟諸国に対しても応分の責任を果たすことを期待し、西側全体の安全保障体制の信頼性の維持を図ろうとしている。

 一方、わが国は、上に述べたような戦後の枠組みの下で目覚ましい経済発展を遂げ、今日ではそのGNPは世界の1割程度に達するなど、わが国の動向が世界の諸情勢にかなりな影響を及ぼす存在となってきており、国際社会においてその地位にふさわしい役割を果たしていくことが求められているといえる。このため、わが国が自由と民主主義という価値観を共にする西側諸国との間の政治・経済面における協力関係の一層の緊密化に努め、また、自ら質の高い防衛力整備を図ることが、ひいては世界の平和と安定の維持に貢献することとなる。

 すなわち、わが国が憲法及び基本的な防衛政策に従い防衛力の向上に努めることは、わが国の安全がより一層確保されるだけでなく、日米安全保障体制の信頼性の維持強化につながり、その結果、東西の軍事バランス面において西側諸国の安全保障の維持にも寄与し、アジアひいては世界の平和と安全に貢献するものである。

第4節 国を守る気概と防衛関連諸施策

 わが国の防衛は、自衛隊と日米安全保障体制のみで可能であるというものではなく、わが国を守ろうとする国民の確固とした防衛意志の存在を基盤とし、有事の際、国民を保護し、被害を最小限にとどめるための民間防衛体制、国民の生活を維持するための施策及び防衛力がその機能を十分に発揮するために必要な施策等の防衛関連諸施策が整備されることによって初めて全うできるものである。

1 国を守る気概

 今日、わが国は自由と民主主義を基本理念とする西側先進諸国の一つであり、日本国民は、独特の文化を持ち、美しい国土に自由で平和な生活を営んでいる。愛国心は、このようなわが国土への愛着であり、我々の生活共同体が平和のうちに発展することを願う人間自然の情であり、誰しもが持っている心情である。大切なことは、それをどういうときに、どのように発揮するかである。侵略からわが国を守るため、最善の努力を尽くすことは、国民一人ー人の務めであり、その務めを果たそうとする自覚が愛国心の発露であり、国を守る気概である。

 有事に備えてわが国が防衛力を整備しているのは、そのような国を守る気概を前提としている。それに支えられたとき、初めて自衛隊は真に国を守る力となり得るものであり、各分野における啓発に関する配慮も必要であろう。

2 防衛関連諸施策

(1)民間防衛

わが国に対して万一侵略があった場合、国民の生命・財産を保護し、被害を最小限にとどめる上で、国民の防災及び救護・避難のため、政府・地方自治体及び国民が一体となって、民間防衛体制を確立することが必要である。このような民間防衛に関する努力は、また、国民の強い防衛意志の表明でもあり、侵略の抑止につながり、国の安全を確保するため重要な意義を有するものである。

欧州諸国等では、第2次世界大戦において、市民の死傷率が軍人のそれを上回ったという事実にかんがみ、もしも将来、他国から武力攻撃が加えられた場合、これらの被害に対する対策が講じられなければ、市民にばく大な数の犠牲者が出るであろうとの予想に基づいて、民間防衛に関する努力を行ってきている。これら諸国では、いずれも担当する政府機関の設置、関連する法律の制定、組織づくり、退避所の建設など民間防衛体制の整備に努力している。また、これらの諸国では、中央政府及び地方自治体の計画・指導の下に、いざという場合に、国民それぞれが自らの生命や家庭を守るとともに、負傷者の救護、公共の諸施設の復旧等を行って、社会秩序を維持・回復することができるよう、平素から退避訓練等の民間防衛に関する諸活動を実施している。これらの諸活動は、結果的に、平時突発する自然災害等に対処する上で有効なものとなっている。

わが国においては、現在のところ、民間防衛に関してはみるべきものがない。今後、国民のコンセンサスを得つつ、民間防衛体制について政府全体で広い観点から慎重に検討していくべきであろう。

(2) 国民生活を維持するための施策

わが国にとって、国民生活を維持するためには、資源・エネルギー、食糧などの確保が不可欠である。これらの生産地あるいは輸送経路等において武力紛争又は大規模な天災地変等の事態が起こった場合、あるいはわが国の有事において海上交通が妨害される場合等に予想される資源・エネルギー、食糧などの供給の停止等に対し、わが国が冷静に対処するためには、これらの必要物資を備蓄しておくことが有効であろう。

さらに、このような施策の推進とあいまって、有事におけるわが国の国民生活、経済活動等を維持するために必要な物資の海上輸送の実施体制のあり方についても、有事において講ずべき緊急措置の一環として、政府全体として総合的な観点から研究する必要があろう。

(3)その他の施策

防衛力を支え、これを真に有効に発揮させるためには、平時から防衛産業を育成し、建設、運輸、通信、科学技術等の分野において国防上の配慮を加えておく必要があろう。

スイス等においては、高速道路を臨時の滑走路として使用できるようにしており、有事の際、飛行場が爆撃等によって破壊されても、空軍はこれらを臨時飛行場として利用できるようにしている事例がある。また、各国とも教育の面においても配慮を加えているところである。

第5節 総合安全保障関係閣僚会議

 最近の国際政治経済情勢の推移を背景として、わが国の安全を確保するためには、総合的な施策の推進が必要であるとの視点に立ち、政府は昭和55年12月、「経済、外交等の諸施策のうち、安全保障の視点から、総合性及び整合性を確保する上で、関係行政機関において調整を要するものについて協議するため」内閣に総合安全保障関係閣僚会議を設置し、随時協議を実施しているところであり、本年5月の会合においては、総合安全保障政策の意義と重要性を再確認するとともに、中曽根首相のASEAN訪問及び国際政治経済情勢等わが国の総合安全保障にかかわる問題を幅広く討議した。

第2章防衛政策

第1節 防衛政策の基本

1 憲法と自衛権

 わが国は、第2次世界大戦後、再び戦争の惨禍を繰り返すことのないよう決意し、ひたすら平和国家の建設を目指して努力を重ねてきた。恒久の平和は、日本国民の念願であり、この平和主義の理想を掲げる日本国憲法は、第9条に戦争放棄、戦力不保持及び交戦権の否認に関する規定を置いている。

 もとより、わが国が独立国である以上、この規定が主権国家としてのわが国固有の自衛権を否定するものでないことは異論なく認められている。政府は、このようにわが国の自衛権が否定されない以上、その行使を裏付ける自衛のための必要最小限度の実力を保持することは憲法上禁止されているものではないと解しており、専守防衛をわが国防衛の基本的な方針として、実力組織としての自衛隊を保持し、その整備を推進し、運用を図ってきた。

 この専守防衛という言葉については確定された定義がある訳ではないが、これは相手から武力攻撃を受けたとき初めて防衛力を行使し、その防衛力行使の態様も自衛のための必要最小限度にとどめ、また、保持する防衛力も自衛のための必要最小限度のものに限られるなど、憲法の精神にのっとった受動的な防衛戦略の姿勢をいうものである。

 憲法の諸規定のうち、戦争放棄等を定めた第9条の趣旨についての政府の見解は次のとおりである。

 わが国が憲法上の制約の下において保持を許される自衛力は、自衛のための必要最小限度のものでなければならない。

 自衛のための必要最小限度の実力の具体的な限度については、そのときどきの国際情勢、軍事技術の水準、その他の諸条件により変わり得る相対的な面を有することは否定し得ないが、性能上専ら他国の国土の潰滅的破壊のためにのみ用いられる兵器、例えばICBM、長距離戦略爆撃機等はこれを保持することは許されない。

 次に自衛権の発動については、いわゆる自衛権発動の三要件、すなわち、わが国に対する急迫不正の侵害があること、この揚合にこれを排除するために他に適当な手段がないこと及び必要最小限度の実力行使にとどまるべきことに該当する場合に限られる。

 わが国が自衛権の行使としてわが国を防衛するため必要最小限度の実力を行使できる地理的範囲は、必ずしもわが国の領土、領海、領空に限られる訳ではないが、それが具体的にどこまで及ぶかは個々の状況に応じて異なるので、一概にはいえない。しかしながら、武力行使の目的をもって武装した部隊を他国の領土、領海、領空に派遣するいわゆる海外派兵は、一般に自衛のための必要最小限度を超えるものであって、憲法上許されないと考えている。

 国際法上、国家は、集団的自衛権、すなわち、自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止する権利を有しているものとされている。わが国が、国際法上、このような集団的自衛権を有していることは、主権国家である以上当然であるが、憲法第9条の下において許容されている自衛権の行使は、わが国を防衛するため必要最小限度の範囲にとどまるべきものであると解しており、集団的自衛権を行使することは、その範囲を超えるものであって、憲法上許されないと考えている。

 なお、憲法第9条第2項は、「国の交戦権はこれを認めない」と規定しているが、わが国は、自衛権の行使に当たっては、すでに述べたように、わが国を防衛するため必要最小限度の実力を行使することが当然に認められており、その行使は交戦権の行使とは別のものである。

2 国防の基本方針

 以上に述べた憲法の趣旨に基づいて進められているわが国の防衛政策は、昭和32年5月に国防会議及び閣議で決定された「国防の基本方針」にその基礎を置いている。

 この「国防の基本方針」は、まず、国際協調と平和への努力の推進及び内政の安定による安全保障の基盤の確立を、次いで効率的な防衛力を漸進的に整備すること及び日米安全保障条約に基づく日米安全保障体制を基調とすることを方針として掲げている(日米安全保障条約については資料9参照)。

3 非核三原則

 わが国は、核兵器については、政策として「持たず、作らず、持ち込ませず」の非核三原則を堅持している。

 核兵器の製造・保有は、原子力基本法の規定の上からも禁止されているところであるが、さらに、わが国は、昭和51年6月核兵器の不拡散に関する条約を批准し、非核兵器国として核兵器を製造しない、取得しないなどの義務を負っている。

4 シビリアン・コントロール

 自衛隊は、国民の意思にその存立の基礎を置くものであり、国民の意思によって整備・運用されなければならない。

 自衛隊は、旧憲法下の体制とは全く異なり、厳格なシビリアン・コントロール(文民統制)の下にある。

 シビリアン・コントロールの考え方は、欧米等の民主主義国では早くから根強く保持されており、各国の歴史と伝統の中にはぐくまれ、それぞれの制度と運用の実績を持っている。したがって、シビリアン・コントロールの実態を画一的なものとしてとらえることはできないが、現在の欧米等の民主主義国では、シビリアン・コントロールとは、民主主義政治を前提としての、軍事に対する政治優先又は軍事力に対する民主主義的な政治統制を指すといわれている。

 一般的に軍事力は、本来、国の平和と安全を保障するための重要な手段であるが、その強大な実力の運用を誤れば、逆に大きな不幸を招くおそれを持っている。そのため、欧米等の民主主義国において、このような実力集団を政治が支配・統制するための原理として、シビリアン・コントロールという考え方が重要視されるようになったものである。

 わが国の場合は、終戦までの経緯に対する反省もあり、他の民主主義諸国と同様、厳格なシビリアン・コントロールの諸制度を採用した。

 まず、自衛隊は、国民の代表たる国会によって、そのコントロールを受けている。自衛隊の定員、組織、予算等の重要な事項は国会で議決され、防衛出動については国会の承認が必要とされていること等のほか、自衛隊の諸問題に関しては絶えず国会で審議されている。

 次に、内閣は、国会に提出する法律案や予算案を決定し、政令を制定し、あるいは、防衛にかかわる重要な方針や計画を決定している。この内閣を構成する内閣総理大臣その他の国務大臣は、憲法上文民でなければならないことになっている。内閣総理大臣は、内閣を代表して自衛隊に対する最高の指揮監督権を有しており、自衛隊の隊務を統括する防衛庁長官も、文民である国務大臣をもって充てられる。

 内閣には、国防に関する重要事項を審議する機関として国防会議が置かれている。国防会議は、内閣総理大臣を議長とし、防衛庁長官、外務大臣、大蔵大臣、経済企画庁長官等を議員として構成され、防衛計画の大綱、防衛出動の可否等、基本的な問題のほか、随時、国防に関する重要事項を審議する。

 さらに、防衛庁では防衛庁長官が自衛隊を管理し、運営するに当たり、政務次官及び事務次官が長官を助けるのはもとより、基本的方針の策定については、いわゆる文官の参事官が補佐するものとされている。

 このように、自衛隊を民主的に管理・運営するためのシビリアン・コントロールの制度は、欧米等の民主主義国と同様わが国においても整備されている。

 なお、現代においては、軍事が専門化・高度化する一方、国の安全保障政策における外交、経済等、非軍事分野の重要性・多面性も増大しており、このような点を考慮すると、今日、シビリアン・コントロールの制度を運営するに当たっては、政治が軍事を十分に把握し、これを多面的・総合的な安全保障の中にいかに正しく位置づけるかということが極めて重要になっているといえよう。

 また、シビリアン・コントロールの制度がその実をあげるためには、政治、行政両面における運営上の努力が今後とも必要であることはもとより、国民全体の防衛に対する深い関心と隊員自身のシビリアン・コントロールに関する正しい理解と行動が必要とされるところである。

第2節 防衛計画の大綱

 わが国は、「国防の基本方針」に基づき、国力国情に応じた効率的な防衛力を漸進的に整備するため、当面の3年又は5年を対象期間とする防衛力整備計画を4次にわたって策定してきたが、第4次防衛力整備計画が終了した昭和51年の10月に、政府は「防衛計画の大綱」(「大綱」)を国防会議及び閣議において決定した。

 「大綱」は、従来の防衛力整備計画のように一定期間内における整備内容を主体とするものではなく、防衛力の維持及び運用をも含め、わが国の防衛のあり方についての指針を示し、自衛隊の管理及び運営の準拠となるものである。

 昭和52年度以降の防衛力整備は、この「大綱」に従って進められてきた。

 「大綱」の構成は、資料8に示すように、目的及び趣旨、国際情勢、防衛の構想、防衛の態勢、陸上、海上及び航空自衛隊の体制、防衛力整備実施上の方針及び留意事項並びに目標とする編成、主要装備等の具体的規模を示す「別表」から成っているが、ここでは防衛の構想、防衛の態勢、陸上、海上及び航空自衛隊の体制と目標とする編成、主要装備等の具体的規模並びに防衛力整備上の方針及び留意事項の概略について述べる。

1 防衛の構想

(1) 侵略の未然防止

わが国の防衛は、わが国自ら適切な規模の防衛力を保有し、これを最も効率的に運用し得る態勢を築くとともに、米国との安全保障体制の信頼性の維持及び円滑な運用態勢の整備を図ることにより、いかなる態様の侵略にも対応し得る防衛体制を構成し、これによって侵略を未然に防止することを基本とする。

また、核の脅威に対しては、米国の核抑止力に依存するものとする。

(2)侵略対処

間接侵略事態又は侵略につながるおそれのある軍事力をもってする不法行為が発生した場合には、これに即応して行動し、早期に事態を収拾することとする。

直接侵略事態が発生した場合には、これに即応して行動し、防衛力の総合的、有機的な運用を図ることによって、極力早期にこれを排除することとする。この場合において、限定的かつ小規模な侵略については、原則として独力で排除することとし、侵略の規模、態様等により、独力での排除が困難な場合にも、あらゆる方法による強じんな抵抗を継続し、米国からの協力をまってこれを排除することとする。

2 防衛の態勢

 防衛の態勢は、次の6項目の態勢を備えた防衛力を保有し、さらに、その防衛力は、情勢に重要な変化が生じ、新たな防衛力の態勢が必要とされるに至ったときには、円滑にこれに移行し得るよう配意された基盤的なものとする。

○警戒のための態勢

○間接侵略、軍事力をもってする不法行為等に対処する態勢

○直接侵略事態に対処する態勢

○指揮通信及び後方支援の態勢。

○教育訓練の態勢

○災害救援等の態勢

3 陸上、海上及び航空自衛隊の体制

 前記の防衛の態勢を保有するための基幹として、陸・海・空各自衛隊は、それぞれ必要な体制を維持し、各自衛隊の有機的協力体制の促進及び統合運用効果の発揮につき、特に配意するものとする。

 各自衛隊の体制を、「大綱」の別表(第2−1表参照)に表されたその編成、主要装備等の具体的規模を勘案して大略を示すと次のとおりである。

(1) 陸上自衛隊

ア わが国の領域のどの方面においても、侵略の当初から組織的な防衛行動を迅速かつ効果的に実施し得る体制を確保するため、わが国の地理的特性等を考慮し、必要となる12個師団及び2個混成団

イ これらの師団等を必要に応じて効率的に支援、補完し、各種機能に欠落を生じないよう、主として機動的に運用する機甲師団、特科団、空挺団、教導団及びへリコプター団を少なくとも各1個単位

ウ  政経中枢地域、交通上の要衝及び防衛上の重要地域の低空域防空に当たる8個高射特科群(ホーク)

エ これらの基幹部隊と後方支援分野を整えるのに必要な定員18万人

(2)海上自衛隊

ア 海上における侵略等の事態に対応し得るよう機動的に運用する艦艇部隊として、常時少なくとも1個護衛隊群を即応の態勢で維持し得る体制を確保するため、艦艇の運用面も考慮し、必要となる4個護衛隊群

イ わが国沿岸海域の警戒及び防備に当たるため、わが国の地理的特性に応じて、これを5海域に区分し、それぞれに地方隊を置き、各地方隊に常時少なくとも1個隊を可動の態勢で維持するために必要となる対潜水上艦艇部隊10個隊

ウ ア及びイの部隊に配備するための対潜水上艦艇合わせて約60隻

エ 必要とする場合に、主要海峡等の警戒及び防備に充て得るための潜水艦部隊6個隊16隻

オ 必要とする場合に、重要港湾、海峡等に敷設された機雷の除去、処分などに当たるため、東日本海域と西日本海域とにおいて、機動的に運用し得るための2個掃海隊群

カ 必要とする場合に、主要海峡及び重要港湾の防備に当たる回転翼対潜機部隊並びにわが国周辺海域の監視哨戒及び護衛等の任務に当たり得る固定翼対潜機部隊合わせて陸上対潜機部隊16個隊

キ これらの対潜機を中心に作戦用航空機約220機

(3)航空自衛隊

ア わが国周辺のほぼ全空域を常続的に警戒監視できる体制を確保するため、わが国の地理的特性、レーダー覆域などを考慮し、全国28か所に地上固定のレーダーを配備するために必要となる航空警戒管制部隊28個警戒群

イ 領空侵犯及び航空侵攻に対して、即時適切な措置を講じ得る態勢を常続的に維持し得る体制を確保するため、わが国の地形、戦闘機の行動半径などを考慮し、必要となる戦闘機部隊13個飛行隊(要撃戦闘機部隊10個飛行隊と着上陸侵攻阻止及び対地支援を本来の任務とする支援戦闘機部隊3個飛行隊に分けて保有)

ウ 政経中枢地域、交通上の要衝及び防衛上の重要地域として考えられる6個地域の高空域防空に当たる6個高射群(ナイキ)

エ 必要とする場合に、航空偵察に当たる航空偵察部隊1個飛行隊

オ 地上レーダーの欠点を補完し、必要とする場合に航空機の低空侵入に対する早期警戒監視に当たる警戒飛行部隊1個飛行隊

カ 必要とする場合に、航空輸送を実施する航空輸送部隊3個飛行隊

キ 戦闘機を中心に作戦用航空機約430機

4 防衛力整備実施上の方針及び留意事項

 防衛力の整備に当たっては、諸外国の技術的水準の動向に対応し得るよう、質的な充実向上に配意する。その具体的実施に際しては、そのときどきにおける経済財政事情等を勘案し、国の他の諸施策との調和を図りつつ行う。また、隊員の充足、士気高揚、防衛施設の有効な維持、整備及び周辺との調和、装備品等整備の効率的実施、技術研究開発態勢の充実等に留意する。

(注) 陸上自衛隊の基幹部隊の編成については第3部第2章第l節参照

 

第3節 陸・海・空各自衛隊の防衛力の役割

 陸・海・空各自衛隊の防衛力は、「大綱」で示されている防衛の態勢を保有するための基幹となっている。このような陸・海・空各自衛隊の防衛力の役割を具体的に考えるに当たっては、次に述べるわが国の特性を考慮しなければならない。

 わが国の特性として指摘し得る第1は、その地理的特性である。すなわち、わが国は、北東アジアに位置し、大陸に近接する細長い孤状の列島であり、四面環海の島国であることから、わが国に対する直接侵略は必ず海と空を経由して行われ、また、わが国と遠く大洋を隔てた米国からの来援も必ず海と空を経由して行われる。

 第2は、わが国の経済的特性である。わが国は資源・エネルギー等の海外依存度が高く、また、世界の海上輸送量のうち、わが国が占める比率は約20%にものぼるなど、わが国の生存と繁栄にとって、海上交通の安全確保に努めることが極めて重要である。また、経済中枢が特定地域に集中しているため敵の攻撃に対してぜい弱であることから、わが国土において戦闘が行われないよう侵略の未然防止に努めることはもとより、侵略が行われた場合も戦闘の被害が局限されるよう努めなければならない。

 第3は、わが国が専守防衛を旨としていることである。万一わが国に侵略が行われた場合、侵攻側は、兵力、時期、場所、態様を自由に選択してわが国を攻撃できるのに対し、他方、専守防衛を旨とするわが国は、待ち受けの態勢によって対処しなければならない。

 以上の点を念頭において、陸上、海上、航空各防衛力の役割について述べる。

1 陸上防衛力

 一般に、陸上戦力は、有史以来領土をめぐる攻防戦に決着をつける最終的な力として存在してきた。侵略国は、最終的には陸上部隊を送り込むことによって、国土を占領し、相手国の国民やその意志を支配しようとし、これに対し、侵略された国は、この侵攻部隊を最終的に陸上部隊をもって国土から排除しなければならないという点において、陸上戦力の果たす決定的役割は、近代戦においても変わっていない。このような陸上戦力の保持は、たとえ国土が戦場となっても国を守ろうとする国民の強い防衛意志を内外に表明するものであり、世界各国ともこの戦力を国土防衛の最後の拠りどころとして位置づけている。

 わが国が、陸上防衛力を保持することは、四面環海のわが国への着上陸侵攻を図る侵略国に対し、わが国の陸上防衛力を撃破し得るに足る陸上戦力を海と空を経由して送り込むという大きな覚悟と決心を強いることになり、わが国に対する侵略を強く抑止することとなる。

 万一、わが国に対して現実に侵略が生起した場合には、わが国は、着上陸してくる侵攻部隊をできるだけ洋上において、さらには水際においてこれを阻止排除し、国土に戦闘が及ぶのを最小限にすることとしている。しかしながら、これを洋上において撃破し得ず、侵攻部隊がわが国土に着上陸した事態には、わが地形を味方として利用でき、国土を直接確保できる陸上防衛力を主体として対処することとなる。

 わが国の防衛の構想は、限定的かつ小規模な侵略については、原則として独力で排除することとしており、また、侵略の規模、態様等により独力で排除することが困難な場合にも有効な抵抗を継続して、米国からの協力をまってこれを排除することとしているが、特に陸上作戦においては、来援する米陸上部隊の移動には日時を要すること等の理由から、その来援を可能にするためにも、陸上防衛力を主体として組織的な戦闘を継統しておかなければならない。

 さらに、陸上防衛力は、間接侵略への対処に当たるとともに、必要に応じ公共の秩序を維持し、海・空各自衛隊の作戦の後拠を確保する等、国内全域にわたる防衛警備を担当することとなる。

2 海上防衛力

 一般に、海上戦力の特性は、優れた機動性と運用の柔軟性にあるといえる。機動性は、海上を速やかに移動し、長期にわたって種々の作戦行動がとれるということであり、柔軟性は、海上を自由に行動できるとともに、相手の出方によって種々の行動を選択できるということである。

 この特性をいかし、一般に海上戦力の任務は、平時における警戒監視、プレゼンスによる影響力の行使、情勢緊迫時における各種事態への対応、有事における敵海上戦力の撃破、海上交通の保護等広範多岐にわたっており、主要国海軍はこのような幅広い任務を遂行する能力を持っている。

 わが国の海上防衛力は、海上からの侵略に対し、国土の防衛とわが国周辺海域における海上交通の保護を任務としている。

 すなわち、わが国の地勢的特性を考慮するとき、わが国に対する侵攻は海と空を経由して行われることになる。このため、わが海上防衛力は、侵攻部隊を陸上及び航空防衛力と協同して、極力洋上において阻止又は撃破するとともに、着上陸の後は、敵の増援又は後方補給路を遮断する役割を有している。また、わが国の資源・エネルギー等に関する海外依存度の高さを考慮すれば、わが国に対して侵略等を行おうとする国にとっては、わが国の海上交通の妨害ないし破壊は、その有効な手段の一つであると考えられる。そこで、わが国に必要な物資の輸入を確保するため、海上交通の保護を行うことが必要である。

3 航空防衛力

 一般に、航空戦力の特性は、航空機に代表されるように、優れた速度、行動範囲、機動力及び強大な突破打撃力をもって、攻撃・防御の両面にわたって重要な役割を果たし得ることである。

 わが国に対する侵攻は、わが国の地理的特性及び近代戦の様相から、航空戦力の投入をもって開始される可能性が大きいと考えられ、特に、わが国が専守防衛という防衛戦略をとっていることも考慮すれば、短時間に行われる航空侵攻に対処するためには、即応性の高い航空防衛力が必要不可欠である。

 敵の侵攻に際し、航空優勢を確保することは、わが国の政経中枢等への航空攻撃を阻止し、その安全を図る上で極めて重要である。また、航空作戦の成否は、以後の全般の戦勢を左右する大きな一つの要素であり、陸上・海上における作戦を遂行する上でも、航空優勢の確保が重要となる。

 したがって、航空侵攻に対しては、航空防衛力を主体に防空作戦を実施し、侵攻する航空戦力をできる限りわが国の領域外において撃破し、わが国領域及び周辺空域における航空優勢を確保することが必要である。また、航空防衛力は、海又は空を経由する侵攻部隊に対し、陸上及び海上防衛力と協同して洋上においてこれを撃破し、着上陸された後は、陸上防衛力に協力してこれを撃破する。わが国の海上交通保護に当たっては、海上防衛力に協力して、可能な範囲において、周辺空域における防空を行うこととなる。

 さらに、平時において航空防衛力は、領空侵犯に対処する役割を保持している。

 以上のような役割を有する陸・海・空各自衛隊の防衛力は、第4節で述べる機能別の防衛能力の有効な発揮のためにも、次に述べるような配意の下に適切に整備されていなければならない。

 第1に、通常兵器による各種の手段をもってする侵略に対して、必要な対抗措置をとれるような機能において欠落のない均衡のとれた防衛力であることである。

 第2に、わが国領域及びその周辺海空域のいずれにおいても、侵略の当初から組織的な防衛行動ができるように、有機的に組織され、それぞれ異なる特性を持つ陸上、海上、航空各防衛力が統合的に発揮される態勢となっていることである。

 また、侵略の規模によっては、少なくとも米軍来援までの間を持ちこたえ、米軍と共同して侵略を排除し得ることが必要である。このため、抵抗を継続し得る能力を有するとともに、さらに装備や作戦に関し、米軍と有効に共同対処行動ができるよう配慮されたものでなければならない。

第4節 保有すべき防衛能力

 わが国の防衛力は、日米安全保障体制とあいまって、わが国に対する侵略を未然に防止し、万一侵略が行われた場合にはこれを排除することを目的とするが、このような目的を達成するため、「大綱」においては、その防衛の態勢として、わが国の防衛力が備えておくべき機能別の防衛能力のあり方を示している。

 本節では、「防衛の態勢」に従いつつ、主として直接侵略事態に対処する上で、特に重要な機能別の防衛能力と考えられる防空、着上陸侵攻対処、海上交通保護及びそれらを有効に機能させるためのその他の機能別の各能力について述べることとする。わが国に必要とされる防衛能力の具体的な内容は、そのときどきにおける軍事技術の水準や国際環境などによって左右され、一概に述べることは困難であることから、各防衛能力について以下、概括的に説明する。

1 防空能力

 防空能力とは、わが国領域及び周辺海空域における航空機等による攻撃に対処するための能力である。

 わが国の地理的特性及び近代戦の様相からみれば、航空攻撃への対処の成果が、わが国の重要地域の防護及び以後の防衛行動に及ぼす影響が大きいため、これに適切に対処し得る防空能力を保持しなければならない。

 航空侵攻の主体は、ミサイル等を搭載し、電子戦装置などの高性能機器を装備した、低高度及び高々度高速侵入能力を有する戦闘機、戦闘爆撃機及び爆撃機である。

 航空侵攻に対しては、航空自衛隊の要撃機、地対空ミサイル及び陸上自衛隊の地対空ミサイルなどを航空警戒管制システムにより有機的に連係させ、組織的な防空作戦を実施することとなる。

 このため、航空自衛隊は、侵攻機に対処し得る機動性及び運用の柔軟性に優れる高性能の要撃機と、迅速な対処が可能で政経中枢、防衛上の重要地域等の重要地域の防空に効果的な地対空ミサイルを保持する必要がある。また、侵攻する航空機を早期に発見し、要撃機の管制及び地対空ミサイルに対する目標の割当てを迅速かつ効果的に行い得る航空警戒管制能力と、これを補完し、地上レーダーによっては早期に発見することが困難な低高度侵入機を発見するための早期警戒監視能力を保持しなければならない。

 このような防空能力の保持のほかに、自衛隊は、各種作戦を実施する基盤である基地・施設などへの航空攻撃に対処し得る基地等の防空能力を保持する必要がある。また、自衛隊は地上において行動する部隊等及び周辺海域におけるわが国艦船への航空攻撃にも対処する。(F−15J 要撃戦闘機

2 着上陸侵攻対処能力

 着上陸侵攻対処能力とは、わが国土が直接、地上部隊等の武力攻撃を受けた場合、戦略上の重要地域の占領が既成事実化されることのないように侵攻する敵に対処するための能力である。

 わが国は四面環海の島国であるため、わが国への着上陸侵攻に際しては、敵は航空優勢及び制海の確保を図るとともに、艦船、航空機などを用いて陸上部隊等のわが国土への侵攻を図ることが予想される。

 このような着上陸侵攻に対しては、わが国土に直接被害が及ばないようできる限り洋上等における減殺・阻止に努めなければならない。このため、海上からの侵攻に対し、海上自衛隊の水上艦艇等による攻撃、航空自衛隊の支援戦闘機等による航空阻止、陸上自衛隊の対艦ミサイル等による射撃などにより敵艦船の撃破を図るとともに、航空自衛隊を主体とする防空作戦により侵攻する敵航空機の撃破に努める。

 着上陸した敵に対しては、陸上自衛隊は、水際及び沿岸地域において、防御戦闘等により敵の前進を阻止し、戦車を主体とする機動打撃部隊等により撃破し、さらに侵攻する敵に対しては、内陸地域における各種作戦によってこれを撃破し得る能力を保持しなければならない。

 これらの作戦においては、敵の機甲戦力を主体とする地上部隊の侵攻やこれを支援する戦闘機、対戦車へリコプターの対地攻撃あるいはわが作戦地域の後方等に対する敵の空挺・へリボン攻撃等に対して、防御、攻撃などの組織的な戦闘行動を行うこととなる。

 したがって、陸上自衛隊は、敵地上部隊等を撃破するための戦車を主体とする機動打撃力、対戦車火力及び野戦砲等の地上火力、敵の航空機等を撃破するための対空火力、敵の行動に即応して部隊等を集中・分散するための地上・空中機動力などの各種戦闘能力の保持が必要である。このほか、各種の戦闘支援・後方支援能力の保持が必要である。

 以上のような各種能力を効果的かつ総合的に発揮するため、陸上自衛隊は、各種能力をバランス良く保持した師団等を保持するとともに、これら師団等の能力を支援、補完するための長射程火砲を主体とする特科団や空中機動等のためのへリコプター団など特定の能力を有する各種部隊を保持し、戦闘様相に応じそれぞれの部隊の特性をいかしてこれらを組織的、有機的に運用しなければならない。

 さらに、陸上自衛隊の戦闘を支援するため、航空自衛隊の支援戦闘機な どにより敵の地上戦闘部隊等を攻撃するとともに、海・空各自衛隊は、敵の補給路等の遮断に努め、敵部隊の作戦遂行能力の減殺を図る。

 また、航空自衛隊の偵察機等による情報収集に努めるとともに、わが部隊等の機動展開、後方支援等のため、陸・海・空各自衛隊の輸送能力を保持する。(74式戦車

3 海上交通保護能力

 海上交通保護能力とは、わが国の周辺海域及び港湾・海峡におけるわが船舶の自由な航行が、潜水艦、航空機及び水上艦艇等の攻撃などによって妨害される事態に対処し、海上交通の安全を確保するための能力である。

 海上交通の妨害の主な態様としては、敵が、潜水艦、航空機及び水上艦艇により、わが国周辺海域を航行する船舶に攻撃を加え、これを撃沈することや、潜水艦又は航空機等で機雷を敷設することなどによって、港湾の使用を妨害することなどが考えられる。

 これに対し、自衛隊は、周辺海域における哨戒、船舶の護衛、防空あるいは港湾・海峡の防備等各種の作戦を実施することにより、敵兵力を阻止しあるいは漸減させ、敵の有効な作戦を阻止することなどの累積効果により海上交通の安全確保を図ることとしている。

 周辺海域においては、固定翼対潜機による広域哨戒及び艦艇、艦載へリコプターによる哨戒により、外洋に展開してわが船舶を攻撃しようとする敵艦艇を制圧するとともに、必要に応じて艦艇及び固定翼対潜機等による船舶の護衛を実施する。

 哨戒及び護衛を効果的に実施するため、海上自衛隊は、潜水艦を捜索、撃破するための対潜戦能力、水上艦船を撃破するための対水上艦船攻撃能力、航空機及びミサイルによる攻撃に対処するための防空戦能力を保持しなければならない。なお、洋上での防空については、海上自衛隊の水上艦艇による防空戦のほか、航空自衛隊が可能な範囲で周辺空域における防空作戦を行うことにより対処することが必要である。

 また、船舶の出入の多い重要港湾付近の沿岸海域においては、海上自衛隊は、水上艦艇、固定翼対潜機及び陸上対潜へリコフプター等による対潜戦、掃海艇及び掃海へリコプターによる敵機雷を除去する対機雷戦等を実施して、敵潜水艦等による攻撃や機雷敷設に対処する。

 さらに、主要な海峡を通過しようとする敵潜水艦及び水上艦艇に対しては、海上自衛隊は、対潜戦、対水上艦船攻撃等を実施するとともに、必要に応じ機雷を敷設することによって、その通峡阻止に努める。また、航空自衛隊は、戦闘機による対水上艦船攻撃を実施する。通峡阻止の作戦は、敵艦艇の行動を制約し、その作戦効率を阻害する等の効果を持つことから、敵が通峡の自由を確保するため、海峡周辺地域に対する侵攻を企図するおそれもあり、これに対処するため陸・海・空各自衛隊の能力を有機的に連係することが必要である。

 なお、港湾・海峡の防備を行うに当たっては、航空自衛隊を主体とする防空作戦により、航空優勢の確保に努めなければならない。(P−3C対潜哨戒機

4 その他の能力

(1) 警戒監視、情報収集

専守防衛を旨とするわが国にとって、領域及びその周辺の警戒監視や防衛に必要な情報収集処理を、平時、有事を問わず、常続的に実施することは極めて重要である。

そのためには、世界的な軍事情勢、軍事技術等の動向の調査はもとより、わが国周辺における諸外国の艦船、航空機等の動静を常時警戒監視するとともに、国外からわが国に飛来する軍事通信電波及び電子兵器の発する電波情報などの必要な情報の収集を行うほか、収集情報の分析・評価等を行う能力の保持が必要である。

(2) 指揮通信、電子戦

ア 防衛出動及び治安出動あるいは災害派遣などの緊急事態において、指揮命令や各種情報などが各級司令部・第一線部隊間で確実、安全、迅速に伝達され、かつ通信量の大幅な増加に対応できるような指揮通信組織を平素から確立しておくことが重要である。

このため、自衛隊は、通信量の増大に対応することができ、かつ抗たん化された通信系を保有するとともに、緊急事態に際し、指揮系統に従って各級指揮官が的確かつ迅速な情勢判断及び意思決定を行い得るような情報の表示・処理機能を有する指揮統制システムを保有しなければならない。

イ 電磁波の利用は、各種通信電子機器による情報の伝達及び指揮統制、レーダーによる目標の発見・識別、ミサイル等の射撃管制などあらゆる分野にわたるため、このような分野において有効な電子戦能力を保持することは、近代戦を効果的に遂行する上で必須の要件となっている。

このため、わが国も平時から、電子戦の基礎となる電子情報の収集・分析に努めるとともに、侵攻する敵が使用する電磁波を探知することなどによりその所在位置等を局限するなどの電子戦支援対策能力、侵攻する敵が使用する電磁波に対処するための電子戦対策能力、さらに敵の電子戦対策に対抗するための対電子戦対策能力の保持が必要である。

(3) 後方支援

 補給・輸送・整備・衛生などの後方支援は、作戦実施のための基盤であり、これが戦闘部隊と均衡をもって維持され、円滑に機能することによって、継戦能力及び即応能力が確保されることとなる。特に、兵器の進歩の著しい現代における後方支援は、装備の導入あるいは近代化に対応して改善され、装備の性能を十分に発揮させるようなものでなければならない。

 継戦能力を維持するためには、有事、後方地域における警備等に充てるための予備自衛官等の確保を必要とするほか、弾薬を始めとする有事に必要な作戦用資材の備蓄、適切な輸送能力の保持とともに、攻撃からの被害の局限、復旧及び代替機能の確保等による抗たん化などが必要である。

 即応能力を確保するためには、人員・装備を充足し、調整施設や弾薬庫などを確保するとともに、装備・器材の整備能力等を保持しなければならない。

(4) 救難、災害救援等

有事、作戦に従事している航空機や艦艇などが、事故や被弾などにより山岳地あるいは洋上などで不時着又は遭難した場合、その搭乗員や乗組員を捜索、救助することは、人的勢力の損耗を防ぎ、隊員の士気を維持する上で極めて大切なことである。

このため、自衛隊は、洋上、深海あるいは航空基地及びその周辺など における救難能力を平時から確保することが必要である。

また、国民の民生安定に寄与するため、自衛隊は、その能力、組織等をいかして、国内のどの地域においても、必要に応じて災害救援等を行い得る態勢を確保しなければならない。

なお、以上のような各種能力を有事において有効に発揮するためには、教育訓練に十分な配慮がなされていなければならない。

効果的な教育訓練を実施するためには、装備の導入又は近代化に適応した教育訓練体系を整備し、所要の教材、訓練装置、教育訓練用弾薬及び燃料等のほか、所要の演習場及び訓練海空域が必要である。また、陸・海・空各自衛隊の統合対処能力を高めるための統合演習や日米共同対処能力の向上を図るための日米共同訓練の実施も必要である。

 

(注) 航空阻止主として支援戦闘機により、洋上においては艦船攻撃を行って侵攻兵力を撃破し、また、着上陸した部隊に対しては敵の後方連絡線、資材集積所、交通要路などに対する航空攻撃を行い、侵攻部隊の作戦遂行能力の減殺を図る作戦をいう。

(注) へリボン攻撃一般の地上戦闘部隊がへリコプターを使用して空中を機動し、着陸して行う攻撃であり、敵の弱点を急襲したり、あるいは速やかに地形上の要点を確保するなど、主力部隊の地上戦闘に寄与するために行われる。

(注) 各種部隊の編成については、第3部第2章第1節参照

(注) 陸・海作戦直接支援支援戦闘機等をもって敵の地上部隊及び海上部隊を攻撃することなどにより、わが地上部隊及び海上部隊の諸作戦を直接支援する作戦をいう。

(注) 調整施設機雷、魚雷、ミサイルを直ちに使用できる状態にするための施設である。

第3章 日米安全保障体制

第1節 日米安全保障体制の意義

 わが国の防衛は、わが国自らが適切な規模の防衛力を保有し、これを最も効率的に運用し得る態勢を築くとともに、米国との安全保障体制の信頼性の維持及び円滑な運用態勢の整備を図ることにより、いかなる態様の侵略にも対応し得る防衛体制を構築し、これによって侵略を未然に防止することを基本としている。

 つまり、わが国の平和と独立を確保するためには、核兵器の使用を含む全面戦から通常兵器によるあらゆる態様の侵略事態、さらには不法な軍事力による示威、恫喝といった事態に至るまで、考えられる各種の事態に対応することができ、その発生を未然に防止するための隙のない防衛体制を構成する必要がある。しかし、わが国独自でこのような防衛体制を構成することは、不可能であることから、核の脅威に対する抑止力や通常兵器による大規模侵略に対する対処能力など、わが国防衛力の足らざるところを米国との安全保障体制に依存することとしているものである。

1 日米安全保障条約第5条

 日米安全保障条約は、その第5条において、日米両国は、「日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従って、共通の危険に対処するよう行動することを宣言する」と規定している。この体制によって、わが国に対する外部からの武力攻撃は、米国の強大な軍事力と直接対決する可能性を有することとなり、侵略国は相当の犠牲を覚悟しなければならないため、侵略をちゅうちょせざるを得なくなり、結果的に侵略の未然防止につながることとなる。

 また、仮に武力侵略が行われるとしても、侵略国は、米国との本格的な対決を避けるような侵略態様を選ばざるを得なくなり、この結果、侵略の規模、手段、期間などが限定されることとなろう。

2 日米安全保障条約第6条

 日本の安全及び発展のためには、極東の平和、さらには世界の平和が必要であることはいうまでもない。日米安全保障条約は、その第6条において、「日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設・区域を使用することを許される」と規定している。同条に基づき、米国はその軍隊をわが国に駐留させているが、この在日米軍のプレゼンスは、わが国の安全のみならず極東における国際の平和と安全の維持に貢献しているところである。

3 他の分野での友好協力関係

 また、この条約は、「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約」という名称にも表れているとおり、防衛面の規定のほかに、経済的協力関係の促進等についても規定している。すなわち、日米安全保障体制は、日米関係において、単に防衛面のみならず、政治、経済、文化などのあらゆる分野における友好協力関係の基礎となっている。

第2節 日米安全保障体制の信頼性の確保と運用態勢の整備

 日米安全保障体制を、いかなる場合においても有効に機能させることが、わが国の安全をより確実に保障するための必須の条件である。

 日米安全保障条約の存在が日米双方にとってかけがえのない重要な利益であることが相互に認識され、このような認識に根ざした友好協力関係が継続してこそ、その有効性が確実なものとなるのである。

 自由世界第2の経済力を有しアジア地域における安定勢力として主要な地位を占めているわが国との友好協力関係の保持は、米国としても重要視しているところであるし、また、わが国としても日米安全保障体制の持つわが国にとっての重要性を十分踏まえて、米国との友好協力関係の保持について今後とも相応の努力を払わなければならない。

 このような日米間の友好協力関係と安全保障体制の信頼性を維持するためには、日米両国があらゆる機会をとらえて間断のない対話を行うことにより相互信頼と協調関係の確立を図るとともに、日米双方がそれぞれ応分の責任を果たし、同体制が有効に機能するような態勢の確保に努めることが必要である。

 このため、わが国は自ら防衛力整備の努力を行ってきているほか、日米安全保障体制の効果的運用を図る観点から、昭和53年に日米間で策定された「日米防衛協力のための指針」に基づき、日米間の共同対処行動の際の具体的な防衛協力のあり方について研究・協議を進めるとともに、日米共同訓練の実施を通じて平素から自衛隊と米軍との間の相互理解を深め、有事における日米共同対処行動の円滑な実施の資とすべく努力している。同様の観点から、引き続き米軍の施設・区域の安定的使用のための努力を続け、また、米軍がわが国への駐留に関連して負担する経費の軽減について現行地位協定の枠内でできる限りの努力を続けているほか、新たに米国の要請に応じ、防衛分野における技術の相互交流の一環として米国に武器技術を供与する途を開いたところである。

 一方、米国においても、極東における軍事バランスの改善に努め、米国のコミットメントの意思を明確にして、日米安全保障体制の信頼性の維持向上を図ろうとしているところである。これらの一環として、米国は昭和60年以降、青森県三沢飛行場に戦闘機F−16を配備する方針を日本側に表明している。