第3部

わが国防衛の現状と課題

第1章 国民と防衛

第1節 国民の意識と防衛問題

 自衛隊は,国民の理解と支持がなければその任務を有効に遂行することはできず,隊員も国民から信頼されているという実感によって初めてその士気が高まり,自信をもってその任務を遂行することができるといえるが,現代の日本のように高度に産業が発達し,価値観が多様化している社会において,国民のより多くの理解を得るためには,地道で多角的な努力を平素から続けていくことが必要である。

 わが国においては,地続きの国境を持たない島国であるという地理的条件,あるいは第2次世界大戦での苦い経験や,戦後の安定した平和を享受していること等から,国民の間に,防衛問題に対して無関心であったり,拒絶反応を示すむきがあることは否めない。この傾向は,更に,現代の防衛問題が非軍事的分野の政策と複雑に絡んでいること,国際的な集団安全保障体制とのかかわり合いや,軍事技術の急速な進歩とそれに伴う戦略の変化等,一般の人々の理解を困難にする要因を持っていること等によって強められているといえよう。

 しかし,最近では厳しい国際情勢を反映して,防衛問題を内外の現実に即してとらえようとする傾向が強まっている。

 防衛庁としては,国民の国を守る気概が防衛を支える柱の一つであるとの認識から,また,わが国の防衛に対する国民の理解と関心を深めるための活動の参考とするためにも,自衛隊・防衛問題に関する国民意識の動向については注目しているところである。

 総理府では,3年ごとに国民各層の自衛隊や防衛問題に対する印象,認識,考え方等の調査を実施しているが,昭和56年12月,全国の20歳以上の男女から無作為抽出した3,000人を対象に,面接聴取方式で行われた「自衛隊・防衛問題に関する世論調査」について,その主なものをみると次のような結果がでている。

1 自衛隊の必要性

「自衛隊はあった方がよいか,ない方がよいか」という問に対しては,「あった方がよい」とする者が82%と多数を占めている。第17図 自衛隊はあった方がよいか(%)

最近5回における調査の傾向は,第18図のとおりであり,今回も前回と同様に8割以上の者が自衛隊の必要性を認めている。

「あった方がよい」とする者(1,956人)の理由では,「国の安全確保」とする者が68%と前回(59%)に比べて大きく伸びている。((第19図 「自衛隊があった方がよい」とする者の理由(複数回答)(%)

「ない方がよい」とする者(189人)の理由は,「戦争放棄の憲法があるから」(49%),「武力があると戦争に巻きこまれるから」(35%),「国民の経済的負担が大きいから」(34%)という意見が多い。(第20図 「自衛隊がない方がよい」とする者の理由(複数回答)(%)

2 自衛隊の役割

自衛隊の役割について,自衛隊の四つの主要任務を提示して,自衛隊が設けられた1番の目的は何だと思うかとの問に対し,「国の安全確保」とする者が過半数の60%であり,次いで,「国内の治安維持」19%,「災害派遣」13%,「民生協力」1%となっている。(第21図 自衛隊が設けられた目的(%)

次に自衛隊がこれまでどんなことに役立ってきたかについては,「災害派遣」とする者が73%と多数を占めたのに対し,「国の安全確保」9%,「国内の治安維持」6%,「民生協力」4%とそれぞれ1割以下となっている。(第22図 自衛隊が一番役立ってきたこと(%)

今後,どのような面に力を入れたらよいかについては,「国の安全確保」が46%と多く,以下「災害派遣」27%,「国内の治安維持」15%,「民生協力」3%の順となっている。(第23図 自衛隊が今後力を入れるべき面(%)

これまでの調査結果をみると,自衛隊が今後力を入れるべき面として「国の安全確保」とする意見が昭和47年以来逐次増加してきている。(第24図 自衛隊が今後力を入れるべき面(傾向)

3 防衛体制

日本の防衛のあり方及び防衛努力のあり方についての意見は次のとおりである。

(1) 防衛のあり方

わが国の防衛のあり方については,「現状どおり,日米安全保障体制と自衛隊で日本の安全を守る」とする者が65%と大勢を占め,前回(61%)より多くなっている。

また,最近の5回の調査結果をみると,現状による防衛のあり方を支持する者の率が着実に上昇していることがうかがえる。(第25図 防衛のあり方(%))(第26図 わが国の防衛のあり方(傾向)

「日米安全保障条約が日本の平和と安全に役立っている」とする者についても,前回と同じ66%と過半数を占めている。(第27図 安保条約は日本の平和と安全に役立っているか(%)

(2) 防衛努力のあり方

ア 自衛隊の規模

自衛隊の規模については,陸・海・空各自衛隊ごとに意見を求めたが,各項目とも1〜2%の差にとどまり,ほぼ同一の傾向を示しているので,陸上自衛隊を例にとったのが第28図である。これによると,「今の程度でよい」と「増強した方がよい」という意見を合わせた率は74%(海・空とも同じ)となる。

また一方,「今より少なくてよい」とする意見は,10%(海9%,空10%)と前回(6〜7%)よりやや上昇している。(第28図 自衛隊の規模(陸上自衛隊)(%)

イ 防衛予算

防衛予算の増減については,「今の程度でよい」とする者が47%と最も多い。また,「今より少なくてよい」とする者は15%であり,前回より増えている。(第29図 防衛予算(%)

4 自衛隊に対する印象

自衛隊に対する全般的な印象は,「よい」とする者が71%(前回76%),「悪い」とする者が18%(前回13%)である。(第30図 自衛隊に対する全般的な印象(%)

個々の印象についてみると,「規律正しい」(65%),「頼もしい」(45%)及び「親しみやすい」(26%)となっているが,「頼もしくない」(37%),「親しみにくい」(52%)という意見も多く,この二点については前回より増えている。

今後大切にすべき点としては,「規律正しさ」,「頼もしさ」をあげる者が前回並みの66%と比較的多い。(第31図 規律正しさ(%))(第32図 頼もしさ(%))(第33図 親しみやすさ(%))(第34図 今後大切にすべき点(%)

5 防衛意識

(1) 戦争に対する不安感

戦争への不安感を感じている者は,全体の60%に達し,前回の44%から大きく増えている。その理由としては,「国際的緊張や対立があるから」(72%)という意見が最も多く,「日米安全保障条約があるから」(17%),「国連の機能が不十分だから」(12%)等が上位を占めている。(第35図 日本が戦争をしかけられたり、戦争にまきこまれたりする危険性(%)

(2) 関心のある国際問題

日本の平和と安全を考える上で関心を持っている国際問題は,「米ソの軍事バランス」(37%),「北方領士へのソ連軍の配備」(36%),「ポーランド問題」(31%),「イラン・イラク紛争」(19%)の順となっている。

(3) 防衛意識

「国を守る気持は他の人に比べて強い方か弱い方か」との問に対しては,「強い」とする意見が54%と過半数を占め,「弱い」と表明した者は9%であり,この率は前回と同じである。しかし,「どちらともいえない(分らない)」とする者も37%を占めている。(第36図 国を守る気持(%)))

次に,「日本がもし外国から侵略された場合にどのような態度をとるか」という問に対しては,「自衛隊に参加して戦う」,「何らかの方法で自衛隊を支援する」とする者41%,これに,その他の方法でとにかく抵抗するとする者18%を合わせると,59%の者が抵抗の意志を示している。また,「無抵抗」とする者は12%,「分らない」とする者は28%である。(第37図 侵略に対する態度(%)

「国民が国を守る気持を持つようにするため,教育の場で、とりあげる必要があるかどうか」については,半数近い者がその必要性を認めているが,「必要ない」,「分らない」とする意見も多い。(第38図 教育の場でとりあげる必要性(%)

以上が総理府の「自衛隊・防衛問題に関する世論調査」の結果の概要であるが,その結果を踏まえて全体的にみると,国民各層の意見や志向は多岐多様にわたっているが,国民の多くは,自衛隊に対してその存在を肯定し,主たる任務が国の安全確保にあることを認め,かつその行動は規律正しく,頼もしいとの印象を持っており,また,自衛隊と日米安全保障体制からなるわが国の防衛体制を支持しているといえよう。しかも,最近の傾向として,自衛隊の主たる任務及び現在の防衛体制等に対する理解と支持の率が向上していることは,国民がこれらについて理解を深めてきていることを示している。

一方,実際に自衛隊が役立ってきたことについては,「災害派遣」という意見が大きな率を占め,「国の安全確保」という意見は1割未満にとどまっている。これは,自衛隊の行動の中では災害救援活動が最も国民の目に触れやすいということも一因と思われるが,その反面,自衛隊が存在することにより,国の安全確保に役立ってきているという目に見えない自衛隊の抑止力としての意義・役割がなかなか理解されにくいということによるものと考えられる。

また,今回の調査においても,依然として,全体を通じて「分らない」,「どちらともいえない」という層が多かった。

防衛問題は,一般に国民になじみが薄いだけに,わが国の防衛努力を行う必要性等について,国民がより具体的な判断ができるように,政府としても,今後とも積極的に説明していく必要がある。

今回の調査結果等を踏まえ,今後とも,国の安全保障・防衛問題に対する国民の理解と関心を高めるための着実な努力が必要であるといえる。

第2節 防衛をめぐる諸政党の最近の動き

 およそ基本的な安全保障政策については,諸外国では,おおむね共通した基盤があるようであるが,わが国では,武装と非武装,日米安全保障体制の堅持と破棄等,正反対の主張がなされてきている。

 しかしながら,第1節で述べたように,最近では国内外の情勢の変化に対応して,わが国でも国民の防衛問題に対する理解が深まり,関心が高まっており,防衛のあり方をめぐって,現実的な論議が活発にかわされるようになってきた。各政党の間でも,このような国民の間での論議の活発化を背景として,防衛問題に具体的かつ現実的に取り組む必要があるとの観点から,新しい動きがみられる。

 以下,各政党の最近の防衛政策の要点を紹介する。

 自由民主党

 「わが党の軍事的安全保障政策は,西側同盟の一員として,日米安全保障条約を基軸とし,米国の軍事力,とくに核の抑止力によって大規模な侵略から日本を守り,同時に,通常兵器による小規模な侵略行為に対しては,自力でそれを拒否できる最低限の防衛力を持ち,この両者の組み合わせで日本を守る」,防衛力整備については,「防衛計画の大綱に沿った防衛力の規模の達成と質の向上,近代化をまず目指す」とし,更に,「日米安保体制のより一層の円滑な運用を図るため,日米防衛協力ガイド・ラインに基づく研究を推進するとともに,基地問題のスムーズな解決,日米共同訓練の活発化等を積極的に進めて行く必要がある」としている(自由民主党昭和57年党運動方針)。

 日本社会党

 「非武装・非同盟中立をめざし,平和な国際環境を築き,自衛隊の縮小・解体を進める具体的な過程,安保廃棄を実現する政策を国民に示し,理解をひろげる」(社会党1982年度運動方針)としており,従来の姿勢に変化はない。

 公明党

 昭和55年12月の第18回党大会において,従来の「日米安全保障条約の廃棄,自衛隊の国土警備隊への改組」を将来の政策として残しつつも,80年代における連合政権下の防衛政策として,「日米安全保障条約は,その解消を可能にする国際環境づくりに努力し当面これを存続する。自衛隊は,領土・領海・領空の領域保全のための専守防御に厳しく任務限定し,シビリアン・コントロールを強化して,さしあたり保持する」(80年代連合政権要綱)とし,更に,「連合政権が当面保持する自衛隊は違憲ではない」との考え方を表明していた。

 昨年12月の第19回党大会では,「日米安保条約が日本の安全保障において一定の抑止的役割を果たしていることは否定できない現実」との認識の上にたって,「日米安保体制の解消を可能とするような国際環境作りに積極的に努力するが,今日の国際情勢の現状においては,現実的な対応として,日米安保条約の存続はやむを得ない」,また,「憲法が認める自衛権の裏付けとしての能力について,領海,領空,領土の領域保全に任務を限定した領域保全能力が妥当である。この領域保全能力が公明党の合憲とする自衛隊構想である」との方針を新たに打ち出している。

 民社党

 「自主防衛の整備,日米安保条約の堅持,非核武装,という原則をふまえてわが国として必要な防衛体制を確立して行かねばならない」とし,具体的な防衛力整備に当たっては,「自主的な平和戦略の推進,現行憲法の枠,財政事情の配慮」を条件として,これを進めるとしている。更に,防衛計画の大綱の見直し」,「日米間の具体的な防衛協力と分担の推進」及び「シビリアンコントロールの一層の強化」の必要性を強調している(民社党1982年度運動方針)。

 日本共産党

 昭和55年5月の第3回中央委員会総会で採択された「80年代を切り開く民主連合政府の当面の中心政策」の中で,「日米安保条約を廃棄して,非同盟・中立・自衛の日本をつくる」ことを安全保障政策としてかかげ,自衛隊については,「民主的な再教育を行うとともに,これを削減し,解散する」としている。

 また,自衛について「干渉と侵略が加えられたときには,主権国家固有の権利である自衛権を行使し,国民の団結と,それにささえられ,可能なあらゆる手段を動員してたたかい,国の独立と安全をまもりぬく。そのためにも,独立国として自衛措置のあり方について国民的な検討と討論を開始する」必要があることを述べている。

 新自由クラブ・民主連合

 昨年9月,新自由クラブと社会民主連合は,院内統一会派として新自由クラブ・民主連合を結成したが,安全保障については,「国の安全保障の基本を平和外交の推進におき,核をはじめ国際的軍縮への不断の努力をする。自国防衛のためのシビリアンコントロールによる自衛隊と日米安保条約は認めるが,歯止めなき軍備拡張への道は認めない」ことで合意している(統一会派結成にあたっての基本政策合意メモ)。

第3節 国民と自衛隊

 防衛は国民的基盤に立脚したものでなければならず,自衛隊は国民の理解と協力がなければ,その機能を十分に発揮することはできない。

 自衛隊は防衛任務のほか,その組織,装備,能力等を活かして,災害派遣や部外協力等の多くの活動を行っているが,これらの活動は,災害救援や民生の安定に寄与するとともに,国民が自衛隊の活動に接する場となり,自衛隊に対する理解を深める一助となっている。

 本節では,災害派遣,部外協力,記念行事等,国民と自衛隊のふれ合いの場についてその現状を紹介する。

1 災害派遣等

(1) 災害派遣の実施状況

自衛隊が実施する災害派遣は,台風,豪雨,豪雪,地震その他の災害に際し,人命及び財産を保護するための遭難者及び遭難した船舶,航空機等の捜索救助活動,水防活動,消防活動,急病の患者や緊急救援物資の輸送,給水活動等,広範多岐にわたっている。

昨年度1年間における台風,豪雨,豪雪等の災害に対する自衛隊の災害派遣件数は約740件を数え,作業に従事した隊員は,延べ約2万9千人に達している。これらの災害派遣のうち最大のものは次のとおりである。

○ 昭和56年8月の豪雨及び台風15号に伴う災害派遣

8月3日から5日にかけて寒冷前線が北海道中央部に停滞,更に,台風12号の影響も加わり,北海道での観測史上最大の豪雨をもたらした。このため,道央や日高及び胆振を中心に家屋,農地,道路,鉄道等の浸冠水及び土砂崩れによる道路,鉄道等の埋没,路面の流出等の災害が発生した。次いで台風15号が東日本を縦断し,北海道を抜けたため,北海道は二重の災害に見舞われたほか,茨城県では小貝川の堤防が決壊した。

この災害に対し,陸・空各自衛隊は,人員延べ約13,500人,車両延べ約1,800両,航空機延べ21機の規模で,北海道を中心に5道県に対し,78件の災害派遣を行い,築堤作業,孤立者の救出,給水支援及び防疫支援等により災害救援を行った。

ちなみに,この一連の災害派遣に出動した部隊に対し,道知事・各市町村長から感謝状54件が寄せられている。

また,各自衛隊は,一定の数の航空機,艦艇の待機態勢をとっており,船舶,航空機の救難や緊急の人命救助の要請に応じている。例えば,沖縄県をはじめ奄美大島以南の離島においては,航空機による救急患者の輸送を昭和56年度において169回実施しており,医療施設に恵まれない離島における災害救援に大きな役割を果たしている。

わが国は,自然災害が多く,離島やへき地が多いという環境にあること,工業化や都市過密化の進展により災害のもたらす危険が多くなっていること等から,自衛隊による災害救援活動はますます重要になると思われる。このため,自衛隊は,関係機関との相互理解に努めるとともに,関係機関との協同要領について防災訓練を行っている。国民が自衛隊の災害救援活動にかける期待は大きい。一方,隊員の側からみても,これらの活動は,隊員が国民生活の安全に寄与しているという誇りと生き甲斐を実感し,それによって国民との連帯感を強める場となっている。自衛隊は,今後とも,国民の期待にこたえ,災害救援に努力していくこととしている。(決壊した堤防を修復中の隊員

(2) 大規模震災への対応

大規模地震に関する警戒宣言が発せられた場合,第2部第4章第2節で述べたように,自衛隊は,関係機関が行う地震防災応急対策の支援に当たることになっている。また,大規模震災が発生した場合には,大規模な救援活動を実施する必要があるので,防衛庁長官の命令により,最上級部隊の長である方面総監,自衛艦隊司令官,地方総監及び航空総隊司令官が,自衛隊の総合力を発揮して救援活動を実施することとしている。

これらに備えて,陸・海・空各自衛隊は,毎年「防災の日」に実施される総合防災訓練に参加し,対処能力の向上を図っている。

2 部外協力

(1) 不発弾,機雷等の危険物の処理

陸上自衛隊は,不発弾等が発見された場合,地方公共団体等の要請を受けて,その処分に当たっているが,昨年度において約3,700件約190トン(うち沖縄分約1,100件約80トン)を処分した。処分した不発弾は,累計すると約6万3千件約3,500トンの膨大な量に達している。

海上自衛隊は,昭和27年,保安庁発足時に海上保安庁から引き継いだ機雷の掃海業務を継続して実施し,第2次世界大戦中にわが国近海に敷設された膨大な数の機雷の掃海に当たってきたが,昭和45年までに危険海域の大部分の掃海を完了し,通常の船舶の航行については危険がない状態になっている。現在では,海上保安庁等からの要請を受けて,その都度残りの海域の掃海及び海上における機雷その他爆発性の危険物の除去及び処理を行っている。

(2) 土木工事等各種事業の受託及び運動競技会に対する協力等

自衛隊は,訓練目的に適合する場合又は任務遂行に支障のない範囲で次のような活動を行っている。

ア 国や地方公共団体の委託を受けて行う道路の建設,学校,公園その他の用地の造成等の土木工事,輸送事業その他の事業

イ 部外者の委託を受けて,部隊や学校で行う航空機の操縦士や救急に従事する人等の技術者の教育訓練

ウ オリンピック競技大会や国民体育大会のような国際的又は全国的規模もしくはこれらに準ずる運動競技会の運営について,式典,通信,輸送,音楽演奏,医療,救急,会場内外の整理等の面で行う協力

(3) 南極地域観測に対する協力

世界各国は,南極地域における科学的調査を行っており,わが国においても,文部省が,毎年観測隊を送り,成果をあげている。この南極観測において,海上自衛隊は,昭和40年度以降,砕氷艦「ふじ」により,昭和基地への人員・物資の輸送等を担当しており,これまで17回,累計約8,000トンの物資を輸送した。

「ふじ」の老朽化,観測規模の拡充による輸送物資量の増加等に対応するため,新しい砕氷艦が建造されることとなった。この新砕氷艦の建造予算は,南極地域観測関係予算として,文部省に計上されているが,これは,「ふじ」と同様,自衛艦として建造されているものであり,昭和56年12月に進水し,「しらせ」と命名された。「しらせ」は,昭和58年度から「ふじ」に代って支援業務に就く予定であり,支援能力の大幅な向上が期待されている。(砕氷艦「しらせ」の進水式

3 記念行事等

自衛隊記念日の儀式の一環として実施する観閲式及び観艦式は,自衛隊の最高指揮官である内閣総理大臣が部隊を観閲し,隊員の士気を高揚するとともに,自衛隊の装備及び訓練の成果を広く国民に披露するため行われるものである。昨年度の観閲式は,11月1日の自衛隊記念日に朝霞において行われ,これには,陸・海・空各自衛隊の隊員約5,300人,戦車等の車両約300両,航空機67機が参加した。一般の見学者は,予行を含め約7万5千人であった。

11月3日には,相模湾において,護衛艦等の艦艇45隻,航空機55機が参加して8年ぶりの観艦式が行われ,予行を含め約2万2千人の一般の人が乗艦してこの観艦式を見学した。

また,自衛隊記念日の記念行事の一環として,自衛隊音楽まつりが,毎年実施されており,昨年は,11月20日,21日の両日,日本武道館において開催された。この音楽まつりでは,陸・海・空各自衛隊の音楽隊,儀じよう隊等の隊員,防衛大学校の学生,計約1,000名,ゲスト歌手及び特別出演の在日米陸軍音楽隊が,勇壮なマーチの演奏や一糸乱れぬ演技を行い約3万3千人の観客を魅了した。

このほか,自衛隊の現状を広く国民に紹介するものとして,9月には,陸上自衛隊が,富士山ろくにおいて,実弾を使用する富士総合火力演習を実施した。この演習は,自衛隊員に対し各種火力の実態を認識させるとともに,日頃の訓練の成果を国民に展示することを目的とするものである。一般の見学者は,予行を含め約3万1千人であった。

オリンピック等において華麗な飛行で国民に親しまれたブルー・インパルスは,昭和35年3月以来F86Fで計545回の演技を行って来たが,(昭和55年度の観客は約130万人),F86Fの老朽化に伴い今年度からは国産の超音速機T−2を使用して演技をすることになっており,7月25日松島基地においてその勇姿を現した。ブルー・インパルス用のT−2の塗装デザインは,航空自衛隊が広く一般から募集したが,採用されたのは4人の女子高校生グループの案であった。

また,全国各地に所在する自衛隊では,自衛隊に対する国民のより一層の理解が得られ,防衛に関して国民の認識を深めることを期待して,隊内生活体験(昨年度約2,100件,体験者約7万3千人),駐屯地(基地)見学,駐屯地(基地)祭といった各種の行事等を通じて,市民に自衛隊を紹介する機会を増やすことに努めるかたわら,地域的な行事への積極的な協力を行ったり,あるいは直接,隊員が参加する等の努力を行っている。(観閲飛行)(観閲行進)(観艦式)(自衛隊音楽まつり)(富士総合火力演習)(雪像を作成中の隊員)(第39図 ブルーインパルスの新塗装デザイン

第4節 防衛施設の安定使用のための努力

 自衛隊の任務を遂行するためには,優れた装備を整備するとともに,これを駆使する隊員を養成し,部隊の練度を維持・向上させていくことが必要不可欠である。このための教育訓練の場となり,更には有事の際の防衛活動の重要な拠点となるのが自衛隊の施設である。このように,防衛力の直接的基盤となっている自衛隊の施設が,その機能を果たすためには,常に安定して使用できる状態に維持されることが必要である。

 また,日米安全保障条約は,その基本的な骨格の一つとして,米国はわが国の防衛義務を負い,わが国は米国に施設・区域の提供義務を負うこととしている。この施設・区域は,在日米軍の活動の拠点となるものであり,その機能を発揮するためには,常に安定的に使用し得る状態に維持されなければならないことは,自衛隊の場合と同様である。

 このことが日米安全保障体制を維持し,その信頼性を高めるための必要不可欠な要素となっている。このように防衛施設は,国の防衛のための必須の要素となっているが,その反面,防衛施設の設置や運用が,地域開発や周辺住民の生活環境に何らかの影響を与えていることも事実である。このため,地域社会や住民との間に種々の問題が生じている。

 以下,本節において,防衛施設の現状とそれをめぐる諸問題,更にはその解決のため防衛庁が実施している施策について,説明することとする。

1 防衛施設の現状

自衛隊が使用している施設と,在日米軍が使用している施設・区域とを合わせた防衛施設全体の土地面積は,約1,363km2であり,国土面積の約0.36%に相当する。

(1) 自衛隊の施設

自衛隊の施設の土地面積は,約1,025km2で,その地域的な分布状況は第40図のとおりであり,その半分近くが北海道地方に所在している。これは,同地方に矢臼別,島松・恵庭,上富良野等の演習場が多いためである。

これらの土地の約90%は国有地で,他は民公有地である。また,これらの施設の用途別の使用状況は,第41図に示すとおりであり,土地面積で,演習場及び飛行場が合わせて約84%を占めている。

(2) 在日米軍の施設・区域

在日米軍の施設・区域の土地面積は,約482km2で,その地域的な分布状況は第42図のとおりである。

これらの土地の約45%は国有地で,他は民公有地である。また,これらの施設・区域の用途別の使用状況は,第43図に示すとおりであり,土地面積で,演習場及び飛行場が合わせて約79%を占めている。

なお,在日米軍の施設・区域の土地面積には,自衛隊の施設を一時使用しているもの約144km2を含んでおり,その主な施設・区域としては,富士演習場,厚木飛行場がある。

更に,在日米軍の施設・区域には,前述の施設・区域のほか,訓練等のための水域42か所(うち11か所は空域も使用)がある。

2 防衛施設をめぐる諸問題

防衛施設の設置や運用をめぐって生じる問題は,多種多様である。この問題を発生原因により分析すると,第1に防衛施設又はその運用の特殊性があげられる。

防衛施設には,飛行場や演習場のように,もともと広大な面積の土地を必要とするものがあり,更に,航空機の頻繁な離着陸や射爆撃,火砲による砲撃,戦車の走行等,その運用によって,周辺地域の生活環境に影響を及ぼすものがある。このように,防衛施設の設置や運用に当たっては,周辺地域における生活環境をいかにして保全するかという問題が生ずることが多い。この生活環境の保全の問題として,最も大きなものが航空機騒音問題である。

第2には,わが国の特殊な地理的条件があげられる。わが国は,世界の主要国に比べ人口密度は最高の部類に属し,しかも比較的急峻な山岳地帯が多く,利用可能な平担地は国土面積の約26%程度しかないという地理的条件にある。このため,狭い平野部に都市や諸産業と防衛施設とが競合して存在し,防衛施設の側からみるとその設置や運用が制約され,都市開発その他の地域開発の側からみると防衛施設の存在や運用が支障となるという問題が生じている。特に,経済発展の過程において多くの防衛施設の周辺地域の都市化が進んだ結果,問題がより一層深刻化している。

そのほか防衛施設をめぐる諸問題の発生原因としては,防衛施設用地の所有者等,又は訓練水域に利害関係を有する者による生活又は生産基盤の確保の要求,イデオロギー闘争としての基地反対又は撤去の要求,沖縄県における防衛施設について,その密度の濃さや沖縄が復帰するまでの歴史的経緯等,様々なものがある。

防衛施設をめぐる諸問題は,以上に述べた原因の1つ又は複数により生じ,その態様も様々であるが,これらの問題は,あるいは国の平和と安全を守るという国家全体の利益のために,特定の地域又は個人が受ける影響の解消の問題として,あるいはイデオロギーにかかわる問題として,いずれもその処理いかんによっては,政治問題化,社会問題化するおそれのあるものである。

そこで防衛庁としては,このような防衛施設をめぐる諸問題の解決を図るため,従来から,一方では国の防衛の必要性なり,防衛施設の必要性なりについて国民の理解を求めるとともに,他方においては,防衛施設周辺の生活環境の整備,防衛施設の整理統合等,防衛施設と周辺地域との調和を図ることに努力しているところである。

3 防衛施設と周辺地域との調和のための努力

防衛庁としては,前述した防衛施設をめぐる諸問題を解決するため,防衛施設の設置や運用に当たっては,その地域の特性に十分配慮するとともに,周辺住民の生活の安定と福祉の向上を図るための措置を積極的に進めているところである。

(1) 防衛施設周辺地域の生活環境の整備

防衛庁は,防衛施設と周辺地域との調和を図るために,「防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律」(昭和49年制定)に基づく施策を中心に,次のような各種の施策を行っている。(住宅の防音工事の例(施工前))(住宅の防音工事の例(施工後)

ア 障害防止工事の助成

自衛隊又は在日米軍は,練度の維持・向上を図るため,飛行場や演習場等の防衛施設を使用して訓練を行うが,このような際に,例えば,機甲車両等の頻繁な使用によって道路の損傷が早まったり,射撃訓練による演習場内の荒廃によって当該地域の保水力が減退したり,付近の河川に洪水が生じやすくなったり,あるいは,航空機騒音等によって学校教育や病院の診療に迷惑がかかったりすることがあり得る。

このような場合に,地方公共団体等が,このような障害を防止し,あるいは,軽減するために行う道路や河川の改修,砂防設備の整備,ダムの建設,共同テレビ受信アンテナの設置,学校や病院の防音工事といった障害防止のための工事に対し,国はその工事に要する費用を補助することとしている。

この障害防止工事の助成は,自衛隊又は在日米軍の訓練活動がその任務遂行上,不可欠ではあるものの,そこから生じる障害を特定の人々にのみ負担させるのは不公平であり,また,学校教育に支障を招いたり,病弱者保護に欠けるというようなことがあってはならないとの考え方から実施しているものである。(障害防止工事の例(ダム)

イ 飛行場等周辺の航空機騒音対策

航空機による騒音の防止対策として,防衛庁は,従来から消音装置の設置等による音源対策や早朝・夜間における飛行の自粛等の飛行時間の規制,人家密集地をできるだけ避けた飛行経路の設定,飛行高度の規制等の運航対策にも努めており,それ相応の効果をあげているところである。もっとも航空機騒音の完全な消去は困難であり,また,夜間飛行練度の維持や地形上からくる航行の安全性を考慮した場合,音源・運航対策にはおのずから限界がある。

このため,防衛庁としてはこれらの対策と並行して,学校,病院等の防音工事に対する助成措置のほか,周辺地域の生活環境の整備を積極的に進めることとしている。すなわち,飛行場及び航空機による射爆撃が実施される演習場の周辺について,航空機の音響に起因する障害の度合いを基準として,外側から第44図に示すように,第1種区域,第2種区域及び第3種区域をそれぞれ指定し,第1種区域内に所在する住宅については防音工事の助成を行い,第2種区域内から外に移転する者に対しては移転補償と一定の土地の買入れを行うとともに,移転先地において,道路,水道,排水施設等の公共施設を地方公共団体等が整備する場合には,その整備に関し,助成の措置をとることとしている。

更に,第3種区域は,住宅が建てられて騒音障害が新たに発生することを未然に防止し,この区域をこれらの防衛施設と市民生活の場とを隔離する緩衝地帯にすることが適切であるので,国が買い入れた土地については,緑地帯,その他の緩衝地帯として整備することとし,また,地方公共団体が緩衝地帯としてふさわしい広場等の用に供するために,使用許可を申請してきた場合には無償で使用させることができることとなっている。

ウ 民生安定施設の助成

民生安定施設の助成は,前述の障害防止工事に対する助成のように,障害の直接的な防止や軽減ということはできないにしても,地方公共団体がその障害の緩和に資するために,生活環境施設あるいは事業経営の安定に寄与する施設の整備について必要な措置をとるときは,国がその費用の一部を補助しようとするものである。

具体的な事例を若干あげてみると,次のような場合があり,助成の内容は多岐にわたっている。

(ア) 燃料や火薬を取り扱う施設の周辺市町村が,消防施設を強化,整備する場合

(イ) 演習場内の荒廃により,周辺住民が使用してきた湧水や流水が減少したため,市町村が水道を設置する場合,あるいは,従来住民が利用してきた遊泳場所の水が減少し,遊泳できなくなったため,市町村が水泳プールを設置する場合

(ウ) 航空機騒音のある地域で,児童の下校後の学習,青少年及び成人に対する社会教育あるいは集会を静穏な環境下で行えるようにするため,市町村が学習,集会等のための施設を設置する場合

エ 特定防衛施設周辺整備調整交付金の交付

ジェット機が離着陸する飛行場,砲撃や射爆撃が行われる演習場,その他市街地に広い面積あるいは高い割合を占めて所在する弾薬庫,港湾等の防衛施設には,その設置や運用が周辺地域の生活環境や開発に著しい影響を及ぼしているものがあり,このため,関係市町村が公共用施設の整備(いわゆる町づくり)に他の市町村に比し特段の努力を余儀なくされているような場合に,前述の防衛施設及び関係市町村をそれぞれ「特定防衛施設」及び「特定防衛施設関連市町村」として内閣総理大臣が指定し,国は当該市町村に対して公共用施設(交通施設,医療施設,教育文化施設等)の整備に充てる費用として,特定防衛施設の面積,運用の態様等を基礎として算定した交付金を交付し,いわば町づくりに側面から協力することとしている。

オ その他の施策

以上の各種施策のほか,

(ア) 障害防止工事や民生安定施設の整備を行う地方公共団体に対する資金の融通やあっせん

(イ) 障害防止工事,民生安定施設又は前述の交付金をもって整備する公共用の施設の用に供するため,地方公共団体等に対する国有財産 (普通財産)の譲渡や貸し付け

(ウ) 航空機の頻繁な離着陸その他の行為により,農業,林業,漁業等を営む者に事業経営上の損失を与えた場合における当該損失の補償等を実施することとしている。

以上に述べた防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する具体的な施策の状況は,第6表に示すとおりである。(音源対策の例(消音装置)

(2) 在日米軍の施設・区域の整理統合

在日米軍の施設・区域は,第45図に示すとおり,今日まで減少の一途をたどってきている。この減少は,例えば昭和32年6月の岸・アイゼンハワー共同声明による陸上部隊の大幅撤退にみられるような,在日米軍の部隊の撤退・縮小や日米両政府間の了解に基づく整理統合計画の実施に伴う施設・区域の返還によるところが大きい。

在日米軍の施設・区域の整理統合については,国内の経済発展等による地方公共団体や各種団体の種々の要請を考慮しつつ,従来から絶えず日米間において協議し,その実現を図ってきたところである。

この整理統合の実施状況を具体的にみると,沖縄県以外の地域については,第7表に掲げる計画に沿って整理統合を実施してきている。その結果,昭和57年3月までに約57km2の土地が返還されており,特にわが国総人口の約3割が集中している首都圏において,約46km2が返還されている。これらの返還施設は,大部分が国有地であり,国土の有効利用に資するところが少なくないものと考える。

また,沖縄県については,沖縄の復帰問題が話し合われた昭和47年1月,佐藤・ニクソン会談において,佐藤総理は,「在沖縄米軍施設・区域,特に人口密集地域及び沖縄の産業開発と密接な関係にある地域に所在する米軍施設・区域が復帰後できる限り縮小されることが必要である」旨述べ,沖縄県における在日米軍の施設・区域の整理統合の方針が示された。更に,日米安全保障協議委員会の第14回(昭和48年1月),第15回(昭和49年1月)及び第16回(昭和51年7月)の会合において,沖縄県の地域開発計画と競合している施設・区域及び沖縄本島中南部地域にある施設・区域については,できる限り基幹的施設に整理統合するとの了承をみており,現在鋭意その実現に努めているところである。その結果,昭和57年4月までにこれらの整理統合によるものを含め,約30km2が返還されている。

(3) 沖縄県における土地の位置境界の明確化

沖縄県においては,戦火による公簿公図の焼失や,戦闘による荒廃及び戦後の米軍基地造成による著しい土地の形質の変更から,1筆ごとの土地の位置境界が不明となっていた。このような位置境界の不明な地域の土地の存在は,相続や売買の際に必要となる土地の分合筆あるいは在日米軍の施設・区域の返還後の土地の利用の面で,社会,経済上の活動に著しい支障を及ぼしていた。しかも,位置境界の明確化は,戦前の土地事情に精通している者の知識等を必要とするので,緊急に行う必要があり,このため,昭和52年5月,「沖縄県の区域内における位置境界不明地域内の各筆の土地の位置境界の明確化等に関する特別措置法」が制定された。

防衛庁は,この法律に基づき,関係所有者が昔の境界を現地で円滑に確認しあえるよう資料の提供等を行い,関係所有者が現地で境界を確認しあった後,「国土調査法」(昭和26年制定)の地籍調査に準ずる調査を行った結果,防衛施設及びこれに隣接する一定の土地約117km2のうち,昭和57年4月までに約112km2(約96%)の土地の位置境界の明確化措置の手続が完了している。残りの土地についても早期に完了するよう努力しているところである。

この位置境界の明確化措置によって,社会,経済上の活動の支障が除去され,ひいては,沖縄県の住民の生活の安定と向上に資しているものと考えている。

(4) 沖縄における防衛施設用地の使用権の取得

防衛施設に必要な民公有地については,その土地の所有者等の同意を得て使用することとしているが,沖縄県が復帰した際,同県に所在する防衛施設用地の一部には,その同意が得られない土地があった。この土地については,やむを得ず「沖縄における公用地等の暫定使用に関する法律」(昭和46年制定)により暫定使用するとともに,土地所有者等の同意を得るべく度重なる折衝を続けてきたところであるが,なお,その一部については,同法による使用期限である昭和57年5月14日までにその同意を得ることができなかった。

そこで防衛庁としては,これらの同意を得られない土地のうち,

ア 自衛隊の施設に係る土地に関しては,その土地及び施設の所在位置状況から判断して,施設の移転を行う等所要の措置をとった上,当該土地は返還した。

イ 在日米軍の施設・区域に係る土地に関しては,在日米軍が滑走路用地,弾薬庫用地等の一部として使用していること及び施設の移転が不可能であることから判断して,昭和57年5月15日以降,引き続き在日米軍の用に供する必要がある土地についてのみ,やむを得ず,「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う土地等の使用等に関する特別措置法」(昭和27年制定)の手続をとった上,嘉手納飛行場,嘉手納弾薬庫地区等,13施設約0.7km2の土地について,沖縄県収用委員会の裁決を得て,同日以降使用している。

(5) 以上は防衛庁が実施している施策の主なものであるが,このほか防衛庁は,従来から防衛施設をめぐる諸問題の態様に応じてきめ細かな施策を実施してきている。

このように防衛庁は,防衛施設と周辺住民との調和を図る努力を行っている。

最近においては,防衛に対する国民一般の理解が深まっており,防衛施設に対する周辺住民の理解も深まっているといえる。しかしながら,装備や訓練が次第に高度化し,充実してきていることから,周辺住民の理解と協力がますます必要となっており,今後とも以上に述べた施策を総合的かつ積極的に実施し,周辺住民との協調を図っていくことが重要であると考えている。

(6) 以上,諸施策に要する経費(生活環境の整備のための諸施策に要する経費,在日米軍の施設・区域の整理統合に要する経費,各種の補償等に要する経費)並びに在日米軍の駐留を円滑にするための提供施設の整備に要する経費,更には在日米軍基地に勤務する従業員の福祉対策,離職者対策及び従業員対策に要する経費を含めた,いわゆる基地対策経費についてみると,本年度予算においては,約2,689億円となっている。また,最近5年間における基地対策経費の防衛関係予算に占める割合は,約10%となっており,これら予算の推移は第46図のとおりである。

なお,上記のほか,在日米軍の施設・区域の整理統合に要する経費として,本年度予算において約6億円が特別会計に計上されている。

 

(注) 防衛施設:自衛隊が使用する施設と日米安全保障条約に基づき在日米軍が使用する施設・区域とを総称する言葉であり,演習場,飛行場,港湾,通信施設,営舎,倉庫,弾薬庫,燃料庫等をいう。

第2章 自衛隊

 第1節 昭和57年度防衛力整備の概要

 本年度防衛力整備に当たって,防衛庁としては,「防衛計画の大綱」に定める防衛力の水準を可及的速やかに達成することが目下の急務であるとの考えに立ち,陸上装備,艦艇,航空機等の主要装備の更新近代化を重点的に進めるとともに,後方支援態勢の充実等にも配意して防衛力の質的向上を図ることにしている。更に,わが国の防衛生産基盤及び技術力の維持育成を図る利点もあるので,装備の自主的な研究開発に努力しているところである。また,健全で精強な自衛隊を維持するために,統合運用に必要な態勢の整備及び教育訓練の体制の充実に努めるほか,指揮通信能力,即応態勢,継戦能力及び抗たん性の向上に力を注ぐことにしている。

 なお,本年度においては,行政改革の推進が現在の緊急課題であることを念頭におき,防衛力の整備及び運用の両面にわたる効率化及び合理化に特段の配慮を払って,限られた資源の有効な活用に努力した。具体的には,部隊等の整理統合又は廃止による人員の削減,航空機等の延命等を実施することにしている。

 本年度の防衛力整備の主な事項は次のとおりである。(第8表 昭和57年度に取得・調達(発注)する陸上自衛隊の主要装備

1 陸上自衛隊

(1) 部隊の新編東部方面通信群

方面総監部が有事,平時を通じて方面総監隷下部隊との指揮通信を確保するためには,基地通信(固定通信系)と野外通信(移動通信系)は,必須の機能である。

現在,東部方面隊は他の方面隊のような野外通信機能を持つ直轄部隊を保有していないため,基地通信を行う機能と野外通信を行う機能を併せ持つ東部方面通信群を東部方面隊の直轄部隊として新編し,東部方面隊の指揮通信能力を強化しようとするものである。

(2) 装備の更新近代化

ア 対戦車へリコプター(AH−1S)

対戦車へリコプター(AH−1S)は,約4kmの射程(戦車砲の約2倍)を有し,遠距離においても命中精度の高い対戦車ミサイルを搭載しており,また,広い正面にわたって迅速に行動できる空中機動性を持っている。そのため,高度な機動運用が可能であり,所要の正面に迅速に対戦車火力を指向することができる。本年度は,学校等における教育所要分及び1個対戦車へリコプター隊の一部である計12機を発注する。(対戦車ヘリコプター(AH−1S)

イ 82式指揮通信車

本年度から新たに,82式指揮通信車を発注する。この指揮通信車は,装輪装甲車であり,長距離にわたる高速路上機動性に優れ,路外機動も可能であり,ある程度の装甲防護力を有していて,有事,流動する戦場において,師団長等が,隷下部隊に対して継続的かつ効果的な指揮活動を行うことを可能にするものである。(82式指揮通信車

ウ 改良ホーク(改善型)

現有基本ホークは,昭和35年に米陸軍で装備化され,わが国では昭和39年度以来装備してきた。その間,航空機の運動性能の向上は著しく,更に,搭載電子装置は精密化され,強力な電子妨害を使用することが可能となるなど,航空脅威が増大しているため,基本ホークでは対処が困難となってきている。

このため,昭和52年度以降,逐次,運用上の即応性,電子戦対処能力,器材の信頼性等を改良した改良ホークへの改装を進めてきた。本年度においては,更に信頼性,整備性等を向上した改良ホーク(改善型)へ,1個群の改装を行うとともに,1個群分の改装用装備品を発注する。

(3) 即応態勢・継戦能力の向上施策

ア 人員充足率の向上施策

陸上自衛官の定数18万人は,陸上自衛隊全体を常時,有事即応の態勢で維持することを前提として定められており,平素からこの定数を充足しておくことが望ましい。しかしながら有事に際し,緊急に充足し得る職域・部隊等については,平時において,教育訓練,部隊運営等に重大な支障を来さない限度で充足をある程度下げておくこともやむを得ない措置であるとの考えから,過去数か年,人員充足率を86%としてきている。

本年度においては,このような状況を踏まえ,北部方面隊の第2師団の精強性,即応性を向上するため約600人の人員充足向上を図ることとし,陸上自衛隊の全般充足率を86.0%から86.33%に引き上げることとしている。

イ 弾薬の備蓄増及び予備自衛官の増員

継戦能力の重要な要素である弾薬備蓄は必ずしも十分でないので,引き続きその増加に努めることとしている。

また,予備自衛官2,000人を増員し,合計4万3千人とすることを予定しているが,この増員は,自衛隊法の改正を待って行われるものである。

(4) 研究開発

本年度は,新たに地対艦誘導弾,新戦車等の開発に着手することにしている。

地対艦誘導弾は,わが国に対する海上からの武力攻撃に際し,できる限り水際以遠においてこれを減殺し,国土に戦闘が及ぶのを最小限に食い止るために有効なシステムとして開発するものである。

一方,新戦車は,主要諸国の主力戦車に対抗し得るような優れた火力,機動力及び防護力を備えたものを開発するものである。

そのほか,64式対戦車誘導弾を更新するため,レーザー誘導方式を取り入れた中距離の対戦車誘導弾の開発,及び現有高射機関砲を更新するため,火力・機動力等に優れた新高射機関砲の開発に着手する。

2 海上自衛隊

(1) 部隊の新編等

ア P−3C部隊の新編

海上自衛隊は,毎年の艦艇・航空機の就役等に伴い,所要の部隊の新改編を実施しているが,特に,本年度は,昨年初めて取得したP−3C対潜哨戒機の戦力化のための基礎的研究が終了することと,新たに5機を取得することに伴い,P−3Cの最初の航空隊を厚木に新編する。

イ 少年術科学校の廃止

行政改革の一環として,教育の効率化・合理化を図るため,江田島に所在する少年術科学校を廃止し,同じく江田島に所在し,砲術,航海等の教育訓練を行う第1術科学校に生徒部を新設する。

少年術科学校は,海曹の養成を目的とするものであるが,近年生徒採用数を縮小したこともあり,その機能を第1術科学校に吸収して生徒部として維持するものである。

(2)装備の更新近代化(第9表 昭和57年度に就役(取得)・建造(発注)する海上自衛隊の主要装備

ア 水上艦艇

本年度就役する3,900トン型護衛艦(DDG)は,昭和46年度から建造を開始したミサイル搭載護衛艦「たちかぜ」型の3番艦であり,1及び2番艦に比べ,防空機能の強化に加え,新たに艦対艦ミサイル(SSM)ハープーンを装備することにより,水上打撃能力の向上が図られている。本護衛艦は,艦隊防空用のターターミサイルシステムを装備する4隻目のDDGであり,水上部隊の対空防御のための中枢艦としての役割を果たす。

2,900トン型護衛艦(DD)は,昭和52年度から建造を開始した多用途の護衛艦であり,従来のものより対潜捜索攻撃能力を強化するためにHSS−2B対潜へリコプター1機を搭載するほか,水上打撃能力及びミサイル防御能力の向上を図るため,SSMハープーン,短距離艦対空ミサイル(短SAM)シースパロー及び各種電子戦装置を装備する。本年度就役する護衛艦はその2番艦である。3番艦以降にはミサイル防御能力を強化するため上記の装備に加え,20mm高性能機関砲(CIWS)を装備するが,1及び2番艦にも将来装備を検討している。

この型の護衛艦は,へリコプター搭載護衛艦(DDH)及びDDGとともに護衛隊群を編成する。

1,400トン型護衛艦(DE)は,昭和55年度に就役した1,200トン型護衛艦DE「いしかり」の性能改善型であり,本年度就役するものはその1番艦である。DEは,地方隊に配備され,主として沿岸海域における哨戒に従事するものであるが,この型のものは,対潜能力に加え,各国艦艇のミサイル化に対応するため,SSMハープーン及び各種電子戦装置等を装備し,水上打撃能力の向上が図られている。(2,900トン型護衛艦「はつゆき」

イ 潜水艦

2,200トン型潜水艦は,昭和50年度から建造を開始したものであるが,近年,各国の水上艦艇の対潜捜索攻撃能力の向上が著しいことに対応するため,昭和55年度に建造に着手した潜水艦からは,対艦ミサイル(USM)ハープーンを装備し,潜水艦の水上艦艇攻撃能力の向上が図られており,本年度建造に着手する2,200トン型潜水艦はその3番艦である。

本年度就役する2,200トン型潜水艦は,昭和54年度に建造に着手したものであるので,USMは装備されていない。

なお,USMを装備してない2,200トン型潜水艦についても,逐次USMの装備を検討しており,本年度うち1隻についてその装備に着手する。(2,200トン型潜水艦「ゆうしお」

ウ 航空機

海上自衛隊は,最近の各国の潜水艦の著しい性能向上にかんがみ,逐次除籍されていくP−2J対潜哨戒機に代え,P−3Cの整備を推進中であり,昭和53年度に発注した8機のうち3機を昨年度初めて取得し,残りの5機を本年度取得する。

昭和55年度の10機及び本年度の7機の発注により,P−3Cの総発注機数は25機(うち57年度末における取得機数8機)となる。

(3) 即応態勢・継戦能力の向上施策

即応態勢を向上させるため,海上自衛隊は,実装魚雷を常時艦艇に搭載し,又は,航空基地に配備し,また,機雷を即応の状態におくため,逐次魚雷・機雷の実装化及び保管に必要な施設,器材等の整備を進めているところである。

継戦能力を向上させるため,魚雷,機雷,ミサイル等の備蓄を進めているが,現状においては,必ずしも十分でないので,引き続き備蓄を推進することにしている。

(4) 研究開発

潜水艦の高性能化に対応するため,高速ホーミング魚雷の開発を引き続き推進するとともに,護衛艦の対潜能力を向上させるため,TASS(えい航式ソーナー96頁参照)の開発に着手することにしている。(1,200トン型護衛艦「いしかり」

3 航空自衛隊

(1) 部隊の新編等

ア F−15飛行隊の新編

航空自衛隊は,要撃戦闘機F−104Jの減勢に伴って,同型機の飛行隊を逐次F−15に機種更新する計画を推進中であるが,本年度はF−15を新たに13機取得することに伴い,最初の飛行隊を新田原基地に新編する。

イ 第4移動警戒隊の新編

航空自衛隊は,レーダーサイトの抗たん性を強化することを目的として,移動警戒隊を逐次整備してきている。

本年度はまだ移動警戒隊を保有していない南西航空混成団にこれを新編するものである。

(2)装備の更新近代化(第10表 昭和57年度に取得・発注する航空自衛隊の主要装備

ア 航空機

F−15飛行隊の新編のところで触れたように,F−15の整備を進めているが,本年度は同機23機の発注を行う。これによって,F−15の総発注機数は80機となる。

また,現有の輸送機C−1及びYS−11に加えて,航空輸送能力を向上させるため,昨年度から導入することとしたC−130H輸送機2機を発注する。更に,低空侵入機を早期に発見し得ない地上レーダーの欠点を補完するため,昭和54年度に導入を開姶した早期警戒機E−2C2機を本年度初めて取得する。

イ バッジシステム整備に向けての準備

現有バッジシステム(自動警戒管制組織)は,昭和43年度に運用を開始し,今日に至っているが,未自動化のレーダーサイトがある上,近年の航空脅威の増大に対して,自動探知・追尾の能力等が不十分となっているほか,電子戦対処能力等において性能上の不足が生じてきている。また,わが国の戦闘機等各種装備の近代化,E−2Cの導入等により電子計算機の容量不足等の問題も生じており,早急に近代化の必要がある。このため,昭和54年度以降,現有システムの能力等についての研究評価,新システムの規模,効果等に関する調査研究等を実施してきているところである。

本年度は,今までの成果を踏まえて,新システムの整備に向けて,採用するシステムの決定,システムの整備計画の策定等所要の準備を実施する。

(3) 即応態勢・継戦能力等の向上施策

ア 航空機用弾薬の備蓄増等

即応態勢を向上させるため,空対空ミサイルの完成弾集積所の整備等を行う。また,継戦能力を向上させるため,従来から空対空ミサイル等の航空機用弾薬の備蓄を進めているが,現状においては必ずしも十分ではないので,本年度も引き続き空対空ミサイル,空対艦ミサイル(ASM)等を中心に航空機用弾薬の備蓄を推進していくことにしている。(ASMを搭載して飛行するF−1支援戦闘機

イ 基地等の抗たん化

わが国に対する航空侵攻に対して,航空自衛隊の各部隊が有効に機能するためには,作戦基盤となる基地等の機能を防護し,復旧又は代替するなどの抗たん化施策を推進することが必要である。

このため,本年度も引き続き航空機用えん体,短距離地対空ミサイル(短SAM),携帯式地対空ミサイル(携帯SAM)等の基地防空用火器及び移動警戒隊等の整備を推進することにしている。

(4) 研究開発

将来見込まれるT−33及びT−1ジェット練習機の減勢に対応するための中等ジェット練習機の開発,及び運動性の向上した戦闘機等に対応するための格闘戦用ミサイルについての研究を昨年度に引き続いて推進する。(携帯式地対空ミサイル

(5) F−4EJの試改修

ア 延命策

F−4EJは,昭和44年度から調達が開始され,現在航空自衛隊の主力要撃戦闘機となっているものであるが,約3,000時間の飛行時間を確保することを設計上の基準値としており,これによる場合には,昭和60年代に入ると逐次その寿命に達する機体がでてくるため,戦闘機の総数が減勢していくことになる。

一方,米国では,F−4型機について,個々の機体点検及び管理により,航空機の寿命を個別的に判定していく航空機構造保全管理方式(ASIP)を採用して実績をあげている。

そこで防衛庁では,防衛力の整備及び運用における効率化,合理化を進める見地から,F−4EJについても,この新しい方式を採用することによって延命しようとしているものであり,これにより飛行時間にして2,000時間以上,年数にして10年程度の延命を見込んでいる。

イ 能力向上策

延命策により,昭和60年代の中期以降もF−4EJを戦闘機として継続して使用することになると,今のままでは,その相対的な戦闘能力は当然低下するので,今後の戦闘機の進歩発展に見合ったものとするよう性能向上を図る必要がある。

このため今回,F−4EJの搭載電子機器の換装等を行うことにより,能力の向上を図ることをねらいとして,昭和59年度までにまず1機について試改修を行うこととしている。

試改修においては,要撃能力の向上を主眼として,次の内容を予定している。

(ア) 搭載レーダー能力の向上

F−4EJの現用レーダーは,自機より低高度にいる目標を探知する能力(ルックダウン能力)が低く,低高度侵入目標の対処が困難なため,搭載レーダーを換装することにより,低高度目標対処能力を向上させる。

(イ) 搭載弾種の拡大・近代化

現在搭載している空対空ミサイルに加え,最新型の空対空ミサイルを搭載できるようにする。また,空対艦ミサイルを搭載できるようにすることにより,対艦攻撃能力を向上させる。

(ウ) 航法能力の向上

航法精度等を向上させるため,関連機器を換装する。

(エ) 爆撃機能の改善

以上に述べた各種能力向上策に対応し得る情報処理能力を付与するため,F−15搭載のものと同じセントラル・コンピューターを装備する。その結果,付随的に爆弾投下計算は,このコンピューターを利用して実施できることとなるので,命中精度が向上することとなる。

今回の試改修の結果,将来所期の成果が得られれば,さらに費用対効果等を検討の上,量産改修について国防会議に付議することになろう。このような延命策及び能力向上策が図られれば,現用の機体を効率的に長期にわたって活用でき,かつ,時代のすう勢にも対応できることとなる。(F−4EJ要撃戦闘機

4 その他

(1) 中央指揮システムの整備

中央指揮システムは,防衛出動等の行動に関して,防衛庁長官が情勢を把握し,適時所要の決定を行い,部隊等に対し命令を下達するまでの一連の活動を的確かつ迅速に実施するための指揮支援システムである。これは,自衛隊がその実力を十分に発揮するためには,中央からの指揮命令が確実迅速に伝達されて,すべての自衛隊の部隊及び機関が整合性のある行動をとれる態勢になっていなければならないとの認識から,昨年度整備に着手されたものであるが,昭和58年度の運用開始を目途に,その整備を推進しているところである。

本年度は,防衛庁の敷地内に建設されている中央指揮所の施設整備を引き続き進めるとともに,所要の通信表示器材等の設計・製造に着手することにしている。

このシステムは,情報の収集提供機能及び命令伝達機能等からなり,海上自衛隊の自衛艦隊指揮支援システム及び航空自衛隊のバッジシステムとも連接される。

(2) 防衛マイクロ回線の整備

防衛庁は,指揮通信態勢の整備の一環として,主要な陸上基地間の指揮通信機能を確保する骨幹回線を概成するために,昭和52年度に自衛隊自らが保守運用し得る防衛マイクロ回線の整備に着手し,目下,その整備を推進しているところである。

(3) 防空ミサイルシステムの近代化に関する研究

現有の地対空誘導弾である,航空自衛隊のナイキ及び陸上自衛隊の基本ホークは,いずれも導入後20年近くを経過し,性能,補給,整備性等の面で,今後これを長期にわたって維持することは困難となってきているため,できるだけ早期に後継ミサイルシステムの整備方針を決定する必要が生じている。

ナイキの後継システムとしては,米国のペトリオット及び現有ナイキの改良案であるナイキ・フェニックスが,また,基本ホークの後継システムについては,ペトリオット及び改良ホーク(改善型)が有力な候補となっている。このため本年度においては,ペトリオットについて導入の可否等を判断する上で必要な性能・経費等に関する研究を米国の支援を得て実施するほか,ナイキ・フェニックスについて,従来技術研究本部で行ってきた研究の成果を踏まえ,技術開発に着手することの可否等を判断するために,更に,必要となるシステムの主要な事項等に関する研究を実施することとしている。

第2節 防衛関係費

1 概要

本年度の防衛関係費は,前年度予算2兆4,000億円に比べて7.8%の伸び率,総額で2兆5,861億円となっている。

わが国の防衛力の整備に当たっては,憲法及び基本的な防衛政策に従い,国民の理解を得つつ,「大綱」の水準をできるだけ早く達成するという考え方に立って,質の高い防衛力の着実な整備に努めているところである。なお,各年度の防衛力整備の具体的実施に際しては,その時々の経済財政事情等を勘案し,国の他の諸施策との調和を図りつつ行うものとされており,また,「防衛力整備の実施にあたっては,当面,各年度の防衛関係費の総額が,当該年度の国民総生産の100分の1に相当する額を超えないことをめどとして,これを行うものとする」(昭和51年11月5日,国防会議決定,閣議決定)ことが決定されている。

本年度の防衛予算は,このような基本方針に従って,わが国を防衛するために必要最小限の経費を計上したものである。その結果,一般会計予算に占める防衛関係費の割合は,本年度は5.2%となり,昨年度の5.1%に比べ僅かではあるが上昇している。

また,本年度の防衛関係費の対GNP比は,昨年度の0.91%をやや上回る0.93%となっている。(防衛関係費の国際比較については資料17参照)

本年度の事業内容は前節で詳述したところであるが,予算的な面からみれば,次のとおりである。(第47図 国家予算中の割合(%)

(1) 防衛関係費の概要

(2) 装備の充実

(3) その他の主要事項

2 防衛関係費の特色

防衛関係費は,陸,海,空自衛隊等の「機関別内訳」,人件・糧食費,物件費等の「使途別内訳」,既国庫債務負担行為及び継続費の歳出化経費,当年度における新規装備品調達等のための経費等の「経費別内訳」等に分類してみることができる。

(1) 機関別内訳

本年度防衛関係費の機関別内訳は第48図のとおりであり,陸,海,空自衛隊の経費は,防衛関係費全体の約86%(陸38%,海23%,空25%)となっており,防衛施設庁の経費は約11%を占めている。

(2) 使途別内訳

本年度防衛関係費の使途別内訳は第49図のとおりであり,人件・糧食費が46.6%と大きな割合を占めている。なお,第50図からわかるように,最近はその割合は低下の傾向にある。

また,人件・糧食費以外の物件費は53.4%であり,このうち,航空機,艦艇,戦車等の装備品の購入のための経費は22.4%,基地対策経費は10.4%であり,修理費,燃料費等の維持的経費が主なものであるその他の経費は20.6%を占めている。

(3) 経費別内訳

防衛関係費の経費別内訳は,「人件・糧食費」,既に国会の議決を経ている国庫債務負担行為及び継続費の後年度支払い分,いわゆる後年度負担による「歳出化」経費及び当年度における新規装備品調達等のための「その他」経費に分類される。

防衛力の整備に当たっては「防衛計画の大綱」に従い,主要装備の更新近代化を中心に,質の高い防衛力を着実に整備していくことを基本方針としているが,その際,艦艇,航空機等の大型装備品はその製造に第11表のとおり長年月を要し,単年度予算では調達できないものが多い。したがって,これら装備品等の取得に当たっては,財政法に定められている国庫債務負担行為及び継続費の方式を採用しているところである。これらの方式によれば,最長5年間の製造期間にわたり,一括して製造等の契約をするための予算措置が行われることとなり,当年度予算で支払われる前金部分以外の経費は,次年度以降の歳出予算によって支払われるということになる。これがいわゆる「歳出化」経費といわれているものであり,毎年度の防衛関係費の中で相当の割合いを占めている。この「歳出化」経費は,P−3C,F−15等の大型装備品の導入に伴い,逐年増加の傾向にある。

本年度の防衛関係費をこのような「経費別内訳」でみれば,第51図のとおりであり,「人件・糧食費」46.6%,「歳出化」27.1%,「その他」 26.3%となっている。

 第3節 教育訓練

 自衛隊は,その任務を遂行するため,各種の態勢の整備を実施しており,保有する装備についても,逐次近代化が推進されている。これらの近代的装備を十分に使いこなして,その本来の性能を発揮させ,また,部隊を指揮運用して,与えられた任務を遂行するのは,つまるところ人の問題に帰するといえよう。有能な隊員を育成すること,また,その集団としての部隊を練成することは,防衛力整備の重要な要素である。

 自衛隊では,このような認識に立ち,日夜厳しい教育訓練を実施して,精強な隊員及び部隊の練成に努めているところである。

 自衛隊における教育訓練は「基本教育」と「練成訓練」に大別される。「基本教育」とは,自衛隊の学校又は教育部隊等において実施されるものであり,隊員として必要な資質を養うこと及び職務遂行上必要な基礎的知識や技能を修得させることを目的としている。

 「練成訓練」とは,自衛隊の部隊等において実施されるものであって,隊員のそれぞれの部門における練度を向上させること及び組織として各種の状況に対応できる精強な部隊を練成することを目的とするものである。

 なお,自衛隊で実施できない新規装備品等に関する技術教育については,部外(国内会社又は米国)に委託して実施している。

1 陸上自衛隊

(1) 基本教育

陸上防衛力は,複雑で多様な地形からなる陸地において行使される。このような陸地において,その地形に対応する多種多様な装備と地形を利用し,その装備を駆使する人とが有機的に結合されていなければ総合化された陸上戦闘力とはなり得ない。この点において,特に陸上防衛力における「人」は,重要な意味を持っており,一人一人が防衛力としての役割を果たさなければならない。このため,陸上自衛隊では,防衛力たる人としての資質を養い,各職務に応じた知識技能を身につけることを重視した基本教育を行っている。

 基本教育は,次のような区分により行われている。

(2) 練成訓練

練成訓練では,各職種ごとに,個人から,班,小隊,中隊以上へというように,小さい部隊から大きな部隊へと段階的に訓練するとともに,他の職種部隊との協同についても訓練する。

ここでは,その一例として主な戦闘職種部隊の代表的な訓練について紹介する。

ア 普通科部隊(諸外国でいう歩兵部隊)

普通科部隊は,近代戦においては諸職種協同の中核となり,地上戦闘に最終の決を与える近接戦闘部隊である。その保有する主な装備は,小銃,機関銃,無反動砲,迫撃砲等である。普通科部隊の行う主な訓練としては,行進,攻撃,防御等がある。

行進は,徒歩又は車両を利用して行う部隊移動のことであり,この訓練においては,航空攻撃の脅威を想定した中で,一夜の間に数10kmを完全武装で徒歩行進し,引き続き攻撃や防御といった戦闘行動に移る要領等の訓練を実施している。

攻撃訓練においては,戦車,野戦特科(諸外国でいう砲兵),施設科(諸外国でいう工兵)等他職種部隊の協力を得て,相手の防御陣地をその総合火力で制圧し,次いで,地雷原等を処理し,相手陣地を奪取確保する一連の要領等を訓練している。

防御訓練においては,相手火砲の射撃等にも生き残れるように地形を利用して堅固な陣地を構築する訓練,相手戦車等の行動を制限する地雷原等の障害を構成する訓練,これらの陣地や地雷原等の障害と戦車,対戦車ミサイル,その他各種火力を組み合せて防御戦闘を行う訓練等を実施している。(普通科隊員の訓練

イ 戦車部隊

戦車部隊は,戦車の優れた火力,装甲防護力,路外機動力等の特性によって,機動打撃力及び対機甲防御力の骨幹となるものであり,近代戦においては攻撃においても防御においても必要不可欠の存在である。戦車部隊の行う主な訓練としては,攻撃,防御,部隊射撃等がある。

攻撃訓練においては,相手防御の中核である戦車,装甲歩兵戦闘車等を撃破する訓練,他職種部隊と協同して,相手側防御陣地を迅速に突破する訓練等を実施している。

防御訓練においては,対戦車部隊等と協力し,巧みに地形,陣地を利用し,不意急襲的な射撃により,相手を撃破する要領等の訓練を実施している。

寸秒を争う迅速かつ正確な射撃は,戦車部隊の生死を左右する。このため,戦車部隊は,静止目標及び同時多数目標に対する至短時間での実弾射撃訓練等を行っている。

ウ 野戦特科部隊

野戦特科部隊は,威力強大,長射程かつ正確な火力を随時随所に集中し,広範囲の地域を火力で制圧できる特性を有しており,戦場の縦深にわたる火力戦闘を行い,虻普通科部隊,戦車部隊等に密接に協力する等,対地火力の骨幹として重要な地位を占めている。

このような特性から,野戦特科部隊は,機先を制して射撃を開始できるよう迅速に陣地を占領する要領,第一線部隊の前進に伴い,これに密接に協力して射撃を行うため陣地を変換する要領,弾着を観測して目標ヘ誘導する射撃指揮及び観測の要領,敵の砲兵の射撃に耐え得る射撃陣地を構築する要領等を重点に訓練しており,最終的には,これらを総合して迅速正確な火力を目標に指向するための実弾射撃訓練を実施している。(野戦特科部隊の実弾射撃訓練

エ 高射特科部隊

高射特科部隊は,対空火力の骨幹であり,地対空誘導弾(ホーク)を装備する部隊と高射機関砲(L−90)等を装備する部隊がある。これらの部隊の訓練には,示された射撃陣地に速やかに移動して射撃準備を完了する訓練,シミュレーター等を利用して行う対空戦闘訓練,実弾射撃訓練等がある。

ホーク部隊の実弾射撃訓練は,国内に射場がないため,年に一度,米国のニューメキシコ州の射場において実施されており,昨年度も全ホーク部隊の約半数に当たる18個高射中隊がこの年次射撃訓練に参加した。

また,L−90等を装備する部隊は,無線操縦による標的機に対する実弾射撃訓練等を実施している。

このような各職種の訓練に引き続き,戦闘職種,戦闘支援職種を総合する戦闘団等の訓練においては,指揮所訓練等により,部隊の指揮運用を訓練するとともに,実員をもってする実動訓練により,攻撃,防御等の各種部隊行動について,総合的な練成を図っている。

更に,師団,方面隊,最終的には陸上自衛隊演習等を実施することにより,精強な陸上自衛隊の練成を図っている。

2 海上自衛隊

(1) 基本教育海上自衛隊は,水上艦艇,航空機,潜水艦等の多様で近代的な装備を保有し,これらを千変万化する広大な海において,海中,海上から空中にわたり相互の密接な連係の下に総合的に運用しなければならない。このような任務を達成することができる隊員を養成するため,海上自衛隊は,素養教育と術科教育とに分けて基本教育を実施している。

素養教育は,海上自衛官としての資質を養うとともに,必要とする基礎的な知識技能を身につけるためのものである。術科教育は,艦艇,航空機等の装備を駆使するために,より高度の,あるいは新しい知識技能を修得させるためのものであり,次に述べる部隊での練成訓練と連接をとって実施される。

(2) 練成訓練

練成訓練は,一定期間を周期として段階的に練度を向上させる周期訓練方式をとっている。訓練周期の初期は艦艇部隊にあっては,個艦を,航空部隊にあっては搭乗チームを単位として,個人の技能の向上とチームワーク作りに主眼がおかれる。訓練周期の経過とともに基本的な訓練から徐々に応用的な訓練に移行して,部隊としての練度の向上を図っていくことになる。次に,代表的な部隊の主な訓練について紹介する。

ア 水上艦艇部隊

水上艦艇部隊の主な訓練としては,対潜訓練,防空戦訓練,水上打撃戦訓練等があり,これを別個にあるいは組み合わせて実施することにより,練度の向上を図っている。

対潜訓練は,ソーナー等を使用して,潜水艦を捜索,探知,識別,位置局限及び追尾し,魚雷等で攻撃するまでの一連の手順(第2部第4章第2節参照)を訓練するものであり,地上訓練装置を用いて対潜装備の操作手順等に慣熟する基本的な訓練や,実際に潜水艦を目標とした応用的な訓練を航空機等と協同して実施する。

防空戦訓練は,レーダー等を使用して,相手航空機又はミサイルに見立てた小型高速の目標航空機を捜索,探知,識別し,これを回避又は対空ミサイル,砲等を使用して撃破するまでの手順を訓練するものである。特に,ミサイルに対する防御の成否は,小型高速のミサイルをいかに早期に探知し,これを撃破又は回避するかにかかっていることから,訓練は,目標航空機の的確な探知・識別とミサイル迎撃態勢への速やかな移行に重点をおいている。

水上打撃戦訓練は,レーダー等を使用して,目標艦艇を捜索,探知,識別し,これを対艦ミサイル及び砲で政撃するまでの手順を訓練するものであり,目標艦艇をできるだけ遠方で探知,識別し,相手より先に攻撃することが重点となる。

防空戦及び水上打撃戦における攻撃能力を向上させるための対空射撃訓練及び対水上射撃訓練においては,リモートコントロールの高速 無人標的機又は艦艇がえい航する標的等を目標として,ミサイル及び砲による射撃を実施する。

防空戦及び水上打撃戦等においては,当然相手の電波妨害等が予想されるので,訓練においても訓練支援用航空機で電波妨害等の電子戦環境を作り出して,より実際的な訓練を行うよう心掛けている。(空水協同対潜訓練

イ 航空部隊

航空部隊の主たる訓練は,対潜訓練であり,航空機による対潜訓練は,その機動力及び広域捜索能力を生かして,広い海域にひそむ潜水艦の捜索,探知,識別,位置局限,追尾及び攻撃の一連の手順を訓練するものである。訓練においては,地上訓練装置を使用して,潜水艦の発する音響信号の識別要領や,高速で回避する潜水艦の追尾攻撃要領を反復訓練するとともに,飛行訓練では,実際の潜水艦を目標として,その日の気象,海象,目標潜水艦等の状況を考慮して捜索計画を立案し,これに基づいて,レーダー,ソノブイ,磁気探知機等を用いて捜索から攻撃までの手順を訓練する。また,攻撃能力を高めるために,海上の標的に対して,訓練用の魚雷及び爆弾を実際に投下する魚雷・爆弾投下訓練を実施している。

ウ 潜水艦部隊

対潜訓練及び艦船攻撃訓練が潜水艦部隊の主な訓練である。対潜訓練は,潜水艦によって,目標潜水艦を捜索,探知,近接,攻撃する訓練であり,いかに相手に探知されないで目標を探知して攻撃を加えられるかが重点となる。艦船攻撃訓練は探知されないで艦船に近接し,魚雷等で攻撃を加えた後,水上艦艇,航空機等の反撃を回避する訓練である。

エ 対機雷戦部隊

機雷掃海訓練及び機雷掃討訓練が対機雷戦部隊の主な訓練である。機雷掃海訓練は,掃海艇又は掃海へリコプターで敷設された機雷を排除する訓練であり,敷設機雷の種類等に対応する各種の掃海法を適正に実施し,効率的に海面の安全を確保することを主眼としている。また,機雷掃討訓練は,敷設機雷の一つ一つを捜索,探知,識別し,これを爆薬等により爆破処分する訓練である。海底に横たわる機雷を捜し出すことは,高度の技量を要するので,訓練は特に探知識別法に重点をおいて実施している。

海上自衛隊の各部隊は,このような練成訓練を日夜積み重ねることによって,部隊としての練度の向上に努め,毎年秋に行われる海上自衛隊演習に参加し,総合的な訓練を実施している。

3 航空自衛隊

(1) 基本教育

航空自衛隊は,科学技術の最先端をいく,しかも進歩改善がめざましい装備品等を保有し,運用していること,一人一人の仕事が細分化されていること及び組織自体が機能的に分れていることが特徴である。

このため,隊員の一人一人が高度な装備を駆使でき,科学技術の進歩に対応し得るような個人の技能の向上及び組織としての機能の発揮を重視した基本教育を行っている。

基本教育は大きく分けて,防衛教養等,隊員として一般的に必要な基礎的資質のかん養及び知識・技能の向上を主体とする一般教育と特技に応じて専門的に必要な技術の修得を主体とする技術教育があり,それぞれ次のような区分に従って教育が行われている。

(2) 練成訓練

ア 戦闘機部隊

戦闘機部隊では,侵攻してくる爆撃機等を仮想した目標機に対して,レーダーサイト等と連係してこれを要撃する訓練,相手戦闘機との格闘戦にうち勝つための対戦闘機戦闘訓練,更に,実際に各種ミサイル,ロケット弾,機関砲等を発射したり,爆弾を投下する等の能力を練成する射爆撃訓練等を主要な訓練として実施している。

各訓練においては,単に相手航空機等を対象とするのみでなく,電子戦,侵攻様相,気象等の要素及びレーダーサイトの支援能力の一部喪失といった状況も考慮して,総合的な能力の向上を図っており,特に,電子戦下の低高度侵攻対処の訓練に重点を置いている。

なお,射爆撃訓練については,射爆場の不足等により,現在は基本的な訓練に限定して実施している状況である。

イ 航空警戒管制部隊

レーダーサイト等は,対領空侵犯措置のための24時間警戒監視態勢を継続しつつ,戦闘機部隊等と連係して,実機を使って,目標機の発見から要撃に至る組織的戦闘訓練を主として実施している。

また,レーダーサイトは,個別に要撃機を目標機に会敵させるための,実機による要撃管制訓練を年間を通じて実施しており,低高度目標,超音速目標等といった応用目標対処についてもたゆまぬ訓練を続けているところである。

更に,実機訓練では実施困難な訓練課目の練成のため,シミュレーターを活用している。

ウ 地対空誘導弾(ナイキ)部隊

各高射群等は,所定の待機を継米国の射場で実射訓練中のナイキミサイル継続しつつ,航空警戒管制部隊,戦闘機部隊等と連係した組織的訓練を実施するほか,機動展開訓練やシミュレータ一を使用した要撃訓練,射撃準備訓練,模擬射撃訓練等を実施している。

また,年に一度,各高射隊ごとに米国ニューメキシコ州の射場において,ミサイル組立てから実弾射撃までの一連の訓練を実施しており,昨年度も全19高射隊がこれに参加して,それぞれ実弾1発の射撃訓練を含む年次射撃訓練を実施した。

以上の各部隊ごとの練成訓練のほか,各方面隊等ごとに,方面隊隷下の各種部隊が参加する総合演習を,年に数回実施しており,主として防空戦闘を中心とした指揮・統制及び各部隊の連係要領等を演練している。

また,通常年に一回,航空自衛隊の大半の部隊が参加する総合演習を実施している。(米国の射場で実射訓練中のナイキミサイル

4 統合演習

昨年度は,指揮所演習及び実動演習を含む統合演習を実施した。

これは,外部からの武力攻撃に際しての対処行動について,陸・海・空各自衛隊の協同連係要領を総合的に演練するとともに,統合運用に関する資料を得ることを目的とするものであった。

(1) 指揮所演習

本演習は,市ケ谷駐屯地等において,3日間にわたり,統合幕僚会議事務局及び陸・海・空各自衛隊の人員約1,100人が参加して行われたものであり,上級司令部(主として統幕・各幕レベル)における指揮所活動を通じて,外部からの武力侵攻前後における各自衛隊の統合運用に関する事項を演練したものである。

(2) 実動演習

本演習は,対馬を中心とする西日本の海・空域で展開された実動演習であり,離島に部隊が移動する際の海上作戦輸送,航空輸送及び防空戦闘を実施することによって,陸・海・空各自衛隊の実動部隊相互の協同連係要領を総合的に演練したものである。

陸・海・空各自衛隊の統合作戦を行う上においても,このような演習は極めて重要であり,今後とも毎年度統合演習を実施していくことが必要であると考えている。(第12表 昭和56年度に実施した自衛隊の主要演習実績

 

(注) 戦闘団:普通科連隊を基幹として,それに戦車中隊,対戦車小隊,野戦特科大隊,施設中隊等を配属して,総合した戦力を発揮できるように編成した部隊

第4節 自衛官

 自衛隊は,わが国に対する侵略を未然に防止し,一旦有事の際には一丸となってわが国の防衛に当たることを任務とする実力集団である。自衛官はこの任務を達成するために日夜訓練に励んでいる。

 本節では,このように,防衛力の根幹となっている自衛官について,その概要を説明するものである。

1 自衛官とは

自衛隊員は,特別職の国家公務員であり,その任免・分限・服務等の諸般の基準は,一般職を対象とする国家公務員法でなく,自衛隊法により規定されている。

自衛官は,自衛隊員のうち,自衛隊の各部隊を構成し,制服を着用することを義務づけられている隊員である。

自衛官のあるべき姿は,「服務の本旨」(自衛隊法第52条)及び「自衛官の心構え」(昭和36年6月28日制定)を準拠としている。その内容は,民主主義を基調とするわが国の防衛力としての自衛隊の使命を自覚し,自衛官としての旺盛な責任観念,厳正な規律及び強固な団結を保持し,良識ある有為な国民としての資質の陶冶を図ること等を主体としたものである。(第52図 自衛官の位置づけ

2 自衛官の構成

(1) 自衛官の任用制度

自衛隊は,その構成員である自衛官をすべて本人の自由意志に基づき任用するという志願制度をとっている。このような志願制度は,国民に兵役に服する義務を強制的に負わせる国民皆兵制度としての徴兵制度とは大きく異っている。

この志願制度に基づいている自衛隊が,その組織を維持するためには,毎年多数の者が停年,任期満了又は本人の意志によって自衛隊を退職するため,それに見合うだけの隊員を採用していかなければならないことになる。このため,防衛庁としては多くの若者を自衛官として採用するために,種々の努力を払っているところである。

自衛官の任用系統は,第53図に示すように,直接幹部に任用される場合(医官等),幹部候補者として任用される場合(一般幹部候補生),直接曹に任用される場合(技術海曹等),曹候補者として士の階級に任用される場合(一般曹候補学生等),任期制自衛官として2士に任用される場合及び将来のパイロット要員である航空学生として2士に任用される場合等がある。

 

服務の本旨

 隊員は,わが国の平和と独立を守る自衛隊の使命を自覚し,一致団結,厳正な規律を保持し,常に徳操を養い,人格を尊重し,心身をきたえ,技能をみがき,強い責任感をもって専心その職務の遂行にあたり,事に臨んでは危険を顧みず,身をもって責務の完遂に努め,もって国民の負託にこたえることを期するものとする。

 

 

自衛官の心構え

1 使命の自覚

(1) 祖先より受けつぎ,これを充実発展せしめて次の世代に伝える日本の国,その国民と国土を外部の侵略から守る。

(2) 自由と責任の上に築かれる国民生活の平和と秩序を守る。

2 個人の充実

(1) 積極的で,偏りのない立派な社会人としての性格の形成に努め,正しい判断力を養う。

(2) 知性,自発率先,信頼性及び体力等の諸要素について,ひろく調和のとれた個性を伸展する。

3 責任の遂行

(1) 勇気と忍耐をもって,責任の命ずるところ身をていして任務を遂行する。

(2) 僚友互いに真愛の情をもって結び,公に奉ずる心を基とし,その持場を守りぬく。

4 規律の巌守

(1) 規律を部隊の生命とし,法令の遵守と命令に対する服従は誠実厳正に行う。

(2) 命令を適切にするとともに,自覚に基づく積極的な服従の習性を育成する。

5 団結の強化

(1) 卓越した統率と情味ある結合のなかに,苦難と試練に耐える集団としての確信をつちかう。

(2) 陸,海,空心を一にして精強に励み,祖国と民族の存立のため,全力をつくしてその負託にこたえる。

 

いずれの場合でも,本人の努力次第で上位階級に昇任する道が開かれている。(第53図 自衛官の任用制度

(2) 自衛官の階級と定員

自衛官は,自衛隊の任務の特質から,3士から将までの17の階級に細分化された階級制度をとっており,これらは,幹部(3尉から将),准尉,曹(3曹から曹長)及び士(3士から士長)の4つに分類される。(第54図 自衛官の定員

(3) 階級別構成

ア 幹部自衛官

(ア) 幹部自衛官の責務

幹部自衛官は,3尉以上の自衛官であり,部隊等の指揮・運用等について重大な責任を有するばかりでなく,率先垂範して任務の遂行に当たることが要求されている。そのことから,幹部自衛官となった者は,改めて次のような幹部自衛官としての服務の宣誓を行うことを義務づけられている。

 

宣誓

 私は,幹部自衛官に任命されたことを光栄とし,重責を自覚し,幹部自衛官たる徳操のかん養と技能の修練に努め,率先垂範,職務の遂行にあたり,もって部隊団結の核心となることを誓います。

 

(イ) 幹部自衛官の職務

幹部自衛官の職務区分には,指揮権を与えられて部下・部隊を指揮し,責任を果たすべき指揮官,それを補佐する幕僚,教育に従事する教官,研究を担当する研究員,上級指揮官を直接補佐する副官及びその他の管理者等がある。

本来,幹部自衛官の職の多くは指揮官職であり,このため,幹部自衛官は,各職務経験の過程で,指揮官としての資質を養成することを要求されている。

イ 准尉

曹として長期間勤務し,経験豊富で勤務成績の優秀な者は,昇任して准尉となることができる。准尉は,それまでの曹としての経験を生かした職務につくほか,慣熟した隊務経験を活かして曹長以下の服務の指導,装備品の整備等,技能面の指導等に当たる。

准尉である自衛官は,その服制・礼式は幹部に準じ,俸給はほぼ3尉と同等にしているなど,その任務内容に応じた処遇がなされており,いわば準幹部的立場にあるといえる。

ウ 曹

曹である自衛官は,自衛隊の実際の行動の担い手であり,自らも小部隊の指揮官となり,士である自衛官を指揮・監督し,また,技術の専門家として隊務を遂行する立場に置かれる。

陸・海・空各自衛隊とも定員上,曹である自衛官が最も多い。これは,現在の自衛隊が技術集団ともいわれるように,豊富な経験に基づくベテランの必要性を裏付けているものであり,実際にも,自衛隊の各種装備品の整備とその運用,各戦術単位における戦技技量の維持向上等は,曹である自衛官の経験技能と地道な努力によって支えられているところが大きい。

曹である自衛官の多くは,任期制自衛官である士から昇任試験に合格した者によって占められており,このほかに,曹候補者として採用された者が,一定の教育期間を経て3曹に昇任する場合等がある。(第55図 曹である自衛官の位置づけ

 エ 士

士である自衛官は,一般曹候補学生,自衛隊生徒等を除き,任期制自衛官であり,曹以上の自衛官が停年制をとっているのに対し,2年又は3年の期間を限って任用される。このような,一般社会にはみられない短期間の任用期間を定めているのは,若い活力にあふれた隊員を常に自衛隊に確保し,必要な教育訓練を行うことによって,自衛隊の精強性を維持し,有効に任務を達成し得る組織にするためである。

任用期間については,陸上自衛隊の一般隊員は2年,海・空各自衛隊の隊員及び陸上自衛隊の特殊技術者(空挺等)は3年としており,いずれの場合も所定の任期が満了した場合において,本人が志願したときは,引き続き2年を任用期間としてこれを任用することができることとしている。(第56図 任期制度

 (4) 婦人自衛官

婦人自衛官は,看護職域には自衛隊発足当初から配置されていたが,更に,広い分野で女性の特質を生かすため,陸上自衛隊では昭和42年度から,海・空各自衛隊では昭和49年度から,それぞれ通信,文書,人事,会計,補給,航空機整備等の職域に配置されている。

婦人に適する職域に婦人自衛官を配置することは,自衛隊全般の業務能率の向上に貢献している。また,男女を問わずわが国の防衛に積極的に参加し得る道を開くことは,自衛隊に対する一般婦人層の関心と理解を深めることにも役立っている。

婦人自衛官の人数(昭和57年5月31日現在)は,一般婦人自衛官が2,311人,看護婦及び看護学生である婦人自衛官が943人,医官・歯科医官が23人,合計3,277人である。(第57図 婦人自衛官の人数(人)(昭和57.5.31現在))(航空機整備中の婦人自衛官

3 世代の交代

自衛隊の停年制から考えて,この数年のうちに旧軍又は旧軍学校出身者等は自衛隊から姿を消し,大きな世代交代の時期を迎えることになる。この後を引き継ぐのは,一般大学や防衛大学校出身者,更に部内出身の幹部グループであり,戦後教育を受けてきた世代である。

これらの世代は,先輩達の指導と,二十数年にわたる自衛隊の訓練等に鍛えられて,今や老練なリーダーへと成長しており,戦後築きあげられた自衛隊の伝統を守りつつも,斬新な発想によって新しい自衛隊を牽引していく能力を備えているといえよう。

4 募集

自衛隊は,その任務の性格上,組織を常に若々しく精強な状態に維持しておく必要があり,このためには,若い年齢層の隊員を常時継続して確保していかなければならない。

このため,毎年2万人以上の2士,3,000人弱の幹部候補生及び曹候補者等を募集している。昨年度については,応募者数約9万6千人,採用数約2万4千人であった。各区分毎の応募倍率は,第58図のとおりである。

このような多数の自衛官及び学生を毎年採用するための募集業務は,全国50か所にある自衛隊地方連絡部が行っているが,2士の募集業務については,その一部を都道府県知事及び市町村長に委任している。

第58図からも分るように,自衛官及び学生の募集においては,2士(男子)の募集が最も難しい状況にある。これは,その募集人数が2万人以上と膨大であること及び最近の傾向として,適齢人口(18歳以上25歳未満)の減少,大学等への進学意欲の高まり等から,募集対象の若者が慢性的に不足している状況に加えて,小家族化,地元志向等の社会的風潮等が影響しているとみられる。

更に,わが国が伝統的に終身雇用制を採っている中で,短期間の任期制を採っていることが,募集を困難にしている要因の一つになっている。

2士(男子)の入隊者の志願の状況については,最近の傾向として,地方連絡部や市町村の窓口に出頭してくる自主志願者はおおむね1割弱で,大部分は,何らかの意味で地方連絡部の募集業務に従事する,いわゆる広報官の募集広報(活動)によって志願している。

自衛隊は,2万人を超える新しい隊員を毎年入隊させるために,このような広報官を約3,100人地方連絡部に配置しており,入隊希望者の開拓に努力しているところである。また,民間の募集協力者として,全国に約1万人の募集相談員がおり,入隊希望者等に関する情報の提供等というような協力を通して,募集を支える大きな力となっている。

 自衛隊の隊員の確保は,これら地方連絡部等の地道な努力によって支えられており,例年ほぼ計画どおり達成されている状況ではあるが,新規の隊員を更に安定的に確保するために,防衛庁としても,募集態勢を整備拡充するとともに,青少年にとって,魅力ある自衛隊となるよう努力しているところである。また,それと同時に,国民の自衛隊に対する理解と支持,更に積極的な参加が一層望まれるところである。

5 自衛官の生活

(1) 入隊・部隊配置自衛官の入隊時の教育は,曹士については,陸・海・空各自衛隊の教育隊や学校において,「自衛官の心構え」に基づく,自衛官として必要な基本的資質を養成するための教育や,体力の練成のほか,それぞれの自衛隊で必要な知識・技能の教育を行う。

それぞれの教育課程を卒業するまでに,各人に適する職域が決定される。すなわち,陸上自衛隊においては普通科,特科,機甲科等,海上自衛隊においては水上艦艇,航空機,潜水艦等,航空自衛隊においてはナイキ,航空警戒管制,航空機整備等にそれぞれ進むことになり,各職域に応じて,北は北海道から南は沖縄まで全国の部隊に赴任していくことになる。

(2) 営舎(艦艇)内生活

ア 営内班

自衛官は,その任務上いつでも職務に従事することのできる態勢になければならないと義務づけられている。陸上において勤務する曹長以下の自衛官は,原則として営舎内に居住することとされ,艦艇乗組員が艦艇を居住の場とされているのもその現れである。なお,営舎内に居住している曹の自衛官が,結婚等によって営舎外居住が必要となった場合は,これが認められており,このようにして営舎外に居住している曹の自衛官は,曹全体の約70%に当たっている。

営舎内生活においては,服務の指導上及び命令指示伝達等の徹底上の観点から,1個班約10人を基準として通常営内班編成をとっており,班長には曹の適任者が指名されて若い隊員の指導を行うほか,班員の私的な悩み等についても相談相手になるなどの努力をしており,営内班が団体生活に必要な規律や公徳心,更に団結,協調の精神が自然に養われていく場であるとともに,良好な人間関係育成の場の一つともなっている。

イ 勤務態様

自衛官の勤務時間は,原則として,防衛庁長官の定める日課表に基づいている。

部隊等によっては.任務の性格上,航空自衛隊のレーダーサイトのように24時間勤務を実施しているところがある第13表日課表(平日)が,この場合は一般にシフト勤務と呼ばれている特別の勤務態様を採っている。これは,曜日に関係なく,数個班の輪番制による勤務を実施するものであり,常に1個班が勤務している勤務形式である。

ウ 休養

(ア) 外出・外泊

営舎内に居住している隊員は,個々の勤務状況に応じて外出・外泊が許可される。陸・空各自衛隊の例で述べれば,一般に,外泊を伴わないものを「外出」,外泊を伴うものを「特別外出」として営外に出ることを認めている。なお,外出時間等を利用して,定時制高校や大学に通学している自衛官も多い。

(イ) 休暇

休暇には,年次休暇,病気休暇及び特別休暇があり,年次休暇については,自衛官は月に2日の割合で有給休暇が与えられる。また,選挙権の行使や年末年始及び親族の死亡等に際しては,あらかじめ定められた期間の特別休暇が与えられる。

自衛官は,休暇を利用して親元に帰省したり,余暇活動を行い,英気を養っており,特にスポーツ面においては,部外の大会に参加したり,各種体育の指導や審判員をかって出るなど,余暇の間にも活躍している例が多い。

(3) 処遇

ア 昇任

昇任とは,通常,隊員の勤務実績,功労等に基づく選考又は試験によって,現在の階級から原則として一階級上位の階級に任命することをいい,対象となる自衛官の階級に応じて定められた任免権者(防衛庁長官又はその委任を受けた者)が定期的に行っている。

任期制自衛官として入隊した者が,実力によって幹部となることは可能であり,現在,この難関を突破して1佐以上の階級にまで昇進している者もおり,連隊長等の要職についている。

イ 給与

自衛官の場合,俸給は一般職の国家公務員の俸給表を基準として作成した「自衛官俸給表」によっている。

諸手当は,一般職の国家公務員とおおむね同様の体系により支給されるほか,自衛官の勤務の特殊性に応じ,特別の手当として落下さん隊員手当,艦艇乗組手当,航空手当,爆発物取扱手当等が設けられている。また,俸給及び諸手当のほか,現物給与として食事の支給,被服の支給又は貸与及び療養の給付又は療養費の支給がある。

(4) 住居

幹部,准尉及び営舎外居住を認められた曹は,部隊の周辺市町村に居住することになるが,その住居は公務員宿舎,自宅,借家等に分かれており,入居状況は第59図のとおりである。

公務員宿舎については,自衛隊の任務の性格上,即応態勢を保持する必要もあって,駐屯地・基地等の近傍に建設されているが,自衛隊の創設以来の宿舎も多く,古い,狭い等の問題もある。これについては,逐次改善するように努めているところである。(第59図 自衛官の住宅入居状況(%)(昭56.6.1現在)

6 退職

(1) 停年延長施策

自衛隊では,その精強性を維持するために,自衛官については一般公務員と異なり,比較的若い停年制を採用している。しかし,最近におけるわが国の社会情勢の変化,人口の年齢構成の推移等により,自衛隊をとりまく環境は顕著に変わりつつあり,これらの変化に適応していくため,防衛庁では,昭和54年度から昭和59年度までの間の移行期間をもって,第60図に示すような停年延長を行っている。

(2) 停年延長に伴う効果

ア 人材の有効活用

自衛隊においては,肉体的能力も当然隊員としての必要要素ではあるが,装備の近代化等に伴って従来より一般的に知的能力の要求が高まっており,長い経験に基づく幅広い知識と高度の技術は貴重な価値となっている。

この観点から,停年延長は人材の有効な活用の面でも生かされていると考えられる。(第60図 定年延長

イ 自衛官のライフサイクル

自衛隊で停年まで勤務する非任期制自衛官のライフサイクルを見ると,従来大部分の者は,子供の教育費等経費面で最も出費の多い時期に50歳の停年を迎えることとなっていた。したがって,退職した自衛官にとって再就職は不可欠であるにもかかわらず,一般に終身雇用制,年功序列賃金制をとっているわが国の労働慣行等から,中高年者の再就職は厳しい状況下に置かれている。

このような状況を考え合わせ,隊員の福祉向上を図る見地から,少なくとも長子が大学を卒業し,生計費の負担が少なくなるような年齢まで在職することができることとしたものである。これにより,退職後の生活不安を緩和することができ,かつ,自衛官の勤務意欲の高揚が期待できる。(第61図 自衛官のライフサイクル

(3) 就職援護活動

防衛庁では,停年を迎えたり,又は任期を満了して自衛隊を退職することになる自衛官が,退職後の生活に円滑に移行できるように就職援護活動を行っている。

このため,陸・海・空の各幕僚監部等に援護室を,各駐屯地,基地毎に援護班,援護係,又は援護センター等を,自衛隊地方連絡部に援護課を設けており,活発に活動しているところである。

また,社団法人である隊友会にも,昭和54年度から隊員の就職援護を専門とする援護本部が設けられ,職業安定法に基づき,労働大臣の許可を得て退職予定の自衛官のための無料職業紹介事業等を行っている。

更に,自衛隊では,退職後の再就職を円滑かつ有利にするための施策等として,部外あるいは部内において行う各種の技能訓練及び一般社会に適応するための知識を与えるための教育等の職業訓練を実施しており,毎年多くの希望者がこの訓練を受けている。

以上,これらの組織が活動し,援護施策が十分に行われることによって,自衛隊を退職した者は安心して退職後の生活に入っていくことができることとなり,隊員は,将来に不安を持つことなく安心して隊務に精励できるとともに,この実績が隊員の募集の上にも良い結果をもたらすこととなる。

しかしながら,現在,自衛隊は創設時代に入隊した隊員の退職の時期を数年後に控えており,退職者数の増加が見込まれるため就職援護活動をさらに強化することが,今後の課題となっている。(第62図 退職者の内訳(昭和56年度)

(4) 自衛隊退職者の活躍

自衛隊を退職して企業に再就職した者は,企業側から高く評価されている。これは第63図にみられるように,自衛官が全般的に青任感が強く仕事にやる気があるほか,規律,礼儀が正しく,団体生活に適しており,曹以上の自衛官については,このほかに指導力が優れていることが評価されていることによるものと考えられる。

以上のことも関連して,企業によっては自衛隊退職者を優先的に採用するところもあり,「自衛隊で培った精神力,使命感を持つ除隊者こそわが社の柱です。」,「わが社が除隊者を採用するのは,単に人手不足を解消するためではなく,除隊者だから欲しいのです。それは,あくまでも企業のニーズによるのです。」と断言する企業の人事担当者もいる。

このように,一旦退職自衛官を採用した企業は,彼等に高い評価を与えており,特に任期制自衛官については,自衛隊で培った資質を生かして,企業に長く貢献できるという点から歓迎する企業が多い。

(5) 退職後の生活

昭和52年度に停年退職した自衛官のうち,約2,000人を対象とした退職後の生活状況調査の結果は,次のとおりである。

ア 就業状況

退職自衛官の94%の者が何らかの職業についている。

就業者の大半は民間企業に就職しており,大企業から中小企業まで広く分布している。仕事の内容は,約3割が警備,技能,労務職に従事しており,次いで事務職,管理職となっている。(第64図 退職者の就業状況(%))(第65図 就業区分(%)

イ 住居の状況

住居の状況については,第66図のとおりであり,93%の者が自宅を保有しており,その約半数が購入資金の返済を完了している。

以上のように,退職後の自衛官の生活は概して安定していると考えてよいが,これは就職援護活動の成果によるところが大きい。

なお,退職自衛官に対する退職金,年金等の有効活用に加え,自衛隊時代に培った健康な身体と健全な精神,更には,社会的信用等が退職後の生活の安定に役立っていると考えられる。

7 予備自衛官

予備自衛官は,退職自衛官の中から志願に基づき選考により採用される非常勤の特別職国家公務員であって,防衛出動命令が発せられた場合において,防衛庁長官の防衛招集命令によって招集された時は防衛招集に応ずること,及び平時においては防衛庁長官の訓練招集命令を受けて年2回以内一定期間(1年を通じて20日を超えないこととされており,現在は年1回5日間程度を招集期間としている)訓練に従事することが義務づけられている。

予備自衛官の員数は,現在41,600人であり,その内訳は,陸上自衛隊に4万1千人,海上自衛隊に600人となっており,現員は例年員数のほぼ100%に近い充足となっている。

予備自衛官は,日常,一市民としての各々の職業に従事しており,訓練招集時以外は自衛隊と接触する機会がないという任用形態をとっているため,予備自衛官との連絡,人事記録,手当支給等の管理業務は地方連絡部が担当している。

なお,予備自衛官には,予備自衛官手当として月額3,000円が支給されるほか,訓練招集手当として日額4,700円と食事の支給,被服の貸与,旅費の支給がなされる。更に,訓練期間中に負傷した場合には,療養の給付が受けられることになっている。

第3章 日米防衛協力

第1節 日米両国政府の関係者による協議

 安全保障に関する日米間の対話は,これまで通常の外交経路によるもののほか,内閣総理大臣と米国大統領との日米首脳会談の場においても行われてきている(鈴木・レーガン会談については,61頁の脚注参照)。また,わが国の防衛庁長官と米国の国防長官との間で度々会談が行われている。

 このほか,日米両国政府の関係者の間で行われる協議の場のうち,主要なものとしては第14表に掲げるものがある。

 本節では,最近の日米防衛首脳会談及び安全保障協議委員会の動きについて述べることにする。

1 日米防衛首脳会談

昭和50年8月に行われた坂田・シュレシンジャー会談の合意に基づき,日米の防衛首脳による定期的協議が持たれ,随時の協議も含めて,これまで日米防衛首脳会談は11回を数えている。

本年3月には,ワインバーガー国防長官がわが国を訪れ,伊藤防衛庁長官と会談を行った。会談の概要は次のとおりである。

まず,国際情勢について,米側からジュネーブにおける米ソ中距離核ミサイル削減交渉の進展状況及び最近の米中関係を中心とするアジアの情勢に関して説明があり,これに関連して日米間で意見の交換を行い,相互理解の資とした。

次に,日米双方の防衛努力について,まず米側から,世界の平和と安定にとって東西間の軍事的均衡の維持が必要不可欠であり,日米両国は更に努力する必要があるとの意見が出され,日本の防衛力については防空能力,対潜能力及び陸上装備の改善が重要であるとの指摘があった。

これに対し,日本側からは,「防衛計画の大綱」の水準をできるだけ早く達成すべく,防衛に対する国民世論をも勘案して,着実に防衛努力を行っていく考えであることを述べるとともに,更に,現在,防衛庁において「防衛計画の大綱」の水準を達成することを基本として,56中業の作成作業を鋭意行っていることを説明した。

また,米側から,わが国が従来から述べているわが国周辺海域における海上交通保護について,一般的な期待の表明があり,今後更に話し合いを行いたい旨の発言があった。

また,日米防衛協力については,「日米防衛協力のための指針」(「指針」)に基づく研究作業と日米共同訓練を今後とも推進していくことで日米双方の意見が一致した。(日米防衛首脳会談(昭57.3)

2 日米安全保障協議委員会

昭和53年11月に「指針」を了承した第17回日米安全保障協議委員会が開催されて以来,3年余を経て,本年1月に第18回日米安全保障協議委員会が開催された。この会合においては,極東の国際情勢,日米防衛協力,わが国の防衛力整備等について意見が交換された。国際情勢に関する意見交換において,ソ連については,その軍事力増強の動きについての指摘が行われた。日米防衛協力については,これが日米安全保障条約及びその関連取極の目的を効果的に果たすため,重要な意義を有することを再確認し,「指針」第3項に従って,日米両政府間において,日本以外の極東における事態で日本の安全に重要な影響を与える場合の日米間の協力についての研究を行うことについて意見の一致をみた。また,わが国の防衛力整備については,日本側から本年度防衛予算案の内容を中心に厳しい財政事情の下で行っているわが国の防衛努力について説明した。

以上のようなレベルを始めとし,各種のレベルで不断の対話と率直かつ緊密な意見の交換を行い,日米間の相互理解を促進することは,日米間の連帯の強化に資するものである。したがって,防衛庁としては,今後ともあらゆる機会をとらえ,米国との意思の疎通に努めることとしている。

第2節 日米防衛協力のための指針

1 「指針」の作成経緯

昭和51年の第16回安全保障協議委員会において,前年の三木首相とフォード大統領との会談及び坂田防衛庁長官とシュレシンジャー米国防長官との会談における了解を受けて,日米安全保障条約及びその関連取極の目的を効果的に達成するために,軍事面を含めて日米間の協力のあり方について研究,協議を行うため,同委員会の下部機構として防衛協力小委員会が新たに設置された。この小委員会は,昭和51年8月の第1回会合以来,2年有余にわたり8回に及ぶ研究・協議を重ね,その結果を「日米防衛協力のための指針」としてとりまとめた。

第17回日米安全保障協議委員会(昭和53年11月)は,防衛協力小委員会から,これまでの研究・協議の成果である「指針」の報告を受けこれを了承した。次いで,国防会議及び閣議に外務大臣及び防衛庁長官から報告されるとともに,防衛庁長官から「この指針に基づき自衛隊が米軍との間で実施することが予定されている共同作戦計画の研究その他の作業については,防衛庁長官が責任をもって当たることとしたい」旨の発言があり,いずれも了承された(「指針」については資料35参照)。

2 「指針」に基づく研究

防衛庁では,「指針」に基づいて,現在,共同作戦計画の研究その他の研究作業を実施しており,その概要は次のとおりである。

(1) 主な研究項目

「指針」で予定されている主要な研究項目は,大略,次のとおりである。

ア 「指針」第1項及び第2項に基づく研究項目

(ア) 共同作戦計画

(イ) 作戦上必要な共通の実施要領

(ウ) 調整機関のあり方

(エ) 作戦準備の段階区分と共通の基準

(オ) 作戦運用上の手続

(カ) 指揮及び連絡の実施に必要な通信電子活動に関し相互に必要な事項

(キ)情報交換に関する事項

(ク) 補給,輸送,整備,施設等後方支援に関する事項

イ 「指針」第3項に基づく研究項目

日本以外の極東における事態で,日本の安全に重要な影響を与える場合の米軍に対する便宜供与のあり方

(2) 「指針」第1項及び第2項に基づく研究の進捗状況

「指針」に基づき,召衛隊が米軍との間で実施することが予定されている共同作戦計画の研究,その他の研究作業については,「指針」の報告・了承が行われた閣議において,防衛庁長官が責任をもって推進することが了承され,防衛庁と米軍の間で,これまで統幕事務局と在日米軍司令部が中心となって実施してきた。

これまでの研究作業においては,共同作戦計画の研究を優先して進め,わが国に対する侵略の一つの態様を設想の上研究を行い,昨年夏に一応の概成をみた。その他の日米調整機関,情報交換に関する事項,共通の作戦準備等の研究作業については,現在,基礎的な研究を実施しているところである。

なお,共同作戦計画の研究については,現在も情勢の変化に応じた見直しや補備のための研究作業を進めているところであり,いわばエンドレスに続けられるべき性格のものとして,今後とも,引き続きその研究を行っていくほか,その他の事項についても,鋭意研究作業を推進していくこととしている。

(3) 「指針」第3項に基づく研究について

日本以外の極東における事態で,日本の安全に重要な影響を与える場合の米軍に対する便宜供与のあり方の研究については,去る1月8日の日米安全保障協議委員会において,これに取りかかることについて意見の一致がみられ,外務省及び防衛庁と,在日米大使館及び在日米軍司令部との間で研究作業を始めたところである。

第3節 日米間の装備・技術面の協力関係

1 装備・技術面の協力の現状

(1) 米国からわが国への装備・技術の提供

米国からわが国への装備・技術の提供は,日米安全保障体制を踏まえ,従来から活発に行われてきているところであり,わが国の防衛力の充実・向上に大きく寄与している。米国からわが国への装備・技術の提供の形態としては,無償又は有償援助によるもの,ライセンス生産によるもの等がある。米国からわが国への装備・技術の提供は,主として昭和29年に日米両国政府間で締結された「日本国とアメリカ合衆国との間の相互防衛援助協定」(「相互防衛援助協定」)に基づき行われている。

ア 無償援助

米国からのわが国に対する装備品等の提供は,無償援助(MAP:Military Assistance Program)に始まる。

無償援助は,昭和38年の米国における対外援助法の改正により,わが国を含む経済的先進国に対しては新たな無償援助が打ち切られることとなり,これによりわが国については昭和42年に一切の無償援助が終了した。この間,わが国が米国から受けた無償援助には,F−86F等の航空機,護衛艦等の艦艇,155mmりゅう弾砲等の火砲等,わが国の防衛力の初期における整備の中核となったものが多い。なお,火砲等一部の装備については,現在でも使用されているものがある。

イ 有償援助

有償援助(FMS:Foreign Military Sales)は,無償援助と同様,米国による対外軍事援助の一形態であり,米国政府が関係国内法に基づき,外国故府等に対し防衛物品又は役務を販売する政府間の取引である。この調達方式により,わが国が調達しているものとしては,F−15DJ,E−2C,C−130H,ハープーン対艦ミサイル,ターター対空ミサイル等がある。

ウ ライセンス生産

ライセンス生産は,基本的には外国の企業が開発した製品を,わが国の企業が当該の企業と技術援助契約を結び,工業所有権,技術資料,知識等の提供に対する対価を支払って国産する方法である。米国との間でのライセンス生産がその大部分を占めている。ライセンス生産は,一般的に少量生産となるので,完成品の輸入に比べて割高になるが,わが国の防衛生産の基盤,技術力の維持,装備品の維持補給体制の整備,最新の技術,生産工程等の吸収に資し,また,関連分野への波及効果も期待できること等のメリットがある。これまで米国との間でライセンス生産し,又はしている主要装備品は次のとおりである。

(ア) 航空機

F−86F,T−33A,P2V−7,F−104J,F−4EJ,F−15J,P−3C

(イ) 誘導武器

基本ホーク,改良ホーク,シースパロー,ナイキJ,AIM−9L(サイドワインダー),AIM−7E/AIM−7F(スパロー)

 (ウ) 火砲

203mmりゅう弾砲

エ 一般輸入

防衛庁が調達している主要な装備品等のうち,商社を経由して調達する一般輸入品目は,そのほとんどが米国からのものである。

(2) その他

日米間においては,装備に関する資料の交換のほか,装備品の運用要求についての両国間の意見交換,相手国の装備品の視察等の人的交流,相手国の施設の利用等の形で交流が行われてきている。

2 装備・技術面の対話

日米防衛当局間における装備・技術面における協力の一つとして,一昨年9月,ワシントンにおいて第1回日米装備・技術定期協議が開催され,続いて同年12月,さらに昨年12月東京において各々第2回,第3回協議が開かれた。この協議は,装備・技術面における日米防衛当局間の協力関係の一層の緊密化を図ることを目的とした事務レベルの非公式会合であり,日本側は防衛庁装備局長,米側ほ国防省国際協力・技術担当次官補が,それぞれの代表となっている。

これらの協議においては,各種装備・技術情報の交換,ライセンスリリース(技術導入による国内生産についての米国政府からの許可)の円滑化,資料交換に関する取極の活発化等について話し合いが持たれた。

このような装備・技術面の協力関係は,技術の進展に伴いますます重要になるとの考えから,今後ともより一層の充実を図っていくべきものであると考えている。

なお,昨年6月,大村防衛庁長官が訪米した際,米側より,これまでの米国からわが国への一方的な防衛技術の流れを相互交流にしたいとの希望が表明され,第3回日米装備・技術協議及び本年3月に行われた日米防衛首脳会談の場においても,同様の希望の表明がなされている。

第4節 在日米軍の現状と必要施策

 既に述べたとおり,日米安全保障体制を堅持することは,わが国の防衛政策の基本方針であり,防衛庁は,これを真に実効あるものとしていくために,在日米軍に施設・区域を提供してその安定使用の確保に努め,あるいは,同軍を維持していくために必要な労務を提供する等の施策を講じているところである。

 以下,本節においては,在日米軍の現状と同軍の駐留を円滑にするために,防衛庁が行っている施策の内容を述べることとする。

1 在日米軍の現状

(1) 在日米軍は,その司令部を東京都福生市(ふつさ)の横田飛行場に置き,司令官は第5空軍司令官が兼務している。司令官は,わが国の防衛を支援するための諸計画を立案する責任を有し,平時には,在日米陸軍司令官及び在日米海軍(在日米海兵隊を含む)司令官に対し調整権を保有している。緊急事態発生時には,在日米軍司令官として,在日米軍の諸部隊及び新たに配属される米軍部隊を指揮することになっている。

また,在日米軍司令官は,わが国における米国の軍事関係の代表として,防衛庁及びその他の省庁との折衝を行うとともに,地位協定の実施に関し,外務省と調整する責任も有している。

(2) 在日米陸軍は,司令部を神奈川県のキャンプ座間に置いているが,わが国内には陸軍の戦闘部隊は駐留しておらず,管理,補給,通信等の業務を主任務としている。米陸軍が使用している施設・区域としては,神奈川県の相模総合補給廠,広島県の川上弾薬庫等がある。このほか,米軍事運輸管理コマンドの在日部隊は,那覇港湾等の管理に当たっている。

(3) 在日米海軍は,司令部を神奈川県の横須賀海軍施設に置き,主に第7艦隊に対する支援に当たっている。横須賀には,米海軍の各種の艦船を修理することができる施設があり,これらの施設は米海軍の任務遂行のために重要な役割を果たしている。

このほか,長崎県の佐世保海軍施設や沖縄県のホワイト・ビーチ地区等にも海軍関係施設があり,艦艇に対する補給などを行っている。

神奈川県の厚木飛行場は,主として艦載機の修理及び訓練基地として,米海軍航空部隊が使用している。また,青森県の三沢飛行場と沖縄県の嘉手納飛行場には,対潜哨戒飛行隊が配備されている。

(4) 海兵隊は,沖縄県のキャンプ・コートニーに第3海兵両用戦部隊司令部を置き,1個海兵師団及び1個海兵航空団からなる強襲兵力を擁している。

海兵隊地上戦闘部隊は,沖縄県のキャンプ・ハンセン及び静岡県の東富士演習場等で訓練を実施し,高度の即応態勢を堅持している。また,海兵両用戦部隊の一部は,常に第7艦隊両用戦艦艇に乗艦し,緊急事態発生に備えている。

 対地支援を主任務とする海兵航空団は,その司令部を沖縄県の瑞慶覧(ずけらん)

 に置き,1個海兵航空群を同県の普天間(ふてんま)に,2個海兵航空群を山口県の岩国にそれぞれ配備している。

(5) 在日米空軍は,東京都の横田飛行場に第5空軍司令部を置き,沖縄県の嘉手納飛行場に1個戦術戦闘航空団を配備している。更に,同飛行場には,昭和55年からF−15及び空中警戒管制機E−3Aが配備され,戦術航空能力が強化されている。また,横田飛行場には,戦術空輸群を配備している。

以上の在日米軍の配置状況は,次に示すとおりであり,また,在日米軍の兵力は,約47,300人(昭和56年12月31日現在)である。(第67図 在日米軍(沖縄を除く)配置の概要(昭56.3.31現在))(第68図 在沖縄米軍の配置(昭56.3.31現在)

2 在日米軍の駐留を円滑にするための施策

(1) 在日米軍の駐留は,日米安全保障体制の核心をなすもので,わが国の安全のために不可欠のものである。その駐留を真に実効あるものとして維持するために,わが国としても,条約に定められた責任を積極的に遂行していかなければならない。

在日米軍の駐留に関することは,地位協定により規定されているが,この中には,在日米軍の使用に供するための施設・区域の提供に関すること,在日米軍が必要とする労務の需要の充足に関すること等の定めがある。

(2) わが国は,地位協定の定めるところにより,施設・区域の提供について,日米合同委員会を通じて日米両政府間で合意するところに従い,わが国の経費負担で提供する義務を負っている。在日米軍は,駐留目的を達成するために,これら施設・区域において,必要な訓練,演習,その他の活動を行っている。

また,在日米軍は,同軍を維持するために,日本人従業員の労働力を必要としており,この労務に対する在日米軍の需要は,地位協定により,わが国の援助を得て充足されることとなっている。そこでわが国は,給与,その他の勤務条件を定めた上,日本人従業員(昭和57年4月末現在約20,670人)を雇用し,その労務を在日米軍に提供しており,所要経費については,米側が負担してきた。

なお,わが国は,在日米軍の駐留に関連して,従来から施設・区域の提供に必要な経費を負担するほか,わが国の負担による独自の施策として,施設・区域の周辺地域の生活環境等の整備について,各般の施策を実施するとともに,日本人従業員の離職対策等も行ってきている。

(3) ところで,在日米軍の駐留に関連して米側が負担する経費は,昭和40年代後半からわが国における物価,賃金の高騰,国際経済情勢の変動等によって,相当圧迫を受け,窮屈なものとなっている。このような事情を背景として,政府は,在日米軍の駐留が円滑かつ安定的に行えるようにするため,また同時に,日本人従業員の雇用の安定を図るため,在日米軍が駐留に関連して負担する経費の軽減について,現行の地位協定の枠内で,できる限りの努力を行うとの方針の下に,次のような施策を講じている。すなわち,在日米軍の施設・区域については,昭和54年度から老朽隊舎の改築,家族住宅の新築,老朽貯油施設の改築,消音装置の新設等を行い,これらを施設・区域として提供することとしているほか,労務費については,昭和53年度から日本人従業員の福利厚生費等を,昭和54年度からは,給与のうち国家公務員の給与水準を超える部分の経費を日本側が負担してきている。本年度においても,老朽化,又は不足している米軍の宿舎の現状を是正するための隊舎及び家族住宅の整備,施設・区域の周辺住民の環境を保全するための汚水処理施設等の整備並びにその他の施設整備を行うとともに,引き続き,日本人従業員の福利厚生費等と前述の給与の一部を負担することとしている。

これらの措置に要する本年度歳出予算額は,施設整備費約352億円(ほかに後年度負担額約240億円),労務費約164億円,計約516億円である。

(4) この経費の負担のほかに,わが国は,前述のとおり,在日米軍の駐留に関連して,従来から,施設・区域の提供に必要な経費の負担,施設・区域の周辺地域の生活環境等の整備のための措置,日本人従業員の離職対策等の諸施策を行ってきており,これらの施策のために,本年度に防衛庁分として防衛施設庁に計上された予算額は,前掲の約516億円を含めて約1,785億円である。

わが国としては,以上のように在日米軍の駐留をより円滑にする努力を行っているところであり,在日米軍が駐留に関連して負担する経費の軽減について,今後とも,地位協定の枠内において,できる限りの努力を続けていく考えである。

第5節 日米共同訓練

 自衛隊は,平素から部隊を教育訓練して,有事に即応し得る態勢の維持向上に努めているが,自衛隊内の訓練のほかに,米軍と共同で訓練を行うことは,自衛隊の各部隊に大きな刺激を与えるとともに,米軍の新たな戦術・戦法の導入にもつながり,自衛隊の教育訓練に資するところ大である。また,このような共同訓練は,平素から自衛隊と米軍の間の相互理解を深め,双方の意思疎通を図り,円滑な関係を維持するという点からも意義が大きく,これらのことが,有事における日米共同対処行動を円滑かつ効果的に行うことを可能にすると考えている。

 こうした観点から,防衛庁としては,今後とも日米共同訓練を積極的に実施していく方針である。

 昨年度における日米共同訓練では,海・空各自衛隊の訓練に続いて陸上自衛隊が初めて共同訓練を実施した。

1 陸上自衛隊

陸上自衛隊は,昨年度初めて共同訓練を実施し,通信訓練及び指揮所訓練を行った。この共同訓練において,地上部隊間の調整要領及び相互の戦術戦法の理解等により,日米共同対処を可能とする基盤の醸成に資することができ,また,陸上自衛隊の隊員個人の知識・技能の向上及び司令部活動等の能力向上を図ることができた。更に,日米共同訓練を継続することにより,米地上軍との共同対処の基盤を確立し,わが国に対する侵略を抑止する機能を向上すると考える。したがって,陸上自衛隊においても,日米共同訓練を今後継続的に実施していくこととしている。

昨年行った通信訓練及び指揮所訓練の概要は,次のとおりである。

(1) 通信訓練

昨年10月,3日間にわたり,東富士演習場において,陸上自衛隊から東部方面隊の約100人,米軍から第3海兵師団(沖縄所在)の約60人の指揮官,幕僚,通信要員が参加して,日米双方の部隊間における交信要領等を訓練した。この訓練により,特に通信系の構成要領,通信文の送受要領等について演練することができた。

(2) 指揮所訓練

本年2月,5日間にわたり富士山ろくの滝ケ原駐屯地において,陸上自衛隊から東部方面総監以下約1,000人,米軍から第9軍団司令官(座間駐在)以下約500人の指揮官,幕僚等が参加して,指揮所訓練を実施した。この訓練は,侵攻した敵を日米両部隊が並列して攻撃する場面を想定した図上演習であり,陸上自衛隊として初めての本格的な日米共同訓練であった。この訓練により,日米相互間の調整要領について演練することができたほか,日米両部隊の相互理解や信頼感を更に深めることができた。

通信訓練及び指揮所訓練の成果を踏まえ,本年度は実動訓練も実施することとしている。これらの訓練を継続することにより,米軍がわが国の地形に慣熟できるので,来援が必要なときにわが国での行動が容易になるといった効果が期待できる。

2 海上自衛隊

海上自衛隊は,昭和30年度以来,対潜訓練及び掃海訓練を中心とした共同訓練を実施してきたが,昨年度においては,わが国周辺海域で第7艦隊と対潜訓練を主とした共同訓練を実施したほか,米国及び中部太平洋で実施されたリムパック82に参加した。

(1) わが国周辺海域における共同訓練

海上自衛隊は,わが国周辺海域において,第7艦隊との共同訓練を毎年2〜3回実施しているが,昨年度には,このほか1年間のしめくくりとも言うべき海上自衛隊演習において,初めて第7艦隊の水上艦艇部隊及び航空部隊と約1週間にわたり,日米間の連係を含め総合的な訓練を実施した。

(2) リムパック82への参加

リムパック82は,昭和57年3月22日から4月29日(日本時間57年3月23日から4月30日)までの約5週間にわたり,米国のハワイ及びサンディエゴ並びに中部太平洋において,米国,オーストラリア,カナダ,ニュージーランド及び日本の5カ国の艦艇61隻,航空機約130機,人員2万9千人以上が参加して実施された。

海上自衛隊は,昭和54年度に実施されたリムパック80に引き続き2回目の参加であり,DDH「しらね」(基準排水量5,200トン),DDG「たちかぜ」,同「あさかぜ」(基準排水量3,850トン)の護衛艦3隻,P−2J8機及び人員約940人(艦艇部隊約830人,航空部隊約110人)を派遣した。

リムパック82は,前回と同様,通常兵器による海上戦闘を前提として,参加艦艇等は,洋上訓練に備え,ハワイ及びサンディエゴにおいて陸上施設を利用した訓練を実施した後,中部太平洋のハワイ周辺海域において合流し,水上打撃戦訓練,対潜捜索攻撃訓練,防空戦訓練等を個個に,又は並行的に行ったほか,誘導武器評価施設等米軍の施設における武器の発射訓練等の訓練を実施した。

防衛庁としては,前回と同様,今回の訓練参加を通じて得た成果を今後の訓練に活かしていきたいと考えている。(日米共同指揮所訓練)(リムパックに参加した海上自衛隊艦艇部隊(パールハーバー)

3 航空自衛隊

航空自衛隊は,昭和53年度以来,計36回にわたり日米共同訓練を実施してきており,このうち,昨年度は戦闘機の戦闘訓練を中心に計12回の共同訓練を実施した。

(1) 戦闘機の戦闘訓練

航空自衛隊は,昨年度,米軍と合計11回にわたって戦闘機の戦闘訓練を実施し,米軍機としてF−15等が,また,航空自衛隊機としてF−4EJ等が参加した。また,この訓練の中で,米空軍の早期警戒管制機であるE−3Aと計2回にわたって連係訓練を実施した。これは,E−3Aによって提供された目標情報をもとに,航空自衛隊の戦闘機が米軍機日米共同訓練で帰投中の両国戦闘機及び訓練後の検討会と戦闘訓練を実施するものであり,今回の訓練を通じて,E−3Aとの連係要領について演練することができた。

以上の訓練を,米空軍と共同で実施することは,航空自衛隊にとって,総合的練度の向上や戦技戦法の発展という意味において意義が大きいので,今後とも継続していきたいと考えている。(日米共同訓練で帰投中の両国戦闘機及び訓練後の検討会

(2) 救難訓練

作戦実施下における救難能力の向上を図るため,米空軍へリコプターと航空自衛隊へリコプター等とによる昼間洋上捜索救助訓練を1回実施した。

 

(注) 指揮所訓練:指揮機関だけを設置して,図上において指揮幕僚活動について演練し,部隊の実際の行動を行わない訓練

(注)リムパック(RIMPAC;RIM OF THE PACIFIC EXERCISE):リムパックは,米海軍第3艦隊が計画する総合的な訓練であり,外国艦艇等の参加を得て,2年に1回程度の割合で実施されている。リムパック82は,昭和46年の第1回以来通算8回目である。

第6節 その他の協力

 以上,述べてきたもの以外の日米間の協力としては,留学生交換,自衛隊の米国派遣訓練等をあげることができる。

1 留学生等の交換

隊員の外国留学は,高度の専門知識の修得及び国際的感覚と広い視野を備えた幹部の育成を目的として実施されており,毎年85人程度(最近5年間の平均)を外国に留学生として送り出しているが,そのうち米国には毎年70人程度を,主として,軍の大学校及び各職種学校並びに一般大学に派遣している。

他方,外国からの防衛庁の教育機関等への留学生は,昭和50年度以降,累計約70人を数えるが,そのうち,米国からは昨年度初めて防衛研修所に入所した1人を含め4人にとどまっており,今後の拡大が期待される。そのほか,米三軍の士官学校と防衛大学校の間で,毎年3〜5名の学生を短期間,相互に交換している。

留学生等の交換は,日米の相互理解の増進と密接な人間関係を育成する見地からも,極めて有意義なものであると考えられる。

2 米国派遣訓練

日本にはない諸訓練施設を使用して,戦術技量の向上を図って行く必要から,陸・海・空各自衛隊は,毎年1〜3カ月の期間,所要の部隊を米国に派遣して,下記に示す訓練を実施している。また,これまで,米国から新装備を導入した際には,必要に応じその基幹となる要員の初度教育を米国に委託して実施してきたが,最近では,P−3C,F−15及びE−2Cの導入に伴い,昭和54年度から昨年度にかけて延べ約400人の基幹要員を米国各地の教育部隊等に派遣し,所要の教育訓練を実施した。(第15表 米国派遣訓練の概要