第1部

世界の軍事情勢

 

まえがき

 既に昨年の白書でみてきたように,積年のソ連の軍事力増強は,世界の軍事バランスに大きな意味を持つまでに至り,その背景の下に米中ソの関係も微妙に変化し,ベトナムのカンボジア軍事介入,中越紛争,イランのイスラム革命などもあって,国際情勢は流動的な様相を呈していたが,過去1年間,世界の潮流は更にその変化のテンポを早めている。

 インドシナ半島においては,中越紛争の余燼はいまだ冷めやらず,カンボジア内の戦闘は続き,戦火のタイへの波及や中国の対越軍事行動の再発の可能性も排除されないという不安定な状況のまま,1年間が推移し,その間ベトナムの海・空軍基地とその周辺海域におけるソ連の軍事的プレゼンスは,ますます顕著となった。

 イランにおけるイスラム革命の余波は,経済面では原油の大幅な値上げとなって現われ,世界経済に広汎かつ深刻な影響を与えた。政治面では,ペルシヤ湾岸にパーレヴィ体制後の力の空白を生じさせ,中東全体の政治情勢不安定化の一因となり,この地域におけるソ連の政治的,軍事的活動も従前よりも更に一層の懸念をもってみられるようになっていた。

 かかる状況の中で,在イラン米大使館員の人質事件とソ連のアフガニスタン軍事介入が起り,米国の国内世論を中心とする世界の政治的雰囲気は大きく変わった。

 過去1年間の国際情勢における変化は,いろいろな側面からとらえられようが,その中でも米国の世論の変化は注目すべきものであった。第2次大戦後,米国の国力が他に対して圧倒的に優越するようになったため,米国世論の変化が国際情勢を反映するものであると同時に,国際情勢の方向を決定する一つの大きな要素となっていることは,否めない事実である。

 最近の米国の世論はベトナム反戦時代の風潮から脱却して,急速に変わりつつある。その遠因は,ソ連の長期的な軍備増強の蓄積の結果がようやく誰の目にも明らかになってきたことであり,近因は,もちろん人質事件とアフガニスタン事件にある。

 ソ連の軍事力増強については,従来も米国,西欧内でその危険性を指摘する声もあったが,1970年代半ば頃まではデタント・ムードの中にあった西側社会,特に深いベトナム反戦ムードの中にあった米国ではその意見は少数でしかなかった。また1970年代初めには,中ソ対立のため,ソ連がその軍備拡張の大きな部分を中ソ国境に充当しなければならなかったので,その間ソ連全体の軍備拡張は継続していたにもかかわらず,西側がその圧力の増大を感じなくてすんだ時期もあり,このことも,1970年代前半のデタント時代の一つの背景をなした。

 また,1960年代の高い成長によって豊醗な社会を実現した米国などの先進民主主義社会においては,社会福祉などの予算が膨脹して,国防関係費が相対的に圧縮される傾向にあり,そこに,1970年代前半の石油ショックが来たためにいずれも財政難に陥り,ソ連の増強に対抗して軍備を増強することについて,国民世論の理解を得ることは困難であった。しかし逐年のソ連の軍事力の増強については,1975年のアンゴラに対するキューバ兵の介入などを契機として,特にソ連海軍力を含む遠隔地介入能力に対する危機感が深まり,1977年度予算以降米国国防費の長期的低落傾向はようやく食い止められた。その後,行政府よりむしろ議会の方がかえって国防に関する危機感が強いといわれるまでに世論が変化し,まずは西欧における防衛力充実の必要性が強調され,NATOは1978年5月首脳会議において,長期防衛計画に合意するとともに,毎年防衛費実質3%増を約束し合った。次いで,米国の大陸間弾道ミサイル(ICBM)のぜい弱性が問題となり,カーター大統領も1980年度予算では,核戦力増強を盛り込んだ国防予算を組んだ。

 その後,世論は更に変化のテンポを早め,議会でもデタント懐疑論が強まるに従って,米行政府は,他方でSALT批准促進の努力を続けながらも,昨年12月中旬,核戦力はもとより,建艦計画,緊急展開能力の改善等,全ての分野を含む大幅な実質増の1981年度予算の編成方針とともに,今後5か年にわたる軍備増強案を発表した。その頃に,相次いで,イランにおける人質事件とアフガニスタン事件が発生し,これらの事件は,前に述べてきたような過去数年にわたる米国世論の変化に拍車をかけ,かつ,これを決定的にさせる効果があったものと認められる。

 特にアフガニスタン事件は,ソ連の意図に対する西側諸国の不信の念を強めさせ,西側陣営の中における軍備増強の必要性についての共通認識を更に強めさせた。ここに至って,米行政府は,本年1月にSALTの批准審議延期を要請し,更に教育,福祉も削減するインフレ抑制の緊縮予算案の中で,前述の予算編成方針に基づき国防予算の増額を提案した。その後米議会では,その行政府案を更に増額修正する動きが出ている。

 このように米国世論を大きく変化させる主要因となったソ連の軍事力増強をわが国周辺についてみると,一昨年夏以来,ソ連地上軍は択捉,国後島に配備され,昨年夏には色丹島にまで進出した。この数年における極東ソ連地上軍,ソ連太平洋艦隊の増勢には目覚ましいものがあり,バックファイア爆撃機,中距離弾道ミサイルSS−20の極東配備,ベトナム基地の使用等,わが国をめぐる軍事情勢は更に厳しさを加えている。

 また,先進民主主義諸国は,前記のような厳しい情勢の中にあって,それぞれの軍事予算の増額を余儀なくされており,日本に対しても,自由社会の共通の利益のために,応分の努力を求める声も強くなりつつある。

1 世界の軍事構造

(1) 米ソを中心とした軍事体制

第2次大戦後,政治,経済体制を異にする米ソ両国の基本的な対立関係と両国の圧倒的な軍事的優位性から,それぞれ米ソ両国を中心とした集団安全保障体制が築きあげられ,また,このような集団安全保障体制に属さない国々も,何らかの形で両国の軍事態勢の影響を受けるに至っている。

このような国際的な軍事構造により,少なくとも東西間の全面的な軍事衝突や,それを引き起すおそれのある大規模な武力紛争は抑止されてきたといえよう。

しかしながら,現実には,世界の各国間には,領土,資源,民族,宗教,イデオロギーなどの要因をめぐり依然として根強い対立や不信が存在しており,米ソを中心とする東西の抑止機能が及ばない地域では,内戦や2国間以上にまたがる国際的な軍事紛争が往々にして発生している。そしてこれらの紛争に米ソのいずれかが,直接またほ間接に関与するという事態もみられ,それが情勢を複雑にするとともに,米ソの軍事バランスや勢力消長に影響を及ばしている。

(2) 米ソの戦略態勢

今日の米ソ両国の世界的対峙の基本的構造は,先に述べた米ソを中心とした集団安全保障体制及び戦略核戦力を背景に,主として欧州及び極東におけるソ連の兵力集中と,これに対する米国の兵力前方展開という形でとらえることができる。

ア 米ソの核戦力態勢

(ア) 戦略核戦力

米ソの戦略核戦力は,大陸間弾道ミサイル(ICBM),潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)及び戦略爆撃機の3本柱から成っている。

ソ連は,戦略核戦力の整備において,とりあえず米国との核均衡を達成することを目標として,この10数年来ミサイルの大幅な数的拡大を続けてきた。また,数量の増加とともに,ソ連は戦略核戦力の質的改善にもカを入れてきており,このため,大型で威力の大きい弾頭をとう載するソ連のICBMがその精度も向上してきたことにより,理論的には先制第1撃によって,米国のICBMのかなりの部分を破壊し得る能力を保有しつつあると推測される状況になってきている。

また,ソ連は,攻撃戦力の増強に加えて,弾道弾迎撃ミサイル(ABM),自国のSLBMとう載原子力潜水艦(SSBN)に対する防御能力の強化等を図るとともに,核戦争が起きた場合に備えて,民間防衛計画,産業疎開計画等に米国を上回る多額な資金を投入して,被害局限能力の向上にも力を入れているといわれている。

これらのことから,ソ連が単に核戦争の抑止ではなく,核の使用を含めて,戦争に勝つ能力を保有することを目指しているのではないかとの危倶も生まれている。

このようなソ連に対し米国は,ソ連の全面的な核攻撃による第1撃を受けた後でも十分に生き残り,かつ相手の都市,産業施設に対し堪え難い損害を与え得るといういわゆる確証破壊能力を究極の保証とするとともに,それ以下のいかなる規模の核攻撃をも抑止するため,柔軟かつ段階的に対応し得る能力を備えることに努力してきた。

他方,ソ連は引き続きミサイルの精度の向上などにより,米国の軍事施設のみを目標とするような限定的な核攻撃をも遂行する能力を向上させつつあるため,現有戦力による米国の対応をより困難なものとすることが予想されるに至っている。このため,米国は核抑止力をより確実なものとするため,一層の努力を行っている。このような戦力整備の考え方を米国は,1980年度国防報告から「相殺戦略」(Countervailing Strategy)と呼んでいる。

(イ) 戦域核戦力

米ソ両国の戦略核戦力は,現在のところ全般的にみた場合,ほぼ均衡状態にあるとみられ,また,第2次戦略兵器制限交渉(SALT)を通じてその量的規制に加え,部分的ながらも質的規制が図られている。こうした中でソ連は,主としてヨーロッパ戦域を対象に配備してきた中距離/準中距離弾道ミサイル(I/MRBM)を中心とする戦域核戦力の近代化にカを入れてきた。今日,ソ連は,SS−20IRBM,バックファイア爆撃機といった,ソ連本土から西欧諸国や日本等の周辺諸国を直接核攻撃できる長距離戦域核戦力を保有するに至っている。これらの核戦力は,従来のこの種の兵器に比べ高性能であり,しかもSALT条約の規制対象外である。

一方,米国をはじめとするNATO諸国は,NATOの戦域核システムの多くが,直接ソ連本土の目標を攻撃できる能力を持っておらず,このようなソ連本土に対する攻撃は,米国の戦略核戦力に依存している。このため,ソ連のSS−20やバックファイアといった新型兵器は,米国の戦略核戦力あるいはその国土に対して,核攻撃の脅威を与えることとはならず,ソ連が米国のヨーロッパの同盟国に対して,これらの兵器を使用するとの核の脅威を与えても,ソ連の国土に対する米国からの報復攻撃を受けるおそれを考慮する必要はない,との誤った判断をするかもしれないことをNATO諸国は懸念している。したがって,米国をはじめとするNATO諸国は,その戦域核戦力の近代化計画に着手するとともに,この分野におけるソ連との軍備管理交渉の必要性を強調している。

イ 米ソの通常戦力態勢

ソ連は,地勢的にユーラシア大陸のほぼ中央に位置し,北は寒冷な気候,南は険しい地形により,軍事力の進出が困難であったため,その進出路は,伝統的に大西洋及び地中海に至る西方向と,太平洋に至る東方向に指向されていたことなどから,欧州及び極東地域の2正面に大きな軍事力を配置してきた。特に,近年は,極東・西太平洋方面も重視されつつあるとみられる。また,イランのイスラム革命後の中東情勢の不安定化,更に,昨年12月以来の隣国アフガニスタンへの軍事介入に伴い,中東・インド洋方面に対する兵力の集中もみられる。

このように,ソ連は欧州から中東正面,更には極東に至る各方面に大きな兵力を展開し,いくつかの正面において,それぞれに作戦し得る態勢をとっているとみられる。

また,ソ連は,外洋艦隊としての海軍力を育成強化するとともに,友好国の港湾等を基地的に使用することによって,世界的なプレゼンスを高め,また,海空輸送力の増強により,遠隔地への兵力投入能力,あるいは緊急軍事援助能力を持つようになってきているとみられる。

一方,米国は,1戦略構想の下に通常戦力を整備してきているが,万一の場合には,同盟国がソ連の軍事力に単独では対抗できないとの理由などから,通常戦力の一部を米国にとって死活的な地域である欧州と西太平洋地域にあらかじめ配置しておくという,いわゆる前方展開戦略を採用している。

このような前方展開戦略を支えるために,米本土とこれら地域を結ぶ海空交通路の安全確保が必須のものとなっている。

また,最近の中東地域の情勢の緊迫化に伴い,中東・インド洋地域における海軍力を主体とするプレゼンスの強化が図られている。

なお,米ソを中心とする世界の軍事力の対峙状況は,第1図に示すとおりである。(ソ連の大型輸送機IL−76)(〔軍事力の概要〕

 

(注) SALT条約

1. SALT条約は,1985年末まで有効の本条約1981年末まで有効の付属議定書条約の解釈についての合意声明及び共通了解事項SALT交渉に関する一般原則声明ソ連のバックファイア爆撃機に関するブレジネフ・ソ連書記長の書簡から構成されている。

2. 本条約において規制された米ソの戦略核運搬手段の数量は次の図のとおりである。

3. 付属議定書においては,射程600kmを超える巡航ミサイルの水上(中)発射基または地上発射基への配備,ICBM移動発射基の配備及びICBMの同発射基からの飛行実験並びにASBM(空中発射対地弾道ミサイル)の飛行実験と配備が禁止されている。

      また,ソ連は,ブレジネフ書記長の書簡において,バックファイア爆撃機に大陸間飛行能力を付与しない旨米国に保証している。

(注) 戦域核戦力 核戦力は,従来,運用上の概念としてICBMやSLBMなどのように遠距離の目標に対して戦略的に使用される「戦略核戦力」と,戦場において戦術的に使用される「戦術核戦力」とに区分されてきたが,近年SALT交渉などにより,戦略核戦力の範囲が明確化されたこと,また,戦略核戦力が米ソ間において対等になってきたことなどから,IRBMなどの中間的核戦力が改めて注目されるようになった。

このため,最近,米国は,国防報告等において運用上の概念に加えて,戦場及びその周辺において地域的に限られた目標を攻撃する核戦力を「戦域核戦力」(Theater Nuclear Forces)と呼んでおり,SALTにより了解された戦略核戦力に対比する概念として使用している。

(注) ソ連の海空輸送能力の増強 ソ連海軍の補給艦,給油艦などの補助艦艇及び揚陸艦は,最近10年間に総トン数で約3倍(1969年約82万トン,1979年約224方トン)に増強され,また,空軍の輸送航空部隊も短・中距離機を主体とした編成からAN−22(コック),IL−76(キャンディッド)等の長距離輸送機を中心とした部隊に近代化されてきている。

このほか,海軍に統合されているといわれる商船隊や空軍の統制を受けるともいわれているソ連国営航空(アエロフロート)も近代化が進められ,輸送能力が向上している。

(注) 1戦略 1戦略とは,ーつの大規模紛争と一つの小規模紛争に同時に対処し得る通常戦力を整備するという戦力整備の基準である。

戦略は,対処すべき紛争として,1980年度米国防報告にもあるとおり,ソ連の戦力が集中しているNATO正面での紛争を最大規模の「1」の紛争と想定している。アジアについては,中ソ対立,米中関係の変化等もあって,欧州と同時に「1」の紛争が発生する可能性は1960年代に比し,より少なくなってきたとし,たとえ朝鮮半島で紛争が発生したとしても,他の大国が北朝鮮を支援して介入しない限り,十分な対処能力をもっているとしている。また「」の紛争ついては,中東地域が欧州での大規模紛争に先立って,あるいは同時に最も起りやすい地域とされている。

このように1戦略は,戦力整備に当たって対処すべき紛争を想定してはいるものの,「1」あるいは「」が特定の地域を指すとか,特定地域に対するコミットメントの優先度を指すという概念ではない。

2 ソ連の軍事力の増強と西側の対応努力

(1) ソ連の軍事力の増強

1962年のキューバ危機に際して,米国との間の戦略核戦力と海軍戦力の格差を認識したソ連は,1964年のブレジネフ政権の発足以後もフルシチョフ政権以来のいわゆる平和共存路線の呼びかけを行いつつも,1960年代,70年代を通じ,ぺースを緩めず軍事力の増大に努めてきた。

ア 戦略核戦力においては,ソ連は残存性の高いSLBMの増勢を図るほか,弾頭のMIRV化,命中精度の向上,射程の延伸など質的向上に努めている。

すなわち,ソ連は,ICBMの近代化のため,年間約125基の割合で旧式ミサイル(SS−9,11など)をSS−17,SS−18,SS−19へと更新しており,また,4種類のICBMを開発中であるといわれる。

SLBMの近代化については,デルタ級SSBNが現在までに31隻配備されている。そのうち,デルタ級の型及び型には,射程約8,000kmのSS−N−8,型には,射程約7,500〜9,200kmのSS−N−18(3個のMIRV又は1個の弾頭を装備)をとう載している。これらのSLBMは,ソ連本土に近いバレンツ海やオホーツク海から米本土内の目標を十分射程内に納め得る能力を持っている。

また,ソ連は,戦略核戦力の増強とともに,移動式のSS−20,バックファイアのような長距離戦域核戦力の充実にも努めている。

イ 地上軍兵力については,ソ連は10数か国と国境を接する大陸国家として,約183万人,173個師団という兵力を維持している。これらの師団の多くは充足率が低いといわれているが,有事には短期間で400万人以上という大量の動員が可能とみられる。

近年は,地上軍戦力の質的改善が進められており,例えば,125mm滑腔砲とう載の新型戦車T−72,対戦車ミサイルAT−5(スパンドレル),73mm滑腔砲を装備した装甲歩兵戦闘車BMP−2などにみられる機動力,火力の増強,攻撃へリコプターMI−8(ヒップ),MI−24(ハインド),大型輸送へリコプターMI−10(ハーク)などにみられる対地攻撃力・空中機動力の増強,対空ミサイルSA−8(ゲッコー),SA−9(ガスキン)などによる戦場防空能力の強化等,戦闘能力の向上には目覚しいものがあり,量的優勢,奇襲及び縦深突進攻撃(相手側の陣地を迅速に突破し,後方奥深く突進する攻撃)を重視する,伝統的なソ連地上軍ドクトリンをより有効に実現可能ならしめるものとなりつつある。

また,化学戦の遂行能力は,他のいずれの国よりも優れているといわれている。

ソ連地上軍は,数年ごとに師団の改編を行い,戦力の増大を図っているが,その状況をソ連の自動車化狙撃師団について,米国の機械化歩兵師団と比較してみると,第2図に示すとおりである。(ソ連の対戦車ミサイルAT−5

ウ 空軍兵力については,ソ連の作戦機保有数は,約4,350機で米国を上回っている。

また,質の面でも米国の戦術航空機には劣るものの,次第に向上しつつあり,新型のMIG−23(フロッガーB),MIG−27(フロッガーD),SU−24(フェンサー)等の戦闘機・戦闘爆撃機の配備により,航続距離,とう載量及び電子戦能力が増大し,相手の第一線から指揮所,核貯蔵施設,飛行場,港湾などの後方地域にかけての航空優勢を獲得し,航空攻撃を行う能力を高めている。

また,ソ連の周辺海域の艦艇に対する航空掩護(エア・カバー)も能力的には実施できるようになっているとみられる。

このほか,ソ連は約55万人を擁する国土防空軍を保有し,その装備は,Su−15(フラゴン),MIG−23,MIG−25(フォックスバット)等の要撃機約2,600機,約1,000か所のサイトに分散した地対空ミサイル約10,000基等である。(ソ連の戦闘爆撃機MIG−27

エ 海軍兵力については,ソ連は,艦艇総数約2,620隻(うち潜水艦約380隻),約501万トンのほか,バックファイアを含む作戦機約710機以上を有する海軍航空隊,5個連隊からなる海軍歩兵部隊などを保有し,更に,最近は,空母の就役,原子力巡洋艦の建造,新型艦艇への更新及び航空機とう載機器等装備の近代化により,水上打撃能力,対潜能力,艦隊防空能力,水陸両用戦能力及び洋上補給能力が強化され,外洋艦隊としての態勢を整備しつつあり,米国に迫る海軍力となっている。

空母については,モスクワ級へリコプター空母2隻に加えて,キフ級空母2隻が就役しており,更に3番艦が艤装中である。

その他の水上艦艇についても,艦対艦,艦対空ミサイルを装備した新鋭のカラ級,クレスタ級巡洋艦及びクリバック級駆逐艦並びにグリシヤ級哨戒艇の建造が続けられている。

また,潜水艦については,速力,潜航深度において米国より優れた新しい攻撃型原子力潜水艦が就役・展開しているといわれる。

このような各種ミサイルをとう載した艦艇等の増強,特に,原子力潜水艦,高性能爆撃機などの増強により,ソ連海軍は,西側の制海確保に大きな影響を与える能力を備えつつある。

このようなソ連の主要水上艦及び潜水艦保有数の推移を米国と比較すると第3図のとおりである。(ソ連のキエフ級空母「ミンスク」

 (2) 米ソの軍事バランスと西側の対応努力

かつて米国は,ソ連に対する核戦力及び海・空軍における庄倒的な軍事技術優位と集団安全保障体制に支えられた対ソ政策によって,強大な地上兵力を持つソ連の周辺地域への進出を阻んできた。

しかし,1960年代以降における軍事力の増強によってソ連は,核戦力や欧州及び極東地域における軍事態勢において,米国に対抗し得るようになり,更に,海・空軍の増強により,米本土と前方展開地域との海空交通路確保に困難をもたらし,かつ,ソ連から遠く離れた地域にも局地的に介入する能力を備えるに至っており,今や,同時多正面における作戦能力を備えつつあると考えられる。

こうしたソ連の軍事力の増強は,西側諸国にとって,米ソの間の軍事バランスについて真剣な再検討を迫るものとなっている。

この間米国は,ベトナム戦争に対する出費や戦後の厭戦気分もあって,また,西欧諸国は,欧州のデタントの進捗に対する期待などから国防費を抑制する傾向にあったが,今日,ソ連の軍事力は,「純粋に防衛のため必要と思われる以上のもの」(1979年度春季NATO防衛計画委員会最終コミュニケ等)として,西側諸国もソ連の軍事的な行動を抑制するためには,直ちに軍事力の整備拡充に着手しなければならないという認識を持つに至っている。

NATO諸国は,1978年5月,ワシントンにおける首脳会議で,長期防衛計画(LTDP)を採択し,防衛費を毎年実質3%ずつ増加していくことで合意した。

これに基づきNATOの主要国は,厳しい経済情勢の下にもかかわらず国防費の増額に努めている。米国は昨年1月,議会に提出した1980年度予算において,予算全体の伸びを実質0.7%にとどめ,国防予算以外は前年度並,あるいは削減という状況にもかかわらず,国防予算額は,対前年度比実質3.1%増の1,258億ドル(約28兆3,000億円,換算率は1ドル=225円)を計上した。(インフレ等による補正で,本年3月末には,1,340億ドルと見積られている。)

また,本年1月に提出された1981年度予算案においても,米国は,持続的な国防努力を維持していくために,他のほとんどの予算項目の伸びを抑えるという緊縮財政の中で,昨年の当初計上予算より約200億ドル多い1,462億ドル(約32兆9,000億円)の国防支出を計上した。これは本年1月における1980年度予算の見積額に比し,実質3.3%の増額である。また,米国は,今後5年間にわたって,国防支出を実質平均4.1%増額していくという姿勢を打ち出し,同時に,同盟諸国に対しても,自らの地域において応分の負担と努力をするよう強く求めている。(本年3月の予算修正要求によって,1981年度の国防支出は,1,505億ドルとなっている。)

米国以外のNATO諸国は,例えば,英国政府は,1980年度予算において,国防費の実質3.5%の増額を議会に対して提案し,また西独は,1980年度予算において,9億マルク(約1,100億円,換算率は1マルク=124円)の増額補正により,実質約3%増を行うなど,NATO諸国の合意に従って国防努力を強化しつつある。

 なお,米ソの軍事費の推移は,第4図に示すとおりである。

 ア 核戦力の強化

米国は,戦略核戦力の質的強化を図るため,ミニットマン型ICBMの弾頭を新型に換装して,命中精度及び威力を向上させ,また一部のポセイドン級SSBNのとう載SLBMをポセイドン型からトライデント型に換装する計画等を推進している。

このトライデント型SLBMは,射程約7,000kmを有し,ポセイドン型に比べ射程や命中精度の向上が図られている。

また,来年8月,このようなトライデント型SLBMをとう載する新型SSBN「オハイオ」が太平洋に配備される予定である。

更に,米国は,ソ連の大型ミサイル,特に,SS−18の命中精度の向上により,理論的には先制第1撃によって,ソ連が米国のICBMの大部分を地上において破壊し得る能力を持ちつつあるとみられることから,米国のICBMの非ぜい弱化を図り,より安定した核抑止力を保持するため,M−Xミサイルの開発を推進している。

このほか,米国は,爆撃機戦力の維持・強化を図るため,B−52戦略爆撃機にとう載する空中発射巡航ミサイル(ALCM)を開発し,装備することによって,B−52の目標攻撃能力をより正確かつ確実なものにする計画を進めるとともに,B−52自体の改良計画も進めている。

以上述べたように,米ソの戦略核戦力は全般的にみればほぼ均衡しているものとみられ,核戦争の相互抑止関係は,維持されているものと考えられる。

しかし,反面,米ソの戦略核戦力がほぼ均衡したため,戦域核戦力,通常戦力におけるそれぞれのバランスを維持し,全体としての紛争の抑止力を強化していくために,改めて西側の戦域核戦力及び通常戦力の強化が重要な課題となってきている。

このため,NATO諸国は,戦域核戦力の分野でもソ連のSS−20やバックファイアに対し,パーシング型ミサイルを108基,地上発射巡航ミサイル(GLCM)を464基ヨーロッパヘ展開することとしている。(米国のSSBN「オハイオ」)(米国の空中発射巡航ミサイル(ALCM))(米国開発中のバーシング型ミサイル)(米ソの戦略ミサイル

イ 通常戦力の強化

米国は現在,16個師団約76方人の陸軍,3個師団約18万人及び作戦機約390機を有する海兵隊,空母13隻を含む約720隻約570万トン及び作戦機約1,200機を擁する海軍,作戦機約2,610機を有する空軍を保持している。

米国は,ソ連の通常戦力の質量両面にわたる著しい増強に対応し,欧州,西太平洋における地域バランスを維持するため,欧州正面では,新型装備の導入,資材事前海外備蓄(POMCUS)の増大等により,前方展開部隊の即応態勢や増援能力の強化(航空兵力については1週間で欧州戦域の戦闘用航空機を1,900機へと3倍増に,地上兵力については2週間以内に現在の20万人から35万人に増強)を図っている。北東アジア正面においては,在韓第2師団の撤退計画を1981年まで凍結するとともに,第3海兵両用戦部隊を維持し,西太平洋の空軍のF−4をF−15に代替し,また,第7艦隊の近代化を推進すること等により,この地域の米軍のプレゼンスを維持し,質的強化を図っている。

海軍力については,艦艇の老朽化,バックファイアの脅威の増大,インド洋・ペルシャ湾,カリブ海への展開の必要性の増大といった問題に対処するため,次の5年間に97隻の新型艦艇を建造することを計画している。この中で米国は,量産型の対空戦闘用駆逐艦,対潜フリゲート艦,攻撃型原子力潜水艦の3つのタイプの新艦艇を建造するとともに,増大するバックファイアの脅威に対抗して艦隊防空能力を強化するために,AEGIS艦の建造を推進することとしている。

また米国は,ペルシャ湾地域などの局地的な紛争に対処するため,緊急展開部隊(RDF)構想の具体化に着手している。

緊急展開部隊構想とは,新たに部隊を創設することなく,現存の部隊の中から緊急展開部隊の構成部隊をあらかじめ指定しておき,平常から所要の訓練を施し,紛争が発生した時,その状況に応じ,これらの部隊の中から所要のものを選定して派遣部隊を編成するというものである。その規模は,陸軍の場合,レンジャー小隊から数個師団からなる軍団までの範囲にわたるものとされている。

また,派遣部隊を迅速に展開するため,新型輸送機の開発計画や,あらかじめ部隊装備補給品を積載しておき,紛争の発生が予想される地域の近くに配備しておく洋上補給所ともいうべき,事前集積船の建造等も計画されている。

このような構想が具体化した場合には,米国の地域紛争に対する対処能力は,著しく向上するものとみられる。

一方,NATO加盟の西欧諸国は,長期防衛計画に基づき,防空能力の向上や兵器生産の合理化などに努めている。

NATO防空能力の改善策としては,敵機識別能力の改善,戦闘機の改良及び対空ミサイルを含む高性能の対空火器の取得などを計画している。この計画の一環としてNATOは,1978年12月,空中警戒管制(AWACS)機E−3A 18機の導入を決定している。

またNATOは,兵器及び軍需品の標準化並びに相互運用性の増大をねらいとして,兵器・装備を相互に購入することや兵器システムの共同開発等兵器生産の合理化を推進している。

兵器の標準化の例としては,次期主力戦車であるXM−1(米)とレオパルド(西独)の主砲,対戦車ミサイル・ミラン(西独・仏・英),対空ミサイル・ローランド(西独・仏・米),多目的戦闘機・トーネイド(西独・英・伊)などがある。(米国の戦闘機F−15)(西独の次期主力戦車レオパルド

ウ 軍備管理努力

西側諸国は,防衛体制の改善強化と併せて,東西間の軍備管理あるいは兵力削減のため,SALT交渉,包括的核実験禁止交渉,化学兵器禁止交渉,対衛星兵器禁止交渉,通常兵器の移転規制交渉及び中欧相互均衡兵力削減交渉(MBFR)などの種々の交渉を東側諸国と行っている。

SALTについては,昨年6月,米ソ両国によって新条約が調印された。同条約は,米ソ両国の軍備管理努力の現われとして評価されるものであるが,ソ連のアフガニスタン軍事介入に対する制裁措置の一環として米国が上院本会議における批准審議を無期延期しており,いまだ発効をみていない。

また,中部欧州に所在する兵力,軍備を均衡的に削減し,より低いレベルで安全保障を維持することを目的とするMBFR交渉は続行されているが,一昨年の第15次の文渉で東西双方が共通の上限兵力を設定することに原則的に合意したものの,共通の上限兵力の枠内で更に各国別の上限兵力を設定しようとする東側と,これに反対する西側との対立及び東側の現有兵力についての東西双方のデータの差異とが解消されず,交渉は,現在進展をみていない。

 

(注) MIRV(Multiple Independently Targetable Reentry Vehicle)

各々異なる目標を攻撃できる複数の核弾頭から構成される核弾頭方式のことで,「多目標弾頭」と訳されている。

戦略ミサイルの弾頭は,初期の単一核弾頭から始まり,都市攻撃の場合のような地域目標の破懐に有利なように,複数個の子弾頭を一つの地域目標を覆うように分散して投下するMRV(多弾頭)に進み,更に,最近は,核兵器の小型軽量化及び誘導技術の進歩に伴いMIRVが実用化されている。

米国のミニットマン(ICBM),ポセイドン(SLBM),ソ連のSS−17,18,19(ICBM),SS−20(IRBM),SS−N−18(SLBM)などは,MIRV化された弾頭を装備している。

(注) 装甲歩兵戦闘車 戦車との協同作戦において,戦車に脅威を与える対戦車火器の制圧及び下車戦闘における歩兵に対する火力支援などの任務を果すために使用される。機動力,防護力の他に相当の火力をもち,従来の装甲人員輸送車と異なり,車両内に乗車したまま,ある程度戦闘できる能力が付与された車両のことである。

米国は,1964年から開発を開始し,1981年に装備化を予定している。ソ連は,1967年にBMP装甲歩兵戦闘車を装備していることが確認されている。

(注) NATO長期防衛計画 本計画は,ワルシャワ条約軍の継続的増強が欧州における東西軍事力の均衡を破壊しているとの認識に立って,1980年代及び1990年代前半にわたるNATO防衛力強化及びそのための加盟国の協同努力を目的として以下の10分野にわたって策定され,1978年5月のNATO首脳会議において承認された。

即応増援動員海上戦闘力防空通信・指揮・統制電子戦防衛資源の合理的使用兵站戦域核近代化

(注) 巡航ミサイル(Cruise Missile) 巡航ミサイルは,推進装置と精密誘導装置等を持つ無人の弾頭運搬手段であって,飛行機のように大気中を飛ぶことができるものである。

特に,近年小型で効率のよい推進装置及び高精度の誘導技術をとり入れた水上(中)発射巡航ミサイル(SLCM),空中発射巡航ミサイル(ALCM)及び地上発射巡航ミサイル(GLCM)の開発が米国で行われている。

米国が開発,調達中のこれらの巡航ミサイルは,亜音速のため目標到達時間がかかるが,低高度を飛翔し,かつ,レーダー反射面積が小さいため,相手側の対処が困難であること,命中精度が高いことなどの特長がある。ソ連は,この種の巡航ミサイルの開発については,米国に立ち遅れているとみられている。

(注) POMCUS(Prepositioned Overseas Materiel Configured to Unit Sets)

POMCUSは,欧州の緊急事態に際し,兵員のみを本土から空輸し,欧州で装備品を受領して戦闘に参加できるように事前に装備品を備蓄することで,これは,戦時備蓄というよりは,むしろ戦略機動の一方式としてとられている。

現在,欧州には,3個師団の装備を可能にする約14,000両の装輪,装軌車両を含む約140,000品目の主要装備品が83か所の湿度調整機能を備えた貯蔵庫と46か所の通常の貯蔵庫に保管されているといわれている。

米国は,これを1981年までに4個師団相当分,1982年までに6個師団相当分に増加する計画を進めている。

このほか,米国は,NATO北翼を強化するため,ノルウエー等に対し,緊急部隊用のPOMCUSを計画しているといわれる。

(注) AEGIS 米海軍が1980年代に就役させる計画のCG−47巡洋艦に装備予定の新型艦対空ミサイル・システムである。主要構成は電子的に走査する固定式アンテナの捜索追尾レーダー,ミサイル・ランチャー,ミサイル誘導装置等からなり,目標を探知すると,脅威の評価,攻撃武器の選定,ミサイルの発射などがコンピユ−ター処理され,ミサイルを自動発射する機能をもつ。特に多目標同時対処,即応性に優れている。ミサイルはスタンダードが使用される。

AEGISの名称は,ギリシャ神話のゼウス神がアテネ神に授けた盾の名に由来したものといわれる。

(注) 空中讐戒管制機E−3A AWACS(Airborne Warning And Control System)機といわれ,空中早期警戒及び空中指揮管制の両任務の遂行機能を有する大型4発ジェット機である。本機は,高精度のレ−ダー装置による警戒探知システムと,収集したデータを処理する地上基地の情報処理システムとを連係させ,機上において適切な作戦指揮を行い得るよう,これらのシステムを総合処理する膨大な電子装置を装備しており,1,600km進出して約6時間の滞空能力を有する。

3 中東の軍事情勢

(1) 中東地域の不安定性

中東地域は,昨年2月のイランのイスラム革命に加え,昨年末のソ連のアフガニスタン軍事介入による情勢の悪化から,現在,世界で最も緊張が高まっている地域の一つとなっている。

中東地域は,欧州,アジア,アフリカ三大陸の結節点に位置し,世界の石油資源の約6割を埋蔵し,またアラビア海,インド洋には石油輸送ルートをはじめ,幾つかの重要な海上交通路が存在するため,世界的な戦略要衝となっている。

石油資源の大部分をこの地域に依存する西側諸国にとって,中東産油国の平和と安定及びその地域からの海上交通路の安全が確保されなければ,その経済の維持,発展を図ることが困難であるのみならず,現在の生活水準を維持することすら難しくなり,ひいては政治的,社会的混乱を引き起こすおそれさえ生ずるであろう。

したがって,この地域の平和と安定の確保は,わが国のみならず,世界の平和と安定にとって重要な問題である。

他方,ソ連にとっても,上記の戦略的な重要性に加え,この地域はソ連南部に隣接する地域であるとともに,国内石油資源の減少に伴う将来の石油資源の確保という思わくもあって,ソ連世界戦略上の重要地域となっているとみられる。

なお,世界の主要な石油の流れは第5図に示すとおりである。

中東地域の平和と安定の維持が,世界の国々,とりわけ西側諸国にとって緊要であるが,中東地域は,民族,宗教,領土等の問題も抱え,一部の国々の間に対立関係が存在すると同時に,国内的にも様々な不安定要因を有しており,今後も流動的な状況が続く可能性が極めて高い。

イスラエルとエジプトの平和条約により,両国間に外交関係の樹立がみられ,中東の和平への一歩を踏み出したものの,パレスチナ自治交渉が進展せず,また,イスラエルと和平したエジプトに対し,急進派をはじめとする他のアラブ諸国の反発も依然根強い。更に,エジプト以外のアラブ諸国とイスラエルとの対立,特に,イスラエルとシリア等との関係には,厳しいものがある。

湾岸地域の情勢についてみると,昨年2月のイランのイスラム革命に至るまでは,特にサウジアラビアとイラン両国の西側との協調関係もあり,この地域の情勢は比較的安定した傾向をみせていた。しかし,イランのイスラム革命とその後の変動は,イランに国内的混乱をもたらしたのみならず,米大使館員人質事件を契機とした米国とイランの深刻な対立は,西側諸国にも大きな影響を及ぼしている。また,イランとイラクとの間に武力衝突も生起しており,一方,イスラム革命後のイランの湾岸地域の安全保障に対する影響力の低下やソ連の南イエメンに対する影響力の増大もあって,オーマン,更には,サウジアラビアは湾岸地域の安全保障について懸念を高めている。また,北イエメンと南イエメンとの関係にも微妙なものがある。

(2) ソ連のアフガニスタンに対する軍事介入

ソ連は,主として強大な軍事力を背景に,各地に勢力を伸張してきたが,中東では,イラク,シリア,リビア等のいわゆる急進派諸国と友好関係を維持し,軍事援助を継続している。更にソ連は,アンゴラ,モザソビーク,エチオピア,南イエメンに対し,キューバ,東独等とともに,軍事顧問や技術者を派遣し,軍事・経済援助を提供して,影響力の増大を図り,他方で,これらの国の軍事施設を利用している。ソ連が使用している主な港湾・泊地としては,第6図のように,南イエメンのアデン,ソコトラ島,エチオピアのマッサワ,イラクのウムカッスル等があげられるが,更に,アフリカ西海岸では,アンゴラのルアンダ,一方,東南アジアではベトナムのダナン,カムラン湾などを利用しているといわれ,ペルシャ湾からインド洋を経てヨーロッパ,米国及び日本に達する石油輸送ルートを拒する要点に地歩を固めつつある。このような中東・アフリカ,東南アジア地域へのソ連の進出は,ソ連の戦略態勢で述べたソ連軍の遠隔地介入能力の向上とともに注目すべきことである。米国をはじめとする西側諸国が,こうした中東・アフリカ地域へのソ連の影響力の増大に対して懸念を深めていた状況の中で,昨年12月末に始まったソ連による隣国アフガニスタンに対する軍事介入は,東西間の緊張を高めるとともに,中東情勢を更に流動的かつ不安定にした。

ソ連のアフガニスタン軍事介入は,アフガニスタンが1978年4月の親ソ派によるクーデター以来,社会主義路線をとっていた国とはいえ,これまで非同盟国とみられていた国に対するソ連の最初の直接軍事介入であるといえる。

ソ連は,現在約11万人程度の兵力をもって,アフガニスタンに介入しているとみられるが,ソ連軍及び政府軍は反政府・反ソ勢力の根強い抵抗に遭い,かなりの損害も出ている模様である。

また,アフガニスタン国民の強い反ソ感情を背景に,反政府活動は根強く続いており,更に山岳地帯が多いという地勢的要因もあって,ソ連軍が反政府・反ソ勢力を早期かつ完全に制圧することは難しいとみられている。他方,4月にソ連は,アフガニスタンとの間に「ソ連軍の一時的駐留の条件に関する条約」を締結するなど,ソ連軍の駐留は長期化する様相を示している。

今回のソ連の軍事介入は,主として次のような諸点から注目すべきものであろう。

ア ソ連は,機会があれば積極的な軍事行動をとってその意志を貫く用意があるとみられること。

イ アフガニスタンに隣接するトルケスタン,中央アジア軍管区の部隊を動員によって短期間にその充足率を高め,NATO正面や極東ソ連からの兵力を転用することなく作戦を遂行している模様であり,その緊急動員能力の高さを示したこと。

ウ 空輸による部隊移動,戦闘機,戦車,装甲歩兵戦闘車,武装へリ等を使用した空陸一体の作戦能力の高さを示したこと。

なお,アフガニスタンにおけるソ連軍の展開の状況は第7図のとおりである。

このような,ソ連のアフガニスタン軍事介入に対し,12月31日カーター大統領は強く非難するとともに,1月4日にはソ連軍の即時撤退を求め,そのために

ア SALT条約の上院本会議における批准審議の延期

イ 穀物輸出の大幅制限

ウ 高度技術と戦略物資の売却停止

エ モスクワオリンピックのボイコット

 などの制裁措置を発表するとともに「侵略に対抗措置をとらなければ,その侵略は伝染病になるということは,世界が大きな犠牲を払って学んだ歴史の教訓である」と述べて,他の諸国に対しても協力を呼びかけた。国連では,1月14日「外国軍隊のアフガニスタンからの撤退を求める決議」,イスラム外相会議においては,1月26日「アフガニスタンからのソ連軍隊の即時無条件撤退の要請」,また日本の国会では3月,「アフガニスタンからのソ連軍の撒遇等を要求する決議」がなされた。

(3) インド洋における米ソ侮軍のプレゼンス

以上のように,イラン及びアフガニスタン情勢は,特にペルシャ湾,インド洋周辺における緊張をも高めることとなった。

米国は,これまでもインド洋にある英国領のディエゴ・ガルシア島の海軍施設を整備するなどの措置をとってきたが,ソ連海軍のインド洋周辺におけるプレゼンスの増大,昨年初めのイランのイスラム革命等に起因する情勢の流動化に伴い,昨年3月から6月の間,インド洋地域へ1個空母機動部隊を派遣した。

更に,昨年夏には,中東部隊の水上戦闘艦艇を3隻から5隻に増加するとともに,インド洋への空母機動部隊を含む艦艇の展開を従来の3回よりも増加する方針を発表した。

この方針のもとに,10月から1個空母機動部隊を展開していたが,11月以後は更に1個空母機動部隊を増派し,合計2個空母機動部隊が継続して,インド洋地域を遊弋し,警戒にあたっている。

更に,ソ連のアフガニスタン軍事介入後は,カーター大統領が本年の一般教書において,ペルシヤ湾地域を支配しようとする外部勢力のいかなる試みに対しても,米国は軍事力を含む必要な手段を用いて排除する旨の強い決意を表明し,これまで以上に中東地域への軍事的プレゼンスの維持強化に積極的姿勢を示している。すなわち,これまで主として,西太平洋に所在する第7艦隊の空母機動部隊をインド洋周辺に派遣していたのに対し,大西洋,地中海を行動海域とする大西洋艦隊からも空母機動部隊を派遣する措置をとった。また,米国は,前述の緊急展開部隊(RDF)計画を推進するとともに,ソマリア,ケニア,オーマンと港湾,飛行場施設の利用について交渉を進めているが,話し合いには進展がみられている模様である。

ソ連は,アフガニスタン軍事介入までは,主としてソ連太平洋艦隊から,20隻前後の艦艇を常時派遣していたが,介入後は更に艦艇数を30隻程度に増加させている。

インド洋周辺地域には,米ソの海軍艦艇のほかに,英国,フランスの艦艇もプレゼンスを維持しており,西独は,本年5月から8月までの予定で,インド洋区域ヘ訓練のため数隻の艦艇を派遣している。

米国が,昨年11月以降,2個空母機動部隊をインド洋周辺に継続して派遣していることは,わが国の安全に大きくかかわる北東アジアの軍事バランスの観点からみると,それが長期にわたれば,米海軍のプレゼンスの態様,ひいては北東アジアの軍事バランスに影響を与えるおそれがあろうが,わが国を含む西側諸国が,中東からの石油資源とその安定した輸送を確保するためには,必要不可欠な措置と考えられる。(米国の空母ミッドウエイ

 

(注) アフガニスタンからの全外国軍隊の即時無条件撒退を求める国連決議 ソ連のアフガニスタンへの軍事介入に伴い,英国など51か国の要請により,本年1月5日から安全保障理事会緊急会議が招集され,7日,アフガニスタンからの全外国軍隊の即時,無条件撤退を求めた非同盟諸国の提案の決議案を表決に付したが,ソ連の拒否権行使により,否決された。

これをうけて,10日,国連緊急特別総会が開催され,パキスタンなど24か国共同提案による外国軍隊の即時,無条件,全面撤退とアフガニスタン難民への人道援助を求める決議案を賛成104,反対18,棄権18,欠席12の圧倒的多数で採択した。

採択された決議の概要は次のとおりである。

 各国の主権,領土保全及び政治的独立に対する尊重が国連憲章の基本原則であることを再確認する。

 最近アフガニスタンに対して行われた軍事介入は,この原則と相容れないものであり,極めて遺憾である。

 各国がアフガニスタンの主権,領土保全,政治的独立などを尊重し,同国に対する内政干渉をやめるようアピールする。

 アフガニスタン国民が自らの政府,政治体制などを外部からの干渉なしに選べるよう,外国軍隊のアフガニスタンからの即時,無条件かつ全面的な撤退を要求する。

(注) アフガニスタンからのソ連軍の撒遇等を要求する国会決議 ソ連のアフガニスタン軍事介入に伴い,「アフガニスタンからのソ連軍の撤退等を要求する決議」を,「北方領土問題の解決促進に関する決議」とともに,本年3月13日衆議院本会議において,3月19日参議院本会議において,それぞれ採択した。

また,4月11日には,衆参両院本会議の決議を魚本駐ソ大使からフィリュービン・ソ連外務次官に申し入れた。

なお,「アフガニスタンからのソ連軍の撤退等を要求する決議」の内容は,次のとおりである。

(注) アフガニスタンからのソ連軍の撒遇等を要求する決議 全ての国の主権,領土保全及び政治的独立を尊重することは国連憲章の基本精神であり,国際正義と秩序を維持する上で必要不可欠の大原則である。

このたびのソ連軍のアフガニスタンに対する武力介入はこの原則に照らし,許し難き行為であり,世界の平和と安全を脅かす暴挙である。

自らの政府の形態を選択することは,それぞれの国民固有の自主的権利であり,いかなる国もアフガニスタンに対し干渉介入すべきでないとした国連緊急総会の決議を支持するものである。

よって政府は,ソ連政府に対し,ソ連軍のアフガニスタンからの即時,無条件,全面撤退を要求するとともに,国連決議の趣旨をふまえ,世界の平和維持のため引き続き最善の努力をすべきである。

4 わが国周辺の軍事情勢

(1) 概説

東アジアは,大陸部,半島,島嶼,海峡など異なった地理的環境が交錯しており,また政治体制を異にする大小様々な国家が存在し,複雑な様相を示している。

この地域は,政治的,軍事的に影響力を有する米中ソ3国が相互に牽制し合う状況にあった。しかしながら,近年,米中,日中両国関係の進展,中越の抗争,ソ越の関係緊密化,中国による中ソ友好,同盟及び相互援助条約の不延長通告もあって,この地域の情勢は変貌している。

このような環境下において,米国は,中国との国交正常化に引き続き,政府要人の訪中など中国との関係を深めてきている。一方,中ソ関係は中国による中ソ友好,同盟及び相互援助条約の不延長通告に伴い,新しい関係を求めて中ソ交渉が実施されているが,大きな進展はみられず,1980年4月11日以降無条約状態にある。このように中ソ関係は当分大幅に改善される見込みはないとみられるが,今後,中ソ間において何らかの関係修復が図られる可能性も否定できず,その推移を見守る必要がある。

朝鮮半島においては,韓国と北朝鮮の間に対話が再開されたものの,北朝鮮が1970年代に大幅な軍事力増強を行ったとみられることもあって,南北間の軍事的対立,緊張は依然として継続している。現在のところ,在韓米地上軍の撤退が1981年まで凍結されたこととも相まって,紛争の発生は抑止されているとみられるが,この地域の平和と安定は,わが国のみならず,東アジア全体の平和と安定にとって重要なかかわりを持つので,今後とも注視していく必要がある。

インドシナ半島においては,ベトナムが18個師団約20万人の兵力をカンボジアに投入し,主としてタイ国境付近の山岳地帯でゲリラ抵抗を続けるポル・ポト軍に対する掃討作戦を実施しているが,全土を完全制庄するには至っていない。またこの戦闘に伴って,タイ・カンボジア国境付近でも緊張が生じている。米国もタイに対し,コミットメントを再確認するとともに,軍事援助を増加している。他方,中越間では,関係改善のための話し合いが行われているが,双方の立場の違いもあり,進展はみられていない。また軍事的にも対時の状態が続いており,国境付近では小規模な衝突も発生している。

台湾については,米中国交正常化に伴い,米台相互防衛条約は昨年末終了し,台湾に対する米国の条約上の直接の防衛義務は消滅することとなった。しかし米国は,台湾問題の平和的解決に引き続き関心を有すると声明し,台湾関係法を可決するとともに,防衛的性格の武器の提供などを行っていることもあって,今後とも,この地域の安全は保たれるとみられるが,同地域はわが国に近接し,重要な海上交通路に当たることなどから,わが国としても大きな関心を有しているところである。

このように不安定要因をはらみ,厳しい情勢にあるこの地域において,ソ連は,一貫して軍事力の増強に努めており,特に,最近では,量的増強に加えて質的向上が重視され,極東ソ連軍の能力と即応態勢は一段と向上しつつあるとみられる。

また,わが国固有の領土である国後,択捉及び色丹の3島に地上軍部隊を配備し,基地の建設を行っている。更にソ連は,ベトナムの支援を強化するとともに,今やベトナムにおける海・空軍基地を常時使用する状態に至っているものとみられる。

このような極東ソ連軍の増強と活動の活発化は,西太平洋における米ソの軍事バランスに影響を与えつつあり,わが国の安全保障に対しても潜在的脅威の増大であるとみられる。

(2) 米中ソの軍事態勢

ア ソ連の軍事態勢

(ア) 極東ソ連軍

極東ソ連軍は,地上軍部隊,海軍部隊,航空部隊及び戦略部隊の各部隊が10年以上の間にわたって,質量両面で増強を続けている。

ソ連がなぜ極東地域の戦力を増加させているかは明らかではないが,中ソ対立の激化に伴い,中ソ国境防衛の必要性が高まったこと,西太平洋,インド洋の世界戦略上の重要性から,米第7艦隊に対抗し得る兵力を必要とすること,米中関係,日中関係の進展などを含む東アジアにおける情勢の変化に対応すること等が推測されよう。

このような中で,昨年7月にはキエフ級空母の2番艦「ミンスク」,カラ級巡洋艦「ペトロパウロフスク」,イワン・ロゴフ級揚陸強襲艦の1番艦「イワン・ロゴフ」が極東に回航,配備されるなど,ソ連太平洋艦隊は総トン数で昨年に比し,約14万トン増強され,また,極東ソ連軍の師団数も逐次増加されていること,更には,バックファイア,SS−20の配備や極東,ザバイカル,シベリアの3軍管区及びモンゴル所在の部隊を統轄する統合司令部が設置されたといわれていることなどは,ソ連が極東に大きな軍事的関心を示しているものといえよう。

ソ連が,この地域に統合司令部を設置したのは,初めてのことであり,従来軍管区ごとに配備されてきた東アジアの兵力を,統一的に指揮運用することで即応態勢を高めるという目的もあるとみられ,また,東北アジアの3軍管区を統合した司令部であるということは,単に中国のみならず,太平洋方面も念頭にあるともみられ注目される。

極東地域におけるソ連の基地はおおむね第8図のとおりである。

地上兵力は,全ソ連173個師団約183万人のうち,その程度に当たる46個師団約45万人を主として中ソ国境付近に配備し,そのうち極東(おおむねバイカル湖付近以東)地域には34個師団約35万人が展開している。

航空兵力については,全ソ連の作戦機約8,500機のうち,その程度に当たる約2,060機が極東に展開しており,その内訳は,爆撃機約450機,戦闘機約1,450機及び哨戒機約160機である。

海上兵力は,全ソ連の艦艇約2,620隻,501万トンのうち,その程度に当たる約785隻,152万トンを保有する大平洋艦隊が展開している。

地上軍の装備としては,T−62型戦車(115mm砲とう載),BM−21多連装ロケット,BMP装甲歩兵戦闘車,152mm自走りゅう弾砲,地対空ネサイル(SA−8,SA−9)やMI−24等各種ヘリコプターの増強が行われ,ソ連地上軍の装甲機動力,火力,空中機動力,対空能力などが一段と向上しつつあるものとみられる。

航空兵力としては,MIG−23戦闘機,MIG−27,SU−24戦闘爆撃機,バックファイアなどの配置により,対地,対艦攻撃能力が強化されているほか,従来のTU−16爆撃機についても新型のスタンドオフ・ミサイルAS−6(キングフィッシュ)のとう載により,攻撃力の向上が図られている。

海上兵力としては,多数の潜水艦兵力を保有し,更に,キエフ級空母,カラ級巡洋艦,クレスタ級巡洋艦,クリバック級駆逐艦,ナヌチカ級ミサイル艇などの配備による防空,対潜及び水上打撃能力の向上並びにイワン・ロゴフ級揚陸強襲艦及びロプチャ級揚陸艦などの配備による周辺海域に対する水陸両用戦能力の向上が図られているとともに,商船隊でもローロー船を含む海上輸送能力の強化がみられている。

キエフ級空母は,垂直離着陸多目的戦闘機と対潜へリコプターを合わせて約40機をとう載するほか,兵装として対艦ミサイル,対空ミサイル,対潜ミサイルなどを装備し,かつ優れた指揮通信能力を備えた対潜任務を主体とした空母である。

この艦は,平時においては,ソ連の海軍力を誇示し,局地紛争への介入手段などとして使用されることも予想される。また有事においては,地上基地航空兵力の掩護を受けられる海域などにおいて,艦隊の指揮の中枢として,対潜作戦,水上戦闘,強襲上陸作戦などに使用されることも考えられる。このようなキエフ級空母が極東に配備されたことは,限定的ではあるが,ソ連太平洋艦隊が新たに外洋における航空掩護能力を保持することとなり,陸上への兵力投入能力の向上をもたらすとともに,また,カラ級巡洋艦,クリバック級駆逐艦の増強と相まって,対潜能力の一層の向上をもたらすものと思われる。

バックファイアの使用形態としては,対地爆撃,洋上における艦艇,特に空母機動部隊の攻撃,海上交通の破壊,洋上の哨戒,偵察などが考えられる。

このようなバックファイアの極東配備によって,極東ソ連軍は従来より優れた対地,対艦攻撃能力を獲得したとみられ,わが国の防空態勢やわが国周辺の海上交通路確保などの面で影響を及ぼすものとして注目していく必要がある。

また,西太平洋に展開している第7艦隊をはじめとする米軍に対して攻撃することも可能であるとみられる。

ソ連は,新しい移動式IRBM SS−20を極東に既に配備している。SS−20は,3段式の移動式ICBM SS−16の最初の2段を使用したもので,旧式のSS−4,SS−5の代替とみられ,特に,弾頭が3個にMIRV化され,命中精度が優れ,かつ,射程が長く,移動式のため所在地を識別することが困難であることから注目されている。SS−20は,極東ソ連のほとんどの地域から日本全土を射程内に納めるとみられるが,わが国としては,米国の核抑止力に頼る以外に対抗手段を持ち得ないことから,緊密な日米安全保障関係を維持していくことによって,米国の核抑止力の信頼性を高めていく必要があろう。

なお,SS−20の射程及びバックファイアの行動半径については,概略第9図のとおりである。(ソ連のカラ級巡洋艦)(ソ連のバックファイア爆撃機

(イ) 北方領土におけるソ連軍

ソ連は,わが国固有の領土である国後,択捉及び色丹島に,第10図のように部隊を配備するとともに,基地の建設を行っている。

国後,択捉両島地域においては,昨年1月以降の冬期間も建設等が続けられ,また解氷後,同地域に対する輸送は,昨年5月10日,130mm加農砲等を積載し,津軽海峡を通峡したソ連の貨物船「リヤザン」号にもみられるように,現在に至るまで引き続き行われ,地上軍部隊の兵力,装備は相当に増加しているものと判断される。

また,両島地域においては,部隊の訓練等も行われ,更に,攻撃へリコプターMI−24の活動もみられており,同機の配備は所在地上軍部隊に対して,新たな戦闘能力を付与するものと考えられる。

これまで,ソ連地上軍部隊が配備されたことがなかった色丹島においても,昨年夏以降,2,000名近く収容可能な天幕等が設置され,火砲,対空火器,装甲兵員輸送車両等が配備された模様であり,新たにソ連地上軍部隊が配備されたと判断している。

北方領土に配備されている部隊の規模は今後の推移もあり,現段階において確定できないが,師団規模に近づきつつあると推定しており,今後とも,更に監視を強化していくことが必要である。

ソ連が北方領土に地上軍部隊を配備した意図については,明確ではないが,ソ連の世界戦略上の観点からすれば,北方領土及び千島列島あるいはオホーツク海等の地域的重要性の考慮,近年の極東ソ連における全般的な増強,近代化等の一環としての措置とも考えられるが,このほか,政治的ねらいとして,北方領土に対する不法占拠を日本に容認させるなどの目的もあるかもしれないと判断される。

いずれにしても,北方領土へのソ連地上軍部隊の配備は,政府の度重なる対ソ抗議の申し入れにあるとおり,わが国固有の領土への配備ということから,容認できず,極めて遣憾である。また,北海道に近接しているということから,わが国の安全保障上重大な関心事であり,潜在的脅威の増大と考えている。(津軽海峡を通過するソ連貨物船「リヤザン号」)(ソ連の攻撃ヘリコプターMI−24

(ウ) わが国周辺におけるソ連軍艦艇,航空機の活動

ソ連の軍事力増強に伴って,艦艇,航空機の外洋進出や,わが国周辺における活動も活発であり,その行動の概要は,第11図に示すとおりである。

特に,中東情勢やインドシナ情勢と関連して,ソ連太平洋艦隊の活動は活発化し,沿海地方から南下する艦艇,航空機も増加している。

特に注目されるのは,太平洋艦隊がソ連近海のほかに,インド洋に20隻以上,南シナ海に10隻以上のプレゼンスを同時に維持し得るようになったことである。例えば,4月上旬には,インド洋に25隻,南シナ海に17隻のプレゼンスを維持していた。これは,太平洋艦隊が名実ともに,外洋艦隊として成長しつつあることを示すものであり,ベトナム基地の常時使用とも相まって,インド洋及び西太平洋に確固たる存在を示すに至ったものとみられ,西太平洋の西側諸国と欧州の西側諸国又は中東諸国等を結ぶ海上交通路への潜在的脅威となる可能性も高まっている。

また,航空機の動きも活発である。わが国周辺においては,本年2月,核弾頭装着可能な空対地(艦)ミサイルAS−6 2基をとう載したTU−16 1機が北海道積丹岬の北西約130kmの洋上まで接近した。

このほか,ソ連の航空機がベトナムのダナン等の飛行場に滞在して,南シナ海の哨戒活動を行い,米軍艦艇等の監視を続けていることは注目されることである。

このように,わが国周辺におけるソ連の艦艇,航空機の行動は活発化する傾向にあり,わが国固有の領土である北方領土におけるソ連地上軍の配備の動向とともに,今後も,十分注視していく必要がある。(対馬海峡を通峡するソ連艦隊)(最近わが国周辺を航行したソ連の主要艦艇)(AS−6をとう載したソ連の中距離爆撃機TU−16

イ 米国の軍事態勢

米国は,ベトナム戦争時は,多くの兵力をアジアに展開していたが,ベトナム戦争終結,米中関係の改善などから,逐次西太平洋における兵力の再編成を行ってきた。1974年以降西太平洋地域における兵力数には大幅な変動はないが,装備については常時近代化の努力が続けられてきている。昨年末現在の,同地域における軍事態勢は以下のとおりである(第12図参照)。

陸軍については,韓国に第2歩兵師団,第38防空砲兵旅団,第19支援コマンドなど約3.1万人,日本に在日陸軍駐留部隊約2千人,その他の地域を合わせて合計約3.3万人である。

このほか,ハワイに第25歩兵師団を基幹とする約1.7万人が駐留している。

なお,極東における米ソ地上軍の兵員数の推移は第13図に示すとおりである。

空軍については,第5空軍が日本に1個航空団(F−15など),韓国に2個航空団(F−4など)を,第13空軍がフィリピンに1個航空団(F−4など)をそれぞれ配備して不測の事態に備えているほか,戦略空軍がグアム島に1個航空団(B−52,KC−135),日本に1個航空団(KC−135,RC−135など)を置き,戦略任務の遂行に当たっており,これらを合せて約3.5万人,作戦機約260機に達している。極東ソ連軍の増強に対抗するための近代化施策としては,昨年9月末から在日米空軍のF−4からF−15への転換を開始し,本年半ばまでに転換を完了する予定であり,また,本年7月から1983年までに,日本に空中警戒管制機E−3A4機を配備する予定であったが,韓国における最近の新しい事態の展開を考慮して,予定の一部を早め,本年5月に2機の配備を開始した。

更に,韓国へは近くA−10攻撃機1個飛行隊(24機)が新たに配備される予定であり,また在韓空軍のF−4に代わりF−16の導入も計画されている。

海軍は,日本,フィリピン及びグアム島を主要地点として空母3隻を含む第7艦隊艦艇約60隻,作戦機約270機,兵員約4.3万人を擁し,また,海兵隊は日本に第3海兵師団及び第1海兵航空団(F−4など)を配備し,一部の洋上兵力,フィリピン駐留兵力を含み合計約2.6万人,作戦機約60機を展開し,太平洋及びインド洋の不測の事態に備えている。なお,以上のほか大西洋艦隊からインド洋に派遣された原子力空母1隻を含む艦艇3隻が,現在第7艦隊に配備されている。

このほか,東太平洋には,第3艦隊が展開しており,第7艦隊への支援態勢を保持している。また,米国は極東ソ連軍の増強に対抗するため,第7艦隊に新鋭艦等の導入を図っており,既にロスアンゼルス級攻撃型原子力潜水艦(SSN),スプルーアンス級駆逐艦及びタラワ級揚陸強襲艦の配備を開始するとともに,大型空母とう載F−4をF−14に更新した。また,昨年10月5日には,両用戦指揮艦「ブルーリッジ」が第7艦隊の旗艦として配備され,同艦隊の指揮通信機能が改善された。このほか,近い将来,ぺリー級フリゲート艦の配備やバックファイアなどからのミサイル攻撃等に対応するAEGIS装備艦の配備も予定されている。

海兵隊は,部隊ごとの6か月交代制の進捗に伴って,即応能力が向上しつつある。また,火砲やへリコプターの更新も予想されている。

なお,米第7艦隊とソ連太平洋艦隊の勢力推移は,第14図に示すとおりである。(米国の空中警戒管制機E−3A)(米国の両用戦指揮艦「ブルーリッジ」

ウ 中国の軍事態勢

中国は,現在「四つの近代化」政策を掲げ,国内の経済建設を推進するとともに,国防の近代化にも力を入れており,西側諸国からの武器の導入にも強い関心を示しているようである。しかし,国防の近代化に当たっては,近代戦に対応する戦略思想の確立と,教育訓練の質的向上,軍事制度の改革,新兵器の研究・開発など,多くの課題があるとみられる。

中国の軍事力は,野戦軍と地方軍並びに海軍,空軍からなる人民解放軍と1億人以上といわれる各種民兵から成っており,各軍の内容は次のとおりである。

戦略核戦力は,ICBM若干,IRBM50〜70基,MRBM40〜50基,TU−16約90機である。

陸軍は,総兵力360万人,野戦軍129個師団(うち装甲師団11,歩兵師団115,空挺師団3),戦車11,000両である。

航空兵力は,作戦機約5,500機以上(うち海軍機約725機以上)で,MIG−19,MIG−21,F−9などから構成され,また,新型戦闘機も開発中とみられる。

海軍は,約1,630隻約46.8万トンで,潜水艦83隻,駆逐艦・護衛艦40隻などから構成されている。

また,本年5月18日と21日には,射程約12,000kmとみられるICBMを初めて南太平洋に向け発射実験を行ったといわれているが,この際,10隻程度の海軍艦艇を同地域に派遣し,中国近海以外での艦艇行動をとったことも,中国として初めてであり,核戦力の今後の動向とともに注目されるところである。

中国軍の主要な正面は,中ソ国境,中越国境とみられているが,中ソ国境については,ソ連軍46個師団約45万人に対し,野戦軍129個師団のうちほぼ半数に当たる65個師団のほか41個の警備師団など総数約150万人を配備している(第15図参照)。このように,兵員数では,中国軍が3倍強の勢力であるものの,火力・機動力の面等では,ソ連軍の方が優勢であり,全般的にはソ連軍が優位に立っているとみられている。

このような装備の劣勢と防衛地域が広大なことなどの理由から,中国は,部隊の主力を国境からやや後方の地域に配備しているとみられる。

中越国境には,ベトナム軍の10数個師団約25万人に対し,中国軍は,10数個師団基幹約30万人が配備されている(第17図参照)。双方の戦力は,中国軍の方が多数であるが,装備面では質的にベトナム軍が優れているといわれている。(中国の新型戦闘機

(3) 朝鮮半島の軍事情勢

わが国と朝鮮半島は,相互の地理的位置及びその歴史からみても密接不離の関係にある。今日においては,交通機関の発達により,福岡−ソウル間は,航空機でわずか1時間足らずの距離にある。

かつて,中ソを一枚岩とする東側と,米国を中心とする西側との対決の場となっていた朝鮮半島では,中ソ対立,日中平和友好条約締結,米中国交正常化等によりその環境に変化がみられるものの,今なお軍事境界線を境として,南北合せて100万人を超える正規軍が,幅わずか4km,長さ約250kmの非武装地帯(DMZ)をはさんで対峙し,世界で最も軍事的対立と緊張の厳しい地域の一つとなっている。

北朝鮮は,1960年代初めに打ち出した「全軍の幹部化」,「全軍の近代化」,「全人民の武装化」,「全国土の要塞化」の4大軍事路線の下に,引き続き軍備の近代化,増強を図っている。

韓国は,一方で経済成長のための諸施策を講ずるとともに,他方では,戦力増強5か年計画の達成のための努力を行っている。こうした中で,昨年10月には,朴大統領殺害事件が生起し,続いて起った鄭昇和陸軍参謀総長逮捕事件などによって,朝鮮半島情勢の悪化が懸念されたこともあったが,米国の対韓コミットメントの遵守の言明もあって,特に情勢に変化はなかった。しかし,後に述べるような北朝鮮軍の大幅な増強や,韓国内の種々の動きもあって,今後の動向が注目される。

また,米国の対韓コミットメントの遵守の姿勢や,米中ソとも現在,この地域で紛争が発生することは望んでいないとみられることなどから,この地域で大規模な武力紛争が生起する可能性は当面少ないとみられるが,朝鮮半島情勢は予断を許さないものがある。

朝鮮半島の平和と安定の保持は,わが国の安全保障にとって緊要であるばかりでなく,東アジア全域の平和と安定にとって重要な要素となっている。したがって,この地域の動向,特に軍事バランスの動向については,強い関心を持って注目していかねばならない。

ア 南北の軍事態勢と軍備のすう勢

韓国と北朝鮮の軍事力については,陸上兵力は,韓国においては,戦車約860両を含む陸軍18個師団約52万人,これに対し北朝鮮は,1970年代以来軍事力の増強に努めており,1979年現在,陸軍兵力は,1970年の22個師団約37万人から40個師団約60万人に増強されてきており,戦車数も約2,150両で韓国の3倍近くに達し,強力な機動打撃力を保有していることが確認されている。

また,北朝鮮は,戦略的にゲリラ戦を重視しており,そのための特別な部隊を訓練しているとみられる。更に,予備兵力として,高度な動員態勢を整えた労農赤衛隊等を保有している。韓国も多くの予備兵力を保有しているが,労農赤衛隊等の練度,装備面からみれば若干劣勢のように思われる。また韓国は,首都ソウルとDMZとの間が近いところで約40kmしか離れていないため,この間に,数線にわたる対戦車防御施設を設け,優勢な北朝鮮の戦車戦力の攻撃から首都を防衛する態勢の強化に努めている。

空軍は,韓国空軍作戦機約250機に対し,北朝鮮空軍作戦機はMIG−19,MIG−21を含む約570機である。作戦機数の上では,北朝鮮の方が大幅に上回っているが,韓国はF−4,F−5のような質的に優れた性能の作戦機を保有している。

海軍は,韓国が駆逐艦,ミサイル艇を主とする海軍であるのに対し,北朝鮮はミサイル哨戒艇,魚雷艇,潜水艦などからなる海軍を保有している。

なお,韓国と北朝鮮の対峙状況は第16図に示すとおりである。

イ 在韓米軍

米国は現在約4万人の米軍を韓国に配備している。在韓米軍の存在は,朝鮮半島における紛争の抑止力として大きな役割を果たしている。

米国は,1978年末までに,在韓地上軍の第1陣3,400名の撤退を実施し,引き続き撤退を行う計画であったが,1979年2月になって北朝鮮の軍事力増強に関する分析,米中国交正常化の影響,南北対話に関する南北朝鮮間の動きについての評価が完了するまで一時撤退を見合わせる旨発表した。その後,北朝鮮の兵力増強が予想外に強大である旨の評価がなされたため,1979年7月20日に至って,米国は,在韓地上軍撤退計画を1981年まで凍結し,その時点で再検討することを発表した。

在韓米軍の存在は,今日まで朝鮮半島の平和と安定に大きく寄与してきており,まだ,在韓米地上軍の撤退問題については,わが国としても,従来から朝鮮半島の平和を損わないよう,慎重に実施されるよう希望を表明してきたところであり,撤退計画の2年間凍結の処置並びに米国の対韓防衛の確固たる意志は,朝鮮半島の平和と安定ひいては北東アジアの平和と安定のため,わが国としても評価すべき施策であると考えている。

米国は,在韓地上軍の撤退の凍結に加えて,南北の軍事バランスを保持するため,F−4の増強,A−10 1個飛行隊の韓国配備予定等,在韓米空軍力の増強を図るとともに,米第2歩兵師団の近代化等を計画し,既に一部実施している。

他方,撤退の補完措置の一つとして,1978年11月に設置された「米韓連合司令部」の指揮の下に,昨年同様米韓合同演習「チーム・スピリット80」を3月1日から4月19日までの長期間にわたって実施し,更に,これまでの「米韓合同第1軍団司令部」を「米韓連合野戦軍司令部」と改称して作戦指揮系統を明確にするなど,米韓両軍の即応態勢の強化を図っている。

(4) 東南アジアの軍事情勢

東南アジアでは,カンボジア・ベトナム紛争,それに続く中越紛争と,ベトナム戦争終了後3年足らずして,インドシナ半島における社会主義国相互間の対立は,武力衝突の発生に至るまで激化した。これらの紛争の背景には,中国,ベトナム,カンボジア関係それぞれの要因のほか,中ソの対立の影が色濃く反映していることが注目される。

ベトナムは,当面インドシナ全域における影響力の強化を目指していくと考えられるが,インドシナ情勢の急変により,カンボジアと国境を接するタイは,国境周辺の警備態勢を強化せざるをえなくなったほか,ASEAN諸国は,各国とも強じん性強化のための一層の努力を迫られており,域内協力及び西側諸国との協力を更に強めようとしている。

ベトナム軍は,一昨年12月末,カンボジアに対して全面的な進入を開始し,2週間もたたないうちにプノンペンを制圧し,約1か月後の1979年1月末には,タイ国境付近にまで進出した。

カンボジア進入当初に使用されたベトナム軍は,約15個師団といわれており,これに対し,カンボジアの正規軍は数万人であって,勢力,装備の相違から当然の結果ともいえる。

一方,カンボジアをベトナムに対する対抗勢力として支援していた中国は,ベトナム軍のカンボジア介入に反対し,ベトナム軍に対し「懲罰」を与える必要がある旨言明していたが,1979年2月17日ベトナム軍に対し「限定的な自衛反撃」を行うとしてベトナムに進入した。この中国軍のベトナム進入の背景にはベトナムとの国境における軍事対立に加え,カンボジア情勢があったとのみかたもあるが,ベトナム北部の主要都市の一つであるランソンを占領した時点で,撤退を宣言し,3月16日撤退を完了した。その後,中越間で紛争の平和的解決をめぐって会談が継続されているが,あまり実りある会談とはなっておらず,現在のところ,捕虜の交換が行われたのみである。

現在ベトナム軍は,カンボジアに18個師団約20万人の兵力をつぎこんでおり,カンボジア全土を3つの軍管区に区分し,治安の維持及びポル・ポト軍ゲリラの掃討を行っている。これに対しポル・ポト軍は,なお約3万人程度の兵力を有しており,その主力はカルダモン山系を含むカンボジア西部にあるといわれている。現在,ポル・ポト軍は分散した小規模の部隊でゲリラ戦を行っており,またベトナム軍もポル・ポト軍を前乾期中に完全に掃討することはできず,紛争は今後相当長期に及ぶことが予想される。

これらの紛争に関連して,タイ・カンボジア国境においては,タイへの戦闘の波及が懸念されるが,これが本格的な戦闘に発展することは,現状では,ベトナム軍としては補給路の延伸となって危険であり,また,中国,米国をはじめASEAN諸国等への配慮もあって,抑制されているものと考えられる。

ソ連は,1978年11月,ソ越友好協力条約を結び,中国と対立関係にあるベトナムに対する援助を増大させたが,中越紛争を契機として,艦艇,航空機によるベトナムの基地(カムラン湾,ダナン等)の使用を開始し,現在もその状態は継続されている。更にソ連は,ASEAN諸国に対して,昨秋の艦艇寄港要請にみられるような外交攻勢をかけているが,これら諸国の根強い対ソ警戒心により,現在のところ実を結ぶには至っていない。

ASEAN諸国は,日本への資源輸送路上,重要な地点に位置する国々であり,かつ,わが国との経済的結びつきも強い。したがって,ASEAN諸国の安全保障は,わが国の安全保障にとって,重大な関係を有しており,わが国としてもタイをはじめとして,ASEAN諸国の強じん性強化の努力に対する協力を益々増大しており,今後の動向につき重大な関心をもって注目しているところである。

また,わが国が多くの輸入資源を依存しているオーストラリアとニュージーランドは,西側諸国の一員として,安全保障上安定した勢力となっており,海外に資源を依存しているわが国にとって重要な存在であることを忘れてはならない。

なお,インドシナにおける各国の対峙の状況は第17図に示すとおりである。

 

(注) スタンドオフ・ミサイル 相手の砲火にさらされる危険のないところから打ち放しができ,一般に自己ホーミング(IRホーミング,アクティブホーミング等)によって目標をとらえ,攻撃することができるミサイルをいう。

(注) ローロ−船(Roll on/Roll off 船の略)コンテナや貨物をトラック,トレーラーなどの運搬装置に載せ,岸壁で運搬装置ごと船積みし,そのまま積み降す荷役方式をとり入れた船で,船首又は船尾に開閉式の扉がある。

この方式は,商船では,カーフェリーに多く用いられている。軍用では,揚陸艦にも用いられ,艦艇を岸壁に接岸して艦首又は艦尾から戦車などを直接積載し,適当な上陸地に着岸し,艦首扉を開いて揚陸する。

(注) 北方領土におけるソ連軍撒退等を要求する国会決議 「北方領土問題の解決促進に関する決議」が,昨年に引き続き,本年3月13日,衆議院本会議において,3月19日,参議院本会議において,「アフガニスタンからのソ連軍の撤退等を要求する決議」とともにそれぞれ採択された。

また,4月11日には,衆参両院本会議の決議を魚本駐ソ大使からフィリェービン・ソ連外務次官に申し入れた。

なお,「北方領土問題の解決促進に関する決議」の内容は次のとおりである。北方領土問題の解決促進に関する決議

本院は第87回国会において北方領土におけるソ連の軍事的措置の速やかな撤回と北方領土問題の早期解決を求める決議を行ったが,事態は一向に改善をみないばかりでなく,ソ連は日本国民の総意を無視して,わが国固有の領土たる国後,択捉両島における軍備強化を続け,更に色丹島にも新たな軍事力を配備した。

ソ連のかかる行動は,日ソ両国の平和友好関係の促進にとって誠に遣憾なことである。

よって政府は,北方領土問題の平和的解決の精神に逆行するこのようなソ連の軍事的措置が速やかに撤回されるよう重ねてソ連政府に対し要求するとともに,北方領土問題の早期解決を図り,平和条約を締結して,日ソ間の安定的平和友好関係を確立するよう特段の努力をすべきである。

(注) AS−6(キングフィッシュ)の性能等 AS−6空対地(艦)ミサイルは,射程約200km,速度マッハ3.0で,核・非核両用の弾頭を付けることができるソ連の最新型空対地(艦)ミサイルである。また,本ミサイルは,TU−16(バジャー),バックファイアにとう載可能といわれている。

(注) 海兵隊の6か月ごとの部隊交代制 従来,米海兵隊の西太平洋駐留戦闘部隊の単身赴任者は,12か月勤務で交代していたことから,戦闘部隊の兵員の一部が常時入れ替わることになり,部隊としての練度,即応態勢を高い水準に維持しておくことは困難であった。同時に,若年隊員の中には,12か月も母国を離れて海外で生活することに耐えられず,任期半ばで軍務を離れる者も多かった。

このため,米海兵隊は,その戦闘要員に対する魅力化対策の一環として,隊員を米本土,又はハワイの同一部隊に3〜4年間継続して勤務させ,輪番で部隊単位ごとに西太平洋に勤務する6か月交代制を採用した。この交代制は,家庭生活を安定させ,隊員の士気を高めるとともに,継続的な統率,訓練によって部隊の練度を高め,海兵戦闘部隊の即応態勢の向上をもたらしている。