第2部

わが国の防衛政策

 

 第1部で述べたとおり国際情勢は,ソ連の軍事力の増強と西側の対応措置により,対立の面が強くなり,特に,アフガニスタン問題以降その様相を深くしている。わが国周辺の軍事情勢も,一貫して続けられてきた極東ソ連軍の顕著な増強などにより,厳しいものがある。

 このような国際情勢の下において,政府の最大の責務であるわが国の平和と安全の確保のためには,より周到で,かつ,真剣な努力が必要とされている。もとより,国の安全を確保するためには,内政,外交,経済等国政全般にわたる総合的な政策を推進することが必要であるのはいうまでもないことである。わが国の防衛政策は,以下で述べるように防衛力の整備や日米安全保障体制の維持から成っているが,このような防衛政策を欠いては,わが国の安全保障政策はそもそも成り立ち得ない。

 わが国としては今後も,最も有効で,かつ,最終的な自衛のための措置として,適切な規模の質の高い防衛力を整備充実し,日米安全保障体制の信頼性の維持及びその円滑な運用態勢の整備に努めることは,わが国の平和と安全を確保する上で必要不可欠である。

 以下,わが国の防衛政策について説明する。

1 防衛政策の基本

(1) 国防の基本方針

わが国の防衛政策は,昭和32年5月に閣議決定された「国防の基本方針」にその基礎を置いている。 

この「国防の基本方針」は,まず国際協調と平和努力の推進及び内政の安定による安全保障の基盤の確立を,次いで効率的な防衛力を漸進的に整備すること及び日米安全保障体制を基調とすることを方針として掲げている。

(2) わが国防衛力の意義と性格

ア 防衛力を保持する意義

国家が防衛力を保持することは,自らの手によってその自由と独立,平和と安全及び発展と繁栄を守り,維持するという国民の意思の国外に対する具体的表明である。国際社会の現状は,防衛力を不要とするような状況にはなく,国家は,その独立と安全を維持するためには,自衛の措置を講じないわけにはいかない。国際連合憲章もその第51条において,自衛権が国家の固有の権利であることを認めている。世界の各国は,その大小を問わず,国家の防衛のため努力を払い,自由と独立を守る強い意志を示している。

わが国が適切な規模の防衛力を保有することは,日米安全保障体制と相まってわが国に対する侵略を未然に防止し,方一,侵略が行われた場合にはこれを排除することを目的とするものであるが,このように,自らの安全保障のために周到な努力を行い,国民の自由と独立を守る気概を世界に表明することは,国際社会における名誉ある生存のための前提となるものである。

イ 国際政治における意味

わが国は,国の独立と安全,自由と平和を確保するために防衛力を保有している。加えて,わが国の防衛力は,このような観点からのほか,国際関係との関連においてみることも必要である。

欧州やアジアなど世界の戦略上重要な地域においては,大国の軍事力の存在のはかに,中小国がしかるべき軍事力をもって,いわばカの空白地帯を作らないことが,その地域における国際関係の安定的均衡の維持を図る上で極めて重要である。この点からすると,わが国の防衛力は,日米安全保障体制と相まって,東アジアにおける平和と安定の維持に貢献し,このことが,ひいては世界の平和の維持にも貢献することとなっている。

国際的な平和と安定が維持されることは,わが国の発展と繁栄の基本的な条件となるものであるとともに,世界の諸国にとっても緊要な問題て、ある。わが国が,外交,経済その他さまざまな非軍事的手段を通じてはもとより,適切な防衛努力を行うことにより,国際平和の維持に貢献することは,わが国としての国際的な責任となっているともいえよう。

ウ 通常兵力の持つ今日的意義

通常兵力は,米ソの持つ圧倒的な核戦力の前においては,その存在が無意味にみえるかもしれない。しかしながら,核兵器は人類とその文明を破滅させかねないカを持っているため,核兵器の使用及びそれに至る大規模な軍事力の使用は強く抑止されている反面,通常兵力による限定的な紛争に対しては,核の抑止力は及び難くなっている。現に,通常兵力による限定的な紛争は,核兵器の出現以降も数多く生起しており,現在もカンボジア,アフガニスタンなどで外国による軍事介入が続いている。このような通常兵力による限定的な紛争に備えるために,主要各国は,核兵器の保有国であると否とを問わず,質の高い通常兵力を整備し,通常兵力のレベルにおけるバランスの維持に努力を払っているのが現状であり,通常兵力の持つ意義は,依然として大きいものがある。

このような意味において,わが国が,通常兵器から成る防衛力を保有し,その整備に努めることは,わが国に対する侵略を未然に防止し,独立と安全を維持する上で,極めて大きな意義を持つものである。

エ 憲法第9条

憲法第9条は,戦争放棄・戦力不保持・交戦権の否認に関する規定を置いている。

もとより,この規定が主権国家としてのわが国固有の自衛権を否定するものでないことは,異論なく認められており,このように,わが国の自衛権が否定されない以上,政府は,その行使を裏付ける自衛のための必要最小限度の実力を保持することほ憲法上禁止されているものではないと解している。

もっとも,同条の規定から,わが国が保持することができる防衛力は,無制限なものではあり得ず,政府は,自衛のための必要最小限度を超えるものは,同条にいう「戦力」として保持し得ないと解している。この憲法上の制約の下において,保持を許される自衛力の具体的な限度については,その時々の国際情勢,軍事技術の水準その他の諸条件に応じて判断せざるを得ないが,性能上専ら他国の国土の潰滅的破壊のためにのみ用いられる兵器−その例として,従来からICBM,長距離爆撃機などが挙げられている−を保有することはできない。また,自衛のための行動についても,武力行使の目的をもって武装した部隊を他国の領域に派遣するいわゆる海外派兵は,憲法上認められない。なお,国際連合憲章第51条において国際的には認められている集団的自衛権についても,わが国の憲法上からは,わが国の国土,国民を守る限りにおいての自衛行動は許されるが,自国と密接な関係にある外国であってもその国の国土,国民に対する侵略に対処することまで認められていないとの考え方から,集団的自衛権の行使は,憲法上許されるものではないとの見解をとっている。

オ 非核三原則

核兵器については,わが国は唯一の被爆国として核兵器の廃絶を願いつつ,自らも,政策として「持たず,作らず,持ち込ませず」の非核三原則を堅持し,憲法解釈上その保有が許されるものであっても,一切これを保有しないこととしている。昭和51年6月に核兵器の不拡散に関する条約に加入することにより,わが国は,核兵器を保有しない旨国際的にも明らかにしているところである。

カ 文民統制

自衛隊は,国民の意思にその存立の基礎を置くものであり,国民の意思によって維持,運用されなければならない。自衛隊は,旧憲法下の体制とほ全く異なり,他の民主主義諸国と同様,厳格な文民統制(シビリアン・コントロール)の下にある。

現在,わが国は,そのための制度として,次のようなものを有している。

まず,国民を代表する国会は,自衛隊の定員,基本的な組織等を法律,予算の形式で議決し,また,防衛出動等の承認を行う。次に,国の防衛に関する事務は,全て一般行政事務として,内閣の行政権に属し,完全にその統制下にある。内閣総理大臣は,文民で構成される内閣を代表して自衛隊の最高の指揮監督権を有しており,また,防衛庁長官は,文民たる国務大臣をもって充てられ,内閣総理大臣の指揮監督を受け,自衛隊の隊務を統括している。また,内閣には,国防会議Yが置かれており,国防の基本方針,防衛計画の大綱,防衛出動の可否などを審議することとなっている。なお,自衛隊の主要な部隊編成や装備などについても国防会議に諮ることとなっている。

更に,防衛庁では,防衛庁長官が自衛隊を管理し,運営するに当たり,政務次官、事務次官が長官を助けるのはもとより,基本的方針の策定については,いわゆる文官の参事官が補佐するものとされている。

このように,シビリアン・コントロールの制度は,整備されているが,その実を挙げるためには,政治,行政両面における運営上の努カが今後とも必要であることはもとより,国民全体の防衛に対する深い関,じと隊員自身のシビリアン・コントロールに関する正しい理解と行動が必要とされるところである。

以上,防衛力を保持する意義等について述べたところであるが,この防衛力は,平時にあっては,大規模な内乱,騒じょうなどの事態に際しては,_般警察力を補完して治安維持の機能をも果たし,公共の秩序の維持及び安定にも寄与し得るものであり,また,天災地変その他の災害の発生などに際しては,その人員,組織及び技術をできる限り国民の用に供し,人命,財産,国民生活の保護を図るなど民生の安定にも役立っている。

(3) 日米安全保障体制

ア 日米安全保障体制の意義

わが国の防衛は,わが国自らが適切な規模の防衛力を保有し,これを最も効率的に運用し得る態勢を築くとともに,米国との安全保障体制の信頼性の維持及び円滑な運用態勢の整備を図ることにより,いかなる態様の侵略にも対応し得る防衛体制を構成し,これによって侵略を未然に防止することを基本としている。したがって,日米安全保障体制は,このような防衛の構想をとるわが国にとって必須のものである。

つまり,わが国の平和と独立を確保するためには,核兵器の使用を含む全面戦から通常兵器によるあらゆる態様の侵略事態,更には,不法な軍事力による示威,桐喝といった事態に至るまで,考えられる各種の事態に対応することができ,その発生を未然に防止するための隙のない防衛体制を構成する必要がある。しかし,わが国独自でこのような防衛体制を構成することは,不可能であるところから,核の脅威に対する抑止力や通常兵器による大規模侵略に対する対処能力など,わが国防衛力の足らざるところを米国との安全保障体制に依存することが必要不可欠である。

イ 日米安全保障条約第5条

日米安全保障条約は,その第5条において,日米両国は,日本国の施政の下にある領域における,いずれか一方に対する武力攻撃が,自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め,自国の憲法上の規定及び手続に従って,共通の危険に対処するよう行動する旨規定している。この体制によって,わが国に対する外部からの武力攻撃は,米国の強大な軍事力と直接対決する可能性を有することとなり,侵略国は相当の犠牲を覚悟しなければならないため,攻撃をちゅうちょせざるを得なくなり,結果的に侵略の未然防止につながることとなる。

また,仮に武力侵略が行われるとしても,侵略国は,米国との本格的な対決を避けるような侵略態様を選ばざるを得なくなり,この結果,侵略の規模,ト手段,期間などが限定されることとなろう。

ウ 日米安全保障条約第6条

日本の安全及び発展のためには,極東の平和,更には,世界の平和が必要であるこどはいうまでもない。日米安全保障条約は,その第6条において,日本の安全に寄与し,並びに極東における国際の平和と安全の維持に寄与するため,米軍がわが国において施設・区域を使用することを認めている。同条に基づき,米国はその軍隊をわが国に駐留させているが,この在日米軍のプレゼンスは,わが国の安全のみならず極東における国際の平和と安全の維持に貢献しているところである。

エ 他の分野での友好協力関係

また,この条約は,「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約」という名称にも表われているとおり,防衛面の規定のほかに,経済的協力関係の促進等についても規定している。すなわち,日米安全保障体制は,日米関係において,単に防衛面のみならず,故治,経済,文化などのあらゆる分野における友好協力関係の基礎となっている。

オ 日米安全保障条約の特徴

日米安全保障条約は,米国の約40か国に及ぶ対外コミットメントのうちの一つであるが,防衛の義務において,他の主要な条約のはとんどが双務的であるのに対し,日米安全保障条約は片務的であるという特徴を持っている。すなわち,北大西洋条約(NATO条約)や米韓相互防衛条約等においては,一方の国に対する武力攻撃は自国に対する攻撃とみなし,相互に防衛する義務を負っているのに対し,日米安全保障条約は,米国は日本に対する武力攻撃がなされた場合日本防衛の義務を負っているが,わが国は,米国の領土やわが国の施政の下にある領域以外の場所にいる米軍が攻撃されても,これを防衛する義務を負っていない。これはわが国が,憲法上集団的自衛権を行使し得ないことによるものである。

また,日米安全保障条約第5条は,「日本国の施政の下にある領域における,いずれか一方に対する武力攻撃」が発動の条件となっており,公海上において,わが国の船舶等が攻撃を受けただけでは,米国の条約上の義務は発生しない。この点は,NATO条約では,地中海もしくは北回帰線以北の北大西洋地域の船舶等について,相互に防衛する義務が課せ・られているのと違っている。

以上のような月米安全保障体制の特微は,わが国の安全保障を考える上で,十分認識されなければならない。

カ 日米安全保障体制の有効性を保持する努力

一般に条約は1締約国が相互に利益を享受している場合,最も有効に機能するものである。日米安全保障条約についても,同条約の存在が日米双方にとってかけがえのない重要な利益であることが相互に認識され,このような認識に根ざした友好協力関係が継続してこそ,その有効性が最も確実なものとなるのである。

したがって,日米両国は,それぞれこの条約を有効ならしめるための努力を積み重ね,互いの責任を応分に果すことが必要である。

自由圏第2の経済大国であり,アジア地域における安定勢力として主要な地位を占めている日本との友好協力関係の保持は,米国としても重要視しているところであるし,また,わが国としても,日米安全保障体制の持つ重要性を踏まえて,米国との友好協力関係の保持のために相応の努力を払うことが必要であり,特に,第3部第2章「日米防衛協力」で述べるような努力,諸施策を今後とも積極的に推進していく必要があると考える。

(4) 防衛関連諸施策

以上述べたとおり,わが国の安全を確保するための防衛面における努力としては,防衛力の整備と日米安全保障体制の円滑かつ効呆的な連用態勢の整備が不可欠であるが,更にこれと併せて,防衛力を支え,防衛力を真に発揮させるための防衛関連諸施策を平時から推進しておくことが必要である。すなわち,防衛産業の育成,必要物資の備蓄,その他建設,運輸,通信,科学技術,教育などの分野において国防上の配慮を加えておくことは,限られた資源で国の防衛を一層確実にするために,また,有事の際に防衛力がその機能を十分に発揮するために,検討すべき問題となっている。例えば,スウエーデンにおいては,高速道路の直線部分は有事の際には,滑走路としての利用を予定しているなどの事例がある。

また,専守防衛を旨とするわが国においては,有事の際には,国土において戦闘が避けられず,当該地域における住民の保護,避難誘導などの措置が適切に実施される必要がある。スイス,スウェーデンなどの中立国を含む主要諸国においては,政府,自治体の指導の下に核攻撃に対する防護を中心として;国民の生命,財産などを保護するため,退避所の設置,防災組織の設置,食糧・医薬品の備蓄,応急措置の態勢の整備などいわゆる民間防衛体制の整備について努力が払われている。例えば,西独において,学校,ホテルなど大きな建物の中にはシエルターが設置され,軍事施設近傍の大都市や人口5方人以上の都市には爆風シェルターの設置が義務づけられ,また,人口密集都市からの疎開計画が立案されたりしている。

これらの諸施策は,政府が,責任を持って推進すべきものであることはいうまでもないが,反面.国民のコンセンサスがなければ,推進され得ないものでもある。この点,最近においては,第3部第4章「防衛問題をとりまく国内環境」に述べるとおり,防衛問題を現実に即してとらえようとする傾向が以前にも増して強まっているものの,いまだ十分な理解を得るに至っているとはいえない状況にあるため,わが国においてはこれらの諸施策は,諸外国に比べて,遅れているのが現状である。

社会の安定と平和が続けば,国の安全と防衛に対する国民の関心は薄れやすく,ともすれば他人まかせになりがちであることは否定できない。しかしながら【,平和な時代における施策もまた,国民一人一人の生存と安全に対して重要な意味を持つものであり,広く国民のコンセンサスの下に,所要の措置が講ぜられるべきであろう。

以上のように,わが国の防衛政策の基本は,国際連合の平和維持機能により,・世界の平和と安全が維持されることを希求し,国際連合の活動を支持しつつ,その理想づ実現をみるまでの間は,「侵さず,侵されず」という立場に立って,わが国の平和と独立を確保することとしている。このためには,独立を守ろうとする国民の強い意思,防衛力の充実整備及び日米安全保障体制の堅持の三つの柱が必要不可欠であり,これが絶えざる外交努力,民生の安定,更には発展する経済力と併せ,総合的なカを発揮するに至ったとき,わが国の平和と安全は極めて強固に保たれることになるとの考え方に立っている。

 

(注) シビリアン・コントロール 政治の軍事に対する優先又は統制,すなわち,主権の存する国民の意思によって選出された政治的代表者によって軍事を統制するとこを意味している。

わが国においては,旧憲法下いわゆる統帥権(軍隊の最高指揮権)が行政権から独立し,軍事に関する事項について,政治の統制が及び得ない範囲が広く認められていたことなどにより,軍事が国政に不当な影響を与えた。このように,一般的に,軍事力は本来国の平和と安全を保障するための手段であるが,その強大な実力の運用を誤れば,逆に大きな不幸を招くおそれをもっている。そのため,欧米の民主主義国家において,このような実力集団を政治が支配・統制するための原理として,シビヅアン・コントロールという考え方が重要視されるようになったものである。ご「とに現代では,軍事は安全保障の基本的な要素であるが,政治,経済,外交といった非軍事的な要素とともに総合的な見地から考察されるべき性格のものとなっている。

(注) 参事官 防衛庁には参事官10人が置かれており,防衛庁の内部部局の官房及び各局の長は,これら参事官のうちから充てることとされている(防衛庁設置法第9条,第17条)。

 

2 防衛力整備の考え方

(1) 防衛力整備の推移

わが国は,「国防の基本方針」に基づき,国力国情に応じた効率的な防衛力の漸進的な整備を図るため,当面の3年又は5年を対象期間とする防衛力整備計画を4次にわたって策定してきた。これにより,わが国の防衛力ほ第1表に示すとおり,逐次その充実整備が図られてきた。そして,第4次防衛力整備計画が昭和51年度をもって終了することに伴い,政府は,昭和51年10月,「防衛計画の大綱」(資料12参照)を閣議決定した。

(2) 防衛計画の大綱

「防衛計画の大綱」は,従来の防衛力整備計画のように一定期間内における整備内容を主体とするものではなく,防衛力の維持及び運用も含め,わが国の防衛のあり方についての指針を示し,自衛隊の管理及び運営の具体的な準拠となるものである。昭和52年度以降の防衛力整備は,この大綱に従って進められてきたところである。大綱の防衛力整備に関する部分は,概略次のとおりである。

ア 防衛の構想

(ア) 侵略の未然防止

わが国の防衛は,わが国自ら適切な規模の防衛力を保有し,これを最も効率的に運用し得る態勢を築くとともに,米国との安全保障体制の信頼性の維持及び円滑な運用態勢の整備を図ることにより,いかなる態様の侵略にも対応し得る防衛体制を構成し,これによって侵略を未然に防止することを基本とする。

 また,核の脅威に対しては,米国の核抑止力に依存するものとする。

(イ) 侵略対処

間接侵略事態又ほ侵略につながるおそれのある軍事力をもってする不法行為が発生した場合には,これに即応して行動し,早期に事態を収拾するごととする。

直接侵略事態が発生した場合には,これに即応して行動し,防衛力の総合的,有機的な運用を図ることによって,極力早期にこれを排除することとする。この場合において,限定的かつ小規模な侵略については,原則として,独力で排除することとし,侵略の規模,態様等により,独力での排除が困難な場合にも,あらゆる方法による強じんな抵抗を継続し,米国からの協力をまってこれを排除することとする。

イ 防衛の態勢

前記の防衛の構想の下に,次の6項目の防衛の態勢を備えた防衛力を保有し,更に,その防衛力は,情勢に重要な変化が生じ,新たな防衛力の態勢が必要とされるに至ったときには,円滑にこれに移行し得るよう配意された基盤的なものとする。

○警戒のための態勢

○間接侵略,軍事力をもってする不法行為等に対処する態勢。直接侵略事態に対処する態勢

○指揮通信及び後方支援の態勢。教育訓練の態勢

○災害救援等の態勢

ウ 陸上,海上及び航空自衛隊の体制

前記の防衛の態勢を保有するための基幹として,陸・海・空各自衛隊はそれぞれ必要な体制を維持し,各自衛隊の有機的協力体制の促進及び統合運用効果の発揮につき,特に配意するものとする。

これに基づく編成,主要装備等の具体的規模は,第2表のとおりとする。

エ 防衛力整備実施上の方針及び留意事項

防衛力の整備に当たっては,諸外国の技術的水準の動向に対応し得るよう,質的な充実向上に配意する。また,その具体的実施に際しては,そのときどきにおける経済財政事情等を勘案し,国の他の諸施策との調和を図りづつ行う。このため,隊員の充足,士気高揚,防衛施設の有効な維持,レ整備及び周辺との調和,装備品等整備の効率的実施,技術研究開発態勢の充実等に留意する。

なお,防衛関係費の規模については,この大綱とは別に,「防衛力整備の実施に当たっでは,当面,各年度の防衛関係経費の総額が当該年度の国民総生産の100分の1に相当する額を超えないことをめどとしてこれを行うものとする」旨昭和51年11月閣議決定されている。ここで「当面」とあるのは,何らかの固定的な期間を予定したものではなく,この決定は,必要に応じて改めて検討を行う可能性があることを意味している。

(3) 中期業務見積リ

わが国の防衛力整備の進め方については,前述の「防衛計画の大綱」が決定されて以降,政府としては,それまでのような一定期間を限った防衛力整備計画を作成する方法は採らず,年々必要な決定を行ういわゆる単年度方式を主体とすることとしている。

一方,防衛庁が「防衛計画の大綱」に基づき各年度の防衛力整備を進めていくに当たり,重視すべき主要な事業について可能な範囲で将来の方向を見定めておくことも,実際の業務を進める上で必要なことである。防衛庁では,このような観点から,昭和52年4月「防衛諸計画の作成等に関する訓令」を制定し,これに基づき昭和54年7月「中期業務見積り」を作成した。

期業務見積りは,原則としてその作成する年度の翌々年度以降5年間を対象とし,陸・海・空自衛隊の実施する主要な事業の概略等の見積りを行い,防衛庁が各年度の業務計画,予算概算要求案等を作成する際の参考とすることを目的とするものであり,従来の政府レベルで決定された防衛力整備計画とは異なる防衛庁限りの見積りである。また,中期業務見積りは固定的なものではなく,毎年度,見直しを行うとともに,3年ごとに新たな見積りを作成し直すこととしている。

現在の中期業務見積りは,昭和55年度から59年度までを対象とするものであり,「防衛計画の大綱」の枠内で,基幹部隊を早期に整備すること,装備近代化により陸上自衛隊の火力,機動力,海上自衛隊の対潜,対艦,対空能力,航空自衛隊の要撃戦闘力,低空対処力等を向上すること,その他全般的仁継戦能力の強化,教育訓練器材の整備等を図ることを重視する場合の見積りとして作成されたものである。

昭和55年は,「防衛計画の大綱」が定められてから5年目となる。この間,国際情勢は,ますます厳しさを加え,また,最近においては,第1部「世界の軍事情勢」で述べたとおり,イランの米大使館員人質事件及びソ連のアフガニスタン軍事介入を契機とする中東情勢の緊迫ど,それに伴って現在生じている米海軍の西太平洋におけるプレゼンス維持の問題は,一貫して続けられてきた極東ソ連軍の増強と相まって,わが国周辺においても一段と厳しい状況を作り出すに至っている。

一方,わが国は,防衛力の充実整備に努力してきたところであるがまだ大綱に定められた防衛力の水準を達成するに至っていない。

したがって,政府としては,この水準を可及的すみやかに達成することが当面の急務であると考え,防衛力の整備を推進することとしている。